雷光の消失

 

 

細川(ほそかわ)ライム。

グレイシティの平和と正義を守るため、スパークガールに変装する。

しかし彼女を待ち受けていたのは、恥じらいの連続と、体験したことのない出来事だった。

 

 

 グレイシティを騒がせている怪盗、シャドウレディを倒すため、姿を現したスパークガール。

 ワイヤーを駆使した素早い動きと装備でシャドウレディを追い詰めるスパークガールだが、逆に衣装を切り裂かれて裸を公衆の面前にさらすことになってしまった。

(あんな屈辱、初めてだよ〜・・絶対に許さないんだから、シャドウレディ!)

 部屋のベッドで自分の体を抱きしめて、ライムが屈辱を感じて、心の中で不満を叫んでいた。

 

 それから程なくして、奇怪な誘拐事件が発生した。1週間に20人もの美女が行方不明になった。

 その事件の成り行きを黙って見ているライムではない。

(こんな卑劣な誘拐犯の思い通りにはさせない!この街と正義はこのスパークガールが守ってみせるわ!)

 心密かに決意を固めるライム。彼女はその誘拐犯を退治しようと考えていた。

 

 そして次の夜、ライムはスパークガールに扮して、誘拐犯の行方を追った。そして彼女は悲鳴を耳にして駆けつけて、ついに誘拐犯を発見した。

「そこまでよ、連続誘拐犯!」

 ライムが誘拐犯に向かって言い放つ。彼女は服装から肌の色まで完全な黒ずくめの誘拐犯と、彼に追い詰められている1人の少女を目にしていた。

「お嬢さん、スパークガールが来たからにはもう安心よ!」

 ライムが少女に向けて自信を見せる。しかし少女は恐怖からか、不安と動揺を浮かべたままだった。

 ライムは少女から誘拐犯に視線を戻して、目つきを鋭くした。

「アンタは女の敵!スパークガールが成敗してくれる!」

 ライムが強気に言い放つと、誘拐犯がゆっくりと振り向いてきた。

「私に対する言葉遣いではないぞ、女・・」

「アンタ、何様よ!」

 低い声音で言いかける誘拐犯に、ライムが飛びかかる。彼女がまとっているスパークガールの衣装には、様々な装備が備わっており、背中のパックからワイヤーを射出した。

 ワイヤーを駆使した素早い動きで、ライムが攻撃を仕掛ける。しかし誘拐犯にかわされていく。

「たあっ!」

 ライムが力を込めて回し蹴りを繰り出す。彼女は気付かなかったが、蹴りは誘拐犯の頬をかすめた。

(私の攻撃が当たらない!?なんて動きをするの、コイツ!)

 必死になって攻撃を続けるライムだが、ことごとく誘拐犯にかわされていく。

「キャッ!」

 そのとき、ライムと誘拐犯が戦っている隙に、少女がこの場を離れようとした。が、気付いていた誘拐犯が伸ばした髪に縛られて、捕まってしまう。

(えっ!?アイミちゃん!?

 その少女、小森(こもり)アイミを目にして、ライムが動揺を覚える。ライムはアイミと意気投合した親友の間柄だった。

 その動揺の一瞬が油断だった。ライムが誘拐犯の手に首をつかまれてしまった。

「し、しまった・・!」

「ヒッヒッヒ・・捕まえたぞ、うるさいハエめ・・」

 うめくライムを見て誘拐犯が不気味な笑いを上げる。

(ぬ、抜け出せない・・なんて力・・・!?

 誘拐犯の手を振り払おうとするライムだが、抜け出すことができない。笑みを見せていた誘拐犯が笑みを消す。

「私の顔に傷つけおって・・お前はもういらん!」

 誘拐犯が憤りをあらわにして、目つきを鋭くする。彼の手から逃れられないライムが、緊迫を募らせる。

 

    カッ

 

 誘拐犯の目からまばゆい光がライムに向けて放たれた。

 

   ドクンッ

 

 ライムが強い胸の高鳴りに襲われて、目を見開く。誘拐犯が彼女をつかんでいた手を放す。

(何、今の!?・・アイツ、あたしに何を・・!?

  ピキッ ピキッ ピキッ

 ライムがこの事態に困惑していたところだった。彼女が身に着けていたスパークガールの衣装が突然吹き飛ばされた。

 さらけ出されたライムの左腕、左胸、下腹部は固まっていて、ところどころにヒビが入っていた。

「私のコレクションに加わる資格もない!終わることのない昼と夜の繰り返しを見守り続けるがいい!」

 誘拐犯がライムに向けて鋭く言い放つ。ライムに起こっている異変は、誘拐犯がもたらしたものだった。

「な・・何なの、コレ!?

 固まった自分の左手の手のひらを見つめて、ライムが驚愕する。固まった自分の体は、麻痺しているのか、自分の体でなくなったかのように、全く動かなくなっていた。

(体が石になってく〜!)

 アイミがライムの異変を目の当たりにして、心の中で声を上げる。クラインの力によって、ライムの体は石化に襲われていた。

(体が石になるって、あり得ない・・しかも裸にされるなんて・・アイツに、一方的に裸を見られるなんて・・・!)

 自分の身に起きている現実離れしたことに、ライムは動揺を隠せなくなる。

(誘拐された女性たちもみんな、こんなことに・・!?

  パキッ

 ライムにかけられた石化はさらに進んでいく。彼女のまとうスパークガールの衣装や装備が引き剥がされて、さらにかつらも崩れ出した。

(さらに石になってる・・このままじゃ完全に動けなくなってしまう・・・!)

 ライムが力を振り絞り、必死に右手を動かす。緊迫を募らせているアイミに振り返り、誘拐犯はライムに背を向ける。

(アイミちゃんも連れていかれて、あたしみたいに・・・!)

「く・・くそっ・・・!」

 身動きの取れない体の中、ライムは頭に付けているヘアバンドのスイッチを押した。ヘアバンドから出た発信器が誘拐犯に付けられた。

「安心したまえ・・お前はまだオブジェにはしないから・・・」

 アイミに声をかけていたため、誘拐犯は発信器を付けられたことに気付かなかった。しかし今のライムにできることはこれしかなかった。

  ピキッ ピキキッ

 誘拐犯が背を向けたまま、彼のかけた石化はライムの体を蝕んでいく。彼女の靴も石化の影響で弾けるように壊れて、石の素足があらわになる。

  ピキキッ パキッ

 右の胸も石になってあらわになり、右手のグローブもはじけ飛んだ。右手の指先まで石に変わって、微動だにしなくなる。

  ピキッ パキッ パキッ

 装備を搭載している背中のパックも、石化に巻き込まれてバラバラになる。ライムの体のほとんどが石になって、裸をさらされることになった。

(アイミちゃん・・・)

 逃げることができずに連れ去られようとしているアイミに目を向けて、ライムが戸惑いを見せる。ヘアバンドに付いていた発信器のレーダーも落ちて、かつらもほとんど崩れて、石になった本当の髪もあらわになる。

「ゴ・・ゴメン・・・タ・・タスケ・・・ラレ・・・ナ・・・」

  パキッ ピキッ

 アイミに向かって助けられなかったことを謝るライムだが、唇も石になって声を出すこともできなくなった。

(口も動かない・・声が、出せない・・・)

 ただ前を見つめることしかできない状態に、ライムが心を揺さぶられる。彼女の視界に困惑しているアイミの姿が入る。

「ヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒ・・!」

 ほとんど石化して全裸をさらけ出されているライムに振り向いて、誘拐犯が不気味な哄笑を上げる。誘拐犯に嘲笑されても、ライムはただ目の前を見つめることしかできなくなっていた。

  ピキッ パキッ

 ほとんど石に変わっていたライム。彼女は全く動けず、力を入れられなくなっていた。

(イヤ・・イヤだよ・・・アイミちゃんを助けられず、アイツを倒すこともできず、こんな丸裸にされるなんて・・・)

 ライムの心の中に悲痛さが膨らんでいく。

  ピキッ

 彼女の瞳に向かって石化が進んでいく。

(イヤだよ・・・イヤだよ・・・)

 絶望的になるライムの瞳に涙があふれてくる。

   フッ

 その涙があふれた瞬間、ライムの瞳にヒビが入った。同時に破損したヘアバンドも彼女の髪から落下した。

 涙の雫はライムの左胸に、ヘアバンドは右胸に当たった。しかしライムは何の反応も示さなくなった。

「スパークガール!!!

 誘拐犯に連れていかれるアイミが、ライムに悲痛の叫びを上げる。誘拐犯はアイミを連れて、白い霧とともに消えた。

 その場にはライムだけが取り残された。彼女は背中にワイヤーがくっついて吊るされた状態で、衣装も装備もかつらも全て引き剥がされ、素肌も素顔も全てさらけ出された全裸の石像にされてしまった。

 戦闘と衝撃、絶望が起こったとは思えないような静寂が訪れていた。ライムは何の反応を示すことなく、夜の街の中でたたずんでいた。

 

 何もない暗闇の中、ライムは目を覚ました。

「あたし・・・えっ!?!?

 自分が裸であることを思い出して、ライムが動揺する。しかし彼女は体を動かすことができない。

「全然動けない!?・・どうなってるの、コレ!?

「ヒッヒッヒッヒ・・当然だ・・今のお前はオブジェなのだから・・・」

 声を荒げるライムに向かって、不気味な笑い声が響いてきた。彼女の後ろに漆黒の誘拐犯が現れた。

「オブジェ・・そういえば私、体が石に・・・!?

 ライムは自分に起こったことを思い出した。彼女は誘拐犯の力にかかり、全裸の石像にされてしまった。

「お前は私の顔を傷付けた・・だからお前は私のコレクションから外した・・だがそれでもお前はオブジェ・・私のものとなり、私に屈したことは確か・・」

「あたしが、アンタに屈した!?ふざけないで!誰がアンタみたいなのに・・!」

 誘拐犯が語りかける言葉に、ライムが憤りを見せる。しかし体は彼女の言うことを聞かない。

「その気になればお前などどうにでもできる・・あざ笑うことも、弄ぶことも、壊すこともな・・」

「ふざけないで!そんなこと、あたしがさせない!」

「まだ私にそんな反抗的な態度を・・これだから女は我慢がならないのだ・・・」

 怒りをあらわにするライムに、誘拐犯がいら立ちを浮かべる。しかし彼はすぐに笑みを取り戻した。

「だがオブジェにしてしまえば逆にすばらしくなる・・美しいオブジェにしてコレクションすることで、女が屈服することになり、私の喜びとなる・・」

「そんなことのために、女性を・・アイミちゃんを・・!」

「お前が助けようとした女のことか・・?」

 さらに怒るライムを誘拐犯があざ笑う。次の瞬間、2人の前にアイミが現れた。

「アイミちゃん!」

 ライムがアイミを目の当たりにして叫ぶが、体が前に動かない。アイミもライムの声が聞こえておらず、反応を見せない。

「そこの女ももはや私のものとなった・・これからオブジェになっていくのを、お前もここで見ているがいい・・」

「アイミちゃん、ダメ!早く逃げて!」

 誘拐犯が不気味な笑みを浮かべて、ライムがアイミに叫ぶ。

  ピキッ パキッ パキッ

 アイミの着ていた上着が引き裂かれて、石化した上半身があらわになる。自分も石に変わっていくことに、アイミは動揺している。

「アイミちゃん!・・やめて!アイミちゃんを元に戻して!」

「ヒッヒッヒッヒ・・あの女もオブジェになる・・だがお前が味わう絶望はそれだけでは済まさん・・」

 必死に叫ぶライムをあざ笑う誘拐犯。彼は身動きの取れないライムを後ろから抱きしめてきた。

「な、何を!?

「私にここまで刃向かった罰だ・・何もできずに弄ばれる苦しみを思い知らせてやる・・」

 動揺を覚えるライムに言いかける誘拐犯。彼はライムの胸をつかんで揉んできた。

「ち、ちょっと、やめて!放してよ、変態!」

 ライムが顔を赤らめて悲鳴を上げる。しかし体の自由が利かず、抗うことができない。

「これが私のものとなっていることだ・・何をされても、お前は何もできない・・ただ私にされるがまま・・」

 笑い声を上げる誘拐犯は、ライムの体を弄んでいく。

  ピキッ ピキッ

 アイミにかけられた石化が進行していく。彼女のスカートや下着が引き裂かれて、下半身もあらわになる。

「アイミちゃん・・アイミちゃん!」

「どうだ・・守ろうとしたヤツがオブジェとなり、自分自身も弄ばれる屈辱は・・・」

 悲痛の叫びを上げるライムを、誘拐犯がさらにあざ笑う。彼に体を弄ばれることに抵抗できず、目の前でアイミが石化されていくのを助けることもできず、見ていることしかできない自分に、ライムは絶望を感じていた。

「あの女もお前も、私に屈服する・・思い知るがいい・・私に逆らうことが実に愚かなことを・・・」

 誘拐犯がさらにライムを抱き寄せてきた。ライムは誘拐犯が性器を自分の秘所に入れてきたのを痛感した。

「ちょ・・アンタ、何を・・!?

 体の中まで弄ばれて、ライムが感情を揺さぶられていく。

「や・・やめて・・こんな・・こんな、こと・・・!」

 誘拐犯に犯されて、ライムがあえぎ声を上げる。

  ピキッ ピキキッ

 アイミにかけられた石化が、彼女の手足の先まで及ぶ。全裸の石像となっていく彼女を、一方的に体を弄ばれながら見ているしかない自分に、ライムは絶望を痛感していた。

「イヤ・・こんなの、イヤ・・夢なら・・覚めてよ・・・」

 絶望感に包まれて、ライムが目から涙をあふれさせる。身動きの取れない彼女の体を、誘拐犯はさらに弄んでいく。

  ピキキッ パキッ

 髪も頬も石にされていくアイミが、目から涙を浮かべる。その光景を眼前にしながら一方的に弄ばれて、ライムも抗う意思を見せることもできずに涙を流し続けていた。

(アイミちゃん・・・ゴメン・・助けられなくて・・・)

 ライムは心の中でアイミにひたすら謝ることしかできなかった。

  ピキキッ

 アイミが口も石にされて、ただ前を見つめることしかできなくなってしまった。

(アイミちゃん・・アイミちゃん・・・)

 ライムも誘拐犯に犯される中、アイミのことを想うばかりになっていた。

   フッ

 瞳も石に変わり、アイミの目から流れていた涙が途切れた。彼女は誘拐犯の仕掛けた石化に完全に包まれた。

「ヒッヒッヒッヒ・・世の中の女は私のもの・・私の思い通りにならない女はいない・・・!」

 アイミを石化し、ライムを徹底的に弄んだ誘拐犯が高らかに笑う。彼が離れたが、ライムは呆然となったまま涙を流し続けていた。

「お前も散々反抗的な態度を続けてきたが、それも終わりだ・・お前は何も守れず、私に屈するしかないのだ・・」

 絶望から抜け出せなくなったライムを、誘拐犯があざ笑う。2人が自分の思い通りになっていると思い、誘拐犯は喜びをあらわにしていた。

「もっとだ・・他の全ての女も、私のものとしてくれる・・・!」

 欲望を込めた笑い声を上げて、誘拐犯は離れていく。彼に何もかもムチャクチャにされて、ライムはその場にただたたずんでいた。

 目から涙をあふれさせるライムの心は、完全に打ち砕かれて、自分を見失っていた。

 

 誘拐犯によって石化されて、ワイヤーにつるされたまま街の中にたたずんでいたライム。アイミが誘拐犯に連れ去られてからしばらくしたとき、彼女の姿が突然元に戻った。

 同時に石化によって背中にくっついていたワイヤーも離れた。

「えっ!?わっ!なになになに、なんなのー!?

 ワイヤーが離れたことで支えを失ったライムが、悲鳴を上げながら落下する。

「いてーっ!」

 地面に落ちたライムが悲鳴を上げる。

「イタタタ・・ここはどこ〜?・・えっ!?あたし、裸!?

 自分が全裸になっていることに気付いて、ライムが動揺を隠せなくなる。彼女は慌てて物陰に隠れた。

(も〜!・・何でいつもあたしは裸なの〜・・!?

 ライムが心の中で悲鳴を上げていく。

「もー!どうやって帰ったらいいのよー!」

 恥ずかしさと寒さを感じながら、ライムは口からも叫び声を上げていた。

 

 誘拐犯に連れ去られた女性たちも、誘拐犯の力によって全裸の石像にされていた。ところがライムが石化された夜に、全員元に戻った。

 しかしその全員が、自分たちの身に起きたことを全く知らなかった。気が付いたときに裸になっていた理由も。

 ライムも自分が石化されたことを覚えていなかった。

 石化された後に受けた受難も、ライムは覚えていない。それが夢だったのか、恐怖のための錯覚だったのか、彼女自身も分からないままとなった。

 誘拐された女性たちと同様、誘拐犯に全てを掌握されていたことを、事件後のライムは思いもよらなかった。

 

 

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