スーパーロボット大戦CROSS
第13話「CROSS」
ミネルバの反応を追ってイザナギを飛行させるカナタだが、長時間の移動で疲労を感じていた。
「少し休憩したら?このままだと疲れて海に墜落するわよ・・」
「そうはいかないですよ・・ミネルバはオーブから出ていってしまいましたし、これ以上手がかりを見失うわけには・・」
魅波を気を遣うが、カナタはイザナミの操縦を続ける。そのとき、カナタの腹の虫が鳴って、魅波とジョエルの耳にも入った。
「おなかがすいたら食事する。それがバロウの真実です。」
「それってことわざ?・・まぁ、腹が減っては何とやらって言うからね・・」
ジョエルが言いかけて、魅波が肩を落とす。
「でも食べ物を探すといっても、この辺りは海ばかりで・・」
カナタが周りを見回して困惑する。魚を釣っても焼く道具が足りず、他の食べ物のある島も見当たらない。
「ん?あれは・・?」
そのとき、カナタが1機の赤い飛行機が通っていくのを目撃した。
「どこの飛行機か?・・敵でないことを祈って、話をするしかない・・・」
カナタがその飛行機を頼って、イザナギを動かす。彼らに気付いて飛行機がスピードを落とした。
「その飛行機のパイロット、聞きたいことがあるんですが・・!」
カナタがイザナギの回線を開いて呼びかけた。
「そちらの名前と所属は?オレはザフトのアスラン・ザラだ。」
飛行機「セイバー」のパイロット、アスランがカナタに問いかける。
「ザフト!?あなたもザフトなんですか!?・・オレは天命カナタ!この機体がイザナギというものです!」
アスランの言葉に驚きながらも、カナタも自己紹介をする。
「ザフトのミネルバという戦艦を捜しているのですが、行方が分からなくなってしまって・・・!」
「そういうことなら、オレも行動を共にさせてくれ。オレもミネルバと合流するために動いている。」
カナタの事情を聞いて、アスランが同行を申し出てきた。
「こちらはミネルバの位置を把握している。ついてきてくれ。」
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
呼びかけるアスランにカナタが感謝する。加速するセイバーにイザナギがついていく。
(グラディス艦長たちと会えれば、ラブちゃんやゼロス博士の手がかりも見つけられるかもしれない・・急がなくちゃ・・・!)
(海潮、夕姫、ザフトと一緒にいてよね・・・!)
ラブたちや海潮たちとの再会を強く願って、カナタと魅波はジョエルとともにさらに移動していった。
自らの力でミネルバを守ることができたシン。しかし大西洋連邦を含む多くの国と同盟を結んだ勝手な決断で、シンはオーブへの不信感をさらに強めていた。
(もう絶対に許してはならない・・オーブも連合も、オレの手で倒す・・・!)
募る怒りを噛みしめて、シンが両手を強く握りしめる。
「どうしたんだ、お前?」
そんな彼に声をかけてきたのは孝一だった。
「なんか不機嫌そうだぞ?イヤな気分になったときは、かわい子ちゃんでも物色しに行くに限るぜ〜♪」
「何なんだ、アンタは?・・悪ふざけに来たのかよ・・!?」
笑顔を振りまく孝一に、シンが不満を覚える。
「悪ふざけのわけあるか!エロは崇高なんだからー!」
「ハァ・・やっぱりふざけているな、アンタは・・」
高らかに言い放つ孝一に、シンがため息をつく。
「シンくんはオーブという国に怒りを感じているの・・」
海潮もラブ、アンジュとともにやってきて、孝一に説明する。
「オレのことを勝手にしゃべるなよ・・・!」
シンが海潮にも不満をぶつける。
「その国に何かあるの?生まれ育った国?」
アンジュが話を掘り下げようとして、シンが彼女にも鋭い視線を向ける。
「いくら故郷でも育った場所でも、勝手な考えに裏切られるのよ・・私だって・・・」
「えっ・・!?」
アンジュが口にした言葉を聞いて、ラブ、海潮、孝一が声を上げる。
「私も裏切られたのよ・・ものの見事に、自分の国と国民にね・・あんな身勝手な皇族と愚劣な家畜だとは・・皇女として浮かれていたときには、考えもしなかったでしょうね・・・」
「・・アンタも、オレと同じように・・・!?」
国ばかりか家族にも裏切られたことに、シンは困惑を覚える。
「オレは戦争によって家族を失った・・両親も妹も、オレのそばで死んだ・・・!」
シンが打ち明けた過去に、ラブと海潮も困惑する。
「戦争を仕掛けた連合軍もだけど、勝手な決断で自分の国を戦場にしたオーブも許せない・・その上、その連合と手を組むなんて・・!」
「その連合と手を組んだのは、私の故郷だったミスルギ皇国も・・国ばかりか、家族まで私を裏切った・・・ある意味、死なれるよりも辛いことかもしれないわね・・・」
オーブへの怒りを募らせるシンに、アンジュがジュリオやシルヴィア、アキホたちへの軽蔑と自分への皮肉を口にする。
「間違っているのはミスルギ皇国でもオーブでも、混じり合った世界でもない・・混ざらなくても、世界そのものが間違っていたのよ・・」
「そんなことはないよ!私たちの世界では、みんな分かってくれた!ランガのこともみんなが認めてくれた!」
世界への憎悪を抱くアンジュに、海潮が反論する。彼女は武蔵野の人々のことを思い出して、信じ合えたことを思い出していた。
「あなたたちは恵まれていたということね・・そういう幸せな世界もあれば、私たちのようにムチャクチャな世界もある・・私も、あなたたちの世界に生まれればよかったかもね・・」
アンジュが皮肉を口にして、海潮が困惑を募らせる。
(私たちは貧乏だったけど、バロウの王様として認められた・・でもこの人は王女様だったのに、その地位も日常も全部失って・・私たちとは真逆・・・)
自分たちと真逆の境遇のアンジュに、海潮は辛さを感じていた。
アンジュに救いの手を差し伸べるのは生半可な覚悟では意味をなさない。王として救おうとしても、アンジュを助けることはできない。
自分はまだ無力であると痛感して、海潮は言葉が出なくなった。
「まぁ、そうイヤな目で世界を見るもんじゃねぇぞ。オレがここにいるのが、みんなの1番のラッキーだぜ!」
すると孝一が高らかに言い放ってきた。
「戦争を経験したわけでも逮捕されたわけでもねぇけど、敵としてオレたちの前に現れるなら、容赦なくぶっ潰してやるぜ!」
「ちょっと・・戦いを遊びみたいに・・・!」
意気込みを見せる彼に、ラブが慌てて注意する。
「オレたちは戦争がしたいんじゃない・・戦争を終わらせるために動いているんだ・・!」
シンが孝一に目を向けて不満を口にする。
「戦争を終わらせる、ねぇ・・そのためにも、私も容赦なく敵を潰したほうがいいと思うわ。」
アンジュがため息まじりにシンの孝一の意見に賛成する。
「私もアンタも馬鹿げた世界に振り回されている。だったら敵を倒して、世界を正しくするのが1番幸せよ。」
「世界を正しくする・・オレ自身で、戦いのない世界にする・・・!」
アンジュの考えに心を動かされて、シンが決意を固めていく。
「待ってよ、みんな!そんな気持ちで戦うのはよくないよ!」
海潮がまたシンたちをなだめようとする。
「じゃあ、あなたは何がしたいの?何のために戦おうっていうの?」
アンジュがため息をついて、海潮に問い詰める。
「何のためって・・正義のために決まってるじゃないですか!悪いことを止めて、みんなを助ける!それが私の目指す正義です!」
「正義って・・それじゃその正義の味方は、もしもミスルギ皇国をよくするとしたらどうするのかしら?」
高らかに答える海潮に、アンジュが挑発するように疑問を投げかける。
「私たちの世界では、マナという力を持つのが普通だった。マナを打ち消す存在、ノーマは世界から忌み嫌われ隔離される。ただそう生まれただけでひたすら敵視される。皇女だった私でも例外なくね・・そんな国を、そんな世界をどんな正義で救うというの?」
「そんな!?・・そんなムチャクチャなの、絶対におかしいよ!」
アンジュが自分の世界やミスルギ皇国のことを話すが、海潮はノーマが一方的に虐げられている世界が信じられなかった。
「ホントなの・・私もミスルギ皇国にいて、ノーマであるアンジュさんをみんなが悪者扱いしていた・・私が呼び止めても聞かなくて、私たちまで敵だと思い込んで・・・」
ラブもアキホたちのことを思い出して、悲しい顔を浮かべる。自分には始め親切にしてくれたアキホもアンジュに敵意を向けていたことを、ラブは今でも信じられないことだと思っていた。
(そのときのことを、ちゃんと覚えていないようね・・自分が人が変わったように、人間離れしたように力を使ったことに・・)
アンジュがラブが変貌を遂げたときを思い出す。
(あれから全然覚えていないようだけど・・モモカが話したけど、それでも思い出せていない・・)
モモカから状況を聞かされても、ラブは思い出せない。彼女の心境を気にして、アンジュは警戒を抱えていた。
「それでも・・私は間違っていると思う!分かってもらうまで、悪いことを止めるよ!」
海潮が迷いを振り切ろうとしながら、信念を貫こうとする。
「とんだ正義の味方ね。話し合いがしたいのか、力ずくなのか、中途半端ね。」
「そんな綺麗事、アスハやオーブと大して変わんないじゃないか・・!」
アンジュの嘲笑に続いて、シンも海潮に不満をぶつける。
「そういう考えで、どれだけの人が悲しい思いをするか・・お前もちゃんと考えたらどうなんだ・・!」
シンに睨まれて、海潮は言葉を詰まらせる。
自分の正義を曲げることはできない。しかしこのまま正義を貫いても、シンやアンジュには届かない。海潮はただ押し黙ることしかできなかった。
アスランのセイバーとともにミネルバの元へ向かうカナタのイザナギ。彼らがアルゼナルを発見して、2機が近づいていく。
「この島からミネルバの反応がある・・連絡をしてみる。」
アスランが呼びかけて、カナタが頷いた。
「ミネルバ、こちら特務隊所属、アスラン・ザラ。貴艦への着艦の許可を。」
アスランがミネルバに向けて通信を送る。
“えっ!?あ、あのアスラン・ザラさんですか!?”
応答したメイリンが驚きの声を上げた。
“あなたの機体と一緒にいるのは、イザナギですね・・!”
「メイリンさん!みんなもそこにいるんですね!?」
メイリンがイザナギも見つけて、カナタが喜ぶ。
「ミネルバ、こちらは着艦していいのか?」
“はい。着艦、どうぞ。”
アスランが改めて聞いて、メイリンが落ち着きを取り戻して答えた。セイバーとイザナギがミネルバに着艦した。
「お姉ちゃん!あなたたちも乗っていたんだね!」
夕姫が魅波を見て喜びの声を上げた。
「夕姫!ここにいたのね、あなたも・・!」
「うん!海潮もランガもここにいるわ!」
魅波も喜びを感じて、夕姫が答える。
「あの・・ラブはいますか・・・!?」
「はい。アンジュリーゼ様や海潮さんたちとご一緒です。」
カナタが問いかけると、モモカが答えてアンジュたちのいるほうに目を向ける。
「案内してください!会いに行きます!」
「私も海潮に会いに行ってくるわ。」
カナタがモモカに案内されて、魅波、夕姫、ジョエルもついていった。
「あっ!・・あの人・・!」
続けてセイバーから降りてきたアスランを見て、ルナマリアが声を上げた。彼と彼の付けているバッヂを見て、ルナマリアたちが敬礼する。
「特務隊、フェイスのアスラン・ザラ。本日よりこのミネルバに同乗させてもらうことになった。」
アスランも敬礼を送って自己紹介をする。
「よろしくお願いします、ザラ隊長。私が艦長のところへ案内します。」
レイが挨拶してアスランを案内する。2人を見送ってから、ルナマリアたちが戸惑いを見せる。
「まさか、あのアスラン・ザラが来るなんて・・!」
「しかもフェイスになってるなんて・・もしかして、オレたちを指揮するってこと!?」
ルナマリアが声を上げて、ヴィーノが動揺を見せる。
「彼は誰なの?フェイスというのは何?」
サリアがルナマリアたちにアスランのことを聞く。
「あの人はアスラン・ザラ。ザフトのエースだった人で、2年前の戦争で活躍した1人なの。“イージス”、“ジャスティス”と赤い機体を乗り続けていたから、私、尊敬しているの。」
「赤い機体ねぇ。ちょっと気に入ったかもな。」
ルナマリアの話を聞いて、ヒルダが感心する。
「だけどその戦争のとき、ザフトを抜けてオーブに組したんだよなぁ。」
ヴィーノが話を続けて肩を落とす。
「オーブって、この前連合と同盟を結んだ国よね?そんな国に協力するなんてね・・」
「いや、そのときのオーブは中立の立場を貫いていたんだ。他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しないって・・」
「元々連合軍の戦艦だった“アークエンジェル”もオーブについて、激しくなる連合とザフトの戦いを止めて戦争を終わらせたの。」
エルシャが疑問符を浮かべて、ヨウランとルナマリアが話を続ける。
「でもアスランさんはその後にオーブに移住して、ともに戦った友人のキラ・ヤマトさんも、プラントの歌姫であるラクス・クラインもどこで何をしているのか・・」
「なるほど・・そのエースがザフトに戻ってきて、こっちに来たってわけか・・」
アスランやキラたちのことを聞いて、ヒルダが頷く。
「それでフェイスというのは、ザフトの特務隊のことよ。といっても集団で行動するわけじゃなくて、それぞれ行動の自由と他の部隊の指揮が認められているの。」
「それって、部隊の隊長より位が上ということになるわね。」
ルナマリアがフェイスについて説明して、エルシャが当惑を見せる。
「だからかなりの実力と信頼が認められないとなれないからね・・」
「ちなみにグラディス艦長もフェイスよ。ミネルバの総指揮は艦長がするから、アスラン隊長は現場指揮になると思うわ。」
ヴィーノとルナマリアがさらに話して、サリア、ヒルダ、エルシャが頷く。
「なるほどー♪つまりあの人はサリアということだね♪」
「何もかも同じだと思わないで・・」
大きく頷くヴィヴィアンに、サリアが呆れながら注意する。
「でもこれはザフトやプラントにおけるものだから、あなたたちや他の部隊に命令することはできないから・・」
「わざわざ教えてくれて、ありがとうと言っておくわ・・」
ルナマリアの話を頭に入れて、サリアが礼を言った。
「しかし、シンはどう思うか・・」
ヨウランがシンのことを気にしてため息をつく。
「シンが憎んでるオーブにいたんだ。アスラン隊長に対してどんな態度を取るか・・」
ヴィーノがシンのことを考えて、不安を感じていく。
「昔のことにウジウジ考えるなって思わねぇけど、くだらねぇことを気にするのは、あたしは気にくわねぇな・・」
自分の考えを口にして、ヒルダがため息をついた。
「私たちはパラメイルのチェックに行くわよ。これからの相手はドラゴンだけじゃないのだから・・」
「りょーかーい♪」
サリアが呼びかけて、ヴィヴィアンが元気に答える。彼女たちがアルゼナルのドックに向かった。
「ラブ!」
「海潮!」
カナタと魅波の声を聞いて、ラブたちが振り返った。
「カナタくん!」
「お姉ちゃん!」
ラブと海潮がカナタと魅波たちに駆け寄って、再会を心から喜んだ。
「1度武蔵野に行って、そこでミネルバと連絡が取れて、オーブに向かう途中にザフトの人に会って・・」
「ザフトの人?」
カナタが事情を話して、シンが疑問を覚える。
「アスランっていうんだ。その人もミネルバに行こうとしていて、オレたちもついていくことになったんだ。」
「アスランだって!?・・アイツ、プラントからオーブに移ったヤツだぞ・・!」
カナタがアスランのことを話すが、シンはアスランに対する不満を口にする。
「アイツは前の戦争を終わらせた1人で、それなりの力もある・・だけど、よりによってオーブに味方するなんて・・!」
「人間なんてそんなものよ。ミスルギ皇国が全部手のひらを返すくらいなんだから、他の世界でやることや考えることをコロコロ変える優柔不断がいてもおかしくないわよ・・」
いら立つシンに、アンジュが皮肉を口にする。
「気楽に言ってくれるな・・・!」
シンが不満を浮かべたまま、アンジュに背を向けた。
「オレはあのとき初めて会って、顔を見たのはここについてからだったけど、そんなに悪そうなようには感じなかったけどな・・」
カナタがアスランに対する印象を口にする。
「でもそうやって味方をコロコロ変えてしまうようだと、ちょっと疑ってしまうかもしれない・・」
「そうね。いきなり裏切られたんじゃ困るからね・・」
カナタがアスランへの不信についても言って、魅波が賛成する。
「でも、そうやって信じようとしなかったら、結局、誰も信じられなくなるよ・・」
海潮が悲しい顔を浮かべて言いかける。彼女の中に信じたいという気持ちが強くなっていた。
「それは、そうだよね・・何を信じたらいいのか分からなくなって、どうしたらいいのかも・・・」
ラブも海潮の意見に賛成する。ジュリオやシルヴィア、アキホたちの言動が、ラブの信じたいという気持ちを強めていた。
「これからオレたちは一緒に戦うことになるんだからな。せめてオレたちだけでも信じ合わなくちゃな。」
孝一が気分を切り替えようと、カナタたちに呼びかけてきた。
「まずは自己紹介をしとかねぇとな!オレは孝一!真玉橋孝一だ!」
孝一が高らかに自己紹介をする。
「私は島原海潮。こっちがお姉ちゃんの魅波と、妹の夕姫。」
「僕はジョエルです。よろしく。」
海潮が自分たちのことを紹介して、ジョエルも挨拶した。
「私はアンジュよ。」
「オレはシン・アスカだ。」
アンジュとシンも不機嫌そうな態度で名乗る。
「私は愛野ラブです。」
「オレは天命カナタ。みんな、改めてよろしくお願いします。」
ラブとカナタも挨拶して微笑んだ。
「これでお互いの名前が分かって、協力し合えるってもんだ!・・というわけでお近づきの印ということで〜♪」
孝一が大きく頷いてから、指を小刻みに動かしながらアンジュに近づいてきた。
「そういうの輩も信用ならんわ!」
アンジュが怒って拳を振りかざすが、孝一が後ろに下がってかわしてしまう。
「コラー!待ちなさーい!」
「いやらしい悪さも、私が許さないよー!」
アンジュだけでなく海潮も怒って、逃げていく孝一を追いかけていった。
「あんなので力を合わせようなんて・・」
孝一たちの様子を見て、シンが呆れる。
「それからのことはなるようになる、かな・・」
カナタが気を取り直そうとして、ラブとともに苦笑いを浮かべていた。
「後は、ゼロス博士たちがどこにいるか・・・」
「うん・・ここにもいなかったし、ミネルバにも合流していなかった・・連絡もつかないし・・・」
カナタとラブがゼロスのことを考えて、深刻さを感じていく。
「博士のことだから、どこかで情報を集めたり整理しているとは思うけど・・」
「何かあれば、イザナギに連絡してくるよね・・」
カナタが続けて言って、ラブが気持ちを切り替えようとする。
「カナタくん、グラディス艦長と話をするから・・シクザル博士の代わりに、博士の代表としてついてきて。」
魅波がカナタに近付いてきて、声をかけてきた。
「分かりました。ラブ、オレ行ってくる。」
カナタが答えて、ラブに目を向けて呼びかけた。
「うん。あんまり難しく考えないようにね・・」
ラブが言いかけて、カナタが頷いた。彼は魅波とともにアルゼナルの施設内に向かった。
アルゼナルの指令室ではタリア、ジル、恭子が協定について詳しく話し合っていた。そこへカナタと魅波が来て、会話に加わった。
「はじめまして。バロウ王国を代表して来ました、島原魅波です。」
「オレは天命カナタと言います。」
魅波とカナタがジルたちに挨拶をする。
「私はこのアルゼナルで総指揮をしているジルだ。今、プラントが持ちかけてきた協定について話をしていたところだ。」
ジルが2人に答えて、カナタたちは椅子に腰かけた。
「グラディス艦長たちからお前たちのことは聞いた。お前たちバロウ王国の戦力は、ランガという黒い巨体の神だそうだが・・」
ジルが魅波にランガのことを聞く。
「あれはどれほどの力を備えているのだ?話を聞く限りでは、お前たち自身、その力を把握しきれていないようだが?」
「確かに私たちも、ランガのことは詳しくは分かっていない。ですがランガがとてつもない力を持っていて、私たちの意思に反応して動くのは間違いないわ。」
ジルが投げかけた問いに、魅波は冷静に答える。
「つまり、協力関係となっても戦力に申し分はないということでいいかな?」
「そこは心配しなくていいわよ。あなたたちやザフトと違って大人数というわけじゃないけど。」
挑発してくるジルに、魅波も冷静さを崩さずに答えた。
「では魅波さん、あなた方も協力していただけるのですね?」
「えぇ。ただし条件があるわ。」
タリアが聞くと、魅波が申し出をしてきた。
「協力金をいただけないかしら?あなたたちに協力して、私たちの命とランガを賭けるのだから、それなりの報酬がないと割に合わないわ。」
「フン。我々と同じように、金で手を打つつもりか。」
金を求める魅波をあざ笑うジル。
「プラントのデュランダル議長は、あなた方の要望に応えたいと考えています。この金額でいかがでしょうか?」
タリアがギルバートからの申請書を魅波に提示した。
「こ、これは!?」
提示された金額を見て、魅波が目の色を変えた。
「これ以外にも提供できるものがあれば極力応えたいと、議長は申していますが・・」
「ありがとうございます!是非お引き受けします!」
さらに進言するタリアに、魅波が深々と頭を下げた。
「カナタくん、あなた方にも同等の援助をしたいと、議長は申しています。」
「そんな!?オレたちにそこまでしていただけるなんて・・!」
タリアから話を振られて、カナタが動揺する。
「オレたちの目的は、イザナギのハイブリッドディメンションをコントロールできるようにすること。そしてイザナギと並ぶ機体、イザナミとそのパイロットであるカンナを連れ戻すことです・・」
カナタが自分たちのやることをタリアたちに打ち明けた。
「みなさんの戦いにも、オレとイザナギは参加します。ただ、カンナとイザナミのことがもし分かったら、知らせてほしいんです・・」
「分かったわ。私たちのほうでもそれらしい手がかりを見つけたら、あなたたちに知らせるわ。」
カナタが投げかけるお願いを、タリアが快く聞き入れた。
「1つ確認しておくことがあります。私たちを敵だと断定しているのは、私たちの世界の地球連合、彼らと同盟を結んだオーブ軍、アルゼナルが討伐しているドラゴン、そしてダイミダラーのエネルギーを狙うペンギン帝国・・他にも連合と同盟を結ぶ組織や国が増える可能性も考えられます。」
タリアが現状を話して、魅波と恭子が頷く。
「カナタくん、シクザル博士の研究所、シクザルドームでの件から、カンナさんとイザナミもあなたや私たちに敵対することになります・・」
タリアから忠告をされて、カナタが息をのむ。
「最悪、彼女を討つことになります・・その覚悟、あなたにもありますか・・?」
「はい・・どうしても連れ戻せないというなら、オレが彼女を討ちます・・ただし、オレは希望を捨てません・・必ずカンナを連れ戻すという希望を・・・!」
カナタがタリアに答えて、覚悟と意思を示す。
「必ず連れ戻す・・・」
彼の言葉を聞いて、魅波が戸惑いを感じていた。
「意思は強いのですね・・・改めてよろしくお願いします、カナタくん。」
「はい!よろしくお願いします、グラディス艦長!ジルさん、魅波さん、恭子さん!」
微笑んだタリアに答えて、カナタが頭を下げた。
「これだけの数の部隊と人が1つになるのですから、私たち全員の部隊名を考えたほうがいいのではないでしょうか?」
恭子が自分たちのことを決めようと考えて、タリアたちに進言する。
「そうね。別々の部隊や世界の人が協力関係を持つのだから、部隊名を統一させた方がいいですね・・」
彼女の意見にタリアが賛成して、魅波も頷いた。
「世界が1つに混じり合って、今オレたちも交流を経て1つのチームになった・・交わり・・“CROSS”・・」
カナタがタリアたちとの出会いを思い出して、1つの言葉を思いついた。
「なるほど・・確かにクロスの意味に合っているわね。」
「世界が交わって、私たちもこうして同じ場所に集まって、力を合わせようとしているからね。」
「私は適当であるならば問題視しないがな。」
恭子と魅波が賛成して、ジルも反対はしなかった。
「では私たちのことは“クロス”と呼称します。」
「はい!よろしくお願いします、みなさん!」
タリアが承認して、カナタが感謝した。
カナタたちの新たなるチーム、クロスが今始動した。
とある町の中のバーに、カンナは来ていた。彼女が近づいたテーブル席には、1人の女性がいた。
「こんなところに呼び出すとはね、アブル。」
「お酒のにおいが少しでもしないと、話がうまく進まなくて・・・」
微笑みかけるカンナに女性、アブルが微笑む。アブルはバーに漂う酒のかすかなにおいで高揚していた。
「お酒が入らないと口数が少ないからね、あなたは・・それなのにお酒に強くて・・」
カンナがため息まじりに言うと、アブルが微笑んだ。
「また会いに行くの?例の彼と妹さんに・・?」
「えぇ。イザナミとイザナギ、2つのハイブリッドディメンションの力を合わせて、私は最高峰の力を手にすることができる・・」
アブルの問いかけに答えて、カンナが野心を膨らませていく。
「強力な次元エネルギーを完全に掌握する。それが私たちの目的にも大きくつながる・・」
「そこは期待していいわ・・イザナギも必ず捕まえて、ハイブリッドディメンションを2つともものにする・・」
「そのイザナギのことだけど、他の世界の部隊と合流したそうだよ・・」
「向こうの戦力は合わさって強くなったということね・・」
「イザナギだけならともかく、他のまで出てきたら少し厄介になるよ・・」
「それなら、あの部隊と敵対している勢力を利用すればいいだけのこと・・」
アブルとカンナがシンたちのことを考えて笑みを浮かべる。
「交戦の混乱に乗じて・・イザナギを弱らせる・・・」
「連合や同盟はそそのかせそうだけど、ドラゴンまでは・・正体が全部分かったわけじゃないから・・・」
2人は連合軍やドラゴンについて考えていく。
「そこはカミヤのほうが調べているから・・」
「それじゃ私たちは様子見をして、出方をうかがうことにしましょう。」
「ということで、私はもう少しお酒を楽しむね・・カンナ、あなたもどう?」
「少しだけ付き合うわ。だからお酒は程々にね。」
アブルに酒を勧められて、カンナが聞き入れてテーブル席に着いた。