スーパーロボット大戦CROSS
第3話「堕とされた天使」
突如発生した次元の穴に吸い込まれたアンジュたち。その穴の先は、彼女たちにとって見知らぬ場所だった。
「ここはどこ?・・私たちの知らない場所みたいね・・・」
サリアが周囲を見回して、自分たちの居場所を確かめようとする。
「アルゼナル、応答せよ。アルゼナル・・!」
彼女が通信をするが、アルゼナル基地と連絡が取れない。
「他の部隊とも連絡が取れないわ・・」
「う〜・・頭がこんがらがっちゃうよ〜・・!」
エルシャも通信を試みて、ヴィヴィアンが頭を抱える。
「この付近にいる人に話を聞いてみるわ。エルシャは私とついてきて。他はこの下の広場で待機して。」
サリアがアンジュたちに指示を出して、エルシャが頷いた。
「そんなまどろっこしいことしなくても、話を聞くならみんなで聞きにいきゃいいじゃんか。」
「ここがどこか分からない状態で、大人数で押しかけるのは逆に私たちを追い込むことになりかねないわ。話を聞くなら少人数のほうがいい。」
文句を言うヒルダに、サリアが注意をする。
「そんなこと関係ないわ。ドラゴンを倒せるなら、敵を倒せるなら、ここがどこだって構わない・・」
アンジュもサリアの指示に従おうとせず、自分の意思を貫こうとする。
「アンジュ、あなたまで・・・!」
自分の指揮下にある隊員たちが勝手に振る舞うことに、サリアは不満を膨らませるばかりだった。
「お?おー♪サリアー、あっち見てー♪」
そのとき、ヴィヴィアンが指を刺して、サリアがその方向に目を向ける。その先の空で歪みが起こり、次元の穴が現れた。
「あれは、空にできた穴・・・」
「もしかして、あれでアルゼナルに帰れるんじゃないか!?」
クリスが穴を見て呟き、ロザリーが笑みをこぼす。
「いいや・・ドラゴンが出てくるぞ・・!」
ヒルダが目を凝らして、次元の穴から出てくるドラゴンを目撃する。
「ドラゴンも追っかけてきたのかな〜?」
「そんなことは関係ないね・・アイツらを仕留めて、懐をあったかくしてやるよ!」
ヴィヴィアンがドラゴンの群れを見つめて、ヒルダが躍起になる。
「ここでクイズでーす!」
「何だよ、こんなときに!?」
ヴィヴィアンが問題を出してきて、ロザリーが文句を言う。
「知らないところにいる私たちがドラゴンをやっつけて、誰がお金をだしてくれるでしょーか?」
「あっ・・・」
ヴィヴィアンが投げかけた問いを聞いて、ロザリーとヒルダが言葉を詰まらせた。
「何をグズグズしてるのよ!?私は行くわよ!」
アンジュが文句を言って、ヴィルキスがドラゴンの群れに向かっていく。
「待ちなさい、アンジュ!」
サリアが呼び止めるが、アンジュは止まらない。
「金が入らなくても、痛姫に手柄を取られるくらいなら・・!」
アンジュの手柄が増えるのが気に入らないヒルダは、ロザリーたちとともにドラゴンたちを討ちに向かった。
そのドラゴンの群れの討伐のときに、アンジュたちはカナタ、シンと出会ったのだった。
シクザルドームの広場に戻ったミネルバに、イザナギとインパルスがヴィルキス、アーキバス、グレイブ、レイザー、ハウザーを連れて戻ってきた。カナタ、シン、アンジュたちがそれぞれの機体から降りてきた。
「女・・全員、女性パイロットだったのか・・・」
カナタがアンジュたちを見て、当惑を覚える。
「私たちは特殊部隊、アルゼナル。私はここにいる中隊の隊長を務めているサリアよ。」
サリアがカナタとシンに自己紹介をする。
「アルゼナル?」
「アンタたち、何なんだ?今のバケモノたちのこと、知ってるのか?」
カナタが疑問符を浮かべて、シンがサリアに問いかける。
「えぇ。あのドラゴンたちは世界を侵略者。私たちはドラゴンを討伐するために行動しているのよ。」
「ドラゴン・・やっぱりあれもドラゴンっていうのか・・」
サリアの話を聞いて、カナタが頷く。
「そういうアンタたちは誰?ここはどこなの?何が何だかさっぱり分からないわ・・」
アンジュが不満げな態度で、カナタとシンに問いかけてくる。
「信じられない話だと思うが、この世界は君たちがいた世界とは違うんだ。次元の穴を通って、君たちは別の世界に来てしまったようなんだ・・」
「別の世界?」
カナタの話を聞いて、アンジュが眉をひそめる。
「平行世界、パラレルワールドのことは知っているか?」
「えぇ。ドラゴンたちは別の世界から空間を超えて出現しているから・・」
カナタが話を続けて、サリアが頷いていく。
「ということはあたしら、別の世界に来ちまったってことか!?」
「またおかしなことになった・・・」
驚きの声を上げるロザリーと、不安を口にするクリス。
「いいんじゃないの?あんなところにいるより、別の世界で自由に生きていくのも・・」
アンジュがため息まじりに言いかけて、周りを見回す。
「アンジュ、何を言いだすの!?私たちは早く基地に戻らなければならないのよ!パラメイルも、燃料も弾薬も少なくなっているし!」
サリアがアンジュに向けて注意をする。
「そもそも、私たちが囚人同然に言いなりにされて、ドラゴンたちと戦わされて・・そんなのにいつまでも付き合う必要なんてないんだから・・・!」
「そうはいかないわ。アルゼナルの一員としてドラゴンと戦い続ける。それが私たちの役目なのだから・・」
不満を口にするアンジュに、サリアが注意をする。
「まぁまぁ、サリアちゃんもアンジュちゃんも・・今はもっと詳しく話を聞いたほうがいいわ。私たちがアルゼナルに帰るためにもね・・」
エルシャがアンジュたちをなだめて、カナタに目を向ける。
「それじゃみんな、こっちに・・このシクザルドームに来てくれ。ゼロス博士のほうがこのことに詳しいから・・」
「博士・・ということは、ここは研究所か何か?」
カナタが案内をして、サリアが疑問を投げかける。
「ところで、アンタもそいつも・・・」
ヒルダがシンに目を向けて、目を細めて近づいてきた。
「な、何だ・・?」
睨んでくる彼女に、シンが眉をひそめる。
「なるほどねぇ・・・」
ヒルダが呟くと、シンの股間に向けて手を伸ばす。シンが気付いて、彼女の手をはたいて後ろに下がる。
「いきなり何をするんだ!?」
「何って・・女と男って、体の形が違うんだろ?どう違うのか確かめようとしただけなのに・・」
声を荒げるシンに、ヒルダが憮然とした態度で答える。
「何を考えてるんだ、アンタ!?そんなくだらないことで人の体に触るなんて!?」
シンが不満をあらわにして、怒鳴り声を上げる。
「ヒルダちゃん、いきなりそんなことするのは失礼よ。ヒルダちゃんだって、いきなり触られたらイヤになるでしょう?」
エルシャに注意されて、ヒルダがため息をついてから引き下がる。
「カナタさん!」
「シン!」
そこへラブとルナマリアが来て、カナタとシンが振り向いた。
「ラブ・・この人たちがオレたちを助けてくれたんだ。」
カナタがラブにアンジュたちを紹介する。
「ありがとうございます。あの怪物たち、数が多くて、カナタさんたちが不利だったから・・」
ラブが微笑んで、アンジュたちにお礼を言う。
「別に助けたわけじゃないわ。ドラゴンが出てきて、そいつらを狩っただけ。」
「そのおかげでカナタさんたちが助かったんです。」
ため息まじりに言うアンジュに、ラブが改めて感謝をした。
「思い込みが激しそうね。私の知り合いによく似てるわ。」
アンジュが記憶を呼び起こして、ラブに呆れる。
「シン、艦長が呼んでるわ。ゼロス博士からまた話を聞くって・・」
「分かった。インパルスとともにミネルバに戻る。」
ルナマリアが呼びかけて、シンがインパルスに乗ってミネルバに向かう。
「みなさんもどうぞ。広場を使ってください。」
「それではお言葉に甘えさせてもらうわ。ありがとう。」
案内するラブに、サリアがお礼を言う。彼女たちはパラメイルを広場に移動させて、シクザルドームに来た。
「おー♪戦艦♪戦艦があるよー♪」
ヴィヴィアンがミネルバを指さして、目を輝かせる。
「あれは私たちが乗っている艦、ミネルバよ。私たちもあなたたちのように、空間を超えてこの世界に来てしまったらしいの・・」
「アンタらも?みんなそろって災難なことで・・」
ルナマリアが自分たちのことを話して、ヒルダがため息まじりに答える。
「おっ♪かわいい人がいっぱい来てるじゃん♪」
ヴィーノがアンジュたちを見て喜ぶ。
「しかし、あの怪物たちを撃退するとは、すごいな・・」
ヨウランは実力の面でアンジュたちを称賛していた。
アンジュたちはカナタ、ラブ、シン、ルナマリアとともにシクザルドームの中に入った。その研究室には先にタリアとレイが来ていた。
「あなたたちがあの怪物たちを退けてくれたのですね。感謝します。」
「いえ。私たちは私たちの戦いをしただけ。それにあの2人が関わってきただけです。」
礼を言うタリアに、サリアが冷静に答える。
「どちらも別の世界から来たということで、間違いないかな。」
ゼロスがタリアとサリアに歩み寄って声をかけてきた。
「あなたたちにも名乗っておこう。私はゼロス・シクザル。このシクザルドームの責任者で、次元エネルギーの研究をしている。」
ゼロスがアンジュたちに自己紹介をする。
「次元エネルギー・・まさかあなたたちが私たちを・・!?」
「本意ではないが、空間を歪めてあなたたちをこちらに引きずり込んでしまったのは間違いない。すまなかった・・」
問い詰めてくるアンジュに、ゼロスが頭を下げる。
「まだ次元の穴を自由に開閉することはできないが、必ず成功させてみせる。」
「別に急ぐ必要はないわ。私はこの世界で暮らしていくのも悪くないと思ってるから。」
決意を告げるゼロスに、アンジュが悪態をつく。
「アンジュ、そんなことが許されると思っているの!?私たちの戻る場所は、アルゼナルしかないのよ!」
「私の生き方を勝手に決めないで・・私は私のやりたいようになるのよ・・!」
サリアが注意するが、アンジュは態度を改めない。
「あたしらや他のヤツを寄せ付けないような態度を取ってるけど、結局は痛姫だってことに変わりはねぇってことだな。勝手なことをぬかしてんのはどっちなんだか・・」
ヒルダがアンジュに向かってからかうが、アンジュは気に留めない。
「よければあなたたちのことも聞かせてもらえないだろうか。今、あなたたちが撃退した生物についても・・」
ゼロスが改めてサリアたちに話を聞く。
「私たちはアルゼナル。ドラゴン討伐を目的とする組織です。」
サリアがゼロスとタリアに自己紹介をする。
「ドラゴン・・あの空想の生き物のこと?」
「姿かたちがそっくりということでそう呼称するようになったと聞いています。空間を超えて進撃するドラゴンたちを討つのが、私たちの使命です。」
タリアが疑問を投げかけて、サリアが答える。
「あたしたちはドラゴンを倒して、その獲物の数と大きさで稼いでるんだよ。」
「しかしドラゴンの群れを倒した後に、空に空いた穴に吸い込まれて、この近くに来てしまったみたいです・・」
ヒルダとエルシャもタリアに向けて話を続ける。
「ということは、あなたたちも次元のトンネルを通って、この世界に来てしまったということですね。」
「あなたたちも、別の世界から来てしまったと・・」
納得するタリアに、サリアが戸惑いを覚える。彼女たちは互いが別の世界の住人であることを理解した。
「ここでクイズでーす♪あたしたち、どうやって基地に戻ればいいのでしょーか?」
ヴィヴィアンがクイズと称して疑問を投げかけてきた。
「今はまだ確実ではないが、必ず次元エネルギーの制御を成功させる。そして世界を特定して、あなたたちを元の世界に戻してみせる。」
ゼロスが真剣な面持ちのまま、自分たちの決心を告げた。
「アンタたちのせいでこんなことになったのに、そんな綺麗事を・・」
するとシンがゼロスに対して不満を見せてきた。
「失態は信用に関わり、責められるのはもっともだ。しかしやらなければならない。君たちが無事に帰るためにも・・」
ゼロスは責任を感じながら、次元エネルギーの制御の成功への意思を強める。それでもシンは納得がいかず、彼を睨むばかりだった。
そのとき、シクザルドームに警報が鳴り響いて、カナタたちが緊張を覚える。
「どうした!?」
「敷地内のセンサーが反応しました!何者かが入ってきたようです!」
ゼロスが声をかけて、マサオがレーダーを見ながら報告する。
「もしかして、お姉ちゃんが!?」
「そう思いたいけど、カンナもここで暮らしてたんだ・・ここの警備システムを知ってるはずだ・・!」
ラブがカンナのことを思うが、カナタは楽観視しない。
「該当エリアのカメラに、人が映りました!」
リョータがモニターに監視カメラの映像を映した。その映像には、メイド服の少女が倒れている姿があった。
(あれは、まさか・・!?)
「そこはどこ!?早く教えて!」
目を見開いたアンジュが、リョータたちに詰め寄る。
「ここから北東にある森林エリアだよ・・あなたたちの機体が置いてある広場が西側だから・・!」
リョータが答えて、シクザルドームの敷地の全体図を表示した。アンジュは地図を確かめてから、研究室を飛び出した。
「待つんだ!オレも行く!」
「あたしも!」
カナタとラブもアンジュに続いて外へ出た。
「どうしたってんだ、アイツ?あんなに慌てちまって・・」
「今映っていたの、アンジュちゃんの侍女のあの子にそっくりだったわ。」
ヒルダが首をかしげて、エルシャが少女について呟いた。
外へ飛び出したアンジュに、カナタとラブが追いついた。2人は彼女を案内して、少女のいる場所に辿りついた。
「モモカ・・モモカなのね!?」
アンジュがうつ伏せに倒れていた少女を仰向けにして支える。
「しっかりしなさい、モモカ!目を覚まして!」
「んん・・・そ、その声・・アンジュリーゼ様!?」
アンジュの呼び声で少女、モモカ・荻野目が目を覚まして、彼女を目にして驚く。
「えっと、アンジュちゃんの知り合い?」
ラブがアンジュに問いかけると、モモカが起き上がって服をはたいて土を落とした。
「失礼ですよ、あなた!この方は“神聖ミスルギ皇国”の第一皇女、アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ様でございますよ!」
モモカがラブたちにアンジュのことを紹介する。
「アンジュリーゼ?あなた、アンジュじゃないのか・・?」
カナタがアンジュに向けて疑問符を浮かべる。
「いいえ、アンジュリーゼ様に間違いありません!」
モモカが再び高らかに言い放ち、カナタとラブがあ然となる。
「モモカ、今の私はアンジュ。それ以外の何者でもないわ・・」
「いいえ!アンジュリーゼ様はアンジュリーゼ様です!それこそ、それ以外の何者でもございません!」
アンジュが呆れながら言うが、モモカは彼女に対しても自分の考えを貫いていた。
「それで、あなたはどう呼んだらいいの・・?」
ラブが苦笑いを見せて、アンジュに問いかける。
「“アンジュ”って呼んで。私たちの中で“アンジュリーゼ”って呼んでるのは、モモカだけだから・・」
アンジュがため息まじりに、カナタたちに答える。
「それでモモカ、どうしてあなたがここに?・・私も信じられないけど、ここは私たちがいたのとは別の世界らしいのよ。」
アンジュが状況を話して、カナタとラブが頷いた。しかし話が分からず、モモカが疑問符を浮かべていく。
「ア、アンジュリーゼ様・・何をおっしゃってるのか、分かりかねます・・・!」
モモカが目を回しながら、アンジュに言い返していく。
「詳しい話はあそこで。みんなそこにいるから。」
カナタがモモカに言って、シクザルドームのほうに目を向けた。
「おー♪やっぱりメイドさんだー♪」
アンジュに連れられたモモカを見て、ヴィヴィアンが喜びを見せてきた。
「皆様もこちらに・・本当に何があったのですか・・・?」
モモカがサリアたちを見て戸惑いを覚える。
「あなたも次元の穴に引きずり込まれてしまったのだろう。アンジュさんたちとは別の形で・・」
ゼロスがモモカに起こったことを推測する。
「モモカ、何があったの?なぜあなたまで・・?」
アンジュが改めて、モモカに話を聞く。
「あの出撃の際、アンジュリーゼ様のことが気がかりで、基地の外に出ていたのです。そのときに、何か強い力に引っ張られて・・気が付いたら見知らぬ場所にいて、さまよっていて・・今、アンジュリーゼ様との再会を果たしたのです・・」
モモカが自分に起こったことを説明する。彼女も発生した次元の穴に吸い込まれて、カナタたちのいる世界に来ていたのである。
「そうだったのね・・無事で何よりだわ、モモカ・・」
アンジュがモモカに向けて安心の笑みをこぼす。
「アンジュリーゼ様、ここに来てからマナが使えなくなってしまったのです・・」
「えっ・・!?」
モモカが口にした言葉に、アンジュが驚きを覚える。
「マナの光よ・・!」
モモカがそばのテーブルに置かれているペンに向かって、左手をかざした。しかし何も起こらない。
「マナの光が出ない!?・・モモカはマナを使えるはずなのに・・・!?」
「アンジュリーゼ様・・まさか、私もノーマになってしまったのでしょうか・・!?」
アンジュが驚きを覚えて、モモカが動揺して周りを見回す。
「マナ?ノーマ?」
「それは、あなたたちの世界の言葉?」
ラブとカナタが彼女たちの言葉に疑問符を浮かべる。
「私たちの世界では、マナと呼ばれる魔法のある世界なの。物を動かしたり結界を張ったりできる。でもマナの力を持たない人もいる。それがノーマと呼ばれ、世界から迫害されているのよ・・」
「アルゼナルは、主にノーマで構成されている組織よ。ノーマは、ドラゴンと戦うためだけの存在とされているから・・」
サリアとエルシャがマナとノーマについて説明する。
「そんなムチャクチャな・・・!」
「信じられない・・そんな人種差別がされて平気な世界だなんて・・・!」
彼女たちの話に、カナタとラブが驚愕する。
「そのノーマほどではないが、オレたちの世界でも人種差別があり、それが引き金となって戦争が起こっている。」
レイが自分たちの世界のことを打ち明けてきた。
「オレたちのように遺伝子操作が施されて生まれたコーディネイターと、そうでないナチュラル。存在を認めない差別がぶつかり合い、戦争にまで発展した・・」
「1度は戦争が終結して、双方が歩み寄りを見せたけど・・また、争いが起こってしまった・・・」
レイに続いてタリアも話をしていく。カナタとラブが困惑する中、アンジュがため息をついてきた。
「人間なんてそんなものよ。自分の気に入らないもの、認めたくないものは徹底的に非難し、排除しようとする。たとえそれが正しくても間違っていてもね・・」
「それで納得できるわけがないだろ。戦争で大切な人を失った人は特に・・」
アンジュが口にした言葉に言い返してきたのは、シンだった。
「そんな人の気持ちなんて、差別と偏見を抱いている人間の前では、簡単に吹いて飛ぶのよ・・この私のようにね・・」
シンの反論を嘲笑するアンジュ。彼女はこの言葉に、ノーマとしての自分への皮肉を込めていた。
「アンジュリーゼ様は悪くありません!・・アンジュリーゼ様はミスルギ皇国の第一皇女・・たとえノーマであろうと、皇女としての栄光も優しさも、けがされることはありません・・!」
モモカが必死にアンジュを励まそうとする。
「皇女って、お姫様か王女様ってことだろ?偉そうに綺麗事を並べ立てて、国や国民のことなんてちゃんと考えてないんだよ・・!」
「無礼ですよ、あなた!アンジュリーゼ様がどのような思いで皇女の務めを果たされてきたか、どれほど辛い思いをしてきたか、何も分かっていないのに・・!」
文句を言うシンに怒りを覚えて、モモカが叱責する。
「分かってないのはアンタたちのほうだろうが!自分たちの勝手な考えで、どれだけの人が悲しむことになるか、ちゃんと本気で考えたのかよ!?」
「分かっていないのは、他の皆様です!今までアンジュリーゼ様と仲良くなり、尊敬や称賛を送っていたのに・・ノーマであることが分かった途端に、軽蔑や失望を抱くなんて・・・!」
怒号を放つシンと、怒りと悲しみを募らせていくモモカ。2人が感情をあらわにして、互いを睨みつけていた。
「やめなさい、シン。私たちに言い争いをしている余裕はないのよ。」
タリアが注意をしてシンを制止する。シンは不満を抱えたまま、アンジュたちの前から去っていく。
「シン、待ちなさいよ!」
ルナマリアが怒って、シンを追いかけていく。
「申し訳ありません。シンが失礼な態度をとって。」
レイがアンジュたちに向かって謝罪をする。
「別に気にしていないわ。アイツの言っていたことも、全部違っているわけじゃないから・・」
アンジュがため息をついてから言葉を返す。
「シンは戦争で家族を失ったんです。今まで過ごしてきた国が、政府の判断で危険にさらされて、彼はその国にも怒りを向けているのです。」
「あの人に、そのようなことが・・・!」
レイがシンのことを話して、モモカが当惑を覚える。
「アイツに比べたら、私なんて・・・両親を亡くしたばかりか、お兄様に裏切られて・・・」
アンジュが物悲しい笑みを浮かべて、自分の悲しみを口にする。
共に争いと悲劇によって大切な人も居場所も失ったシンとアンジュ。しかしその怒りと不信感が強いあまり、2人は互いに反発することになった。
「み、みなさん、今夜はこのドームの寮で休んでください。あまり広くはないが、部屋の数はたくさんあるから・・」
ゼロスがタリアたちとアンジュたちに寝る場所を提供する。
「元々ここは学校があって、廃校になったところを買い取ったのだ。学校の寮もそのまま残っていて、部屋がたくさんあるというわけだ。」
「でもあそこは、毎日掃除や手入れをしているわけではないですよ。そこにお客様を泊まらせるなんて・・」
説明をするゼロスに、メイが苦言を呈する。
「分かりました!あたしがみんなの分の部屋の掃除を、今からしてきます!」
ラブがゼロスに声をかけて、意気込みを見せた。
「私を案内してください!お手伝いします!」
モモカがラブに協力することを進言した。
「でも、お客さんであるあなたたちに、私たちのことを手伝わせるわけには・・・!」
「いいんです。これからアンジュリーゼ様が就寝なさる場所のお手入れは、侍女である私の役目です。それに、お世話になるのは私たちのほうなので、このくらいのお役に立ちたいです。」
当惑するラブに、モモカが協力を進言する。
「分かりました。ラブちゃん、モモカさん、お掃除の範囲は広いですよ。」
メイが頷いて、ラブ、モモカとともに寮に向かった。
「彼女たちだけに任せて、私たちだけのんびり過ごすわけにはいかないわね。」
「おー♪みんなでお掃除ターイム♪」
エルシャもラブたちに続いていって、ヴィヴィアンも喜びを振りまきながら追いかけていった。サリアも寮に向かうが、アンジュたちは気にすることなくこの場に留まっていた。
かつての学校の寮に当たる建物に来たラブたち。前に掃除をしてからしばらく経っていたため、部屋も廊下も埃だらけになっていた。
「うわぁ・・まさかここまでとは想定外でした・・・」
寮の有様にモモカがあ然となる。
「こうなったら、徹底的にやっちゃいますよー!」
ラブが気を引き締めて、マスクをしてから廊下を進んで窓を開けていく。それからサーキュレーターを使って風を送り、埃を外へ追いやる。
「部屋の中は掃除機で丁寧にやっていきましょう。」
「分かりました!」
メイが掃除機を持って、モモカが笑顔で答える。2人は部屋の中を1室ずつ掃除機で掃除していく。
「私たちもやりましょう、サリアちゃん。」
「そうね。私たちがやらないとね。」
エルシャとサリアが声を掛け合い、ラブたちの掃除に続こうとした。
そのとき、警報が鳴り響き、サリアたちの耳に入ってきた。
「お二人は行ってください!戻ってきたときには綺麗になっています!」
「分かったわ!」
モモカが呼びかけて、サリアが答える。サリアとエルシャは寮を離れて、研究室に戻った。
シクザルドームのレーダーが巨大なエネルギーの反応を捉えた。
「何があったの?」
「すっごいエネルギーを持ったのが出たって♪」
サリアが問いかけると、ヴィヴィアンが無邪気に答える。
「高いエネルギーの持ち主であることは間違いない。だが先程現れたドラゴンとは違うようだ。」
ゼロスがレーダーの反応を確かめて言いかける。
「博士、場所は分かりますか?」
タリアが尋ねて、ゼロスが反応の詳細の位置を確かめる。
「この位置は・・天王州だ・・!」
「天王州・・・!」
ゼロスの告げた報告を聞いて、カナタが緊張を感じていた。