スーパーロボット大戦CROSS

第1話「交差する世界」

 

 

戦いを終わらせるため、戦う運命を背負った少年。

神の力を得て、新たに国を切り開いた3人の姉妹。

皇女の座を奪われ、竜を狩る者に仕立て上げられた少女。

エロを力に変える青年と、恋に心を動かす少女。

 

様々な世界に生きる者たちが、邂逅を果たす。

運命と愛、大きな力に引き寄せられるように。

 

 

 とある場所に置かれている研究所「シクザルドーム」。所長である科学者、ゼロス・シクザルを中心とした研究が進められていた。

 ゼロスたちは今、2機の機体を開発していた。そのうちの1機は、あらゆるデータを取り込める万能型を目指したものとなっていた。

「ゼロス博士、システムチェックを行いますよー。」

 ゼロスに向かって1人の青年、天命(てんめい)カナタが呼びかけてきた。

「よし。カナタ、十分気を付けるのだぞ。」

 ゼロスからの注意にカナタが答える。彼は機体「イザナギ」に搭乗して、コンピューターの操作をする。

「博士の設計した機体、ついに本格始動ですね♪」

 1人の少女、愛野(あいの)ラブがゼロスに近づいてきて、イザナギを見上げて笑顔を浮かべた。

「ラブくんとカナタくん、みんなが助力してくれたから、ここまで発明と開発を早く進めることができたのだよ。ありがとう、みんな。」

「いやぁ、あたしなんて大したことはしてないですよ〜♪むしろ邪魔することのほうが多かったくらいで〜♪」

 感謝したゼロスに、ラブが照れ笑いを見せた。

「それに、博士は私たちにとって親も同然です。身寄りのなかったあたしたちを保護してくれたんですから・・」

 ラブが微笑んで、ゼロスへの感謝を口にした。

 5年前に起きた大災害「ブレイクホール」。突然の空の空間の歪みによって大きな揺れや強風が巻き起こり、多くの建物や人々が巻き込まれて犠牲になった。

 カナタもラブもブレイクホールの被災者であるが、2人のそれぞれの親の知り合いだったゼロスに保護されることになった。2人はゼロスの手伝いをしながら生活をしていた。

「私としては手伝わせる形になってしまって、申し訳ないと思っているよ・・それに、2人にはさらに負担を掛けてしまったし・・・」

 ゼロスが切り出した話を聞いて、ラブが表情を曇らせた。

「それは博士のせいではないです・・あたしたちの問題でしたから・・・」

 ラブが言い返してゼロスを気遣った。

「博士、起動テストを行いますから、ハッチを開けてください。」

 そこへカナタが呼びかけて、ラブが我に返った。

「あぁ、すまん、すまん。今、開けるぞ。」

 ゼロスが答えて、コンピューターを操作して、イザナギの頭上の天井ハッチを開けた。

「よし、発進いいぞ!」

「はい!イザナギ、出ます!」

 ゼロスが合図を送り、カナタがイザナギを動かす。イザナギが背部のスラスターを起動させて、シクザルドームから飛び出した。

「スラスターも手足の動作も問題なく動いている・・機体も安定している・・・!」

 カナタがイザナギの状態を確認していく。イザナギが前へ飛行してから、シクザルドームの庭に着地した。

「カナタ、これからイザナギの攻撃テストを行うぞ!今から的を出す!」

 ゼロスが指示を出して、庭に攻撃テスト用の的を出した。

「機体のエネルギーはどうなっておる?」

「起動時にエネルギーを大きく消費しましたが、すぐに回復しました。今は100%になっています。」

 ゼロスの問いに、カナタが機体のチェックをしながら答える。

 イザナギには稼働の動作によって自発的にエネルギーを生み出すエンジン「ハイブリッドディメンション」が組み込まれている。起動時にエネルギーを消耗するがすぐに回復し、半永久的な活動を可能としている。

「まずはビームライフルからだ。ロックオンして発射するのだ。」

「はい!」

 ゼロスの指示を受けて、カナタが丁寧に操作する。イザナギが腰に装備されているビームライフルを持って、的の1つに狙いを定める。

 イザナギのメインカメラに映った的を、カナタがロックオンした。彼が操作して、イザナギがビームライフルを発射した。

 ライフルから放たれたビームが、的の中心を撃ち抜いた。

「狙いも正確。威力も調節可能だ・・!」

 イザナギのビームにカナタが感心する。

「次はビームサーベルのテストだ。」

「はい!」

 ゼロスが指示を出して、カナタが答える。イザナギが腕に収容していた柄を出して手にして、ビームの刃を発した。

 イザナギが的に向かって走って、ビームサーベルを振りかざした。的が斜めに切られて落ちた。

「サーベルの切れ味もすごい・・戦闘するには強力な機体ですよ・・・!」

 カナタがイザナギの性能にさらに感心する。

「しかしイザナギは戦闘を第一の目的とはしていない。あくまで次元探査用の機体で、武装はあくまで護身用だ。」

「分かっています。こういうのは、戦争や命の奪い合いには使いたくはないですからね・・」

 ゼロスからの注意を聞いて、カナタが肝に銘じる。

 ゼロスは元から空間や次元に関する研究を行っていた。ブレイクホールが発生したため、彼はこの研究や調査により力を入れるようになった。

 イザナギはハイブリッドディメンションの莫大なエネルギーを使い、空間や次元に干渉できるように開発された機体である。

「次元の動きを把握できれば、次元の歪みにも対応することができる・・あのブレイクホールのような規模であっても・・・」

 ゼロスが自分の考えを口にして、カナタとラブが頷いた。

(次元への干渉がうまくいったら、アイツのところにも行けるかもしれない・・・)

 カナタが考え事をして、悲しい顔を浮かべていた。

 

 この日の研究と演習を終えて、カナタたちは夕食を口にしていた。食事はラブと女性研究員のメイ・タマキが中心となって調理していた。

「こういうときは女手があるのは助かるよ。機械とかはお手の物だけど、料理はそれみたいにうまく扱えなくて・・」

 ゼロスがラブたちの料理に感謝しながら、自分の不甲斐なさを申し訳なく感じていた。

「そんなこと言ったら、開発がうまくいかないあたしたちだって・・」

「みんなそれぞれ向き不向きというものがありますよ、博士。」

 するとラブが苦笑いを見せて答えて、メイが付け加える。

「オレは操縦がメイン。博士ほどじゃないけど、メカニックもやれているよ。」

 カナタが自分のことを語っていく。

「カナタやみんなのサポートがあって、とても助かっているよ。ありがとう、みんな。」

「持ちつ持たれつになっていますね。オレたち、力を合わせてここまで来たんですね・・・」

 再びお礼を言うゼロスに、カナタが答えた。ゼロスとともに研究を進められたことを、ラブもメイたちも喜んでいた。

 

 翌日も、イザナギの試運転は行われた。今度は機体のエネルギーを開放して、次元干渉の実験を行おうとしていた。

「いいか、カナタ。少しでも危険だと判断したら、実験を中断するのだ。私が中止だと指示したときも同じだ。」

「分かっています。これから始めます。」

 ゼロスが注意を送って、カナタが答える。上空に上昇したイザナギがエネルギーを高めていく。

「“ディメンションシステム”起動!チャージ開始!」

 カナタがコンピューターを操作して、イザナギが胸部にある「ディメンションオーブ」にエネルギーを集中させていく。

「周囲へ影響を与えてはいけない。極力エネルギーを抑えて放つのだ。」

「了解!」

 ゼロスがさらに指示を出して、カナタが集中力を高める。エネルギーを集めたディメンションオーブに光が宿る。

「“ディメンションブレイカー”、発射!」

 ゼロスがイザナギの次元エネルギーを、より少ない出力で発射した。ディメンションオーブから出た光が空に当たり、空間を歪める。

「やった♪空に当たっているよ♪」

 ラブが空間の歪みを見て笑みをこぼす。

「問題はここからだ・・こちらと向こう、両方の空間に対する影響を抑えながら、次元にトンネルをつなげられるか・・」

 ゼロスは緊張を感じたまま、歪みを注視する。歪みが穴となって、徐々に広がっていく。

 その直後、イザナギやシクザルドームの周辺の揺れが大きくなってきた。

「空間の歪みの影響が大きくなっています・・!」

「この高度でこれ以上の次元干渉は危険です!」

 研究員の鏑木(かぶらぎ)リョータと嶋野(しまの)マサオが報告をする。

「カナタ、中断だ!ディメンションシステムを止めるのだ!」

「はい!」

 ゼロスが呼び止めて、カナタがイザナギを操作して、ディメンションブレイカーを止めた。空間の歪みが治まり、穴が消えた。

「無事に閉じた・・次元に穴を開けることに成功したし、大きな影響が出ずに済んだ・・」

 次元干渉に手応えを感じて、カナタがひと息ついた。

「やったよ、カナタくん。この調子でいけば、別の次元へ飛ぶことも可能になるぞ。」

「これであたしたち、壮大な進歩の立役者になるね♪」

 ゼロスとラブが実験の成功を喜んで、カナタに声を掛けた。

「しかし次元干渉の実験は立て続けにはできない。それこそ悪影響を及ぼす危険が高まる・・」

「実験は日を改めて再開ということですね。」

 ゼロスが警戒を解かず、メイが頷いた。

「博士、空間の歪みが再び強まっています!」

 そのとき、リョータがセンサーの反応を見て、ゼロスに報告する。

「そんな!?イザナギのディメンションシステムは使っていません!」

 カナタがイザナギのコンピューターをチェックして、声を荒げる。

「別の方向から、次元干渉が行われています!」

 マサオがレーダーを注視して、次元干渉を根源を探る。空間を歪めるエネルギーは、シクザルドームのそばにある丘の上から出ていた。

「あたしたちの他に、空間を歪めてくる人がいたの・・!?

「そんな!?・・この高度な技術を、ゼロス博士以外に使える人がいるなんて・・!?

 ラブとリョータがこの現状が信じられず、驚愕していく。

「いや・・心当たりが1つだけある・・・アイツなら・・・!」

 カナタが顔をこわばらせて、イザナギの操縦桿を握りしめる。

「カナタ、次元エネルギーの出所を探るんだ!ただし見つけてもすぐに攻撃を仕掛けてはならん!次元干渉ができる以上、相手の能力は未知数だ!」

「はい!」

 ゼロスからの指示にカナタが答える。イザナギが飛翔して、カナタがエネルギーの出ているほうに目を向ける。

 丘の先にいたのは、イザナギと似た姿かたちの機体だった。

「この機体・・イザナギと一緒に造っていた・・・!」

「そうよ。イザナギと同型、“イザナミ”よ・・」

 息をのむカナタに向けて声がかかった。イザナギの前にいる機体、イザナミのコックピットに、1人の女性がいた。

「乗ってるのも君だったのか・・カンナ・・・!」

 カナタが動揺を浮かべて、イザナミの女性、カンナが微笑む。

「調整途中だったこの機体を、私は完全なものとしたのよ。シクザル博士の設計していたものを超える性能にしてね。」

「カンナ・・・あれからイザナミに手を加えたのか・・!?

「そうよ。空間を自由自在に飛び越えられる力を求めて、私が独自で調整を続けてきた・・そしてついに、このイザナミをそれを可能とする力に仕上げることができたのよ・・!」

「そんな・・カンナ、1人で・・・!?

 カンナが自信を込めて語り、カナタが驚きを隠せなくなる。

「いや、次元や空間は極めて慎重に扱わなければならな事象だ・・下手にその力を振るえば、自分だけでなく、世界そのものを滅ぼしかねないぞ・・!」

 ゼロスもカンナに向けて反論をしてきた。

「そんな自滅をしないために、調整を繰り返してきたのですよ、シクザル博士・・」

 カンナがゼロスのいるシクザルドームに目を向けて、言い返した。

「もうやめて!・・もう帰ってきてよ・・!」

 そのとき、ラブがカンナに向かって呼びかけてきた。

「ウフフ・・久しぶりね、ラブ・・」

「何で出てったの?・・何で、1人で行っちゃったの!?・・・お姉ちゃん・・・!」

 微笑むカンナを、ラブが問い詰める。カンナはラブの姉だった。

「カンナ、お前まだ力に溺れているのか?・・まだ、力への渇望に囚われているのか!?

「そんな振り回されているような言い方・・私は私の意思でイザナミを調整し、さらなる高みを目指す・・・」

 声を張り上げるゼロスに、カンナが自分の意思を告げる。

「あのときから、イザナミで1人で出たときから、その考えは決まっていた・・・」

 カンナが昔の記憶を呼び起こしていく。カナタもラブもその出来事を思い返していた。

 

 カンナもラブとともに、ブレイクホールで被災した。途方に暮れていた最中で、2人は同じくさまよっていたカナタと出会った。

 3人がシクザルドームに辿りつき、ゼロスと出会ったのはその後だった。

 カナタ、ラブと同様、カンナもゼロスの研究を手伝い、興味を深めていった。だがカンナはその未知なる次元の力に魅入られ、段々と欲するようになっていった。

 ゼロスが設計して、カナタたちと力を合わせて制作してきたイザナギとイザナミ。2機が完成間近となったときだった。

 カンナがイザナミに乗って、次元を突破して強大な力を得ようとした。しかしゼロスたちに見つかり、カンナはイザナギと共に逃亡。

 それ以来、カナタたちはカンナとは会っていなかった。

 

 カンナがイザナミを持ち出してシクザルドームを離れたことを、カナタもラブも辛く感じていた。

「私は力がほしかった・・力があれば、もう2度と悲劇が起こることもなくなる・・・」

 さらに自分の考えと願望を口にするカンナ。彼女はブレイクホールのような次元の災厄を封じることも考えていた。

「あんな辛い出来事が2度と起きてほしくないと思ってるのは、オレもラブも同じだ・・だけど、手に余る力を使っても、それを実現させるどころか、自分たちが同じ悲劇を繰り返すことになる・・・!」

 カナタがカンナの考えに反論する。しかしカンナは笑みを絶やさない。

「悲劇が起こらないように万全を取って、今に至るのよ。それだけの力と自信が、私にはある・・」

「過信をしてはならんぞ、カンナ!何度も言うが、次元や空間のエネルギーは未知数だ!完全に制御できるかどうかも分かっていないというのに・・!」

 自分の力に確信を持っているカンナに、ゼロスが忠告する。

「それを理解しているのは、あなたたちよりも私のほうよ・・その証拠が、今のこのイザナミよ・・」

 それでもカンナは考えを変えず、イザナミのディメンションオーブからエネルギーを放射する。

「やめろ、カンナ!世界を滅ぼす気か!?

 カナタが怒鳴り声を上げて、イザナギがイザナミに近づいていく。

「やめさせたければ、力ずくで止めることね・・」

 カンナが微笑んで、イザナミが次元エネルギーの光をイザナギにぶつけた。

「うあっ!」

 イザナギが押されて、カナタが衝撃に揺さぶられてうめく。

「カナタ!」

 倒れたイザナギに向かって、ラブが叫ぶ。カナタが痛みに耐えながら、イザナミに視線を戻す。

「よく見ておくことね。私がシクザル博士よりも優れているところを・・」

 カナタたちに告げてから、カンナがイザナミの次元エネルギーを空の空間に放射した。1度閉じられた次元の穴が、再び開かれていく。

「これで次元のトンネルがつながる・・新しい世界へ行くことができる・・・」

「やめて、お姉ちゃん!」

 目を見開くカンナにラブが叫ぶ。イザナミがエネルギーを送り続けて、空間の歪みが広がる。

 そのとき、カナタたちのいる場所に大きな揺れが起こった。歪みが周囲に影響を及ぼしていた。

「いかん!歪みの衝撃がこの一帯に押し寄せるぞ!」

 ゼロスが警告して、ラブたちとともに揺れに耐えようとする。

「止める・・止めないといけない・・目には目を・・次元には次元を・・・!」

 思い立つカナタがイザナギを動かして、ディメンションオーブにエネルギーを集める。

「よせ、カナタ!火に油を注ぐことになる!」

「ディメンションブレイカー!」

 ゼロスが呼び止めるのも聞かずに、カナタが次元エネルギーの光をイザナギから発射した。イザナギとイザナミ、2機の次元の光がぶつかり合う。

 そのとき、2つの次元の光が稲妻のように周囲に飛び火した。空間の歪みが広がり、一帯がオーロラのように揺らめいていく。

 そして歪みは別次元の世界を引き付けていった。

 

 肉体調整が施された人種「コーディネイター」とそうでない「ナチュラル」。

 この「コズミックイラ」の時代に、両者の人種の対立による戦争が行われていた。

 ナチュラルの軍人で構成されている「地球連邦軍」と、コーディネイターによる軍事組織「ZAFT(ザフト)」。

 両軍を中心にして、戦争が再び繰り広げられていた。

 先の大戦の犠牲者が流れ着いている慰霊の小惑星「ユニウスセブン」。そのユニウスセブンが武装集団によって動かされ、地球に落とされようとした。

 ザフトが破砕作業を行ったことで、壊滅的な被害は食い止められた。それでも被害を完全に阻止することはできなかった。

 ユニウスセブンが砕け散った瞬間に、空間の歪みが発生した。まるでユニウスセブンの破壊が引き起こしたかのように。

 それが空間の歪みや世界同士の接近であることに、すぐに気付いた者はいなかった。

 

 ユニウスセブンの破砕作業を前線に立って行っていたのが、タリア・グラディスが艦長を務める戦艦「ミネルバ」だった。

 ミネルバは最後まで外に出ていた機体「インパルス」を収容して、そのまま地球に降下した。しかしその地球は、タリアたちの知る地球とは違っていた。

「他の部隊と連絡が取れない?プラントにもつながらないの!?

「はい・・全く応答がありません・・!」

 タリアの問いかけに管制官、メイリン・ホークが答える。

「いくらユニウスセブン落下の影響があるといっても、全く連絡が取れないのはおかしいですね・・!」

 ミネルバの副長、アーサー・トラインが現状に疑問を抱く。

「私たちの置かれている状況を把握できない以上、下手に動くわけにいかないわ。情報が入るまで、しばらくはじっとするしかないわ・・破砕作業でシンたちも疲れているし・・」

 冷静に状況を把握しようとするタリアに、アーサーが頷く。メイリンはレーダーを注視しながら、ザフトの他の部隊から連絡が来るのを待った。

 

 インパルスのパイロット、シン・アスカはインパルスから降りて、同じパイロットであるルナマリア・ホーク、レイ・ザ・バレルとともにミネルバのドックで待機していた。

「いったいどうしたっていうの・・・!?

「大気圏を抜けて、もう地球に下りてるはずなのに・・」

 ルナマリアと整備士の1人、ヴィーノ・デュプレが外に出られないことに疑問を抱く。

「ユニウスセブンは砕かれたが、その破片のいくつかは地球上に降り注いでしまった・・混迷し、我々がすぐに状況を把握できないのも、無理のないことだ・・」

 レイが落ち着いた様子で語っていく。

「艦長から次の指示があるまで、オレたちは待機だ。体を休める必要もあるし・・」

「その間が、オレたちの仕事だな。」

 レイが告げて、もう1人のメカニック、ヨウラン・ケントがヴィーノと目を合わせる。

「どうなったんだろうか・・地球も“プラント”も・・・」

 シンも外の状況を気にして、深刻な面持ちを浮かべていた。

 

 インドネシアの近くに本島が点在する「バロウ王国」。そこでは神「ランガ」が祀られていた。

 しかし眠り続けていたランガが、目を覚ました。空間の歪みに呼応するかのように。

 硬い体の巨人が、バロウ島から海へ出た。新たな神「ネオランガ」として、ランガは王を目指した。

 

 魔法の力「マナ」が存在する世界。マナを持たず拒絶する存在「ノーマ」は、世界から差別、隔離されていた。

 軍事組織「アルゼナル」に送られたノーマは、次元を超えて現れる生物「ドラゴン」との戦いに駆り出されていた。

「今回も獲物がわんさかいるねぇ!」

「けど、いつまでもアンジュに独り占めはさせないよ!」

 機体「パラメイル」のパイロット「メイルライダー」であるロザリーとヒルダが声を掛け合う。

 パイロットの収入は、ドラゴンを仕留めた数によって増す。しかし最近は、ノーマの少女、アンジュの駆るパラメイル「ヴィルキス」がドラゴン討伐を独占していた。

「みんな、任務に集中して!敵は目の前にいるのよ!」

 パラメイルの第一中隊の隊長を務めるメイルライダー、サリアが指示を出す。

「アンジュ、いい加減に隊長である私に従って・・」

 彼女がさらに指示を出そうとしたとき、アンジュのヴィルキスが単独で飛び出して、ドラゴンの群れに向かっていった。

「おー!今日も張り切ってるねー、アンジュー♪」

 パラメイル「レイザー」のメイルライダー、ヴィヴィアンがアンジュの特攻を見て喜ぶ。

「アンジュ、言ってるそばから!」

「さっさと片付ければいいんでしょ?」

 怒鳴るサリアにアンジュが言い返す。ヴィルキスが飛行形態の「フライトモード」から人型の「アサルトモード」に変形する。

 ヴィルキスがアサルトフライトを手にして射撃する。弾丸が正確に命中して、ドラゴン数体が体勢を崩す。

 他のドラゴンたちがヴィルキスに向かっていく。ヴィルキスが零式超硬度斬鱗刀「ラツィーエル」を手にして、ドラゴンの体を斬りつけていく。

「ボーっとしてられねぇ!痛姫にこれ以上いい気にさせっかよ!」

「当然!」

「うん・・」

 ヒルダがいきり立ち、ロザリーとメイルライダーの1人、クリスが頷く。3人もそれぞれのパラメイル「グレイブ」と「ハウザー」を加速させて突撃する。

「みんな勝手なマネを・・・!」

「ヒルダちゃんたちもだけど、アンジュちゃんも我が強いみたいね。」

 気がめいるサリアに、オレンジ色のハウザーのメイルライダー、エルシャが微笑む。

「他人事みたいに言わないで!アンジュたちを呼び戻すわよ!」

 サリアがエルシャとヴィヴィアンに言うと、アンジュたちを止めにパラメイル「アーキバス」で前進する。その間にもアンジュのヴィルキスがドラゴンの大半を仕留めていた。

「いい加減にして!フォーメーションがバラバラじゃない!」

 サリアが注意するが、アンジュもヒルダも聞かずに戦闘を続ける。ドラゴン討伐は完了したが、サリアは勝手な行動をとったアンジュたちに不満を感じていた。

「くそっ!・・またアイツにやられた・・!」

「これじゃおまんま食い上げになっちまうよ!」

 ヒルダとロザリーがアンジュへの不満を募らせる。アンジュは彼女たちに気に留めず、ひと息ついた。

「・・ドラゴン殲滅完了、サリア隊、これより帰投します。」

 サリアも不満を感じながら、アルゼナルに報告をした。

 そのとき、アンジュたちの周囲に空間の歪みが発生した。

「な、何っ!?

「またドラゴンが出てくるの・・!?

 ロザリーとクリスが歪みを見て、警戒を強める。

「でも、それと違うみたいね・・!」

「うおー!こっちに来るよー!」

 エルシャが呟いて、ヴィヴィアンが叫ぶ。

「全員退避!ここから離れるわよ!」

 サリアが呼びかけて、アンジュたちとともに歪みから離れていく。しかし歪みの広がりが早く、彼女たちが巻き込まれた。

「ちょっと・・もっとスピード出しなさい・・ヴィルキス!」

 アンジュが怒鳴って、思うように動かせないヴィルキスを無理やり動かそうとする。しかし彼女たちは空に現れた次元のトンネルに引きずり込まれた。

 

 美容室「プリンス」。表向きにはヘアサロンであるが、人類制圧を企む「ペンギン帝国」に対抗する兵器を擁する秘密組織である。

 プリンスの兵器の名は「ダイミダラー」。命のエネルギー「Hi-ERO(ハイエロ)粒子」を力とするロボットである。

 Hi-ERO粒子を持つ「ファクター」が乗るダイミダラー。「ダイミダラー2型」がペンギン帝国のロボット「南極8号」と交戦していた。

 南極8号が放つ大砲の砲撃とミサイルを、ダイミダラー2型が空中でかいくぐる。

「今よ、孝一くん!ダイミダラーの必殺技を!」

 ダイミダラーに搭乗している女性、楚南(そなん)恭子(きょうこ)がファクターの青年、真玉橋(まだんばし)孝一(こういち)に呼びかける。

「行くぜー!必殺、指ビーム!」

 孝一が高らかに言い放ち、ダイミダラー2型が南極8号に突っ込み、巨大な左手を展開して、Hi-ERO粒子を集めたビームを発射した。南極8号が胴体をビームで貫かれて、爆発を起こした。

(これがダイミダラー・・これが、Hi-ERO粒子の力・・・!)

 孝一の駆るダイミダラーの力に、恭子は驚かされていた。

「これでペンギン帝国に対抗することができ・・」

 恭子が振り返った瞬間、孝一がにやけて手を伸ばしてきた。

「さーて、これからたっぷりと楽しませてもらうぜ〜!」

「イヤアッ!ちょっと、孝一くーん!」

 興奮する孝一に胸をわしづかみにされて、恭子が悲鳴を上げる。エッチに及んでくる孝一を、恭子が赤面しながら引き離そうとする。

 そのとき、ダイミダラー2型の上空に、空間の歪みが発生した。

「な、何っ!?

 突然の現象と大きな揺れに、恭子が驚く。しかし孝一はそれらに構わずに彼女に手を出していく。

「こ、孝一くん、今はこんなことやってる場合じゃ・・!」

 恭子が孝一に抗議の声を上げる。そうしている間に、ダイミダラー2型が歪みでできた次元の穴に吸い込まれていった。

 

 イザナギとイザナミの力の衝突によって、空間の歪みと世界のつながりが発生した。

 世界の壁を超えて、新たな出会いと大きな悲劇の幕が上がろうとしていた。

 

 

 

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