スーパーロボット大戦CROSS

第14話「脅威!ペンギン愛のリッツ」

 

 

 ペンギン帝国の場内にある道場。そこでペンギンコマンドたちを相手に格闘の訓練をする1人の少女がいた。

 少女は大勢で迫るペンギンコマンドたちを次々に投げ飛ばしていく。中には彼女に顔を撫でられて、デレデレになって戦う意欲を失くすコマンドもいた。

「すごい・・さすがリッツ・・リカンツ・シーベリーだ・・!」

 ペンギンコマンドたちが少女、リカンツの強さに驚かされる。

「オレたちが束になっても全然敵わない・・・」

「っていうか、オレらが弱すぎるんだよなぁ・・ただの人間にも敵わないんだからなぁ・・」

「おい、それを言うなよ!マジでへこむから・・!」

 ペンギンコマンドたちが会話を弾ませる中、リカンツがひと息ついて小休止する。

「んもう、みんなだらしないよ。こんなんじゃペンギン帝国の世界進出はできないよ。」

 リカンツがペンギンコマンドたちに向かって、ため息まじりに檄を飛ばす。

「し、しかし、ハイエロ粒子とダイミダラーのパワーは凄まじくて・・!」

「そういう弱気がいけないの。次はチンがやるから。みんなは勝つって信じてがんばってよね。」

 困惑するペンギンコマンドに、リカンツに意気込みを見せる。

「そうだ・・オレたちはやれるんだ!」

「リッツもいるんだ!向かうところに敵はない!」

 ペンギンコマンドたちがやる気を取り戻して盛り上がる。

「すばらしい!すばらしいぞ、リッツ!強さだけでなく、ペンギンコマンドたちを鼓舞するとは!」

 ペンギン帝国の首領、ペンギン帝王が道場に現れて、リカンツに賛辞を送る。

「帝王様、次はチンがダイミダラーをやっつけに行くからね♪」

「よし。お前ならば必ず作戦を成功に導けるだろう。」

 リカンツが笑顔を見せて、ペンギン大王が頷いた。

「しかし我々の敵は、ダイミダラーだけではないようだ。」

「ん?どういうこと?」

 ペンギン帝王が口にした言葉に、リカンツが疑問符を浮かべる。

「今、世界は他の平行世界と融合し、人間どもも交流できるようになった。ダイミダラーも他の勢力と協力している。つまり、我々が倒すべき敵が増えたということだ!」

「それは大変かも・・でもうまく動けば何とかなるよ♪」

 ペンギン大王から世界の融合とそれによる敵の増大を聞かされて、一瞬動揺したリカンツだが、すぐに前向きに振る舞った。

「すばらしい心意気だ・・だがくれぐれもムチャはしないようにな。」

「うんっ!」

 ペンギン大王から励まされて、リカンツが大きく頷いた。

(他の世界のヤツらと手を組み、ダイミダラーの戦力は格段に増した。だが我々も負けてはおらん。必ずやペンギンの世界を実現してみせる。リッツと、リカンツ・シーベリーとともに・・・!)

 敵が増えてもペンギン大王の野望と希望は消えるどころか増していた。

 

 ペンギン帝国のドックでは、新たなロボの開発が進められている。またこれまでのロボも量産されている。

 現在、リカンツのためのロボの開発も計画されていた。

「えっ!?旧型を改造する!?

「うん。チンがうまく操縦してみせるから。」

 驚きをあらわにするペンギンコマンドに、リカンツが頷く。

「しかし、だからってダイミダラーにやられたヤツを使っても勝てはしないって・・!」

「そんな弱気になったらダメ!やればできるって思わなくちゃ!」

 苦言を呈するペンギンコマンドに、リカンツが励ます。

「チンもチェックとかに付き合うから、遠慮しないで言ってよ♪」

「よ、よーし!リッツの期待に応えるぞー!」

 リカンツの笑顔に励まされて、ドックにいたペンギンコマンドたちが意気込みを見せた。彼らはリカンツのためにと躍起になって、ロボの改造を進める。

 リカンツも自分の乗るロボのチェックに協力していた。

 

 ザフト、アルゼナル、バロウ、プリンスが協定を結んだことで結成されたクロス。カナタとラブもその一員に組み込まれた。

「新しくミネルバと行動を共にすることになったアスラン・ザラです。改めてよろしく。」

「オレは天命カナタ。この前は助けてくれてありがとうございました。」

 アスランとカナタが自己紹介をして握手を交わす。2人を見てラブも微笑む。

「ミネルバのパイロットの現場指揮をオレは務めることになる。ミネルバの総指揮はあくまでグラディス艦長だ。」

「それじゃ、私たちにも指示を出したりするんですか?」

 自分の役割を説明するアスランに、海潮が質問をする。

「いや、オレもグラディス艦長も基本はザフトとミネルバ内での指揮に限定されている。君たちに指示を出しても、君たちやアルゼナルのメイルライダーがそれに従わなければならない規則はない。」

 アスランが弁解して、海潮が納得する。

「ところで、あなたはどうしてザフトに戻ってきたの?」

 夕姫がアスランに疑問を投げかけてきた。

「あなたは少し前までオーブにいたと聞いているわ。そのあなたがまたザフトに戻ってくるなんて、どういう風の吹き回しよ?」

「その疑問はもっともだな・・確かにオレは元々ザフトにいたが、少し前までオーブにいた。だが、ザフトでオレにできることがあるんじゃないかと思って、決断したんだ。」

 不信を見せる夕姫に、アスランが真剣な面持ちで答える。

「プラント最高評議会のギルバート・デュランダル議長が復隊を援助していただいた上に、フェイスにも推薦していただいた・・1度はプラントを裏切ったオレに、ここまでの手心を・・」

「なるほど。親切なんですね、そのデュランダルさんというのは・・」

 アスランがギルバートのことを話して、海潮が共感する。

「そう考えるのは早いわよ。直接会ってみないとね・・」

「ゆうぴー、そういうのは失礼だよ・・」

 ギルバートを信用しようとしない夕姫を、海潮が注意する。

「評議会って、あなたたちの世界の政府の上層部のことだと思うのだけど・・国や世界を自分たちの思い通りにしようとする勝手な大人は、信じられないのよ・・」

「ゆうぴー!」

 世界を動かす立場の人間への不満を口にする夕姫に、海潮が怒る。

「すみません・・夕姫、大人の社会に不満を感じていて・・」

「そうだったのか・・確かに勝手な人間が社会にいるのは事実だ。そんな人に直面したことはオレにもある・・」

 海潮が謝ると、アスランが表情を曇らせて語る。

「でもデュランダル議長は違う。あの人は世界を平和にしようと力を尽くしている。」

「しかし大変でしょうね・・世界が混じり合って混乱状態にあるのをまとめなくちゃいけないんだから・・」

 アスランの話を聞いて、カナタがギルバートを気遣う。しかしカナタは自分たちがしてしまったことへの罪悪感を抱えていた。

「近いうちに議長と会うときが来るはずだ。そのときに話をしてみるといい。」

「そうね。そうさせてもらいますね・・」

 アスランの言葉を聞き入れることにして、夕姫は微笑を見せてから立ち去った。

「ホントにすみません・・ゆうぴーも世の中のことをちゃんと考えてるんで・・」

「いや、気にしていないよ。誰でも直接会って話をしてみないと、よくは分からないものだ・・」

 再び謝る海潮に、アスランが弁解した。

(中には、話し合いをしても聞かない相手や、話を聞こうとすらしない相手もいるが・・・)

 かつて自分が経験してきた苦い出来事の記憶を思い出して、アスランは心の中で呟いていた。

 

 ペンギン帝国ではリカンツのためにロボの改造を続けていた。そして南極8号を改造し、リカンツが乗りこなせるように調整が施された。

「やったぜ!改造完了だー!」

「南極8号をリッツのために改良した!名付けて、“南極8号リッツカスタム”だー!」

 ペンギンコマンドが歓喜の声を上げる。

「それじゃ試しに動かしてみるよ。」

 リカンツがリッツカスタムに乗り込んで起動させる。リッツカスタムが浮遊して、開いた天井から外へ出た。

 

「何っ!?リッツが城を出ただと!?

 リカンツの出動の知らせを聞いて、ペンギン帝王が声を荒げる。

「し、しかし改造も調整もバッチシです!動かしている途中で壊れるなんてことは・・!」

 ペンギンコマンドが慌てて言い返す。

「そうではない!心配なのはロボではなくリッツのほうだ!」

「えっ!?

 ペンギン帝王の口にした危惧に、ペンギンコマンドが驚く。

「リッツは格闘能力とロボット操縦技術が非常に高い。それはまだまだ未知数で、我々もまだ完全に把握しているわけではない・・万が一にも、その力が暴走するようなことになれば・・!」

「す、すぐにリッツを呼び戻してきます!」

 ペンギン帝王リカンツに対して不安を口にすると、ペンギンコマンドが慌てて動き出す。

“帝王様、その役目、オレたちに任せてください!”

 そこへ通信が入ってきて、ペンギン帝王たちに向けて声が響いた。

「その声はマイケル!お前たち、無事だったのか!?

“はい。ただ今、どっかの軍隊の飛行機を盗んで、城に向かってます。”

 通信の相手、マイケルに答えるペンギン帝王に、デニスも事情を話す。世界の融合によって、デニスたちはペンギン帝王たちへの連絡が可能となっていた。

「よし!お前たちは我らの新たな同士、リッツの援護に向かえ!暴走しそうになったら連れ戻すのだ!」

“はっ!お任せを!”

 ペンギン帝王の命令にジェイクが答えた。

「後は、何も悪いことが起こらないことを願うだけだ・・・!」

 リカンツとジェイクたちを信じて、ペンギン帝王は状況を見計らうことにした。

 

 アルゼナルではドラゴンの出現に対応できるように、警戒が続けられていた。しかし世界が融合してから、アルゼナルの付近にドラゴンは現れていない。

「ハァ・・こうもドラゴンが出てこないと、暇になってくるよね・・」

 オリビエがため息をついて、退屈そうにしている。

「平和なのはいいけど、このままじゃおまんま食い上げよ。」

 ヒカルがため息をついてから頭を抱える。

「2人とも仕事中だよ。集中してよね。」

 パメラが注意して、ヒカルとオリビエが気を取り直す。

「それに、今の私たちの敵は、ドラゴンだけじゃないんだから・・」

 パメラが同盟の話を思い出して、そちらにも警戒を感じていた。

 

 アルゼナルの中を探索して、孝一はそこの女子たちを物色して喜んでいた。

「いやぁ〜♪ここには美女・美少女がより取り見取りだぜ〜♪」

 孝一が美女たちのことを思い返して、有頂天になっている。

「おっ!保健室っぽいとこが!これは医務室ってヤツか!」

 孝一が医務室に近づいて、こっそりと中を覗き込む。中には1人の女医が椅子に腰を下ろして、1枚のカルテを見つめていた。

「マナのない世界か・・ずいぶんとややこしいことになったもんだねぇ・・」

 女医、マギーが融合した世界について考えて笑みをこぼす。彼女はアルゼナルの軍医である。

「そしておかしなヤツも入ってきているし・・」

 マギーは立ち上がり、医務室に入り口に近づいて手を伸ばした。

「う、うおっ!」

 孝一がマギーに腕をつかまれて、医務室に引きずり込まれた。

「アンタね?協定を結んだ勢力の中の変態男っていうのは。」

「いやぁ、ここの司令官みたいに手厳しそうだなぁ・・」

 互いににやけてくるマギーと孝一。

「しかもべっぴんさんというところも同じだなぁ〜♪」

「お褒めの言葉として受け取っとくよ。ということで、厳しいお仕置きをさせてもらおうかな?」

 笑みをこぼす孝一を再び捕まえようとするマギー。

「あなた、ここで何をしているのですか!?

 そこへもう1人女性が来て、孝一に注意をしてきた。

「うほ〜♪また美人のお姉さんが出てきたぜ〜♪」

 女性、エマ・ブロンソンを見て、孝一が興奮する。エマは「ノーマ管理委員会」からアルゼナルに派遣された監察官である。

「もしかして、ダイミダラーといういかがわしい名前のロボットのパイロット、真玉橋孝一くんですね!?

「おー♪あなたのような人にもう知られてるとは、オレも有名になったもんだなぁ〜♪」

 エマに問われて、孝一が満足げに大きく頷く。

「ここアルゼナルがザフトやバロウ王国、プリンスと協定を結んでから、あなたや彼らのことは調べてあります。あなたが女性の天敵と言える変態であることも!」

「なるほどな!だけどオレはそう簡単には捕まらないぜ!」

 真剣な面持ちで語るエマに頷いてから、孝一が医務室から抜け出した。

「待ちなさい!これ以上ここでのハレンチは許しませんよ!」

 エマが呼び止めるが、孝一は止まることなく去っていった。

「残念ねぇ。ちょっと調べてやろうかと思ったんだけどねぇ。」

「マギーさん、あなたも不謹慎ですよ!」

 からかうマギーにも注意してから、エマは孝一を追いかけていった。

 そのとき、アルゼナル内に警報が鳴り響き、マギーが顔から笑みを消した。

(こっちのほうが厄介になってくるかもね・・)

 

 アルゼナルの指令室では、パメラたちがレーダーによる周辺の警戒とチェックを行っていた。

「こちらに近づいてくる反応あり!数は1!ですがドラゴンとは反応が違います!」

「生命反応はドラゴンと比べて大きくありません!おそらく機械で、生命反応はそのパイロットである可能性が高いです!」

 パメラとヒカルがジルに報告をする。

「モニター、出ます!」

 オリビエが表示したモニターの映像に現れたのは、南極8号・リッツカスタムだった。

「ペンギンのロボット?これが異世界のメカということか・・」

 ジルがリッツカスタムを見て、半ば呆れた素振りを見せる。

「サリア隊に迎撃に向かわせる。あのペンギンを海に沈めてしまえ。」

 ジルが指示を出し、パメラがサリアたちに通信で出撃を通達した。

 

 ダイミダラーの行方を追って、リカンツの動かすリッツカスタムがアルゼナルに接近してきた。

「あっちのほうだね、ダイミダラーがいるのは・・!」

 リカンツが孤島を見つめて笑みを浮かべる。

「いきなり攻撃っていうのはペンギン帝国らしくないからね!まずは出てこいって言わなくちゃね!」

 ダイミダラーを呼び出すべく、リカンツはリッツカスタムをアルゼナルに着陸させようとした。

 

 ジルの指示がサリアたちに伝えられた。ドックに来て出撃準備をするサリアたちだがアンジュ、ヒルダ、ロザリーはやる気になっていない。

「ドラゴンが出てきたんじゃねぇのかよ・・これじゃ稼ぎになんないじゃん・・」

「プラントからお金が入ってくるのは、不幸中の幸いだけど・・」

 ロザリーが愚痴をこぼして、クリスが呟く。

「おしゃべりはそこまでよ。何者かは知らないけど、アルゼナルに近づけないように・・」

「仕方ない。やらねぇとあたしらの邪魔になるからね・・」 

 サリアが呼びかけて、ヒルダがため息まじりに言いかける。

(ペンギンロボもミスルギ皇国も、私をいいようにするなら返り討ちにする・・!)

 アンジュが心の中で呟いて、目つきを鋭くする。彼女はジュリオたちから受けた屈辱と失望を思い返していた。

「全機万全だよ!発進していいよ、サリア!」

「了解。サリア隊、発進!」

 アルゼナルの整備班班長、メイの許可を聞いて、サリアが号令とともにアーキバスで発進した。ヴィルキス、グレイブ、ハウザー、レイザーも続けて発進した。

 

 ペンギン帝国のロボが近づいていることに、恭子は警戒していた。

「孝一くん、サリアさんたちは既に出撃したわ!私たちも行くわよ!」

 戻ってきた孝一を連れて、恭子がダイミダラーの前に来る。

「ペンギンどもめ、日本だけじゃなくこっちにも出張ってくるとはな!」

 孝一が自信を見せて、恭子とともにダイミダラーに乗り込んだ。

「ダイミダラー・2型、発進します!」

 恭子が掛け声を上げて、ダイミダラーがアルゼナルから発進した。

「ん?ありゃ、前に倒したヤツに似てるな・・!」

 孝一がリッツカスタムを見て首をかしげる。

「少し色や形状が違っている・・ただ見た目が違っているだけだとは思えないわ・・・!」

 恭子がリッツカスタムに対して警戒を強めていた。

「どう変わったって、オレがブッ飛ばしてやるぜー!」

 孝一が不敵な笑みを見せて、ダイミダラーが孤島の端から大きくジャンプして右手を繰り出した。するとリッツカスタムが横に動いて、拳をかわした。

「ダイミダラーのパンチをかわした!?

 孝一が驚きの声を上げて、恭子がリッツカスタムを警戒する。リッツカスタムが降下して、アルゼナルに降り立った。

「スピードが上がっているだけじゃない!動きもより正確になっている・・!」

 恭子がリッツカスタムを分析して、焦りを噛みしめる。

「マグレだ!次は当ててやるぜ!」

 孝一がいきり立ち、着地したダイミダラーがリッツカスタムに飛びかかる。孝一がリッツカスタムの動きを見計らいながら、ダイミダラーが再び拳を繰り出す。

 しかしこの一撃もリッツカスタムに紙一重でかわされた。

「何だとっ!?

「これがダイミダラーの力なの?全然大したことないじゃない。」

 驚愕する孝一と、ダイミダラーの動きに対して笑みをこぼすリカンツ。

「どいて!私が仕留めるわ!」

 そこへアンジュが呼びかけて、ヴィルキスがフライトモードからアサルトモードに変形して、ラツィーエルを手にして振りかざす。

 リカンツはヴィルキスの動きを見抜いて、リッツカスタムがラツィーエルの一閃もかわした。

「あなたはダイミダラーじゃないみたいだね。速いけどチンには見え見えだよ!」

 リカンツが無邪気に言って、リッツカスタムが大砲を発射する。ダイミダラーとヴィルキスが動いて、砲撃をかわす。

「おー♪あのペンギン、すごーい♪」

 ヴィヴィアンがリッツカスタムの戦いを見て感動する。

「あたしも負けないよー♪必殺・ブンブン丸!」

 彼女が意気込んで、レイザーがブーメランブレードを手にして、回転して投げ飛ばした。しかしリッツカスタムに簡単によけられた。

「あらら〜・・ブンブン丸もよけちゃった・・」

 ヴィヴィアンがあ然となり、回転して戻ってきたブーメランブレードをレイザーが受け止めた。

「あのペンギンロボット、見た目と違ってすごく機敏のようね・・!」

「包囲して動きを封じるのよ!」

 エルシャがリッツカスタムの動きに脅威を感じて、サリアが指示を出す。アーキバスたちがリッツカスタムを包囲して、それぞれ構えを取る。

「いっぱい出てきたね。これでチンも本気になれるってもんだよ!」

 リカンツが笑みをこぼして、リッツカスタムがミサイルを連射する。アンジュたちが反応してヴィルキスがミサイルを迎撃するが、ダイミダラーがミサイルを数発受けてしまう。

「ちくしょう!いいようにやられちまう!」

「敵のパイロットの腕がいいだけじゃない・・ダイミダラーのパワーが十分に発揮できていない・・・!」

 孝一が毒づき、恭子が焦りを膨らませる。ダイミダラーはリッツカスタムの戦闘能力に劣勢を強いられていた。

 

 リッツカスタムがアルゼナルに現れた知らせを受けて、タリアたちも出撃体勢を整えていた。

「孝一くんとサリアさんたちを援護して。ただし敵の機体の性能は並外れているわ。」

「はい・・!」

 タリアからの指示に答えて、シンがリッツカスタムに目を向ける。

(相手がオーブだろうと、戦いを仕掛けてくる敵だろうと、オレが倒す・・戦いを終わらせるために・・!)

「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!」

 決意を固めるシンの駆るコアスプレンダーが、ミネルバから発進した。続けて射出されたブラストシルエット、チェストフライヤー、レッグフライヤーがコアスプレンダーと合体して、ブラストインパルスとなった。

(オレも戦う・・ザフトの一員として、戦いを仕掛ける敵と・・)

 セイバーに乗ったアスランも、自身の決意を確かめる。

「アスラン・ザラ、セイバー、発進する!」

 アスランの掛け声とともに、セイバーもミネルバから発進した。

「ルナマリア・ホーク、ザク、出るわよ!」

「レイ・ザ・バレル、ザク、発進する!」

 ルナマリアとレイもそれぞれザクに乗って出撃した。

「オレとレイで接近して敵機をけん制する。シンとルナマリアが遠距離から狙うんだ。」

「了解。」

「分かりました!」

 アスランが指示を出して、レイとルナマリアが答える。

「シン、いいな?」

「は、はい・・!」

 アスランに言われて、シンが動揺しながら答えた。

 セイバーとザクがビームサーベル、ビームトマホークを手にしてリッツカスタムに向かっていく。

「また面白そうなのが出てきたね!もちろんチンは負けないけど!」

 リカンツは笑みを絶やさず、リッツカスタムがセイバーとザクの一閃を素早くかわして上昇した。

「今だ!」

 アスランが掛け声を上げて、インパルスとザクがビーム砲「ケルベロス」とオルトロスを発射した。しかしリッツカスタムのスピードにビームがかわされる。

「速い!あの姿と巨体なのに・・!」

 砲撃をよけられて、ルナマリアが驚きの声を上げる。

「くそっ!まだだ!」

 シンがいら立ちを浮かべて、インパルスがケルベロスを発射する。しかしリッツカスタムにビームをことごとくかわされていく。

「落ち着け、シン!インパルスのエネルギーがなくなるぞ!」

 アスランが呼び止めて、攻撃を止めたシンが毒づく。

(この前オレはすごい力を出せた・・あのときのような力を出せれば・・・!)

 オーブ近海にてザムザザーを始めとした連合軍の部隊を撃破した力のことを考えるシン。しかしどうすればその力が出せるのか、彼は分からなかった。

「みんな!」

 そこへカナタの乗るイザナギが駆けつけて、インパルスたちと合流した。

「敵の動きは速くて、しかも正確だ。あれに打ち勝つには、それ以上の動きをするか、力任せに打ち倒すか・・!」

 カナタがリッツカスタムに勝つ方法を考える。

「それだけの力をどう出せるか・・!」

「カナタくん、次元エネルギーの使用は控えて。コントロールができていないことは、あなた自身が分かっているはずよ。」

 彼に向けてタリアが注意を促してきた。

「分かってます・・あの力は、ちゃんとコントロールして使わなくちゃいけないものですから・・・」

 カナタが次元エネルギーの危険性を自覚して、小さく頷いた。

「それなら私たちに任せてください!」

 そこへ海潮が声をかけてきて、ランガも出てきた。

「海潮さん・・!」

 リッツカスタムに向かっていくランガを見て、タリアが声を上げる。

「また面白そうなのが出てきたね♪今度はあっちと遊んじゃおうかな♪」

 リカンツがランガに興味を持って、リッツカスタムが移動する。

「ランガ!」

 魅波が意識を傾けると、ランガの顔が変化して、右手も刃に変わった。ランガが右手を振りかざすが、リッツカスタムは浮上してかわした。

「それ!」

 リッツカスタムが大砲を発射して、ランガが砲撃を受けて押される。

「ランガ!」

 怯んだランガに魅波と海潮が叫ぶ。

「恭子、ハイエロ粒子を上げるぞ!」

 孝一が呼びかけて、後ろから恭子の胸をわしづかみにする。そこから胸を揉んでいくが、孝一は思うようにハイエロ粒子を上げることができない。

「どうしたの、孝一くん・・・?」

「どうしたんだ!?・・ハイエロ粒子が、大して出ねぇ・・・!」

 恥じらいを感じながら聞く恭子の前で、孝一が動揺する。

「どういうことなの!?エッチをすれば、ハイエロ粒子が放出されるはずなのに・・!?

 恭子も驚きを隠せなくなり、疑問を解消しようとする。

「もう1度だ!行くぞ、恭子!」

 孝一が再び恭子の胸をわしづかみにする。それでも彼からハイエロ粒子が出ない。

「手応えを感じねぇ・・どういうことだ・・・!?

「どういうことなのは私のセリフよ!手応えを感じないって!?

 愕然となる孝一に、恭子が不満を言う。

「そんなこと言ったって、マジで手応えを感じられねぇんだから・・!」

 孝一が動揺しながら答える。その間も彼は恭子の胸を持ち続けていた。

「ちょっと・・こんな深刻なときだっていうのに・・あなたという人は!」

 恭子が怒って、孝一の手を振り払おうとした。そのとき、その弾みで彼女の座っていた椅子が回転して、孝一と向かい合う形になった。

「こ、これは!?

 孝一が恭子とともに驚きを覚える。恭子の座席が「フロントアタックモード」となったのである。

「これなら、本気にエロがやれそうだぜ・・!」

「ち、ちょっと・・孝一くん・・!?

 孝一がにやけて、恭子が不安を浮かべる。彼女の胸が孝一の手にわしづかみにされる。

「うおー!きたきたきたー!興奮してきたぜー!」

「こ、孝一くん・・いつもよりも激しくなって・・・!」

 雄叫びを上げる孝一に胸を揉まれて、恭子があえぐ。孝一の体からハイエロ粒子があふれ出した。

「何だ、あの光は・・!?

「ダイミダラーの、孝一くんのハイエロ粒子・・!」

 ダイミダラーからあふれるハイエロ粒子を見て、アスランが声を荒げて、カナタが息をのむ。

「何なの、アイツ!?ものすごいパワーが出てるじゃない!」

 リカンツがダイミダラーを見つめて息をのむ。ダイミダラーが左手にハイエロ粒子を集中させて握りしめる。

「どんなにパワーがすごくても、当たんなきゃ意味ないんだからねー!」

 リカンツがいきり立ち、リッツカスタムがミサイルを発射しながらダイミダラーに向かっていく。

「必殺・指ビーム!」

 ダイミダラーが左手を突き出して、掌からビームを発射する。ビームがミサイルを破壊して、スピードを上げていたリッツカスタムの胴体をかすめた。

「ウソっ!?チンが攻撃を当てられた!?

 リカンツが驚きの声を上げて、ダイミダラーを警戒する。

「こうなったら、チンが考えてた奥の手を使うしかないね・・!」

 リカンツが覚悟を決めて、リッツカスタムがダイミダラーに向かっていく。

「このパワーを受けても動けるなんて・・!」

「だったら何度でも攻撃して、ブッ飛ばしてやるぜ!」

 恭子がリッツカスタムに脅威を覚えるが、孝一は不敵な笑みを見せていた。

「もう1発、指ビーム!」

 ダイミダラーが左手を出してビームを放つ。

「妙技・コケコッコーアターック!」

 その瞬間、リッツカスタムが高速で動いてビームをかわして、そのままダイミダラーの周りを回転しながら大砲を発射していく。

「キャッ!」

「くっ!このっ!」

 恭子が悲鳴を上げて、孝一が反撃に出る。しかしダイミダラーの放つビームを、リッツカスタムはことごとくかわしていく。

「ぐあっ!」

 ダイミダラーがリッツカスタムの砲撃を立て続けにくらって、孝一がうめく。

「このままじゃやられてしまうぞ!」

 シンが毒づき、インパルスが遠距離から攻撃しようとした。

「待て!ダイミダラーにまで当たってしまうぞ!」

 しかしアスランに呼び止められて、シンが思いとどまるしかなかった。

 

 リカンツを捜して戦闘機を進めていくマイケルたち。彼らはアルゼナルのそばまで来て、リッツカスタムを目撃した。

「いたぞ!リッツだ!」

「ダイミダラーを相手に善戦しているぞ・・!」

 マイケルとジェイクがリッツカスタムの活躍に興奮する。

「しかしダイミダラーのヤツ、あんなに味方を引きつれてるぞ・・あれじゃいくらリッツでも安心はできないよ・・!」

 デニスはイザナギたちも目の当たりにして、不安を口にする。

「それでもダイミダラーだけでも仕留められるはずだ・・!」

「おい、ちょっと待て!」

 ジェイクが勝機を見出したとき、マイケルがリッツカスタムを指さして声を上げた。回転攻撃を続けていたリッツカスタムのスピードが弱まっていく。

「ど、どうしたんだ、リッツは・・!?

 リッツカスタムの異変に動揺を浮かべるマイケル。やがて回転も動きも止まって、リッツカスタムが停止した。

「おい、どうした、リッツ!?

「まさか、どこか故障が・・!?

 ジェイクとマイケルがリッツカスタムを見つめて心配する。

 次の瞬間、リッツカスタムの中でリカンツが嗚咽に襲われた。リッツカスタムの回転攻撃で、彼女自身が目を回して気分を悪くしてしまった。

「ど、どうしたんだ、リッツー!?

 デニスがリカンツに対して悲鳴を上げる。

「もしやこれは・・つわり・・!?

「えっ・・!?

 ジェイクが口にした言葉に、マイケルとデニスが耳を疑った。

「つ・・つわリッツ・・・!?

 気分が悪くなったことに対して勝手な思い込みをしたマイケルたちによって、リカンツは卑猥な言われ方をされる羽目になった。

“何をしている!早くリッツを救出するのだ!”

 そこへペンギン帝王からの通信が伝わり、マイケルたちが我に返る。

「戻れ、リッツカスタム!引き上げるぞ!」

 マイケルが思念を送って、リッツカスタムが動き出して、ダイミダラーたちから離れていく。

「逃がすか!」

 シンのインパルスがリッツカスタムを狙って、ケルベロスを発射する。左腕をビームがかすめたものの、リッツカスタムはアルゼナルから脱出した。

「逃げられた・・何なのよ、アイツ・・!」

 アンジュがリッツカスタムに対して、不満を浮かべる。

「でも危機は乗り切れたわ・・勝負でいうところの引き分けね・・」

 恭子が服装を整えて胸をなで下ろす。

「引き分けなもんかよ・・完璧にオレたちの負けだ・・・!」

 ところが孝一は安心もせずに悔しがる。

「今のオレのハイエロ粒子は今までで1番の威力が出てた・・それでもオレたちはアイツに勝てなかった・・つまり、オレたちの負けってことだ・・・!」

「孝一くん・・・」

 コックピットの壁に拳を打ち付ける孝一に、恭子が困惑を覚える。

「戻りましょう、孝一くん、恭子さん・・」

 カナタが声をかけて、恭子が頷いた。イザナギたちがアルゼナルのドックやミネルバに戻っていった。

 

 リッツカスタムを誘導してペンギン帝国に戻ってきたマイケルたち。リッツカスタムの中で意識を失っていたリカンツが、ペンギンコマンドたちによって救出された。

「リッツ!しっかりしろ、リッツ!」

 ペンギンコマンドが呼び起こして、リカンツが目を覚ます。

「チ・・チンは・・・」

「気が付いたか、リッツ・・お前は戦闘中に意識を失ってしまったのだ・・・!」

 リカンツが声を振り絞ると、ジェイクが状況を説明した。

「よくやったぞ、リッツ!ダイミダラーを仕留めるには至らなかったが、あそこまで追い詰めたのは大したものだ!」

 ペンギン帝王がリカンツの前に来て、称賛を送る。

「あ、ありがとう、帝王様・・次こそはダイミダラーをやっつけてみせるよ・・!」

 リカンツがペンギン帝王に微笑んでから、再び眠りについた。

「リッツの体力が回復してから、次の出撃に移る。それまでお前たち、鍛錬を怠るな!」

 ペンギン帝王が指示を出して、マイケルたちが意気込みを見せる。

(ダイミダラーだけでなく、別の種類のメカがあんなにもいるとは・・いくらリッツの戦闘能力が飛び抜けているとはいえ、全てを相手にするにはやはり荷が重すぎる・・・!)

 ペンギン帝王がダイミダラーだけでなく、ザフト、アルゼナル、ランガ、イザナギに対しても警戒をしていた。

(それにしても、そのメカのパイロットとか・・何人か、ストライクなのがいるー!)

 彼はアンジュたちや魅波のことを思い出して、感動を感じていた。

 

 

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