Ogre SID

-死を背負いし剣-

第21話「絶望 –蝕まれる体と心-

 

 

 ソルシエの中に囚われていたアン。彼女の姿を目の当たりにして、ミリィが困惑する。

「君たちのことを調べていくうちに、彼女が生きていたことが分かったのだ。そこで私たちの力になってもらおうと、連れてきたというわけだ。」

「そんな・・アンさんを、シドの妹を人質にするなんて!」

 事情を話すデュオに、ミリィが怒りを覚える。

「人質などという低俗なものではないよ。むしろ協力者だよ、私たちの。」

 デュオが笑みをこぼして、話を続ける。

「そして君たちも私たちの協力者・・いや、同族となるのだよ。」

「ふざけたことを言わないで!私もシドも、あなたたちには絶対に従わないわ!何があっても!」

 デュオの考えをミリィが拒絶する。

「たとえ君たちが拒んでも、肉体が不死と化している。シドだけでなく、ミリィ・エスポランス、君もね。」

「えっ!?・・私が、不死の体に・・・!?

 デュオの言葉を聞いて、ミリィがさらに困惑する。

「正確に言うと、完全な不死というわけではない。細胞レベルで復元されるという意味で、不死に極めて近い存在と言える。」

 デュオが説明をして、自分の体に手を当てる。

「細胞1つ残さず消滅しない限りは、死ぬことはないということだ。シドもその不死の肉体になっている。」

「だから、エリィに撃たれたときに、何事もなかったかのように立ち上がった・・・」

 デュオの話を聞いて、ミリィがシドのことを思い出す。

「さっき、私がシドの体を貫いたが、今頃はその傷も消えて、平然となっているだろう。」

 デュオもシドのことを考えて、彼のオーガのほうに目を向けた。融合が解けて元の姿になっていたが、シドは自力でオーガを動かしていた。

「でも、私まで不死の体になっているなんて・・!?

「可能性は十分にある。その兆候も表れているし。」

 自分の体を気にして戸惑うミリィに答えて、デュオが彼女の白い髪に触れる。

「まさか、私の髪が白くなったのは、エリィに裏切られたショックではなく、不死の体になる兆候だというの・・!?

「しかしあくまで可能性の話だ。髪が白くなるのは、私たちの同族となった証となる。しかし私たち全員が不死となるわけではない。倒されたメフィストがいることは、君たちも十分分かっているはずだ。」

 愕然となるミリィに、デュオがさらに語っていく。

「シドは不死の体であることが確定した。銃で撃たれてもすぐに復活したのが、その証拠だ。」

 デュオがシドを見たまま、話を続けていく。

「君の場合はどうかな、ミリィ・・?」

 彼が目つきを鋭くすると、つかんでいたミリィの腕を強くひねった。

「うあぁっ!」

 腕を折られたミリィが、激痛に襲われて絶叫する。

 そのとき、眠りについていたアンが意識を取り戻して、ミリィの苦悶を目の当たりにした。

「な、何なの、ここ!?・・私、どうなっているの!?

 ソルシエの中にいることや自分の状態に、アンが驚愕する。

「目が覚めたようね。あれだけの痛みとこれだけの叫びだから、目を覚めるのも当然ね。」

 ソルシエがアンを見て笑みをこぼす。

「しかしすぐに消えるさ。痛みも骨折も・・不死になっているなら・・」

 デュオが呟いて、ミリィの痛めた腕を見つめる。曲がっていたミリィの腕が、段々と元に戻っていく。

「えっ!?・・私の腕が、元に戻っていく・・・!?

 自分自身の驚異的な回復力に、ミリィが驚くばかりとなる。

「これは驚きね。シドだけでなく、ミリィまで不死身になっているとはね・・」

 ソルシエがミリィの回復力に感心する。

「これで分かったはずだ。君も我々の同族だということが・・」

「まさか・・私もシドも、あなたたちと同じメフィストだなんて・・!?

 デュオが微笑みかける中、ミリィが困惑していく。

「メフィスト?それは愚かな人間たちが勝手に付けた名だ。」

 デュオが笑みを消して、ミリィに告げる。

「“世界は突如現れたメフィストによって支配された”・・人間どもは勝手に、我々を人間でない存在や宇宙人などと認識しているようだが、それは間違いだ。」

「そうよ。あなたたちがメフィスト呼ばわりしている私たちも、元々は人間なのよ。」

 デュオに続いてソルシエが真剣な面持ちで語った。2人の言葉に、ミリィが耳を疑う。

「あなたたちも、人間・・では、人間が人間を支配しているというの・・・!?

 ミリィが動揺を膨らませて、体を震わせる。

「そういうことになるな。だが、我々を生み出した連中は、人間の姿をしているだけの愚か者揃いだったが・・」

「あなたたちに、何があったの・・・!?

 話を続けていくうちに目つきを鋭くするデュオに、ミリィが疑問を投げかける。

「我々は調整されたのだ。人類の進化、愚かな人間たちの都合の良い兵士を作り出すための実験で・・」

「その実験の中で、人間たちの予想していなかったことが起きた。調整を繰り返された私たちの体に、進化が起こったのよ。」

 デュオとソルシエが自分たちの過去をミリィに語っていく。

「悪魔的な姿と能力を持つ分身の具現化。その分身との一体化。そして分身の姿そのものとなる。常人を大きく上回る力、人間を確実に屈服させられる力を得た。」

「そこから私たちの復讐が行われた。私たちを見下し、私たちを実験動物として扱った愚か者を含めた人間たちが、私たちの力を思い知り、従うしかなくなった・・滑稽で笑うしかなかったわね・・」

 デュオがさらに語って、ソルシエが笑みをこぼす。

「復讐って・・そのためにあなたたちは、関係のない多くの人の命を奪ったというの!?・・私たちの家族も・・ヒビキさんたちも・・・!」

 ミリィがデュオたちに怒りを覚えて、集中力を高める。彼女がデュオに対して念力を放つ。

「ムダだ。」

 デュオが呟くと、ミリィの念力が彼女自身に跳ね返って束縛した。

「君も進化をしているが、私には及ばないよ。」

 体の自由を奪われたミリィを見つめて、デュオが微笑む。

「私たちを弄んだ愚か者たちだけではない。ヤツらを野放しにした他の者にも罪はある。」

「あなたたちのことを知らない人が多かったのよ・・それなのに、止められるわけが・・・!」

「知らなかっただけでも、もはや罪だ。愚かさを野放しにしている時点で、我々に粛清されるには十分だ。」

「そんな勝手な理由で命を奪うなんて・・許されるわけがないじゃない!」

 人間を裁くことを当然と考えていたデュオに、ミリィが怒りを膨らませる。しかし念力によって、彼女は動くことができない。

「命を弄ぶことが許されないのならば、我々を弄んだ愚か者も罪深いことになる。しかしヤツらは断罪されるどころか、世界の犬としてのうのうと永らえている・・」

「だから私たちが裁いてあげたのよ。愚か者の罪をね・・」

 自分たちの意思を告げるデュオとソルシエ。

「愚かな人類は絶対的な力と支配に従うもの。恐怖と絶望、理屈ではない強い直感には、誰も逆らえないのが普通だ。」

 デュオはさらに語ると、身動きの取れないミリィの胸に手を当てた。

「そしてそれは君も同じだ・・」

「ち、ちょっと・・何を・・・!?

 微笑みかけるデュオに、ミリィが動揺を募らせる。デュオがミリィの胸を揉んで撫でまわしていく。

「君の力は私には及ばない。もしもそうでないなら、君は力を跳ね返されることなく、私の動きを止めることができたはずだ。」

「イヤ・・やめて・・私は・・あなたにこんなこと、されたくない・・・放して・・・!」

 悠然と語っていくデュオに弄ばれて、ミリィが悲鳴を上げる。

「またデュオの悪い癖が出たわね。いろんな女の人に手を出すのだから・・」

 ソルシエがデュオに対してため息をつく。

「すまないね、ソルシエ。彼女の後で、君とも楽しませてもらうよ。」

「んもう・・浮気癖だけが、あなたの欠点ね・・」

 ミリィを見つめたまま答えるデュオに、ソルシエが肩を落とす素振りを見せた。

「ソルシエを待たせるといけないからね。早くいかせてもらうよ・・」

 デュオがミリィとの抱擁を深めていく。デュオはミリィを後ろから抱いて、さらに彼女の胸を撫でまわしていく。

「やめて・・放して・・・シド・・シド!」

 恥辱を痛感するミリィが、シドへの想いを募らせることで耐えようとしていた。

 

 デュオにミリィを連れ去られて、元のオーガの姿に戻ってしまったシド。直前に彼はデュオに致命傷を負わされたが、何事もなかったかのように目を覚ました。

「オレはアイツに傷つけられたはずなのに・・こんなすぐに、傷が消えている・・・!?

 自分の体が治っていることに、シドは驚きを感じていた。

「ミリィがいない・・アイツも・・・まさか、アイツが連れていったのか・・!?

 シドが周りを見回して、ミリィとデュオを捜す。

「デュオ・・邪魔をするなと言ったはずだぞ・・・!」

 ディアスがデュオが中にいるソルシエに鋭い視線を向ける。

「たとえ貴様でも容赦はしない・・すぐにお前が連れ出した女を、シドに戻せ!オレは2人が融合したオーガを倒したいのだ!」

 ディアスが憎悪をむき出しにして、ソルシエに飛びかかる。

「んもう、こっちは取り込み中だっていうのに・・」

 ソルシエがため息をついてから、右手から炎を発した。ディアスが突っ込み、拳を繰り出して炎を突き破る。

 しかしソルシエは瞬間移動をして、ディアスの拳をかわした。

「少しおとなしくしててもらうわよ、あなたたちには。」

 ソルシエがディアスとシドに目を向けて、両手をかざして吹雪を放った。

「何っ!?

 ディアスたちが体を凍らされて、自由が利かなくなる。

「おのれ、ソルシエ・・そんなことでオレを止められると思っているのか・・!?

「今のオレでは、アイツの力も破れないのか・・・!?

 ディアスとシドが氷から抜け出せずに毒づく。

“シド・・シド!”

 そのとき、シドの頭にミリィの声が響いてきた。

(ミリィ・・どうした、ミリィ・・!?

 シドがミリィを気に掛けて、彼女のいるソルシエに目を向ける。シドが感覚を研ぎ澄ませて、ソルシエの中を覗いた。

「ミリィ・・!?

 デュオに犯されていくミリィを目撃して、シドが目を見開いた。

「アイツ・・・ミリィとアンを放せ!」

 シドが怒りを膨らませて、氷を振り払おうとした。

 

 抗うこともできないまま、デュオに体を弄ばれるミリィ。デュオが性器をミリィの秘所に入れていく。

「やめて!・・あなたなんかに、けがされたくない・・こんなことを許せるのは、シドだけなんだから・・・!」

 ミリィが恥辱と恍惚に襲われて、目に涙をあふれさせる。

「この交わりによって、私の力と意思を受け継ぐ子が生まれる。君もその母体となるのだよ。」

「イヤ・・私は、あなたの思い通りにはならない・・・!」

 デュオの言動に、ミリィが必死に抗おうとする。

「なるさ。たとえ反抗的な意思を示しても、不死の体になっていても、力の差で押さえられれば何もできない。私を突き放すこともできない・・」

 デュオは笑みを絶やさずに、性交したままミリィの胸をつかんで揉んでいく。

「そして体はこの交わりに反応して、結びつきを深めていく。君は確実に、私と結ばれることになる。」

「そんなことにならない・・そんなことになりたくない・・・!」

 デュオの囁きに言い返すミリィだが、デュオの性器から出た精液がミリィの中に注がれていく。

「入らないで・・・私の中に入らないで・・・!」

 デュオの精液に不快を感じていくミリィ。デュオは彼女にさらに精液を送り、秘所からこぼれていく。

(こんな姿・・シドに見せられない・・シドを絶望させてしまう・・・!)

 シドに合わせる顔がないと思い、ミリィが涙を流す。デュオにされるがままになっている自分を、彼女は辛く思っていた。

「君たちは、私たちをメフィストなどと呼び、非人間として認識しているが、それは違う。我々は人間。そして他の人間も、私たちと同じような力が覚醒する可能性を持っている。」

 デュオは性交を続けながら、ミリィに語っていく。

「アポストルと呼ばれている君たちも、常人と私たちの中間に当たる存在。つまり、私たちは皆、元々同じ存在ということだ・・」

「それじゃ、私たち・・同じ人同士で殺し合いをしていたの・・・!?

「そういうことになるね。でももはや気に病むことはない。愚か者は人の姿をしているが、愚かさ故に人でなくなっている。排除して咎められることはない。」

「屁理屈を言わないで・・そんな考えで、人の命を奪うなんて・・・!」

 デュオの考えにミリィが反論する。

「君たちも人殺しをしているのは同じだ。私たちを調整したヤツらも・・」

「それは・・・」

「シドも私たちや許せないものへの怒りや恨みを抱えて、自分の手を血に染めている。私たちが咎められるなら、君たちも咎められることになるのだよ・・」

 デュオに指摘されて、ミリィが反論できなくなる。

「まぁ、そういうことで私は恨むなとは思っていない。そもそも、愚かしい人間たちが私を非難することそのものがおこがましいこと・・」

「あなた・・自分が絶対であるかのように・・・そんな考え、絶対に認めない・・シドも、私も・・!」

 デュオの考えにミリィが憤りを感じていく。

「私は調整された中でも、最も高い力を発揮できるようになった。不死の体となり、まさに神に等しい存在と言える・・」

「世界をムチャクチャにして、人を苦しめるのは、神様のすることじゃない・・!」

「私は世界を正しているのさ。人間たちに己の愚かさを思い知らせ、絶対的な力の下、全員が正しき道を行く・・私には、世界を束ねるだけの力を備えているのだよ。」

 ミリィが怒りを膨らませるが、デュオは考えを変えない。

「そして私の意思と力を受け継ぐ子孫が、これから生まれる。ミリィ、君の体からもね・・」

 デュオに弄ばれて、ミリィは絶望のあまりに意識がもうろうとなっていく。

「シド・・・シド・・・」

 ミリィはシドに助けることしかできず、ただただ彼の名を呟いた。

 

 ミリィの呼び声が伝わってきて、シドが激情を募らせる。

「アイツ・・ミリィを・・アンを・・・!」

 デュオへの怒りを強めて、シドが体に張り付いている氷を強引に打ち破ろうとする。

「ムダよ。ミリィと融合しているならともかく、あなた1人では私の氷は破れないよ。ディアスだって破るのに時間がかかるんだから・・」

 ソルシエがシドを見つめて微笑む。ディアスも力を込めて、氷にヒビを入れていた。

(これ以上、メフィストにいいようにされてたまるか・・アイツらの思い通りになって、アンたちやミリィがひどい目にあうのがいいことになるなど、オレは絶対に認めない!)

 家族も親友も日常も奪われた怒りを込めて、シドが力を振り絞る。

「オレはお前たちの存在を、絶対に許さない!」

 怒号を放つシドの体から、赤い閃光が放出される。彼の体に張り付いていた氷が割れて吹き飛んだ。

「えっ!?私の氷を破った!?1人の力で!?

 シドが自分だけの力で氷を打ち破ったことに、ソルシエが驚く。

「ミリィ・・アン・・2人を返せ!」

 シドが声を振り絞り、ソルシエに向かっていく。

「私の力は氷だけでないことを忘れたの?攻撃を食らわなければ、私がやられることはない・・!」

 ソルシエが笑みを取り戻して、瞬間移動を使ってシドの攻撃を回避する。

「逃げるな!」

 シドが怒鳴り声を上げて、感覚を研ぎ澄ませて手を伸ばした。移動したソルシエが、シドの手に首をつかまれて押される。

(そんな!?瞬間移動する私の動きを見抜いた!?

 驚愕を募らせるソルシエが、シドに地上に向かって降下させられる。

(ミリィとアン・・2人を助ける!)

 シドが右手に力を込めて、ソルシエの体に突っ込ませた。右手はソルシエの中まで入り、ミリィたちのいる場所まで届いた。

(シド!)

 シドが手を伸ばしてきたことに、ミリィが戸惑いを覚える。彼女も意識を集中して、デュオの力に抗う。

「まさかここまで来るとはね・・でも私から彼女たちを取り戻すことは・・」

 デュオが笑みをこぼして、念力を発してシドの手を押し返そうとした。だがデュオの力が跳ね返り、彼自身の動きを封じた。

「何っ!?・・私の力が押し返された・・!?

 デュオが自分の力が跳ね返されたことに驚く。自由を取り戻したミリィが、シドの手にすがりついた。

「シド、アンさんを、あなたの妹を助けて!」

 ミリィがシドに向かって呼びかける。

「アン・・・!」

 シドがミリィをしがみつかせたまま、アンに向かって手を伸ばす。

「アンさん、手を伸ばして!」

「ダメです!ここから外に出れないんです!」

 ミリィも手を伸ばすが、アンは壁に埋め込まれた手足を外へ出すことができない。

「オレがアンを助け出す・・!」

 シドが力を込めた手を、アンに向かって伸ばした。手は壁に入って、アンを捕まえて外へ出した。

「出れた・・外へ出ることができた・・・!」

 アンが壁から抜け出せたことに、安心を覚える。

「捕まっていて、アンさん!」

「は、はい・・!」

 ミリィが声を掛けて、アンが頷いた。シドが2人をつかんで、ソルシエから手を引っ込めようとした。

「このまま逃がしはしない・・逃げられるくらいなら・・・!」

 デュオがいら立ちを噛みしめて、右手を振りかざして光の刃を飛ばした。

「危ない!」

 ミリィがアンを抱いて、彼女を守ろうとした。

「うっ!」

 光の刃を背中に突き立てられて、ミリィがうめく。

「それで防いだつもりか・・・!」

 デュオが笑みをこぼして、光の刃に力を込めた。刃はミリィの胸を貫いて、アンの体に刺さった。

「ア、アンさん・・アンさん!」

 ミリィがアンを見て驚愕する。シドは2人をソルシエの中から連れ出した。

 

 シドがソルシエからミリィとアンを引き出した。シドは2人をそのまま自分の中に引き込んだ。

「大丈夫か、ミリィ、アン!?

 シドがミリィたちに近づいて呼びかける。

「アン・・!?

 胸から血を流している2人に、シドが目を疑う。

「ゴメン、シド・・守ろうとしたけど・・・」

 ミリィがシドに謝って、自分の胸を手で押さえる。彼女の胸の傷は段々と塞がっていく。

「私もデュオの言っていた通り、不死の体になっている・・・でも・・・!」

 今の自分の状態を確かめるミリィが、アンの傷が致命傷になっていることも痛感する。

「アン、しっかりしろ!アン!」

 シドがアンを抱えて呼びかける。

「アンが生きていて、すごく嬉しかったのに・・死なせない・・絶対に死なせないぞ!」

 シドがアンを助けようと、アルシュートに向っていく。

「お兄さん・・私も会えて嬉しかったよ・・・」

 アンが微笑んで、シドに手を伸ばす。

「アン、しゃべるな・・おとなしくしてるんだ・・!」

「私、あのとき、お母さんとはぐれて・・お兄さんのことも捜したけど、近くにいなくて、家に戻ることもできなくて・・・」

 必死に呼びかけるシドに、アンが今までのことを話す。

「避難してきた人たちと一緒に、仮設住宅で暮らしていたの・・でもそこもメフィストに襲われて・・逃げているうちに、メフィストに捕まって・・気が付いたら、あの中に・・・」

「アイツら・・オレを陥れるために、アンを・・・!」

 アンの話を聞いて、シドがデュオたちへの怒りを燃やす。

「お兄さん・・・私・・お兄さんにまた会えてよかった・・・お兄さんは、幸せに生きて・・・」

 アンが思いを込めて、シドが彼女の伸ばした手を握った。

「ありがとうね、お兄さん・・私の分も、生きて・・・」

 シドのぬくもりを感じて、アンが笑顔を見せた。次の瞬間、アンの手がシドの手からすり抜けて、だらりと下がった。

「アン!?・・目を開けろ、アン!」

 シドが目を見開いて、アンに呼びかける。しかしアンは目を閉じたまま答えない。

「やっと会えたのに・・生きてるってやっと分かったのに・・こんなすぐに別れるなんて、あり得ないだろう!」

 悲しみと怒り、激情を膨らませて叫ぶシド。ミリィも悲痛さを感じて、体を震わせる。

「目を開けてくれ、アン!また一緒に暮らすんだ!オレから離れないでくれよ!アン!」

 シドがアンに向けて声を張り上げる。彼の目から大粒の涙があふれる。

 今までにない悲しみと絶望にさいなまれて、シドが絶叫を上げた。

「シド・・シド!」

 ミリィも悲しみのあまり、シドを抱きしめた。その瞬間、2人のシンクロが高まり、2人のオーガが融合状態となった。

「またあの姿になった・・この時を待っていたぞ・・!」

 ディアスがシドたちの融合したオーガを見て笑みを浮かべる。彼は全身に力を入れて、ソルシエの氷を打ち破った。

「オレと戦え!イフェルの仇は、オレが討つ!」

 ディアスがオーガに向かって飛びかかる。

「アンを殺したお前たちを、オレは許さない・・1人残らず、お前たちの存在を消してやる!」

 シドが怒号を上げ、オーガがディアスを迎え撃つ。

 ディアスが力を込めて右の拳を繰り出す。オーガが左手でディアスの拳を受け止めた。

「くそっ!オレの力が、アイツに通じないはずがない!」

 ディアスが怒りと力を込めて、拳を押し込む。

「お前たちを滅ぼす・・これ以上、お前たちの思い通りにはさせない!」

 シドが怒りを込めて、オーガが手に力を込めて、ディアスの右腕をへし折った。

「ぐあぁっ!」

 ディアスが激痛を覚えて、右腕を押さえる。

「シド・・私の力を上回るなど・・・!」

 力を高めていくシドに、デュオがいら立ちを感じていく。

「デュオ、本気でやらせてもらってもいいかしら・・?」

「あぁ・・私は外に出るとしよう・・・!」

 ソルシエが声を掛けて、デュオが頷いた。彼が外に出て、ソルシエがオーガに向かっていく。

「ディアス、悪いけど私も本気で攻撃させてもらうわよ・・でないと私たちまで危うくなるからね・・・!」

「ソルシエ、デュオ・・邪魔をするなと言っている・・イフェルの仇は、オレが討つ!」

 ソルシエが低い声で告げるが、それでもディアスはシドへの憎悪を消さない。

「だったら私より先に、シドを倒すことだね・・!」

 ソルシエがディアスに注意して、右手に炎を灯してオーガに向かって放った。シドとミリィが感覚を研ぎ澄ませて、オーガが衝撃波を放って炎をかき消した。

「お前たちがいなければ、アンは幸せに暮らせたんだ・・・!」

 シドがアンを殺された悲しみと怒りを胸に宿して、オーガが具現化した剣を手にして、ソルシエに飛びかかる。

 ソルシエは瞬間移動を使って、シドの前から消えた。

「逃がしはしないぞ・・!」

 シドが感覚を研ぎ澄ませて、オーガが剣を振りかざした。剣は空の空間を切り裂いて、その先にいたソルシエの左腕を切りつけた。

「なっ!?

 次元の先にいたところを攻撃されて、ソルシエが驚愕する。

「まずはお前のとどめを刺す・・・!」

 シドが鋭く言って、オーガが剣を構える。

「シド、貴様を倒すのはこのオレだ!」

 ディアスが左手を握りしめて、オーガに飛びかかる。

「お前も、オレは許さない!」

 シドがディアスに目を向けて、オーガが振り向きざまに剣を振りかざす。ディアスが剣に体を切りつけられて、鮮血をあふれさせる。

「オ、オレは・・お前を許さない・・イフェルを殺したお前を、オレはこの手で・・・!」

 ディアスが声を振り絞り、オーガに近づいていく。

「お前もお前の仲間も、アンやオレの大事な人を殺しただろうが!」

 シドが怒号を放ち、オーガが剣を突き出した。

「がはぁっ!」

 ディアスが剣に体を貫かれて、目を見開いて吐血する。

「オレは・・必ず・・・お前を・・・!」

 ディアスが力を振り絞り、オーガに手を伸ばす。オーガが剣を振り上げて、ディアスを切り裂いた。

(イ・・イフェル・・・オレ・・・お前の仇を・・・)

 落下するディアスが、オーガに向かって手を伸ばす。そのとき、ディアスはそばにイフェルの姿が現れた。

(イフェル・・・!)

 ディアスがイフェルに目を向けて、戸惑いを覚える。幻だと分かっていながら、彼はイフェルの姿に心を動かされていた。

(お前とオレは・・ずっと一緒だ・・・)

 自分がイフェルと共にあると改めて感じて、ディアスが微笑む。力尽きた彼の体が、霧のように消えていった。

「ディアスまでやられた・・1度出直したほうがよさそうね・・」

「あぁ・・シドたちとは、いつかじっくりと話をしたいと思っているよ・・」

 ソルシエが呼びかけて、デュオが小さく頷いた。2人がシドたちの前から姿を消した。

「ややこしいことになってきたわね・・あなたたち、引き上げるわよ!」

 インバスがため息をついてから、他のメフィストたちを連れて、アルシュートから離れていった。

「助かったのか・・よかった・・・」

 アロンが安心を覚えて肩を落とした。

「オレの・・オレの力はこんなもんじゃねぇ・・必ずアイツらを仕留めてやるからな・・・!」

 ギギがインバスたちを倒せなかったことを悔しがる。

「全員、アルシュートに戻れ。ここを離れるぞ・・」

 ハントが呼びかけて、ギギたちがアルシュートに戻っていった。

 

 ディアスを倒し、デュオたちを退けたシドたち。しかしシドとミリィの心で、アンを失った悲しみが渦巻いていた。

「アン・・・オレを置いていかないでくれ・・・オレと一緒にいてくれよ・・・!」

 シドがアンを抱きしめて、悲痛さを込めて声を振り絞る。

「私に、もっと力があったなら・・・!」

 ミリィもアンを守れなかった自分を強く責める。

「アン・・・アン!アーン!」

 シドがアンに向かって叫び声を上げる。絶望に打ちひしがれ、彼の心は崩壊寸前だった。

 

 

22

 

小説

 

OP

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