スーパーロボット大戦CROSS
第11話「紅に染まる海」
メイリンからの知らせを聞いたシンは、海潮とともにミネルバに戻ってきた。
「どういうつもりなんだ、オーブは・・!?」
オーブの決断に対して、シンが怒りを覚える。
「自分たちを攻めてきた連合と、今度は同盟だと!?あれだけ国を焼かれて、どれだけの人を死なせたのか忘れたのか!?どこまで身勝手でいい加減なんだ、オーブは!」
激情をあらわにする彼が、そばの壁に握った左手を叩きつける。
「敵に回るっていうなら、今度はオレが滅ぼしてやる!こんな国!」
「そんなこと言っちゃダメだよ!いくら許せなくたって!・・戦争を仕掛けるのと同じじゃない・・!」
オーブへの敵意をむき出しにするシンを、海潮が呼び止める。
「戦争を仕掛けてきたのはアイツらのほうだ・・これ以上、綺麗事も勝手なマネも繰り返させるか!」
しかしシンは怒りを膨らませたまま、海潮の前から去っていった。
(同じ人間なんだから、争わないで、話し合えば分かり合えるはずだよ・・怒りをぶつけたって、怒りが増えるだけだよ・・・!)
怒りや憎しみのままに戦うことを快く思わない海潮。しかしシンの強固な怒りを止める術が、彼女には分からなかった。
海潮に会おうとする魅波とジョエルを連れて、カナタはイザナギを動かしてオーブに向かう。その道中、魅波の持つ携帯電話に着信が入った。
「もしもし?どうしたのよ、茗?」
魅波が電話に出て、連絡してきた茗に不機嫌そうに答える。
“もしもし、魅波!?今、大変なニュースが入ったのよ!”
茗が慌ただしく魅波に呼びかけてきた。
“あなたたちが今向かっているオーブというところ、新しく同盟を結んだそうよ!”
「同盟・・!?」
茗が語った話に、魅波が疑問を覚える。
“その同盟の相手の1つが、大西洋連邦!コーディネイターという人種に敵対の意思を示しているのよ!”
「コーディネイターに敵対・・・グラディス艦長たちもコーディネイター・・オーブに、みんなが狙われることになる・・・!」
茗からの話を聞いて、カナタが緊張を膨らませる。
「もっと急がないといけなくなった・・・魅波さん、ジョエルくん、しっかりつかまってください!」
「いいわ!遠慮しないで飛ばして!」
カナタの呼びかけに答えて、魅波がジョエルとともにコックピットの座席にしっかりとつかまった。
「イザナギ、スピードアップ!」
カナタがイザナギを加速させて、オーブに向けて急行した。
「シンと海潮さん、本艦に戻りました!」
シンたちが戻ったのを確認したメイリンが、タリアに報告する。
「ミネルバ、発進。これよりオーブを離脱します。」
タリアの指示により、ミネルバがオーブから動き出した。オーブ軍が彼らを包囲する前に。
「まさか、我々がオーブに追われることになるなんて・・・!」
「直接手を出してくることはないと思うけど、これからは警戒を怠ってはいけないようね・・」
不安を口にするアーサーと、危機感を感じていくタリア。ミネルバはオーブを脱して、その先の近海に出た。
「グラディス艦長・・!」
海潮が指令室に入ってきて、タリアに声をかけてきた。
「海潮さん、ごめんなさい。あなたに大変な思いをさせて・・」
「いいえ・・でも、逃げる以外になかったのですか?・・同じ人間なんだから、話し合って分かり合うことだってできるかもしれないのに・・・」
謝るタリアに、海潮が正直な思いを口にする。
「それが叶うなら私たちもそうしたいわ。でもそれは、自分自身が生き残った上でのこと。死んでしまったら、話し合いを求めることもできないのだから・・」
タリアも自分の考えを告げる。彼女の言葉に対して、海潮は反論することができなかった。
(傷つけ合わないとどうにかできないなんて・・そんな悲しいこと・・・)
戦争の繰り返される世界に対して、海潮は悲しみを禁じ得なかった。
「進行方向に戦艦と機体多数!本艦の進行を阻んでいます!」
そのとき、メイリンがタリアたちに向かって報告する。ミネルバの前方には多くの軍勢がいた。
「あれは地球軍!?なぜこんなところに!?」
「オーブと連合は同盟を結んだ・・オーブが連絡して連合が我々を待ち伏せていたとしても不思議じゃないわ・・・!」
アーサーが声を荒げて、タリアが現状を推測して毒づく。
「連合艦、こちらに砲門を向けています!」
「問答無用に攻撃しようってことなのか・・!?」
メイリンがさらに報告し、アーサーがさらに困惑する。
「落ち着きなさい、アーサー!連合が攻撃を仕掛けようというなら、我々も打って出るしかありません!迎撃し、ここを突破します!」
タリアはアーサーをなだめて、連合に視線を戻す。
「艦長、まずは話し合いを・・!」
「向こうは既に砲門をこちらに向けているわ・・回避か迎撃をしなければ、こちらがやられるわ・・!」
海潮が呼び止めるが、タリアは戦う以外にないと痛感していた。
「コンディションレッド発令!インパルス発進!レイ機、ルナマリア機は本艦を防衛!敵機を近づかせないこと!」
タリアの指示の下、ミネルバが臨戦態勢に入る。シン、レイ、ルナマリアがそれぞれの機体に乗り込む。
(こんなふざけたマネ・・・絶対に許しちゃおかないぞ・・連合も、オーブも・・!)
「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!」
怒りをたぎらせるシンが、コアスプレンダーでミネルバから発進する。続けてチェストフライヤー、レッグフライヤー、フォースシルエットが発進して、コアスプレンダーと合体してフォースインパルスとなる。
「ルナマリア・ホーク、ザク、出るわよ!」
「レイ・ザ・バレル、ザク、発進する!」
ルナマリア、レイのザクもミネルバから艦上に出た。
飛行して前進するインパルスを、連合軍のモビルスーツが迎え撃つ。インパルスはビームライフルを手にして発射して、地球軍の部隊にいるウィンダムを攻撃する。
「どけ、お前たち!オレが落としてやる!」
シンが言い放ち、インパルスがさらにモビルスーツを狙撃していく。
「活路を開きます!タンホイザー、起動!目標、前方、連合軍艦隊!」
タリアが指示を出して、ミネルバがタンホイザーの発射体勢に入る。彼女は砲撃で連合軍を撃退し、その隙間を縫って脱出しようと考えた。
「ってぇ!」
タリアの号令とともに、タンホイザーが発射された。
そこへ1機の機体がタンホイザーのビームの前に飛びだしてきた。
「陽電子リフレクター、展開!」
機体「ザムザザー」の上面から電磁の壁が現れた。電磁の壁にぶつかったビームが弾かれ飛び散った。
「そんな!?」
「電磁バリアでビームを弾いたのか・・だが、タンホイザーのビームを弾くとは・・!」
ルナマリアが驚愕して、レイが毒づく。MAであるザムザザーが陽電子砲を防いだことに、タリアたちも驚きを隠せなかった。
「だったら接近して落とすしかないってことなのか・・!?」
「ダメよ、シン!下手に近づけば、落とされるのはこちらよ!」
いきり立つシンをタリアが呼び止める。
「あの機体のアーム・・パワーを想定すれば、つかまれればインパルスもひとたまりもないわ!」
「くっ・・!」
タリアに言われてシンが毒づく。ザムザザーにはハサミを持った両腕が備わっていた。
「しかし、アイツに接近されたら、それこそおしまいなのでは・・!?」
「そんなことは分かっているわ!・・接近は絶対に許さないで!」
動揺するアーサーに言い返して、タリアが指示を出す。
「ミネルバはオレたちが援護する!シンはヤツを引き離せ!」
「それだけじゃダメだ!アイツらは全部倒す!」
レイが呼びかけると、シンが連合への敵意を強める。発進をしたザムザザーを、インパルスが飛行して迎え撃つ。
インパルスがビームライフルを発射するが、陽電子リフレクターで軽々とビームを弾かれる。
「ビームじゃ攻撃を当てられない・・接近するしかないのか・・!?」
シンが焦りを噛みしめて、インパルスがビームサーベルに持ち替える。ザムザザーが接近して両腕のハサミを伸ばして、インパルスが距離を取ってかわす。
「これじゃ近づけない・・どうすれば・・!」
悪戦苦闘を強いられて、シンが毒づく。
「これではやられるのは時間の問題だ・・1度オーブに引き返したほうが・・!?」
アーサーが後退を進言したときだった。
「こちらはオーブ海軍。司令官のトダカだ。ミネルバ、貴艦が我が国、我らの領海に入ることは許されない。」
オーブ軍の司令官、トダカがシンたちに向けて呼びかけてきた。ミネルバの後方、オーブ領海にはトダカの指揮するオーブ艦隊が展開していた。
「もしも貴艦が領海に踏み込むならば、我らは相応の対処をさせてもらう。なお、現在行われている貴艦と地球連合の戦闘に対し、我らは我らの防衛を果たすことになる。」
ミネルバに対して警告するトダカ。領域に踏み込むならばミネルバを敵視すると、オーブは判断していた。
「そんなムチャクチャな!どうしてザフトを悪者にするの!?」
オーブ軍のやり方に海潮が不満の声を上げる。
「これが政治と軍、いいえ、世界というものよ・・時に相手や周囲から不条理を強いられることがある・・・!」
タリアは冷静さを保ちながら。海潮に世界のことを告げる。
「でも、だからって・・・」
それでも海潮は納得ができず、じっとすることもできなくなる。
「どこへ行くの?」
指令室を出ようとした海潮だが、タリアに声を掛けられて足を止める。
「ランガと一緒に外に出るんです・・こんな戦い、やめさせなくちゃ・・!」
「それは許可できないわ。今は戦闘の真っただ中。そこへ飛び出すのは、いくらランガと共に行くとしても極めて危険よ・・!」
「でも、このまま何もしないで待ってるなんて・・!」
「あなたに何かあれば、家族や友人が悲しむことになる・・あなたは、自分で軍人になり、戦うことを選んだ私たちとは違うのだから・・」
ランガとともに外へ出ようとする海潮だが、タリアに言われて困惑する。戦場に出ることもできず、海潮は苦悩を深めていた。
進路も退路も阻まれているミネルバを、トダカたちが見守っていた。
「以前、国を焼いた軍に味方し、懸命に地球を救おうとしてくれた艦を追い払おうとしている・・こういうのを、恩知らずっていうんじゃないだろうか・・」
トダカが戦況を見ながら皮肉を呟く。
「政治家には無縁のことかもしれんがな・・」
「トダカ指令・・・?」
彼の呟きにオペレーターたちが疑問符を浮かべる。
「ミネルバが領海に侵入次第、砲撃をする。ただし威嚇に留めろ。艦体には当てるな。」
トダカが海軍の軍艦に指示を出す。
「しかし指令、命令は撃破では・・・!?」
「オレは政治家ではない・・距離があって正確に当てられなかったとでも言い訳しておけ・・!」
オペレーターが当惑を見せると、トダカは表情を変えずに言いかける。
「り、了解・・!」
オペレーターが渋々答えて、艦体に指示を伝達させた。
ミネルバと合流するため、オーブに急いでいたサリアたち。その途中、彼女たちはヒルダたちと合流した。
「ヒルダちゃんたちも無事でよかったわ。」
エルシャがヒルダたちを見て、安心を見せる。
「ミネルバは動き出したけど、またすぐに止まっちまったぞ・・!」
「まさか、オーブや同盟を結んだ連中に捕まっちまったんじゃ・・!?」
ヒルダとロザリーがレーダーに映るミネルバの反応を確かめて声を荒げる。
「急ぐわよ・・ミネルバが危ない・・・!」
サリアが呼びかけて、ヒルダたちが頷く。彼女たちは各々のパラメイルを加速させて、オーブへ急いだ。
地球軍に行く手を阻まれ苦戦を強いられているだけでなく、オーブ軍にも退路を閉ざされていることに、ミネルバのクルーたちは動揺を感じていた。
「そんな・・・オーブは、本気でオレたちを・・・!?」
オーブがザフトを敵にしていることに、シンは動揺を隠せなくなる。動きが鈍っていうインパルスに、ザムザザーが迫ってきた。
「くそっ!」
シンが激情を募らせて、インパルスがビームサーベルを振りかざす。しかしザムザザーの腕のハサミに弾き返される。
「シン、危ない!離れて!」
ルナマリアが呼びかけて、ザクがオルトロスを構えた。しかし次の瞬間、インパルスが足をザムザザーのハサミに挟まれた。
「しまった!うわあっ!」
インパルスが引っ張られて、シンが衝撃に押されてうめく。インパルスがビームサーベルを突き出してザムザザーを引き離そうとするが、熱量を持ったハサミにサーベルが弾かれる。
さらにインパルスの胴体から色が消えた。機体のエネルギーが切れたためである。
モビルスーツには耐久力を一気に高める「フェイズシフト装甲」を備えたものがある。インパルスもその1機である。
フェイズシフト装甲は機体のエネルギーが足りなくなるとその効力を失い、機体の色彩も失われることになる。
インパルスの耐久力が弱くなり、ザムザザーにつかまれていた足がもぎ取られた。力を失ったインパルスが、海へ落下した。
「シン!」
ルナマリアが叫ぶが、インパルスは沈んだ海から出てこない。海の底へと沈んでいくインパルスの中で、シンは意識がもうろうとなっていた。
その最中、シンの脳裏に家族との思いで、家族の死の瞬間がよみがえってくる。自分自身が無力を呪って絶叫したときも。
(こんなことで・・・こんなことでオレは!)
理不尽への怒りが頂点に達したときだった。シンの中で何かがはじけ、感覚が研ぎ澄まされた。
シンが再び操縦してインパルスが動き出す。インパルスが上昇して、海の上に飛び出した。
「くっ!しぶといヤツめ!」
「今度は胴体を引きちぎってくれる!」
ザムザザーのパイロットたちが、インパルスに毒づく。ザムザザーがインパルスに向かって前進し、ハサミでつかまえようとする。
エネルギーがわずかのはずのインパルスだが、ザムザザーの伸ばしたハサミを紙一重でかわした。インパルスがザムザザーに向かってビームサーベルを振り下ろす。
「ムダだ!この機体に傷を付けることは・・!」
パイロットがインパルスに対して勝ち誇る。ザムザザーの陽電子リフレクターに、インパルスのビームサーベルが突き立てられた。
次の瞬間、インパルスが胴体を翻して、ザムザザーの下に回り込んだ。インパルスがザムザザーの下部にビームサーベルを突き立てた。
「おわあっ!」
コックピットにも爆発が及んで、パイロットたちが絶叫を上げた。ザムザザーが落下して、海に落ちた瞬間に爆発した。
「ミネルバ、メイリン、デュートリオンビームを!それからレッグフライヤーとソードシルエットを!」
シンがメイリンに向けて的確に指示を出す。
「メイリン、言う通りにして!」
「は、はいっ!」
タリアも呼びかけて、メイリンが動揺を抑えながら指示に従う。スラスターでかろうじて浮遊しているインパルスを、ミネルバが捉えた。
「デュートリオンビーム、照射!」
ミネルバから光線、デュートリオンビームが放たれて、インパルスの額に照射される。消耗していたインパルスのエネルギーが回復する。
インパルスには「デュートリオンエンジン」が搭載されている。デュートリオンビームを受けることにより、エネルギーを回復してそのまま活動を継続することが可能である。
「レッグフライヤー、ソードシルエット、射出!」
メイリンが続けて呼びかけて、ミネルバからレッグフライヤー、ソードシルエットが射出された。インパルスが1度分離して、新たなチェストフライヤー、ソードシルエットと合体してソードインパルスとなった。
インパルスが大剣「エクスカリバー」を手にして、連合の艦の1隻の上に着地した。インパルスがエクスカリバーを振りかざして、艦体を切りつけていく。
インパルスは艦が爆発、撃墜する直前に飛び上がり、別の艦に飛び移る。インパルスは続けてエクスカリバーで、艦を切りつけていく。
「おのれ!これ以上やらせるか!」
「すぐにヤツを落とせ!」
ウィンダムのパイロットたちが毒づき、ウィンダムたちがインパルスに向かってビームライフルとミサイルを発射してきた。インパルスはジャンプして、ウィンダムを切りつける。
怒涛の攻めを見せるインパルスとシンに、連合の面々は驚愕し、ルナマリアたちも戸惑いを感じていた。
「司令、このままでは全滅します!撤退の許可を・・!」
連合のオペレーターが慌ただしく呼びかける。
そのとき、空に歪みが起きて、空間の穴が開いた。ドラゴンの群れが空間を超えて、オーブに現れた。
「ドラゴン!こんなときに!」
シンがドラゴンたちに対して毒づく。
「艦長、ドラゴンがこっちに向かってきます!」
「近づけさせてはいけないわ!迎撃しながら距離を取って!」
声を荒げるアーサーに、タリアが呼びかける。ミネルバが旋回しながらトリスタンを発射するが、ドラゴンたちは素早く飛行してビームを回避する。
「イゾルデ、ってぇ!」
タリアも掛け声を上げて、ミネルバからイゾルデが発射されて弾幕を広げる。視界を遮られるドラゴンだが、翼をはばたかせて煙を吹き飛ばす。
「ミネルバをやらせるか!」
シンが怒りを燃やし、インパルスがエクスカリバーを構えてドラゴンたちに向かって跳んでいく。しかし飛行能力のないソードインパルスでは、ドラゴンを追撃するのは難しい。
「ミネルバ、フォースシルエットを!空に上がってドラゴンを倒す!」
シンがドラゴンの追撃に向かおうと、ミネルバに呼びかける。
ドラゴン数体がミネルバに接近する。タリアたちは迎撃に専念せざるを得なくなり、ミネルバはシルエットシステムを射出できない。
「グラディス艦長、ハッチを開けてください!」
そのとき、海潮がタリアに向けて呼びかけてきた。海潮は指令室を飛び出して、ドックに駆け込んでランガのところに来ていた。
「私とランガに何ができるのか分かんないけど・・このまま何もせず、あなたたちを守れないままでいるなんてできない!」
「海潮さん・・しかしランガに空を飛ぶ能力はないはずでは・・・!」
正直な思いを口にする海潮に、タリアが声を荒げる。
「それでも、何もしないよりは・・・!」
海潮はじっとすることができず、ランガに加勢させようとする。
「本艦の上に乗りなさい!レイとルナマリアは前と横、海潮さんは後ろに来るドラゴンを迎撃して!」
「了解!」
「はい!」
タリアが指示を出して、レイとルナマリア、海潮が答える。ランガが左手から指を伸ばして、ミネルバの艦上に登った。
ルナマリアのザクがオルトロスを、レイのザクがミサイルポッド「ファイヤビー」を発射して、ドラゴンたちをけん制する。
ランガが剣を取り出して振りかざして、ドラゴンたちを遠ざけていく。
「フォースシルエット、射出!」
「はい!」
ドラゴンたちの動きをうかがうタリアが指示を出して、メイリンが答える。ミネルバからフォースシルエットが射出された。
インパルスがエクスカリバーを投げつけて、ドラゴンの1体に命中させた。そしてソードシルエットを外して、フォースシルエットと合体して再びフォースインパルスとなった。
インパルスがビームライフルを手にして発砲する。しかし数で押し寄せるドラゴンたちに対し、巻き返すには至らない。
「全速前進!ドラゴンを振り切り、オーブから離脱します!」
タリアが檄を飛ばし、ミネルバがドラゴンたちを振り切ろうとしていた。
ドラゴンという見知らぬ異形の怪物の出現に、カガリやユウナたちは驚きを隠せなかった。
「何だ、あれは!?・・あんなものが、この世界にいるなんて・・!?」
人間でも機械でもないドラゴンの存在を、カガリは信じることができないでいた。
「し、しかしヤツら、ミネルバに狙いを定めているようだぞ・・!」
「よし!ヤツらが引きつけてくれるならそれでいい!」
ドラゴンたちがミネルバに向かっていくことに、議員たちが安堵を見せる。
「お前たち、ミネルバを囮にして、自分たちだけ助かろうと考えているのか!?」
シンたちを利用する考えにカガリが反発する。
「我々が守るべきはオーブ。この国とそこに住む国民だ。それを見放して敵を助けようなど、正気の沙汰ではない。」
ユウナが冷静を保とうとしながら、カガリを咎める。
「国を守るために手段を選ばないほうが、正気ではない!」
「国はあなたのオモチャではない!いい加減、感情でものを言うのはやめなさい!」
反論するカガリを叱責するユウナ。彼の言葉に対し、カガリは言葉を詰まらせる。
「オーブ領に近づかない限り、部隊は手を出すな。ミネルバについても同様だ。」
「ユウナ・・・グラディス艦長・・・!」
オーブ軍に向けて指示を出すユウナのそばで、カガリは歯がゆさを感じていた。トダカたちも引き続き、戦いの静観をしていた。
ランガとインパルスが加勢するが、ミネルバはドラゴンたちを撃退させることができずにいた。
「このままじゃやられちゃう・・どうしたらいいの・・!?」
「ミネルバの活路を開く。でなければオレたちはドラゴンにやられることになる。」
焦りを膨らませるルナマリアに、レイが冷静に告げる。
「倒す・・敵は何だろうと、この手で倒す・・オレたちを苦しめる敵は・・!」
シンが言い放ち、インパルスがビームサーベルを手にしてドラゴンたちに向かっていく。ドラゴンが衝撃波の咆哮を放つが、インパルスが素早くかわしてビームサーベルで切りつける。
他のドラゴンたちがインパルスをかみ砕こうと突っ込んできた。インパルスが振り向きざまにビームサーベルを振りかざして、ドラゴンの口を切り裂いた。
さらにインパルスはビームサーベルを振り下ろして、ドラゴンの頭部に突き立てた。落下するドラゴンからサーベルを引き抜いて、インパルスがドラゴンたちに振り返る。
「すげぇ・・シンのヤツ、マジですげぇ・・・!」
「だけどこのままじゃまたインパルスのエネルギーが・・シンの体力だって持たないぞ・・!」
ヴィーノとヨウランがシンたちの戦いを見て、緊迫を募らせる。インパルスのエネルギーが再び少なくなってきた。
「か、艦長、どうすれば・・!?」
アーサーが慌てふためき、タリアが毒づく。
「ランガ・・・!」
ランガを見守る海潮も不安を膨らませていた。
そのとき、2つのビームが飛び込んできてドラゴンの1体に命中した。サリアたちが駆けつけて、エルシャとクリスのハウザーがロングバレルライフルで遠距離砲撃を放ったのである。
「あれは、サリア隊・・無事だったのですね、あなたたち・・!」
タリアがサリアたちを見て、安堵を覚える。
「ミネルバも無事でよかったわ・・」
「こちらサリア隊。ドラゴン討伐は私たちに任せて、あなたたちは戦場からの離脱を。」
エルシャも微笑んで、サリアがタリアたちに呼びかける。
「援護を感謝するわ・・本艦はオーブから離脱します!」
タリアがサリアたちに感謝して、アーサーたちに指示を出す。ミネルバが加速して、オーブとドラゴンから離れていく。
「ドラゴンを仕留められて、ミネルバにも貸しを作れる!まさに一石二鳥だ!」
ロザリーが歓喜を覚えて興奮する。
「しかも今はあの痛姫がいねぇから、十分手柄が取れる!そうだよな、ヒルダ!?」
「あぁ・・あたしたちはアルゼナルのメイルライダー・・そしてあたしはヒルダだ・・!」
彼女に声を掛けられて、ヒルダが低い声で呟くように答えた。
「今の私たちは弾数が少ないわ・・射撃は確実に命中させるように・・!」
サリアが指示を出して、エルシャとクリスが頷き、ヒルダとロザリーが笑みを見せた。
「いっくよー、ブンブン丸!」
ヴィヴィアンが高らかに言い放ち、レイザーがブーメランブレードを手にして、ドラゴンたちに向かっていく。
「近接武器・・それなら弾数を減らさずに済むけど・・・」
「ちっくしょー!剣とか槍とか買っとくんだったー!」
クリスが呟いて、ロザリーが頭を抱える。
「私とヒルダも突撃するわ!エルシャたちは援護を!」
「分かったわ、サリアちゃん!」
サリアがさらに指示を出して、エルシャが答える。
「ロザリー、クロス、アンタたちの分までしっかり稼いできてやるよ!」
「くそー!ヒルダたちだけずりーぞー!」
グレイブで突撃するヒルダに、ロザリーが文句を言う。クリスも援護だけしかできないことに、不満を感じていた。
サリアのアーキバス、ヒルダのグレイブ、ヴィヴィアンのレイザーがそれぞれアサルトブレード「ドラゴンスレイヤー」、槍「パトロクロス」、ブーメランブレードでドラゴンたちを切りつけていく。
陣形を崩していく残りのドラゴンたちを、ロザリーたちも負けじと射撃して仕留めていく。
ドラゴンたちの群れが全滅し、海に沈んでいった。
「ふぅ・・手柄なしよりはマシか・・」
ロザリーが海を見下ろして納得しようとする。
「みんな、ミネルバに追いつくわよ。」
「よーし♪追いかけっこー♪ビューン♪」
サリアが呼びかけて、ヴィヴィアンが掛け声を上げる。彼女たちはミネルバを追って移動していった。
ドラゴンだけでなく、その群れを殲滅したサリアたちも、カガリたちはさらに驚いていた。
「何が、どうなっているんだ、これは・・・!?」
「これも、世界が混ざり合っている影響なのか・・!?」
ユウナとウナトがドラゴンたちやサリアたちに疑問を感じていく。
(とんでもないことが起こっている・・私たちのことだけでなく、全ての世界で・・)
今、感じている不安が序の口でしかないのか。そう思い知らされたカガリは、緊迫を募らせていた。