SDガンダムワールド
真・戦国英雄伝
第4章

 

 

 本気を出し始めた迅雷に、司馬懿は劣勢を強いられていた。
「強い・・・いや、それだけじゃなく、オレの攻撃が当たらない・・・!」
 司馬懿が呼吸を整えようとするも、焦りを募らせていく。
「貴様は力に溺れ、力を求める己に囚われている。それではその力を使いこなすにも至らない。」
 迅雷が薙刀の刃先を司馬懿に向けて語りかける。
「強くならなければ、三蔵たちを止めることはできない・・お前も、力を求めて高めて、ここまで強くなったんじゃないのか!?」
 司馬懿が憤りを感じて、迅雷を問い詰める。
「わしは常に己と向き合ってきた。平常心を保ち、どうあるべきかを見つめ続けてきた。強さはその後についてきたようなものだ。」
「それを強さを求めることと、何の違いがあるというんだ!?」
「貴様は己が強くなることばかりに頭が行き過ぎている。それでは誤った力の使い方をすることになる・・貴様が憎む、三蔵や諸葛亮のように・・」
「オレが、誤っているだと・・・!?」
 迅雷の投げかける言葉に、司馬懿が耳を疑う。
「1度己の生き方、戦い方を見つめなおせ。貴様は何のために戦ってきたのか。」
 迅雷に問い詰められ、司馬懿が苦悩を深めていく。
「オレは劉備や諸葛亮、ショクのみんなと共に戦ってきた・・ショクの平和と、世界の正しさのために・・・!」
 彼が今までの戦いを思い返していく。
(いや・・オレは力任せに戦っていたことがあった・・頭に血が上り、劉備たちに止められたことが何度かあった・・)
 司馬懿は戦いの最中に我を忘れて暴走したことを思い出した。
(オレの戦いが、力を高めることばかりに意識を傾けたやり方が、戦いを終わらせるどころか、悲劇を増やすことになってしまった・・・!)
 自分の戦い方を責めて、司馬懿が戦意を揺さぶられていく。
(しかし、今よりも強くならなければ、三蔵を止めることができない・・どうすればいいんだ・・・!?)
「葛藤のあまり、戦う恐怖を感じるようになったか?」
 思考を巡らせている司馬懿に、迅雷が問いかける。
「戦うこと、力を持つことの恐怖を持つのは、力に溺れるよりはまだいいことだ。その恐怖と慢心を自覚し乗り越えたときに、貴様は真の強さを持つことになる。」
「恐怖と慢心を自覚・・それが強くなる道なのか・・・!?」
「強さへの道は人それぞれ・・貴様がそれを果たすのは、あくまで貴様自身にかかっている。」
 迷いを振り切ろうとする司馬懿に告げて、迅雷が薙刀を構えた。
「来い、司馬懿よ。貴様の心身がいかに変わるか、わしが見極めてやるぞ!」
「考えることに没頭するのは、力に溺れるのと大差ない・・戦いの中で答えを見出す!」
 全身からオーラを発する迅雷を、司馬懿が迎え撃つ。
「覇王雷刃(はおうらいじん)!」
 迅雷が稲妻のような気を薙刀の刃にまとわせる。彼が振りかざした薙刀から、稲妻の刃が放たれた。
「ぐっ!」
 司馬懿が刃を当てられて突き飛ばされる。強い衝撃と麻痺を痛感して、彼がうめく。
「いかづちの力が宿っている・・何度も受けるわけにはいかない・・!」
 司馬懿が痛みに耐えて、迅雷の攻撃に備える。
「覇王雷刃!」
 迅雷が薙刀を振りかざして、稲妻の刃を連続で飛ばす。司馬懿が走り出して、刃をかわしていく。
「淵獄魔掌!」
 司馬懿が淵獄魔掌を装着し、刃をかいくぐり迅雷に詰め寄る。
「繊獄波動!」
 司馬懿が至近距離から迅雷へ閃光を放つ。
「迅雷一閃!」
 迅雷が薙刀を振り上げ、閃光を切り裂き司馬懿を押し返した。
「ぐぅ!・・闇潰冥葬!」
 司馬懿は吹き飛ばされながら、淵獄魔掌から赤い光を発した。しかし迅雷の薙刀に光を切り裂かれた。
「わしに小細工は通用せんぞ。」
 迅雷が告げて、さらに稲妻の刃を飛ばす。
「ぐあぁっ!」
 司馬懿が刃をぶつけられ、倒れて起き上がれなくなる。
「稲妻のダメージが蓄積されて、麻痺が強くなっている・・・!」
 体に力が入らなくなり、司馬懿がうめく。
「早く動かなければ、貴様はわしにとどめを刺されることになるぞ。」
 迅雷が司馬懿に近づき、薙刀の切っ先を向けてきた。
「オレは・・こんなところで倒れるわけにはいかない・・・!」
 司馬懿が力を振り絞り、強引に体を動かそうとする。
「オレは三蔵を・・三蔵を・・・!」
「許しはしないか?憎き敵を討つのが目的なのは変わらないのか?」
 激情を募らせる司馬懿に、迅雷が問いかける。
「貴様は仲間のために戦ってはいないのか?光秀や悟空、貴様の仲間のために戦っていないのか?」
「オレは、そのために戦う資格はない・・・」
「本気でそう思っているのか?・・ならば貴様に、戦う力は残されてはいないな・・・」
 自分を責める司馬懿に呆れて、迅雷がため息をつく。彼は薙刀を下に向けて司馬懿を狙う。
「仲間のために・・・だが、オレが戦えば、自分を見失うことになる・・・!」
 暴走することを気にして戦いに迷う司馬懿。
「今は・・今は死ぬわけにはいかない・・・!」
 彼が戦う目的としたのは、生への執着だった。
 司馬懿が全身からオーラを発して、迅雷を吹き飛ばした、体勢を整えて着地した迅雷が、薙刀を構えて前を見据える。
 立ち上がった司馬懿の目が赤く染まっていた。体からも赤く禍々しいオーラがあふれていた。
「それが、怒りと闘争心が呼び起こしたのが、その姿が・・」
 迅雷が司馬懿を見て目つきを鋭くする。司馬懿は殺気をむき出しにして、彼の前に立ちふさがる。
「オレは生きる・・オレは、死ぬわけにはいかない・・・!」
 司馬懿が声を振り絞り、迅雷に向かってゆっくりと前進する。
「まだ、力に溺れてしまうのか、司馬懿・・・」
 迅雷が薙刀を振りかざして、稲妻の刃を飛ばす。司馬懿は刃を直撃されるが、平然としていた。
「ヤツの出している力が、わしの攻撃を打ち消したか・・だがその力に、ヤツ自身が振り回されている・・・」
 迅雷が司馬懿の状態を確かめて呟く。
「オレはお前を倒して、戦いを終わらせる・・仲間のところへ帰る・・・!」
 司馬懿が言いかけたところで、自身を戦いに駆り立てるもう1つのものに気付いた。
「オレには仲間が・・・劉備、悟空、光秀・・・」
 司馬懿は光秀たちのことを思い出し、落ち着きを取り戻していく。しかし彼の眼は赤くなったままである。
「みんなのために戦っていた・・見境をなくしてしまうから、戦うことに迷いを抱くようになっていた・・・!」
 苦悩した理由に気付いた司馬懿が、心を揺さぶられる。
「オレが戦う本当の理由は、仲間のため・・怒りで我を忘れるのは、仲間を思ってのこと・・・」
「貴様自身の答えが見つかりつつあるようだな・・それを心に刻み、もう1度わしに挑んでこい!」
 呟く司馬懿に言って、迅雷が笑みを浮かべて構えた。
「やるしかない・・やってやる・・オレはこれ以上、仲間を失いたくはない・・!」
 司馬懿は深く考えたり悩んだりするのをやめて、迅雷に真正面から飛び込んだ。
 迅雷が薙刀を振りかざして、司馬懿が淵獄魔掌を突き出してぶつけた。薙刀から稲妻がほとばしるが、司馬懿は苦にしていない。
(無理やり耐えているわけではない。適度に力を発して、わしの力を相殺している・・!)
 迅雷が今の司馬懿の力について把握し、警戒を強める。
「一筋縄にはいかんか・・ならば小細工は無用!純粋に力でねじ伏せるまで!」
 迅雷が言い放ってから、1度司馬懿から離れた。2人が各々の武装を構えて、互いの出方を伺う。
(向こうから仕掛けてこない・・アイツもオレを警戒しているのか・・・!?)
 仕掛けてこない迅雷に、司馬懿が疑問を覚える。
(過剰に恐れる必要はない・・オレから仕掛ける・・ヤツの動きを読みながら・・!)
 思い立った司馬懿が淵獄魔掌に力を集中させて、迅雷に向かっていく。
「煉獄烈光掌(れんごくれっこうしょう)!」
 司馬懿が突き出す淵獄魔掌から、閃光が放たれた。迅雷が薙刀を突き出すが、閃光に押された。
「今までで1番の威力・・攻撃を仕掛けていなければ、決定打になっていたかもしれん・・・!」
 身構える迅雷が司馬懿の高まっている強さを痛感する。彼の体から閃光によるダメージを現すかのように、かすかに煙が出ていた。
「しかし今の技は距離を置けば致命傷にはならない・・わしも決定打を与えられないが、これでじっくり攻める方がいい・・・!」
 思い立った迅雷が、離れたところで薙刀を振りかざして、気の刃を飛ばす。司馬懿が淵獄魔掌を振りかざして、気の刃を打ち破る。
 迅雷が続けて気の刃を放つ。
「繊獄波動!」
 司馬懿が光を放ち、気の刃を打ち破った。
 そのとき、迅雷が薙刀に気を集めて威力を上げて、刃にして放った。
(あれは受ければ体力の消耗は避けられない・・!)
 司馬懿が判断して、上に大きく跳んで気の刃をかわした。
「的確にかわした。暴走せずに冷静でいるようだな。」
 迅雷が司馬懿の動きを見て呟く。
「だが空中では自由に動くことはできんぞ・・!」
 彼は再び気を集めた薙刀を振りかざし、司馬懿に向けて気の刃を飛ばした。
(先ほどよりは威力は弱いが、受ければ無事では済まない・・・!)
 確実に攻撃を当てられると考える迅雷。司馬懿が淵獄魔掌に力を溜めて、気の刃を受け止めた。
「ここまでの威力を出すには、連発とまではいかないようだな・・・!」
 司馬懿が笑みをこぼし、淵獄魔掌を押し込んで気の刃を打ち破った。
「最大出力の攻撃さえ注意すれば、すぐにはやられないということだな・・・!」
 司馬懿が迅雷との力の差を把握して、正気を見出していく。
「それが分かっただけで勝った気になるのは、早計というものだ・・・!」
 迅雷が言い返して、構えた薙刀に気を溜めていく。
「撃ってくるのを黙って見ていると思っているのか!」
 司馬懿が言い放ち、淵獄魔掌に力を溜めながら迅雷に突っ込んでいく。
「近づけさせん!」
 迅雷が司馬懿から離れて、距離を保ちながら気を溜め続ける。2人の力が決定打にできるまでになった。
「閃光雷刃!」
 迅雷が薙刀を振り下ろし、光の刃を飛ばした。力も速さもある刃が、司馬懿に向かって飛んでいく。
「この速さをかわすことはできん!受けざるを得んぞ!」
 命中が確実と確信し、迅雷が言い放った。
 そのとき、司馬懿の動きが残像を伴った高速になった。光の刃は残像をかすめただけで、本物の司馬懿にはかわされていた。
 司馬懿が一気に加速し、迅雷の懐に飛び込んだ。
「煉獄烈光掌!」
 司馬懿が迅雷の体に淵獄魔掌を当てて、閃光を放った。
「ぐおぉっ!」
 至近距離から光を受けて、迅雷が吹き飛ばされた。彼は力なく地上に落下した。
「勝ったのか、オレ?・・伝説の武将に勝ったのか・・・!?」
 司馬懿は戸惑いを感じながら、倒れた迅雷の前に着地した。
「貴様がつかむべき強さをつかんだようだな・・・」
 迅雷が顔を上げて、司馬懿に目を向ける。
「仲間のために力を振るう・・それが、オレの強さ・・・」
 司馬懿が自分の両手を見つめて、戸惑いを覚える。
「仲間を思うなら、貴様は己の力を制御し、さらに限界以上に引き出すことができる・・それが、貴様の魂の強さだ・・・」
「魂の強さ・・・」
 迅雷の贈る言葉を、司馬懿は心に刻み付けた。
「その魂、決して忘れるな・・貴様が真の強者であるために・・・」
 迅雷は告げると、司馬懿の前から姿を消した。
「感謝する、迅雷・・この魂、決して忘れないぞ・・・!」
 司馬懿が迅雷に感謝して、振り返って歩き出した。彼は力を抜いて、淵獄魔掌を消した。

 光秀とナイトガンダムの激闘は続いていた。ナイトガンダムの正確な攻防に、光秀は劣勢を強いられていた。
「今の君は感情が前面に出ていて、動きも攻撃も直線的になっている。そのために動きを読まれ、私に簡単に受け流されているのだ。」
 ナイトガンダムが光秀の動きを冷静に分析する。
「かつての主君に対する憎悪に、君が囚われている。」
「私が、信長への憎悪に囚われている・・・!?」
 ナイトガンダムからの指摘に、光秀が困惑していく。
「しかし私はヤツを許すことはできない・・己の力と野心に溺れ、国の民さえも蔑ろにする体たらく・・・!」
「その憎悪が、今の君の限界を決めているだけでなく、君自身を破滅に導いている。」
 怒りで両手を握りしめる光秀を、ナイトガンダムが忠告する。
「怒りに囚われるな。怒りを感じた上で冷静沈着でいられることが、君の強さにつながる。」
「冷静沈着が、私の強さにつながる・・・敵を前にしても、冷静でいろというのか・・・!?」
「そうしなければ、勝てる戦いにも勝てない。仮にも君のかつての主君は、数多くの勝利と部下を抱えた百戦錬磨だ。隙を見つければ確実にそれを見抜くだろう。」
「私の攻撃が、信長に見抜かれる・・・!」
 ナイトガンダムから言われて、光秀が困惑を募らせていく。
「感情を抑えろ。心を静かに保つのだ。」
 ナイトガンダムが告げると、剣の切っ先を光秀に向けた。光秀もとっさに天牙麒麟刀を構える。
「私は信長のために戦うことだけを生きがいとしてきた。その信長の敵に回った以上、ヤツを討つことだけが私の生きがい・・!」
 信長への憎悪を募らせて、光秀が目つきを鋭くする。彼がナイトガンダムに飛びかかり、天牙麒麟刀を振り下ろした。
「炎よ!」
 ナイトガンダムが剣に炎を灯して、天牙麒麟刀を受け止めた。
「炎!?」
「この炎の剣が、私の力の1つだ!」
 目を見開く光秀に言い放ち、ナイトガンダムが炎の剣を振りかざす。
「ぐっ!」
 剣の一撃と炎を受けて、光秀がうめく。彼は天牙麒麟刀を振って、炎を払う。
「炎を操るか・・下手に飛び込めば返り討ちは確実・・・!」
 光秀がナイトガンダムの使う炎の剣を警戒する。
「炎を放つ前に、確実に攻撃を当てる・・・!」
 思い立った光秀が天牙麒麟刀に旋風をまとわせた。
「麒麟爪(きりんそう)!」
 光秀が高速で天牙麒麟刀を振りかざして、疾風の刃を放つ。
「力の盾!」
 ナイトガンダムが左手で「力の盾」を手にして、疾風の刃を防いだ。
「この盾を簡単に打ち破ることはできない。それだけの力を溜めようとするなら、私に反撃の機会を与えることになる。」
 ナイトガンダムが語って、剣を構える。
「確かにその通りだ・・あの炎を出させないようにするには、麒麟爪を出すしかない・・だがあの盾を破ることができない・・他の技では、ヤツに炎を使わせることになる・・・!」
 打開の策が見出せず、光秀が焦りを噛みしめる。
「速さと力を同時に高める・・そのために、私が強くならなければならない・・!」
 光秀が自分に言い聞かせて、全身に力を集中させていく。
「力を溜めるか・・私の攻撃の隙を与えることが分かっているはずだ・・・!」
 ナイトガンダムが光秀に告げて、剣に炎を灯した。
「そして私にはさらに、この“霞の鎧”がある。防御力が高いだけでなく、速さを上げる効果もある。」
 ナイトガンダムが一気に速度を上げて、光秀に一気に詰め寄った。
「なっ!?」
 驚愕する光秀が、とっさに天牙麒麟刀を掲げる。ナイトガンダムが炎の剣を振りかざし、天牙麒麟刀を叩いて光秀を突き飛ばした。
「ぐぅっ!」
 光秀が天牙麒麟刀を地面に突き立てて踏みとどまる。
「技、力、速さ。全てを兼ね備えている私を、今の君は超えることはできない。ただし、君が正しき心を持ち、強さを最大限に発揮することができれば、話は別だ。」
「私が・・全ての強さを引き出す・・・!」
 ナイトガンダムの言葉を受け止めて、光秀が両手を握りしめる。
「私の力を・・全てつぎ込む・・私の、全てを賭ける!」
 光秀は激情と共に、力を高めていく。彼の体からオーラがあふれてくる。
「力は高まっている・・だがそれは、真の強さではなく、怒りに囚われた力だ!」
 ナイトガンダムが言い放ち、炎をまとった剣を構えた。
「技、力、速さを集束させたこの攻撃を、お前はよけることはできない!」
 彼が剣を突き出して、炎の奔流を放出した。
「ならば破るしかない・・龍気発動!」
 光秀が体から閃光を放出して力を高めた。
「天牙龍神刃!」
 光秀が天牙麒麟刀を振りかざして、光の刃を放った。しかし彼の刃が激しい炎に弾き飛ばされた。
「うわあっ!」
 光秀が激しく転がって倒れた。炎を受けた彼の体から煙が出ていた。
「龍気でも破れない強力な炎・・私には、あの者には敵わないのか・・・!?」
 絶体絶命を痛感し、光秀が絶望する。
(このまま信長を討つこともできず、何もできずに朽ち果てるのか!?・・・そうはいかない・・私は戦い、勝たなければならない・・・!)
 諦め切れない彼が強引に起き上がろうとす。
「立ったか。だが次にこの炎を受ければ、君は確実に倒れる・・・!」
 ナイトガンダムが告げて、炎の剣を再び構えた。
(半端な技ではあの攻撃を破れない・・確実に破れる技を出すしかない・・・!)
 光秀が炎への対抗策を考える。しかし焦りと激情が彼の心を揺さぶっていた。
(私は彼を超えて、信長を討つ・・そのために、ここで倒れるわけには・・・!)
“怒りに囚われるな。怒りを感じた上で冷静沈着でいられることが、君の強さにつながる。”
 信長への怒りをまた込み上げたとき、光秀の脳裏にナイトガンダムの言葉がよぎった。
(この怒りを持ちながら、常に冷静沈着に・・・!)
 光秀がこの言葉を胸に秘めて、高ぶる気分を落ち着かせようとする。
「仕掛けてこないのか?ならばここで倒させてもらうぞ!」
 ナイトガンダムが言い放ち、剣を突き出して炎を繰り出した。光秀が天牙麒麟刀を握りしめて、炎をじっと見つめる。
(この炎は渦を巻いて近づいてくる・・炎に風と圧力を加えて、押し出すように出している・・・!)
 光秀が炎の動きを見定めた。その動きの中から炎を打ち破るわずかな隙も。
(その渦の中心を性格に突けば、この炎は破れる・・!)
「龍牙閃(りゅうがせん)!」
 光秀が天牙麒麟刀を前に突き出して、炎の渦の中心を突いた。すると炎が拡散して吹き飛んだ。
「この炎を見抜き、打ち破ったか。見抜けても、相応の強さがなければ破れぬものだが・・」
 ナイトガンダムが光秀を称賛して、剣を下げた。
「あなたの言う通り冷静になれば、見えてくるものもある。怒りに囚われればそれが見えなくなる・・あなたが教えようとしていたのは、このことなのか・・・?」
「そうだ。戦いは常に心を平穏に保ち、自分を見失わないことが大事だ。死の淵に立つ極限状態に陥った時こそなおさらだ。」
 戸惑いを見せる光秀に、ナイトガンダムが励ましを送る。
「しかし私と君の勝負が終わったわけではない。君の強き力と心、私に示すのだ!」
 ナイトガンダムが言い放ち、炎をまとった剣を構えた。
「炎の剣が、あなたの最大の技ということですか・・ならば私も、全てを賭けて挑むまで!」
 光秀も全身からオーラを発して、天牙麒麟刀を構えてナイトガンダムを迎え撃つ。光秀のオーラが天牙麒麟刀の刀身に集まっていく。
 光秀とナイトガンダムが同時に飛び出し、それぞれの刃を振りかざした。
「天牙龍神斬!」
 光秀の一閃がナイトガンダムの剣を叩いた。炎が切り裂かれ、剣の刀身に亀裂が入った。
 光秀とナイトガンダムがすれ違い、動きを止めた。直後にナイトガンダムが剣を下げた。
「見事だ、光秀・・君は強さも心も、私を超えた・・・」
「ナイトガンダム・・・!」
 称賛するナイトガンダムに、光秀が戸惑いを浮かべる。
「私から教えることはない・・君が君であり続ける限り、君はこれからも成長していける・・今の志を、決して忘れないように・・」
「分かりました・・ご指導、感謝いたします・・・!」
 振り返ったナイトガンダムに、光秀が天牙麒麟刀を鞘に納めて一礼した。
「君たちと世界の行く末、これからも見届けさせてもらうぞ。」
 ナイトガンダムが歩き出し、霧のように消えていった。
「伝説の武将・・あなた方がいなければ、道を踏み外していたでしょう・・・」
 ナイトガンダムたちへの感謝と戦いの真の心得を胸に秘めて、光秀は改めて信長との戦いに臨むことにした。
「光秀・・」
 迅雷との戦いを終えた司馬懿が、光秀と合流した。
「2人とも戦いが終わったんだな・・」
 疾風との戦いを終えた悟空も、2人のところに戻って声を掛けてきた。
「悟空、司馬懿・・2人も勝利したのか・・」
「伝説の武将は、オレたちに大切なことを教えてくれた・・」
「疾風がいなかったら、オイラは八戒と沙悟浄がいるのが分からなかったよ・・・」
 光秀が声を掛けて、司馬懿と悟空が迅雷、疾風への感謝を口にする。
「オレたちは、ただ力を求めていただけだった・・・」
「だけど、オイラたちはもっと大事なことを知った・・・」
「自分らしさを失わないこと・・仲間のために、そして常に冷静になって戦うこと・・・」
 司馬懿、悟空、光秀が大切なことを学び、握った手を出して軽く当てた。
「私たちの魂は、常につながっている。3人だけでなく、八戒や沙悟浄、劉備たちとも。」
「光秀・・・仲間のために、ありがとな・・・!」
 光秀の投げかけた言葉を受けて、悟空が礼を言った。
「1度ホクトに戻って1晩休息しよう。三蔵たちを追うのはそれからだ。」
 司馬懿が言って、光秀が頷いた。
「オイラ、腹減ってきたよ~・・」
 悟空がおなかに手を当てて、空腹を訴えてきた。それを聞いて、光秀と司馬懿が笑みをこぼした。
「ホクトに戻るまでの我慢だ。そこでまずは食事だな。」
「あ、あぁ・・分かった・・・」
 光秀に言われて、悟空が小さく頷いた。

 ホクトに戻った光秀たちは、食事を済ませて休息をとっていた。彼らは信長との対立、三蔵と諸葛亮に次に会うときに備えていた。
(お師匠様、諸葛亮、待っててくれ・・オイラたちが必ず連れ戻すから・・・)
 悟空が三蔵たちのことを思って、気を引き締める。
“悟空、また一緒にひと暴れできるな!”
“お互い、1人だけで戦うのはなしやで。お師匠様たちに思うとこがあんのは、みんな同じやからな。”
 八戒と沙悟浄が悟空に向けて声を掛けてきた。
(分かってる。これからもよろしくな、2人とも。)
“おう!”
“もちろんや!”
 悟空が呼びかけて、八戒と沙悟浄が答える。魂だけとなっても、2人は悟空と共にいる。
「信長軍は北に向けて侵攻してきた。我々の動向を頭に入れている可能性がある・・」
 光秀が情報を収集して、地図を指し示しながら司馬懿に説明する。
「思っていたよりも早く、信長と接触することになりそうだ・・おそらく、三蔵と諸葛亮も一緒だろう・・」
「我々が再び、ノーザンマウンテンを超えたところで会うことになる・・しかし、下手をすればノルムが襲われる・・」
 司馬懿が推測すると、光秀が一抹の不安を覚えて息をのむ。
「まだそうと決まったわけではない。焦れば返り討ちにされるぞ・・」
 司馬懿がなだめて、光秀が体を震わせながらも気分を落ち着かせていく。
「すまない・・今は明日に備えて、体を休めておこう・・・」
 光秀が肩を落としてから、ベッドに横たわった。
「気が早いぞ、光秀・・真面目すぎるヤツだな・・・」
 彼にため息をついてから、司馬懿もベッドに横になった。
(できるなら諸葛亮は連れ戻したい・・だが、それが不可能と思ったときは・・オレは・・・)
 諸葛亮と三蔵の対立の果てに、2人を手に掛けるかもしれないことを、司馬懿は覚悟していた。

 一夜明けて、光秀たちはナイトガンダムたちとの対戦の疲れを回復させて、ノーザンマウンテンを再び超えようとしていた。
「途中でお師匠様たちと会えればいいんだけどな・・・」
 悟空が三蔵と諸葛亮のことを考える。
「もしもそうならなかったら、1度ショクに戻ろう。劉備と合流して、改めて三蔵たちを捜すぞ。」
「それが最善だな・・1度出直そう。」
 司馬懿の提案を聞いて、光秀が頷く。
「では行くぞ、悟空、光秀。」
 司馬懿が呼びかけて、光秀と共にトリニティバイクを走らせた。悟空も筋斗雲に乗って、ノーザンマウンテンを進んだ。
(山道の昇り降りは体力を消耗する。しかし今はそれほど苦には感じていない・・ナイトガンダムたちとの勝負で強くなったということか・・体も心も・・)
 光秀は強くなった実感を覚えて、戸惑いを感じていた。
「何だか体が軽いぞ!どこまでも飛んでいけそうだ!」
 悟空が喜んで、空や山の上を飛び回っていく。
「悟空、あんまりはしゃいだり調子に乗ったりするなよ・・」
 司馬懿が注意するが、悟空は止まらない。
「悟空、ノーザンマウンテンより先には行くな!私たちが追いつくまで待っていろ!」
 光秀が悟空に呼びかけて、司馬懿と共にトリニティバイクで急いだ。
「これなら山の向こうもすぐ・・・!」
 悟空がノーザンマウンテンを超えて、ノルムを見下ろした。その直後、彼がその光景に目を疑った。
「司馬懿!光秀!」
 悟空が慌てて光秀たちのところへ戻ってきた。
「どうした、悟空?」
「大変だ!・・村が・・村が!」
 司馬懿が声を掛けて、悟空が声を振り絞る。
「ノルムの村のことか・・何があったんだ!?」
「村が、燃えてるんだ!」
 光秀が問いかけて、悟空が答えた。
「何だと!?」
 それを聞いて、光秀と司馬懿が驚愕する。2人がトリニティバイクを加速させて、悟空も急ぐ。
 そして光秀たちはノーザンマウンテンを抜けて、ノルムにたどり着いた。
「こ、これは・・・!」
 光秀が声を荒げて、司馬懿が驚愕する。ノルムは火に包まれていて、住民が数人倒れていた。
「おい!大丈夫か!?しっかりするんだ!」
 光秀が老婆に駆け寄って呼びかけた。すると老婆がゆっくりと目を開いた。
「生きている!・・・何があったのですか・・・!?」
「せ・・攻め込んできた・・・たくさんの武士が、この村に・・・」
 光秀が問いかけて、老婆が説明をする。しかし彼女は力尽きて動かなくなってしまった。
「しっかりしてください!・・・くっ・・・!」
 村人の命が失われ、光秀が激情を募らせていく。
「光秀、この旗は・・・!」
 司馬懿が声を掛けて、光秀が彼が指さすほうに目を向ける。そこにあった旗に描かれていたのは、信長の家紋だった。
「信長軍・・・ここに信長が来たのか・・・!」
 ノルムを襲ったのが信長であると判り、光秀が怒りを覚える。
「ここで貴様と会うことになろうとはな・・」
 そこへ声がかかり、光秀が振り向いた。彼らの前に信長とその配下の侍たちが現れた。
「信長・・・!」
 光秀が信長に鋭い視線を向ける。ナイトガンダムたちとの勝負を経た光秀たちが、決戦の時を迎えた。
 
 
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