雷光を包む闇
スパークガール。
グレイシティの正義と平和を守るために戦う稲光。
グレイシティを騒がせている怪盗、シャドウレディの正体を暴いて倒すことが、彼女の1番の目的である。
スパークガールの正体は、細川ライム。真っ直ぐな正義感と情意の持ち主である。
スパークガールの使う武器、装備はライムが開発したものである。ワイヤーを駆使して、スピードのある動きを見せる。
シャドウレディに挑んだスパークガールは、電気を発する武器「エレキロッド」と素早い動きで彼女を追い詰めた。
しかし正体を暴こうとしたのを逆手に取られて、衣装を切り裂かれて敗れることになった。
それでもライムはシャドウレディを捕まえるため、グレイシティの正義と平和を守る決意を、さらに強くした。
その対決からしばらくして、シャドウレディはグレイシティから忽然と姿を消した。捕まったという知らせもないのに、街に現れなくなった。
しかしグレイシティに完全に安息が戻ったわけではない。ライムの、スパークガールの正義の戦いはまだ続いていた。
そしてグレイシティには、不可解な事件が起こっていた。事件を追うライムも巻き込まれることになった。
シャドウレディが現れなくなって平穏が戻ったはずのグレイシティに、事件が起こっていた。女性が立て続けに行方不明になるものである。
シャドウレディでない別の何者かであると判断しながら、ライムはスパークガールに扮して犯人を追うことにした。
夜のグレイシティに、スパークガールとなったライムが現れた。彼女は犯人が現れる場所を推測して絞っていた。
(女性はあの占いの館の近辺で起こってる・・館の主人が犯人と決まってはいないけど、犯人がこの辺りで現れる可能性が高い・・)
占い館の近くにいたライムが、犯人の行方を追う。彼女は目を凝らして周囲を見回していく。
そのとき、ライムの耳に足音が入ってきた。強く走っていく足音だと、彼女は気付いた。
(もしかして犯人に追われている・・!?)
犯人が現れたと思って、ライムは動き出した。建物の屋根や屋上を跳び渡って、彼女は黒い影を見つけた。
「待ちなさい!」
ライムが呼びかけると、影が彼女に振り向いた。
「あなたが連続誘拐犯の犯人ね!このスパークガールが、あなたを成敗するわ!」
ライムが影に向かって言い放つ。
「お前はあのスパークガール・・シャドウレディに挑戦した娘か・・」
振り向いた影が彼女を見て、不気味な笑みを浮かべる。
「お前もいただかせてもらおう・・シャドウレディをいただく前のいい弾みになる・・」
「いただくって・・あたしをバカにしないほうがいいわよ!」
言いかける影に不満を口にして、ライムが建物の屋上から飛び降りる。背中のバックパックから射出したワイヤーを駆使して、彼女は宙を舞う。
バックパックや手首の腕輪から出すワイヤーで、ライムは高速を可能にしていた。
しかし影はライムのスピードに動じることなく、軽やかな動きで攻撃をかわしていく。
(どういうことなの!?攻撃が全然当たんないなんて・・!?)
影の不気味な動きにライムは驚きを感じていく。
(負けるわけにはいかない!あたしがやらないと、街の平和が悪くなってしまう!)
ライムが自分に言い聞かせて、影に向かってさらに攻撃を仕掛ける。しかし影には全く当たらない。
「あまり時間を使ってもいいことはない・・そろそろ終わりにする・・」
影が呟いて、懐から1つの水晶を取り出した。影が力を込めると水晶に不気味な光が宿る。
影がライムに向かって水晶を投げる。水晶が体に当たった瞬間、ライムが突然まばゆい光に包まれた。
「キャアッ!」
ライムが光の中で動きを止められる。体を動かそうとする彼女だが、指一本動かすことができない
ライムを閉じ込めている強い光の中で、スパークガールの衣装や装備が崩れて吹き飛ばされていく。
(ど、どうなってるの!?あたし、裸に!?)
裸をさらけ出されて、ライムが驚愕する。しかし彼女は体を動かすことも、声を出すこともできない。
(ダメ・・力が、抜けていく・・・!)
力が出なくなるだけでなく、抗おうとする意思も消えていくライム。意識を失った彼女を包む光が一気に強まった。
光が小さくなって、元の水晶に戻った。影が笑みを浮かべて、地面に落ちた水晶を拾った。
その水晶の中には、全裸のライムが眠るように閉じ込められていた。
「シャドウレディを追い詰めた娘も今、私の手の中にある・・・」
影が水晶の中のライムを見つめて笑みをこぼす。
「まさかかつらも付けていたとは・・これではスパークガールだといっても分からないだろう・・・」
スパークガールの正体であるライムを見つめて、影が呟く。
「しかし私のコレクションにはふさわしい・・この勢いで増やしていく・・そしていつか必ず、あのシャドウレディも・・・」
シャドウレディも標的に入れて、影が不気味な笑みを浮かべる。影はライムたちを封じ込めた水晶を持って、音を立てることなく姿を消した。
ライムや美女を誘拐した影は、占いの館の占い師だった。彼女は魔界の人物と契約して、水晶に生き物を封じ込める能力を手に入れたのである。
占い師はその力で美女たちを水晶に封じ込めて誘拐して、私室にコレクションとして置いていた。
全裸の女性たちを封印した水晶を部屋の棚に置いていく占い師。ライムもその棚に置かれることになった。
「あのシャドウレディも、必ず私のものにしてやる・・それで私のコレクションは一気にすばらしくなる・・・」
シャドウレディと会えることを期待して、占い師は次の美女を狙うときを待つことにした。
ところが数日後、占い師は何者かに殺された。犯人の正体や手がかりが不明の暗殺だった。
占い師が死んだことで、水晶に封印されていたライムや女性たちは解放された。
「あ、あれ?・・ここは・・?」
「ここはどこ?・・私、今までどうしていたの・・?」
女性たちが周りを見回して、動揺を見せる。
「そういえば、黒い誘拐犯に会って、光に包まれたら服が破れて裸にされて・・!」
「でも、それからどうなったのか、全然分かんない・・・」
女性たちが記憶を巡らせて、自分たちの身に起きたことを思い出していく。しかし水晶に封じ込められてからは意識がなく、封じ込められたという実感はなかった。
(何があったっていうの?・・犯人は・・!?)
ライムは誘拐犯が近くにいるかどうかを確かめようと、周りを見回す。しかし部屋とその周辺は自分と女性たちしかいない。
(あたしたちしかいない・・何がどうなってるの・・・!?)
事態を把握することもできず、ライムは困惑するばかりだった。
結局、彼女も警察もこの事件について詳細を突き止めることができず、犯人であることが分からないまま、占い師の死亡が確認されただけだった。
それから数日が経過した。占い師による誘拐事件の不安が和らぎ始めた頃だった。
再びグレイシティで美女の失踪事件が起こった。またしても夜な夜な美女の行方が分からなくなっていた。
(また、女性がいなくなる事件が・・この街には女の敵の住処になってるとでもいうの・・!?)
新たな事件の発生に、ライムは肩を落とす。
(でもあたしはやるよ!この街の正義を守れるのはあたし、スパークガールだけなんだから!)
ライムが気を引き締めて、事件を解決する決意を固める。
(事件が起こった場所は・・今度は植物園の近く・・)
失踪の起こった地点を確かめて、ライムは事件解決に乗り出していくのだった。
スパークガールに扮して、ライムは植物園の近くの通りに来ていた。通りの道には人が歩く様子は見られない。
(この辺りに出てくる確率が高いけど・・・)
ライムが通りを見渡して様子をうかがう。
そのとき、1人の人物が1人の女性を抱えて、植物園の中に入っていった。黒ずくめのローブで全身を隠していて、正体が分からない。
(あれが誘拐犯・・もしかして、さらわれた女性は植物園の中に・・!)
事件の犯人だと判断して、ライムはその後を追うことにした。
人物は植物園の庭を通り、その奥の建物の中に入った。
(植物園に簡単に入った・・ここは1人で管理しているそうだけど・・となると犯人はここの責任者・・・!)
犯人の正体に気付き始めるライム。彼女は追跡を続けて、犯人の正体とさらわれた女性たちの居場所を確実に把握しようとする。
犯人に気付かれないようにこっそりとドアを開けて、中に入るライム。彼女は明かりのない廊下を、音を立てないようにしながら進んでいく。
(この中のどこかに、さらわれた人たちがいるはず・・犯人の正体もだけど、女性たちを見つけるのが先決・・!)
ライムは周りにも目を向けて、人がいるかどうかを確かめる。しかし犯人と連れて行かれる女性以外の人を見つけられないまま、彼女は犯人を追跡していく。
そして犯人は地下の広場へとたどり着いた。スイッチが入れられたことで部屋に明かりが入る。
部屋の中央には巨大な物体があった。大木のような姿かたちであるが、不気味な雰囲気を醸し出していた。
(何、あの植物!?・・とってもイヤな感じ・・・!)
ライムが植物を見上げて、緊張を感じていく。
「さぁ、もっとたくましく美しく育つのよ。あなたが育てば、最高の花が咲き誇ることになる・・」
犯人が木に向かって声をかけて、抱えていた女性を差し出す。すると木から花が伸びてきて、女性を捕まえた。
女性が花に吸い込まれていき、枝の中をのみ込まれていく。彼女が幹に取り込まれると、気が蠢いた。
「いいわ・・また木が活気づいているわ・・この調子でもっと成長して華やかになるのよ・・」
犯人の正体、植物園の園長が木を見つめて喜びを浮かべる。
「さて、今夜はもっと成長させることができそうね・・」
園長がライムのいるほうに目を向けた。次の瞬間、ライムの後ろの廊下が、天井から出てきた壁で閉ざされた。
「わざわざここを訪れる人がいるとはね・・私としてはかわいらしい子だったから嬉しいけどね・・」
「アンタは何が目的なの!?この植物は何!?女性に何をしたの!?」
微笑みかける園長の前に出て、ライムが問い詰める。
「いっぺんにたくさん質問されても困るわ・・まずは私の目的だけど・・この植物、この花を育てるのが目的よ。より美しく、よりすばらしくね・・」
園長が落ち着いた態度のまま、ライムに語りかける。
「この花は女性のエネルギーを養分にして成長するの。より美しく、より多ければ、成長も早まるし花もより美しくなる・・」
「女性を養分に!?・・そのために女性に・・!?」
園長の話を聞いて、ライムが怒りを感じていく。
「あなたを野放しにすれば、他の女性たちも被害に遭う・・私が必ず止める!」
正義と怒りを燃やすライムが、園長に向かって飛びかかる。ライムが振りかざした右足を、園長が左手で受け止めた。
「あのシャドウレディのライバルとやらも、私と花の成長の障害になるとまではいえないわね・・」
園長が微笑んでライムの足を押し返す。ライムがさらにスピードを上げてパンチとキックを繰り出すが、園長に軽々とかわされていく。
(どうして当たんないの!?この動きを軽々とよけるなんて、とても人間業とは思えない・・!)
園長の動きにライムは驚きを感じずにはいられなかった。彼女は迷いを振り切ろうとしながら、園長への攻撃を続けた。
そのとき、ライムに向かって大木の花が迫ってきた。
「えっ!?キャッ!」
ライムが後ろから花に襲われて、頭から吸い込まれていく。彼女がもがいて脱しようとするが、花の中に取り込まれていく。
「あなたにもこの花を美しく咲かせてもらうわ!あなたならいい母体になれる!」
ライムが花に吸い込まれていくのを見て、園長が笑い声を上げる。ライムが花に完全に取り込まれて、茎の中をさらにのみ込まれていく。
(ぬ、抜けらんない・・どんどん吸い込まれてく・・!)
抵抗もままならずに、ライムは大木の中に取り込まれた。彼女の手足が大木の中に埋め込まれた。
「う、動けない・・それに、何、この霧・・!?」
もがくライムが木の中を漂う霧に緊張を覚える。次の瞬間、彼女の着ているスパークガールの服や装備が突然崩れ出した。
「えっ!?な、何っ!?」
この異変にライムが驚く。服や装備が溶けだして、彼女が裸にされていく。
「もしかしてあたし、このまま溶けてしまうの!?」
「ウフフ。その心配はいらないわ。それは生物には全く効果のない不思議なものよ。ただの物質だけを溶かして丸裸にできるのよ。」
驚愕するライムに、女性が笑みを絶やさずに言いかける。スパークガールの服も装備もかつらも溶かされて、ライムが素肌も素顔もあらわにする。
「思った通り美しい体をしているわね。あなたもこの花を美しく咲かせてね・・」
「冗談じゃない!誰がアンタなんかのためにあたしが!」
言いかける女性にライムが言い返す。ライムは必死に気の中から抜け出そうとする。
そのとき、ライムの体に異変が起こった。体が徐々に金属のようになって固まり始めた。
「な、何っ!?どうなってるの!?」
固まった自分の体を思うように動かせなくなって、ライムが驚愕する。
「これであなたも花と一体となる。そのきれいな姿が変わることがないから、あなたも幸せね・・」
「勝手なこと言わないで・・あたしは、このままやられるわけには・・・!」
喜びを募らせていく園長の前で、ライムが抗おうとする。彼女の体の変質が進んで、首元まで迫った。
(イヤだよ・・こんなところで、このままこうしているなんて・・絶対にイヤだよ・・・!)
心の中で悲鳴を上げるライム。顔も髪も固まって、彼女は完全に動かなくなった。
「いいわ、いいわ・・今夜はついているわね。1日で2人も美女を花に捧げることができたわ・・」
ライムも木の中に取り込んだことに、園長が喜びを膨らませていく。花がさらに成長して大きくなっていく。
「思った通り、あなたもきれいな体をしているわね。それを永遠のものになって、あなたも幸せ者ね・・」
木に取り込まれているライムの固まった裸身を見つめて、喜びを膨らませていく。固まっているライムは微動だにしなくなっていた。
「あなたも最高の花と一緒に、このすばらしい時間を過ごしていくのよ・・花を成長させる母体になっても死ぬことはないから安心して・・」
園長は囁くようにライムに言いかけた。それでもライムは何も答えない。
「みんな美しくすばらしくなっていく・・もっともっと・・花も女性たちも・・」
自分が育てる花の成長を確信して、園長は喜びを膨らませていく。ライムも木の中での時間を過ごすことになってしまった。
それから次の夜のことだった。
園長が突然命を落とした。植物園の近くのビルから飛び降りての自殺だった。
そして巨大な木と花は枯れて、中にいたライムや女性たちは元に戻って外に出ていた。女性たちは全員、近日中に行方不明になっていた人ばかりだった。
警察に保護されることになったライムと女性たち。ライムは園長に弄ばれたことに屈辱を感じていた。
園長の死亡。それが自殺ではなく暗殺されたものということは、ライムも誰も知らないままだった。
それから数日後、奇怪な事件はまた起こった。またしても女性の失踪事件が起こった。
失踪事件の裏に現実離れした事件が潜んでいるのではないかと、ライムも直感することができた。
しかしグレイシティの平和を守れるのは自分だけ。ライムはそう自分に言い聞かせて、スパークガールとしての戦いに乗り出した。
スパークガールに扮したライムが向かったのは、グレイシティの外れにある宝石店。外れにあることから強盗の被害に遭ったことが少なく、シャドウレディも踏み入っていない。
(この辺りで女性が行方不明になっている・・犯人はこの近くに潜んでるはず・・・!)
ライムが宝石店の周りを見回して、警戒を強める。しかし周囲の道を人が通る気配も見られない。
(犯人は必ずこの近くに現れる・・・今度こそ・・今度こそ・・!)
今度は犯人にやられて屈辱、恥辱を味わったりしない。決意を強めたライムは、さらに目を凝らした。
「捜しているのは私かしら?」
そこへ声がかかって、ライムが目を見開く。振り返った彼女の前に、全身黒ずくめの女性が立っていた。
「もしかしてアンタが、女性をさらっている誘拐犯!?」
「世間の見方からしたらそうなるわね。」
問いかけるライムに女性が微笑んで答える。
「あなたのことは聞いているわ。スパークガール。シャドウレディの正体を暴こうとしたけど、返り討ちにされた・・」
「あのときは油断したけど、今度はそうはいかないわ!必ず成敗してみせるわ!あなたも、シャドウレディも!」
語りかける女性に言い返して、ライムが飛びかかる。彼女が手や足を振りかざすが、女性は軽やかにかわしていく。
(今度こそ勝たなくちゃ・・何度も何度も、悪者にやられて裸にされたんじゃたまんないから!)
心の中で自分に言い聞かせながら、ライムは力を込めて攻撃を続ける。しかしそれでも女性に攻撃を当てられない。
「シャドウレディを追い詰めたあなたがこの程度とはね・・これじゃシャドウレディをものにするのも、難しくなさそうね・・」
「あたしを甘く見ないで・・あたしはスパークガール!アンタの悪事を暴いて止めてみせる!」
さらに微笑む女性に、ライムが声を振り絞る。
「エレキロッド!」
ライムがエレキロッドを手にして、電気を発しながら振り下ろす。女性は軽やかに動いて、ライムの攻撃をかわした。
「物騒なものを使うのね。あまり時間を費やすのはよくないようね・・」
女性は笑みを消すと、右手の中で小さな光の球を作り出した。
ライムが再びエレキロッドを振り下ろしてきた。女性は彼女の一閃をかわすと、光の球を彼女の胸元に当てた。
「なっ・・!?」
光の球がそのまま胸元に入り込んで、ライムが驚く。次の瞬間、彼女は体を思うように動かせなくなる。
「どうなってるの!?・・体が、言うことを・・・!?」
「これであなたも私のものになったわ・・」
驚きを見せるライムに、女性が喜びを見せる。次の瞬間、ライムの身にまとっているスパークガールの衣装が、広がる光に巻き込まれて吹き飛び始めた。
「な、何、コレ!?・・体が、動かない・・!?」
体を動かせなくなるライムが緊迫を募らせる。あらわになった彼女の肌は、輝きを宿した宝石に変わっていた。
「えっ!?あたしの体が・・!」
「あなたも美しい宝石になるのよ。永遠に輝かしい姿でいられることこそ、女としてこれ以上の幸せはない。」
驚愕を隠せなくなるライムに、女性が笑みを浮かべて言いかける。ライムの体の異変は徐々に広がって、宝石となった素肌がさらけ出されていた。
「まさか、アンタがさらった女性みんな・・!?」
「そう。みんな、きれいな宝石になっているわ。あなたも私のコレクションの、その仲間入りをするのよ。」
目を見開くライムに、女性がさらに微笑んで言いかける。ライムの体の宝石化は、スパークガールの衣装や装備だけでなく、かつらの髪も吹き飛んでいく。
「あたしは・・アンタなんかに負けるわけには・・・!」
声と力を振り絞って必死に動こうとするライムだが、体の自由は利かなくなる一方だった。
「あなたは正義の味方ではない。永遠の美しさを宿した宝石として生き続けていくのよ・・」
宝石と化したライムの裸身を見つめて、女性が妖しく微笑む。
「イヤ・・あたしは・・悪者の思い通りになんて・・・!」
女性にいいようにされることに、屈辱と恥辱を覚える。彼女の手足の先まで宝石に変わって、唇も本当の髪も固まっていく。
微笑み続ける女性を見つめたまま、ライムは目に涙を浮かべる。涙があふれた瞬間、ヒトミも宝石に変わって、ライムは完全に固まった。
「これでまた、美しい宝石が増えたわね。しかもシャドウレディを追い詰めたスパークガールの宝石・・」
女性が喜びを膨らませて、全裸の宝石の像となったライムを見つめる。
「あなたは私の目につきやすいところに置いてあげるわ・・輝いているあなたをすぐに見れるように・・・」
女性はライムに近づいて、優しく抱きしめる。女性はライムを抱えたまま、音もなく姿を消した。
宝石店の近くにある店主の自宅。その地下の大部屋に女性は現れた。
誘拐犯は店主だった。彼女は女性を捕まえては体を宝石に変えて、大部屋に置いていたのである。
店主は宝石の像になったライムを、大部屋の中央に置いた。
「やはり見栄えがいいわね。ここに置いたことでさらにね・・」
店主がライムを見つめて、妖しく微笑む。
「あの長い髪が本物でなかったけれど、それでもきれいな体の持ち主だったことに変わりない。宝石となったことでさらに磨きがかかったわね・・」
店主がライムの宝石の裸身に触れて撫でまわして、至福を感じていく。ライムは触れられても全く微動だにしない。
「後はシャドウレディをものにすれば、私のコレクションは1つの完成を迎えるわ・・」
店主はライムから手を放して、シャドウレディのことを考える。
「正体を暴こうとしたあなたのそばに置いてあげるからね・・素顔というよりは素肌になるけど・・ウフフフフ・・」
店主が振り返って、大部屋を後にした。ライムは宝石の像にされたまま、その中央で立ち尽くしていた。
その次の夜、宝石にされていたライムと女性たちが元に戻った。
「えっ?・・私・・・?」
「確か黒い服を着た人に何か光を当てられて、そうしたら体が動かなくなって・・・」
女性たちが自分たちの身に起きたことを思い返して、困惑と不安を感じていく。
(ま、また知らない場所と、裸の女の人たち・・そしてあたしも丸裸・・!?)
ライムも状況を確かめて、自分が裸になっていることも実感して動揺を覚える。
(あたし、犯人にやられて裸にされて、また誰かに助けられたってことなの・・・!?)
自分の裸を抱きしめて、ライムは込み上げてくる屈辱と恥辱を痛感していた。
宝石店の店主は、魔界から持ち出された宝石「魔石」の新たな1つから力を得ていた。しかし魔石を封印されたことで彼女は力を失い、それにより宝石にされていたライムたちは元に戻ったのである。
魔石封印がシャドウレディの介入によるものだということを、世間は知らなかった。
何度も犯人追跡に出て、ことごとく犯人の魔の手に落ちてしまったライム。その度に裸にされてしまったことに恥ずかしさを感じて、彼女はすっかり落ち込んでいた。
(う〜・・これじゃ悪者にいいようにされるばかりじゃない〜・・!)
悪者にされるがままの繰り返しに、ライムは胸を締め付けられるような気分を感じていた。
(・・この感じ・・前にも、どこかで・・・)
そのとき、ライムの頭の中にある記憶が浮かび上がってきた。それは彼女が気が付いたら、夜の街に全裸でいたときのことだった。
「そういえばあのとき・・何でいきなり裸で外にいたんだろう?・・今回、誘拐犯に裸にされて、体が動かなくなって・・・」
さらに記憶を呼び起こそうとするライム。すると、ある出来事が頭の中に浮かび上がってきた。
「前にも誘拐事件があって、あたしは確か犯人を捜したはず・・・そして、見つけて、戦って・・・」
ライムはその記憶が何かを確かめようと、記憶を呼び起こそうとした。
美女の連続誘拐を追っていたライム。スパークガールに扮したライムは、彼女の親友である小森アイミを狙う黒ずくめの男の前に現れた。
アイミを助けるため、犯人を捕まえるため、ライムは戦いを挑んだ。しかし誘拐犯に決定打を与えられず、逃げようとしたアイミが捕まったことに気を取られて、ライムも捕まってしまった。
カッ
そして誘拐犯の目からまばゆい光が放たれた。
ドクンッ
光を受けたライムが強い胸の高鳴りを覚えた。
ピキッ ピキッ ピキッ
スパークガールの衣装が吹き飛んで、あらわになった左腕、左胸、下腹部が固くなって、ところどころにヒビが入った。
「私のコレクションに加わる資格もない!終わることのない昼と夜の繰り返しを見守り続けるがいい!」
「な・・何なの、コレ!?」
言い放つ誘拐犯の前で、ライムは固まった左腕を目の当たりにして驚愕する。彼女の体は石に変わっていた。
パキッ
誘拐犯がアイミに振り向いた中、ライムの体を蝕む石化は進行して、スパークガールの衣装もかつらも崩壊していく。
「く、くそっ・・!」
ライムが必死に力を入れて、右手でヘアバンドの右から発信器を飛ばした。誘拐犯はアイミに目を向けていて、発信器を付けられたことに気付かなかった。
ピキキッ パキッ
その間にもライムにかけられた石化が進行して、両足や右手の先まで石に変わっていた。体に力を入れられなくなって、彼女は脱力していた。
(力が入らない・・体が石になるなんてこと、現実にあるわけ・・・!?)
非現実的な現象にライムが激しく動揺する。体の石化で動けなくなり、彼女は絶望を感じていく。
(アイミちゃん・・・!)
アイミに目を向けて沈痛さを感じていくライム。ヘアバンドの右にある発信器のレーダーが外れて落ちる。
「ゴ・・ゴメン・・・タ・・・タスケ・・・ラレ・・・ナ・・・」
ライムがアイミに向けて声を振り絞る。かつらもほとんど崩れて、石化した本当の髪もあらわになっていた。
パキッ ピキッ
唇も石に変わって、ライムは声を出すこともできなくなる。
「ヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒ・・!」
ただただ前を見ることしかできなくなったライムを、誘拐犯があざ笑う。
(全然動けない・・声も出せない・・このまま丸裸にされて、アイミちゃんがさらわれるのを黙って見ているしかないなんて・・・!)
全裸でアイミが誘拐犯に連れていかれるのを見ているしかないことに、ライムの心は悲しみと絶望に包まれていた。
ピキッ パキッ
そのライムの頬を、石化が容赦なく蝕んでいく。彼女の目から涙が浮かんできた。
フッ
その瞬間、ライムは意識を失った。この瞬間からどうなったのか、彼女は分からなかった。
このまま全裸の石像となって、この場にずっと留まることになったのではないか。意識を失う直前、ライムはそう直感していた。
次にライムの意識が戻ったときには、事件の全てが終息に向かい、彼女がその全てを忘れていた。
その後、なぜ自分が全裸で外にいたのかが分からないまま、ライムは寒さと恥じらいを感じながら戻ることになった。
昨晩に宝石にされた以前に、石化されて全裸の石像にされたのではないか。その瞬間が頭の中をよぎって、ライムが体を震わせた。
(そんなのありえない・・ありえないよね・・いくらなんでも、あんな現実離れしたことが起こるはずないって・・・!)
ライムが心の中で自分に言い聞かせていく。
(この前の宝石にされたように見えたのも、他の事件のときも、きっと気のせいだよ・・うん、絶対にそう・・!)
よぎってきた記憶が夢や嘘だと思って、ライムは気持ちを切り替えた。
(あたしの、スパークガールの活躍は、どこまでも続くんだからねー!)
ライムは意気込みを見せて、スパークガールとしての次の出動に備えるのだった。
グレイシティを守るために、ライムはスパークガールとなって戦い続ける。
たとえ特異の力によって幾度となく素肌をさらけ出されることになっても。