持ち去られる二人

 

 

 連続美女誘拐事件。

 美女が次々とさらわれて、石化されて全裸のオブジェにされた事件。美女たちは石化が解かれたときにその記憶がなくなっていて、真相を知る者はごく一部だけだった。

 しかし事件の犯人の手にかかった女性は、彼女たちが見つかった場所にいるのが全員ではなかった。

 連れ去られることなく、外で石化されて置き去りにされた人もいた。

 

 美女の誘拐事件が始まってから数日後。2人の少女が事件を調べて犯人をやっつけようと乗り気になっていた。

「ねぇ〜・・やっぱりやめようよ、ハルお姉ちゃ〜ん・・」

「そうはいかないわよ、アキ!女性が次々にいなくなってるのに、黙ってらんないって!」

 ショートヘアの妹、アキが困った顔を見せて、ポニーテールの姉、ハルが意気込みを見せる。ハルは犯人の誘拐という犯行が許せなくて、事件を解き明かそうとしていた。

「でも何人も女性がいなくなっているんだよ・・私たちまで捕まって、何かされたら・・・!」

「あたしはそう簡単にはやられないわよ!それにもし捕まっても、そこが犯人のアジトだって、みんなに知らせることができるじゃない!」

 不安と心配を見せるアキだが、ハルは意気込みを見せる。

「あたしだけでも犯人を突き止めちゃうんだからねー!」

「そういうわけにいかないよ・・お姉ちゃんだけを行かせるわけにいかないよ・・・!」

 乗り気のハルを放っておくことができず、アキも彼女と一緒に行動することになった。

 

 その日の夜、ハルとアキは誘拐事件の犯人を追って、街に繰り出した。ソフトボールをやっているハルは、バットを武器として手にしていた。

「そんなのでやっつけられるなら、警察が犯人を逮捕していると思うんだけど・・」

「しょうがないでしょ!これぐらいしか武器らしい武器がなかったんだからー!」

 不安を口にするアキに、ハルがふくれっ面を見せる。

「とにかく、犯人をやっつけに行くよー!」

 ハルが気を取り直して歩き出す。アキは肩を落としてから、ハルを追いかけていった。

 夜の街中は明かりがほとんど差さず、暗闇を広げて不安をあおっていた。アキが不安を膨らませる中、ハルは犯人捜しに躍起になっていた。

「本当に誰も見かけないよ・・これじゃ例の誘拐犯じゃない人が襲いに出てくるんじゃ・・」

「だったらその悪い人もあたしがやっつけちゃうからね!アキは安心してていいわよー!」

 不安を膨らませるアキだが、ハルは今も前向きになっていた。張り切っている彼女に、アキは呆れるばかりになっていた。

 街中の路地を進んでいくハルとアキ。夜の路地は明かりがほとんどなく、周りは暗闇が広がっていた。

「何が出てくるか、全然分かんないよ・・」

 暗闇の先が何も見えないことに、アキが不安を膨らませていく。

「あたしから離れなければ大丈夫だから!アキ、そばについてて!」

 ハルが呼びかけて、アキは彼女にすがりつくしかなかった。

 そのとき、ハルとアキのいる場所に白い霧が立ち込めてきた。

「な、何・・!?

 突然の霧にアキが動揺する。ハルが警戒してバットを構える。

「何、この霧!?・・霧が出るなんて予想なかったし、この街に霧が出るなんて聞いたことないし・・・!」

「だ、誰かいたずらでもしてるの・・!?

 アキが驚いて、ハルが周りを警戒する。霧は濃くなって、2人を取り囲んだ。

「これじゃもっと周りが見えない・・やっぱり早くここを離れたほうが・・・!」

「あたしから離れないで、アキ!きっと誘拐犯がコレに紛れて、あたしたちに近づいてきてるかもしれないよ!」

 恐怖を膨らませるアキに呼びかけて、ハルが身構える。立ち込める白い霧の中から、黒い影が現れた。

「ふえっ!?で、出たー!」

 ハルが声を上げて、たまらずバットを振り下ろした。バットは地面に当たって、音が響いた。

「あ、あれ!?いない!?見間違い!?

 ハルが驚いて周りを見回す。周りの白い霧の中に、黒い影は見当たらない。

「は、犯人が近くにいるの・・!?

「あたしから離れないで、アキ!ゆっくりとはじに行くからね!壁沿いなら後ろに回り込まれることは・・!」

 恐怖をふくらませるアキに、ハルが呼びかける。2人がゆっくりと後ろに下がって、壁にもたれる。

 次の瞬間、ハルとアキの目の前に黒い影が現れた。影は霧をかき分けて、その姿を現した。

 その姿も服や髪だけでなく、肌も黒。完全に黒ずくめの男だった。

「な、何、コイツ!?

 ハルが男に驚いて、慌ててバットを振りかざす。しかしバットは霧をかすかに払っただけで、男には当たっていない。

「よ、よけられた!?

「お、お姉ちゃん・・!」

 ハルがさらに驚いて、アキが彼女にすがりつく。

「ヒッヒッヒッヒ・・1度に獲物が2人とは・・・」

 男がハルたちを見て不気味な笑みを浮かべる。

「お前たちも私のものとなる・・私についてくるのだ・・」

「冗談じゃない!あたしたちはアンタなんかに捕まったりしないよ!」

 手を伸ばしてくる男に言い返して、ハルがバットを振りかざす。しかし男に軽々とかわされる。

「私に対する態度ではないぞ・・大人しく私に従え・・」

 ハルとアキの横に動いていた男が、いら立ちを込めた口調で言いかける。

「イヤだ!誘拐犯の言うことは聞かない!ここであたしがやっつけちゃうんだから!」

 ハルが言い返してバットを構える。男が彼女たちを狙って手を伸ばす。

 ハルがアキを突き飛ばして男から遠ざける。直後にハルは男に向かってバットを振りかざす。

 男がバットをかわして、ハルの腕をつかんだ。

「うあっ!放して!」

「捕まえたぞ、女・・」

 腕を引っ張られてうめくハルに、男が笑みを浮かべて言いかける。腕を押さえられて、ハルが持っていたバットを落としてしまう。

「もう1人の女を捕まえて、まとめて連れていくぞ・・」

 男がアキも捕まえようとした。そのとき、アキが落ちていたバットを拾って振りかざしてきた。

 バットがハルをつかんでいる男の腕に当たった。その衝撃でハルが男から離れて、アキと合流する。

「お姉ちゃん!」

「アキ、大丈夫!?助かったよ!」

 アキとハルが声をかけ合って、安心を見せ合う。そのとき、黒い物が伸びてきて2人の体に巻きついた。

「うあっ!」

「キャッ!」

 ハルとアキが体を持ち上げられて、悲鳴を上げる。彼女たちを縛っていたのは、男が伸ばした髪だった。

「今度こそ捕まえたぞ、女ども・・・」

 男がハルとアキを見つめて、不気味な笑みを浮かべる。しかしすぐに彼の笑みが消える。

「私に逆らい傷を負わせて・・・お前たちはもういらん!」

 男が憤りをあらわにして、ハルとアキに鋭い視線を向ける。

 

    カッ

 

 そのとき、男の目からまばゆい光が放たれた。

 

   ドクンッ

 

 光を受けたハルとアキが強い胸の高鳴りを覚える。

「な、何、今の・・!?

「アンタ、あたしたちに何をしたの!?

 アキが困惑して、ハルが声を荒げる。

「これでお前たちは、私の思いのままだ・・・!」

 男が彼女たちを見て不気味な笑みを浮かべた。

  ピキッ ピキッ ピキッ

 次の瞬間、ハルとアキの着ていた上着が、2人を縛っている髪ごと引き裂かれた。あらわになった2人の体は、固まってひび割れを起こした。

「私のコレクションに加わる資格もない!私に刃向かった罪と、美しいオブジェになれる喜びを感じながら、ここで永遠に過ごすがいい!」

 男がハルたちに向かって言い放つ。男が目から光を放って、ハルとアキの体を石に変えていた。

「な・・何、コレ!?

「体が石に!?・・そんなこと、現実にあるなんて・・!」

 自分たちの身に起こったことに、アキもハルも目を疑う。

  パキッ

 ハルたちに起こっている石化が進行して、その部分の衣服が引き裂かれていく。

「石になっていくのが広がっている・・動けなくなっていく・・・!」

「もしかして、アンタがさらった人みんな、石にして、裸にして・・!?

 アキが動揺を膨らませて、ハルが男に問い詰める。

「世の中の女は私のものだ。コレクションに加えずとも、オブジェにすることで私に屈服させることになる・・」

 男が笑みを浮かべて、ハルたちを見つめて野心を口にする。

「ふざけないで!あたしたちはアンタの思い通りになんて・・!」

  ピキッ ピキキッ

 ハルが言い返そうとしたとき、彼女とアキの石化が進んで、2人のズボンが引き裂かれた。

「わ、私たち・・裸に・・・!」

「ふざけないで!あたしたちを元に戻してよ!」

 アキがさらに恐怖して、ハルが声を張り上げる。

「口の利き方に気を付けろ・・石化の進行は私の思いのまま・・一気にオブジェにすることも、その後に壊すこともできるのだぞ・・!」

 男がハルたちに向けて鋭く言いかける。

  ピキキッ パキッ

 石化がハルとアキの手足の先まで及ぶ。2人とも衣服を完全に引き裂かれていた。

「私たち・・このままここで、裸のままずっと・・・!?

「体が動かない・・あんなのに・・あんな悪いヤツに・・・!」

 アキが絶望に襲われて、ハルも身動きが取れなくて焦りを募らせていく。

「アキ、ゴメン・・こんなことに、巻き込んで・・・」

「ううん・・お姉ちゃんのこと、放っておけなかったから・・・」

 謝るハルにアキが言い返す。

  パキッ ピキッ

 石化は2人の髪や頬にも及んでいた。動けなくなったハルとアキは、男のいる前方を見ることしかできなくなる。

「お姉ちゃん・・・私・・・」

「アキ・・お姉ちゃんが、ずっとそばに・・いるから・・・」

 互いのことを思って、アキとハルが声を振り絞る。

  ピキッ パキッ

 唇も石に変わって、2人は声を出せなくなる。

「ヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒ・・!」

 男が不気味な笑い声を上げて、漂う白い煙とともに姿を消した。彼が去っていくのを、ハルとアキは見つめることしかできなかった。

(アキ・・・)

(お姉ちゃん・・・)

    フッ

 互いへの思いを募らせた瞬間、瞳も石に変わった。ハルとアキは完全に石化し、全裸の石像にされてその場に取り残された。

 

 男によって石化された夜が明けた。ハルとアキは全裸の石像にされたまま、道の隅で立ち尽くしていた。

「おや?何じゃ、こりゃ?」

 そこへ1人の男が通りがかって、ハルたちを目にした。

「美しい女の石像・・しかも裸じゃないか・・!」

 男がハルたちに喜びと興奮を覚える。

「何でこんな素晴らしい石像が、こんな道の真ん中に置かれてるんだ?」

 彼がハルたちを見て首をかしげる。

「まぁいい・・こんなに素晴らしい石像、値打ちはかなりのものだとすぐに分かる・・・!」

 男がすぐに笑みを浮かべて、自宅である屋敷に連絡を入れた。

「ちょっと大荷物を運ぶことになったから、車をよこしてくれ。」

 男が連絡で呼び出して、1台のトラックがやってきた。男はその後ろにハルとアキを乗せて、揺れないように固定した。

 男は自らが運転手になって、トラックでハルたちを屋敷に運んだ。彼は屋敷の中の自分の部屋に、ハルたちを連れ込んだ。

「いやぁ、すばらしいなぁ。こんなきれいな石像が、あんなところにあったなんてなぁ・・しかも美女の、それも裸の・・」

 ソファーに腰を下ろした男が、ハルとアキを見つめて喜びを募らせていく。

「2人の美女が裸で立ち尽くす・・2人ともいい体をしている・・・!」

 男がハルとアキの石の素肌に手を触れて、撫でまわしていく。彼に触られても、ハルたちは微動だにしない。

「石だから硬いが、こうして美女の体を触り放題だから、嬉しい限りだなぁ〜・・」

 女性の裸に触れることに、男は喜びを感じていく。満足していく彼は、再びソファーに腰を下ろした。

「いいものを手に入れた・・しかもあんなところで・・・最高の幸運というものだ・・・!」

 ハルとアキに満足して、男は喜びを募らせていった。

 

 それから数日間、男は屋敷に帰宅すると、ハルとアキを観賞して楽しんでいた。

「いやぁ、どんなに厳しいことをさせられても、この石像を見てるとイヤなことを忘れられる・・」

 男がハルたちの石の裸身を見つめて笑みをこぼす。

「石ならば、見ても触っても嫌がられることはない。本物の感触じゃないが、これも悪くないぞ・・」

 男は興奮を膨らませながら、グラスに入れたワインを口にした。酔っていく彼が、ハルとアキにすがりついてきた。

「私はいつでもこれで楽しめる・・美女の裸を堪能すれば、気分が清々しくなる・・・!」

 ハルたちの石の裸身を手で撫でまわして、男は笑みをこぼす。興奮と酔いで、彼はすっかり有頂天になっていた。

 そのとき、石になっていたハルとアキが、突然元に戻った。

「えっ?・・・ここは、どこ・・・?」

「ち、ちょっと、アンタ、誰!?

 アキが動揺を浮かべて、ハルが男を見て驚く。

「な、なにーっ!?

 男も彼女たちを見て、驚きの声を上げる。

「キャーッ!何で裸なのー!?・・まさか、アンタがあたしたちを!?

 アキが自分たちが全裸になっていることに気付いて、男に鋭い視線を向けた。

「どど、どうなってるんだ!?石像が本物になった!?

「何をわけの分かんないことをー!」

 驚きを隠せなくなっている男に怒鳴って、ハルがそばにあったビンをつかんだ。

「このド変態がー!」

「ギャー!」

 ハルが振りかざしたビンを体に受けて、男が突き飛ばされて壁に叩きつけられた。男は座るように倒れて、気絶して動かなくなった。

「あ、あたしたち、いつの間にこんなヤツに、裸にされて、変なことされて・・・!」

「で、でも・・こんなことになっていたのに、私たち、全然気が付かなかったなんて・・・」

 ハルが恥じらいを募らせて、アキが自分たちのことを考える。

「そういえば・・何でこんなことになったのか、全然分かんない・・・」

 ハルが記憶を巡らせるが、思い出すことができない。

「と、とりあえず家に帰らないと!いつまでもこんなとこにいたってしょうがないじゃん!」

 ハルが気を取り直してアキに呼びかける。

「でもどうやって帰るの?・・ここがどこなのか、分かんないし・・・」

「あっ・・・」

 アキからの問いかけに、ハルが言葉を詰まらせた。

「し、仕方がない・・ここの電話を使って・・・!」

 ハルが大きく頷いて、屋敷の中にあった電話を使って、警察に連絡をした。その直前に、彼女とアキは寝室のベッドのシーツを巻きつけて、裸を隠した。

 

 ハルたちからの通報を受けて、警察が男の屋敷にやってきた。男は監禁の容疑で逮捕となったが、ハルとアキが裸で屋敷にいた時までの記憶がなくて、警察は詳しい話を聞くことができなかった。

 このまま警察に保護されて、ハルとアキは自分たちの家に帰ることができた。しかし2人とも事件のことが何も分からず、モヤモヤした気分を抱えていた。

 

 ハルとアキが石像から元に戻った頃、青年実業家、花山(はなやま)クラインの屋敷から全裸の女性が大勢発見された。

 なぜ屋敷で全裸でいたのか、女性たち自身も全く覚えていなかった。警察も彼女たちに対しても気が滅入っていた。

 こちらの騒動も真相が明かされないまま終息に向かうことになった。

 ハルもアキも、クライン邸にいた女性たちも知る由もなかった。

 自分たちが体を石にされていたことを。その犯人がクラインだったことを。

 

 

短編集

 

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