Ogre SID

-死を背負いし剣-

第20話「策略 –魔へいざなう罠-

 

 

 イフェルをシドたちに殺され、ディアスが激しく怒りを燃やしていた。デュオに呼び戻された彼だが、怒りが治まらずに右往左往する。

「呼び戻したことは申し訳ないと思っているよ、ディアス。しかし君までやられてしまったら、もっと大変なことになっていたよ・・」

 デュオが肩を落として、ディアスに言いかける。

「次にヤツが出てきたときは、オレが仕留める・・イフェルの仇を討つ・・誰にも邪魔はさせないぞ・・・!」

 ディアスが低い声で言って、デュオに鋭い視線を向ける。

「それが気に入らないなら、オレを殺すしかないぞ・・そうしてくれたほうが、オレもイフェルにあの世で会えるからな・・・!」

 ディアスが不気味な笑みを浮かべてから、デュオの前から去っていった。

「怖い、怖い。あんまり刺激しないほうがよさそうね。」

 ソルシエがディアスを見送って、苦笑する素振りを見せる。

「シドの相手はディアスに任せよう。私たちはもう1人の相手をしよう。」

 デュオは動じることなく、悠然と答えていく。

「君が従っていたフリをしていた彼女の相手をね・・」

 彼がエリィに振り向いて微笑んだ。

「また海に潜っちゃったみたいだけど、向こうの居場所は手に取るように・・」

 エリィが気さくに答えて、レーダーに目を向けた。するとレーダーに映っていた反応が消えて、エリィが目を細める。

「どうやら発信器を外されちゃったみたいです・・」

 エリィが肩を落として、デュオに報告する。

「ミリィが戻ってきて、発信器のことを知らせたみたい・・」

「別にいいさ。簡単に分かる探し物はかえってつまらないからね。」

 エリィの報告を聞いて、デュオが笑みを浮かべたまま答える。

「それに、シドなら向こうからこっちに来てくれるさ。ゆっくり待つとしよう。」

「じっくり相手をするのが楽しみね。シドとも、ミリィというお嬢さんも。」

 シドたちへの期待を膨らませるデュオに、ソルシエも頷いて微笑んだ。

 

 ミリィはグレイブヤードの制圧から今までのことを、ハントたちに話した。エリィがメフィストの味方で、ミリィたちを騙していたことも。

 話を聞いたハントたちは、アルシュートの船内を徹底的に調べた。エリィが仕掛けていた発信器は、彼らによって外された。

「いつの間にこんなものを仕掛けてたなんて・・!」

 テルが発信器の1つを見つけて、不満げに呟く。彼が発信器を握りしめて潰した。

「私たちの信用を得て、自分への警戒を解いたのね・・すっかりやられたわ・・」

 レイラもエリィの企みに気まずくなる。

「全部壊して、これで向こうは私たちの居場所が分からなくなったと思うけど・・」

 発信器を壊して、レイラがひと息つく。

「でも、オレたちがピンチだってことに変わりはないよ。あの手ごわいメフィストに対抗できるのは、シドさんとミリィさんだけだし・・」

 テルがシドたちとディアスたちのことを考えて、不安を募らせていく。

「オレもあのくらい強くなれたらいいけど、どうやったらいいのか・・シドさんたちみたいに、シンクロできるくらいに気持ちを合わせられる人もいないし・・」

「シドさんたちの融合がどういう原理なのかを調べれば、何とかなると思うのだけど・・今はそれどころじゃないし・・」

 自分の無力さを責めるテルと、苦悩を深めていくレイラ。シドたちに頼る以外の打開の策を、彼らは見つけられずにいた。

 

 ディアスたちメフィストに敗北を続けていることに、ギギはいら立ちを隠せなくなっていた。

「追いついてって、ギギ・・次こそ逆襲すればいいから・・!」

「うるせぇ!オレはムカついて我慢がならねぇんだ!何かちょっかい出してきたら、誰だろうと叩きのめすぞ!」

 心配するアロンに、ギギが怒鳴りかかる。

「これは・・今はちょっと関わらないほうがよさそうだ・・・」

 気まずくなったアロンは、ギギを残して部屋を出た。

(ミリィちゃんの髪・・エリィに裏切られたショックが大きかったそうだけど・・・)

 アロンがミリィのことを考える。ミリィの髪が白くなったことに、アロンは驚きを隠せなくなる。

(シドも髪は白い・・アイツも、どんでもないショックを受けたことがあったってことか・・・)

 シドのことも気にして、アロンが頷いてみせる。

(そのくらい追い込まれないと、オレたちはあそこまで強くなれないってことなのか・・・?)

 さらに気まずくなって、アロンがため息をついた。強くなれるいい方法が見つからず、彼も途方に暮れていた。

 

 デュオたちやエリィとの対峙を予感していたミリィは、長い髪をナイフで切り落としていた。彼女なりのけじめと覚悟のつもりだった。

(エリィ、思い直して・・でないと最悪、私はあなたを手に掛けることになってしまう・・・)

 エリィの裏切りの始末は自分が付ける。ミリィはそうすることも考えていた。

(エリィがいなくなって辛いけど、何もないわけじゃない・・シドといるから・・シドと一緒なら、生きようって気持ちが湧いてくる・・・)

 ミリィがシドのことを想って、自分の胸に手を当てた。

(またシドと交わるときが来る・・今度は私が、シドを受け止める・・・)

 シドからの抱擁を心待ちにして、ミリィは次の戦いに備えた。

 

 エリィの仕掛けた発信器は取り除かれたが、各国の軍はハントたちを追って捜索を続けていた。その情報はデュオたちに報告されていた。

「たくさん情報が舞い込んでくるけど、グリムリーパーの居場所はまだ分かってないわね・・」

 ソルシエがデュオに報告してため息をつく。

「でもあの子は見つかったわ。次にシドと戦うときになったら、一緒に連れていこう。」

「そうだな。それでどうなるかも興味があるからね。」

 ソルシエの提案をデュオが微笑んで聞き入れた。

「さて。今度は私も出向くとしよう。シドの相手はディアスに任せるけど。」

 デュオが言いかけて、体を軽く動かす。

「その前に、その子をこっちに呼ばなくちゃね。」

 ソルシエの声にデュオが頷く。2人はシドたちとの次の戦いに期待を膨らませていた。

 

 海中の移動を続けていたアルシュートは、補給と休息のため、浮上して海岸へと接岸した。

「ふぅ・・潜水艦の中にいつまでもいると、やっぱり息苦しいよなぁ・・」

 アルシュートから出たアロンが、大きく深呼吸をする。

「余力のある人は私についてきて。補給を手伝ってほしいの。」

 シーマが作業の協力を頼んで、テル、アロン、アマミが手伝うことにした。

「シドさんやミリィさんは、オレたちの主力だからね。オレたちがこういうことをやって、みんなの負担を軽くしないと・・」

「ギギも主力なんだからな!」

 シドたちに気を遣うテルに、アロンが声を荒げて付け加える。

「ギギ、すっかり怒り心頭だ・・オーガのシンクロを最大限まで上げてるのに、強いメフィストに敵わないなんて・・」

 ギギへの心配を、アロンがテルたちに打ち明ける。

「これ以上強くなるんだったら・・シドさんとミリィさんのように、誰かと融合して・・」

「ギギがそんなことをできると思うか?ありえねぇって・・」

 テルが提案するが、アロンが大きく肩を落とす。

「私たち1人1人が強くなって、サポートし合うしかなさそうだね・・」

 アマミが言いかけて、テルたちが頷いた。

「みんな、急いで。おしゃべりする暇があるならね。」

「は、はい。」

 シーマが注意して、テルとアマミが答えた。テルたちは荷物を持ってアルシュートへ向かった。

 しかしその移動する姿を、一般人に成りすました軍の兵士に目撃されていた。

 

 アルシュートの位置をつかんだという報告は、すぐにデュオたちに伝わった。

「見つかったよ、ディアス。シドたちのいる場所が。」

 デュオが呼びかけて、ディアスが彼に鋭い視線を向けてきた。

「誰にも邪魔はさせない・・オレがシドを倒すのだから・・・!」

「分かっているさ。その代わり、他の相手は私たちがさせてもらうから・・」

 シドへの憎悪をむき出しにするディアスに、デュオが笑みを絶やさずに告げる。

「オレの戦いをお膳立てしようというのか?それでオレが感謝すると思うな・・!」

「そんなつもりはないよ。ではみんな、行こうか。」

 気を許さないディアスに答えて、デュオが歩き出した。

(何を企んでいるのか知らないが、お前の思惑通りにはならないぞ、デュオ・・・!)

 ディアスはデュオに対しても不信感を抱いていた。

 

 補給と修繕を終えて、アルシュートは移動を再開しようとした。

「システム、オールグリーン。エネルギー、武装共に満タン。艦体の損傷なしです。」

 アルマがアルシュートの状態を確認して、ハントに報告する。

「よし。アルシュート、発進。潜行する。」

 ハントが頷いて、アルマたちに指示を出す。

「こちらに近づく反応あり!メフィストです!」

 そのとき、レーダーを見ていたレイラが声を荒げる。メフィストがアルシュートを目指して進行してきた。

「長い時間滞在しすぎたか・・迎撃する!全員、戦闘態勢を取れ!」

 毒づくハントがシドたちに指示を出す。アルシュートの艦上に、最初にギギが出てきた。

「あのメフィストどもも、オレが仕留めてやるぜ・・いつまでもシドにでけぇ顔させるかよ・・!」

 シドへの対抗意識を募らせたまま、ギギがオーガを呼び出して中に入った。彼は近づいてくるメフィストたちを目にした。

「ここは海岸・・陸地があるから、不利じゃなくなる!」

 不敵な笑みを浮かべて、ギギがアルシュートから海岸の陸地に移って、メフィストを迎え撃つ。

 メフィスト数体がギギを狙って降下していく。ギギが斧を呼び出して、向かってきたメフィストを切りつけていく。

「ザコを倒しても面白くねぇんだよ!てめぇらのボスを連れてこい!」

 ギギがメフィストに言い放ち、斧を構える。

「いいわ。今日こそあなたの命を終わらせておいてもいいわね。」

 彼の前にインバスが降りてきた。

「出てきたか・・今日でオレがてめぇを仕留めるぜ!」

「それは楽しみね。それが実現するかどうか・・」

 目を見開くギギに、インバスが微笑んできた。

 ギギがインバスに向かっていって、斧を振りかざす。しかし後ろに跳躍するインバスに、軽々とかわされる。

「物覚えが悪いわね。力任せで私たちに勝てると思わないことね。」

「てめぇらの言うことには聞く耳持たねぇぜ!」

 ため息まじりに言うインバスと、いら立ちを膨らませていくギギ。

「ギギ!」

 アロンもアマミとともにオーガと一体化して駆けつけて、ギギと合流した。

「邪魔すんな!コイツはオレの獲物だ!」

 ギギがアロンたちに怒鳴り、1人でインバスと戦おうとする。

「本当に強情ね・・それで死ぬのが恥ずかしいことを、最後に思い知ることね・・!」

 インバスが呆れ果てて、多数の羽根を飛ばした。ギギが斧を振りかざして、羽根を吹き飛ばす。

 次の瞬間、飛びかかったインバスが突き出した爪が、ギギの右わき腹に突き刺さった。

「うぐっ!」

 ギギが苦痛を感じて顔を歪め、左の拳を繰り出す。インバス後ろに下がって、拳をかわす。

「ギギ!もうおとなしくしてるわけにはいかない!」

 アロンがいきり立ち、インバスに向かって走り出す。彼が海岸沿いを走ったことで、海の水がはねて飛沫が舞い上がる。

「これは・・海の水で視界が・・・!」

 インバスが目を細めて、水が目に入らないようにしながらアロンたちの行方を探る。アロンが大きく跳び上がり、水飛沫の壁を超えてインバスに飛びかかる。

 インバスが右手を振りかざして、羽根を飛ばしてアロンに当てる。

「うあっ!」

 アロンが体に羽根を突き立てられて、体勢を崩して海に落ちた。その瞬間、ギギが水飛沫から飛び出して、インバス目がけて斧を振りかざしてきた。

 インバスが身を翻して回避する。しかし斧の刃が彼女の頬をかすめた。

 インバスが飛翔して、ギギたちから離れる。

「2人が力を合わせると少し厄介ということね・・」

 インバスがギギとアロンを見下ろして毒づく。

「ならばこっちも数で行かせてもらうわ。」

 インバスが手招きをすると、近くにいたメフィスト数体が集まってきた。

「ザコどもを集めやがって・・てめぇが戦いやがれ!」

 ギギが怒鳴り声を上げて、インバスに向かって跳び上がる。しかし迎撃したメフィストたちに組み付かれて、行く手を阻まれる。

「おのれ!小賢しいマネを!」

「あなたと私とでは、楽しみ方が違うのよ。私をもっともっと楽しませてちょうだいね。」

 怒りを膨らませるギギを見て、インバスが微笑んでいた。

 

 シドとミリィもそれぞれオーガを呼び出して、一体化して飛翔した。シドが激情のままにメフィストたちを打ち倒していく。

「オレはお前たちを倒す・・1人も逃がしないぞ、メフィスト・・・!」

 シドが鋭く言って、剣を具現化して振りかざす。メフィストたちが切りつけられて、海に落下していく。

「あのメフィストたちもエリィもいない・・ここに来ていないの・・・?」

 デュオたちやエリィのことを考えるミリィ。しかしデュオたちはまだ姿を見せていない。

「だったらまずは他のヤツを片付けて・・!」

 テルがシドたちを見上げて言いかけたときだった。シドの持っていた剣が手から弾かれた。

 身構えるシドの前に、メフィストの姿になったディアスが現れた。

「シド・・イフェルの仇、ここで討つ!」

 ディアスが怒りをあらわにして、シドに飛びかかる。

「ぐっ!」

 ディアスの繰り出した拳を受けて、シドが突き飛ばされる。

「シド!」

 ミリィが追いかけてシドを受け止める。

「大丈夫・・!?

「あぁ・・この前よりも力を上げているようだ・・・!」

 ミリィが心配して、シドがディアスに視線を戻す。

「融合してオレと戦え!1人ずつのお前たちを倒しても、オレとイフェルの恨みは晴れない!」

 ディアスがシドたちに融合することを求める。

「あの人、自分の仲間を殺された怒りを燃やして・・」

 ミリィがディアスの気持ちを察して、戸惑いを感じていく。

「オレの家族や仲間、罪のない人を殺したメフィストが・・!」

 シドもディアスたちへの怒りを募らせていく。

「黙れ!お前たちが何人集まろうと、イフェルの命には全く釣り合わない!」

「お前・・どこまでもふざけたことを考えれば気が済むんだ!」

 互いに怒号を放つディアスとシド。2人が同時に飛び出して、拳を繰り出してぶつけ合う。

 シドがディアスの力に押されて、海に叩きつけられた。

「融合してオレと戦え!お前たちが本気にならなければ意味はない!」

 海から出たシドを見下ろして、ディアスが言い放つ。

「シド、1つになろう・・やられるくらいなら、どんな方法を使ってでも・・・!」

 ミリィが真剣な面持ちで、シドに呼びかける。

「あぁ・・オレたちは勝つ・・メフィストは、1人残らず倒す・・・!」

 シドが頷いて、ミリィが自分のオーガから抜け出して、彼のオーガの中に入った。2人のオーガが融合を経て、ディアスの前まで飛び上がった。

「そうだ・・その姿だ・・その姿のお前たちを倒すことで、オレたちの恨みは晴れる・・・!」

 ディアスが笑みを浮かべて、両手を握りしめる。

「オレたちは死なない・・お前たちを全員倒すまでは・・・!」

 シドがディアスに対して、目つきを鋭くする。

「そう・・それがシド・・その生き方が、シドの生きてきた理由・・・」

 ミリィがシドの心境を察して呟く。ミリィは高まっているシンクロで、シドの心の内を理解していた。

「だけど今は違う・・お前と一緒に生きるのも、オレの生きる理由の1つだ・・・」

 シドが落ち着きを払い、ミリィを優しく抱き寄せる。彼との全裸での抱擁に、ミリィが戸惑いを覚える。

「まずはお前を倒して、お前の仲間のアイツも叩きつぶす・・!」

「それは不可能だ・・なぜなら、オレがお前を倒すからだ!」

 互いに敵意をむき出しにするシドとディアス。オーガとディアスが飛び出して、激情のままに拳を繰り出した。

 

 ディアスたちとシドたちが交戦を始めた頃、デュオたちも動き出していた。

「その子だけど、どうするつもりなの、デュオ?」

 ソルシエが質問して、デュオが彼女に振り向く。

「それは君に預けるよ。君ならうまく自分の強化につなげられるだろう?」

「そうね。それなら私が使わせてもらうわ。」

 デュオの答えを聞いて、ソルシエが微笑んだ。

「ということは、デュオは2人に直接会いに行くのね。」

「あぁ。そのときには、彼女を連れて君の所へ行くから、よろしく。」

 ソルシエに答えて、デュオがシドたちの戦いに視線を戻す。デュオはミリィに狙いを向けていた。

「デュオ様、アイツに何をするつもりですか・・?」

 エリィが気になって、デュオに問いかける。

「彼女を思い通りにできれば、喜ばしいことはない。私たちにとっても、君にとっても。」

「あたしにとっても・・・あたしたちが、ミリィを思い通りに・・・!」

 デュオの言葉を聞いて、エリィが笑みをこぼす。

「では、私はひと足先に行くよ。」

 デュオが声をかけて、シドたちのところへ向かった。

「エリィ、あなたは私と一緒よ。あの子と一緒にね・・」

 ソルシエがエリィに言ってから、連れてきた少女に目を向けた。

 

 シドとミリィが融合したオーガが、ディアスと激闘を繰り広げる。力で押されていくディアスだが、負けじと意地を見せる。

「オレはやられん・・オレが倒れれば、イフェルが浮かばれない・・・!」

 ディアスがイフェルのことを想い、彼女を失った悲しみと怒りを募らせて体を震わせる。

「自分たちが絶対だと思い上がり、関係ない人を傷付けて平気でいるお前たちを、絶対に野放しにしない・・・!」

 シドもディアスたちメフィストへの憎悪を増していく。

「黙れ、下等な種族が!オレたちはお前たちのような、愚かな身の程知らずではない!」

「愚かなのはお前たちだろうが!何もかも自分たちの思い通りにできると自惚れて!」

 怒号を放つディアスとシド。オーガが剣を具現化して、ディアスに向かっていく。

「イフェルを殺したその剣・・オレがこの手で打ち砕いてやる!」

 ディアスが右手に力を集中させて、オーガを迎え撃つ。オーガが振り下ろした剣に、ディアスが拳を当てた。

「ぐっ・・!」

 右腕に多数の裂傷が刻まれ、ディアスが激痛を覚える。

「オレの力の全てを使っても、ヤツに敵わないというのか・・!?

 ディアスが右腕を押さえて、オーガに鋭い視線を向ける。

「今度こそ終わりだ・・お前を倒して、他のメフィストもこの手で・・!」

 シドが鋭く言って、オーガがディアスにとどめを刺そうと剣を構えた。

「私たちを憎んで滅ぼすために、血の気が多くなって・・」

 そのとき、シドとミリィの耳にデュオの声が入ってきた。

「その声は、あのときの・・・どこだ!?どこにいる!?

 シドが怒鳴り声を上げて、オーガとともに周囲を見回す。

「私はここにいるよ。君たちの目の前にね。」

 シドとミリィの前に、デュオが姿を現した。2人のオーガの中に、デュオは侵入していた。

「あなたは!?・・なぜこの中にいるの・・!?

 オーガの中にいるデュオに、ミリィが驚愕する。意識を共有しシンクロを高めなければ他のアポストルのオーガの中に入ることはできないと、彼女もシドも思っていた。

「君たちの精神やオーガと同調することができれば、オーガの中に入ることは可能だ。といっても、かなり高度な能力で、それができるのは私の知る限りでも数えるほどしかいないが・・」

 デュオが悠然とした態度で、シドたちに語りかける。

「お前・・オレたちに何をしようというんだ!?

 シドが怒号と放ち、デュオに向かって拳を振りかざした。デュオは軽々と拳の横をすり抜けて、シドの後ろに回った。

「今回の目的は2つ。1つはシド、君に知らせたいことを伝えに来た。」

「知らせたいこと・・?」

 デュオの話を聞いて、ミリィが疑問を覚える。

「シド、君は家族や友人を殺され、その恨みを晴らすために戦っているそうだね。」

「なぜそのことを・・!?

 自分のことをデュオに言われて、シドが驚愕を覚える。

「しかしあのとき死んでいなかったんだよ。君の妹はね・・」

「何っ!?アンが!?

 デュオの話を聞いて、シドが目を見開く。死んだと思っていたアンが生きていたことに、シドは驚きを隠せなくなる。

「本当に何を企んでいる!?・・オレを騙そうとしても、そうはいかないぞ!」

「騙すだなんて人聞きの悪い。今も連れてきているよ。」

 不信感を抱くシドに、デュオが笑みをこぼす。

「まさかあの子が見つかるとは思っていなかったよ。死んだと思っていた妹に、君も会いたいと思っているはずだ。」

「貴様・・アンにふざけたマネをしてみろ!絶対に許さないぞ!」

 アンのことを語るデュオに、シドが激高する。

「言ったはずだ。君の妹を連れてきていると。」

 デュオは態度を変えずに、メフィストの姿になっているソルシエのほうへ目を向けた。彼は手をかざして、ソルシエの中を映す映像を出した。

「あの子はソルシエとともにいる。そしてソルシエに力を貸しているよ。」

 デュオが語りかけて、シドが映像の中のアンを見つめる。アンは全裸の姿で、メフィストの体内の壁に腕と下半身が埋め込まれていた。

「アン!」

 囚われの身になっているアンに、シドが叫び声を上げる。

「放せ・・アンを外へ出せ!」

 シドが怒号を放ち、デュオに殴りかかる。しかし音を立てずに移動したデュオに、シドが背後に回られる。

「その願い、聞いてもいいよ・・ただし・・」

 デュオが答えて、シドに向けて右手を突き出した。右手はシドの背中に突き刺さり、血をあふれさせた。

「シ、シド!?

 体を貫かれたシドに、ミリィが目を疑う。

「そのときには、君たちは私たちの同志になっているだろう。」

 デュオが告げてから、シドから手を引き抜いた。シドが吐血して、うつ伏せに倒れた。

「シド!」

 ミリィがシドに近づこうとしたが、デュオに腕をつかまれて止められる。

「もう1つの目的は、ミリィ、君を連れ出すことだ。」

 デュオがミリィを引っ張り、シドのオーガから外へ出た。

「シド・・シド!」

 ミリィが叫ぶ中、融合が解かれたシドのオーガが元に戻っていく。

「放して!放しなさい!」

 ミリィが怒りを込めて叫び、そばにオーガを呼び出した。オーガがデュオに向けて念力を繰り出した。

 デュオが意識を傾けると、ミリィのオーガのほうが体の自由を封じられた。

「そ、そんな!?

「このくらいのこと、私には造作もないことだ。」

 驚愕するミリィに、デュオが微笑んで答えた。

「慌てることはないよ。シドは死んではいない。というよりも、普通の死に方では死なない体になっているだろうね。」

「えっ・・・!?

 デュオの口にした言葉の意味が理解できず、ミリィが困惑を覚える。

「どういうことなの!?・・シドが、死なない体になっているとは・・・!?

「ここでは騒々しい。ソルシエと合流してから、詳しく話そう。」

 疑問を投げかけるミリィに、デュオが言いかける。2人がソルシエのそばまで移動した。

「ソルシエ、入るよ。」

「いいわよ、デュオ。」

 デュオが声をかけて、ソルシエが答える。デュオがミリィを連れて、ソルシエの中に入った。

 ソルシエの中に入った途端、デュオとミリィは全裸の姿になっていた。

「ウフフフ。人の姿で会うのは初めてになるかしらね。」

 自身のメフィストの中にいるソルシエが、ミリィに目を向けて微笑む。

「改めて紹介しようか。私はデュオ。彼女はソルシエだ。」

「よろしくね、エスポランスのお嬢様。」

 デュオがミリィに名乗り、ソルシエも声を掛ける。

「そしてそこにいるのが、シドの妹のアンさんだ。」

 デュオが指示したほうへ振り向いて、ミリィが目を見開いた。全裸の姿のアンが壁に埋め込まれていた。

「シドの妹の・・アンさん・・・!」

 ミリィがアンを見つめて、動揺を隠せなくなっていた。

 

 

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