Ogre SID
-死を背負いし剣-
第16話「強襲 –張り巡らされた企み-」
夜が明けると同時に、シドは訓練場に1人現れて、意識を集中していた。彼は自分だけでも強くなろうと考えていた。
(アイツのオーガと合わさったときの力・・オレ1人だけじゃ出し切れない・・だけど、必ずあの力にたどり着く・・いや、それ以上の力を手に入れて、メフィストを滅ぼす・・・!)
メフィスト打倒とそのための力の渇望を強く望むシド。
(オーガの中に入ってシンクロを上げて、力を大きく上げた。これ以上の力を上げるには、また何かきっかけが・・・)
さらなる力を得る方法を探るシド。
「オーガ!」
彼はオーガを呼び出して、その中に入っていった。
「シンクロを上げて全てを解放すれば、力も高まる・・その力を引き上げるのが、強くなる方法か・・・!」
強くなる方法を追い求めて、シドが集中力を高める。全身に力を込めてオーガとのシンクロを上げた彼の格好が、全裸になっていく。
「これで力を最大限に引き上げている・・攻撃を受けたときの痛みも完全な形で伝わる・・・」
オーガとの融合について確認するシド。
「それ以上の力は、そこからどうすれば出せるんだ・・・アイツのオーガと融合するしか、あれだけの力は出せないのか・・・!?」
力を高める方法が見つからず、シドが憤りを募らせていく。彼は苦悩を抱えたまま、オーガとの融合を解除した。
「これが限界だっていうのか!?・・そんなこと、あってたまるか・・あの2人のメフィストは、もっと力があったんだぞ・・・!」
ディアスとイフェルのことを思い出して、シドが両手を強く握りしめる。
「アイツらよりも強くなる・・そうしなければ、オレは生き抜けない・・・!」
力への渇望をさらに強めるシド。彼は憤りを抱えたまま、訓練場を去っていった。
シドが去って少し間を置いてから、テルが訓練場に入ってきた。
(オレだって戦えるようにならないと・・いい加減にオーガが出せるようにならないと・・・!)
テルも力への渇望を膨らませていく。
(ミリィさんは死にそうになって、それで生きようとしてオーガが出せるようになったと・・やっぱりミリィさんに助けてもらうしかないのかな・・・)
テルも苦悩を深めてため息をついた。
(ギギさんでもアロンさんでも・・・!)
彼はすっかりわらにもすがる思いに駆られていた。
シドのことを気にして、ミリィは心ここにあらずの状態が続いていた。
「ミリィ様・・あまり深く思いつめないほうがいいですよ・・ミリィ様のためにならないです・・」
エリィがミリィの心境を察して心配する。
「分かっているけど・・そう言い聞かせようとすればするほど、深みにはまってしまって・・・」
ミリィが答えて、物悲しい笑みを浮かべる。
「・・少し、気分転換をしましょう。お散歩をするだけでも・・・」
「ありがとう、エリィ・・動ける範囲は広くないけどね・・・」
気を遣ってきたエリィに、ミリィが感謝した。2人は部屋から外へ出ようとした。
そのとき、ミリィは衝撃のような感覚を覚えて足を止めた。
「どうしました、ミリィ様・・?」
エリィが彼女の様子を気にして振り向く。
「何かを感じる・・これはもしかして、メフィスト・・・!?」
「えっ・・!?」
ミリィが口にした言葉に、エリィが緊張を浮かべる。ミリィはメフィストの力と気配を感じ取っていた。
「エリィさん、このこと、ハントさんたちに知らせてくるわ・・・!」
「ミ、ミリィ様!?」
走り出したミリィに、エリィが驚きの声を上げる。エリィも慌ててミリィを追いかけていった。
メフィストの接近を、シドも感じ取っていた。彼は外に出て、メフィストへの怒りを燃やしていた。
(またオレたちの力を感じて、メフィストが動き出したか・・望むところだ・・・!)
メフィストが近づいてくるのを待って、シドはいつでもオーガを出せるようにした。
ハントたちのいる指令室に、ミリィが駆け込んできた。
「ハントさん、メフィストが近づいてきます!」
「何っ・・!?」
ミリィの報告を聞いて、ハントが声を荒げる。シーマ、アルマ、レイラも緊張を覚える。
「ミリィさん、なぜそのことを・・!?」
「感じたんです・・何か強い力を・・もしかしてそれが、メフィストではないかと・・・」
シーマが問いかけて、ミリィが感じたままを話す。
「もしかして、ミリィもシドと同じように、力を感じ取れるようになったのでは・・・」
「えっ・・!?」
ハントの推測を聞いて、ミリィが戸惑いを覚える。
「レーダーで確認します!・・こちらに接近する反応あり!メフィストです!」
アルマがレーダーを確かめて、メフィストの接近を報告する。
「それだけではありません!・・これは、軍の戦闘機です!」
「何ですって!?」
レイラも続けて報告して、シーマがこの言葉に耳を疑った。モニターに、メフィストとともにグレイブヤードに向かってくる軍の戦闘機の姿もあった。
「どういうことなんだ!?・・どうして、軍がメフィストと・・!?」
「メフィストは全世界を支配している。メフィストが各国政府に命令を下し、軍を動かしたのだろう・・」
アルマが驚愕して、ハントが軍の出動について推測する。
「オーガを出せるアポストルは戦闘態勢に入れ・・そうでない者は安全圏まで避難する・・軍の兵士と鉢合わせすれば、捕まるか殺されるかのどちらかしかなくなる・・・!」
ハントが冷静にシーマたちに指示を出す。
「軍と戦うつもりなのですか!?メフィストはともかく、軍の兵士はただの人間なんですよ!?」
「我々が彼らを人間だと考えても、彼らは我々をそうとは思わないだろう・・・!」
声を荒げるアルマに、ハントが声を振り絞るように言い返す。ハントも軍と戦うことを快く思っていない。
「ミリィ、お前も戦うんだ・・!」
「しかし、私たち、同じ人間なんですよ・・いくら私たちや彼らが何と思っても、人間同士が戦うなんて・・・!」
ハントが指示を出すが、ミリィは軍と戦うことをためらう。
「今の彼らはメフィストと同じく、我々を制圧するために行動している。戦わなければ、我々に未来はない・・!」
ハントに警告されて、ミリィが苦悩を深めていく。戦っても戦わなくてもどちらかが傷つくことになる事態に、ミリィは胸を締め付けられる気分に襲われていた。
「お嬢様、テルさんたちのところへ行きましょう。私たちで、みなさんを避難させましょう・・」
エリィがミリィを気遣って呼びかける。
「エリィ・・・そうするわ・・・」
ミリィが聞き入れて、エリィとともに指令室を出ていった。
「ミリィさん、待ちなさい!あなたの力もメフィストを倒せるほどに・・!」
「いや、強要するな、シーマ・・!」
ミリィを呼び止めようとしたシーマを、ハントが制する。
「しかしもしあのメフィストの2人組が現れたら、シドだけでは敵わないです!ミリィさんも一緒でないと・・!」
「まだ2人が融合するカギが発見できてはいない。確証のないものを無理強いすることはできない・・」
ミリィも戦うことが賢明であると訴えるシーマを、ハントがなだめる。彼の言葉に納得できないシーマだが、反論の言葉も見つからず押し黙るしかなかった。
グレイブヤードを目指すデュオ、ソルシエ、インバス。彼らは引き連れている軍の飛行戦艦の中にいた。
「デュオ様、我々が行ってもよろしかったのでしょうか・・?」
軍の部隊を統率する指揮官、ジーン・マブナがデュオに不安を口にする。
「あなた方はともかく、我々にはオーガと戦えるだけの力はありません。我々が出向いたところで、お役に立てるとは・・」
「あの巨大なのを相手してほしいとは思っていない。その相手は私たちがするよ。」
気まずくなっているジーンに、デュオが悠然と答える。
「あそこにいるのは、巨大になって戦う人だけじゃない。あなたたちは戦える力のない人の対処をすればいいのよ。」
「そうですか・・分かりました。そこはぬかりなくやらせていただきます・・」
ソルシエも微笑んで言いかけて、ジーンが納得して頷いた。
「では気を取り直して向かおうか。グリムリーパーとの接触を。」
デュオが前に視線を戻して、シドたちとの対面を心待ちにした。
メフィストと軍の接近の知らせが伝わり、グレイブヤードは騒然となった。
「メフィスト・・今度こそオレが狩り尽くしてやるからな・・・!」
メフィストへの敵意とシドへの対抗心を燃やすギギ。
「ギギ・・・」
アロンがギギを見て、緊張を不安を感じていた。
(オレには、まだオーガを呼び出せない・・避難するしかないなんて・・・!)
テルはシドたちを助けたいと思いながら、それができない自分を悔やんでいた。
「みなさん、こっちへ!慌てずに避難してください!」
ミリィがエリィとともにグレイブヤードにいる人々を避難させていく。人々はアルシュートの中に入っていく。
「ミリィさん・・戦いに出ていないなんて・・・!」
テルがミリィを気にして、彼女のところへ向かう。
「見ろ!メフィストの大群だ!」
「戦艦もいるぞ!」
そのとき、人々が空を見て声を荒げた。グレイブヤードの上空に、メフィストと軍隊が到着した。
グレイブヤードを見下ろして、デュオは微笑んでいた。
「ここがグリムリーパーの本拠地か。ディアスたちを退けた戦士は、どこにいるかな?」
「私たちは先に行って、強い相手を引きずり出してくる。あなたたちは他の人たちの始末をしてきてね。」
グレイブヤードを見渡すデュオと、ジーンに呼びかけるソルシエ。
「分かりました・・非戦闘員のほうはお任せを・・・!」
ジーンが緊張を見せながら答えて、オペレーターたちが他の戦闘機に伝達する。
「では行こうか、ソルシエ、インバス。既に私の仲間が行動を起こしている。」
「えぇ、デュオ。久しぶりに運動ができるわね・・」
呼びかけるデュオに答えて、ソルシエが笑顔を見せた。2人とインバスが戦艦のハッチから飛び降りた。
「行くわよ、デュオ、ソルシエ・・」
インバスがメフィストの姿になって、デュオとソルシエを乗せて降下する。
降りてくるインバスの姿を、シドが目撃した。
(あのときの女のメフィストか・・アイツもオレが倒す・・!)
「オーガ!」
シドが怒りを燃やして、オーガを呼び出した。彼はオーガの中に入り、インバスに向かって飛翔した。
「メフィスト!」
シドが怒鳴り声を上げて、インバスを狙って拳を振りかざした。インバスがとっさに横に動いて拳をかわす。
「もしかしてあれが、ディアスたちを追い詰めたヤツか・・まずはお手並み拝見と行こうか。」
「私にやらせて。私が直接確かめるわ。その力をね・・」
デュオがシドに目を向けて、ソルシエが戦いに赴く。彼女がマントのような翼を広げた巨人に変わった。
「はじめまして。私はソルシエ。あなたの名前は?」
ソルシエが自己紹介をして話を聞こうとするが、シドは答えずに彼女に攻撃を仕掛けてきた。
「もう、挨拶ぐらいしてくれないと、お互い都合が悪くなると思うんだけどね・・」
攻め立ててくるシドに、ソルシエがため息をつく。
「逃げるな!メフィストはオレが滅ぼす!」
「しかも血気盛ん・・手に負えないわね・・」
怒鳴りかかるシドに、ソルシエが呆れる。
「それじゃ、心の中に直接聞くことにするわね・・」
ソルシエが言いかけて、シドが伸ばした手を音もなく移動してかわした。次の瞬間、ソルシエがシドの背後に回り、彼の後頭部に手を当てた。
「へぇ・・あなた、岸間シドというのね・・」
シドの名前を知って、ソルシエがさらに微笑む。シドが足を振りかざして回し蹴りを繰り出すが、ソルシエはまたも瞬間移動した。
「家族を殺されて、私たちが許せない・・だから意地になって戦っているのね・・」
「お前、何でオレのことを・・!?」
ソルシエに自分のことを言われて、シドが疑問を覚える。
「私は頭に触れるだけで、その人の考えや記憶を読み取ることができるのよ。今触れたことで、あなたのことを知ったのよ。」
ソルシエが自分の能力について説明する。
「コイツ・・オレの心の中を勝手に・・・!」
シドが怒りを膨らませて、両手を強く握りしめる。オーガとのシンクロが上がり、シドはその中で裸になった。
シドの動きがさらに速まる。しかしソルシエは余裕を見せたまま、瞬間移動で彼の攻撃をかわしていく。
「逃げるな!オレと戦え!」
シドが怒鳴り声を上げて、ソルシエを追う。
「攻撃されたら痛いじゃない。あなただって、痛い思いをしたくないからよけたり戦ったりしているんじゃないの?」
「ふざけたことをぬかすな、メフィストが!」
からかうソルシエに、シドが怒りを膨らませていく。彼は感覚を研ぎ澄ませ、ソルシエの行方を追う。
「急におとなしくなったわね・・でも、じっとしているだけじゃつまんないわよ・・」
ソルシエが肩を落とす素振りを見せて、シドにゆっくりと近づいていく。彼女は右手から光の球を出して投げつける。
シドは左手を振りかざして、光の球を弾く。直後、シドがソルシエの眼前まで詰め寄ってきた。
「えっ!?」
高速で動いたシドに、ソルシエが驚きを覚える。シドが繰り出した拳が、ソルシエの体に命中した。
「うっ・・!」
ソルシエが痛みを覚えて顔を歪める。彼女は打撃を食らう寸前に後ろに下がり、受けるダメージを和らげていた。
「ソルシエが攻撃された・・・!?」
「ほう?ただ力があるだけじゃなく、戦い方もしっかりしている。百戦錬磨というところか。」
インバスが驚きを浮かべて、デュオがシドの戦い方を喜ぶ。
「でもまだまだ人の域から脱してはいない。やはり1つ策を弄する必要があるね。」
デュオは呟いてから、宙に浮かび上がってインバスから離れていく。
「デュオ・・・」
「お前もメフィストか!?ならばお前も叩きつぶす・・!」
ソルシエが戸惑いを覚えて、シドがデュオにも怒りを向ける。
「メフィストねぇ・・それとかアポストルとかで分け隔てていることには、感心しないね・・」
デュオが顔から笑みを消してため息をつく。
シドが怒りのままに拳を繰り出す。しかしデュオがかざした右手に軽々と拳を止められた。
「何っ!?」
驚愕するシドが、拳にさらに力を込める。しかしデュオを押し込むことができない。
「さすがにこの姿のままで相手をするのは、きついか・・仕方がない。この姿で出せる全力を出すとするか。」
デュオが呟いてから、一瞬にしてシドの頭上に回り込んだ。デュオがシドの頭に手を当てて、衝撃を送った。
「うっ!」
頭を強く揺さぶられて、シドが体勢を崩して落下する。衝撃で精神が不安定になった彼は、地上に落ちて倒れたところで、オーガから外に出された。
「やはり精神状態に深く関わりのある力のようだ。意識を失えば力も具現化できなくなる。」
デュオがオーガについて確かめていく。
「でもあれだけの力の持ち主を一撃で気絶させるなんて、あなたしかできない芸当よ。」
彼の力を思い知って、インバスがため息をつく。
そのとき、シドが意識を取り戻して、ゆっくりと立ち上がった。
「あれを受けてすぐに意識を取り戻すとは、さすがだ。」
デュオがシドの底力を目の当たりにして笑みをこぼす。
「でもこれからどこまで持つかしらね。ウフフフフ・・」
ソルシエが微笑んでから、かざした右手から炎を発した。
「私にはいろんな能力があるの。まるで魔法みたいにね。瞬間移動や炎、氷、いろいろ使えるのよ・・」
ソルシエが自分のことを語って、シドに向かって炎の球を放った。
「うぐっ!」
炎の球が地上に落ちて爆発して、シドが爆風に押されて、グレイブヤードの中に押し込まれた。
「あらら。奥に行っちゃったわねぇ・・」
「彼の相手は私の仲間に任せよう。私たちはしばらくは他の者の相手だ。」
からかう素振りを見せるソルシエに、デュオが呼びかける。
「他だとあまり楽しめるとは思えないんだけどね・・」
「その中から強敵が出てくることを期待しよう。」
ため息をつくソルシエをデュオが励ます。2人とインバスは他のメフィストたちと合流した。
メフィストたちはギギたちと交戦し、ミリィたちは人々の避難に尽力していた。
混迷するグレイブヤードに、軍の兵士たちが降り立って人々の拘束をしていた。抵抗しようとした人は痛めつけられ、命を奪われる人もいた。
「このような相手なら、我々だけでも・・・!」
「しかし、もしアポストルやオーガと出くわしたら・・・!」
兵士たちが力のない人たちを相手にする安心感を感じながらも、オーガに歯が立たないことを痛感していた。
「心配ない・・デュオ様がオーガの相手をされているし、いざとなれば我々は安全圏まで下がればよい・・!」
部隊長が呼びかけて、兵士たちが小さく頷いた。
「我々は我々のすべきことをする・・それ以外の選択肢はない・・・!」
「り・・了解・・・!」
部隊長の激に兵士たちが答えた。彼らはグレイブヤード制圧のための行動を続けた。
アルシュートの中やグレイブヤードの外に逃げていく人々。ミリィたちが避難を呼びかけるが、兵士たちに発見された。
「いたぞ!全員捕らえろ!抵抗するなら射殺して構わん!」
兵士たちが人々に対して銃を構えた。
「やめてください!この人たちは何も悪くはありません!」
ミリィが兵士たちの前に出て呼び止める。
「メフィストに反抗している時点で、お前たちは悪だ・・!」
しかし兵士たちは銃を下ろさず、ミリィたちを敵視する。
「そんな!?・・私たちは人間・・同じ人間じゃないですか!こうして争ったって、何もいいことはないじゃないですか・・!」
「違う・・お前たちはメフィストに逆らう悪・・排除しなければ、世界に平和は訪れない・・!」
必死に説得を試みるミリィだが、兵士たちは彼女たちが悪だという考えを変えない。
「何を言っているんだ!メフィストほうが世界征服してきたんじゃないか!」
青年の1人が兵士たちに反論をしてきた。
「私たちは普通に平和に暮らしてきたのに、メフィストが一方的に攻撃して、世界を支配したんじゃない!」
「そんなメフィストの言いなりになって、お前らそれでも人間か!?」
「みんなで力を合わせて立ち向かおうとか、そうは思わないのか!?悔しくはないのか!?」
他の人々も兵士たちに不満を叫んできた。
次の瞬間、部隊長が銃を発砲して、青年の胸を撃ち抜いた。青年が口から血を流して、倒れて動かなくなった。
「敵の戯言に耳を貸すつもりはない・・メフィストのもたらす世界こそ、本当の平和だ・・・!」
部隊長の告げた冷徹な言葉に、人々もミリィも愕然となる。
「我々の指示に従え・・さもなくばこの場で射殺する・・・!」
部隊長が忠告して、兵士たちがミリィたちに狙いを定める。同じ人間でありながら自分たちを殺そうとする兵士に、ミリィは絶望していく。
そのとき、巨大な手が飛び出してきて、兵士たちの大半を吹き飛ばした。
「これは、シドさんの・・!」
ミリィはその手がシドのオーガのものだと気付く。シドが戻ってきて、オーガを出して兵士たちを攻撃したのである。しかしデュオに頭を攻撃されたダメージが残っていたため、オーガの具現化も不安定になっていた。
「シドさん!」
「オレにふざけたマネをしてくるなら、誰だろうと容赦しない・・・!」
テルが喜びを見せて、シドが兵士たちに鋭い視線を向ける。
「もしかして、オーガを呼び出せるアポストル・・!?」
「引き上げろ!体勢を立て直す!」
兵士たちが緊迫を募らせ、部隊長が指示を出す。引き上げる彼らを追撃しようとしたシドだが、オーガを思うように操れず、そばの壁にもたれかかった。
「シドさん!」
ミリィとテルがシドに駆け寄って支えた。
「大丈夫ですか、シドさん!?」
「まだオーガを思うように操れないのか・・まだ少し休まないといけないのか・・・!?」
ミリィが心配するそばで、シドが自分の状態を確かめて毒づく。
「それでもオレはアイツらを、メフィストを倒す・・・!」
シドが歩き出して、デュオたちのところへ戻っていく。
「シドさん、待って!」
ミリィが慌ててシドを追いかける。
「ミリィ様、待ってください!」
「シドさん、ミリィさん、オレも!」
エリィとテルもシドとミリィを追いかけて、人々から離れていった。
ギギたちとメフィストの攻防は激しさを増していた。その戦いの場にデュオたちが近づいてきていた。
その姿を目撃したシドが、怒りを募らせて両手を握りしめる。
「まだ集中できない・・あのメフィストめ・・・!」
頭への衝撃が残っていたために、シドはオーガを呼び出すことができない。
「シドさん!」
ミリィがシドに追いついて、テルとエリィも来た。
「まだ少し休んでいないと・・戦いたくても戦うことは・・・!」
「メフィストを倒すことが、オレの目的だ・・アイツらを野放しにするつもりはない・・・!」
ミリィが呼び止めるが、シドは戦いをやめない。
「アイツにやられはしない・・無理やりにでも、オーガを呼び出してやる・・・!」
シドが怒りを強めることで、集中力を取り戻そうとしていた。
(シドさんがここまで戦っている・・・人間とは戦えないけど、メフィストが相手なら・・・!)
「シドさん、私がメフィストと・・!」
ミリィが迷いと苦悩を振り払いながら、シドの代わりに戦おうとした。
そのとき、銃声が響き渡って、ミリィが振り向いた。シドの体を一条の光が貫いていた。
「何っ・・!?」
突然のことにシドが目を疑った。彼は体から血をあふれさせて、その場に倒れた。
「シ、シドさん・・・!?」
テルが驚愕して、シドに手を伸ばしかける。
「やっとこの瞬間がやってきたわ・・1番厄介な敵を仕留められる瞬間が・・」
声がかかって、ミリィたちが視線を移す。シドを射撃したのは、銃を構えたエリィだった。
「エ・・エリィ・・・!?」
ミリィがエリィの行動に驚きを隠せなくなる。
「何をしているの!?・・あなたが、シドさんを・・・!?」
「そうですよ、ミリィお嬢様・・私がシドさんを撃ったんですよ・・・」
体を震わせながら問いかけるミリィに、エリィが微笑んで答える。
「何をしてるんだよ・・何でこんなことしたんだよ!?」
テルが感情をあらわにして詰め寄ろうとしたが、エリィに銃口を向けられて足を止める。
「全てはデュオ様のためよ・・グリムリーパーを追い詰め壊滅させるというご命令のため、あたしは動いてたのよ・・」
エリィが自分のことを悠然と語っていく。
「あたしはデュオ様の忠実な部下・・デュオ様の命令で、あたしはグレイブヤードに潜入してたのよ!」
エリィが目を見開いて、高らかに言い放つ。彼女はデュオに従い、グリムリーパーに潜入したスパイだった。