スーパーロボット大戦CROSS
第2話「怒りの衝動」
イザナギとイザナミのディメンションブレイカーの衝突で、世界と空間が震撼した。2機ともエネルギーの爆発と空間の歪みの衝撃で吹き飛ばされて、地面に倒れていた。
「イタタ・・・どうなったんだ、いったい・・・!?」
カナタが痛みを感じながら、周囲の状況を確認する。
「イザナミは・・カンナはどこだ・・!?」
彼はイザナミの行方を追うが、見つけることができない。
「博士!ゼロス博士、応答してください!」
「カナタ、無事だったか!?」
カナタが呼びかけて、ゼロスが応答した。
「はい!博士たちも無事ですか!?」
「あぁ。研究所が少し散らかってしまったが、私もラブくんたちも無事だ・・!」
カナタが喜び、ゼロスが状況を話す。ラブとメイたちが散らかった書類や小物を片付けていた。
「博士、カンナがどこにいるか分かりますか・・!?」
カナタがゼロスに問いかけて、リョータがレーダーとモニターに目を向ける。
「イザナギから北北西3キロ・・さっきの衝撃で離されたようです・・!」
「いけない・・すぐに追いかけないと・・・!」
リョータの報告を聞いて、カナタがカンナのところへ行こうとする。
「待つのだ、カナタくん!イザナギのボディの数ヵ所に負担がかかっている!カンナくんのところへ行っても、返り討ちにされる危険がある・・!」
「しかし・・・!」
ゼロスに呼び止められて、カナタが困惑する。
「カンナくんのためにも、君もイザナギも失うわけにはいかないのだ・・!」
「博士・・・分かりました・・・!」
ゼロスに説得されて、カナタは撤退を余儀なくされた。
イザナギがシクザルドームに帰還して、カナタがコックピットから出た。彼はラブたちのいるモニタールームに戻った。
「カナタ・・・あたし・・・あたし・・・!」
ラブが困惑しながら、カナタに寄り添ってきた。
「ラブ・・すまない・・カンナを連れ戻すことができなくて・・・」
「ううん・・カナタが悪いわけじゃない・・カナタだって、すごく辛いんだから・・・!」
謝るカナタにラブが顔を横に振る。
「イザナギとイザナミのディメンションブレイカーの衝突で、広範囲にわたって空間が不安定になっています・・別の空間との行き来が行われている可能性は十分にあります・・」
マサオが空に広がる空間の歪みについて調べて報告する。
「ということは、別の世界とここがつながって、向こうから誰かがやってくるかもしれないということですか・・!?」
「そうかもしれない・・我々に友好的ならばさほど問題は大きくならないが、危険人物や破壊兵器が流れてくれば、とんでもないことになるぞ・・・!」
カナタの疑問に答えて、ゼロスが不安を口にした。
「手を打とうとしても、何がいつどこから出てくるか分からないし・・」
メイも考えて、カナタとラブも悩む。
(カンナ・・・!)
カナタは現状だけでなく、カンナのことも気に掛けていた。
イザナミもディメンションブレイカーの衝突で押されて、遠くまで飛ばされていた。カナタを見失い、カンナは不満を感じていた。
「イザナギも性能が上がっていたようね。私が出ていったときよりも・・でもまだイザナミのほうが上よ・・」
イザナギの底力を実感して、カンナが毒づく。
“カンナ、そこら一帯の空間が不安定になっている。巻き込まれないうちに1度引き上げてこい。”
そこへ通信が入り、男の声が伝わってきた。
「イザナミにもダメージが出ているし、出直したほうが良さそうね、クリム。」
カンナが男、クリム・アマルフィーに答えて、イザナミが飛翔して引き上げていった。
上空の空間の歪みはまだ続いていた。空間をつなぐトンネルが現れて、双方の人物の行き来を誘発していた。
小さな穴が人1人を次元の狭間に引きずり込むこともあった。
「下手に外に飛び出せば、異空間に引きずり込まれる危険がある・・ある程度安定するまで、じっとするしかない・・・!」
ゼロスが現状を確認して、最善の手を模索する。
「カナタくん、カンナくんとはまた会うことになるだろう。彼女がイザナギを放っておくとは思えん・・」
ゼロスがカンナのことを考えて、カナタが思いつめる。
「また、お姉ちゃんと争うことになるなんて、あたしはイヤだよ・・・」
「オレもだ・・カンナは、無事にこっちに連れ戻してやる・・・!」
悲しみを膨らませるラブに、カナタが決意を口にする。2人ともカンナが戻ってくることを心から望んでいた。
「こちらに近づいてくる反応あり!」
リョータがレーダーの反応を確かめて、ゼロスたちに告げる。
「モニターに出せるか!?」
「いえ・・もう少しこちらに近づかないと・・!」
ゼロスの問いに、リョータはコンピューターを操作しながら答える。
「オレ、イザナギで待機しています!」
カナタがドックへ向かい、すぐに出られるように備える。
「映像、来ます!」
リョータが声を上げて、モニターに映像が映った。現れたのは1隻の戦艦だった。
「艦・・見たことがないタイプですね・・」
「もしかして、別の世界の艦ではないでしょうか・・?」
リョータとマサオが戦艦を見て言いかける。
「こちらに向かってきています!まさか、こちらに攻撃をしてくるのでは・・!?」
「ここがどのようなところか、さすがにすぐに理解できるとは思えん・・破壊者や殺戮集団でなければ、いきなり攻撃はしてこないだろう・・・!」
さらに報告するリョータに答えて、ゼロスが慎重の態度で臨む。やがて戦艦がシクザルドームのそばまで近づいてきた。
シクザルドームのあるほうへ進行してきた戦艦は、ミネルバだった。タリアたちはザフトの他の部隊との連絡を図るため、移動と捜索を決断した。
「まだ他の部隊との連絡が取れません・・」
メイリンが通信を試みるが、未だに連絡が付かない。
「それに、本艦に記録されている地球のデータと、私たちがいる位置の情報が一致しないのです・・」
「一致しない?どういうことなんだ・・!?」
彼女がさらに報告して、アーサーが疑問を覚える。
「いくらユニウスセブンの破片の落下で地球に影響が出ているといっても、全く一致しないというのはおかしいわ・・」
タリアも自分たちの確認している地球の地形について、疑問を感じていた。
「進行方向にドーム状の建物があります。そばに広場も。」
メイリンがシクザルドームを発見して、タリアたちもモニターを注視する。
「速度を抑えて向こうの出方をうかがいましょう。向こうからは本艦の姿が見えているはずだから。」
タリアがシクザルドームの様子を冷静に見ることにした。
「いきなり攻撃してこないでしょうか・・・?」
「そんな短絡的な相手なら、対処も難しくないのだけど・・・」
不安を口にするアーサーに答えて、タリアが慎重の姿勢を保った。
ミネルバが速度を落としたのを確認して、ゼロスは相手が慎重になっていることを悟った。
「こっちに気付いたけど、何もしてこないですね・・誰かが出てくるわけでもなく・・・」
「私たちも向こうも、相手が動くのを待っているってところね・・」
ラブとメイがミネルバの様子を見て、緊張を感じていく。
「私が話をしよう。みんな、くれぐれも慎重に。」
ゼロスが呼びかけて、ラブたちが頷いた。彼がマイクを持って、スピーカーで呼びかけた。
「こちらは空間研究所、シクザルドーム。私はその責任者のゼロス・シクザルだ。」
ゼロスが自己紹介をして、ミネルバの動きを見計らう。
「軍の戦艦であると思われるが、そちらのことを聞かせてもらいたい。」
彼がミネルバに向けて、話し合いを持ちかけた。
ゼロスからの声が伝わってきて、アーサーたちが戸惑いを覚える。
「艦長、あの施設から呼びかけが来ています・・!」
アーサーがタリアに振り向いて言いかける。
「メイリン、オープンチャンネルで回線を開いて。」
「はい。」
タリアが呼びかけて、メイリンが回線を開く。
「こちらはザフト所属艦、ミネルバ。私は艦長のタリア・グラディスです。我々は今、不可思議な現象に直面し、他の部隊との連絡と合流を試みています。」
タリアがマイクを持って、ゼロスに応答した。
“ザフト?初めて聞く名称だが・・もしや君たちは、次元を超えてこちらの世界に来てしまったということか・・”
「あの・・言っていることが分かりかねますが・・」
互いの言い分に疑問を覚えるゼロスとタリア。
“詳しく話をしたいので、下の広場に着陸していただけますでしょうか?私もすぐにそちらへ向かいます。”
「分かりました。本艦は指定の位置へ降下します。」
ゼロスが誘導して、タリアが答えた。
「直接会うのですか!?罠の可能性も・・!?」
「その可能性も考えられるから、警戒を怠らないで。」
声を荒げるアーサーをなだめて、タリアが注意を呼びかける。ミネルバがシクザルドームの前の広場に降りて、ゼロスが外に出てきた。
「私が話をするわ。レイ、一緒に来て。」
「了解です、艦長。」
タリアがミネルバから出て、レイが同行する。ゼロスがタリアたちが対面を果たす。
「詳しく話を聞かせていただけますか?」
「はい。今起こっている現象について説明するには、並行世界、パラレルワールドについても話さなければなりません。」
話をうかがうタリアに、ゼロスが語りかける。
「平行世界・・同じ世界、同じ人間が次元を隔てて多数存在するという理論ですね。」
レイが答えて、ゼロスが小さく頷いた。
「おそらく君たちのいた世界と、私たちのいるこの世界とは、次元を隔てた別の世界。君たちは開いてしまった次元の穴を通って、こちらに来てしまったのでしょう・・」
「ではまさか、ここは私たちが元いた地球ではないと・・・!?」
ゼロスの説明を聞いて、タリアが緊張を覚える。
「だから他の部隊やプラントへの連絡が取れなかったのですね・・おそらく、地球に降下したときに、この世界に紛れ込んでしまったのでしょう・・」
レイが推測を巡らせて、自分たちに起きたことを振り返る。
「こちらの世界で起こった次元エネルギーの衝突により、空間が不安定になってしまった・・多数の次元のトンネルが発生して、あなたたちを引きずり込んでしまった・・・」
「では、あなた方がこのような事態を・・・!?」
「不本意ではありましたが・・次元エネルギーを制御できていれば・・・」
「あの空間のトンネルは、コントロールができないのですか・・・!?」
謝罪するゼロスをタリアが問い詰める。
「すぐに研究を進めるつもりだ。空間を特定して制御できれば、あなたたちを元の世界へ戻すことも可能のはずだ。」
ゼロスが話を続けて、タリアたちを元の世界へ帰還させることを提案する。
「実験が成功次第、すぐに空間のトンネルを作り出して、あなたたちを送り出す。その間、あなたたちには私のできる限りの支援をしたいと思っている。」
「そんな・・そこまでお世話になりっぱなしになるわけには・・・」
大きく助力するゼロスに、タリアが戸惑いを見せる。
「いえ、我々の至らなさが招いた事態ですので・・」
「オレもあなたたちの力になりたいと思っています。」
ゼロスの話に、外に出てきたカナタも加わってきた。
「あなたは?」
「オレは天命カナタ。ゼロス博士にお世話になっています。」
タリアが問いかけて、カナタが自己紹介をする。
「この事態を引き起こした責任は、オレにもあります。博士の開発した機体の次元エネルギーを、オレがコントロールできていれば・・」
「カナタくんが気に病むことはない・・私がもっとしっかり、イザナギの完成度を上げていればよかったのだ・・」
カナタとゼロスが自分を責める。
「2人とも落ち着いてください・・あなたたちのお言葉に甘えさせていただきます。ここで本艦と搭載機体の整備をさせていただきます。」
タリアが2人をなだめて、提案を聞き入れることにした。
「ありがとうございます。何が要望がありましたら、遠慮なくどうぞ。」
ゼロスがタリアたちを歓迎して、カナタとともにシクザルドームに戻っていった。
「不審な動きをしてこないでしょうか?」
「そのときに行動を起こせばいいだけのことよ。それに、私たちはこの世界のことを把握できていない。情報源はあったほうがいいわ・・」
警戒を抱いたままのレイの疑問に、タリアが冷静に答える。
「マッドを呼んできて。ここにあるものの中で、必要な備品があるかをチェックしないと。」
「分かりました。」
タリアの指示にレイが答える。彼と入れ違いで、ミネルバのメカニックのリーダー、マッド・エイブスがタリアと合流した。
レイからゼロスの話を聞いて、シン、ルナマリア、メイリン、ヨウラン、ヴィーノが驚きを覚えた。
「パラレルワールド・・ここが、別の地球だなんて・・・!?」
「そんなおかしなこと、あるわけないだろ・・騙そうとしてるんじゃないか・・?」
声を荒げるルナマリアと、ゼロスたちへの不信感を見せるシン。
「この地球が我々の持つ地球のデータと一致しない点、未だにザフトやプラントと連絡が取れない状況。あの科学者の話が確実に間違っているとは、まだ言い切れない。」
レイが冷静に推測を巡らせていく。
「今のオレたちには、ここの人たちからの情報だけが頼りか・・」
「オレたちだけで調べ切れる状況じゃないみたいだし・・」
ヨウランとヴィーノも渋々ながらゼロスたちの協力を受けるしかないと考える。
「向こうが何か企んでいるならば、遅かれ早かれ尻尾を出す。艦長の判断されたように、そのときに動き出せばいい。」
「そうだね・・その間に、私たちのほうでも情報を集めて整理してみるよ。」
レイがゼロスたちの出方を待つことを提言して、メイリンが情報収集に尽力することを決める。
「私たちも、ここの博士たちから話を聞いてみましょう。そこから、私たちのできることが見つかるかもしれないわ。」
ルナマリアも言って、レイとメイリンが頷いた。
「シン、一緒に来て。」
「おい、何でオレが一緒に行かなくちゃならないんだよ?」
ルナマリアが呼びかけると、シンが不満をあらわにしてきた。
「今は1人でも人手がほしいときなのは、シンだって分かってるはずでしょ?さ、研究所の人たちに会いに行くわよ。」
ルナマリアがシンを手招きして、ミネルバを出てシクザルドームへ向かった。
「オレはやる気にはなってないからな・・・!」
シンは不満を浮かべたまま、ルナマリアに続いて出ていった。
ゼロスはタリアとマッドをシクザルドームに招き入れて、次元エネルギーについて詳しい話をしていた。
「空間を歪めてトンネルを作り、別の世界の移動を可能とする・・あまりにも突飛した話ですな・・」
マッドが話が信じられず、首をかしげる。
「そしてそのエネルギーを備えた機体、イザナギを開発したということですね。」
「あぁ。イザナギは次元エネルギーを生み出すエンジン、ハイブリッドディメンションを搭載している。空間を飛び越えるだけでなく、大きな回復力で半永久的な活動を可能としている。」
タリアがイザナギのことを聞いて、ゼロスが説明する。
「半永久的・・そのエンジン、もしかして核が使われているのですか?」
「いえ。この世界に核を使った原子力発電は存在していますが、ハイブリッドディメンションに核は組み込まれていません。」
「そうでしたか・・私たちの世界では、核を動力源とした機体が存在していたので・・」
「なるほど。」
タリアの話を聞いて、ゼロスが頷く。
モビルスーツの中には、核エンジン「ニュートロンジャマーキャンセラー」を搭載した機体が存在した。それも自力でのエネルギー回復を可能としている。
現在は「ユニウス条約」が締結されたことにより、ニュートロンジャマーキャンセラーは使えないことになっている。
「しかしハイブリッドディメンションを搭載した機体がもう1つある・・しかし、その機体は今日、我々に攻撃を仕掛けてきた・・」
ゼロスがイザナミとカンナのこともタリアたちに話した。
「イザナミとイザナギ、2つの次元エネルギーの衝突によって、大きな空間の歪みが起きてしまったのだ・・」
「それでオレたちは空間を超えて、ここに来ちまったって言うんですか・・!?」
深刻な面持ちを浮かべるゼロスに、マッドが声を荒げる。
「すぐに次元エネルギーの制御を成功させてみせる。それまであなたたちには迷惑をかけてしまうことになりますが・・」
「いえ。ここで補給や整備ができれば、この急場をしのぐには問題ありません。それと、情報を共有できれば・・」
謝意を見せるゼロスに、タリアが冷静に答える。
「分かりました。提供できるものがあればお話します。」
ゼロスが頷いて、タリアと握手を交わした。ゼロスたちとミネルバのクルーの協力関係が今、結ばれたのだった。
イザナギのシステムチェックを行うカナタ。カンナを連れ戻そうと考える彼は、気分が落ち着かなくなっていた。
「カナタさん、いったん休憩にしたほうが・・お姉ちゃんを助ける前に、カナタさんが疲れちゃうよ・・・!」
「だけど、この間にもカンナがどこへ行っちゃうか分かんないんだから・・ちょっとだけでも、イザナギを完成に近づけないと・・・!」
ラブが心配するが、カナタは作業をやめようとしない。
「あの、入ってもいいですか?」
そのとき、ルナマリアがシンとともにドックの前に来て、カナタたちに声をかけてきた。
「君たちは誰だ?もしかして、あの戦艦の乗組員か?」
「えぇ。私はルナマリア・ホーク。後ろにいるのがシン・アスカよ。」
カナタが問いかけて、ルナマリアが自己紹介をして、シンのことも紹介する。
「立派な機体ね。この世界にもモビルスーツとかは存在しているの?」
「モビルスーツ?何だ、それは?」
「そうか。こっちにはないのかな・・私たちの世界では、人型の機体をモビルスーツっていうの。丁度その機体と同じくらいの大きさで・・」
「えっ?イザナギと同じくらいの機体を・・」
ルナマリアの話を聞いて、カナタが戸惑いを見せる。
「もしかして、この世界でも戦争が行われているの・・?」
「いや。世界全体を巻き込んだ戦争があったのは、オレが生まれるよりもずっと前の話だ・・」
ルナマリアがさらに話を聞いて、カナタが学校で学んだことを思い出す。
「平和になってるのに、そんな武器を作って・・戦いを仕掛けるつもりなのかよ、アンタたちは・・!?」
シンがカナタに向かって不満を見せてきた。
「戦いを仕掛けるつもりはない。イザナギに搭載されている武装も、あくまで護身用だ。」
カナタが目つきを鋭くして、シンに言い返す。
「向こうの世界に何があるのか、どういう世界になっているのか。たとえ空間を超えることに成功しても、そこまでは詳しく調べてみないと分からないんだ・・迂闊に飛び込んで、一方的に攻撃されるようなことになったら・・・!」
「そんな夢みたいなことに本気になっても、しょうがないだろうが・・」
カナタが説明をするが、シンが不満の態度を消さない。
「これは博士の夢であり、オレたちの夢でもあるんだ・・勝手に悪く言うのは納得いかないな・・!」
「そんなことに巻き込まれて、オレたちはいい迷惑なんだよ!オレたちは、早く元の世界に戻らなくちゃいけないっていうのに!」
カナタも不満をあらわにして、シンと言い合いになる。
「もう、やめなさいって、シン・・!」
「カナタさん、落ち着いて・・!」
ルナマリアとラブがシンとカナタを止めに入る。シンとカナタが互いを睨みつけて、不満を膨らませていた。
そのとき、大きな揺れが起こって、シクザルドームを揺さぶった。
「な、何っ!?」
「ただの地震じゃない!・・もしかして、また次元の歪みが・・!?」
ルナマリアが声を荒げて、カナタが緊迫を覚えてイザナギに乗り込む。ラブがドックから外へ出て、空を見上げる。
「空間が歪んでる!?・・イザナギは動いてないし・・もしかして、イザナミ・・!?」
ラブがイザナミ、カンナのことを思い出して、周りを見回す。しかしイザナギの姿は周囲にはない。
空間の歪みがトンネルとなった。そこから出てきたのは、巨大な怪物の群れ。その姿は空想や神話に出てくる翼竜、ドラゴンだった。
「あれって、漫画とかゲームとかに出てくるドラゴンだよね・・・!?」
「まさか、ドラゴンが実在する世界から、ドラゴンが次元を通ってこっちに来たっていうのか・・!?」
ラブとカナタがドラゴンを見て驚く。
「博士、何者でしょうか、あのドラゴンは・・!?」
“別の次元に存在している生物としか分からん・・まだ様子を見るのだ。下手に刺激してはいけないぞ。”
カナタが言いかけて、ゼロスが指示を出す。
ドラゴンたちが周りを見回してから、今いる場所の地上に降下した。次の瞬間、そのうちの1体が男性を口にくわえて上昇した。
「なっ!?人が!?」
この瞬間にカナタが目を見開いた。ドラゴンがくわえた男性をそのまま噛み砕いた。
口から血をあふれさせているドラゴンに、カナタとシンが怒りを覚えた。
「博士、行かせてください!行かないとまた人が、あの怪物に襲われます!」
カナタが声を張り上げて、ゼロスに呼びかける。
「分かった!ただし次元エネルギーは多用するな!空間が不安定になっている今の状態で使えば、火に油を注ぐようなものだぞ!」
「はい!」
ゼロスが指示を出して、カナタが答える。ドックの天井のハッチが開き、イザナギが外へ飛び出した。
「ルナ、オレたちも行くぞ!」
「あっ!シン、待って!」
シンがミネルバに向かって走り出して、ルナマリアが追いかける。2人はミネルバのドックに駆け込んだ。
「インパルスは出せるか!?」
「あぁ・・整備は終わってる・・!」
シンが声をかけて、ヨウランが当惑を見せながら答える。シンが戦闘機「コアスプレンダー」に乗り込んだ。
「艦長、出撃の許可を!あのバケモノを倒さないと、近くにいる人たちが襲われます!」
“待ちなさい、シン!ここは私たちの世界ではない。私たちが深入りすれば、逆に混乱を招くことになるわ・・!”
出撃を進言するシンを、ミネルバに戻ってきたタリアが呼び止める。
「しかしこのままだと、あのバケモノのせいで、人が死ぬんですよ!見殺しにするつもりですか!?」
“落ち着きなさい!冷静に状況判断しなければ、私たちが追い込まれることになりかねないのよ・・!”
不満を言い放つシンをタリアが咎める。出撃ができず、シンはいら立ちを膨らませていく。
そのとき、シンたちはイザナギがドラゴンたちに向かっていくのを目撃した。
「研究所にいた彼が、怪物を止めに行ったのね・・!」
ルナマリアがヨウランたちとともにイザナギを見て呟く。自分が出られないことに、シンが不満を抑えられなくなっていた。
カナタの駆るイザナギが単機でドラゴンたちに向かっていく。気付いたドラゴンたちがイザナギを狙う。
イザナギがビームライフルを手にして発射する。ドラゴンは翼をはばたかせて、ビームを軽やかにかわしていく。
「あの怪物たち、スピードもある・・危険が高まるけど、接近して確実に仕留めるしかないか・・!」
カナタが毒づき、イザナギがビームサーベルを手にした。近付いてきたドラゴンのうちの2体の胴体を、イザナギがビームサーベルで切りつけた。
切り傷を付けられたドラゴンたちが、山岳に落下して姿を消した。他のドラゴンたちのうちの数体が落下した仲間を追いかけて、残りがイザナギに向かってきた。
イザナギがビームサーベルで迎撃するが、多数のドラゴンたちを前に劣勢を強いられていく。
「こうも数が多いと・・・!」
多勢に無勢の状況に、カナタが焦りを膨らませていく。ドラゴンたちが獰猛さをあらわにして、イザナギに突撃してきた。
イザナギ1機でドラゴンたちを相手にしている状況を、タリアはただ黙って見ているわけではなかった。
「シクザル博士、私たちがここで戦闘行為をして、私たちや世界に悪影響が及ぶ危険はありますか?」
“あなたたちの武器や持ち物に、空間に干渉するものがなければ影響は出ないだろう。あくまで戦闘におけるリスクは発生するが・・”
タリアの問いかけに、ゼロスが説明をした。
“イザナギに、カナタくんに力を貸してあげてください、グラディス艦長・・!”
「分かりました。カナタくんを援護します。」
ゼロスの進言に答えて、タリアがイザナギとドラゴンたちに視線を戻した。
「シン、博士からの許可が出たわ。インパルス、発進。博士の機体の援護に向かって。」
“艦長・・はい!”
タリアが指示を出して、シンが微笑んで答えた。
タリアからの指示を受けて、発進に備えるシン。コアスプレンダーが発進体勢に入り、ハッチが開かれた。
「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!」
シンの乗るコアスプレンダーが発進して、続けてインパルスの胴体を形成する「チェストフライヤー」、「レッグフライヤー」が発進した。さらにインパルスの形態の基盤となる「シルエットシステム」の1つ「フォースシルエット」が射出された。
チェストフライヤーが胴体、レッグフライヤーが下半身となって、コアスプレンダーと合体する。さらに背中にフォースシルエットが合体して、インパルスが完成した。
インパルスはシルエットシステムを装備、換装することで形態が変化する。飛行と機動性に長けたフォースシルエットの「フォースインパルス」、攻撃力の高い「ソードシルエット」の「ソードインパルス」、砲撃と遠距離攻撃に優れた「ブラストシルエット」の「ブラストインパルス」がある。
インパルスが飛行して、ビームライフルを手にして射撃して、ドラゴンたちに命中させる。
「あの機体は・・!?」
「こちらインパルス、シンだ!オレもアイツらを倒す!」
声を荒げるカナタに、シンが呼びかける。
「助かった・・このバケモノたちを追い払わないと・・!」
カナタがシンに感謝して、気を引き締めなおす。イザナギがビームサーベルを、インパルスがビームライフルを構えて、ドラゴンたちを迎え撃つ。
インパルスがビームライフルの射撃でけん制し、怯んだドラゴンをイザナギがビームサーベルで切りつけていく。しかしドラゴンたちは大勢で2機に押し寄せてくる。
「くそっ!これじゃキリがない・・!」
劣勢を強いられて、シンが毒づく。
「艦長、我々もシンたちの援護を・・!」
「えぇ。本艦も発進!“タンホイザー”で怪物たちを一掃します!」
アーサーが声を上げて、タリアが指示を出す。ミネルバが飛翔して、艦首を展開して陽電子砲の発射体勢に入る。
しかしインパルスとイザナギがドラゴンたちに包囲されて、タンホイザーの射線軸から離れることができない。
「このままだとシンたちが・・・!」
「しかし、オレたちの機体は飛行ができない。この位置からでは援護射撃も届かない・・」
シンたちを援護しようとするルナマリアと、現状を把握するレイ。
ザフトの新たな量産型モビルスーツ「ザクウォーリア」。レイとルナマリアはそのバリエーションである「ブレイズザクファントム」、「ガナーザクウォーリア」に搭乗している。
しかしブレイズザクファントムもガナーザクウォーリアも自力で飛行する機能は備わっていない。ガナーザクウォーリアの高エネルギー長射程ビーム砲「オルトロス」を使っても、今のミネルバの位置からでは砲撃がドラゴンたちまで届かない。
ドラゴンたちが一斉に咆哮を上げた。咆哮が衝撃波となって、イザナギとインパルスが揺さぶられて動きが鈍る。
その隙を狙い、ドラゴンたち数体がイザナギたちに飛びかかる。
そのとき、突撃してきたドラゴンのうちの1体が爆発に襲われた。ミネルバのいる地点とは別の方向から放たれた射撃だった。
「これは、攻撃・・!?」
「ミネルバじゃない・・誰だ!?」
カナタとシンが射撃が飛んできたほうに目を向ける。その先にいたのは、アサルトライフルを構えたヴィルキスだった。
「何だ、あの機体は!?・・ザフトの機体じゃないぞ・・・!」
シンがヴィルキスを見て疑問を覚える。
「そこをどいて!ドラゴンたちは私の獲物よ!」
アンジュが言い放ち、ヴィルキスが零式超硬度斬鱗刀「ラツィーエル」を手にしてドラゴンたちに向かっていく。
「おい、待て!勝手に割って入ってきて、何のつもりだ!?」
シンが不満を言い放ち、インパルスがビームサーベルに持ち替えて、ヴィルキスを追うようにドラゴンたちに立ち向かう。
その直後、アーキバス、グレイブ、レイザー、ハウザーも駆けつけて、イザナギを追い抜いていった。
「他にもいたのか・・しかも似たような機体ばかり・・・!」
カナタがヴィルキスアーキバスたちを見て、当惑を覚える。
「あの2つの機体、見たことない形だよ!」
「んなことぁ関係ねぇよ。今はアイツらを仕留めるのが先だよ・・!」
ロザリーがイザナギとインパルスを見て声を上げるが、ヒルダはドラゴンたちを倒すことしか考えていない。
「おー♪あっち見てよー♪戦艦もいるよー♪」
「そうね。でもよそ見はダメよ、ヴィヴィちゃん。」
ミネルバを見て感動するヴィヴィアンに、エルシャが微笑みながら注意をする。
「向こうが攻撃をしてこないなら、あの2機に手を出す必要はないわ。目標はドラゴンだけよ!」
サリアが指示を出して、アーキバスたちもヴィルキスたちに加勢する。ドラゴンたちが大半を倒されて、生き残った数体が逃走していった。
「ちっくしょう!逃げられちまったかー!」
「でもかなり仕留めたはずだよ・・」
ロザリーが悔しがり、クリスが呟く。
「しかしなぜ、アルゼナル基地の付近でない場所にドラゴンが現れたの・・・!?」
自分たちが置かれている現状に、サリアは疑問を膨らませていく。
「アンタたちは誰だ!?この辺りにいる軍隊なのか!?」
「人に名前を聞くなら、まず自分から名乗るのが礼儀でしょ?」
シンが問いかけると、アンジュが冷めた態度で言い返す。
「オレは天命カナタ。この機体はイザナギだ。あそこにあるシクザルドームで手伝いをしている。」
「シクザルドーム?」
カナタが自己紹介をして、アンジュとサリアがシクザルドームのほうへ目を向けた。
「もしかして君たちも、別の世界から空間を超えて来たのか・・!?」
「別の世界・・・?」
カナタの説明にクリスが疑問符を浮かべる。
「詳しく話を聞かせてもらえる・・?」
「あぁ。ついてきてくれ・・・」
サリアが問いかけて、カナタが彼女たちをシクザルドームに案内した。