SDガンダムワールド
真・戦国英雄伝
第5章

 

 

 北へ侵攻していた信長は、ノルムも襲撃し炎上させていた。そこへ光秀たちが来て、信長たちと対面していた。
「久しぶりだな、光秀。せっかくじゃ。ここで貴様の首をいただこうかのう。」
 信長が光秀に声を掛けて、高らかに笑う。
「信長・・・なぜこのようなことを・・・なぜこの村をここまで焼き払った!?」
 光秀が怒りを募らせて、信長を問い詰める。
「この村のヤツらはわしの要求を拒否した。だからわしが身の程を思い知らせてやったまでじゃ。」
「ここは村だぞ!城も武将もなく、侍も他国から通りがかる者だけだ・・それなのに、お前は・・!」
 自分の考えを口にする信長に、光秀がさらに怒りを込み上げる。
「従わない者は葬り去る。それが信長さんのやり方です。」
「信長殿の部下だったあなたには、十分分かっていたはずだ・・」
 三蔵と諸葛亮も信長たちに姿を見せた。
「諸葛亮・・・!」
「お師匠様!」
 司馬懿が目つきを鋭くし、悟空が叫ぶ。
「せっかくです。みなさん、信長さんと共に、世界のために力を使いませんか?」
「何っ・・!?」
 三蔵が誘って、司馬懿が声を荒げる。
「世界は力ある者が正しく導いていく。世界を束ね、世界の混乱を鎮静化する適した方法だよ・・」
 諸葛亮も三蔵の考えに賛同して、悠然と語っていく。
「それで逆らう人を根絶やしにしようとするのか、あなたたちも・・!?」
 光秀が三蔵たちにも問い詰める。
「もうやめてくれ、お師匠様、諸葛亮!2人とも、こんなひどいことしなかった!」
 悟空が感情をあらわにして、三蔵たちを呼び止める。
「これはひどいことではありませんよ、悟空。これこそが世界を清める術だったのです。」
「その実現が最もできるのが信長殿ということだよ・・」
 三蔵と諸葛亮が落ち着いた様子で言葉を返していく。
「諸葛亮・・・劉備が帰りを待ってるんだぞ!みんな心配してるんだぞ!」
「悟空、私はショクに戻るつもりはないよ。正しい世界を実現させるまではね・・」
 悟空から劉備のことを聞かされても、諸葛亮は考えを変えない。
「どうする、光秀?わしのところに戻るなら、また部下として使ってやらんでもないぞ。」
 信長が手招きをして光秀を誘う。
「貴様には2度と従わぬ・・野心に憑りつかれたばかりでなく、力なき者の命まで簡単に切り捨てる貴様は・・私がここで討つ!」
 光秀が怒りを噛みしめて、信長からの誘いを拒む。
「そうか・・もはや貴様は完全にわしの敵ということじゃな!」
 信長が笑みを消して、へし切長谷部を鞘から抜いた。
「ここで勝負といきますか。ならば私たちも・・」
 三蔵が信長と共闘しようと杖を構えた。
「信長殿は光秀の相手をするようですね。でしたら私たちは、司馬懿と悟空ですね・・」
 諸葛亮も頷いて、宙天羅扇を手にした。
「諸葛亮、三蔵・・どうしても戦おうというのか・・・!?」
 司馬懿も憤り、両手を握りしめる。
「悟空、覚悟を決めるしかない・・力ずくでも、諸葛亮と三蔵を止めるぞ・・・!」
「司馬懿・・お師匠様たちと戦うなんて・・・!」
 呼びかける司馬懿だが、悟空は戦うのを躊躇する。
「諸葛亮たちを止める。そのために強くなる。だからオレたちはこの旅をして、迅雷たちと会い、一戦を交えた。そうだろう、悟空!?」
「司馬懿・・・そうだ・・疾風たちに教えられた・・仲間の強さを・・オレたちの真の強さを・・・!」
 司馬懿から激励されて、悟空が疾風たちとの戦いと大切なことを思い出した。
「悟空、お前は諸葛亮の相手をしてくれ。三蔵はオレが相手をする・・!」
 司馬懿が悟空に指示を出し、三蔵に向かっていく。
「司馬懿、お師匠様はオレが・・!」
「お前が師と直接戦う必要はない・・最悪の手に出るとき、それはオレが手を染める・・・!」
 呼び止める悟空を司馬懿は説得する。
「三蔵はお前の力を抑えたことがあるそうだな。それは単純な力の差ではなく、特殊な能力によるものだろう・・その力を受けている悟空では不利だ・・」
 司馬懿からのこの指摘に、悟空が緊張を覚えた。
(そうだ・・お師匠様はオイラが悪いことをしたときや暴走したときに、念力を使って止めてくれた・・それを戦いのときに使われたら、オイラは動けなくなっちまう・・・!)
 三蔵との戦いは自分にとって不利になると痛感し、悟空は息をのんだ。
「分かったよ、司馬懿・・だから、お師匠様を絶対に連れ戻してくれ・・オイラも、諸葛亮を無事に連れ戻すから・・・!」
 悟空が司馬懿に念を押して、諸葛亮と対峙する。
「警戒心が強いですね、司馬懿さん。私はそのような卑怯なことはしませんよ。」
 三蔵が司馬懿を見て笑みをこぼす。
「不意打ちをして八戒たちを手に掛けたお前が何を言う・・・!」
「本当に、信用されなくなってしまったのですね・・・」
 不信感を示す司馬懿に、三蔵がため息をつく。
「いいでしょう。世界のため、その障害となるあなたたちを粛清させていただきます。」
 三蔵が杖の先を司馬懿に向ける。
「淵獄魔掌!」
 司馬懿が淵獄魔掌を装備して、三蔵に向かっていく。三蔵が杖を掲げて、淵獄魔掌を防いだ。
「力任せの攻撃では、私を止めることはできませんよ。」
「今のオレが力任せなだけの男だと思っているのか・・・!?」
 微笑む三蔵に、司馬懿が鋭い視線を向ける。司馬懿は杖に淵獄魔掌を当てたまま、三蔵を跳び越えて後ろに回った。
 淵獄魔掌を振りかざす司馬懿だが、攻撃が当たる前に三蔵の姿が消えた。
「移動したか・・どこだ・・・!?」
 司馬懿は気を落ち着けて、目を閉じて感覚を研ぎ澄ませた。
(そこか・・!)
 気配を感じ取った司馬懿が、振り向き様に淵獄魔掌を振りかざした。その先に三蔵がいたが、すぐにまた消えた。
(まだ反応が遅いのか・・・!)
 司馬懿が再び感覚を研ぎ澄ませて、三蔵の行方を追う。すると彼は近づいてくる力を感じ取った。
(三蔵本人ではない・・これは、ヤツが仕掛けた力・・!)
 力の正体に気付き、司馬懿が回避を取った。光が飛び込んできたが、彼から外れて消えていった。
「五感を使いこなし、周囲の動きを把握できるようになりましたか。」
 三蔵が姿を見せて、司馬懿に感心する。
「確かに力任せばかりではないようです。しかしそれだけでは・・」
「長々とおしゃべりをするつもりはないぞ、三蔵・・悟空たちを裏切り、オレたちの敵でいようとするお前を、オレも許しはしない・・・!」
 笑みを絶やさない三蔵に、司馬懿が怒りを向ける。
「私を憎みますか?しかしあなたはその怒りの力を制御できないはずでは?」
「今のオレは昔とは違う・・オレはオレの中にある怒りの意味を知り、どうすればその怒りを制することができるのかを知った・・」
 嘲笑する三蔵に言い返して、司馬懿が迅雷との戦いを思い出していく。
「オレの怒りは、仲間を思えばこその感情だった・・・!」
 呟く司馬懿の目が紅く染まる。しかし彼は怒りに囚われず、我を忘れてはいなかった。
「強い怒りを制御している・・精神力の向上が現れていますね・・・!」
 三蔵がこの司馬懿に警戒心を抱く。
「オレは今までこの怒りに振り回され、守るべき仲間さえも傷つけてしまった・・その力を持ちながらも、心静かに構える・・それがオレの真の強さだ・・・!」
 自分の過ちと真の強さを確かめる司馬懿。彼は淵獄魔掌にオーラを集中させていく。
「この力でお前を倒す・・考えを改めなければ、オレはお前の息の根を止めることになるぞ・・・!」
「物騒なことを言う・・私は倒されませんし、死にもしませんよ・・」
 敵意を向ける司馬懿に、三蔵が肩を落とす素振りを見せる。
 自身のオーラを凝縮させた司馬懿が、三蔵に飛びかかり淵獄魔掌を振りかざす。三蔵が回避行動をとるが、淵獄魔掌の切っ先が体をかすめた。
(速いだけでなく、正確に攻撃している・・強力になったものです・・)
 司馬懿の高まった戦闘力を、三蔵が分析する。司馬懿が再び淵獄魔掌を振りかざして、三蔵に一閃を命中させた。
 三蔵は突き飛ばされるも、空中で体勢を整えた。
「これは・・私も加減をしている場合ではないですね・・・」
 三蔵が気を引き締めて、杖を構えて集中力を高める。司馬懿が改めて淵獄魔掌にオーラを集めていった。

 信長と対峙する光秀が、天牙麒麟刀を抜刀した。
「少しは強くなったのか?そうでなければ倒す手応えがないからな。」
「あぁ、強くなった・・貴様を討つためだけでなく、世界の平穏のためにな・・」
 不敵な笑みを浮かべる信長に、光秀が答える。
「私は貴様を討つ・・この怒りを持ちながらも、私は自分を見失わない・・・!」
「下らん屁理屈を聞くつもりはない。強くなった貴様を葬った時こそ、わしは真の覇者となるのじゃ!」
 光秀の決意をあざ笑い、信長がへし切長谷部を構える。
「野心のために命を蔑ろにする貴様は、もはや私の主君ではない・・!」
 光秀も天牙麒麟刀を構えて、全身からオーラを発する。
「確かに前よりは強くなったようじゃ・・じゃがわしに敵うヤツなど、この世に存在せん!」
 信長が飛びかかり、へし切長谷部を振りかざした。光秀が天牙麒麟刀を振り上げ、へし切長谷部とぶつけ合う。
 2人の力が強力な衝撃波となって周囲を揺さぶり、燃え上がっていた炎の多くをかき消した。
「惜しい力じゃ・・じゃが敵は始末あるのみ!」
 信長が言い放ち、力を込めて光秀を押し込もうとする。しかし光秀は全身に力を込めて耐える。
「こやつ・・!」
「私はお前には屈しない・・お前は私が討つ!」
 不快感を覚える信長に、光秀が言い返す。光秀が天牙麒麟刀を振りかざして、信長を押し返した。
「図に乗るなよ、小童が・・貴様が何をしようと、わしに歯向かうことは許さん!」
 信長がいら立ちを浮かべて、へし切長谷部を持つ手に力を込める。
「許されんのは貴様の方だ!覚悟せよ、信長!」
 光秀が言い返し、信長に飛びかかり天牙麒麟刀を振り下ろす。
「絶刀燬灼龍穿!」
 信長が力を込めてへし切長谷部を振りかざした。
「ぐっ!」
 信長が繰り出した重みのある一撃が天牙麒麟刀を叩き、光秀がその衝撃に襲われてうめく。2人は互いに後方に押されて、踏みとどまって止まる。
「これが、信長の真の力・・近くで信長の戦いを見てきたが、ここまで強い力は出していなかった・・・!」
 光秀が記憶を呼び起こして、信長の全力に脅威を覚える。
「手に少し痺れがある・・今の私でも、まともに食らえば無事では済まない・・・!」
 信長は警戒心を強め、気を引き締めなおす。
「どうした?わしの首を取るのではないのか?」
 信長が左手で手招きをして、光秀を挑発する。
「来ないならわしから行くぞ!」
 信長が前進し、へし切長谷部を振り下ろした。へし切長谷部から気の刃が放たれ、光秀が横に動いて回避する。
 信長が気の刃を連続で放つ。光秀が回避を続けて、刃の1つが地面に当たり土煙を散らした。
「逃がさんぞ、光秀・・わしの手に掛かれることを光栄に思え!」
 信長が土煙をかき分けて、光秀を追う。光秀も土煙から飛び出し、信長に詰め寄ってきた。
「天牙龍神斬!」
 光秀が気を宿した天牙麒麟刀を振りかざしてきた。信長がへし切長谷部を振りかざして、光秀を押し返した。
 距離を取った光秀が、信長と睨み合う。2人は互いに敵意を向けていた。

 諸葛亮と対峙する悟空が、如意棒を手にして構える。
「諸葛亮、劉備たちが、お前が帰ってくるのを待ってるんだ!言うことを聞いてくれ!」
 悟空がまた劉備を説得しようとする。
「何度も言わせないで・・僕はショクに戻るつもりはない・・」
 しかし諸葛亮は考えを改めようとしない。
「何でだよ・・何でそんなに、オイラたちの敵になるんだよ!?」
「僕はこの荒廃している世界に嘆きを感じている。世界をよくしていこうという三蔵さんの考えに賛同したんだ・・」
「お前もお師匠様もおかしいぞ・・いいヤツを傷つけるようなことはしないはずなのに!」
「それは昔のことだよ・・僕も、三蔵さんも、世界のために何をすべきなのかを考え直しただけだ・・」
 困惑する悟空に、諸葛亮が淡々と自分の考えを語っていく。
「それがみんなを困らせることなのか・・みんなを悲しませることなのか!?」
「逆だよ。困っている人を助けるために、僕も三蔵さんも戦っている。」
 憤りを募らせる悟空だが、諸葛亮が笑みを絶やさない。
「私たちが世界を束ねることで、世界の対立や戦争が解消されていく・・悲劇も、困ることもなくなる・・・」
「それは違う!力で押さえ付けて平和を作っても悲しいのは、オイラも十分分かってる!」
「本当の平和をもたらすには、絶対的な存在による統治が必要なんだ・・そのことに三蔵さんは気付き、僕も共感した・・」
「諸葛亮!」
 力による統治の意志を貫く諸葛亮に、悟空が感情をあらわにする。
「おしゃべりもそろそろ切り上げようか・・悟空、覚悟を決めてもらおう・・」
 諸葛亮が笑みを消して、宙天羅扇を構えた。
「やるしかねぇってことなのか・・・だったらもう何も迷わねぇ!」
 悟空が言い放ち、諸葛亮に向かって走り出す。悟空が振りかざす如意棒を、諸葛亮が宙天羅扇で受け止めていく。
「僕がただ三蔵さんについていったと思っているのか?僕は三蔵さんに力を引き出してもらった・・強くなっているのは、君たちだけじゃないということだ・・」
 諸葛亮が説明をして、宙天羅扇を振りかざす。突風が巻き起こり、悟空が空中に吹き飛ばされる。
「筋斗雲!」
 呼び出した筋斗雲に乗って、悟空が体勢を立て直した。
「うまく逃れたか。でも私に同じ手は通じないよ。ここからは二手三手、先読みしながら攻めることにする・・」
 諸葛亮が宙天羅扇を構えて、悟空の出方を伺う。
「だったらお前を止めて、劉備のところに連れていく!」
 悟空が筋斗雲から飛び降りて、諸葛亮に向かって如意棒を振り下ろす。諸葛亮は冷静に動きを読み、如意棒を紙一重でかわした。
「うおっ!」
 諸葛亮が宙天羅扇での正確な突きを繰り出し、悟空が突き飛ばされて倒れた。
「くそっ!・・こんくらいでやられねぇ!」
 悟空がすぐに立ち上がり、如意棒を構えた。彼が狙いを定めた諸葛亮に向かって、如意棒が伸びた。
「それも予測はついているよ・・」
 諸葛亮は突きをかわして、直後に如意棒を強く踏みつけた。
「あっ!うわっ!」
 てこのように跳ね上がった如意棒に自分が当たり、悟空が跳ね上げられた。その先に諸葛亮が回り込んでいた。
 諸葛亮が振りかざした宙天羅扇に叩かれて、悟空は地面に叩きつけられた。
「くっ・・よけきれない・・よけても先回りしてくる・・・!」
 諸葛亮に正確な反撃をされて、悟空が焦りを噛みしめる。
“悟空、ワイにやらしてくれ!”
 そのとき、彼に向かって沙悟浄が声を掛けてきた。
“ワイの速さで諸葛亮の攻撃をかわしてみせる!ワイに任せとき!”
「沙悟浄・・分かった!任せたぞ!」
 沙悟浄に答えて、悟空は彼に託した。沙悟浄の人格が表に出て、体から青いオーラがあふれ出した。
「次はさっきのようにはいかへんで・・覚悟しときや!」
 沙悟浄が諸葛亮に言い放ち、構えを取った。
(さっきの悟空と違う・・あれは沙悟浄?悟空の中に、仲間の魂が入っている・・)
 諸葛亮が悟空の中に沙悟浄と八戒がいることを確信する。
(ということは、表に出てきた魂によって、戦い方も変わってくるはず・・)
 彼は沙悟浄の出方を伺う。
「さぁ、行くで!」
 沙悟浄が高速で動いて、諸葛亮に詰め寄った。沙悟浄が繰り出す蹴りを、諸葛亮が回避と宙天羅扇による防御でかいくぐる。
「何でや!?ワイの速さを止められるヤツがおるなんて!?」
 攻撃が通じないことに、沙悟浄が驚愕を覚える。
「速さばかりの攻撃で僕を倒せると思わないことだ・・」
 諸葛亮は表情を変えずに、沙悟浄に忠告する。
「せやったらこれならどうや!」
 沙悟浄が青いオーラを放出して、諸葛亮に向かっていく。
「飛猿閃蹴!」
 沙悟浄が大きく跳び上がり、空中で高速回転する。彼は旋風を巻き起こしながら、オーラの刃を発した右足を諸葛亮目がけて繰り出した。
 しかし諸葛亮に宙天羅扇で正確に蹴りを止められた。
「なっ!?」
 目を疑う沙悟浄に対し、諸葛亮が宙天羅扇を振りかざして、旋風を逆回転させた。
「うわっ!」
 跳ね返された旋風に巻き上げられて、沙悟浄が地面に叩きつけられた。
「こ、この技も止められた・・速さだけでなく、力も十分にあるはずやのに・・・!?」
 起き上がる沙悟浄が、諸葛亮に攻撃が通じないことに疑問を感じていく。
「速さは君の方が上だろう。でも僕が君を食い止めているのは、速さではなく正確に対応しているからだ・・」
 諸葛亮が状況を沙悟浄に説明していく。諸葛亮は沙悟浄の動きを冷静に見て、旋風の軌道も含めて見極めて正確に止めたのである。
「せやから速くても見抜けたわけか・・こいつは参ったなぁ・・・!」
“何情けんこつば言うとるんや!”
 ため息をつく沙悟浄に、八戒が声を掛けてきた。
“今度はオイラの番じゃ!ここは任してくれ!”
「八戒・・よし!選手交代や!」
 八戒の呼びかけを聞いて、沙悟浄が頷いた。人格が沙悟浄から八戒へ入れ替わり、体からのオーラが青から赤になった。
「また魂が入れ替わったか・・・」
 諸葛亮がこの変化を見て、人格が変わったと判断する。
「こっからはオイラが相手や!オイラの力は、分かっとったって跳ね返すことはできんぞ!」
 沙悟浄と入れ替わった八戒が高らかに言い放つ。
「猪八戒か・・八戒も悟空の中にいたのか・・」
 諸葛亮が八戒の存在も把握する。
 八戒が飛びかかり、諸葛亮目がけて拳を繰り出す。諸葛亮は跳び上がり、拳をかわした。
(力は3人の中で高いが、速さは悟空にも及ばない。攻撃を受けなければ負けることはない。)
 諸葛亮が八戒の力を冷静に分析する。彼は距離を取って出方を伺う。
「逃がさんぞ!」
 八戒が両手を握りしめて、諸葛亮に向かって突っ込んだ。諸葛亮が宙天羅扇を横に振り、土煙を巻き上げた。
「くそっ!前が見えん!」
 八戒が視界を遮られ、諸葛亮を見失う。
「こうなったら・・!」
 思い立った八戒が拳を地面に叩きつけ、その衝撃と風圧で土煙を吹き飛ばした。
「いない!?どこ行った!?」
 八戒が周りを見回して、諸葛亮を捜す。
「上だよ・・」
 彼の真上に跳んでいた諸葛亮が、宙天羅扇を振りかざして突風を放った。
「おわっ!」
 八戒が突風を当てられ、体勢を崩して吹き飛ばされた。
「当たらなければどうということもない、とはこのことか・・」
 着地した諸葛亮が八戒に目を向けて呟く。
「やったら確実に当たる技ば出してやる!」
 八戒が立ち上がり、全身に力を入れる。彼から出ているオーラが強まる。
「紅蓮剛爪鈀!」
 八戒がオーラを光の球に変えて、諸葛亮に向かって連射した。諸葛亮は回避ができないと、八戒は確信していた。
「うっ!」
 その直後、八戒が背中に強い衝撃を覚えてうめいた。諸葛亮が背後に回り込み、宙天羅扇で八戒の背中を突いていた。
「なしてよけられたんや!?・・逃げきれんくれぇの攻撃のはずだ・・!」
 八戒が痛みに耐えながら、諸葛亮へ振り向く。
「確かに広範囲の攻撃だったが、逃げきれないほどではないよ。攻撃もどれも直線的だったし・・」
 諸葛亮が八戒の技の弱点を指摘する。
「君たちはそれぞれ個性が違う。しかし誰もその長所を用いても、僕は全て見抜き、対応できる。」
 諸葛亮はため息をついてから、宙天羅扇を振りかざして竜巻を起こした。
「おわあっ!」
 八戒が竜巻に巻き込まれ、空高く舞い上げられる。そこから急降下した彼が、地面に強く叩きつけられた。
「くっ・・は、八戒・・・!」
 悟空が起き上がり声を振り絞る。八戒の人格が引っ込み、悟空の人格が戻った。
「終わりだよ、悟空・・君たちも司馬懿たちも・・」
 諸葛亮が告げて、悟空に宙天羅扇の先を向けた。
「終わらねぇ・・終わりじゃねぇ・・オイラたちは、諸葛亮もお師匠様も止めると決めたんだ・・・!」
 悟空が立ち上がり、決意を口にする。
「それに、オイラたちは1人じゃない・・オイラたちは仲間なんだ!」
「だけど君たちは1人ずつしか表に出れない。そういう意味では1人で戦うしかないようだ・・」
 言い放つ悟空に、諸葛亮がため息をつく。
「そうじゃねぇ・・オイラたちの魂は、いつも一緒だ!」
 悟空が言い放ったとき、彼の体から赤と青のオーラがあふれ出した。
「これは・・悟空だけの力じゃない・・八戒と沙悟浄、3人の力が入り混じっている・・・!」
 諸葛亮が悟空の発揮した力に驚愕を覚える。
「これが、オイラと猪八戒、沙悟浄の力の全てを合わせた姿だ!」
 渾然猴王態となった悟空が言い放ち、両手を握りしめた。膨らんだオーラが彼の顔を覆い、龍の頭部のようになった。
「八戒の力と沙悟浄の速さ、そして悟空の獣のような闘気・・全てを兼ね備えて発揮しているのか・・・!」
 諸葛亮が悟空の本領を把握して、警戒を強める。
「オイラはお前を、全力で止める!そして、劉備のところへ帰るんだ!」
 悟空が言い放ち、諸葛亮に向かって全速力で突っ込んだ。諸葛亮が反応して飛翔して回避しようとするが、足を止めた悟空の手に足をつかまれた。
「しまっ・・!」
 目を見開く諸葛亮が、悟空に引きずり降ろされ、地面に叩きつけられた。
「もう逃がさねぇぞ、諸葛亮!」
 悟空が諸葛亮の足を放さず、振り回していく。諸葛亮が宙天羅扇を振って、風を起こして悟空を上昇させる。
 悟空が拳を下に振り下ろし、風圧で落下を抑える。その隙を狙い、諸葛亮が宙天羅扇によるかまいたちを放った。
「うっ!」
 悟空が鋭い一撃を体に受けてうめく。体勢を崩した彼が、諸葛亮に吹き飛ばされて地面を転がった。
「長所が合わさっているなら、特徴も全て合わさっているはず。力を合わせることでの隙も生じると思ったが、その通りだったようだ・・」
 諸葛亮が悟空に目を向けて告げる。渾然猴王態となった悟空に対しても、諸葛亮は冷静に動きを見極め、最善手を打った。
「まだだ・・まだまだこんなもんじゃねぇぞ、オレたちは!」
 悟空が立ち上がり、両手を握りしめてオーラを放出する。
「これで君たちを恐れることはなくなった・・・」
 諸葛亮が落ち着きを取り戻し、彼の動きと様子を冷静に見ていく。
「渾然猴王激!」
 悟空がオーラを集めた両手の拳を諸葛亮に向かって繰り出した。だが諸葛亮は身を屈めて拳をかわし、気を込めた宙天羅扇を突き出した。
「がはっ!」
 鋭い一撃を体に受けて、悟空が突き飛ばされた。倒れた彼からオーラが消えた。
「万策尽きたか・・たとえ力を上げても力を合わせても、正確な対処と先を読む戦略には通じないというわけだ・・」
 諸葛亮がひと息ついて、悟空に近づいていく。
「ここまでやっても・・敵わないのか・・・オイラたちは・・強くなったんじゃねぇのかよ・・・!?」
 悟空は倒れたまま、悔しさを募らせていく。
(このままやられるなんて真っ平だ・・オイラたちは、負けるわけにはいかねぇんだ!)
“そうやで、悟空!ここはどげんかせんといかん!”
“ワイもワイの全部を賭けるつもりや!”
 意地を見せる悟空に、八戒も沙悟浄も賛同してきた。
「猪八戒、沙悟浄・・・ありがとな!」
 悟空が感謝して、目を閉じて集中力を高めた。
 そのとき、悟空の体から再び赤と青のオーラがあふれ出した。オーラの形が渾然猴王態とは違うものとなっていた。
「悟空にまた変化が起こった!?・・力が強くなっただけでなく、威圧感も・・いや、これは畏敬なのか・・・!?」
 諸葛亮が悟空に対して緊張を覚える。警戒をする彼だが、今の悟空の行動を先読みすることができない。
「君はいったい・・・何者なんだ・・・!?」
「オレの名は、斉天大聖(せいてんたいせい)悟空インパルスガンダム、闘戦勝仏(とうせんしょうぶつ)!」
 諸葛亮が問いかけると、悟空が名乗りを上げた。彼は真の強さと魂の形を見出した姿「闘戦勝仏」となった。
「オレたちの魂は1つとなり、お前の野心を打ち砕く・・・!」
 悟空は鋭く言うと、高速で諸葛亮の前まで詰め寄ってきた。
「なっ!?うわっ!」
 驚愕する諸葛亮に、悟空が右の拳を当てた。回避が間に合わない諸葛亮は、突き飛ばされて激しく転がった。
「よけられなかった・・沙悟浄や先ほどの悟空を、大きく上回る速さだ・・・!」
 悟空の戦闘力に、諸葛亮は驚愕の色を隠せなくなる。
 悟空が再び高速で動き、諸葛亮の後ろに回った。諸葛亮が振り向き様に宙天羅扇を振りかざして、突風を起こして悟空に当てた。
 しかし悟空にはダメージがなく、わずかも押されていない。
「ぜ、全然効いていない・・・!?」
 目を疑う諸葛亮に、悟空が一気に詰め寄った。彼が両手を握りしめて、連続で拳を繰り出した。
 速く重い拳を体に叩き込まれ、諸葛亮が苦痛に襲われる。悟空が振りかぶった拳を受けて、諸葛亮が突き飛ばされた。
「ま・・まだだ・・・僕は・・こんなものではない・・・!」
 倒れた諸葛亮が痛みに耐えながら、ゆっくりと立ち上がる。
「僕は強くなったんだ・・強さと戦略を兼ね備えた僕が、こうも簡単にやられるはずがない・・・!」
 力への欲求と三蔵への感謝に突き動かされる諸葛亮。自身の力の高まりが、彼に絶対の自信を植え付けていた。
「三蔵さんに敵わないけど、僕は他の人には負けない・・悟空にも司馬懿にも、劉備にも!」
 諸葛亮がいら立ちを募らせて、宙天羅扇を振りかざしてかまいたちを放つ。悟空は素早くよけて、彼に近づいていく。
 諸葛亮が宙天羅扇を閉じて気を集中させて、光の刃を発した。剣となった宙天羅扇を、彼は悟空目がけて突き出した。
 しかし悟空に当たった気の刃が折れて、宙天羅扇も諸葛亮の手から弾かれた。
「そんな!?・・僕が・・僕が負けるなんて・・・!?」
 敗北を痛感して、諸葛亮が愕然となる。
「もうやめるんだ、諸葛亮・・大事なことを思い出して、劉備のところに帰るんだ・・・」
 悟空が落ち着きを払ったまま、諸葛亮を説得する。
「僕は世界を正す・・ここで僕が倒れたら、世界は悪い方向に進んでいく・・・!」
 諸葛亮が聞き入れずに、両手に気を集めていく。
「僕が・・僕たちが世界を正すんだ!」
 彼が悟空に向かって飛びかかる。
「まずはお前を消す、悟空!」
 諸葛亮が両方の拳を悟空に向けて繰り出した。悟空も両手を握りしめて、拳を放った。
 諸葛亮が拳を押し返され、悟空の拳を体に直撃された。体に力が入らなくなり、諸葛亮が倒れた。
(負けた・・悟空に・・・力だけでなく、魂までも、悟空たちに・・・)
 完全に敗北したと痛感し、絶望する諸葛亮。彼は思うように体を動かせず、仰向けに倒れたままだった。
「できることなら、分かってほしかった・・ここまで戦うことになる前に・・・」
 悟空が諸葛亮を見下ろして、歯がゆさを浮かべる。
「僕はどうしても許せなかった・・今の世界の愚かさが・・世界に対して何もできない僕自身が・・・」
「何もできないと思ったのは、オレたちも同じだ・・お師匠様や諸葛亮を止められず、オレたちは力を求めた・・・」
 互いに自分の考えを口にする諸葛亮と悟空。
「でも大事なのは、仲間の大切さだった・・力を手に入れるだけじゃなく、魂も強くならなくちゃいけなかったんだ・・・!」
「魂も・・僕には、敵わなかったというのか・・・」
 悟空の口にした言葉を聞いて、諸葛亮が愕然となる。戦意も希望も見失い、彼は脱力していく。
「諸葛亮、諦めるな!お前には帰る場所がある!」
 悟空が檄を飛ばして、諸葛亮が戸惑いを覚える。
「絶対に連れて帰るぞ・・いつまでも、劉備を困らせるんじゃねぇ・・・!」
「悟空・・・劉備・・・」
 悟空から劉備のことを聞かされて、諸葛亮は心を動かされていた。
「諦めない・・諦めたくはない・・・だけど、もう体が動かない・・・」
 諸葛亮が思うように動けず絶望する。すると悟空が彼の体に手を当てて、気を送り込んだ。
 力を分け与えられて、諸葛亮は自力で立ち上がれるようになった。
「悟空・・・僕を、助けてくれたのか・・・!?」
 諸葛亮が戸惑いを募らせて、悟空が頷いた。
「裏切り者の僕に、このような手心を・・・」
「お前は仲間だ・・オレたちと司馬懿、劉備のな・・」
 体を震わせる諸葛亮に、悟空が呼びかける。諸葛亮が心を打たれてうなだれた。
(司馬懿も、お師匠様を止めているはず・・・)
 司馬懿も光秀も戦いを制していると信じて、悟空は諸葛亮と共に戦況を見守ることにした。
 
 
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