SDガンダムワールド
真・戦国英雄伝
第3章

 

 

 一夜が明けて、光秀、司馬懿、悟空はノーザンワールドの北を目指して進み始めた。
 ホクトを離れて荒野に入ろうとしたところで、光秀たちは止まった。
「ここから先はバイクから降りて進んでいこう。何が出てくるか分からないからな・・」
 光秀が呼びかけて、司馬懿が頷いた。2人は降りてトリニティバイクを押して、悟空は筋斗雲に乗ったまま、荒野を進んでいった。
 やがて木や草のない完全な荒野へと、風景が変わっていった。光秀たちは周囲を警戒しながら、全身を続けた。
「人の気配がなくなってしまった・・そればかりか、人でないものが潜んでいるような・・・」
 光秀がただならぬ気配を感じて、緊張を覚える。
「人じゃないもの?動物のことか?動物も見かけないぞ・・」
 悟空が周りを見回して首をかしげる。
「まさか、死人のことではないのか・・・?」
「死人って・・死んだ人のことか・・・!?」
 司馬懿が疑問を投げかけると、悟空が気まずくなる。
「分からない・・・ここは、未知の場所のようだ・・・」
 司馬懿が息をのんでから、再び歩き出そうとした。
「この地に力を求めし者が現れたか。」
 そのとき、光秀たちのいる場所に声が響き渡った。
「この声は・・・!」
「誰だ!?どこにいる!?」
 光秀が息をのみ、悟空が周りを見回して叫ぶ。
「しかしお前たちの求める力は、手に入ることはない。」
 別の声が光秀たちに向けて響いた。
「どういうことだ・・!?」
「姿を見せろ!隠れてるなんて卑怯だぞ!」
 司馬懿が疑問を覚えて、悟空が怒鳴る。
「我々は隠れてなどいない。お前たちの心、我々には手に取るように分かる。」
 もう1つの声も届き、光秀たちが身構える。彼らの前に3つの人影が現れた。
 3人のうちの1人は西洋の鎧に身を包み、2人はそれぞれ赤と青の和風の鎧をまとっていた。
「まさか、あなたたちは、伝説の武将か・・!?」
 光秀が目を見開き、3人の男たちに問いかける。
「我が名は武者ガンダム、迅雷(じんらい)。」
「我が名は武者ガンダムマークⅡ、疾風(疾風)。」
 赤と青の鎧の男、迅雷と疾風が名乗りを上げた。
「我らはこの地に留まり、世界の成り行きを把握してきた。」
「世界の長い歴史の中で、力に溺れた者、お前たちのように力に執着する者であふれた・・」
 迅雷と疾風が世界の歴史について語っていく。
「そして私も迅雷たちの話を聞き、共に世界を見届けた。」
 もう1人の男が迅雷たちの前に出てきて話を続ける。
「私はナイトガンダム。噂が出ている伝説の武将は、私たちのことだ。」
 男、ナイトガンダムも自己紹介をした。
「力を求めてここに来る者は少なくない。私たちに勝利した者は、ほんのわずかだ。」
「そこまで強いっていうのか、お前たちは!?」
 ナイトガンダムの話を聞いて、悟空が驚く。
「だったらオイラと戦ってくれ!オイラ、強くなりてぇんだ!」
「強くなる?何のために強くなると言うのだ?」
 頼み込む悟空に迅雷が問いかける。
「何のためにって・・強くなって、お師匠様と諸葛亮を止めるんだ!強くならなきゃ、止めることができないから!」
「お前の師匠、三蔵法師は力による世界の統一が平和につながると判断した。誰かに操られたわけでなく己の意思で。」
 理由を答える悟空に、疾風が三蔵のことを話す。
「そんなことない!お師匠様は操られてるんだ!そうじゃなかったら、誰か悪いヤツに騙されて・・!」
「三蔵が強い精神の持ち主ということは、悟空、共に旅をしてきたお前のほうがよく分かっているはずだ。」
 言い返す悟空にナイトガンダムが告げる。
「それでも・・お師匠様が悪いことをするなんてあり得ねぇんだ!」
「現実を見ろ。三蔵はお前たちを見限り、諸葛亮はお前たちや劉備を裏切った。連れ戻すことも止めることも筋違いというもの。」
「いい加減なことを言うな!お前らに何が分かる!?お師匠様とオイラたちの何が分かる!?」
「私たちはこれまで世界を見届けてきた。お前たちも、三蔵たちも。」
 いら立ちをあらわにする悟空に、ナイトガンダムが冷静に答えていく。
「これ以上、オイラたちをバカにするなら、誰だろうと許さねぇぞ!」
 悟空が我慢の限界を迎えて、如意棒を手にしてナイトガンダムたちに向かっていく。
「よせ、悟空!」
 司馬懿が呼び止めるが、悟空が跳び上がり如意棒を振り下ろす。疾風が前に出て、刀の1本を抜いて如意棒を弾いた。
「力を交えるというならば、お前の相手、オレが務めよう・・!」
 疾風が目つきを鋭くして、悟空に向かっていく。
「こうなったら、この勝負に勝って、強くなってみせる!」
 悟空が意気込みを見せて、疾風に戦いを挑む。
「やめろ、悟空!いきなり戦いを仕掛けるな!」
 光秀も叫び、悟空を止めようと近づいていく。だが彼の前にナイトガンダムが立ちはだかる。
「これは悟空自身が向き合わなければならない戦いだ。手出しは無用だ。」
「待ってくれ!我々はただ、強くなる術を求めてきただけだ!いきなり戦いたいと思っていたわけではない!」
 行く手を阻むナイトガンダムに、光秀が呼びかける。
「それに、お前も自分と向き合わなければならないのは同じだ。」
「私も、自分と向き合わなければならない・・・!?」
 ナイトガンダムが投げかけた言葉に、光秀が戸惑いを覚える。
「光秀、お前はかつての主君、信長に対する強い怒りに囚われている。怒りを力に変える強者もいるが、怒りを強くして溺れては、破滅を辿ることになる・・」
「私が信長を討たねばならないのは、そのような復讐心からではない・・ヤツを野放しにすれば、ヤツによってあらゆる国や民が蹂躙されることになるのだ・・・!」
 忠告を送るナイトガンダムに、光秀が反論する。
「そう自分に言い聞かせていると言うが、お前の心には復讐に対する意思がある。押し殺しているようだが、私には分かる。」
「バカな・・私は、そのようなものに惑わされはいない・・・!」
 ナイトガンダムからの指摘に、光秀が声を振り絞って言い返す。
「ならばお前の魂を、その刀に込めてぶつけてこい。お前の魂、私が見定めよう。」
 ナイトガンダムが剣を手にして、光秀に戦いを仕掛けてきた。
「さぁ、お前も刀を抜くのだ!剣を交えることで、真の強き者ならば、互いに魂を理解し合えるはずだ!」
「互いの魂を理解し合える・・私が、あなたのことを・・・!?」
 言い放つナイトガンダムに、光秀が戸惑いを覚える。
「剣や拳を交えて心を通わせるのは、かなり高度なこと・・しかも相手の力が大きく上回っていれば、一方的に心を読まれることになる・・・!」
 彼は緊張を募らせながらも、天牙麒麟刀を鞘から抜いた。
「光秀・・お前も悟空と同じく戦うつもりか・・・!?」
 悟空だけでなく光秀も戦うことに、司馬懿が毒づく。
「ならばわしが貴様の相手ということになるな、司馬懿。」
 迅雷が司馬懿に近づき、薙刀を手にして構えた。
「お前がオレの力試しをするというのか・・いいだろう・・!」
 司馬懿が迅雷の挑戦を受けて、構えを取る。
「悟空たちを止めないといけないから、早く終わらせてもらうぞ・・!」
 司馬懿が言って、迅雷に向かって飛びかかる。司馬懿が繰り出した拳を、迅雷が後ろに下がってかわし、薙刀の柄で防いでいく。
(冷静にオレの攻撃を回避している・・ならば!)
「淵獄魔掌!」
 迅雷の動きを見て、司馬懿が淵獄魔掌を装備して振り下ろした。彼の打撃が地面を叩き、土煙を舞い上げた。
「視界を遮り奇襲を仕掛けるつもりなのだろうが・・」
 迅雷は動じずに薙刀を構える。押し寄せてくる土煙を、彼は薙刀を振りかざして切り裂き吹き飛ばした。
 その先には司馬懿の姿はなかった。彼は迅雷の後ろに回り込み、淵獄魔掌を振り下ろした。
 だが迅雷は振り返ることなく、薙刀を後ろに動かして淵獄魔掌を防いだ。
「何っ!?」
「姿かたちは時にまやかしと化す・・」
 驚愕する司馬懿に言い返して、迅雷が淵獄魔掌を跳ね返し、振り向き様に薙刀を振りかざした。
「ぐっ!」
 淵獄魔掌で薙刀を防いだ司馬懿だが、一撃の威力は止めきれず突き飛ばされた。
「防がれても力で押し切れる・・これがヤツの強さ・・・!」
 迅雷の力を痛感し、司馬懿が毒づく。
「疾風は速さと手数、わしは力に長けている。力比べを挑むなら、覚悟することだ・・!」
 迅雷が司馬懿に忠告して、薙刀を構えて距離を詰める。
(この男はただ力が強いだけではない・・あらゆる戦況に対応できる実力も備えている・・・!)
 司馬懿が迅雷の力を確かめていく。
(ヤツの出方を伺い、反撃するしかないか・・・!)
 司馬懿が淵獄魔掌を構えて、迅雷の出方を伺う。
「来ないのか?ならばわしから攻めさせてもらうぞ。」
 迅雷が飛びかかり、司馬懿に向けて薙刀を振り下ろしてきた。司馬懿は右に動いて薙刀をかわし、淵獄魔掌を迅雷目がけて振りかざした。
 次の瞬間、迅雷は地面に叩きつけていた薙刀を力強く振り上げた。その風圧で淵獄魔掌を跳ね上げられ、司馬懿は宙に飛ばされた。
(刃の圧力で、オレが軽々と持ち上げられるとは・・・!)
 空中にいる司馬懿が、迅雷の力を改めて思い知らされる。落下する彼に対して、迅雷が薙刀を構える。
(このままではやられる・・!)
「闇潰冥葬!」
 危機感を覚えた司馬懿が、淵獄魔掌を前に出して赤い光を放った。迅雷が光を浴びて、動きを止められた。
「殲獄波動!」
 司馬懿が続けて淵獄魔掌から光を放った。
「はっ!」
 迅雷が力を込めて赤い光を破り、薙刀で閃光を切り裂いた。
「これも、通じないというのか・・・!?」
「貴様も力に溺れている。その過信が、貴様がわしや三蔵に及ばない決定的な理由だ。」
 目を見開く司馬懿に、迅雷が進言する。
「バカな!?力を求めなければ、三蔵を止めることはできない・・!」
「その力への欲求に、貴様は囚われている。それでは貴様も三蔵と同じ邪な覇道を歩むことになる・・」
「三蔵も諸葛亮も、邪な覇道に身を投じたということか・・・だがオレは、ヤツらと同じ轍は踏まん!」
「あくまで力を誇示しようというのか・・ならばわしと貴様の魂の差を、噛みしめるがいい・・・!」
 聞き入れようとしない司馬懿に対し、迅雷が薙刀を構えて全身に力を込める。
「今までは肩慣らしだったが、次は少し力を入れていくぞ・・・!」
 体から黒い稲妻を帯びた赤いオーラを発した迅雷に、司馬懿が緊迫を覚える。彼は迅雷の覇気に気圧されていた。
(これが、伝説の武将の、真の力なのか・・・!?)
 迅雷たちの真の力を思い知らされ、司馬懿が緊張を隠せなくなっていた。

 ノルムを離れた三蔵と諸葛亮は、信長と合流していた。
「光秀がノーザンワールドに行った?」
「はい。伝説の武将の噂を頼りに、強くなろうとしているようです。」
 眉をひそめる信長に、三蔵が光秀たちのことを話す。
「あなたは光秀は眼中にないと仰っていましたが、いかがいたしますか・・?」
「その通り、ヤツなど眼中にない・・が、ノーザンワールドを制圧するのもいいだろう。」
 問いかける三蔵に対し、信長が攻撃の範囲を広げることを告げた。
「でしたら、私たちもあなたと共に行ってもよろしいでしょうか?先ほどノーザンワールドを訪れて、現状をあなたに伝えられますよ。」
「よかろう。わしの邪魔をしなければ好きにしても構わん。」
「ありがとうございます。諸葛亮にもそう伝えます。」
「では、明日にでも向かうとするかのう。」
 感謝する三蔵に答えて、信長はこの場を後にした。
(これで信長殿を悟空たちにけしかけることができました。後は私たちが揃って、悟空たちを打ち倒せばいいだけのことです・・)
 信長をそそのかすことができて、三蔵は喜びを感じていた。

 疾風に力任せに攻撃を仕掛ける悟空。しかし疾風に攻撃をことごとくかわされていく。
「1人の力ではオレに一矢報いることもできんぞ。」
 疾風が告げて、悟空の如意棒の突きを跳躍でかわした。
「うっ!」
 悟空が背中を刀で叩かれ、前のめりに倒れた。
「今のは峰打ちだが、本来なら今の一撃で致命傷は免れないところだ。」
「くっそー・・なめやがってー・・・!」
 冷静に告げる疾風に、立ち上がる悟空がいら立ちを見せる。
「だが次は本気で斬り捨てる。持てる力の全てを引き出さなければ、死ぬことになるぞ。」
 疾風が忠告して、悟空に刀の先を向けた。
「オイラの、持てる力の全て・・・!」
 悟空が自分の真の力が何かを考える。
(そういえば司馬懿と光秀は、オイラの中に八戒と沙悟浄がいるって言ってたな・・それがホントなら2人とも、オイラの声を聞いてくれ・・!)
 彼が八戒たちに向けて念じる。しかし八戒の声も沙悟浄の声も聞こえない。
(おい、八戒!沙悟浄!オレの中にいるっていうなら、返事ぐらいしろよ!)
 悟空が左手を体に当てて、八戒たちに呼びかける。
(ホントはいないのか!?それとも寝てんのか!?こんなときに寝てるんだったら、お前らには頼らねぇよ!)
 悟空は八戒たちに向けて怒鳴ってから、如意棒を構えて疾風を睨みつける。
「力を引き出そうと試みたか・・だがお前自身の意思で成功しなかったようだ・・・」
 疾風が悟空の様子を見てため息をついた。
「ここまでのようだ・・次の一撃でしまいになりそうだ・・・!」
 彼が腰に提げていたもう1本の刀を鞘から抜いて、2本を構えた。
「覚悟せよ、悟空・・・!」
 疾風が刀を交差させて、悟空に向かっていく。
「やってやる!アイツをブッ倒す!」
 いきり立った悟空が疾風を迎え撃つ。悟空が振りかざすよりも早く、疾風の刀が彼を捉えたように見えた。
 次の瞬間、悟空が真上に跳躍して、疾風の刀をかわした。悟空の体から青いオーラがあふれ出していた。
「やれやれ・・悟空のヤツ、ゆっくり休ませてもくれへんのか・・・」
 悟空がため息混じりに呟く。彼の中にいた沙悟浄が表に出てきた。
「中にいた別の魂が出てきたか・・お前の力も見せてもらうぞ。」
 着地した沙悟浄を見据えて、疾風が刀を構えた。
「今度はワイが相手になってやるで!どっちの速さが上か、白黒つけたる!」
 沙悟浄が言い放ち、疾風に向かって走り出す。
 沙悟浄が青いオーラを帯びた蹴りを繰り出し、疾風が刀で防いでいく。
(悟空のときよりも速さが増している。これが沙悟浄の強さか・・)
 疾風が沙悟浄の速さを把握していく。次の瞬間、沙悟浄の蹴りを刀で受けて、疾風が押された。
 沙悟浄がその隙に連続で蹴りを繰り出していく。疾風が後ろに下がって回避するが、着地の際に体勢を崩した。
「もらったで!飛猿閃蹴!」
 沙悟浄が大きく跳び上がり、空中で高速回転する。彼は旋風を巻き起こしながら、疾風に向かって突っ込んだ。
 その瞬間、疾風も刀を振りかざして、竜巻を起こした。2つの風が激しくぶつかり合い、沙悟浄と疾風が押された。
「今の技、速さと威力は互角か・・・!」
「せやけど、この技を何度もやったら、ワイのほうが先に疲れてまうわ・・・!」
 冷静に双方の力を把握する疾風と、焦りを噛みしめる沙悟浄。
「どうすりゃえぇんや・・これじゃ埒が明かん・・・!」
“せやったら、次はオレが相手ばする!”
 思考を巡らせていたところで、沙悟浄は八戒の声を聞いた。
(その声は八戒・・アイツはワイ以上の速さやぞ・・お前に追いつけるんか・・!?)
“確かに速さには自信ないが、力なら負けんで!”
 沙悟浄の問いに八戒が意気込んで答える。
“だからオイラに交代しとくれ!”
「分かったで、八戒・・後は任した!」
 八戒の頼みを聞いて、沙悟浄が意識を傾けた。体からあふれていた青いオーラが赤く変わった。
「今度はオイラが相手や!この力、たっぷり思い知らせてやるで!」
 沙悟浄に代わって表に出てきた八戒が、疾風に向かって言い放つ。
「お前が猪八戒か。どれほどの力であろうと、当たらなければどうということはない・・それを思い知ることだ。」
 疾風が八戒に言って、刀を構えた。八戒が前進を始めると、疾風が素早く動き出した。
 八戒が動きを追うが、疾風の速さを捉えることができない。
「ぐっ!」
 左肩に強い衝撃を感じて、八戒がうめく。続けて体に連続で衝撃が襲い、彼は顔を歪める。
「耐久力も高いようだが、いつまでも耐え切れるわけではない。」
 疾風が八戒の強さを把握していく。彼は連続で攻撃を当てて、八戒を怯ませようとする。
「攻撃しようにも、当てることができないか・・」
 八戒がなす術がないと見て、疾風が攻撃を続けた。彼の左手の刀を右肩に当てられた瞬間、八戒がその左腕をつかんだ。
「何っ!?」
「捕まえてしまえば、素早くても意味はなか!」
 声を荒げる疾風に、八戒が笑みを見せる。八戒が疾風の腕を引っ張り、地面に叩きつけた。
「うぐっ!」
 強い衝撃を受けて、疾風がうめく。八戒が彼に向けて立て続けに巨大な拳を叩き込んでいく。
「これでしまいや!紅蓮剛爪鈀!」
 八戒が疾風から1度離れて、両腕から大量の光の球を放った。
「オレを手放したのは失敗だったな・・」
 疾風が呟いて、2本の刀を振りかざした。刀によって起こった風が竜巻となって、光の球を吹き飛ばした。
「なっ!?」
 自分の技を破られ、八戒が目を見開いた。
「もう捕まりはせん・・お前を遠くから攻める術は、オレにはある・・」
 疾風が刀を振りかざして、気の刃を飛ばす。
「うおっ!」
 八戒が刃をぶつけられ、体勢を崩していく。
(これじゃ近づけねぇ・・どうしたらいいんや・・・!?)
「ぐあっ!」
 打開の糸口を見つけられず、八戒が耐え切れなくなって気の刃に吹き飛ばされた。疾風がひと息ついて、うつ伏せに倒れた八戒に近づいていく。
「お前たち1人1人バラバラに出てきても、オレの速さにあしらわれるだけだ。」
 疾風が見下ろすと、悟空がうめき声を上げて顔を上げる。八戒の人格が引っ込み、悟空の人格が戻っていた。
「悟空、お前の中には確かに猪八戒と沙悟浄の魂が存在している。時に各々の人格が表に出て、その力を発揮できるようになる・・が、それがお前たちの真の力ではない。」
 疾風が悟空たちの力について語っていく。
「何を・・ワケ分かんないことを・・・!」
 彼の言葉の意味が分からず、悟空がいら立ちを募らせる。
「お前も認識し自覚しろ、悟空。お前自身も八戒たちが中にいることを。」
「やっぱり、オイラの中に八戒たちがいるのか・・だけど、何でオイラは2人がいるのを実感できねぇんだ!?何でオイラの声がアイツらに届かねぇんだ!?」
 疾風に指摘されても、未だに八戒たちとつながれないことに、悟空は憤りを感じていた。
「引き出してみせろ。お前たちの持つ全ての力を・・」
「オイラの全て・・オイラと、八戒と沙悟浄・・・!」
 疾風に言われて、悟空が左手を自分の胸に当てた。
(アイツらがオイラのとこに来るんじゃない・・オイラがアイツらを引っ張り出すんだ・・!)
 彼が意識を集中して、八戒と沙悟浄を感じ取ろうとする。
(どこだ・・どこにいるんだ、おめぇら・・・!?)
 自分の体を隅々まで探り、八戒たちを捜し続ける悟空。
(体のどこにもいねぇ・・いるとしたら、オイラの心の中・・・!?)
 彼は自分の記憶を呼び起こすように、八戒たちを捜し続けた。
 そのとき、悟空は八戒たちと共に三蔵の旅をしていたことを思い出した。苦楽を共にした旅の中で、悟空たちは友情を育み、互いを大切に思っていた。
 だが三蔵の裏切りによって、八戒と沙悟浄は力尽き、悟空は絶望した。
(お師匠様はオイラたちを見捨てた・・八戒たちが攻撃されて、倒れて目を覚まさなくなった・・・それが、信じられなかった・・・)
 師の裏切りと仲間の死を、悟空は悲しみを隠せなかった。
(そのときに八戒たちは、オイラの中に入ったってことか・・・!)
 悟空がさらに記憶を呼び起こそうとする。絶望に打ちひしがれていたが、そのときに八戒と沙悟浄の魂が自分の中に入った感覚を、悟空は確信した。
(オイラは、中にみんながいるのが分かってる・・だったら、オイラがそこからみんなを引っ張り出す!)
 悟空が強く念じて、八戒と沙悟浄の魂の在り処を見出す。
「見つけた・・八戒!沙悟浄!」
 心の中で悟空の魂が手を伸ばし、八戒と沙悟浄の魂をつかんだ。
「悟空!」
「やっと見つけたぞ、おめぇら・・!」
 叫ぶ八戒たちに、悟空が微笑んだ。
 集中力を高めていた悟空が、落ち着きを取り戻していく。
「もしや、猪八戒と沙悟浄と通じ合えたか・・・?」
「あぁ・・・八戒も沙悟浄も、確かにオイラの中にいた・・やっと、オイラも気付けた・・・!」
 疾風が声を掛けて、悟空が小さく頷いた。悟空の後ろに八戒と沙悟浄の幻影が現れた。
“やっとオイラのことが分かったな、悟空!”
“考えなしに突っ走るとこがあったから、気付けへんのやと思うたわ・・”
 八戒と沙悟浄が悟空に声を掛けて、笑みをこぼした。
「八戒・・沙悟浄・・・ホントに・・ホントにおめぇらなんだな・・・!?」
 悟空が2人の魂を感じ取れていることに、戸惑いを覚える。
“お前、まだ寝ぼけとるちゃうんか?”
“オイラたちはここにいる!おめぇの中にちゃんとな!”
 沙悟浄と八戒が悟空を励ます。2人の声を聞いて、悟空が喜びを感じていた。
“お師匠様があないなことをしたんは、オイラも信じられんかった・・・!”
“オレたちもこれからもずっと、みんなと一緒に旅をしたかった・・・!”
 八戒と沙悟浄が正直な気持ちを口にする。
「それはオイラも同じだ・・何でお師匠様が、あんなやり方で世界を変えようとするのか、全然分かんねぇ・・・!」
 悟空も三蔵に対する疑念を感じていく。
「分かってるのは1つ・・お師匠様と諸葛亮を止めて、劉備のとこに連れ帰ること・・!」
“分かっとるやないか、悟空。”
“今度はオイラたち、3人力を合わせてやろうな”
 1つの決意を口にする悟空に、沙悟浄が笑みをこぼし、八戒が呼びかける。
「八戒、沙悟浄・・もう1度、オイラに力を貸してくれ・・!」
“当たり前や!”
 悟空の呼びかけに答える八戒と沙悟浄の声が重なった。2人の幻影がそれぞれ赤と青のオーラとなって、悟空を包み込んだ。
 悟空の体を強いオーラと多くの武具が覆っていた。それは彼自身だけでなく、八戒と沙悟浄のものも含まれていた。
「その姿・・3人の力を同時に引き出したか。」
 疾風が悟空の姿を見て、小さく頷く。
「八戒、沙悟浄、おめぇらの魂と力、確かに受け止めたぞ・・・!」
 八戒たちの魂を実感して、悟空が両手を握りしめて力を高める。彼の体から赤と青のオーラが放出されていた。
 悟空は八戒、沙悟浄の力と武器を全て兼ね備えた「渾然猴王態(こんぜんこうおうたい)」となった。
「お前は速さは沙悟浄と互角だが、八戒と比べて力は弱い!2人の強みを持てば、おめぇを超えられる!」
 悟空が疾風に言い放ち、構えを取ってオーラを放出した。
「単純に考えればそうなるが・・そんな考え方で勝てるほど、戦いは甘くはないぞ・・・!」
 疾風が悟空に飛びかかり、2本の刀を振りかざした。その瞬間、彼の視界から悟空の姿が消えた。
 疾風が気配を探り、悟空の行方を追う。
「そこだ!」
 疾風が振り向き様に刀を振りかざす。その先の空中にいた悟空が、身を翻して刀を回避した。
「はあっ!」
 悟空が疾風目がけて両手の爪を振り下ろす。疾風が刀を掲げて、爪を防いだ。
(速く力がある・・八戒の力と沙悟浄の速さを兼ね備え、その全てを使いこなしている・・・!)
 疾風が悟空の強さを把握して、出方を伺う。
「コイツはオイラ1人の力じゃねぇ!仲間と力と魂を合わせてるんだからな!」
 悟空が八戒たちとの絆を実感して言い放つ。
「オイラはおめぇに勝って、お師匠様と諸葛亮を連れ戻す!」
 悟空が飛びかかり、疾風に向けて両手を振りかざす。疾風が跳躍して攻撃をかわし、刀を振りかざして気の刃を飛ばす。
「くっ!」
 悟空が両腕を掲げて、気の刃を防いで耐える。
「動きを止めれば速さは意味を成さない。お前も示していたことだ・・」
 疾風が攻撃を続けながら、悟空に告げる。
「そうだな・・けど、オイラたちは速さだけじゃねぇ!」
 悟空が言い返して、速度を上げて疾風に突っ込む。
「やすやすと近づけさせると思っているのか・・・!?」
 疾風が刀を振りかぶり、突風を巻き起こした。
「うおっ!」
 竜巻となった突風に巻き込まれて、悟空が舞い上げられた。
「これはただの竜巻ではない。オレの気が混じり合い、かまいたちが飛び交っている・・・!」
 疾風が見上げて悟空に語る。竜巻の中を気の刃が飛び交い、悟空に次々に命中していく。
「このままじゃさすがにやられちまう・・この風から抜け出さねぇと・・!」
 悟空が全身に力を入れて、2色のオーラを放出した。オーラは気の刃を打ち破り、竜巻を吹き飛ばした。
「これでケリをつけてやるぞ!」
 着地した悟空が、両手にオーラを集中させていく。
「全力を振り絞るか・・ならばオレも最高の技でお前を倒しに行く!」
 疾風が交差した2本の刀に気を集中させる。
「双龍疾風斬(そうりゅうしっぷうざん)!」
 駆け込んできた悟空に対し、疾風が気を集中させた刀を振りかざした。
「渾然猴王激!」
 悟空がオーラを集めた両手の拳を繰り出し、刀にぶつけた。悟空の拳の威力で、疾風の刀に亀裂が入った。
 疾風が競り負けて、悟空の拳に突き飛ばされて、その先の岩に叩きつけられた。
 拳を下げた悟空がひと息つく。オーラが顔も覆って龍の形になった悟空は、さらに力を高めていた。
「見事だ、悟空・・仲間と力を合わせたようだな・・・」
 声を振り絞る疾風が、悟空を称賛する。悟空が力を抜くと、あふれていたオーラが消えた。
「だがそれで満足するな・・お前たちがさらに強さを追い求めるなら、今のが限界ということにはならん・・・」
「オイラたちが、強さを求める・・・!」
 疾風から激励されて、悟空が気を引き締めなおす。三蔵、諸葛亮と向き合おうとしていた悟空は、これで慢心してはいなかった。
「悟空、猪八戒、沙悟浄・・お前たちの力、オレは認めた・・・その心構え、決して忘れるな・・・」
 疾風はそう言うと、悟空の前から姿を消した。
「疾風・・ありがとな・・・」
 悟空は疾風に感謝すると、振り返って歩き出す。
「八戒、沙悟浄、おめぇらもな・・これからも、よろしくな・・・!」
 八戒たちにも呼びかけて、悟空は光秀たちのところに戻った。
 
 
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