スーパーロボット大戦CROSS
第15話「竜の歌」
リカンツの操縦するリッツカスタムを辛くも撃退したものの、孝一は実力の差を痛感して悔しさを感じていた。
「くそっ!・・今のままじゃ、とてもあのペンギンロボに勝てねぇ・・強くならねぇと・・・!」
「孝一くん・・・」
自分を強くしようと考える孝一に、恭子が戸惑いを覚える。
「今は体を休めたほうがいいわ・・訓練をするとしても、明日からのほうがいいわ・・」
「あぁ・・・ありがとな、恭子・・」
恭子に励まされて、孝一が微笑んで感謝した。
自分の無力さを痛感している孝一のことを、カナタたちも気にしていた。
「孝一くん、すごく落ち込んでいるみたいね・・」
「今までで1番力が出たそうだけど、それでもあのロボットにいいようにやられてたからね・・」
ルナマリアとヒルダが孝一の様子について話していた。
「でもいい薬かもしれないわね。これであの変態ぶりが直ればいいけど・・」
サリアが孝一が改心していることを考える。
「そうね。いやらしい男ってホントに厄介よ。何をされるか分かったもんじゃない・・」
アンジュがサリアに賛成して、不満を口にする。アンジュは孝一だけでなく、タスクのことも思い出していた。
「男が全員そういうわけではないよ。アスラン隊長は立派だし、レイはいつも冷静だし・・」
「でもアーサー副長はどこか頼りないし、シンは態度が悪いし・・」
メイリンとルナマリアがミネルバの男性陣について語っていく。
「そうね。性格悪いし、自分と意見が合わないと反発してくるし。特にオーブというところへの怒りが強いわね・・」
アンジュがシンのことを考えて嫌味を言う。すると夕姫が微笑を見せてきた。
「何がおかしいの?」
「あなたもシンと似てると思ってね。そういう不満たらたらなところとかね・・」
声をかけてきたアンジュに、夕姫が皮肉を口にした。
「確かに。いつも突っ張ってて感じ悪そうなとことかそっくりだな。」
「うん・・ちょっと緊張してしまう・・・」
ロザリーが納得して、クリスも頷いていた。
「みんな、私のことで話を盛り上がって・・・」
アンジュが肩を落としてから、ルナマリアたちから離れていった。
「みんな、辛いものや許せないものを抱えてるんですね・・私たち、ホントに平和な世界に至ってことかな・・・」
ラブがルナマリアたちの心境や境遇を知って、辛さを感じていく。
「それなら私たちも世界もそう言えたわ。私たちは貧乏だったけど、表向きには争いがなくて平和だったわ・・」
魅波が自分たちの世界のことを考えて、ラブに答える。
「どの世界も最初は平和だった・・でも、敵が現れたり、何かの陰謀に巻き込まれたりして・・・」
「ホント・・どっかで歯車が狂って、おかしなことになっちまった・・あたしらも、世界も・・・」
エルシャが物悲しい笑みを浮かべて言いかけて、ヒルダがため息まじりに言った。
「少し休憩してくる。何かあればすぐに戻るから・・」
サリアは席を立って、1人離れていった。
「私も、ちょっと気分転換してきます・・・」
ラブも肩を落としてから席を立った。
「そういえば、食堂以外に何か娯楽とかお店とかありますか?」
彼女がエルシャたちにアルゼナルのことを聞いてきた。
「えぇ。ジャスミンモールという店があるけれど・・」
「ありがとうございます、エルシャさん。それじゃそこへ行ってみます。」
答えたエルシャにお礼を言って、ラブがジャスミンモールへ向かった。
アンジュたちと別れたサリアは、1度自分の部屋に戻ってからジャスミンモールに立ち寄った。
「今日も奥の更衣室を借りるわよ、ジャスミン。」
「部隊長をやってる上に、世界がゴチャゴチャした状態だからね。ストレスが溜まんないほうが不思議なくらいだ。うまくガス抜きしとくんだよ。」
サリアが声をかけて、ジャスミンが許可を出す。サリアがジャスミンモール内の奥の更衣室に入った。
更衣室のカーテンを閉めてから、サリアは制服を脱いで、持ってきた紙袋の中身を取り出した。それは魔法少女と思われるコスプレの衣装。
サリアはそのコスプレ衣装に身を包んで、魔法少女になり切った。
「愛の光を集めてギュッ♪恋のパワーをハートでキュン♪美少女聖騎士、プリティ・サリアン♪あなたのとなりに突撃よ♪」
サリアが明るく名乗りを上げてポーズを決めた。
サリアは「精神的メンテナンス」と呼ぶストレス発散のため、このように魔法少女になり切るのである。しかしこれは秘密にしていて、ジャスミンなど一部の人にしか知られていないことである。
「うん♪あたし、完璧♪」
サリアが手応えを感じて、笑顔で頷いた。
サリアが更衣室に入った後に、ラブがジャスミンモールを訪れた。
「こんにちは。ここがアルゼナルにあるお店なんですね。」
「そうだよ。軽い食べ物からアクセサリー、洋服、武器までそろってるよ。」
ラブが挨拶して、ジャスミンがたばこをふかしながら答える。
「でも私、ここで使えるお金を持ってないし・・」
「アンタもプラントから報酬をもらってるんだろ?だったらそこからしょっ引けばいいだけのことさ。」
困った顔を浮かべるラブに、事情を把握しているジャスミンが答えた。
「それじゃちょっと見てみますね。」
「それは構わないけど、その代わり何か買ってってよね。冷やかしはお断りだよ。」
ラブがジャスミンに言ってから、ジャスミンモールに散策に行った。
「それと奥の更衣室は使用中だよ。」
ジャスミンが付け加えるが、ラブには聞こえていなかった。
「ホントにいろいろそろってる。メカの銃や剣、盾まである・・」
ラブがジャスミンモールの品揃えを見渡して、戸惑いを感じていく。
「この服、私に似合うかも。ちょっと試着してみようかな。」
彼女は洋服を1着手にして、更衣室に向かう。
「奥のカーテンが閉まってる・・先客みたいだね・・」
ラブが更衣室に目を向けたときだった。彼女は持っていた服のスカートを踏んでしまい、足をつまずいてしまう。
「う、うわっ!」
ラブが転んだはずみで、サリアのいるカーテンをつかんで開けてしまった。
「イ、イタタタ・・ゴ、ゴメンなさ・・・!」
ラブが痛がりながら顔を上げる。そこで彼女がプリティサリアンの格好をしているサリアを目の当たりにした。
「サ・・ササ・・サリア、さん・・・!?」
(み、見られた!?)
驚きを覚えて動揺するラブと、もう1つの自分の目撃されたことに緊迫するサリア。
「し、失礼しました〜・・・」
ラブが謝って、そっとカーテンを閉じようとした。そのとき、サリアが彼女の腕をつかんで、更衣室の中に引きずり込んでカーテンを閉めた。
「今見たことは誰にも言わないで・・さもないと命はないわよ・・・!」
サリアがナイフを取り出して、ラブの首元に向けて忠告する。
「い、言わない、言わない・・脅されなくても言いませんよ〜・・・!」
ラブが震えながら小刻みに頷いていく。
そのとき、アルゼナルに警報が鳴り響いて、ラブとサリアがさらに緊張を膨らませた。
「あなたは先に行きなさい・・私は着替えてから行くから・・・!」
「は、はい・・!」
サリアに言われて、ラブが1人で更衣室を出た。
(私も急がないと・・こんなタイミングで敵が出てくるなんて・・・!)
屈辱と恥辱を抱えたまま、サリアは1度制服に着替えたのだった。
アルゼナルの指令室では、センサーが新たに発生した空間の歪みを捉えていた。
「アルゼナル付近以外に現れたと思ったら、また近くに出てきたか・・位置の特定は済んだか?」
ジルが呟いてから、パメラたちに問いかける。
「それが・・・アルゼナル上空!真上です!」
「何っ・・!?」
パメラの報告を聞いて、ジルが驚愕を覚える。空間の穴はアルゼナルのすぐそばに現れた。
「そんな!?・・基地のそばに出てくるなんて・・!?」
「警戒態勢!各部隊はドラゴン迎撃に備えて出撃!」
オリビエが緊迫を募らせて、ジルがアルゼナル内に命令を出す。空間の穴からドラゴンの群れが現れた。
“こちらミネルバ。本艦はドラゴン迎撃のため発進します。”
指令室にタリアからの通信が入る。
「了解。協力、感謝します。」
ジルが答えて、ドラゴンたちに視線を戻す。パラメイルが次々に発進して、ドラゴンたちに向かっていく。
「サリアたちもすぐに出撃させろ・・!」
「はい!」
ジルがさらに指示を出し、パメラがサリアたちへの連絡を試みた。
ドラゴン討伐のため、ミネルバも発進、上昇した。
「インパルスとセイバーでドラゴンを討伐。レイ機とルナマリア機は2機の援護と本艦の護衛を。」
タリアがシンたちに指示を出す。
「アルゼナルのパラメイルと連携を取る。うまく立ち回るぞ。」
「分かってますよ、ザラ隊長・・!」
アスランも指示を送って、シンがぶっきらぼうに答える。コアスプレンダーとセイバーが発進体勢を整える。
「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!」
シンの駆るコアスプレンダーがミネルバから発進した。続けてチェストフライヤー、レッグフライヤー、フォースシルエットが発進して、コアスプレンダーと合体してフォースインパルスとなった。
「アスラン・ザラ、セイバー、発進する!」
続けてアスランのセイバーも発進して、インパルスとともにドラゴンたちに向かっていく。
「ルナマリア・ホーク、ザク、出るわよ!」
「レイ・ザ・バレル、ザク、発進する!」
ルナマリアとレイのザクもミネルバの艦上に出た。
インパルスとセイバーがビームライフルを発射して、ドラゴンたちを怯ませる。その隙にパラメイルたちが凍結バレットを発射して、ドラゴンたちを凍らせて仕留めた。
「やるじゃない、ザフトの機体も。伊達に軍人やってないね。」
「これで少しは楽にドラゴン狩りができるってもんだ。」
パラメイルのメイルライダーたちがシンたちの活躍に監視する。
「この調子でどんどん仕留めてやる!サリアたちのとこに獲物を取られてなるものか!」
メイルライダーたちがいきり立ち、他のドラゴンたちに攻撃を仕掛けた。
「新たに空間を超える反応あり!」
パメラがレーダーを注視して、反応について報告する。
「また新手のドラゴンか?」
「いえ、ドラゴンではないです・・これは・・・!」
ジルが問いかけるが、パメラが反応の正体が分からず困惑を覚える。
その直後、空間の穴から1機の赤い機体が現れた。機体はドラゴンたちと行動を共にしていた。
「何、アレ?・・ドラゴンじゃない・・・!」
「形状が、パラメイルに似ています・・・!」
パメラとヒカルがその機体を目にして、当惑を浮かべた。
「ドラゴンの味方をしているようだ。つまりは我々の敵。攻撃対象だが、油断はするな・・!」
ジルはその機体を敵と認識し、部隊に檄を飛ばした。
赤い機体に対し、パラメイルたちが徐々に近づいていく。
「何だい、アンタは!?ドラゴンの仲間か!?」
「お前も息の根を止めて、荒稼ぎさせてもらうよ!」
メイルライダーたちがいきり立ち、グレイブたちがアサルトライフルを発射する。赤い機体が射撃をかわし、グレイブとすれ違いざまに積層鍛造光子剣「天雷」を振りかざした。
「うわあっ!」
切り裂かれたグレイブが爆発し、メイルライダーが巻き込まれた。
「その程度の力で、この龍神器“焔龍號”に敵うと思うとは・・」
赤い機体、焔龍號の操縦者が呟いてきた。声色から操縦者は女性だった。
「あの機体、かなりの性能と戦闘力だ・・迂闊に攻撃しても、逆にやられてしまう・・!」
アスランが焔龍號に対する警戒を強める。彼は焔龍號がセイバーやインパルス以上の性能を備えていると直感した。
そのとき、焔龍號から操縦者による歌声が発せられた。
「何だ、この歌は・・!?」
シンがこの歌に疑問を感じていく。焔龍號の両肩にある武装が展開、起動する。
「離れろ、シン!何か仕掛けてくるぞ!」
アスランが呼びかけて、セイバーがインパルスとともに下がる。焔龍號が両肩から竜巻のようなエネルギーを発射した。
竜巻はその先のパラメイルを巻き込んで破壊し、さらにアルゼナルに向かっていく。
「危ない!」
アスランが叫ぶと同時に、竜巻がアルゼナルに直撃した。竜巻はドックの一部など、アルゼナルの3分の1を削り取った。
「ア、アルゼナルが・・・!」
「アルゼナル、応答してください!状況は!?カナタさん!恭子さん!カナタくん!」
アーサーが驚愕して、タリアがカナタたちに呼びかける。しかし誰からも応答がない。
「アイツ・・よくもみんなを!」
シンが怒りを燃やして、インパルスがビームライフルを手にして焔龍號に向かっていく。
「待て、シン!」
アスランが呼び止めるが、インパルスは止まらない。インパルスがビームライフルを発射するが、焔龍號が振りかざす天雷にビームを弾かれる。
「そちらは私たちと敵対している機体とは違うようですが、性能はこちらには及びませんよ。」
操縦者が悠然とした口調でシンに忠告する。
「それでおとなしくやられるわけにいくか!」
シンが退かず、インパルスがビームライフルをさらに連射する。焔龍號がビームをかいくぐり、左腕に装備されているビーム砲で迎撃する。
「ぐっ!」
インパルスがビームライフルを撃たれて、シンが衝撃に襲われてうめく。
「シン!」
劣勢を強いられる彼に向けて、アスランが叫んだ。
焔龍號の両肩にある「収斂時空砲」の砲撃で、アルゼナルは大きな損害を受けた。ドックも一部が削られたが、カナタたちもイザナギたちも無事だった。
「みんな、大丈夫ですか!?」
「私たちは大丈夫!ランガが守ってくれたから・・!」
カナタが呼びかけて、海潮が庇ってくれたランガから顔を出して答えた。
「パラメイルが一部やられたけど、サリア隊のはみんな問題はないよ!」
メイがヴィルキスやアーキバス、イザナギやダイミダラーの状態を確認する。
「発進はできる、メイ!?」
「うん!問題なく出られるよ!」
サリアが問いかけて、メイが周りを見回して答える。
「私たちも出撃するわよ!急いで自機に乗って!」
「何にもしないうちにやられちまったらかっこ悪いからな!」
サリアが呼びかけて、ロザリーが不敵な笑みを浮かべる。
(今の歌は“永遠語り”だった・・なぜあの歌を知っているの・・・!?)
アンジュが焔龍號の操縦者の歌った歌に疑問を覚える。その歌はアンジュリーゼ家の守り歌として母、ソフィアから彼女は教わっていた。
「アンジュちゃん、発進よ。」
「早くしろよ、アンジュ!後ろがつかえてるんだからさ!」
エルシャとヒルダに声を掛けられて、アンジュが我に返る。サリアのアーキバス、ヴィヴィアンのレイザーは先に出撃していた。
「分かってるわ・・ヴィルキス、出るわよ!」
アンジュが言い返して、ヴィルキスを発進させた。ヒルダたちも続いて、アルゼナルから出撃する。
「私もみんなの力にならないと・・!」
海潮がアンジュたちに続こうと、ランガに意識を傾ける。
「待って、海潮!相手は空にいるのよ!ランガが攻撃しても届かないわ!」
しかし魅波に呼び止められて、海潮が立ち止まる。
「でも、このまま何もしないわけには・・!」
「私がランガと一緒に出るわ。私が入れば、ランガは遠くからでも攻撃できるわ。」
じっとしていられない海潮に、夕姫が冷静に言ってきた。夕姫の意識が入ることで、ランガは砲撃を行えるのである。
「オレもイザナギで出ます!ランガに援護をさせてください!」
カナタが海潮たちに呼びかけてから、イザナギで出撃していった。
「私たちはその通りにするしかないわね・・」
夕姫はため息をつきながらも、カナタの言うことを聞き入れた。
(行って、ランガ・・!)
夕姫が意識を傾けて、ランガの顔が変わる。ランガがドックから外へ出て、焔龍號とドラゴンたちを見上げる。
「孝一くん、私たちも出て、みんなを援護するわよ!」
「あぁ・・やってやる・・!」
恭子が呼びかけて、孝一がいきり立つ。2人の乗ったダイミダラーも、ドックから外へ出た。
「私があの赤い機体を落とすわ。みんなはドラゴンたちを攻撃して、私たちに近づけさせないようにして・・!」
「サリアちゃんだけではムチャよ。援護が必要だわ。」
サリアが指示を出すが、エルシャが不安を口にする。
「下手に手を出しても返り討ちにされるだけよ!アルゼナルを攻撃した兵器で、まとめてやられる危険が高まる・・!」
サリアがエルシャの言葉に反論する。彼女が感情をあらわにしてきていることに、エルシャが困惑を覚える。
「私があの機体を討つ!みんなをドラゴンを!」
「サリアちゃん!」
サリアがアーキバスを加速させて、エルシャが叫ぶ。
「アイツ、1人で突っ走りやがって・・!」
ヒルダがサリアの先行に毒づく。
「私が行くわ!ヒルダたちはドラゴンのほうを!」
「お、おい、アンジュ!」
アンジュがサリアを追って、ヒルダが声を荒げる。
「・・ったく、しょうがねぇ・・あたしらはドラゴンを仕留めるよ!」
ヒルダは毒づいてから、エルシャたちとともにドラゴン討伐に向かった。
サリアのアーキバスがアサルトモードに変形して、焔龍號に近づいていく。
「あなたは何者なの!?ドラゴンとどういう関係なの!?」
サリアが焔龍號の操縦者に問い詰める。
「ドラゴン・・あなたたちは、我々の同志をそう呼んでいるのでしたね。確かにこの姿しか、あなたたちは目にしていませんからね。」
「どういうことよ・・!?」
操縦者が口にした言葉に、サリアが疑問を覚える。
「何も知らずに戦っているようですね。気楽であり、悲しくもありますね・・」
「何を言っているの!?・・わけの分からないことを言って惑わせようとしてもムダよ!」
操縦者の投げかける言葉に惑わされないようにと、サリアがいきり立つ。アーキバスがドラゴンスレイヤーを手にして、焔龍號に飛びかかる。
「向かってくるならば迎え撃つまでです。たとえ相手が何者であろうと。」
操縦者がためらいを捨て、焔龍號が天雷を振りかざしてドラゴンスレイヤーとぶつけ合う。焔龍號の力のほうが強く、アーキバスが徐々に押されていく。
(すごい力・・アーキバスを超えるなんて・・・!)
焔龍號の力を痛感して、サリアが驚愕する。焔龍號が振りかざした天雷に、アーキバスが突き飛ばされた。
「次はこちらから参ります・・!」
操縦者が告げて、焔龍號がアーキバスに向かっていく。
「一閃!」
天雷の一閃がアーキバスのドラゴンスレイヤーの刀身を叩き折った。
「なっ!?」
この瞬間にサリアが驚きを隠せなくなる。
「これで引き下がるなら、命はとりません。」
操縦者がサリアに向けて忠告をしてきた。しかし敵に情けを掛けられる屈辱を味わわされて、サリアは憤りを膨らませた。
「甘く見ないで・・私を見下す上に、敵としてもろくに見ていないなんて・・・!」
サリアが声と力を振り絞り、アーキバスが折れたドラゴンスレイヤーを捨てて、アサルトライフルを手にして発射する。しかし焔龍號に射撃をかわされ、崩壊粒子収束砲「晴嵐」による反撃でアサルトライフルも右腕ごと破壊された。
「うあっ!」
アーキバスが右腕の爆発で体勢を崩して、サリアが悲鳴を上げた。
「情けは素直に受け取ったほうが賢明ですよ・・」
落下するアーキバスを見下ろして、操縦者がため息をつく。
「お前の相手はオレだ!」
シンのインパルスが飛びかかり、ビームサーベルを手にして焔龍號に振りかざす。焔龍號が回避して、天雷に持ち替える。
「あなたも討つしかないようですね・・・!」
操縦者がひと息ついて、シンを迎え撃つ。焔龍號がインパルスのビームサーベルを弾こうと、天雷を振りかざした。
(オレは弱いままじゃない・・何もできないままのあの頃じゃない・・・!)
シンの脳裏に、両親とマユの死に絶叫する自分の姿がよみがえってくる。
(オレが終わらせる・・戦いを!)
激高したシンの中で何かが弾けた。彼の感覚が研ぎ澄まされて、インパルスのビームサーベルが速くなった。
ビームサーベルが焔龍號が天雷で受け止めた瞬間、操縦者がその力の高まりを直感した。焔龍號がつばぜり合いをせず、天雷でビームサーベルを受け流した。
インパルスが間髪置かずに焔龍號を追撃する。焔龍號がビーム砲でけん制しようとするが、シンが反応し、インパルスが素早く回避した。
「これは、早く打ち倒さなければこちらが危うくなりそうですね・・・!」
操縦者が危機感を覚えて、向かってきたインパルスを焔龍號が迎え撃つ。インパルスが振りかざしたビームサーベルを紙一重でかわし、焔龍號が天雷を振り下ろして、サーベルを持つ右腕を斬り落とした。
「ぐっ!」
インパルスの右腕が爆発を起こし、シンがうめく。主力を失ったインパルスにとどめを刺そうと、焔龍號が天雷を構えた。
そこへ射撃が飛び込み、インパルスと焔龍號の間を通り抜けた。駆けつけたヴィルキスがアサルトライフルを発射した後、アサルトモードに変形した。
「あれは、もしかして・・・?」
操縦者がヴィルキスを見て戸惑いを覚える。
「今度は私が相手よ・・他の人みたいにはいかないから・・!」
アンジュが焔龍號に向かって言い放つ。
「アンジュ、あなたの相手はドラゴンでしょ!」
サリアがアンジュに抗議の声を上げる。
「そんなやられっぷりに任せられるわけないでしょ!」
アンジュに言われてサリアがいら立つ。しかしアーキバスの損傷を考えて、彼女はこれ以上言い返せなかった。
「さぁ、行くわよ、ヴィルキス!」
アンジュが言いかけて、ヴィルキスがラツィーエルを手にして構える。
(天雷にヒビが・・・!?)
操縦者が天雷の刀身にひび割れが起こっていることに気付いた。
(あの機体と打ち合ったときに・・・!?)
インパルスのビームサーベルと打ち合ったときに天雷が損傷したのだと、操縦者は思い知った。
(これでは接近戦は厳しいですね・・もう1度、収斂時空砲を使うしかありません・・・!)
操縦者が覚悟を決め、焔龍號が収斂時空砲を起動する。操縦者の歌声で、収斂時空砲にエネルギーが集まっていく。
「やっぱり永遠語り・・あの攻撃に対抗するには、私も・・・!」
思い立ったアンジュも永遠語りを口ずさむ。彼女の歌声に反応して、ヴィルキスの両肩が展開された。
(あれは収斂時空砲!?・・違う・・あれはもしや・・・!?)
操縦者がヴィルキスを見て驚きを覚える。
(なおのこと、全力で撃たなければならないようですね・・!)
操縦者が集中力を高めて、詠唱を続ける。ヴィルキスと焔龍號の胴体が、共に金色に輝き出した。
「ヴィルキスが金色に・・!?」
「何が起こったんだ・・!?」
サリアとアスランが2機を見つめて、動揺を膨らませる。
「シン、みんな、攻撃がぶつかり合う!離れるんだ!」
アスランが呼びかけて、シンがやむなく従う。インパルスとセイバー、アーキバスが下がる中、ヴィルキスと焔龍號が砲撃を発射した。
2機の砲撃がぶつかり合い、激しい衝撃とともに空間を歪めた。
「あれは、次元エネルギー!?・・2体のメカの強力なエネルギーがぶつかり合って、次元を歪めている・・!」
カナタがヴィルキスと焔龍號を見つめて、戸惑いを覚える。ヴィルキスたちが歪んだ次元の中に引き込まれた。
「な・・何、これは・・・!?」
アンジュが周囲の空間の光景を目の当たりにして、驚きを覚える。
空間に映し出されたビジョンは、どれもアンジュと黒髪の少女が映し出されていた。戦争、冒険から日常、学校生活までビジョンの内容は様々だが、アンジュにはどの光景にも覚えがない。
「どういうことなの!?・・これはいったい・・!?」
「どうやらこれは、平行世界の私たちでしょうね。友である世界もあれば、今の私たちのように敵対する世界もあるようで。」
疑問を膨らませるアンジュに操縦者が答えて、焔龍號のハッチを開いた。ビジョンにアンジュとともに映っている黒髪の少女とそっくりだった。
「あなたは・・・!?」
「真祖、アウラの末裔にして、フレイア一族の姫、近衛中将、サラマンディーネ。」
アンジュの問いを受けて、焔龍號の操縦者、サラマンディーネが自己紹介をする。
「アウラ?・・フレイア・・?」
「何故、偽りの民が真なる星歌を・・」
アンジュがさらに疑問を投げかけるが、サラマンディーネも彼女への疑問を呟いていた。
「あなた、この歌のことを知っているの・・!?」
「全ての真実は、アウラと共に・・」
アンジュが問い詰めるが、サラマンディーネは微笑んで言葉を返すだけだった。
そのとき、空間の歪みが元に戻り、ヴィルキスと焔龍號が元の空に戻ってきた。
「空間が安定したのですね・・」
サラマンディーネが周囲に目を向けて、状況を把握する。
そこへ砲撃が飛び込み、気付いたサラマンディーネが焔龍號に戻り回避行動をとる。夕姫の意識の入ったランガが右手から光弾を放ったのである。
「私たちがいること、忘れないでよね!」
夕姫が言い放ち、ランガが右手を構えて焔龍號に狙いを定める。
「あれはランガ!?・・バロウの神とされていたランガが、この世界には存在している・・!」
サラマンディーネがランガを見下ろして驚愕を覚える。彼女はランガの存在を知っていた。
「これは忌々しき事態ですね・・しかし、今の状態でそれを打開するのは無謀というもの・・」
ランガを警戒するも、損傷している天雷に目を向けて、彼女は撤退を余儀なくされたと痛感した。
「今回は引き上げることにします。近いうちに必ず、あなたたちの前に現れるでしょう。」
サラマンディーネがアンジュに告げて、焔龍號がヴィルキスから離れていく。
「あなたたちは何なの!?永遠語りの何を知っているの!?」
「その答え、あなたもいずれ知ることになるでしょう。」
アンジュの問いに対して、サラマンディーネが微笑みかける。
「また会いましょう、アンジュ。いえ、皇女、アンジュリーゼ。」
サラマンディーネがアンジュに別れを告げて、焔龍號がドラゴンたちを連れて、空間の穴に入っていった。
「何なのよ、アイツ・・・!?」
サラマンディーネに対する疑問と不快感を膨らませて、アンジュが握った右手を震わせていた。
(私、何もできなかった・・ヴィルキスは、アンジュは抵抗できたのに・・・!)
サリアは自分の無力さを痛感し、無意識にアンジュと比べるようになっていた。
(オレ、強くなったはずなのに・・アイツに勝てなかった・・・!)
シンも無力さを感じて、憤りを募らせていた。
「シン、ミネルバに戻るぞ・・・」
アスランがシンに向けて呼びかける。
「シン・・・!」
「あ・・・はい・・・」
アスランに声を掛けられて、シンが我に返った。インパルスとセイバーがミネルバに戻っていく。
「撃退した・・というより、撤退したっていうところね・・・」
「明らかに機体の性能がインパルスより上だった。そしてヴィルキスもインパルス以上の力を発揮した。」
ルナマリアが肩を落とし、レイが冷静に焔龍號とヴィルキスの性能について分析する。
「アルゼナルと対峙しているドラゴンは、単純な敵ではないようね・・」
タリアもドラゴンと焔龍號がただならぬ相手であると考えていた。
「アルゼナルが、ムチャクチャに・・・!」
カナタが島を見渡して、困惑していく。アルゼナルはかつてない損傷を被ることになった。