黄金の雷光

 

 

 夜の街を騒がせる怪盗、シャドウレディ。

 彼女を捕まえようと挑戦状を叩きつけた正義の稲光、スパークガール。

 シャドウレディをあと一歩というところまで追い詰めながらも、スパークガールはコスチュームを切り裂かれて敗北。公衆の面前に裸をさらすことになった。

 

 スパークガールが被った悲劇はこれだけではなかった。

 

 シャドウレディを捕まえることだけでなく、「グレイシティ」の平和を守ることが使命だと、スパークガール=細川(ほそかわ)ライムは思っていた。

 その中で新たに起きた美女誘拐事件。

 誘拐犯を捕まえるため、ライムは立ち上がった。彼女は果敢に誘拐犯に挑んだが、軽々と攻撃をかわされて、逆に眼光を浴びせられた。

 次の瞬間、スパークガールの衣装が引き剥がされて、さらけ出された裸が石に変わっていた。

 男の力で体が石にされ、スパークガールの衣装も装備もかつらも全て引き剥がされて、ライムは夜の街に置き去りにされてしまった。

 しばらくしてライムは石化から解放された。しかし彼女は全裸のままで夜の中震えることになり、さらに自分がなぜこんなことになっているのかの記憶がなくなっていた。

 

 その後に起きた大規模の奇怪な暴動事件。しかし詳しい状況を警察は把握できないまま、事件は終息した。

 この事件を引き起こしたのはシャドウレディ、事件を解決したのはシャドウレディ。様々な憶測が人々の間で湧き起こった。

 そして事件の後、シャドウレディはグレイシティから姿を現さなくなった。

 彼女はどうなったのか、どこへ行ってしまったのか。誰も分からなかった。

 

 シャドウレディがいなくなったからと言って、ライムの、スパークガールの正義の戦いが終わることはない。

 グレイシティで悪事を働く悪者を倒していった。

 だがそんなある日、彼女に再び悲劇が降りかかることになった。

 

 グレイシティに再び、美女の連続失踪事件が起こった。警察はまた街の警戒に当たることになったが、犯人発見どころか手がかりも見つけられないでいた。

 その事件の犯人を見つけ出して倒そうと、ライムはスパークガールとなって駆けつけた。

 そしてライムは街中にいた黒ずくめの男を発見した。男のそばには刑事が1人倒れていた。男に気絶させられたのである。

「見つけたわよ、連続誘拐犯!このスパークガールが、アンタを成敗する!」

 ライムが男に向けて高らかに言い放つ。男が彼女に振り向いて視線を向けてきた。

「スパークガール・・あのシャドウレディに戦いを挑んだ女か・・」

 男が記憶を呼び起こして笑みをこぼす。

「おとなしく観念するなら今のうちよ!」

「フッフッフ・・観念どころか、お前も私の餌食となるのだ・・・」

 さらに呼びかけるライムだが、男は不気味な笑みを浮かべてきた。

「気色悪いことを・・後で後悔することね!」

 ライムが男に向かって飛びかかる。彼女が男に向けて果敢に攻め立てる。

(あれ!?・・この感じ、どこかで・・・!?

 その最中、ライムは違和感を覚えた。以前にもこんなことをしている気がしたが、それがいつの、どういうときだったのかが分からない。

(今は集中!悪者をやっつけて、あたしがこの街の正義を守るんだから!)

 ライムが迷いを振り切って、男にさらに攻撃を仕掛ける。

 ライムが扮するスパークガールの常人離れなスピードは、背中の装備や腕輪からのワイヤーを駆使してのものである。だがそのスピードでも男に攻撃を当てることができない。

「その程度では私に攻撃を当てることはできない・・・」

 男がライムに対して強気な態度を見せる。

「私の力はこんなものじゃないわ!当てることができれば!・・エレキロッド!」

 ライムが言い放ち、電気の棒「エレキロッド」を手にして振りかざす。男はエレキロッドをかわすが、発せられた電撃がかすかに彼に当たった。

「かわすのはよくないか・・ならば・・・」

 呟きかける男に、ライムがさらにエレキロッドを振り下ろす。男は左手で、電気を出しているエレキロッドの刀身をつかんだ。

「なっ!?

 エレキロッドを受け止められたことにライムが驚愕する。

「力でも私には及ばない・・ではそろそろ幕引きとするか・・・」

 男は呟くと、彼の右手に金の光が現れた。彼はその右手をライムの体に当てた。

 金の光がライムの体に入り込んでいく。彼女は左足を振りかざして、男を引き離す。

 だが男がライムに送り込んだ金の光は消えていない。

「アンタ、私に何をしたの!?

「これでお前も、私のものとなった・・・」

 声を荒げるライムに、男が喜びの笑みを見せてきた。

 次の瞬間、ライムが着ているスパークガールの衣装の腹部が突然吹き飛んだ。さらけ出された彼女のおなかが金の光に包まれていた。

「な、何、コレ!?どうなってるの!?

 自分の身に起きた異変にライムが驚愕する。金の光は彼女の体に広がり、衣装を吹き飛ばしていく。

「か、体が動かない!?・・固まってる!?

 自分の体を目にして、ライムがさらに驚愕する。彼女の体は金に変わっていた。

「どうだ、自分が美しい金に変わるのは?」

 男がライムを見てさらに笑みを見せてくる。

「お前も完全に金にしてから、私のコレクションに加えてやろう。お前のように美しくなった女たちが集まっているぞ。」

「それじゃ、アンタが誘拐した女性たちはみんな・・・!?

 誘うように言う男に、ライムが声を荒げる。その間にもライムの体は金に変わっていき、彼女は男の前で裸をさらけ出されていく。

「スパークガール、やはりお前も美しい体をしていたようだ。私がそれに磨きをかけていくのだ。」

「ふざけないで!・・私はお前の思い通りにはならない・・!」

 満足げに頷く男に言い返すライム。しかし体が金になって、彼女は思うように動けず力も入らない。

 そのとき、ライムは前にもこのようなことがあったような気がした。

(あたし・・悪者をやっつけようとして・・逆に裸にされて・・・シャドウレディのときじゃない・・誰と戦ったとき・・・!?

 その違和感が何なのかが分からず、困惑していくライム。彼女のこの疑問は、さらに体が金に変わる異変にかき消される。

(しまった・・手足まで動かなくなってる・・これじゃ、発信器を飛ばすことも・・・!)

 ヘアバンドに仕込んでいた発信器を使うこともできなくなり、ライムは身動きが取れなくなる。金の光と浸食は、スパークガールとしての髪も散らしていた。

「さぁ、全てをさらけ出せ。お前は美しい黄金の像に生まれ変わるのだ・・」

「冗談じゃない・・こんなことで、私をどうにかできるなんて・・・!」

 哄笑する男に言い返してライムが抗おうとする。彼女の体は手足の先まで金に変わり、彼女の本当の髪もあらわになった。

「それがスパークガールの正体というヤツか・・お前も連れていけば、私のコレクションが一気に華やかになるというもの・・」

 男がさらに喜びを感じて、ライムに近寄る。首元も頬も髪も金になり、ライムは抗う力も出なくなっていた。

 そのとき、ライムを蝕んでいた金の浸食が止まった。男が彼女の変化を止めたのである。

「これでお前は身動きが取れない。これでお前を私のコレクションへ招き入れよう・・」

「やめて・・あたしは、お前のものになんて・・・!」

 言いかけてくる男に、ライムが声を振り絞る。しかし彼女は手を伸ばしてくる男に抵抗ができない。

「もうお前は私のものだ・・私に逆らうこともできない・・・」

 男は髪を伸ばすと、ライムの体を縛り付けた。

「では行くぞ。お前もきれいに飾ってやる・・・」

 身動き1つできないライムを連れて、男は煙を伴いながら街中から消えた。

 

 男に連れ去られて煙の中で意識を失ったライム。自分の体の異変が夢だったのではないかと、彼女は一瞬思った。

 しかし夢ではなかった。ライムの体は金になっていて、彼女の自由を奪っていた。

「体が動かない・・あたし、まだ・・・!?

 声を荒げるライムだが、全く動くことができない。

「気が付いたか。身体能力もそれなりにあるようだな・・」

 そこへ男が現れて、ライムに声をかけてきた。

「アンタ・・・!」

「ここは私のコレクションの部屋。私の力で金に染め上げられた女たちがそろっている・・」

 声を上げるライムに男が言いかける。彼が向けた視線の先に、ライムも目を向ける。

 部屋の中には全裸の女性の金の像が立ち並んでいた。ライムはすぐに像の全てが、男に金にされた女性たちであることに気付く。

「この世界にはすばらしい美女であふれている。が、中身まではすばらしさとは程遠い者ばかり・・」

 語りかける男が、浮かべていた笑みを消す。

「だから私は女たちを金に変える。美しさに磨きがかかる上に、醜い中身を消すこともできる・・」

「そんな自己中心的な考えで、アンタは罪のない人を・・・!」

 再び笑みを浮かべた男に、ライムが怒りを覚える。しかし彼女は動くことができず、男を睨むことしかできない。

「これは女たちにとってもいいことだ。みんなより美しくなることができたのだから・・」

「それはアンタの思い込みでしょ!早くみんなを解放して!」

「そうはいかない。せっかくのコレクションなのだから・・」

 ライムが呼びかけるが、男は歓喜の笑みを見せるだけである。

「ではお話は終わりだ。お前も私のコレクションを鮮やかに彩るのだ。」

 男が期待に胸を躍らせて、ライムに意識を傾ける。

「お前も美しい金になれること、心から喜ぶがいい・・」

「ま、待ちなさい!あたしは、お前のものにならない・・!」

 必死に呼びかけるライムにかけられた異変が進行を再開した。

「あたし・・・あたしは・・・!」

 口元も金に変わり、ライムは声を出すこともできなくなった。目の前を見つめることしかできなくなり、彼女は絶望を感じていく。

(イヤ・・こんなこと、絶対にイヤ・・・こんなところでじっとして、あんなヤツのいいようにされるなんて・・・助けて・・助けて・・ブーちゃん・・・)

 絶望するライムが心の中で叫び、思いを寄せる人に助けを求める。彼女の目から涙があふれてくる。

(あ、あれ?・・やっぱり・・コレ・・どこかで・・・)

 この瞬間、ライムはまた違和感を覚えた。前にも見たような光景だと、彼女は思った。

 しかしその疑問を考える間もなく、ライムは体が完全に金に変わり、意識もなくなった。

「やった・・これでまた、私のコレクションが増えた・・・」

 男が金となったライムを見つめて高らかに笑う。

「しかもあのスパークガールを私のものにした・・今までにない喜びを感じるぞ・・・」

 男が喜びを膨らませて、ライムの金の体に触れる。しかしライムは微動だにせず、何の反応も見せない。

「やはり女は金でいるほうがいい・・醜態をさらすこともないし、そのすばらしさも永遠にできる・・・」

 女性を金にしていくことに喜びを感じていく男。彼は金にした女性たちを見渡していく。

「他の女性たちも全てここに連れてきて、金にして飾ってやろう・・特にあの怪盗、シャドウレディは見逃せない・・・」

 女性をものにする欲望を膨らませていく男が、シャドウレディのことも考えていく。

「しかし、どこへ行ってしまったのだ?・・いつも夜になれば現れて騒がせていたのに・・・」

 シャドウレディが姿を見せなくなったことに、男はため息をつく。

「必ず見つけ出して、私のものとする・・最高の怪盗を最高の金に変えてくれる・・・」

 新たな欲望を口にして、男は哄笑を上げながら部屋を後にした。金の像となったライムも、男のコレクションとして部屋に置かれることになってしまった。

 

 欲望を力に変える魔人が封印されている宝石「魔石」。街に散らばった5つの魔石は、シャドウレディによって回収された。

 しかし街に流れた魔石は他にもあった。それはライムや女性たちを金にした男が持っていた。

 男の金に変える力は、その魔石から得たのである。彼は女性をものにしたい欲望を膨らませていた。

 

 男がライムをコレクションに加えてから数日がたった。

 あのシャドウレディが街に現れたという噂が流れた。警察もその情報を耳にして、警戒を強めた。

 さらに女性を誘拐してコレクションにしていた男の耳にも、その噂は届いていた。

「ついに現れたか、シャドウレディ・・ようやく私のものにできるぞ・・・!」

 期待に胸を躍らせて、男が笑みをこぼす。彼はシャドウレディと対面するのを待ちながら、美女の誘拐を続けた。

 そして1人の女性を金にして屋敷に戻ってきた男の前に、シャドウレディが現れた。

「お、お前は・・!」

「あたしがいない間にまたふざけたことになってたじゃない。」

 驚きの声を上げる男に、シャドウレディが気さくな笑みを見せる。

「留守だったから、先にコレ見つけちゃったよ。」

 シャドウレディが言いかけて、男に宝石を見せた。

「それは!?・・それを返せ!」

 男が驚愕してシャドウレディに飛びかかる。しかしシャドウレディに軽々と突撃をかわされる。

「返せ!それがないと、私は女性をすばらしくできなくなる!」

「アンタのサイテーなわがままなんて聞く気にもならないのよね〜・・」

 声を荒げる男に、シャドウレディが肩を落としながら言い返す。

「これで今度こそ回収はおしまいっと。」

 シャドウレディが魔石を封印ボックスに入れた。

「やめろ!」

 男がまたシャドウレディに突撃するが、魔石が封印されたことで彼が一気に弱体化した。

「わ、私の力が・・全ての女性が美しくなる世界が・・・!」

 一気に絶望に襲われて、男が倒れてうなだれる。魔石が封印されたことで、男が手に入れた力も失われることになった。

「今日まで幸せな時間を十分過ごせたから満足でしょ?これからは地獄の時間を味わうことね。」

 シャドウレディは冷たく言うと、再び気さくな態度に戻って屋敷を去っていった。

「待て!それを返せ!このままでは、女の中に醜いものが巣食ってしまう・・!」

 男が必死に手を伸ばすが、シャドウレディはいなくなってしまった。魔石を失い、男は絶望に耐えられなくなり倒れてしまった。

「私の・・私の力が・・・」

 力を発揮することができなくなり、男はその場で意識を失った。

 

 男によって金にされていた女性たち。魔石が封印され、男が力を失ったことで、彼女たちの体が元に戻った。

「あ、あたし・・元に戻った・・・?」

「キャッ!あたし、裸!?

「ゆ、夢じゃなかった・・・」

 金から元に戻れた女性たちは、様々な様子を見せていた。

 ライムも女性たちと同じく、動揺の色を隠せなかった。

(最悪・・最悪だよ〜・・誘拐犯をやっつけるどころか、あたしも誘拐されて丸裸にされるなんて・・・!)

 正義を守る者としてこの上ない屈辱と恥辱を感じて、ライムはその場でうずくまり震える。誘拐犯の男に素肌も素顔も全てさらけ出されてしまったことが、彼女は許せなかった。

(でも、こんなこと、前にもあったような・・前に、何でか裸で外にいたことがあったけど・・何であんなことになってたのか、今も全然分かんないけど・・・)

 思い出せないことを気にするライム。困惑を募らせて、彼女はさらにうずくまった。

 

 その後、ライムは他の女性たちとともに警察に保護された。彼女たちを金にした男も警察に逮捕された。

 女性たちが金にされたことを話すが、この非現実的な話を警察は信じようとしなかった。

 結局、警察が核心に触れることなく事件は終結した。

 そんな中、ライムは金にされた不可解な感覚、屈辱、恥辱とともに、同じようなことがあったのではないかという違和感を再び感じていた。

「う〜・・何か忘れてるような気がしてならないのに〜・・何で全然思い出せないの〜!?

 どうしても腑に落ちなくて、ライムは頭を抱えていた。

 

 ライムたちには忘れていたことがあった。

 今回、金にされたように、ライムは石化されて全裸の石像にされたことがあった。

 しかし石化が解かれたときに、彼女と女性たちはそのときの記憶を消されていた。彼女たちは自分たちの身に起きたことを覚えているはずもなかった。

 

 忘れたままのほうがよかったかもしれない。全裸にされて掌握される屈辱と恥辱は・・・

 

 

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