Ogre SID
-死を背負いし剣-
第12話「共調 –高まるシンクロ-」
シドを助けに向かったミリィが、オーガとの融合を果たした。融合の事実と感覚に、彼女は戸惑いを募らせていた。
「私も、オーガと1つになった!?・・意識するだけじゃなく、体を動かすようにオーガを動かせる・・」
今の自分の感覚を確かめていくミリィ。
「自分の体じゃない感じだけど・・力がどんどんあふれてくる・・・!」
今まで感じたことのない力を感じて、ミリィが自信を強めていく。
「これなら、もっと速く動けるかもしれない・・・!」
思い立ったミリィが意識を傾ける。彼女と1つになったオーガが翼をはばたかせて飛行する。そのスピードは融合前をはるかに超えていた。
(これなら間に合いそう・・シドさんを、助ける・・・!)
ミリィがスピードを上げて、シドたちのいる町へ急いだ。
インバスによって右肩を負傷し、シドはアークに対して劣勢を強いられていた。
「不本意な形だと言えるが、これでお前に引導を渡すことができる・・」
呼吸を乱すシドを見て、アークが笑みをこぼす。
(オレ自身が戦っているから、余計に体力を使うのか・・思っていた以上の消耗か・・・!)
自分の状態を確かめて、シドが毒づく。自ら戦っていることも相まって、オーガとの融合は融合前よりも体力を消耗する。
「これで終わりだ。私に逆らったことを後悔するがいい・・・!」
「オレはお前たちの思い通りにはならない・・必ずお前たちを滅ぼす・・!」
勝ち誇るアークに、シドが憎悪を募らせる。しかしシドは負傷した体を思うように動かすことができない。
アークが剣を構えて、シドに向かって突き出した。シドが剣で防ごうとしたが、右肩が激痛を駆け巡った。
(こんなところで死ねない・・ヤツらにやられてたまるか・・・!)
シドが怒りをむき出しにして、強引に右腕を動かす。彼が掲げた剣が、アークの剣を防いだ。
「その体でまだ動けるとはな・・だが私を脅かしたあの力は出せないようだ・・・!」
アークが力を込めて、シドの剣を押し込んでいく。
「うぐっ!」
アークの剣が右のわき腹に当たり、シドがさらなる激痛に襲われる。
「お前のムダなあがきもここまでだ・・ここで朽ち果てるのだ・・・!」
アークがさらに笑って、剣をシドの体に押し込もうとした。次の瞬間、シドが繰り出した右足の膝蹴りが、アークの顔面に直撃した。
「ぐふっ!」
頭にも刺激が伝わり、アークがふらついて後ろに下がる。シドが追撃をしようとするが、剣を持った右手を上げることができない。
「今度こそとどめだ・・お前の首をはねてやるぞ・・!」
アークが目つきを鋭くして、剣を構えてシドの首を狙う。
「オレは退かない・・メフィストを滅ぼすまで、オレは死なない・・・!」
満身創痍であるにもかかわらず、シドはアークを倒すことだけを考える。
「シドさん!」
そこへ声が響き、シドが目を見開いた。その声は耳に入ってきただけでなく、頭の中に直接飛び込んできたように、シドは感じた。
(この声は、ミリィ!?アイツも来ているのか!?・・しかしどういうことなんだ!?・・オレが動じた・・!?)
声の主がミリィであると気付いたシドだが、彼女に気圧されたことに動揺を隠せなくなる。
シドたちのいる場所に、オーガと融合したミリィが現れた。彼女は高速でこの場にたどり着いた。
「またアポストルのオーガが現れたか・・私はこのオーガの相手をしている。邪魔をするならば容赦はせんぞ。」
アークがミリィを見て、鋭い視線を投げかける。
「シドさんを連れて帰ります・・これ以上戦ったら、命に係わります・・・!」
ミリィもアークに向かって鋭く言いかける。高まったオーガの力を実感していた彼女は、無意識に語気も強くしていた。
「私の今の目的は、そこのオーガを葬ることだ。この手で命を奪わなければ、私の気が治まらん・・!」
アークがミリィの言葉を一蹴して、シドを倒そうと剣を構えた。
ミリィが感覚を研ぎ澄ませて、念力を発動した。
「ぬっ!?」
「えっ!?」
アークだけでなく、インバスもシドもミリィの念力で体が動かせなくなった。
「動かない・・いくら傷ついていても、オレが動きを止められるとは・・・ミリィもオーガと融合して、力を上げているからか・・!」
シドがミリィの力の高まりを痛感して毒づく。
「シドさん、今のうちに・・!」
ミリィが呼びかけて、シドを抱えて空へ飛び上がった。
「このまま逃がしはしないよ・・!」
インバスが全身に力を込めて、ミリィの念力をはねのけて、羽根を飛ばした。
「うっ!」
背中に羽根が刺さり、ミリィが体勢を崩す。彼女はシドを抱えたまま、海岸のほうへ落下していった。
「当たったが、決定打にはなっていない・・2人ともまだ生きているはず・・・」
シドたちがまだ生きていると判断していたインバス。その直後、アークが剣の切っ先を彼女に向けてきた。
「手出しするなら許さんぞ、インバス・・あのオーガは私が倒す・・・!」
「あなたも強情ね・・ここからはあなたに任せて、私は引き上げさせてもらうわ・・」
鋭い視線を向ける向けるアークに、インバスが微笑む。彼女は翼をはばたかせて、町から去っていった。
「逃がしはしないぞ・・私が息の根を止めてくれる・・邪魔をしたもう1人も含めて・・・!」
アークが憎悪をむき出しにしたまま、シドたちを追いかけていった。
海岸に落下したシドとミリィ。2人は落下の衝撃で、融合が解けてオーガも消えていた。
ミリィはアークたちに見つからないようにと、シドを連れてそばの洞窟に身を隠した。
「ここでしのぐしかない・・見つかったら私たちは終わり・・・!」
アークたちに見つからないように、ミリィは必死になっていた。シドが意識を取り戻し、閉じていた目を開いた。
「シドさん・・目が覚めたんですね・・・!」
ミリィが安心して、シドに微笑みかける。
「アイツは・・メフィストはどうした・・・!?」
「これ以上戦えばあなたが危険だと思いました・・メフィストから逃げたのですが、落とされて、近くの海岸に隠れたのです・・」
アークたちのことを聞くシドに、ミリィが状況を話した。するとシドがミリィの首をつかんで、地面に押し付けた。
「オレは死なない・・メフィストを滅ぼすまで、絶対に死ぬものか・・それを邪魔して・・!」
「それでも、私はあなたを死なせたくなかった・・だから怖さを抱えたまま、ここまで来たんです・・・!」
戦いを邪魔されたことへの不満をぶつけるシドに、ミリィも正直な思いを口にした。
「本当は怖かったです・・オーガを倒されたらヒビキさんのようになると・・でも私しかシドさんを助けられないって、自分に言い聞かせて・・・」
「それでオレの戦いを止めたというのか!?・・オレは、メフィストの思い通りになることが、死ぬことよりも許せないんだよ・・・!」
「あなたが傷ついて悲しい思いをする人がいることも、忘れないでください!」
「オレにはオレ以外には何もない!家族も大事なものも・・オレの命と、メフィストを滅ぼすという怒りだけ・・!」
互いに感情をあらわにして声を張り上げるミリィとシド。
「うぐっ・・・!」
体に痛みを感じて、シドがふらついた。
「ムチャをしてはいけません・・今でも生きているのがやっとのくらいなんですから・・!」
ミリィがとっさに起き上がって、シドを支えた。
「私たちは人間です・・傷つけば血が流れますし、傷が深ければ命に係わります・・命を失ったら、2度と目を覚ましません・・・!」
「そのことを、メフィストは分かっていない・・アイツらのために、何も悪くない人が追い込まれて、それが正しいことにされているんだぞ・・!」
「戦いを続けようというなら、自分の命も大切にしてください!」
「自分を大切にしているからこそ、絶対に死なず、戦わなければならない・・!」
ミリィが感情を込めて呼びかけるが、シドは聞こうとしない。
「どうしても戦おうというのなら、私を殺してからにしてください・・許せない相手を徹底的に排除するあなたなら、ためらいも後悔もないはずです・・・!」
ミリィが立ち上がって、シドと対峙しようとする。
「あなたが助かるなら、私は命を賭けます・・その覚悟がなかったら、きっと私はここまで来れなかったでしょう・・」
「オーガを出して戦うことを恐れていたお前が、ここまで・・・」
ミリィの覚悟を目の当たりにして、シドは息をのんだ。
(ミリィはオレのようにオーガと融合して、力を高めた・・傷ついていたとはいえ、オレが動きを止められるなんて・・・!)
シドがミリィの念力の強化を痛感する。
(たとえオレを止められるだけの力があっても、オレは敵を倒す・・それだけだ・・!)
シドが敵意を強めて、ミリィに手を伸ばした。
「シドさん!」
ミリィが叫んで感覚を研ぎ澄ました。その瞬間、シドの出した手が突然止まった。
「これは、あのときのような念力!?・・オーガを出していないのに使ってきた・・!?」
ミリィ自身が発した念力に、シドが驚愕を隠せなくなる。
「だがオレは・・こんなところで止まるわけには・・・!」
シドが強引に体を動かして、ミリィに近づいていく。彼女の念力に押さえつけられて、シドの体を巡る痛みが増していく。
「今ムチャをしても後でムチャをしても、結果が同じなら後でムチャしたほうがいいですよ・・・」
微笑んで優しく言葉を投げかけたミリィに、シドが戸惑いを覚える。
(オレのことを、ここまで・・・)
心からの優しさを受け止めて、シドは心を揺さぶられた。久々に強い優しさを向けられたと思い、彼は安らぎを感じていた。
(気分が・・落ち着いていく・・・)
激情が弱まって脱力していくシド。前のめりに倒れていく彼を、ミリィが慌てて支えた。
(今は体を休めるしかありません・・急いでグリムリーパーのみんなと合流したほうがいいのですが、メフィストに見つかる危険も高まる・・それだけは今は避けないと・・・)
洞窟の中で体を休めるのが最善だと判断するミリィ。シドの体を冷やさないようにと、ミリィは彼とともに横たわって優しく抱擁した。
(シドさんの鼓動が伝わってくる・・いつも刺々しいシドさんの感じが、今は穏やかになっているような・・・)
ミリィもシドの心が伝わってきている気がして、戸惑いを膨らませていく。
(私、自分で思っている以上に、シドさんのことを・・・)
自分の気持ちを確かめようとしながら、ミリィはシドと眠りについた。
ギギとアロンたちはハントの指示により、町から撤退した。アークは1人でシドたちを捜していた。
「どこに逃げた!?・・必ず見つけ出してやるぞ・・・!」
必ずシドを見つけ出そうと、血眼になるアーク。彼はさらに海岸を捜し回った。
シドとミリィの行方が分からなくなり、アルマとレイラが捜索を続けていた。しかしシドたちの反応をつかむことができない。
「2人はどうしてしまったのでしょう!?・・メフィストにやられてしまったことは・・・」
シーマが最悪の事態を予想して、不安を口にする。
「反応がないのは、レーダーが捉えられない位置にいるのもある。いつレーダーが反応するか分からない。目を離すな。」
「り、了解!」
ハントが呼びかけて、アルマが答えてレイラとともにレーダーを注視する。
「隊長、シドさんとミリィさんは・・!?」
テルがエリィとともにやってきて、ハントに声を掛けてきた。
「まだ見つかってはいない・・2人がやられるとは思えないが・・・!」
ハントが声を振り絞るように答えて、テルが困惑を覚える。
「オレも、オーガが出せたら・・・!」
「今からでは間に合わない。どんな荒療治でも・・」
力を求めるテルを、ハントがなだめる。
「シドさん・・ミリィさん・・・!」
シドたちを心配するテルが、いても立ってもいられなくなっていた。
シドとミリィが洞窟に隠れてから一夜が過ぎた。シドが先に眠りから目を覚ました。
「体の痛みはほとんど感じない・・傷がふさがってきているのか・・・」
体を起こしたシドが、両手を握ったり開いたりして自分の状態を確かめる。右肩を含めた彼の体の傷はふさがりつつあった。
「これなら痛みで苦しむことはない・・今度こそ、あのメフィストの2人を倒す・・・!」
アークだけでなくインバスにも怒りの矛先を向けていたシド。
「シ・・シドさん・・・」
ミリィも目を覚まして、起き上がってシドに目を向けた。
「少し、落ち着いたみたいですね・・」
「そうみたいだ・・この程度の痛みなら、十分耐えられる・・・」
ミリィが安心を見せて、シドが落ち着いたまま答える。
「オレは戦う・・今度こそ、あのメフィストにとどめを刺す・・・!」
シドがアークへの憎悪を胸に秘めて、外へ向かおうとする。
「待って、シド・・・!」
「また止めようとするなら容赦しないぞ・・昨日は傷を負っていたが、今度はそうはいかない・・・!」
呼び止めるミリィに、シドが鋭い視線を向ける。
「いいえ・・あなたが戦うのを止めるわけじゃない・・ムチャしても何にもならない戦いを止めただけ・・・」
ミリィが自分の考えをシドに伝える。
「もしももう1人のあのメフィストが出てきたら、私が食い止めます・・」
「お前・・・」
インバスを食い止めることを告げるミリィに、シドが戸惑いを見せる。
「分かった・・オレはアイツを確実に仕留める・・・!」
「私はあの女のメフィストを・・・」
自分たちの戦う相手を確かめて、シドとミリィが頷き合った。2人は洞窟から海岸に出てきた。
シドは目を閉じて感覚を研ぎ澄ませて、アークたちの気配を探る。
「この近くにいる・・オレたちを捜して動き回っているのか・・それなら好都合だ・・・!」
アークの気配を感じ取り、シドが笑みを浮かべた。
「オーガ!」
シドがオーガを呼び出して、その中に入った。融合した彼が自分の感覚を確かめていく。
「思うように動くし、体におかしい感じもしない・・問題なく戦える・・・!」
シドが戦いに支障はないと確信して、背中から翼を広げて飛び上がる。
(今でも戦うのが怖い・・でも、私には守りたいものがあるから、そのために戦う・・・!)
「オーガ!」
ミリィも改めて決意をして、自分のオーガを呼び出した。
(もう1度、オーガと1つに・・・!)
ミリィが集中力を高めて、オーガの中に入った。
「強い力・・あのアポストルが出たか・・・!」
アークがシドたちの気配を感じ取り、笑みを浮かべてその場所へ向かう。洞窟の前で、シドとミリィがアークを待ち構えていた。
「生きていたか、グリムリーパー!ならば私の手に掛かり、地獄へ落ちるがいい!」
アークが笑い声を上げて、シドに向かって急降下した。
「地獄に落ちるのはお前のほうだ・・メフィスト・・・!」
シドが目つきを鋭くして、飛翔してアークを迎え撃つ。2人が同時に拳を繰り出し、激しくぶつけ合う。
「うぐっ!」
シドの力に押されて、アークが突き飛ばされた。
「力が戻っている・・傷が癒えたというのか・・!?」
アークが毒づき、具現化した剣を手にした。
「だが私に命を奪われることに変わりはない・・我が剣の錆となれ!」
アークがシドに向かって急降下する。彼が振りかざした剣を、シドも剣を出してぶつけ合う。
「私の全力の足元にも及ばん、お前たちはな!」
「その思い上がりごと、お前たちを叩き潰す!」
高らかに言い放つアークに対する怒りを強めていくシド。
(オレは力をつかむ・・力を上げていく・・敵を倒すために・・・オレの生き方は、それだけだ・・!)
自分の意思を貫こうとするシド。彼の体とオーガから光があふれ出す。
「な、何だ、これは!?」
シドの変化にアークが驚きを覚える。シドから出ている光が強まり、肘と頭から棘と角が生えてきた。
「その姿・・貴様、まさか・・!?」
より悪魔的な風貌となったシドに、アークが緊張を覚える。
オーガの中にいるシドにも変化が起こっていた。衣服を着ていたはずの彼が、全裸になっていた。
「な、何っ!?・・オレは、どうなっているんだ・・・!?」
自分自身の変化に、シドは驚きを感じずにいられなかった。
「か、下等な種族がこんなこと・・私は認めんぞ!」
アークが憤りをむき出しにして、シドに向けて剣を振りかざす。シドも剣を振りかざして、アークに一閃を繰り出した。
アークの剣の刀身が折れた。その直後、アークの体に深い切り傷が刻まれた。
「がはぁっ!」
アークが鮮血をまき散らして絶叫を上げる。彼が力尽きて、前のめりに倒れた。
「この私が・・お前などに敗れるなど・・あり得ない・・・!」
アークが声を振り絞り、シドに目を向ける。
「あり得なくはない・・お前たちを倒さなければ、オレは前に進めない・・・!」
シドが鋭く告げて、剣を振り上げた。
「私は死ぬつもりはない・・お前たちなどに殺されるほど、下劣ではない・・・!」
「いや、お前たちは下劣だ・・何もかもが自分のものだと思い上がっている時点で!」
抗おうとするアークに怒号を放ち、シドが剣を振り下ろす。剣がアークの体に突き刺さり、さらに血をまき散らした。
アークが命を落として動かなくなった。彼の体が霧のように消えていった。
「また、メフィストを1人倒した・・しかしまだ、メフィストはまだいる・・・!」
アークを倒したことを喜ぶことなく、シドはメフィストへの憎悪を抱えていた。
「シドさん・・・」
シドの後ろ姿を見つめて、ミリィは戸惑いを感じていた。
アークが倒されたことにインバスが、そしてディアスとイフェルが気付いた。
「アークが倒されるとはね・・」
「調子に乗る性格だったけど、アポストルに倒されるとは・・・」
インバスとイフェルがシドの勝利に驚きを感じていた。
「もしかしたら、そのアポストルは覚醒したのかもしれない・・」
ディアスがシドについて推測していく。
「覚醒?」
「そのアポストルはオーガと融合している。その状態でさらに力を増したなら・・」
イフェルが疑問符を浮かべて、ディアスが語りかける。
「どうやら、私たちも出向く必要があるようだ・・」
シドたちの打倒のために動くことを決めたディアス。彼は顔から笑みを消して、真剣な面持ちを浮かべていた。
一方。イフェルがディアスを見て、高揚感を感じて微笑んでいた。