スーパーロボット大戦CROSS
第4話「神が棲む楽園」
日本、天王州。平穏だったこの場所が、突如騒然となった。
東京湾から1体の巨人が現れた。
巨人は海から陸へ進行していた。上陸を阻止するため、自衛隊が出動した。
進行を止めない巨人に対し、自衛隊が砲撃を開始する。しかし巨人は砲撃を受けてもものともせず、進行を続ける。
ついに上陸した巨人は首都高に足を踏み入れ、さらに進んでいく。
ただひたすら前進を続ける巨人に対し、自衛隊は新型兵器「ASE」の導入を決断した。
2人のパイロット、鉄隼人と天城エリナが乗り込んだエースが、巨人の対処に向かう。
“連絡通路を落として、怪物を止める壁とする!”
隼人たちの隊長、竹末芳幸が通信で指示を出す。
「竹末さん、そんなことをして、修理費を請求されたりしないですよね・・?」
エリナが苦言を呈するが、芳幸は答えない。
「オレたちの給料から差っ引くのは勘弁ですよ、隊長さん!」
隼人が皮肉を言い放つと、エリナが動かすエースが移動する。隼人の手によってエースが機関砲を連射して、首都高の上をつなげている通路が撃たれて落下して、道路を封鎖した。
「これでアイツはこっから先へは進めない・・!」
「アイツの後ろに別働隊が付けていて、挟み撃ちにする・・!」
隼人とエリナが勝利を見据えて笑みを浮かべた。進んできた巨人が通路の壁の前で足を止めた。
「よし、今だ!」
隼人が思い立ち、エースが対戦車誘導弾を発射した。砲弾が巨人に命中して、爆発、炎上が起こった。
「何者かは分かんなかったが、これで木っ端微塵だ。後はあの炎を消火して・・」
隼人が勝ち誇ると、眼前で上がっている炎を消そうとした。
そのとき、炎の中から巨大な影が現れた。それを目の当たりにした隼人とエリナが、緊迫を募らせる。
「おい・・マジかよ・・!?」
声を振り絞る隼人。炎から出てきた巨人は、砲撃を受けたにもかかわらず、体に傷1つ付いていなかった。
「そんな!?・・ダメージがないっていうの・・!?」
エリナも巨人に対して、驚愕を隠せなくなる。
「ちくしょう!これでもくらえ!」
隼人がいきり立ち、エースが機関砲を連射する。しかし巨人は連射を受けても歩みを止めない。
“下がれ、エース!衝突するぞ!”
芳幸が撤退を指示するが、エースが巨人の進行によって突き飛ばされた。
「うわあっ!」
エースが倒れて、隼人とエリナが絶叫を上げた。
“おい、鉄、天城!どうした!?応答しろ!”
芳幸が呼びかけて、隼人が失いかけていた意識をハッキリとさせる。
「隊長、オレたちは大丈夫です・・だけど、エースが・・・!」
隼人が応答するが、エースは起き上がれなくなっていた。
“すぐにヘリを向かわせる!追跡するのだ!”
「り、了解!」
芳幸からの指示にエリナが答える。巨人はさらに前進して、渋谷方面へ向かっていた。
東京に現れた巨人の姿が、シクザルドームの研究室のモニターにも映し出された。
「何だ、あのでっかいのは・・!?」
「おー♪おもしろ人形みたーい♪」
巨人を見てヒルダが声を上げて、ヴィヴィアンが笑みを浮かべる。
「あの怪物は東京湾から上陸して、天王州から渋谷方面に向かっているな・・」
ゼロスがレーダーを見て、巨人の動きを把握する。
「進行方向にある車や戦車を壊しているが、建物や人を意図して襲ってはいない・・もしかして、どこかを目指しているのではないか・・?」
「えっ・・?」
ゼロスの推測を聞いて、ラブが戸惑いを覚える。
「博士、あれにカンナが関わっている可能性はないでしょうか・・?」
「可能性はゼロではないが・・あれが何者なのか、情報は何も得ていない・・・」
カナタが問いかけて、ゼロスが深刻さを浮かべて答える。
「オレ、イザナギで出ます・・あの怪物の正体を確かめてきます・・!」
「待つんだ、カナタくん!迂闊に介入して、君に何かあったらどうするつもりだ!?」
出動しようとしたカナタを、ゼロスが呼び止める。
「しかし、あそこにカンナがいたなら、連れ戻すチャンスを逃すことに・・!」
「カンナくんのためにも、彼女がそこにいるという明確な情報をつかむ必要があるのだ・・!」
焦りを膨らませるカナタを、ゼロスがなだめる。
「艦長、我々はこのまま待機ですか?」
「えぇ。ここは私たちの世界ではなく、あの巨大生物も私たちの知らない存在。現状での破壊行為では、私たちが深入りすることではないわ・・」
レイが冷静に問いかけて、タリアが判断を告げる。彼女はミネルバで出撃することはないと考えていた。
カナタたちが戦況を見守る中、巨人は渋谷を通過して代々木公園に足を踏み入れた。そこでは自衛隊の別動隊が包囲網を敷いていた。
自衛隊による一斉射撃が始まった。巨人が射撃を受けて爆発に襲われていく。
そのとき、1人の赤髪の少女が、戦火の飛ぶ公園に飛び出してきた。
「なっ!?」
目の当たりにしたカナタたちが驚きの声を上げた。
「いけない!あの子が危ない!」
カナタが出動しようと、イザナギのあるドックへ向かう。
「よせ、カナタくん!行くな!」
ゼロスが呼び止めるが、カナタは聞かずにイザナギに乗り込んで発進してしまった。
「今から行っても間に合うはずがないわ・・!」
「それでも放っておけないって性格ね・・」
カナタの行動に対し、サリアがため息まじりに言いかけて、エルシャが微笑みかける。
「どうすんの、隊長さん?この世界はあたしらの世界じゃないし、アイツはドラゴンじゃない。あたしらだって首を突っ込む必要はないってことだよね。」
ヒルダがサリアに出撃について問いかける。サリアはヒルダが挑発してきていることに気付いていた。
「まどろっこしいわね・・みんながグズグズしてるなら、私が行って様子を見てくるわ・・」
アンジュがため息まじりに言ってから、ヴィルキスが置かれている広場に向かった。
「待ちなさい、アンジュ!ヴィルキスやパラメイルを動かせる燃料が少ないのよ!」
「いや、燃料は満タンまで入れてある。君たちの乗るパラメイルという機体の燃料が、こちらで手に入れられるもので助かった・・」
呼び止めるサリアに、ゼロスが助言した。
「何を余計なことをしているの!?アンジュが行ってしまうじゃない!」
サリアがゼロスに近づき問い詰める。
「これじゃ行くしかなくなっちゃったな、隊長さん。」
「仕方がない・・エルシャ、ついてきて!ヒルダ、ドラゴンが現れたときに、あなたが指揮を執るのよ。」
ヒルダに言われて、サリアが指示を出す。サリアとエルシャがアンジュを追ってアーキバス、ハウザーで発進した。
「艦長、よろしいのですか、彼らが出ていったのに・・・!」
「私たちは私たち。カナタくんやヒルダさんたちに命令する権限は、私たちにはないわ。」
アーサーが声を荒げるが、タリアは冷静に状況を見計らっていた。
巨人に向かって走り込んできた少女。自分を王だと認めてくれた巨人を受け入れた彼女は、巨人の手に乗った。
自衛隊は少女を危険にさらせず、攻撃を中断せざるを得なかった。
少女を乗せた巨人はそれから迎撃や妨害を受けることなく、進行を続けた。そして武蔵野に到着しようとしていた。
「止まれ!」
巨人の前に立ちふさがったのは、隼人とエリナの乗るエースだった。エースはヘリコプターで運ばれて、巨人が自衛隊に包囲されていた間に回り込んだのである。
「海潮ちゃん、すぐに降りるんだ!そいつはオレたちが倒す!」
隼人が巨人の上にいる赤髪の少女、島原海潮に呼びかける。
「違うよ!ランガは私たちに会いに来ただけだよ!みんなを困らせるつもりなんてないよ!」
海潮が巨人、ランガのことを伝えようと呼びかける。
「バカを言うな!そいつが歩いて進んだだけで、東京は大混乱だ!みんな迷惑してるんだよ!」
隼人が言ったこの言葉を聞いて、海潮が動揺を覚える。彼女は日本に上陸したランガの行動、そしてそれにより発生した被害を思い出していた。
たとえ自分やランガにそのつもりがなくても、巨体のランガが道を歩くだけで地面や建物が揺れ、車や信号が破壊される。それだけで迷惑になっていると思い、海潮は辛くなっていた。
それでも、自分たちを追い求めてやってきたランガを、海潮は見捨てることができなかった。
「ランガは悪くない・・ただ、私たちに会いに来ただけなんだから・・!」
「いい加減にしろ!そいつはいるだけで迷惑なんだよ!」
ランガを受け入れようと、認めようと考える海潮に、隼人が怒りを言い放つ。彼だけでなく、武蔵野の商店街の人々もランガに対して不安や恐怖を抱いていた。
(みんな、ランガのことを嫌ってる・・ホントに、いるだけで迷惑になってるの・・・!?)
海潮が人々を目の当たりにして、不安を感じていく。
誰もが平穏な日常が送れることを、心の奥で願っている。それが変わってしまうことも恐れている。海潮はそう思っていた。
その海潮の迷いに感応してか、ランガが突然脱力した。海潮も揺さぶられるが、ランガから落ちずに済んだ。
「何をやってるの、海潮!」
そこへ黒髪の少女が1人の少年とともに現れて、海潮に呼びかけてきた。
「ゆうぴー、ジョエル・・!」
海潮が少女、島原夕姫と少年、ジョエルを見て戸惑いを見せる。
「アンタはランガを認めて、家に連れていくって決めた・・でも周りの目を気にして、アンタは迷っている・・!」
「そんな!?私は迷ってなんて・・!」
夕姫に指摘されたことに、海潮が言い返そうとする。
「ランガ、王に従う。王が迷えば、ランガも迷う。」
ジョエルも深刻な面持ちで海潮に告げる。その言葉を聞いて、海潮が沈黙してしまったランガに目を向ける。
みんな大きく変わりたくない。今までのような日常が送れることが何よりも幸せなことだと、みんなも海潮自身も思っていた。
(みんな、この瞬間にも変わろうとしている。変わりたくないと思いながら・・・でも、1番変わってなかったのは、私なのかもしれない・・・)
自分の本当の気持ちに気付き始めた海潮。
海潮は誰にも迷惑を掛けたくない、掛けてはいけないと思っていた。しかし本当は、迷惑を掛ける自分がイヤだっただけではないのかと、彼女は思い知っていた。
「みんなに分かってもらうんだったら、私が変わんなくちゃ・・自分が変わらないで、みんなを変えることなんてできないよ、きっと・・・」
みんなに認めてもらうために大事なことを、海潮が自分に言い聞かせる。
「どう思われてるかなんて関係ない・・私は・・私は・・・ランガー!」
海潮が感情を込めてランガに向けて叫ぶ。そのとき、沈黙していたランガが再び動き出した。
さらにランガの体にある赤い紋様から光が発せられた。無機質な表情の顔も変化して、人間のような両目が現れた。
「ランガの姿が変わった・・!?」
「王の魂がランガの中に入った。ランガ、海潮さんとつながった。」
変化したランガを見て、夕姫が戸惑いを覚えて、ジョエルが語る。海潮の強い意思が、ランガと同調したのである。
「また前進するつもり!?」
「これ以上進ませるわけにいかない!」
エリナが声を荒げて、隼人が緊迫を募らせる。
「どくんだ、海潮ちゃん!オレたちがそいつを倒す!」
「その必要はないです!ランガは私たちのところに来ただけ!私たちはただ、ここにいたいだけなんですよー!」
注意する隼人に、海潮が自分の思いを言い放つ。
「だから、いるだけで迷惑なんだよ!」
隼人が感情をあらわにするあまり、エースの機関砲でランガの足元に威嚇射撃をした。ランガはものともせず、海潮は揺さぶられながらも落ちずに耐えた。
「おいおい!それはいくらなんでもやりすぎだろ!」
「海潮ちゃんが上にいるのに、そんな物騒なことをするなんて!」
商店街の人々がエースの威嚇射撃に反発してきた。
「ち、ちょっと!近づいたら危ないって!」
エースに迫る人々に、エリナが動揺を見せる。彼らが危険になるため、エリナはエースを動かせなくなる。
「みんな、私たちは大丈夫だよ!心配しないで!」
海潮が人々に向かって呼びかける。人々は戸惑いを感じながら、エースから離れていく。
「人に迷惑を掛けないで、お祭りはできないよ!でもやるからにはきっと楽しくしてみせる!それじゃいけないのー!?」
「毎日がお祭りじゃ、それは日常とは言えないだろうが!」
高らかに呼びかける海潮に、隼人が言い返す。エースがランガを狙って銃砲を構えた。
そのとき、ランガの胸の紋様から光があふれて、剣となってその右手に握られた。
「アイツ、体から武器を出しただと・・!?」
力を発揮したランガを、隼人が警戒する。エースが銃砲を構えて、ランガに向けて砲撃を放った。
ランガが剣を振り下ろして、エースの砲撃を切りつけた。眼前で怒った爆発の突風にあおられるも、ランガは踏みとどまり、海潮もランガの肩につかまって耐える。
「エースが、オレたちの力が、正義が・・・!」
ランガとの力の差を痛感して、隼人が焦りを感じていた。
カンナの手がかりを求めて、カナタはイザナギに乗って武蔵野まで来た。彼はエースと対峙しているランガを目撃した。
「あの怪物・・武器を持っていたのか・・・!?」
カナタが変化を遂げていたランガを見て、緊張を募らせる。
「イザナミの反応はない・・あの怪物は、カンナとは関係ないみたいだ・・・」
彼はカンナが近くにいないと判断して、肩を落とす。
「博士、すみません・・カンナもイザナミもいませんでした・・」
カナタがゼロスに向けて通信を送る。
“いや、もう気にしなくていい。アンジュくん、サリアくん、エルシャくんも武蔵野に向かった。可能な限り、あの巨人に関する情報を入手して、彼女たちと合流して引き上げてくるんだ。”
ゼロスが答えて、カナタに指示を出す。カナタがランガを注視して、剣を持っているだけでなく、顔も変化していることに気付く。
「もしかしてアイツ、攻撃態勢に入っているんじゃ!?・・今まではそんなことがなくて・・・!」
“いや、今までの映像を見る限りでは、敵と認識して攻撃した様子は見られない。単純に目的地へ前進して、今は自分への攻撃を打ち砕いただけに過ぎない・・そう見えた・・”
「では、あの怪物は友好的な存在だというのですか・・?」
“それはまだ断定できない。もう少し情報を得る必要がある・・”
カナタの問いに答えて、ゼロスが推測する。カナタがランガの様子を見る中、彼の乗るイザナギにヴィルキス、アーキバス、ハウザーが追いついてきた。
「どういうこと?何がどうなってるのよ・・?」
アンジュがランガとエースの様子を見て、カナタに問いかける。
「分からない・・ただアイツは、自ら攻撃に打って出る様子を見せていないみたいなんだ・・・」
「確かに自分から攻撃をしていないわね・・この戦いだって、もう1機のロボットばかり攻撃を仕掛けてきて・・」
カナタが説明をして、エルシャが頷く。
「私たちの戦いには関係のない相手のようね・・アンジュ、戻るわよ。」
サリアがひと息ついてから、アンジュに呼びかけた。カナタもランガの様子見を中断して、引き上げようとした。
そのとき、2機の機体が上空から現れて、ランガたちのところへ向かってきた。
「何だ、あの機体は・・・?」
カナタがその機体に対して疑問を覚える。
「何なの、あのロボット・・?」
「また自衛隊の新型?あそこまで人型で、自力で空を飛べるようになっているなんて・・」
夕姫と彼女たちの姉、島原魅波が機体を見上げて疑問符を浮かべる。
「いくらなんでもおかしいわよ。そこまで軍隊の配備が発展してるわけないし・・」
そこへ1人の女性、大森茗がやってきて、両手の指で四角を描いて、機体をその中に囲った。
芸能プロダクションの社長に就いている魅波の旧友である茗は、TV局編成部のプロデューサーである。ランガの日本上陸のニュースを追っていた茗と局のスタッフだが、彼女は機体にも興味を抱いていた。
「あれって、私たちの味方・・・!?」
「あんな兵器があるなんて聞いてねぇぞ・・!」
エリナと隼人が機体を見て、困惑を覚える。2機の機体は銃を手にして、ランガとエースに銃口を向けてきた。
「まさか、私たちを攻撃するつもり・・!?」
「待って!みんなここにいるんだよー!」
魅波が緊迫を覚えて、海潮が機体、ウィンダムに向かって叫ぶ。しかしウィンダムの1機がランガに向かってビームライフルを発射した。
その瞬間、イザナギがビームライフルを持ってビームを放ち、ウィンダムのビームを打ち消した。
「やめろ!一般人までいるんだぞ!」
カナタがウィンダムに向けて呼びかける。するとウィンダム2機がイザナギにビームライフルを向けてきた。
「問答無用ってこと?ま、そのほうが私はやりやすいけどね・・」
アンジュがため息まじりに言うと、ヴィルキスをフライトモードからアサルトモードに変形させる。
「どこの誰だか知らないけど、こっちに撃ってくるなら容赦しないわよ・・・!」
アンジュが忠告をするが、ウィンダムは引き下がることなく射撃をしてきた。ヴィルキスが回避して、アサルトライフルを発射した。
ヴィルキスの射撃はビームライフルを持つウィンダムの腕に命中して破壊させた。
「ぐっ!あの機体・・!」
「どれも見たことはないが、高性能であることは共通している・・!」
ウィンダムのパイロットたちがイザナギとヴィルキスたちを警戒する。
「それに、あの奇妙なバケモノ・・何がどうなっているのだ・・!?」
パイロットたちがランガに視線を戻して声を荒げる。彼らは自分たちが置かれている状況が理解できず、混乱していた。
「いきなり出てきて勝手に攻撃してくるなんて、いい度胸してるじゃない・・!」
夕姫がウィンダムたちやイザナギたちに対して不満を抱く。
「大人って、みんな勝手なんだから!」
そのとき、ランガの顔にまた変化が起こった。ランガの目つきがわずかに変わった。
「ランガに、今度は夕姫が入った・・・」
ジョエルがランガを見て呟く。今度はランガの中に夕姫の意識が入った。
ランガが左手を変化して光を集めていく。その手からウィンダムたちに向かって光の球が放たれた。
ウィンダムの1体が光弾を直撃されて落下していった。
「あの怪物、遠距離攻撃もできるというの・・!?」
「本当に何者なのかしら・・・?」
サリアとエルシャがランガの能力について考える。
夕姫の意思を汲み取ったランガが、イザナギたちにも砲撃を仕掛ける。カナタたちが反応して、イザナギたちが回避する。
「攻撃してくるなら、アンタも容赦しないわよ・・!」
アンジュが憤りを覚えて、ヴィルキスがラツィーエルを手にして、ランガに向かって急降下する。砲撃を回避するヴィルキスが振り下ろしたラツィーエルを、ランガが左腕で受け止める。
「待って!あなたもゆうぴーも!」
海潮がランガとヴィルキスに近づいて、夕姫とアンジュを呼び止める。
「邪魔よ!私は、攻撃をしてきたコイツを・・!」
「やめなさいって!」
言い返すアンジュに向かって叫んで、海潮がランガに飛びついた。
「おい、こんな危険に飛び込むなんて・・・!」
カナタが緊迫を募らせて、イザナギも降下して、ランガとヴィルキスの間に割って入った。
「どっちも攻撃を止めて、話を聞くんだ!」
カナタが呼びかけて、イザナギが右手で持ったビームサーベルでラツィーエルを受け止め、左手でランガの右腕を押さえた。
「アンタ、この怪物の味方をするつもり!?」
「ただの怪物とは思えない・・ここの人たちの様子を見れば、何かあると思ってしまう・・・!」
怒鳴るアンジュにカナタが呼びかける。2人がランガと海潮たちを見渡していく。
ランガが海潮たちに従っていて、海潮たちだけでなく商店街の人々も彼女たちとランガを認めている。この場に新しい絆が芽生えていることに、カナタは気付いた。
「あなたたちは、いったい・・・!?」
戸惑いを浮かべる海潮に、カナタがイザナギのコックピットのハッチを開いて姿を見せた。
「オレは天命カナタ。これはイザナギ。ここにオレの捜している人の手がかりがあるんじゃないかって思ったんだけど・・」
カナタが海潮たちに自己紹介をする。
「私たちを狙った自衛隊の一員じゃないの?さっきのロボットはこっちに攻撃してきたし・・」
「オレは軍隊に属していないし、あのロボとも関わりがない・・」
夕姫が疑いの目を向けて、カナタが弁解する。
「確かにあのロボが撃ってきたのを、あなたは阻止しようとしたわね・・」
魅波がカナタの行動に納得する。
「ところで、この巨大なものは何なんですか・・・?」
「ランガはバロウの神。そして海潮さんたちに、ランガは従う。」
カナタの質問に、ジョエルがランガを見て答える。
「ランガ・・神・・あれが・・・!?」
「ということは、わざわざあなたたちのところに来るために、わざわざ海を渡ってここまで来たというの・・?」
カナタとサリアもランガを見て、複雑な気分を感じていた。
「海潮ちゃーん!」
そのとき、商店街の人々が海潮たちとランガに近づいてきた。
「よく言ってくれたよ、海潮ちゃん!」
「私は信じてたよ、海潮ちゃんのこと!」
人々が海潮に向かって信頼と声援を送っていた。
「みんな、勝手だよ・・・」
彼らの言葉と笑顔を受けて、海潮が感謝とともに皮肉も感じていた。
(王・・信頼する人たち・・・私とは、大違い・・・)
あたたかく迎えられている海潮を見て、アンジュは辛さを感じていた。
皇女だったのにノーマであることを理由に冷めた目を向けられた自分と、庶民から1国の王となり近所の人々からも受け入れられるようになった海潮。
両極端な境遇の海潮に対して、アンジュは不快感を抱いていた。
「アンジュ、戻るわよ。ここにはドラゴンも、私たちがアルゼナルに帰る手がかりもなかった・・」
サリアがアンジュに向けて呼びかけてきた。
「私たちは戻るけど、あなたはどうするの?」
「オレは少しここに残る。ここのことやここの人たちのことを聞いておきたいし・・」
サリアに聞かれて、カナタが自分の考えを告げる。
「私もここに残るわ。この世界にどういう人がいるか、直接確かめたくなったわ・・」
アンジュが言いかけて、ヴィルキスがフライトモードに戻って着陸した。
「アンジュ、アンタまた勝手な・・」
「オレが連れ帰ります。サリアさんとエルシャさんは先に帰って、博士に今回のことを伝えてください。」
気まずくなるサリアに、カナタが呼びかける。
「彼女にも他の人たちにも、下手な手出しはさせない・・ここの人たちとも分かり合えます・・」
「・・仕方がないわね・・エルシャ、私たちは戻るわよ・・」
カナタに言われて、サリアは肩を落としながらも聞き入れることにした。
「アンジュちゃん、戻ってくるって信じているからね。」
エルシャがアンジュに言ってから、サリアとともに武蔵野を後にした。
「あなたたち、どうしてあの巨大生物を信じるようになったの・・?」
アンジュが商店街の人たちに疑問を投げかける。
「海潮ちゃんが信じたからだよ。」
「海潮ちゃんが信じてほしいって、心から思ったからだよ。」
商店街の人々が自分たちの思いをアンジュに告げた。
「それは彼女が王様とか王女様とかだから?それとも大きな力を持ったから?」
「そんなんじゃないわい。海潮ちゃんが信じてくれって心の底から言ってきたから、信じたまでのことじゃ。」
不信を見せるアンジュに大工がぶっきらぼうな態度で答えた。
「まぁ、信じるか信じないかは、あくまで私やみんなの勝手なんだけどねぇ。」
茗がアンジュに近づいてきて、気さくに声をかけてきた。
「だったら、その人が悪いって思い込んだら、一方的に責めるだけじゃない・・・」
一方的にノーマという悪者として邪険にされたことを思い出して、アンジュが不快感を募らせる。
「何かわけありのようね。TV局の人間としては、話を聞きたいところだけどねぇ・・」
「・・・言っても信じられないことだし、私自身、いいとは思っていないから・・・」
興味を傾けてくる茗に対し、アンジュが表情を曇らせる。
「パラレルワールド、平行世界のことは知っていますか・・?」
カナタが茗たちのところに来て、話を切り出してきた。
「それって、空間を超えてたくさんの世界があるって話?」
魅波も来て、カナタの話に加わる。
「はい。このアンジュさんと、今引き上げていったサリアさんたちは、別の世界から来たんだ。」
「えっ・・!?」
カナタがアンジュたちのことを話して、魅波と茗が驚きを覚える。
「本当に信じられないことを言うのね・・嘘をつくならもっとマシなのをついたらどう?」
夕姫が呆れた態度を取って、カナタに言い返す。
「私も今でも信じ切れていないわ。でもここは私たちのいた世界とは確実に違うし、そう考えないと辻褄が合わない・・」
アンジュも不満げな態度を見せて答える。
「確かに、見たことのないメカね。あのエースってメカとも違う・・」
「エースにも驚かされたけど、そっちのメカのほうが高性能って感じがするわね・・」
魅波と茗がヴィルキスを見つめて頷いていく。
「もしかして、正義のロボットってヤツですか!?悪者をやっつけるために戦ってるんですかー!?」
海潮もアンジュたちのところへ来て、感動の眼差しを送ってきた。
「正義も悪もないわ・・敵を倒す。それだけが私たちの生きる理由よ・・」
アンジュがため息まじりに言って、海潮たちに背を向けた。
「詳しく、話を聞いてもいいですか・・・?」
海潮が真剣な面持ちで声を掛けた。カナタが頷いて、アンジュも背を向けたまま小さく頷いた。
「ち、ちくしょう・・このまま終わらねぇぞ・・・!」
エリナとともにエースから出てきた隼人。彼はランガに対する警戒心と正義を強めていた。