稲光、解放の日々

 

 

 細川(ほそかわ)ライム。

 正義の稲光「スパークガール」に変装して、街を騒がせる怪盗、シャドウレディに挑んだ少女である。

 警察の包囲網をかいくぐったシャドウレディを追い詰めた実力と、シャドウレディに衣装を切り裂かれてさらけ出された素肌が、街の人々に深い印象を残した。

 

 シャドウレディ打倒の決意を膨らませていくライム。

 その一方で街では奇怪な事件が続発していた。

 その事件を解決して街の正義と平和を守るのも自分の使命。そう思ったライムは、事件の調査に乗り出した。

 

 スパークガールの衣装と装備を身にまとい、事件調査に乗り出したライム。彼女は人気のない暗い道に降り立った。

 その事件とは、この近辺で次々と美女が失踪するというものだった。手がかりが見つからず、警察も捜査に苦慮していた。

(たとえ警察が解決できなくても、このスパークガールが解決してみせるわ。街の闇は、正義の稲光に照らされて正体を暴かれるものよ。)

 事件解決に自信を感じているライム。一方でシャドウレディから辱めを受けたことに不満を感じていた。

(シャドウレディも、必ずあたしが正体を暴いてやるんだから・・・!)

 シャドウレディへの敵意を膨らませながら、ライムは暗闇に包まれた道を歩いていく。道に人のいる気配はなく、不気味なほどに静かだった。

 ライムは周囲に細心の注意を払っていく。いつどこから敵が襲ってきても、すぐに対応できるように。

 警戒しながらしばらく進んだときだった。

 突然上から何かが当たった感じを覚えて、ライムが足を止める。彼女の左肩に透明な水滴がついていた。

「雨?・・今日は雨が降る予報じゃないし・・雨が降る天気でも・・・」

 ライムが落ちてきた水滴に疑問を覚える。空は晴天で、雨が降る天気ではなかった。

 だがさらに水滴が降り注いでいく。さらに水滴が付着したスパークガールの衣装から煙が出ていた。

「これって・・・!?

 ライムが警戒を強めたときには、既に遅かった。突如落下してきた液体に彼女がのみ込まれた。

(な、何、この液!?

 液体にのみ込まれたライムが声を出せなくなり、息もできなくなる。脱出しようとする彼女だが、液体と外の境目が壁のような膜になっており、出ることができない。

 さらにライムに異変が起きた。彼女が身につけているスパークガールの衣装が溶け始めた。

(これって溶解液!?いけない!このままじゃ溶かされちゃう!)

 脱出を急ごうとするライムが、電気棒「エレキロッド」を取り出す。だがエレキロッドも溶けだしていて、電気を発することができなくなっていた。

(そ、そんなことって・・!?

 武器さえも溶かされて、ライムが愕然となる。スパークガールの服や装備、さらにはかつらさえも溶けて消えていく。

(これじゃ体が溶ける前に裸になっちゃうじゃない!)

 素肌をあらわにされていくことに、ライムは動揺も膨らませていく。液体によってスパークガールの衣装を全て溶かされ、ライムは完全な丸裸になってしまった。

(最悪・・こんなおかしなのに裸にされるなんて・・・!)

 液体に包まれたまま恥じらいを感じていくライム。自分の裸を隠そうとする彼女だが、力を入れることができなくなっていた。

 脱力したライムが呆然とした表情となった瞬間、液体の一部分が突然固まった。彼女を覆っていた部分だけが固まってガラスのようになり、包まれていった。

 包み込んできた液体に襲われたライムは、スパークガールの衣装を溶かされて全裸にされ、さらに凝固した液体に包まれて固まってしまった。

 

 街に起きていた奇怪な事件。それは液体によって美女が服を溶かされてガラスコーティングされるというものだった。

 その液体の溶解は、服や道具といった物質だけを溶かし、生物には全く効果を及ぼさないものである。そのため美女たちは裸にされるだけで体を溶かされることなく、そのまま固まってしまったのである。

 ライムもその液体で全裸にされて固められてしまった。

 だがその液体もシャドウレディをのみ込むことはできず、逆に退治されることになった。

 これによりガラスの塊に閉じ込められていた美女たちが解放。ライムも救われたが、またしても裸にされるという敗北と恥辱を味わうことになってしまった。

 

 それから数日後、ライムは悪事を働いている人物のアジトを発見。スパークガールに変装して、その地下アジトに潜入した。

 地下アジトの通路は暗く、いくつもの分かれ道があった。アジトを知る人間でなければ確実に迷ってしまうだろう。

(たとえこのような場所でも、スパークガールは負けないわよ・・・!)

 意気込みと正義感を胸に秘めて、ライムは慎重に道を進んでいく。暗闇の迷路にも彼女は動じていない。

 しばらく進んだところで、ライムはひとつの部屋に出た。薄明かりがあったが、何もない部屋だった。

(何もない・・先を急いで悪人のいる部屋に向かって退治しないと・・!)

 部屋に関して動じる様子を見せず、ライムは部屋を抜けようとした。だがそのとき、部屋と通路をつなぐ出入り口が突然閉ざされた。

「えっ!?

 ライムはすぐに出入り口を塞ぐシャッターを破ろうとするが、頑丈であるため破れない。

“ハッハッハ!こうも簡単に罠の部屋に入り込んでくるとはな!”

 部屋の中に男の笑い声が響き渡ってきた。このアジトの人間の1人だった。

“シャドウレディが本命だったが、お前でこの効果を試させてもらうぞ!”

「どういうことなの!?隠れていないで姿を見せなさい!」

 ライムが声を上げるが、これ以上男の声がかかることはなかった。

 次の瞬間、ライムのいる部屋に白いガスが吹き込んできた。ライムはそのガスに異様な冷たさを感じた。

「すごく冷たい・・私を凍らせるつもり・・・!?

 押し寄せる冷気に一瞬顔を歪めるライム。彼女は部屋から出ることに集中しようとした。

 だがその彼女がまとうスパークガールの衣装が凍りつき始めた。氷付けに襲われて、彼女は思うように動けなくなる。

(凍らされる前に何とかここを出ないと・・・!)

 必死に脱出を行おうとするライム。だが動きだそうとした瞬間、彼女が身につけているスーツや手袋が突然崩れ出した。

「えっ!?

 突然の異変にライムが思わず声を荒げる。ガスで凍りついたスパークガールの衣装や装備が、ボロボロと崩れていく。

(ちょっと!何がどうなってるの!?服だけが崩れて・・!)

“効果は上々のようだな!うまい具合に裸になっていくぞ!”

 動揺するライムの耳に、先ほどの男の声が飛び込んでくる。

“このガスは特殊な冷凍ガスでな!生き物だけを丁寧に凍らせ、それ以外のものはよほど頑丈でなければ確実に壊せる!”

「それじゃ・・またあたし、裸に・・・!?

 男のこの言葉を聞いて、ライムがさらに動揺する。部屋から出ることに必死になる彼女だが、ガスによる凍結で服や装備だけでなく、ブーツやかつらまでが崩れてしまい、完全に素肌も素顔もさらけ出されることになってしまった。

“全身を覆っていた中身が実にきれいだ!そのまま一気に凍りつかせて、そのままその姿を永久不変のものにしてやるぞ!”

 男がさらに冷凍ガスを注ぎ込んでいく。裸を隠そうとするライムだが、体が凍りついてしまって感覚が麻痺してしまい、動くこともままならなくなっていた。

「ダメ・・体が、言うことを聞かない・・・また・・こんな恥ずかしいことに・・なるなんて・・・」

 弱々しく発していた声も出せなくなり、ライムは立ち尽くしたまま動かなくなってしまった。冷凍ガスの効力で、彼女はスパークガールの衣装を全て壊された全裸の姿のまま、完全に凍りついてしまった。

“やったぞ!裸の美女の氷付けの完成だ!”

 男が氷付けになったライムに向けて歓喜の声を上げた。

“この調子であのシャドウレディもしっかり凍らせてやるぞ!ハッハッハ!”

 部屋に響き渡る男の哄笑。またしてもライムは、素肌も素顔も全てをさらけ出されて固められることになってしまった。

 さらにまたしても、シャドウレディの活躍でライムは氷付けから解放されることとなった。

 

 度重なる恥辱を味わうことになっても、ライムの正義感が弱まることはなかった。

 闇に蠢く不気味な影を追って、ライムはスパークガールとしてその正体を暴こうと奮起した。

 だが一瞬の油断で、ライムは暗闇の中に引きずり込まれ、そのまま意識を失ってしまった。

 

 ライムが意識を取り戻したのは、不気味さの漂う洞窟の真ん中だった。

「ここは・・・!?

 見知らぬ場所に緊張を覚えるライム。だが彼女は手足を鎖で縛られて立たされており、身動きが取れなくなっていた。

「はじめまして。あなたがあの噂のスパークガールね・・」

 もがいているライムの前に女性が姿を現した。異様な格好をした女性で、ライムに妖しい笑みを見せてきていた。

「アンタが、今回の事件の黒幕ね・・!?

「黒幕?そういうことになるのかしらね・・そういうあなたのことはいろいろ聞いてるわ。正義のヒロインなのによく裸にされているって・・」

 声を上げるライムと、妖しい笑みを崩さない女性。彼女の言葉を聞いて、ライムが思わず動揺する。

「余計なこと言ってないで、すぐにこの鎖を外しなさい!」

「フフフフ、外すくらいなら最初から捕まえたりしないわよ。その噂の裸、たっぷりと堪能するんだから・・」

 怒鳴るライムに笑みをこぼす女性。必死に脱出を試みるライムだが、錠から抜け出ることができない。

 女性が指をパチンと鳴らす。すると突然、ライムがまとっていたスパークガールの衣装が弾けるように全て引き剥がされた。一瞬にして素肌も素顔も全てさらけ出されることになる、ライムが動揺して言葉が出なくなる。

「ウフフフ、まさかかつらまで付けて完全防備をしていたとはね・・でも私の前では意味のないこと・・」

「ま、またこんな格好に・・・!?

 妖しく微笑む女性に裸を見られて、ライムが赤面する。手足がまだ錠と鎖がつながれていたため、彼女は裸を隠すことができなかった。

「本当にきれいな体をしてるわね。その美しさに磨きをかけて、さらに永遠のものにしてやらないと・・」

 哄笑を上げる女性の見つめる前で、ライムが上から下りてきたカプセルに入れられる。さらにもがくライムだが、カプセルを叩くこともできない。

 女性がさらに指を鳴らす。するとライムのいるカプセルの中にガスが注ぎ込まれた。

 ガスを浴びせられたライムが苦痛を覚えて悲鳴を上げる。しかしそれでも、カプセルからも錠からも抜け出すことができない。

「何、このガス・・体が、おかしくなりそう・・・!」

「そう嫌がることはないわ。あなたはこれから永遠の美しさを手にするんだから・・」

 苦痛にさいなまれるライムに、女性がさらに妖しく呼びかけていく。ライムは麻痺していくように自分の体が思うように動かすことができなくなる。

「そう、そのまま楽になって・・あなたは正義のヒロインから最高峰の美術品となるの。今よりももっときれいになって、私を満足させてちょうだいね・・」

 女性が哄笑を上げる前で、ライムは力を入れられなくなって動かなくなっていく。

(こんなのってないよ・・助けて・・助けてよ、ブーちゃん・・・)

 想いを寄せる人に助けを求めながら、ライムは完全に動きを止めた。彼女はカプセルの中に注がれたガスで固められ、全裸の像として立ち尽くしていた。

「オッホッホッホ!これでまた私のコレクションが華やかになったわ!」

 微動だにしなくなったライムを見つめて、女性が高らかに笑う。カプセルが上がり、手足の錠が外れても、ライムは指一本動かなくなっていた。

「ホントにきれいになったわね。あなたもここまできれいになれて、喜ばしいことでしょうね・・」

 女性が完全に固まっているライムに近づき、後ろから彼女の裸身に触れていく。手足や胸、お尻などを撫でまわされていくが、ライムはそれでも何の反応もしない。

「ウフフフ・・正義のヒロインが全てをさらけ出されて体を弄ばれる・・何をされてもされるがまま・・これ以上ない敗北でしょうね・・」

 さらにライムの裸身に触れていく女性。スーツ、装備、かつらを身につけて正義の味方を振る舞うが、その全てを引き剥がされて全裸にされ、さらに固められて指一本動かすことができずにさらしものにされる。そのライムを、女性はあざ笑っていた。

「もうあなたは正義のヒロインじゃない。これからは私のコレクションとして、永遠の美しさを堪能するといいわ・・・」

 女性は囁くと、ライムの顔をじっと見つめる。そして女性はライムの頬にキスをした。

「生まれ変わったあなたに、私からの記念のご褒美よ・・」

 女性はきびすを返して、立ち尽くしているライムの前から立ち去っていった。

 ライムは固まったまま、その場から動くことはなかった。スパークガールとして活躍していた彼女は、全裸にされて固められ、女性のコレクションに加えられることとなった。

 

「やめて!見ないで!」

 悲鳴を上げて飛び起きるライム。だが我に返った彼女が、自分が部屋のベッドで寝ていたことを確かめる。

「あれ?・・もしかして全部、夢・・・!?

 ガラスコーティング、氷付け、ガスによる固化、全裸にされて固められた出来事が夢だったことに気付くライム。すると彼女が安心して、胸をなで下ろした。

「ふぅ・・ビックリした〜・・あんなおかしなことが現実にあるわけないよね・・まして丸裸にされて固められたりなんて・・・」

 自分の無事を確認して、ライムが笑みをこぼす。だが彼女はすぐに不満を浮かべてきた。

「あんなおかしな夢を見ることになったのも、全部シャドウレディが悪いんだ!今度こそやっつけてやるんだから!」

 シャドウレディへの怒りを燃やすライム。次の挑戦と正義の守りを誓って、彼女は再び睡眠を取るのだった。

 

 シャドウレディに挑戦したとき、ライムはあと一歩というところで衣装を切り裂かれて敗北した。公衆の面前で素肌を見せることになり、ライムはシャドウレディへの怒りをさらに高めていた。

 全裸にされて固められた出来事は全て夢。ライムはそう思っていた。

 だがライムは忘れていた。正確には忘れさせられていた。連続美女誘拐犯によって石化され、同時にスパークガールの衣装を全て引き剥がされて全裸の石像にされたことを。

 誘拐犯が放った眼光を受けただけで、なすすべなく裸にされ、さらに体を石にされて裸を隠せずに見られるままにされる。素肌も素顔も全てさらけ出されて、ライムはそのまま置き去りにされてしまった。

 全裸の石像となってからしばらくして、ライムは石化を解かれた。その際に事件や石化に関する記憶を消されていたため、彼女は何があったのか、なぜ裸だったのか分からなかった。

 石化で意識がなくなっていたとはいえ、全裸のまま街中にいることになったライム。この敗北と恥辱さえも忘れさせられていて、彼女に想いを寄せている相手しか変わり果てた彼女を見ていなかったのが、せめてもの救いだった。

 正義のヒロインから美しいオブジェと化したライム。彼女が少しの間だけ最高の美を得たことを知る人はほとんどいない。彼女自身もそのことを知らない。

 

 街の平和のために奮闘するも、素肌をさらす結末を迎えるばかりのライム。

 彼女はこれからも解放の結末を迎え続けていくのだろうか・・・?

 

 

短編集

 

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