SDガンダムワールド
真・戦国英雄伝
第1章

 

 

世界に名を轟かせる武人。
その中でも指折りの強さを持つ者は、一騎当千というべき武人ばかりである。

この世界の中で、命懸けの戦いに身を投じていた者たちがいた。


 砂塵の舞う荒野を疾走する1台のバイク。エネルギー「トリニティ」で動く「トリニティバイク」で、この1台は前方を青、後方を赤がメインカラーとなっていた。
 このトリニティバイクを運転していたのは、司馬懿(しばい)デスティニーガンダム。自らの力を高めるため、孤独の旅をしていた。
(戦場から戦場へと渡ってきたが、ここも戦いが終わった後か・・ヤツのいた様子もない・・・)
 司馬懿が荒野を見渡して、そこで起こった戦について推測していた。
(ヤツがこの辺りの戦に関わったかどうかは分からない・・だが、ヤツと戦うためにも、オレは強くならなければ・・・!)
 倒すべき敵を見据えて、司馬懿が怒りを噛みしめる。彼はそのための力への欲求も抱えていた。
「止まれ!」
 そこへ声がかかり、司馬懿がトリニティバイクを停車させた。彼の前に1人の男が現れた。
「貴様から強い闘気を感じる・・かなりの強者のようだ・・・!」
 男が司馬懿に向けて鋭い視線を向けてきた。
「我が名は光秀(みつひで)フォースガンダム・・貴様の力、確かめさせてもらう・・!」
 男、光秀が鋭く告げて構える。
「いきなり戦いを挑むとは穏やかではないな・・」
 司馬懿がため息をついてから、トリニティバイクから降りた。
「オレの名は司馬懿デスティニーガンダム。ある目的のため、1人旅をして強さを求めている。お前が戦いを挑むなら、オレもお前の力を確かめさせてもらうぞ・・!」
 司馬懿が光秀からの挑戦を受け、構えを取る。
「望むところだ・・行くぞ、司馬懿・・!」
 光秀が鋭く言って、司馬懿に向かって飛びかかる。2人が拳を握りしめ、互いにぶつけ合う。
「くっ!」
 衝撃が周囲に広がり、司馬懿と光秀が顔を歪める。2人が距離を取り、相手の次の出方を伺う。
 司馬懿と光秀がゆっくりと移動しながら、相手の動きを見計らう。2人とも、一瞬の油断が敗北につながると考えていた。
 重くのしかかった静寂を破るように、司馬懿と光秀が同時に飛び出した。2人が拳を振りかざしぶつけるが、その衝撃で彼らは突き飛ばされた。
「なんという強さだ・・どうやら、全力を出さなければならないようだな・・!」
 司馬懿が光秀の力を痛感して、緊張感を募らせる。
「私は強くならなければならない・・そうしなければ、あの方を止められない・・・!」
 光秀が力への渇望をあらわにして立ち上がる。彼が腰に下げていた刀を引き抜くと、その刀が大きく神々しくなった。
「天牙麒麟刀(てんがきりんとう)!」
 光秀が刀、天牙麒麟刀を構えて、司馬懿に向かって前進する。
「力を全開しなければ、確実に敗北する・・!」
 覚悟を決めた司馬懿が、全身に力を込める。彼の目が赤くなり、全身から赤黒い稲妻のような光が現れた。
「淵獄魔掌(えんごくましょう)!」
 司馬懿が右手に黒く巨大な爪、淵獄魔掌を装着する。
「はっ!」
 光秀が飛びかかり、天牙麒麟刀を振りかざす。司馬懿が淵獄魔掌を掲げて、天牙麒麟刀を受け止める。
 光秀が力を込めて、司馬懿を押し込もうとする。司馬懿も淵獄魔掌から衝撃波を発して、光秀を押し返す。
「これほどの力・・私が強くなるには丁度いい相手だ・・!」
 光秀が呟き、再び司馬懿に向かっていく。
「闇潰冥葬(あんかいめいそう)!」
 司馬懿が淵獄魔掌を前に出して、赤い光を放った。光秀が光に包まれて、動きを封じられる。
「体が、動かない・・・!」
 思うように動けなくなり、光秀がうめく。
「かなりの力を持っているようだが・・これで決着を付けさせてもらう・・!」
 司馬懿が光秀に告げて、淵獄魔掌に力を込める。淵獄魔掌に宿る光が濃くなっていく。
「殲獄波動(せんごくはどう)!」
 司馬懿が右手を振りかざして、淵獄魔掌から閃光を放つ。
「私は・・こんなところで果てるわけにはいかないのだ・・!」
 光秀が力を振り絞り、強引に束縛を破ろうとする。
「龍気発動!」
 光秀の体から閃光がほとばしり、束縛を打ち破った。彼の体の閃光は、天に昇る龍のような姿かたちをしていた。
「これは・・!?」
 光秀の発揮した力に、司馬懿が緊迫を覚える。
「天牙龍神斬(てんがりゅうじんざん)!」
 光秀が天牙麒麟刀を振りかざし、閃光を切り裂いた。彼の一閃は光の刃となって飛び、司馬懿がとっさに横に飛んでかわした。
 光秀の一撃は地面を深く長い傷跡を付けていた。
「これほど凄まじい威力だとは・・いくら全力のオレでも、まともに食らえば無事では済まない・・・!」
 光秀の力を痛感して、司馬懿が危機感を募らせる。光秀が司馬懿に振り向いて、天牙麒麟刀を構える。
「真っ向勝負ではリスクが大きすぎる・・あの大振りの攻撃をかわして、隙を突くしかない・・・!」
 司馬懿が集中力を高めて、光秀が攻撃を繰り出す瞬間を伺った。
「天牙龍神斬!」
 光秀が司馬懿を狙って、天牙麒麟刀を振り上げた。
「うっ・・!」
 そのとき、体から出ていた光が途切れて、光秀がうめいて地面に膝をついた。
「力が・・やはり、体力の消耗が激しいか・・・!」
 光秀が呼吸を乱してうめく。龍気発動は彼の身体能力を大きく増強するが、体力の消耗も激しく、まだ制御できていない。
「どうやら、その力をうまく使えていないようだな・・その力が長く続くようになっていたら、オレは敗北を喫していただろう・・」
 司馬懿がひと息ついて、自分の力を抑えて光秀に近づく。
「強くならねば・・この力を制御できなければ・・あの者に勝つことはできぬ・・・!」
 光秀が悔しさを浮かべて、地面に拳を打ち付ける。
「お前も、倒すべき敵がいるのか?・・その者を討つために、力を求めている・・」
「そうだ・・私が止めねばならぬ者は・・かつての主、信長(のぶなが)・・・!」
 司馬懿から投げかけた言葉を受けて、光秀が怒りを噛みしめる。
「信長・・信長ガンダムエピオンか・・!」
 司馬懿が信長のことを思い出して呟く。
 信長ガンダムエピオン。世界に名を轟かせている武将の1人。自分の意に反するものを徹底的に排除する暴君でもある。
「お前は信長の部下の光秀か!・・そのお前が、なぜ主君を・・・!?」
「信長は己が道を突き進んできた。その志に惹かれた者は多く、私のその1人だった・・だがその暴挙が過激になり、我々の助言に耳を貸すこともしなくなった・・・!」
 司馬懿が問い詰めて、光秀が信長のことを語っていく。
「耐えられなくなって、信長の元を離れたのか・・」
「しかし信長は強い・・己が信念を貫けるだけの強さを備えている・・ヤツを討つには、私も力を付けなければならない・・・!」
 司馬懿が納得して、光秀が信長への怒りを募らせていく。
「・・ならばオレと行動を共にしないか?」
「何・・?」
 司馬懿が投げかけた言葉に、光秀が当惑を覚える。
「オレも強くなるために世界を回っている・・それも、ある男を倒すために・・」
「おぬしも、私と似た戦いをしているのか・・・!」
「1人で戦いを経て強くなるよりも、オレたちが競い合って腕を磨く方がより強くなれると、オレは思うのだが・・」
「競い合い、互いに強くなっていく・・・!」
 司馬懿の誘いを聞いて、光秀が心を動かされていく。
「よかろう・・お前と共に力を高め、互いに討つべき敵を討つ・・!」
 光秀が誘いを聞き入れて、司馬懿が頷いた。
「しかしただ我々が切磋琢磨をしても、強くなるのには限界があるはず・・だからといって無闇に動き回っても・・・」
「行き先は1つ決めている。噂程度のものだが、頼るだけでも精進につながると思っている・・」
 光秀からの疑問に対し、司馬懿が目的地を告げる。
「伝説の武将だ。その者の力の前では、どのような敵が束になろうと敵わない。一騎当千の強さを誇ったと言われている・・」
「その話は私も耳にしたことがある・・だがこれは噂話だ。実際に誰かがその武将に会ったという話はない・・」
 司馬懿の話を聞いて、光秀が顔を横に振る。
「夢物語であることは、オレも先刻承知だ。だがそれにすがって旅をするだけでも、何かを見出すきっかけにはなるはずだ・・」
「当てのない旅になりそうだ・・だが構わん・・私もそれに付き合おう・・」
 司馬懿の話に腑に落ちていないが、光秀は頷いた。
「そこのお前、待て!」
 そのとき、光秀と司馬懿に向けて声がかかった。振り向いた2人の前に、1人の少年が現れた。
「司馬懿に手を出すな!オイラが相手になってやる!」
 少年が光秀を敵視して構えを取る。
「そなたは何者!?司馬懿殿の知り合いか!?」
「オイラは悟空!悟空インパルスガンダムだ!」
 問いかける光秀に少年、悟空が名乗りを上げる。
「司馬懿に手を出すなら、オイラが相手になってやる!」
 悟空が光秀に言い放つと、両手を握りしめて体に力を入れる。
「よせ、悟空!この者は・・!」
 司馬懿が呼び止めるが、悟空は聞かずに光秀に向かって飛びかかる。
「戦いを挑むか・・ならば応戦するしかない・・!」
 覚悟を決めた光秀が悟空を迎え撃つ。悟空から繰り出す拳を、光秀が後ろに下がって回避する。
「逃げるな!」
 悟空が叫んで、スピードを上げて拳を繰り出した。
「ぐっ!」
 彼の拳をかわし切れず、光秀が突き飛ばされる。
「まだまだ!」
 悟空が棒「如意棒」を手にして、光秀を追いかける。踏みとどまった光秀が天牙麒麟刀を手にして、悟空を迎え撃つ。
 悟空が振りかざす如意棒と光秀が掲げた天牙麒麟刀が、激しくぶつかり合い響き渡る。
「待て!私は今は戦うつもりはない!」
「司馬懿はオイラの仲間だ!手出しはさせないぞ!」
 つばぜり合いを繰り広げる中、光秀が呼び止めるが悟空は聞こうとしない。悟空が構えた如意棒が伸びて、光秀の体に直撃した。
「ぐっ!」
 さらに伸びる如意棒に突き飛ばされて、光秀が地面を転がった。
「覚悟しろ!」
 悟空が跳び上がり、元の長さに戻した如意棒を光秀目がけて振り下ろした。光秀はまだ立ち上がれず、防御が間に合わない。
 そのとき、司馬懿が2人の対立の間に割って入り、淵獄魔掌で如意棒を受け止めた。
「司馬懿!?何で止めるんだ!?」
「話を聞け、悟空!この人は、光秀は敵ではない!」
 驚く悟空に司馬懿が呼びかける。司馬懿が如意棒を払い、悟空を引き離す。
「光秀はオレたちと志を同じくする者だ。共に旅をし、共に力を高め合う友となった。」
「友・・・司馬懿の、仲間に・・・」
 司馬懿の言葉を聞いて、悟空が思いとどまる。
「司馬懿がそこまで言うなら・・・」
 悟空が如意棒をしまい、光秀も天牙麒麟刀を腰に下げた。
「司馬懿殿、この少年はそなたの知り合いのようだが・・」
「あぁ。悟空はオレと共に旅をしている。コイツも倒すべき敵を倒すため、強くなろうとしている。」
 光秀が悟空のことを聞いて、司馬懿が答える。
「オイラの仲間の劉備(りゅうび)を騙して傷つけたアイツを、止めなくちゃならない・・!」
 悟空が記憶を思い返して、怒りを噛みしめる。
「劉備・・劉備ユニコーンガンダムか・・!」
「劉備も知っているとは、さすがというところだな・・」
 光秀の答えを聞いて、司馬懿が呟く。
「そなたも倒すべき敵がいるようだが、それは何者なのだ・・?」
 光秀が悟空に質問をする。
「・・・諸葛亮(しょかつりょう)・・・アイツがオイラと劉備たちを裏切ったんだ・・・!」
「諸葛亮・・劉備の友、諸葛亮フリーダムガンダム・・・!」
 悟空が口にした諸葛亮の名に、光秀が息をのむ。
「それだけじゃない・・諸葛亮を呼んだのは、オイラを見放した師匠なんだ・・・!」
「師匠って、まさか・・!?」
 悟空が話を続けて、光秀が耳を疑う。
「三蔵(さんぞう)ストライクフリーダムガンダム・・三蔵法師が、考えを変えて世界の制圧を目論むようになった・・共に旅をしていた悟空が止めるが返り討ちにされ、諸葛亮がその企みに賛同して、劉備たちを裏切った・・」
 司馬懿が悟空たちに起こったことを、光秀に話す。
 三蔵は悟空を含む仲間を連れて旅をしていた。その道中に劉備や諸葛亮と出会い、彼らのいた「ショク・エリア」に滞在したこともあった。
 しかし三蔵は突然豹変して、悟空たちを見放し、仲間を手に掛けた。彼の新たな考えに心を動かされた諸葛亮も、そそのかされて劉備たちに牙を向いたのである。
「お師匠様・・いきなりどうしちゃったんだよ!?・・いつもあたたかく、オイラたちを見守ってたのに・・!」
「悟空たちと共に滞在している間に、三蔵は変わってしまった・・豹変と言ってもほどに・・・」
 悟空と司馬懿が三蔵の異変に憤りを感じていく。
「それで三蔵と諸葛亮を捜しているということか・・」
「お師匠様と諸葛亮から、何であんなことをしたのかを聞く・・劉備のところに引きずってでも・・・!」
 光秀が納得して、悟空が怒りのこもった決意を見せる。
「しかし三蔵も諸葛亮も大きな力を備えていた上に、反逆したときにはその力をさらに高めていた・・止めるためには、オレたちも強くならなければならない・・」
「そうか・・私が求めていた伝説の武将も、そのためのきっかけになるかもしれない・・」
 力を求める司馬懿と悟空に、光秀が共感した。
「悟空も、共に高め合うために戦ってくれるか・・?」
 光秀が悟空に向けて手を差し伸べた。
「強くなれるのか、オイラも・・・!?」
「それは自分自身ということになるか。私もそなたも・・」
 悟空からの問いに、光秀が真剣な面持ちで答える。
「オイラ自身・・・望むところだ・・!」
 悟空が決意を言って、光秀と司馬懿が頷いた。
「1度ショクに戻るぞ。体を休めて、支度を整えてから旅に出なければ・・」
 司馬懿が呼びかけて、悟空が頷いた。
「私も来ていいのか・・?」
「あぁ・・劉備にも、お前の話を聞かせてやってほしい・・」
 問いかける光秀に、司馬懿が頷いた。2人がそれぞれのトリニティバイクに乗る。光秀のトリニティバイクは白がメインカラーであり、青と赤の模様も混じっていた。
「ん?悟空の乗り物は?」
「オイラのはあれだ・・“筋斗雲(きんとうん)”、こーい!」
 光秀に答えて、悟空が叫ぶ。彼らの前に金色の雲、筋斗雲が飛んできた。
「えっ!?金の雲!?」
「筋斗雲だ。オイラが呼べばすぐに来てくれる。」
 驚きを見せる光秀に、悟空が筋斗雲を紹介する。
「これで乗り物は十分ということか・・」
「ついてきてくれ。案内する。」
 光秀が安心して、司馬懿が呼びかける。3人はトリニティバイクと筋斗雲に乗って、ショクへ向かった。

 ショクの町にある病棟の1室で、劉備は眠っていた。手当は済んだが、彼はまだ意識が戻っていない。
 その病室に司馬懿が光秀、悟空と共に入ってきた。
「劉備・・・」
 司馬懿が声を上げたところで、劉備が目を覚ました。
「劉備!気が付いたのか!?」
「・・その声は、悟空・・それに司馬懿・・・オレは、いったい・・・」
 悟空が大声を上げて、劉備が記憶を呼び起こす。
「諸葛・・諸葛はどこだ・・!?」
「し・・諸葛亮は・・・」
 劉備が諸葛亮のことを思い出して、悟空が口ごもる。
「諸葛は出ていった・・三蔵に誘われて、オレたちを攻撃したんだ・・・!」
 司馬懿が声を振り絞り、劉備に真実を伝えた。
「そんな・・・アイツが、オレたちを裏切るわけがない・・三蔵さんだって、心優しい人だったのに・・・!」
 諸葛亮と三蔵の裏切りが信じられず、劉備が愕然となる。
「諸葛は裏切っただけじゃない・・以前よりも力を高めていた・・オレたちも強くならなければ、説得して連れ帰ることもできない・・・!」
 司馬懿が自らの力を高める決意を、劉備に伝える。
「しかし、当てがあるのか?ここで修業をするにしても、すぐに強くなれるわけでは・・」
「それなら私に当てがあります。司馬懿殿、悟空殿と共に旅に出たいと思っているのだが、よろしいですか・・?」
 疑問を投げかける劉備に、光秀が訊ねる。
「あなたは・・?」
「私は光秀フォースガンダム。この近くの戦場で司馬懿殿、悟空殿と知り合ったのです。」
 劉備に自己紹介をして、光秀が頭を下げる。
「そうか・・オレも一緒に行きたいが、まだ完全に回復したわけじゃないみたいだ・・」
 劉備は光秀を歓迎するも、共に旅に出られないことを痛感する。
「ムリをするな、劉備。オレたち3人でこの問題を解決する。」
「これは我々、各々の戦いです。己の強さを磨き上げるための・・」
 司馬懿が劉備を気遣い、光秀が自分の考えを伝えた。
「オイラ、もっと強くなる!そしてお師匠様と諸葛亮を連れ戻す!」
 悟空も劉備に対して意気込みを見せた。
「司馬懿、悟空、ムチャして自分を犠牲にするようなことはしないようにな・・光秀殿、あなたも・・」
「もちろんです。私は死ぬために戦うつもりはありません・・この私闘が終われば、再び国のため、世界のための戦いに戻ります・・」
 劉備からの注意を聞き入れて、光秀が自分の考えを伝えた。
「今日は休んで、明日ショクを出る。光秀にも部屋を用意する。」
「そうか・・悪いな、司馬懿。手を掛けさせてしまって・・」
「気にするな。言っただろう。これはオレと悟空、光秀の戦いだとな。」
 謝意を示す劉備に、司馬懿が笑みを見せて答えた。
「劉備、安静にしているんだぞ。」
「あぁ・・早く体が治ってほしいもんだ・・」
 司馬懿に言われて、劉備が苦笑いを浮かべてベッドに横になった。

 光秀は司馬懿が案内した寝室で休むことになった。それから一夜が過ぎて、光秀と司馬懿、悟空の旅立ちの時が来た。
「行ってくるぞ、劉備。諸葛と三蔵の暴挙、必ず止める・・」
 見送りに来た劉備に、司馬懿が決意を口にした。
「オレも知り合いと連絡を取り合って、情報を集めていく。もちろんオレもオレなりに精進していくつもりだ。」
「分かった・・またここに戻ってくるから、そのときに情報交換をしよう。」
 劉備が考えを伝えて、司馬懿が頷いた。
「感謝します、劉備殿。お世話になりました。」
「オレも君の仲間だ、これからもよろしく。」
 礼を言う光秀に、劉備が微笑む。2人が握手を交わして、友情を結んだ。
「では行くぞ、悟空、光秀。」
 司馬懿が呼びかけて、光秀が頷いた。2人がトリニティバイクに、悟空が筋斗雲に乗った。
「光秀、伝説の武将はどこにいるんだ?」
「世界の最果てと呼ばれる“ノーザンワールド”にいると言われている。しかしそこで誰かが目撃したといった話は聞かない・・」
 悟空が伝説の武将のことを聞いて、光秀が深刻な面持ちを浮かべて答える。
「ノーザンワールド・・このショクからでもかなりの距離だな・・・」
「厳しい道のりと思うか・・?」
「いや、望むところだ。このくらい乗り切れなければ、強くなることはできないからな・・」
「そうだな・・旅をするのも精進だ。」
 司馬懿の答えを聞いて、光秀も笑みをこぼした。
「では行くぞ。目的地のノーザンワールドへ。」
 光秀が声を掛けて、司馬懿と共にトリニティバイクを走らせた。悟空も筋斗雲を動かして、2人についていく。
(無事に帰ってきてくれ、司馬懿、悟空・・光秀・・・!)
 光秀たちを見送って、劉備は病室に戻っていった。

 戦火の広がる城下町。その奥にある城でも、戦が繰り広げていた。
 城に攻め込んだのは信長の軍勢。信長が自ら城にいる城主の前に現れた。
「ついに我が城まで来たか、信長・・・!」
 立ちはだかる信長に、城主が鋭い視線を向ける。
「天下統一がわしの野望だ。立ちはだかる敵は、この手で根絶やしにしてくれる。」
「おのれ、信長・・このまま敗れ去る私ではないぞ・・!」
 野心を示す信長に、城主が刀を手にして飛びかかる。しかし信長が振りかざした刀「へし切長谷部」の一閃で、城主の刀が折れた。
「この程度で将とは、この国の武力もたかが知れるというものだ・・」
 信長がため息をついて、へし切長谷部を構えた。城主が緊迫を募らせて、思わず身構える。
「おのれ・・おのれ、信長!」
 激高した城主が、折れた刀を持ったまま飛びかかる。
「愚か者め・・身の程を知れ!」
 信長が怒号を放ち、へし切長谷部に力を込める。へし切長谷部の刀身に光が宿り、蛇腹のかたちになった。
「絶刀燬灼龍穿(ぜっとうひじゃくりゅうせん)!」
 信長がへし切長谷部を振りかざして、城主を切り捨てた。
「呆気ないが、これでこの国もわしが制した。」
 信長がひと息ついて、元に戻ったへし切長谷部を鞘に収めた。
「他の者は忠誠を誓う者のみを連れていく。逆らう者、逃げる者はすぐに始末しろ!」
 信長が部下に命令して、燃え盛る城を後にした。
 信長軍の武士たちによって、残りの城主の部下たちが一掃された。信長たちが離れたところで、燃える城が崩れた。
「やりましたね、信長様!これでこの国も我々の領土です!」
「全国制覇も時間の問題です!」
 武士が今回の勝利を喜ぶ。
「浮かれている場合か。まだまだ敵はいるのだからな・・・!」
 信長に睨まれて、武士たちが押し黙る。信長は部下から1人離れていく。
「光秀の愚か者め・・目にかけてやった恩を仇で返してくるとは・・・!」
 敵対した光秀への不満を感じて、信長が両手を強く握りしめる。
「だが相手が誰だろうと、敵になるヤツはわしが全て切り捨てるまでだ・・!」
「ならば私たちと手を組みませんか?」
 そこへ声を掛けられて、信長はへし切長谷部を手に掛けてから振り向いた。彼の前に1人の男が現れた。
「何者だ、貴様?今のわしは虫の居所が悪い・・」
 信長が男に問いかけて、目つきを鋭くする。
「私の名は三蔵。あなたに力を貸してほしいと、お願いしに来ました。」
 男、三蔵が軽く頭を下げて、信長に話を投げかけてきた。
「わしの力を貸してほしい?ずいぶんと身の程を知らぬことをぬかすな・・」
「全国制覇、世界統一を実現できるあなたにしか頼めない、他の方では力不足になることなのです。」
 嘲笑する信長だが、三蔵は冷静な態度を崩さない。
「称賛しているようだが・・わしには、貴様はわしを手玉に取ろうとしているとしか思えんな・・」
 信長が疑いを募らせて、へし切長谷部を鞘から抜いて、切っ先を三蔵に向ける。
「この信長にこのようなマネをして、ただで済むと思うな!」
「光秀さんが強くなろうとしているのですよ。」
 怒鳴る信長に、三蔵が光秀のことを話す。
「光秀?あの裏切り者が強くなるというのか?」
「はい。私の知り合いと出会い、行動を共にしているようです。」
 信長が眉をひそめて、三蔵が話を続ける。
「フン。また与太話を・・光秀はそれなりに力はあったが、このわしには遠く及ばん。反旗を翻したときも、わしに見事に返り討ちにあったわ。」
「そのときよりも強くなろうとしているのです。あの伝説の武将に会うために今動いています。」
「伝説の武将?ますます与太話だな。それでわしよりも強くなろうとは笑止千万。」
「私たちもあなたも用心に越したことはありません。私の知り合いも、光秀さんに勝るとも劣らない強さを持っています。」
 嘲笑する信長に対し、三蔵は態度を変えずに話していく。
「私たちもここは力を合わせ、それぞれの目的を果たすのが得策と思いますが・・」
「思い上がるな!これ以上ふざけたことを言うなら、この場で斬り捨てる!」
 協力を求める三蔵にいら立ち、信長が飛びかかる。
「光秀さんではなく、私に討たれるのが望みか・・・?」
 三蔵が笑みを消した瞬間、信長がへし切長谷部を止めた。三蔵の発する気に、信長は一瞬気圧された。
(このわしが恐怖を覚えただと!?・・この三蔵という男、何者だ・・・!?)
 三蔵に威圧されて、信長が警戒を抱く。
「私はあなたと争うつもりはありません。あなたはあなたの目的のために戦えばよいのです。」
 三蔵が再び笑みをこぼして、信長に近づいていく。
「ただ、あなたの力を高めたいと思っただけです・・」
 三蔵が信長の腕に手を触れて、力を込めた。自分の体に刺激が送られたことを感じて、信長が目を見開いた。
「何だ!?・・力が、湧き上がってくるようだ・・・!」
 信長が力の高まりを感じて、戸惑いを覚える。
「私が力を与えて、あなたの底力を引き上げたのです。これで仮に光秀さんが強くなっても、返り討ちできるでしょう。」
 三蔵が微笑んで、満足げに頷く。
「それでわしを持ち上げて、何か企みがあるのではないか?わしを飼いならそうとすれば、地獄を見るのは貴様の方だということを覚えておけ・・!」
「かなりの闘将であるのは間違いないですね・・」
 敵意を示す信長に対し、三蔵は満足げに頷いた。
「三蔵、あなただけで信長殿に会っていたのですか・・」
 そこへ諸葛亮が来て、三蔵に声を掛けてきた。
「申し訳ありません。一刻も早く信長さんに会いたいと思っていたもので・・」
 三蔵が諸葛亮に目を向けて謝罪する。
「そこまでわしを必要としていたとはな・・よかろう!わしが天下統一を果たした暁には、お前たちをその祝いの席に呼んでやるぞ!」
「感謝します、信長殿。」
「ところで、貴様らの目的は何じゃ?貴様らにも何か狙いがあるのじゃろう?」
「私たちの目的は、世界を正しくまとめることです。」
 信長からの問いに、三蔵が悠然と答える。
「私は悟ったのです。世界は、絶対的な存在によってまとめられ、正すのがよいと・・」
「それがわしだというのか?ずいぶんとわしを持ち上げるものじゃな・・」
 三蔵から称賛されて、信長が高笑いをした。
「わしは部下を連れてわしの城に戻る。貴様らも来るか?」
「そうしたいのは山々ですが、私たち、これから用事がありまして・・それが済み次第、そちらへお伺いします。」
 城へ招待する信長に、三蔵が苦笑いを浮かべて答えた。
「遅れてしまうこと、申し訳ありません。」
「部下に貴様らのことは知らせておく。」
 諸葛亮が頭を下げると、信長が彼らに言って立ち去っていった。
「これで信長殿と協力関係を築けました。」
 三蔵が彼を見送って、満足げに頷いた。
「それでも、悟空と司馬懿を野放しにしてはいけませんよ・・現に伝説の武将の話は・・」
「なので早めに手を打ちましょう。私たちの手で・・」
 進言する諸葛亮に三蔵が答える。彼は司馬懿と悟空、光秀を自分の目的の障害となると判断し、排除しようとしていた。
「行きますよ、諸葛亮。平穏な世界のために。」
「了解です、三蔵。あなたによって高められた力、試してみたいと思っていたところです。」
 三蔵が声を掛けて、諸葛亮が戦いたい気持ちを膨らませる。2人は光秀たちを打倒すべく、行動を開始した。
 
 
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