冬の固めシリーズ
「聖夜の幸せ」
ここはとある女子高。
この学校とこの周辺には、様々な奇怪な事件や出来事が起こっている。
この出来事も、そんな事件の1つである。
年末間近のイベントとまで称されるようになったクリスマス。家では家族でのパーティーが行われ、街ではカップルたちが賑わいを見せていた。
しかし、誰もが幸せなひと時を過ごせるというわけではない。1人寂しく、自分だけの時間を過ごす人もいる。
レナもバイトの毎日を送っていた。もちろん、年末年始も例外なくバイトをする予定でいる。
しかし今回に限ってなかなかいいバイトが見つからない。この日もレナは情報雑誌を手にして選別をしていた。
「レナ、またバイト探し?」
「うん。でもいいのが見つからなくて。こんなことは初めてだよ・・ねぇ。何か、よさそうなもの知らない?」
話しかけてきたクラスメイトに、レナが淡々と訊ねる。するとクラスメイトは首を貸しげながら考える。
「う〜ん・・確か、クレープ屋の近くの骨董屋で、それらしい張り紙出してたっけ・・」
「骨董屋?あの古びたお店?あそこあんまり人来ないんじゃなかったっけ・・・?」
レナも考え込んで、その店を思い返していた。
「・・でも、あんまり選り好みしちゃうと、ホントに仕事がなくなっちゃうかもしれないし。見てくるだけでもいいかもね。」
こうしてレナは、とりあえずその骨董屋に向かうことを決めた。
街外れにある小さな骨董屋。昔は人がやってきていたが、今はあまりそれが見られない。
その店の前までやってきたレナ。クラスメイトの言っていた通り、古びた店の窓に1枚の張り紙が張られていた。
「この店ね・・これがバイトのお知らせかぁ・・」
レナはその張り紙に書かれている内容に眼を通した。
「えっと・・へぇ。かわいい子で、年齢制限が16から20までかぁ・・けっこう変わった条件ねぇ・・・」
張り紙の内容を奇妙に感じて、レナが首を傾げつつも頷いてみせる。
「自給1500円かぁ・・けっこう手ごろって感じ・・ちょっと話でも聞いてみようかな・・」
レナはひとまず店の中に入ることにした。
店の中は年台ものの品物や宝石が置かれていた。片隅にはきらびやかな像が立っていて、その額は天文学的な数字だった。
「うわぁ・・こんなの、学生の所持金じゃ、買うどころか弁償もできないわよ・・・」
レナが品々の見事さと金額に、苦笑いを浮かべるばかりだった。
「何かお探し物ですか?」
そのとき、店の奥から人が姿を見せてきた。レナが振り向くと、若々しい青年が顔を見せていた。
「あの・・もしかして、店の方ですか・・・?」
「はい。そうですが・・」
レナが声をかけると、青年は淡々と答えて微笑む。
「実は店の張り紙を見て、ちょっとお話を・・」
「もしかしてバイト?」
青年は問いかけると、レナをじっと観察する。容姿を見て判断するのだろうと彼女は緊張を覚えていた。
「きれいでかわいいね。ちょっと中に入って。」
「えっ?あ、はい。」
青年に促されて、レナはそそくさに奥へ入っていく。
(もしかして、もっと詳しく聞かされるのかな・・・?)
不安と期待を感じながら、レナはさらに奥へと入っていく。そして2人は1つの部屋にたどり着いた。
「ここは、いったい・・・?」
「ここは商品の整理を主に行っている僕のプライベートルームさ。ちょっとそこに立っててくれないかな?」
説明する青年に促されて、レナは指示された場所に進む。この彼の私室は、骨董屋に関するものがいくつか置かれていた。
「そういえば君は、バイト以外でクリスマスの予定は決まっているの?」
「えっ?いいえ。クリスマスはバイトで過ごそうかと思ってますが・・」
青年の唐突な問いかけに戸惑いながらも、レナは落ち着いて答える。
「それじゃ、クリスマスは1人で過ごすことになりそうかな?」
「そうなりそうですね・・」
青年の質問に、レナは照れ笑いを浮かべながら答える。
「それはちょっといただけませんね。せっかくの聖夜なんですから、楽しくいかないと・・・あ、余計なお世話でしたか?」
「いえ、そんな・・・」
詫びようとする青年に、レナは弁解を口にする。
「あの、これから何をするんですか・・・?」
レナが不安そうに問いかけると、青年は微笑を浮かべた。
「いえ。せめて少しくらいは楽しい時間を過ごしてもらいたいと思いまして・・」
青年は言いかけて、横にあったスイッチを押した。すると彼の背後の明かりの光が収束し、レナの足元を照らし出す。
「あの、何を・・・?」
レナが青年に問いかけて、この場から動こうとした。
そのとき、レナは両足に違和感を感じた。両足が思うように動かない。
「ど、どうなってるの!?・・足が、棒になったみたいに・・・!?」
「棒ではないですよ。今あなたの足はきれいな宝石となっています。」
青年の言葉に、レナが恐る恐る自分の足を見下ろす。彼の言うとおり、明かりを浴びた彼女の両足は、ガラスのようにも見える宝石に変わっていた。
「私に何をしたの!?私をどうするつもりなの!?」
レナが恐怖に駆られながら、青年に問い詰める。青年は笑みをこぼしながら答える。
「君はこれから資産家の家のクリスマスパーティーに、クリスマスプレゼントとして贈られるのです。大富豪の皆様に幸せを与える・・すばらしいと思うでしょう?」
「イヤッ!・・お願いです、助けてください・・・!」
レナが必死に助けを求めるが、青年は笑みを浮かべたまま、彼女にゆっくりと近づいていく。
「そんな怖い顔しないで。せめて普通でいてくれないと、価値が下がってしまいますよ。」
青年は怯えているレナの頬を優しく撫でてやる。すると彼女は次第に不安を感じなくなっていく。
「あなたはきれいでかわいい。だから僕は君を、ここへ招きいれたのです。」
「私が・・・」
青年に優しく呼びかけられ、レナは無意識のうちに安堵の表情を浮かべていた。すると青年は笑みを強めた。
「そう。あなたには他の人にはないものを持っています。それをみなさんの前で披露して差し上げてください。」
その言葉に、レナはついに笑みをこぼした。彼女の体の変化は、彼女の腰の辺りにまで及んでいた。
(そうです。いくら宝石でも、くすんでしまっていてはただの石と変わりません。笑顔という輝きを備えて、あなたは本当にきれいになれるのです。)
青年がレナの下半身を見下ろした。彼女の体は透き通った宝石となっていた。
「私が・・私が、きれいに・・・」
レナが自身の美化に感嘆の声を囁いていた。聞こえないほど小さな声だったが、青年ははっきりと聞き取っていた。
やがて宝石への変化は彼女の手に指先にまでおよび、首元まで上がってきていた。
「この、先まで突き抜けるような鮮明さ・・あなたもそのすばらしさが分かっているはずだよ・・」
語りかける青年の前で、レナが宝石へと変わる。髪の先がきらめき、頬も鮮明さをまとう。
そしてついにレナの瞳さえも宝石と化した。零れ落ちた涙が、きらめく宝石の珠となって床に落ちた。
その珠を拾い、その輝きを確かめる青年。
「この涙の珠も価値の高いものです。これは店で扱うことにしましょう。」
珠を眺めてから、青年は再びレナに視線を戻す。彼女の体は透けるほどに鮮明な宝石の像となっていた。
そのとき、この部屋の電話が鳴り出し、青年は笑みを浮かべた。
「丁度お客様からの電話です。すぐにあなたをみなさんの前にお運びいたしましょう・・」
青年はそう呟くと、その電話に出た。もはやレナは、物言わぬきれいな宝石と化していた。
それからレナは資産家のクリスマスパーティーで披露された。その輝きは、パーティーに集まっていた人々を魅了していた。
そのパーティーの中にはレナの知り合いも混じっていたが、まさか彼女が宝石となってこの場にいたことなど思いもせず、全く気にとがめなかった。
ここはとある女子高。
この学校とこの周辺には、様々な奇怪な事件や出来事が起こっている。
それらの事件に巻き込まれた人々。その犯人。その真実。
それらは現在も暴かれてはいない。