美しき闘士
流浪の戦士と武者巫女。
己を磨くため、栄光をつかむために旅と精進を続けている。
だが彼女たちの前に漆黒の魔の手が迫る。
自分を鍛えるために流浪の旅を続けている女剣士、レイナ。夜の町外れを進む彼女の前に、全身黒ずくめの男が現れた。
「また見つけたぞ、次の獲物が・・・」
男がレイナを見つめて不気味な笑みを浮かべる。
「あなたは誰ですか?私に何か用ですか?」
レイナが問いかけるが、男は笑みを絶やさない。
「何かよからぬことをしようというなら、私は容赦しないわ・・!」
レイナが男に言い放ち、鞘から剣を抜いて構える。
「私にそのような態度、許されはしないぞ・・」
男が不快な態度で言い返して、レイナに向かっていく。
「行くわよ!」
レイナが男に立ち向かい、剣を振りかざす。男は素早く横に動いて、剣をかわした。
(速い・・!)
レイナが感覚を研ぎ澄ませて、男の動きを読む。男がレイナの後方に回って、手を伸ばしてきた。
その瞬間、レイナが気配を捉えて、振り向きざまに剣を振りかざした。彼女に伸ばした手が空を切り、男が剣の切っ先で頬に傷を付けられた。
「この私の顔に傷を付けるとは・・・!」
男がいら立ちを浮かべて、レイナに鋭い視線を向ける。
レイナが男に詰め寄り、剣を振りかざす。男が後ろに下がって一閃をかわしたが、レイナは直後に剣の柄を突き出して彼に当てた。
男が突き飛ばされて、その先の壁に叩きつけられた。
「女・・私にさらに傷を負わせるとは・・・!」
男がレイナに対してさらなる憎悪を浮かべる。
「勝負ありましたね。ここで引くならこれ以上手は出しません。」
レイナが忠告して、男に剣の切っ先を向ける。
「この私に・・無礼な態度を取りおって・・・!」
男が憎悪を募らせて、レイナに向かって髪を伸ばしてきた。
「仕方ありませんね・・・!」
レイナが剣を振りかざして、男の髪を切り裂いた。切り落とされた髪が落ちて、彼女が男を視認した。
カッ
そのとき、男の目からまばゆい光が放たれた。
ドクンッ
その眼光を浴びたレイナが、強い胸の高鳴りを覚える。
「な、何、今の!?・・あなた、何をしたの・・!?」
レイナが自分の胸に手を当てて、男に問い詰める。
「これでお前も、私のものだ・・・!」
男が彼女を見つめて、不気味な笑みをこぼした。
ピキッ ピキッ ピキッ
そのとき、レイナの着ていた衣服が突然引き裂かれ、甲冑も体から引き剥がされた。さらけ出された彼女の左腕、左胸、下腹部が固まって、所々にヒビが入っていた。
「私の手に掛かり、美しいオブジェになれることを光栄に思うがいい・・!」
男がレイナの体を見てあざ笑う。
「か、体が石に!?・・しかも、服が・・!」
レイナが石化した自分の体を見て驚愕する。
「こ、このっ・・!」
彼女が抵抗しようと、力を振り絞って右手を動かして剣を投げようとした。
ピキッ ピキキッ
レイナに掛けられた石化が進行して、右半身も石に変えていく。さらに体の自由が利かなくなり、彼女は手から剣を落としてしまう。
「石化の進行は私の思いのままだ・・私に逆らおうとしてもムダだ・・・」
男がレイナを見つめて、さらに笑みをこぼす。
「う、動けない・・このままでは・・・!」
レイナがそれでも抵抗しようと、必死に体を動かそうとする
ピキキッ パキッ
さらに石化が進み、レイナの手足の先まで石に変わった。裸をさらされて、彼女が恥じらいを覚える。
「レイナさん!」
そこへ1人の少女が駆けつけて、レイナに声を掛けてきた。巫女服を身にまとった長い黒髪の少女である。
「ト、トモエ!・・気を付けて・・あの男、石化の力を持っています・・!」
レイナが声を振り絞り、少女、トモエに注意を呼びかける。
「ヒッヒッヒッヒ・・今日はついている・・また獲物が出てくるとは・・・」
男がトモエに目を向けて、不気味な笑みを浮かべる。
「レイナさんを元に戻しなさい!」
トモエが男に鋭い視線を向けて、構えを取る。
「お前も私にそのような口を叩くか・・・!?」
男が彼女の態度にもいら立ちを見せる。
「だがこの女を巻き添えにできるのか?」
男がレイナに近づいて、トモエに忠告する。石化が進んで身動きの取れないレイナを、男は人質にした。
「私に刃向かわんほうがいいぞ・・もしも壊れてしまえば、生き返ることもできんぞ・・!」
「卑怯な・・レイナさんを利用するとは・・・!」
不敵な笑みを浮かべる男に、トモエが不満の声を上げる。憤りを覚える彼女だが、レイナが巻き添えになるため攻撃に踏み切れない。
次の瞬間、男が伸ばした髪がトモエの両腕と両足に巻きついて縛り上げた。
「しまった・・!」
「トモエ・・!」
体を締め付けられてうめくトモエに、レイナが声を振り絞る。トモエがもがくが、髪から抜け出すことができない。
「これ以上逆らうな・・そうすれば丁重にもてなしてやるぞ・・・」
男が不気味に笑って、レイナに視線を戻す。
パキッ ピキッ
レイナの石化がさらに進み、首元や髪も石に変わった。髪をまとめていた髪留めも切れたが、石化したおさげは形をとどめていた。
「トモエ・・・私に構わずに・・戦って・・・」
レイナが弱々しい声で、トモエに呼びかける。
ピキッ パキッ
口元も石に変わり、レイナは声を発することもできなくなる。
「ヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒ・・!」
男が彼女を見つめて不気味な笑いを上げる。
(トモエ・・・)
トモエを気に掛けるレイナが、目に涙を浮かべる。
フッ
その瞳も石に変わり、レイナは完全に石化に包まれた。彼女は一糸まとわぬ石像と化して立ち尽くしていた。
「レイナさん・・レイナさん!」
変わり果てたレイナに、トモエが悲痛の叫びを上げた。
「これでまた、女が美しいオブジェに変わった・・・」
男がレイナを見つめて、喜びを膨らませていく。
「お前も同じように変えてやるぞ・・私のコレクションの中でな・・」
「そうはいかないわ・・あなたを倒して、レイナさんを元に戻します・・・!」
男に言い返して、トモエが髪から抜け出そうとする。
「その反抗的な口は閉じてもらうぞ・・・!」
男が髪に力を入れて、トモエを締め付ける。
(い・・息が・・・!)
呼吸がうまくいかなくなり、トモエが意識を保てなくなった。
「ヒッヒッヒ・・いいぞ、いいぞ・・コレクションが一気に増えることになる・・・」
男がトモエを見つめて、歓喜を募らせる。男はトモエと石化したレイナを連れて、姿を消した。
男に連れ去られて意識を失ったトモエ。目を覚ました彼女が、手錠と足枷を掛けられて鎖につながれていることに気付く。
「これは!?・・ここはいったい・・・!?」
トモエがもがきながら周りを見回す。そこで彼女は、目の前で大量の全裸の女性の石像が並べられていたことに気付いた。
「ここにあるのはまさか・・!?」
「どうだ?美しいだろう、私のコレクション・・」
目を見開いたところで、トモエが声を掛けられた。黒ずくめの男が彼女の前に現れた。
「元々は人間の女だ・・それを私が美しいオブジェに変えていった・・・」
男が石像たちを見渡して、優越感に浸る。彼が支配欲を強めていることを、トモエが悟った。
「世の中の女は私のものだ・・女は全員、私に屈することになる・・・」
「そのような欲のために、女性を手に掛けたのですか・・!?」
不気味に笑う男に、トモエが憤りを浮かべる。
「世の中の女は私のものだ・・私の力を認めようともしない女に、身をもって思い知らせてくれる・・・!」
「そのようなことは絶対にさせません・・!」
美女への支配欲を募らせる男を止めようとするトモエ。しかし手足を封じられて、彼女は思うように動けない。
「ムダだ。お前も既に私のものとなっている・・」
男がトモエを見つめて、不敵な笑みを見せてきた。トモエが手足に力を入れて、鎖を引きちぎろうとする。
「私に刃向かうことは許さん・・・!」
カッ
男が鋭く言って、トモエに向けて眼光を放った。
ドクンッ
トモエが光を受けて、強い胸の高鳴りを覚えた。
「い、今のは・・まさか、これが!?」
彼女が今のこの瞬間に対して、絶望を感じた。
ピキッ ピキッ
トモエの手足の先から石に変わり出した。袖や足袋が石化に巻き込まれて破れていく。
「お前も美しいオブジェとなり、私のコレクションの中で過ごすのだな・・」
男がトモエの変化を見て、歓喜を浮かべて笑い声を上げる。
(思うように動かない・・これが、石になるということ・・・!?)
石化の感覚を痛感して、トモエが危機感を募らせる。
(全身に行き渡る前に、錠から抜け出さなければ・・・!)
彼女が力を集中させて、鎖を断ち切ろうとした。
ピキッ パキッ パキッ
トモエに掛けられた石化が進行し、巫女装束が引き裂かれて胸があらわになった。
「これ以上の抵抗は許さん・・おとなしくオブジェとなれ・・・!」
さらに身動きが取れなくなったトモエを、男があざ笑う。トモエが焦りを膨らませて、打開の糸口を必死に探る。
「せめてもの慈悲だ。お前の仲間のそばに置いてやるぞ。」
男がトモエに言ってから髪を伸ばして、石化したレイナに巻きつけて運んできた。
「レイナさん・・・!」
「お前の仲間も美しいオブジェとなった・・そして、お前も・・」
レイナを見て目を見開くトモエに向けて、男がさらに笑う。
ピキキッ パキッ
さらに石化が進み、トモエは全身をさらけ出されてしまう。ほとんど動けなくなり、彼女は絶望感に襲われる。
「レイナさん・・申し訳ありません・・・あなたのこと、助けることができなくて・・・」
手立てを見失ったトモエが、レイナに詫びの言葉を口にした。
パキッ ピキッ
石化が髪や唇を固めて、彼女は声を出すことができなくなる。
「ヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒ・・!」
全裸の石像になっていくトモエを見つめて、男が高らかに笑う。
ピキッ パキッ
石化の影響で、トモエが着けていた額当てにもヒビが入った。レイナと嘲笑する男を、トモエはただ見つけるしかできない。
フッ
瞳も石に変わり、トモエは完全に石化した。同時に破損した額当てが、彼女の頭から落ちた。
「これでまた、私のコレクションがすばらしくなった・・・!」
男がトモエを見下ろして、勝ち誇って笑い声を上げる。トモエも物言わぬ全裸の石像にされてしまった。
「誰も私に逆らうことはできない・・全ての女は皆、私に屈することになる・・オブジェとなり、私のコレクションに加わることによってな・・・!」
欲望と野心を口にして、男は踵を返して、レイナとトモエに背を向けた。
「これからももっと女を屈服させ、コレクションをよりすばらしくしていく・・私にはそれだけの力があるのだ・・・!」
次の美女を狙って、男は部屋を去った。彼の力を受けたレイナとトモエは一糸まとわぬ石像として、部屋の中に置かれていた。
その後も多くの美女が男に連れ去られて石化されていったが、レイナたちが石化されてから1週間ほどが経ったときだった。
男が返り討ちにされて、命を奪われた。彼が力尽きたことで、レイナたちに掛けられた石化が解かれた。
「わ、私たち・・元に戻った・・・!?」
「石化が解けたみたいです・・あの男に何かあったのでしょうか・・・?」
レイナとトモエが自分の体を確かめて、疑問を感じていく。
「今はみんなをここから連れ出すのが先決ですね・・まだ、あの男を倒した人が近くにいるはずです・・」
「すぐにでも確かめに行きたいところですが、この格好では・・・」
レイナが言いかけるが、トモエが自分たちの姿を確認して困惑する。男に石化されたときに衣服を破られて全裸になっていて、彼女たちは自由に行動することができない。
「近くにシーツか、何か体を隠せるものがあればいいけど・・・」
「探すしかないですね・・・」
レイナとトモエが恥じらいに耐えながら、大部屋を出て他の部屋に向かった。その中の1室で、2人はシーツを見つけた。
「これで我慢しましょう・・あの男の行方を・・・!」
レイナが呼びかけて、シーツの1枚を自分に巻きつけて裸を隠した。トモエももう1枚のシーツを使って、自分に巻きつけた。
レイナとトモエは気を取り直して、男を捜した。屋敷の玄関に来たところで、2人は男が倒れているのを見つけた。
「あの男・・私たちやみんなを石化した、黒ずくめの男・・・!」
レイナが男を見下ろして息を呑んだ。
「体に負傷・・何者かによって命を奪われたようですね・・」
トモエが男の状態を確かめる。男の体には穴のような傷跡が複数あり、何者かの攻撃で致命傷を負ったと、彼女たちは思った。
「誰がこの人を殺したのか・・・その正体は分からないですね・・・」
「でも結果的に、私たちはその人に助けられたね・・そうじゃなかったら、私たちはずっと・・・」
男を倒した人物のことを気にしながらも、トモエとレイナが胸をなで下ろした。
「しかし、私はまだまだ精進が足りませんでした・・このまま石化から戻れなかったかもしれません・・・」
「それは私のほうよ・・私の油断のせいで、トモエに迷惑を掛けてしまった・・・」
自分の無力さと自責を痛感するトモエとレイナ。
「もっと強くならないといけませんね・・」
「えぇ・・お互い、頑張りましょう・・・!」
トモエとレイナが気を取り出して、精進することを誓い合って手を取り合った。
黒ずくめの男に石化された他の女性たちも保護されて、それぞれの日常に戻った。
レイナとトモエもそれぞれの旅に向かって歩き出した。
2度と不覚を取って恥辱を味わうことがないように、心に誓って。