Ogre SID
-死を背負いし剣-
第15話「交流 –開け放たれる心-」
融合していたオーガとともに果てたラミア。融合状態でのオーガの死は、アポストルの精神だけでなく命も失われることを、シドたちは思い知らされていた。
「また、私たちの同士の命が・・・」
ラミアの死をシーマも悲しんでいた。
「それにしても、オーガと2人のアポストルが融合を果たすとは・・」
ハントがシドとミリィがオーガの中に入ったことを思い出す。
「この現象は、オーガそのものの融合ともいえる。シドとミリィが融合したことで現れたオーガは、2人のオーガの特徴を併せ持っていた・・」
オーガ同士の融合について、ハントは推測を巡らせていた。
シドのオーガの中に入ったことを気にして、ミリィは戸惑いを感じていた。シドの心の中をより深くのぞいたことに、ミリィは心を揺さぶられていた。
(シドさんは、家族や大切な人をメフィストに殺されて、その怒りを燃やしている・・その矛先はメフィストだけでなく、身勝手な考えの持ち主全員に向けられている・・)
シドの怒りの思考を痛感して、ミリィが恐怖を覚える。
(私もヒビキさんやラミアさんを傷付けたメフィストが許せなくなっている・・でもシドさんの怒りに比べたら、全然大したことはない・・・)
自分の怒りが足りないことに、ミリィは複雑な気分を抱えていた。
「ミリィ、話を聞きたいのだが・・」
ハントがやってきて、ミリィに声を掛けた。ミリィは困惑を抱えたまま、ハントに振り向いた。
「ハントさん・・私とシドさんのオーガが融合したことですね・・」
ミリィが答えて、ハントが小さく頷いた。
「どうやってオーガ同士の融合が起こったのか、私もシドさんも分からないです・・ただ私たちのオーガの能力を併せ持ち、力も何倍にも上がっていました・・」
「それで、お前たち自身もオーガの中で変化はあったのか?」
「はい・・私とシドさん、お互いの心の内と記憶が流れ込んできて・・・」
ハントが疑問を投げかけて、ミリィが自分たちが体感したことを思い返す。
「シドさんの記憶や過去の光景が、私の中に入ってきたように見えました・・きっと、シドさんも私のことを・・・」
「お前たちの融合は、ただ精神面でのシンクロだけではない・・また確定ではないが、肉体の面でも・・」
話を続けるミリィに、ハントが推測を巡らせる。
「肉体の面って・・・もしかして・・・!?」
その推測を聞いて、ミリィが動揺を膨らませる。
「シンクロが高い状態のオーガの中に居続ければ、実際に交わるのと同じ事態に陥るだろう・・・」
ハントの言ったこの言葉にも動揺して、ミリィは顔を赤らめた。
(シドさんと心の中を見ただけでなく、体のほうも・・・!?)
恥ずかしさも感じていくミリィが、たまらず自分の体を抱きしめた。
「まだそうと決まったわけではない。オーガ同士の融合でどのような影響が出ているのか、身体チェックを受けてもらいたい。もちろんシドにも頼むつもりだ。」
ハントがなだめるようにミリィに呼びかける。
「分かりましたが、あまり負担がかからないようにお願いします・・」
ミリィは自分の体を気に掛けながら、ハントの指示を聞き入れた。
ディアスを庇ってシドの攻撃を受けて左肩を負傷したイフェル。傷を癒す彼女を見て、ディアスが胸を締め付けられる気分を感じていた。
「イフェル・・オレのために・・・!」
「ディアス、いいのよ・・ディアスが無事だっただけで、私は嬉しいわ・・・」
心配するディアスにイフェルが微笑む。
「オレたちの連携が崩された・・しかも、オーガ同士の融合を果たすとは・・・!」
ディアスがシドとミリィのことを思い出して、いら立ちを感じていく。
「お前たち2人が手を焼かされることになるとは・・」
そこへ声がかかり、ディアスとイフェルが緊迫を覚える。2人の前に1人の青年が現れ、インバスともう1人の女性を連れていた。
「デュオ、ソルシエ・・お前たちも来ていたのか・・!?」
ディアスが青年、デュオと女性、ソルシエを見て声を荒げる。
「興味深い出来事が起こったようでね。これで退屈しなくなると思ったから・・」
「興味深い・・融合を果たしたあのオーガのことか・・・!?」
デュオの口にした言葉を受けて、ディアスが聞き返す。
「オーガねぇ・・オーガと呼ばれている存在も我々も、元を辿れば似た者同士なのだが・・」
「それって、どういうことなの・・?」
デュオが微笑んで、インバスも疑問符を浮かべる。
「君たちは知らなかったか。そのうち知ることになるよ。おそらく近いうちに・・」
「そうやってもったいぶるのは相変わらずだな、お前は・・・」
言い返すデュオに、ディアスがため息をつく。
「次は私も行かせてもらうよ。グリムリーパーという者たちと、直接会ってみたいと思っていたしね。」
「私もついていくわよ、デュオ。久しぶりに体を動かしたいのは、私も同じだから・・」
デュオが戦いに向かおうとして、ソルシエも一緒に行くことを決める。
「ディアスはイフェルのそばについて、一緒に休んでいてくれ。代わりにインバス、ついてきてくれないか?」
「分かったわ。ディアスたちを追い込んだ相手に、私が敵うとは思えないけど・・」
デュオが呼びかけて、インバスがため息まじりに答える。
「そんなことないよ。私たちの仲間が1人、今も行動しているからね。うまくいけば、その噂の2人を無力化させることができるかもしれない・・」
「あの2人を無力化にする・・!?」
デュオの口にした言葉に、ディアスが驚きを覚える。
「向こうからの次の連絡が来てから、行動に移るよ。」
デュオは笑みをこぼしてから、ソルシエを連れてディアスたちの前から離れていった。
「とうとうデュオが動いてくるとは・・ここからは、アイツの独壇場になるか・・・!」
「でも私たちの出番がなくなったわけじゃないわ。デュオの言うように、あの2人が無力化されるのが本当になれば、なおさらね・・」
危機感を覚えるディアスに、インバスが告げる。2人もイフェルも、自分たちに残されたチャンスは少ないと痛感していた。
ハントの要請を受けて、ミリィとシドは身体チェックを受けることになった。自分の体を調べられることを、シドは不快には感じていなかった。
シドにはハントと男の医師が、ミリィにはシーマと女の医師がついていた。
「シドくんの体に大きな変化は見られません。他のアポストルとの大きな差異はありません。」
医師がシドの体に関するデータに目を通して、ハントに報告する。
「融合による異変は、今のところ見られないか・・」
ハントが呟いて、別の医務室との通信をつなげた。
「ミリィのほうはどうだ?」
“彼女も現時点での身体的変化は見られません。オーガ同士の融合に関するデータが少ないので、断言はできかねますが・・・”
ハントの問いかけに、女の医師が答える。
「引き続き検査が必要になるな・・力の多用を控えるよう、ミリィに伝えてくれ。」
“分かりました、隊長。”
ハントの言葉を医師が聞き入れる。通信を終えたハントに、男の医師が頷いた。
「シドもメフィストと戦うとき以外は力を抑えてくれ。」
ハントがシドにも指示を送る。
「オレの体に何か起こるかもしれないからか?たとえ悪いことになっても、オレはそれをはねのける・・」
「その不安だけではない。メフィストの中に、強い力を探知できる者がいた。力を上げればそれを探知され、グレイブヤードの位置が暴かれる危険が高まる・・」
「ならば望むところだ・・メフィストがここに来るなら、そいつら全員、倒すまでだ・・・!」
「我らグリムリーパー全員が危険にさらされることになるのだぞ・・そうなればメフィストへの反逆が不可能になる・・!」
「そんなことにはならない・・オレがヤツらを倒す・・ヤツらを滅ぼすまで、オレは死なない・・!」
「その独りよがりでグリムリーパーを危険にさらすならば、我々はお前と敵対する判断を下さざるを得ない・・・!」
メフィストへの憎悪をたぎらせるシドを、ハントが咎める。2人が互いに鋭い視線を向け合う。
「今は力を上げるな・・ただでさえ、どの程度の負担がお前に掛かっているか、分かっていないのだから・・」
ハントはシドに告げると、医務室を後にした。
「私も医者の見解としても、融合を多用したり続けたりするのをよしとは言えない。どのような影響が出るか分からない。初めての現象だからな・・」
医師もシドに向けて注意を投げかけた。
「実験台にでもしないなら、オレは検査は受ける・・」
シドは答えてから、続けて医務室を後にした。
(シドくん・・・)
シドのことを心配して、医師は表情を曇らせていた。
検査を終えたシドは、不満を感じたまま1人廊下を歩いていく。
「シドさん・・」
廊下の途中にテルがいて、シドに気付いて声を掛けてきた。
「ミリィさんと、オーガが合体したそうですけど、体とか何ともないんですか・・?」
「あぁ・・ただ、オレとアイツのことが筒抜けになっちまった・・お互いのことが丸分かりになったというか・・・」
気に掛けてきたテルに、シドが複雑な気分を感じながら答えた。
「丸分かり・・何だか、すごいことになっているみたいですね・・・」
話を聞いたテルが、思わず苦笑いを浮かべた。
「ホント、すごい・・シドさんがどんどん遠くなっていく気がします・・・」
テルがシドの高まる力と同時に自分の無力さも感じて、物悲しい笑みを浮かべる。
「オレと同じようになったところで、何もいいことはない・・常に死が隣り合わせだからな・・」
するとシドが言い返してテルを制止する。
「死をはねのけるには、それだけの力と意思が必要になる・・しかしそんな気の張り詰めた状態を続けるのが、いいことだとは思わない・・」
「だけどシドさんは、その状態をずっと続けて、今も生き続けているじゃないですか・・それこそ、ホントの強さじゃ・・・!」
「絶対にやらなければならない目的があるからだ・・メフィストを滅ぼすという目的が・・・」
「それなら、オレだって・・オレだって・・・!」
自分の考えを告げるシドに、テルがついていこうとする。
「このような地獄に自分から飛び込むのは、オレだけで十分だ・・」
「シドさん・・・」
自分だけが戦いに飛び込もうとするシドに、テルは困惑を募らせていく。
「シドさんは優しいところもあるのですね・・」
そこへミリィがエリィとともにやってきて、シドに声を掛けてきた。
「お前・・オレの心の中を見たのを思い出したのか・・?」
「それだけじゃなく、今のシドさんを見て確信したんです・・シドさんには、優しさがあると・・」
疑問を投げかけるシドに、ミリィが微笑んで答えた。
「シドさん・・お嬢様のこと、シドさんも見たり知ったりしたのですか・・・?」
エリィが困惑を見せながら、シドに問いかけてきた。
「見たくて見たんじゃない・・見えちまったんだ・・・」
シドが表情を曇らせて、ミリィとエリィから目をそらす。
「お、お嬢様・・ほ、本当に大丈夫だったのですか〜!?」
エリィが動揺を膨らませて、ミリィを問い詰める。
「大丈夫よ。それに、私はシドさんに命を救われたこともありました・・たとえ何かが起こっているとしても、シドさんとだったら・・・」
「お嬢様、あなたはエスポランス家のお嬢様なのです!軽はずみな言動は慎んでください!」
シドへの想いを馳せるミリィに、エリィが動揺しながら注意する。
「そいつの言う通りだ・・オレに関わったところで、いいことはないんだからな・・・」
シドはミリィたちに告げて、1人歩こうとした。
「待ってください・・2人だけで話をさせてください・・・」
ミリィが呼び止めて、シドが彼女に目を向ける。
「エリィさん、2人きりにさせてください・・・」
ミリィがエリィにも言って笑顔を見せた。
「お嬢様・・不謹慎なことはいけませんからね・・・!」
エリィが注意をすると、ミリィがただ笑顔を見せるだけだった。
「お嬢様・・・」
離れていくミリィとシドを見つめて、エリィは深刻な面持ちを浮かべていた。
シドはミリィとともに自分の部屋に来た。ミリィは部屋のドアを閉めてカギを掛けた。
「オレたちだけで話・・あのときの、オーガが1つになったときのことか・・?」
「はい・・融合を続けると、心だけでなく、体まで深い関わりを持つことになると言われました・・・」
シドが疑問を投げかけて、ミリィが戸惑いを浮かべながら答える。
「それでも、必要だと感じたら融合をしますか?・・私は受け入れる覚悟をしているつもりです・・」
「オレはそのつもりはない・・だが、もしまた1つになったとしても、オレはもう拒絶しない・・・」
融合に対して否定的でないミリィとシド。
「私もメフィストが許せない・・ヒビキさんの心を傷つけ、ラミアさんの命を奪い、家族を殺したメフィストが・・・でも、私だけではシドさんほどの力は出せない・・・」
「だからオレにメフィストを倒してもらうと、甘えたことを言うのか・・?」
「いえ・・私も、シドさんのような力があれば・・・」
目つきを鋭くするシドに、ミリィが力への渇望を口にする。
「そのためなら、私の心身に何か起きても構わない・・・!」
ミリィが覚悟を口にして、自分の胸に手を当てた。彼女のこの行為を目の当たりにして、シドが動揺を覚える。
(オレは何を気にしているんだ?・・コイツの考えていることや裸を見せられたくらいで・・・!)
ミリィの裸の姿を思い出して、シドが動揺を膨らませていく。
「あなたが満足するなら、私は見られても触れられてもいいです・・命の恩人であるあなたが相手だったら・・・」
ミリィは戸惑いを見せながら、シドに近づいていく。ミリィがシドの左手を優しく持って、自分の胸に触れさせた。
「よせ!」
シドが声を荒げて、ミリィの手を振り払った。
「お前のメイドが言っていただろう・・軽はずみなマネはするなと・・・オレなんかと関わって、損をするのはお前なんだぞ・・・!」
不快感をあらわにして、シドがミリィに鋭く言う。
「シドさん・・・すみません・・でも、私も私なりの覚悟があることだけは、知っていてください・・・」
ミリィは悲しい顔を浮かべて、カギを解いてドアを開けて部屋を出た。
(オレはアイツのことを気にしている暇はないんだ・・メフィストを滅ぼさないと、オレは、オレたちは救われないんだ・・・!)
シドが戦うことに専念しようと自分に言い聞かせる。しかしその意思に反して、彼の苦悩は深まるばかりだった。
シドたちを攻撃する機会を待っていたデュオ。彼に向かって連絡が入った。
「そろそろ頃合いってところか。では行くとするか。」
デュオが微笑んで立ち上がり、空に目を向けた。
「2人の力の融合か。まだまだ私が出会ったことのない現象・・しかし、その2人にも、辿りついていない境地がある。」
シドとミリィのことを考えていくデュオ。
「私たちや彼らがどうなっていくか、確かめるのも楽しみだ・・」
デュオが期待を膨らませて、そばに来ていたソルシエとインバスに目を向けた。
「行くよ、ソルシエ、インバス。」
「えぇ、デュオ。私も楽しみになってきたわ。」
デュオが声を掛けて、ソルシエが笑みをこぼした。
「私も楽しめるというあなたの言葉、信じているからね・・」
「あぁ。期待は裏切らないよ。」
インバスが言いかけて、デュオが頷いた。3人はシドたちとの交戦のため、グレイブヤードへ向かった。