スーパーロボット大戦CROSS
第10話「動き出す同盟」
並行世界の融合。ジルが口にしたその可能性に、ラブは動揺を隠せなくなっていた。
「空間が歪んで世界がみんな・・・だとしたらこれは、イザナギとイザナミの力が招いたこと・・・!」
自分たちがしたことに罪の意識を感じて、ラブが絶望していく。
「思いつめることはないわ、ラブさん。次元エネルギーの研究はあなたたちの夢なのだから・・」
恭子が励ますが、ラブは不安を拭うことができない。
「世界が1つになったから、スマホの電波が受信できたのね・・マナっていうのが使えたのも・・」
夕姫が今の世界で起きた疑問の答えを推測する。
「カナタたちと連絡が取れねぇのは、単純にそれができねぇくらいに忙しいってことか?」
「それだけならいいけど・・早くみんなと連絡が付けばいいのだけど・・・」
孝一も言いかけて、恭子もカナタたちの身を案じた。
「カナタくん・・博士・・みんな・・・」
カナタやゼロス、シンたちのことを考えて、ラブは不安を膨らませていた。
ラブたちがミスルギ皇国で意識を取り戻した頃、カナタは魅波とともにイザナギで武蔵野に移動していた。2人も世界の変動と融合が起こったことに気付いて、さらなる状況把握をしていた。
「まさか世界がこんなことになるなんて・・海潮と夕姫、ランガはどうなったのかしら・・?」
海潮たちが家に戻っていることを信じて、魅波がそわそわする。
「すみません・・オレが、イザナギの力を制御できていれば・・」
カナタがこの現状を引き起こした自分を責めて謝る。
「制御できていないのは、あのロボットの力というよりは、あなた自身じゃないの・・?」
「えっ・・?」
魅波が投げかけた指摘に、カナタが当惑を覚える。
「あのとき、もう1体のロボットと戦っていたときのあなたは、自分の感情に振り回されていたように感じた・・その感情が、あなたのロボットの力も暴走させたんじゃないの・・?」
魅波の言葉を聞いて、カナタが動揺を膨らませていく。
「オレの感情が・・オレの怒りが、この事態を引き起こした・・・!」
自分をさらに責めるカナタが、イザナギで戦うことにも恐怖を抱くようになった。
「えっ!?ちょっと!」
そのとき、カナタがイザナギの操縦を誤って揺れて、魅波が悲鳴を上げる。
「す、すみません!・・今は集中・・しっかり操縦しないと・・・!」
カナタが謝って、気を引き締めなおす。イザナギは飛行を続けて武蔵野を目指した。
武蔵野にある島原家に戻ってきたカナタと魅波。しかし家には海潮たちもランガも戻ってきていなかった。
「みんないない・・どこにいるっていうの・・!?」
連絡も付かず手がかりも見つけられず、魅波が不満を感じてため息をつく。彼女もカナタも連絡を試みたが、誰とも連絡が付かない状態だった。
「まさか、空間を超えて別の世界に行ってしまったんじゃ・・!?」
カナタが不安を覚えて、体を震わせる。彼は絶望感に囚われて、冷静さを失いかけていた。
「本当におかしなことになったわね・・世界の形が変わったなんて、おかしなニュースが流れて・・」
世間を震撼させているニュースを思い出して、魅波がため息をついた。
世界の大陸の形が変わり、見知らぬ国や種族が現れたというニュースは、世界中に広まっていた。しかし空間の歪みで平行世界が融合しているというニュースは流れていない。
まだ融合について本当に知らないのか、気付いた者たちが隠蔽して外に漏れないようにしているのか。
それに対する推測をする余裕は、今のカナタと魅波にはなかった。
「危ない!」
そこへ声がかかり、カナタがとっさに動いた。彼が直前までいた場所に飛び込んできたのは銃弾だった。
「な、何だ!?」
弾の飛んできたほうに目を向けるカナタと魅波。茂みに隠れていた人物が、その場から逃げていった。
「誰よ、私たちの家にこんなことをするのは・・!?」
魅波が茂みのほうを睨みつける。カナタも他に誰かいないか、警戒する。
次の瞬間、茂みから何かが出てきて、カナタたちが身構える。
「僕です、魅波さん・・」
茂みから出てきたのはジョエルだった。
「君は・・」
「まさかアンタが銃を撃ってきたの!?」
カナタが声を上げて、魅波がジョエルを疑う。
「ち、違います!あそこに人がいて、その人が撃ってすぐに逃げました!」
ジョエルが慌てて状況を話す。カナタたちを狙ったのは、1人の強面の男だった。
「魅波、帰ってきていたの!?」
さらに茗もやってきて、魅波たちを見て驚きの声を上げた。
「え、えぇ・・でも、みんなと離れ離れになってしまって・・戻ってきているかもしれないと思って・・」
魅波が答えて、茗に事情を話す。
「そうだったの・・みんな、まだ帰ってきていないみたいね。あなたたちが最初かも。」
「そんな・・・海潮、夕姫・・どこに行ってしまったの・・・!?」
茗の答えを聞いて、魅波が海潮たちへの心配を募らせる。
「それで、さっき弾丸を撃ち込んできた人が誰か、知っているのですか・・?」
カナタが深刻な面持ちを浮かべて、茗に問いかける。
「私たちも分からないけど、もしかしたらヤクザの仕業かもしれないわね。」
「ヤ、ヤクザ・・!?」
茗の話を聞いて、カナタが驚く。
「狙いはあのランガというのを手に入れた島原家ね。あれだけ目立つことをしたあなたたちをよく思わない人もいるってこと。」
「そんな!?ランガは神で、魅波さんたちはバロウの王なのに!?」
茗の推測を聞いて、ジョエルが納得がいかずに声を荒げる。
「どうしても認めたくない、許せないと考える人はどこかにいるのよ。いいか悪いかは別として・・」
茗が皮肉を言って、ジョエルとカナタが落ち込んでいく。
「それにしても、新しい国が突然出てくるなんてね・・世界中、この日本だって大騒ぎになっているわよ・・」
茗が世界の変化について、話を投げかけた。
「まさか、イザナギとイザナミの力で、空間に穴を開けただけじゃなく、世界そのものを1つにしてしまったんじゃ・・!?」
カナタがイザナギを見上げて、不安を膨らませていく。
「ちょっと・・それって、パラレルワールドが混ざったっていうこと・・!?」
魅波が問い詰めると、カナタがゆっくりと振り向いて小さく頷いた。
「詳しいことは博士に聞かないと分からないけど・・まずはみんなを見つけて合流しないと・・・!」
「そうね・・世界が1つになっているってことは、海潮たちが別の世界に行ってしまった可能性は低くなったはずだから・・」
ゼロスのことを気にするカナタと、安心のため息をつく魅波。
「もう1度連絡を取ってみます。今度こそつながるかもしれない・・・!」
カナタは魅波たちに言ってから、イザナギのコックピットに入って、通信機とレーダーをチェックした。
「ゼロス博士、応答してください!ラブちゃん、返事して!グラディス艦長!アンジュさん!恭子さん!」
カナタがゼロスたちに向かって呼びかける。彼は誰かにつながることを願い、連絡を試みた。
“こちら、ミネルバ。名前と所属を。”
イザナギに対して応答が返ってきた。
「この声は、ミネルバという戦艦の・・オレは天命カナタです!そちらはミネルバですか!?」
“カナタさん?・・あのイザナギという機体のパイロットですか!?”
笑みを浮かべて呼びかけるカナタに、通信の相手、メイリンが聞く。
「はい!みなさん、無事ですか!?ラブちゃんは、ゼロス博士は!?」
“落ち着いてください。まずはお互いの位置情報を。私たちは太平洋、オーブに入港して整備を受けています。”
慌てて呼びかけるカナタに、メイリンが落ち着いて現状を伝える。
「はい・・オレたちは今、日本、東京、武蔵野の魅波さんの家にいます。魅波さんとジョエルくんも一緒です。」
カナタも自分たちの現状を話して、魅波たちに目を向ける。
「あの、そこに海潮と夕姫は、私の妹たちはいるの・・?」
魅波がイザナギのコックピットに近づいて、メイリンに問いかけた。
“はい。海潮さんとランガがこちらにいます。”
「海潮が・・すぐにそっちに行くわ!」
メイリンから海潮のことを聞いて、魅波が笑顔で答えた。
「さぁ、すぐに行くわよ!私を連れてって!」
魅波がカナタに詰め寄ってきて、オーブに向かうように言う。
「ちょっと待ってください!オーブの位置情報を伝えてもらえないですか!?」
カナタが魅波をなだめて、メイリンとの通話を続ける。ミネルバからイザナギにオーブの位置情報が伝えられた。
「ありがとうございます。今からそちらへ向かいます・・!」
カナタはメイリンにお礼を言ってから、ミネルバへの通信を終えた。
「今からオーブに向かいます・・君も行くなら、イザナギに乗ってくれ・・」
「はい。」
カナタが呼びかけて、ジョエルが頷いてイザナギのコックピットに入った。
「ち、ちょっと!家はどうするのよ!?」
「ゴメン、茗。海潮たちを連れてすぐに戻るから。」
声を荒げる茗に、魅波が笑顔を見せて呼びかけた。コックピットのハッチが閉じて、イザナギが発進した。
イザナギとイザナミの事件エネルギーの衝突で、シンたちは世界の融合の最中に転移していた。その場所はオーブ近海だった。
オーブに事情を話して、ミネルバはオーブに入港して、整備と補給を行った。
ミネルバにはシンたちの他に、海潮も乗っていた。気を失った海潮は、ミネルバと同行していたランガの手の中で目を覚ましたのだった。
「すみません、グラディスさん。私とランガも連れていってくれて・・」
「あなたを保護できてよかったわ。みんなを見つけて、あなたを連れていくから・・」
感謝する海潮にタリアが微笑んで答える。
「ミネルバの整備ももうすぐ終わるわ。魅波さんたちの捜索も同時に進めている。」
「私にも、何かできることがあれば・・・」
タリアが現状を話すと、海潮が自分の無力さを感じていく。
「私たちは私たちのできることをしている。あなたもあなたのできることをすればいいのよ。」
「はい、分かりました・・・私の、できること・・・」
タリアに励まされて微笑む海潮が、考えを巡らせる。
「艦長、カナタさんと連絡が取れました。魅波さんとともにこちらに向かうとのことです。」
メイリンがカナタたちのことを、タリアに報告してきた。
「お姉ちゃんが!?・・無事だったんだね、お姉ちゃん・・・!」
海潮が魅波のことを聞いて安心する。
「もう少し待っていて。今はシンたちは自由時間だから、この近くだったら外に出ても構わないわ。」
「分かりました。では外を回ってみます。」
タリアが許可を出して、海潮が感謝した。
(ランガに乗って移動するのはまずいよね・・私だけで出かけるしかなさそうだね・・)
海潮はランガのことを気にしながら、1人で外に出かけることにした。
空間の歪みによって、サリアたちも別の場所に飛ばされていた。離れ離れで目を覚ました彼女たちだが、連絡を取り合って合流を果たそうとしていた。
「ここでクイズです♪私たちは今、どこに向かっているのでしょーか?」
パラメイルで航行する中、ヴィヴィアンがクイズを出してきた。
「オーブというところね。そこにミネルバがいるって情報が入ったから。」
エルシャが微笑んで答えて、ヴィヴィアンが大きく頷いていく。
「ヒルダちゃんたちとは連絡が取れたけど、アンジュちゃんとそのメイドさんとはまだ・・」
エルシャがヒルダたちとアンジュたちのことを考えて、表情を曇らせる。
「アンジュたちとも連絡が取れるときが来るわ。今はヒルダたちとともに、オーブに向かうわよ。」
「了解。」
「おー♪」
サリアが冷静に呼びかけて、エルシャとヴィヴィアンが答えた。
(今、世界はおかしなことになっている。私たちの知らない地形や国が突然現れた。私たちが向かっているオーブもその1つ・・)
サリアが心の中で今の世界について考えていく。
(私たちだけでは手に入れられる情報が少ない。ここから近いオーブにいるミネルバに行けば、もっと情報が得られる可能性が高くなる・・)
現状把握のために行動するため、サリアはミネルバと合流することを決断した。
(それに、あの情報が本当なら、ミネルバが危険にさらされることになる・・・!)
傍受した通信からタリアたちに危機が迫っていると予感したのも、サリアがオーブ行きの決断の理由だった。
ヒルダ、ロザリー、クリスもサリアたちと連絡を取ってオーブに向かっていた。
「今の世界と同じで、あたしの頭の中もごっちゃごちゃだぞ!何が何だかさっぱりだ!」
「私も・・・」
ロザリーがため息をついて、クリスも困惑している。
「こうなったら、さっさとサリアたちと合流して、オーブってとこに急ぐしかないな!」
ロザリーが呼びかけて、クリスが頷いた。
「ヒルダ、それでいいよな?・・ヒルダ?」
ロザリーに声を掛けられて、ヒルダが我に返る。彼女は思いつめた面持ちを浮かべていた。
「どうしたんだよ、ヒルダ?さっきからボーっとして・・」
「い、いや、何でもない・・何でもねぇよ・・・」
ロザリーに聞かれて、ヒルダがため息まじりに言い返す。
(もう私は、ママの娘じゃない・・私の居場所は、あそこじゃない・・・)
辛い出来事を思い出して、ヒルダは不満と悲しみを募らせていく。
空間を飛び越えて、アンジュやサリアたちと離れ離れになった際、ヒルダは自分の家に戻った。しかし家にはヒルダの本名と同じ名前の新しい娘がいた。
ノーマであるヒルダは、母親に拒絶された。帰りたがっていた実家を追い出されて、彼女は絶望した。
ヒルダがロザリー、クリスと合流したのはその後だった。3人はサリアと連絡を取ることができて、オーブに向かうこととなった。
(もう私は、ヒルデガルト・シュリーフォークトじゃない・・アルゼナルのヒルダよ・・!)
過去との決別を胸に秘めて、ヒルダは苦悩を振り切った。
自由時間の中、ミネルバから1人出かけたシン。彼は軍港から離れた海岸に足を運んだ。
オーブはシンにとって第2の故郷だった。しかし家族を殺されたシンは、攻撃を仕掛けてきた地球連合だけでなく、オーブにも怒りの矛先を向けていた。
海岸から海を見つめるシン。彼は妹のマユの携帯電話を握りしめて、怒りと悲しみを膨らませる。
連合軍のオーブへの攻撃から避難しようとする最中、マユが携帯電話を落として、シンが拾いに向かった。ところがその直後に戦火が飛び込み、両親とマユが命を落とした。
シンは家族を奪った戦争と、自分たちを戦火に巻き込んだオーブに、強い怒りを覚えた。
そしてシンは海岸の近くの広場に来た。海沿いのその場所の先には、1つの慰霊碑があった。先の大戦でオーブで亡くなった人たちの名前が記されているものである。
シンは慰霊碑を見つめて、悲しみと怒りを噛みしめる。慰霊碑は海の波を浴びた形跡があった。
(ユニウスセブンの破片が落ちて、津波が起こって・・・)
自分たちが空間を飛び越えて、カナタたちの世界に行っている間に、自分たちの世界が悲劇に見舞われていたのだと、シンは痛感する。
(また命が失われた・・身勝手なヤツのせいで・・・!)
シンが激情を募らせて、マユの携帯電話を見つめる。携帯電話からは、マユが吹き込んだ留守番電話の音声が流れていた。
「あ、あの・・」
その海岸に声がかかって、シンが振り向いた。海潮も海岸に来て、慰霊碑を目にした。
「これってもしかして、お墓・・・!?」
海潮が動揺して、シンが小さく頷いた。
「ユニウスセブンという宇宙の墓標の落下で、またたくさんの人が死んだ・・ユニウスセブンを砕くことはできたけど、それでもオレたちの世界は・・・」
「そんなことが・・それで世界が大変なことになるなんて・・・!?」
シンの話を聞いて、海潮が困惑する。
「戦争の起こらなくなったアンタたちの世界がうらやましい・・家族や友達が目の前で死ぬなんてないんだからな・・・」
怒りを込めて言いかけるシンに、海潮は言葉が出なくなる。
自分たちの世界では、戦争は既に終わっているものとなっている。しかしシンたちの世界では戦争の爪痕が深く、そして再び争いが行われようとしている。
自分たちはなんて恵まれているのだろうと思い、海潮が困惑を募らせていく。
(私たち、本当に恵まれている・・みんな、話し合えば分かり合える、気持ちが通じ合えば力を合わせられると思っていた・・でもうまくいかなくて、傷つけ合いのある世界がある・・それを知らないで、私・・)
シンが抱えている辛さを痛感して、海潮が落ち込んでいく。
(私たち、ランガという力を手にして、できないことはないと思い込んでいた・・でも世界の中じゃ、私たちのできることは少ない・・・)
自分たちがまだまだ無力であると思い知り、海潮は苦悩を深めていた。
「このオーブの、慰霊碑なのかな・・・?」
そこへ1人の青年がやってきて、シンのほうへ近づいてきた。青年も慰霊碑を見つめて、深刻な面持ちを浮かべた。
「そうみたいですね・・オレ、この国に来たの、久しぶりだから・・・」
青年が声をかけて、シンが答える。
「私はここは初めてです。今は散歩で来ていて・・」
海潮も慰霊碑を見つめたまま、青年に答える。
「あなたは、この国の人ですか・・?」
「ううん。でも、この国にはよく来ているよ。」
海潮に聞かれて青年が答える。
「世界が大変なことになっているのに、私、何もできなくて・・・」
「世界中で起こっていることの中じゃ、1人の力でできることは限られるよ・・僕も、何もできなかった・・・」
自分の無力さを痛感する海潮と青年。シンは2人の言葉に納得できず、怒りを押し殺していた。
「花にも、水がかかってしまったみたいだね・・・」
青年は周りにも目を向けて、悲しい顔を浮かべる。ユニウスセブンの破片の落下による荒波で、慰霊碑だけでなく、その周りの草花にも海水がかかって枯れようとしていた。
「海の水で花が枯れる・・戦争で花も焼かれる・・・!」
戦争への怒りで体を震わせるシンに、青年が戸惑いを浮かべる。
「いくら綺麗に花が咲いても、人はまた吹き飛ばす・・今度も・・・」
「君は・・・!?」
シンが口にした言葉を聞いて、青年が心を揺さぶられる。シンの心境を察して、海潮も深刻な面持ちを浮かべていた。
「あ、すみません・・変なこと言って・・」
「う、ううん・・」
我に返って謝るシンに、青年が戸惑いを感じたまま答えた。
「オレ、そろそろ戻らないと・・それじゃ・・」
シンは青年に小さく頭を下げてから、慰霊碑を後にした。
「私も行きます・・また、会えるといいですね・・」
海潮も青年に一礼してから、シンを追いかけていった。
(もうこんな思いはたくさんだ・・オレは戦う・・戦えるだけの力を、オレは手に入れたんだ・・・!)
もう自分は無力ではない。戦いを終わらせるために敵と戦うことができる。シンは自分に言い聞かせていた。
(連邦もオーブも、オレは許さない・・あの機体、フリーダムも・・・!)
シンの脳裏に、連合のモビルスーツと戦う翼のある機体の機影がよぎる。
「フリーダム」。ザフトが開発した最新鋭のモビルスーツだったが強奪され、同時期に開発された「ジャスティス」とともに戦争終結に貢献されることになった。
しかしシンにとって、家族を死なせた戦火を拡大させた悪魔でしかなかった。
(アイツも出てきたら、オレが必ず倒してみせる・・・!)
フリーダムへの怒りもたぎらせて、シンはミネルバに戻っていった。
しかしシンも海潮も知らなかった。今出会った青年が、そのフリーダムのパイロット、キラ・ヤマトだったことを。
タリアたちがオーブに滞在している間、オーブ代表、カガリ・ユラ・アスハはユウナ・ロマ・セイランたち首脳陣との会議が行われていた。
ユニウスセブン落下やザフトのモビルスーツの強奪だけでなく、世界の融合についてもカガリたちは把握していた。
プラントやザフトとの交流を重んじて、コーディネイターとの協力も考慮していたカガリ。しかしユウナたちの考えは違っていた。
「大西洋連邦との同盟だと!?」
ユウナたちの決断に、カガリが声を荒げる。
「これが何を意味するのか分かっているのか!?大西洋連邦は、ブルーコスモスと大きく関わりがあるのだぞ!」
カガリが感情をあらわにして、ユウナたちに問い詰める。
「ブルーコスモス」。反コーディネイターを理念とした集団で、その構成員は出身、種族問わず様々である。
「我々はプラントと友好な関係にある!オーブに移住してきたコーディネイターも少なくなく、数々の援助もある!ザフトは先日のユニウスセブン落下の際は、地球防衛のために尽力してくれた!それなのにその恩を仇で返すマネをしようというのか、お前たちは!?」
「そのユニウスセブンの件、犯人もコーディネイターだったと聞いている。」
必死に語りかけるカガリに、ユウナの父でセイラン家の当主であるウナト・エマ・セイランが言葉を返す。
「世界は今、混迷の一途を辿っている。それも前代未聞の状態に、世界は陥っている。」
ユウナから世界の融合について言われて、カガリが困惑していく。
「先日のユニウスセブンの件を含めた近日の争い。その根源がコーディネイターであると、我々は判断した。」
「コーディネイター全員が地球に被害をもたらそうと企む者というわけではない!現在、ギルバート・デュランダル議長の下、プラントも平和に向けて変わりつつあるのだ!」
「デュランダル議長や他のコーディネイターが、我々に牙を向けんとも限らないのだぞ。」
「何をバカなことを!?・・そうやって軽々しく疑心暗鬼を向けるのは愚かなことだ!」
ウナトの投げかける言葉に、カガリが反発する。
「これは父上や僕の個人的な意見ではないのだよ、カガリ。君以外の首脳陣は、みな同じ考えだ。」
ユウナもカガリに向けて、真剣な顔で言いかける。
「コーディネイターは調整によってナチュラルよりも身体能力が高い。その力を誇示するために、強硬策に打って出ないと、一体誰が言い切れるのかな?」
「ブルーコスモスと地球連合のために、オーブは壊滅的な打撃を受けた!その連合を手を組むなど、正気の沙汰ではない!」
「プラントと協力関係にあるほうがどうかしている。それは我ら全員が同じ意見であり、世界の混乱の鎮静化にもつながる。」
「バカな!私のお父様、ウズミを侮辱するつもりか!?」
ユウナの言葉にカガリが怒鳴りかかる。
カガリの父であり、オーブの前代表だったウズミ・ラナ・アスハ。オーブの理念を貫き通し、彼は連合の要求を拒み、戦火の中で散華した。カガリや未来を生きる者たちに、自分の思いを託して。
「いい加減に個人的な考え方をするのはやめてもらえないか?」
ユウナがため息まじりに言って、カガリが言葉を詰まらせる。
「ウズミ様のことはお気の毒ではある。しかし感情任せの判断や決断は、あのときの二の舞を演じることになるのですよ。」
「それは・・・!」
「オーブのために、オーブの理念のためにどのような選択を取るべきか、冷静に考えるのです、アスハ代表殿。」
口ごもるカガリにユウナが問い詰める。ウナトたち他の議員たちも彼に賛同していた。
ユウナたちに言い寄られて、カガリは自分とウズミの意志を貫くことができず、反論できなくなった。
大西洋連邦とオーブの同盟締結。その同盟は世界の違いを超えて、さらなるつながりをもたらした。
その同盟はこの両者の他に、ミスルギ皇国を含む「始祖皇国連合」。裏に潜む組織も同盟を結んだが、それは公にはされていない。
この同盟が、平和の安定どころかさらなる混迷をもたらすことになる。同盟の情報を知ったサリアたちは、ミネルバの危機を予感していた。
オーブでの張り詰めた空気を感じながらも、タリアはまだオーブの同盟の締結については聞いていなかった。そのミネルバに向けて通信が入った。
“ミネルバ、応答して!ミネルバ!”
「その声・・あなたは、サリアさんね・・!」
通信を送ってきた相手、サリアにタリアが答える。
“ミネルバ、またそのオーブというところにいるのね!?なら早く離れたほうがいいわ!”
「どういうこと・・!?」
“オーブは新しい同盟を結んだわ・・プラントに反感を持っている大西洋連邦とね・・・!”
サリアが告げた言葉に、タリアは驚愕する。オーブがプラントの敵に回ろうとしていることに、彼女は耳を疑った。
“仲間たちと合流する中で入手した情報よ・・早く出ないと包囲されることになる・・!”
「分かったわ。ありがとう、サリアさん。」
サリアに感謝して、タリアは通信を終えた。
「シンと海潮さんを呼び戻して、すぐに発進するわ!」
「はい!」
タリアが指示して、メイリンが答えてシンとレイたちに呼びかけた。
(この混乱に乗じて、世界が大きく動き出している・・私たちやプラントを追い込むための企みも・・)
今の情勢を考えて、タリアが一抹の不安を覚える。彼女たちも新たな戦いに身を投じようとしていた。