Ogre SID
-死を背負いし剣-
第8話「同調 –魔と剣の一心同体-」
シドたちもハントとシーマから、オーガについて聞かされていた。オーガの死がアポストルの心の死を意味することを、ハントたちは知っていた。
「オーガがやられたら、オレたちは死んだも同然になってしまうのかよ・・!?」
アロンがオーガの話を聞いて、愕然となる。
「何で教えてくれなかったんだよ・・そんな大事なことを!」
「あなたたちの戦う意思に水を差すのは非効率的という判断です。早いうちにこの事実を知れば、心身が強くなっていないのも相まって、戦いから逃げるという判断をするリスクが高かったので・・」
アロンに詰め寄られたシーマが、冷静さを保ったまま答える。
「フン。このような力を持って、何のリスクもないのはおかしいとは思っちゃいなかったけど、こういうことになってたとはな・・」
ギギが不快感を感じながら言いかける。
「それが分かったからって、オレがメフィストを狩ることは変わんねぇ・・オーガがやられなきゃいいんだからな・・」
「オレも同じ考えだ・・メフィストはこの手で倒すだけだ・・そしてオレも死なない・・・!」
ギギに続いてシドも自分の考えを口にする。
「だとしても、あのメフィストにどうやって勝つんだよ!?・・アイツ、メチャクチャ強いのに・・!」
アロンが動揺を膨らませて声を荒げる。
「どんなヤツだろうが関係ない・・メフィストは1人残らず、オレが倒す・・・!」
シドはメフィストへの憎悪を募らせて、ギギたちの前から去っていく。
「シドはどんなことになっても、相変わらずのようだ・・」
シドの言動に気が滅入り、ハントがため息をつく。
「とにかく、このことを黙っていたことは済まないと思っている・・」
「そのことは気にしなくていいぜ、ハント。シドと同じ考えなのは癪だが、オレが獲物をしとめることに変わりはねぇからな・・!」
謝罪するハントに、ギギが自分の考えを告げる。
「オレは気が進まないなぁ・・オーガがやられたら廃人になっちまうんだからなぁ・・・」
アロンは気まずくなったまま、大きく肩を落とす。
「腰が抜けたヤツは出てくんな!オレだけでもやるぞ!」
ギギがアロンに怒鳴ってから、指令室から去っていった。
「今の1番の問題は、あのメフィストだ。シドやギギでさえも、ヤツの力に及ばない・・」
「・・1つだけ、可能性があります・・」
呟くハントに、シーマが提案を投げかけてきた。
「1つだけ・・まさか、あの手のことを言っているのか・・?」
ハントが聞くと、シーマが小さく頷いた。
「確かにアレなら対抗できるだろう。しかし簡単に成功できるものではないし、できたとしても負担が増すことになる・・」
「しかしシドたちなら構わないだろう。オーガの死について聞かされても、戦う意思を曲げないのだから・・」
語りかけるシーマに、ハントが答える。シドたちならどのような危険でもためらわないと、2人は確信していた。
ヒビキのオーガを討ったアークは、満足げにインバスの前に戻ってきた。
「すっかり楽しんでいるわね、アーク。」
「あぁ。この調子でどんどん獲物を仕留めていくぞ。」
声を掛けてきたインバスに、アークが笑みを見せる。
「しかしいつまでもお前の独壇場になると思ったら大間違いだぞ。」
そこへ声がかかり、アークが顔から笑みを消す。彼らの前に2人の男女が現れた。
「ディアス、イフェル、お前たちも来ていたか。」
「あぁ。そろそろオレも、体を動かしたくなってな・・」
アークが言いかけて、男、ディアスが答える。
「インバスは慎重ね。狩りはあまり好きじゃないのかしら?」
「グリムリーパーのアポストルとオーガ、これから何か仕掛けてくるじゃないかと思ってね・・」
女、イフェルがからかってくるが、インバスは悠然としたまま答えた。
「私もそう思っているわ。それまで待ってようと思って、そろそろかなって・・」
「だからアーク、獲物を独り占めしたいと考えているなら、次で全滅させておいたほうがいいぞ。」
イフェルが頷いて、ディアスがアークに注意を投げかける。
「そんな挑発をしてもいいのか?本当に独り占めしてしまうぞ?」
「それならそれでもいいさ。邪魔者が消えればいいと思っているのは、お互い同じだからな。」
笑い声を上げるアークに、ディアスが悠然と答える。
「その余裕が後悔に変わるのを見に戻ってくるぞ、ディアス。」
アークがあざ笑ってから、ディアスたちの前から去った。
「アークは自信過剰なところがあるからね。調子に乗って不意打ちを食らう可能性も否定できないわね・・」
「それでやられるようなら、ヤツはその程度ということだ。」
イフェルとディアスがアークのことを言って笑みをこぼす。
「私は近くで見させてもらうわ。あなたたちのその悪い予感が当たるかどうかも、確かめさせてもらうわね・・」
インバスがディアスたちに告げて、アークを追っていった。
再びメイストが現れたという情報が、グレイブヤードに伝わった。
「アポストルは出撃!メフィストを殲滅しろ!」
「ハントさん、それが・・・」
命令を下すハントに、アルマが口ごもる。
「どうした・・・!?」
「出撃したのは、シドとギギたち数人で・・ミリィとアロン、ラミアがグレイブヤードに留まっています・・!」
問いかけるハントに、アルマが報告をする。
「オーガについて知って、恐怖に囚われてしまったのでは・・!」
「しかもあのメフィストの力も思い知らされているしな・・」
シーマとハントがミリィたちの心境を察して、緊張を膨らませる。
「緊急時が来るまで、ミリィたちは待機させる・・!」
「しかし、それではシドたちが危険に・・!」
「シドたちが今ここでやられるわけには・・!」
ハントの指示にアルマだけでなく、レイラも動揺を見せる。
「そうさせないために、戦力を一気に投入するのを避けなければ・・・」
最善手を模索するハントに、アルマとレイラはこれ以上の言葉が出てこなくなった。
シドたちをおびき出すために、アークは抵抗勢力が潜んでいると思しき町に来て、攻撃を仕掛けていた。
「お、お待ちください!なぜこのようなことを・・!?」
「私たちは、あなた方に逆らう意思はありません!」
逃げ惑う人々がアークに助けを請う。
「ここに反逆者がいるのは分かっている。不届き者を見逃している時点で、お前たちも同罪だ。」
アークが彼らを見下ろしてあざ笑う。
「そんな・・お待ちを!すぐに反逆者を捜して、こちらへ・・!」
人々が慌てて反逆者を連れ出そうとした。
「もう手遅れだ・・」
アークが笑みをこぼして、背中の翼をはばたかせた。
「うわあっ!」
人々が突風にあおられて、地面や建物の壁に叩きつけられた。
(反逆者の討伐は建前だ。これもグリムリーパーをおびき出すためだ・・)
アークが心の中で呟く。シドたちをおびき出すことを考えていたアークは、反逆者の有無や真偽を気にしてはいなかった。
「性懲りなく来たか、ヤツら・・」
アークが気配を感じて振り向いた。シドとギギがオーガに乗って、アークの前に駆けつけてきた。
「あれだけの力の差を見せつけられても、私に挑んでくるとは・・これは勇気ではなく無謀というものだ・・」
アークがシドたちを見てあざ笑ってくる。
「お前たちメフィストを滅ぼすまでは、オレは死なない・・!」
「大物を仕留めたほうが、狩りが面白くなるってもんだ!何があってもビクビクしてられるかよ!」
シドが鋭く告げて、ギギが自分の野心を見せる。
「やはり死ななければ分からない愚か者どもだな・・お前たち2人を始末し、他のアポストルたちも引きずり出すぞ。」
アークはため息をついてから、シドとギギのオーガに向けて、右手を振りかざして光の刃を飛ばした。ギギのオーガが斧を手にして、振りかざして光の刃を弾いた。
シドのオーガも剣を手にして、アークに飛びかかる。オーガが剣を突き出すが、アークは軽々とかわした。
「逃げるな!」
シドが怒号を放ち、オーガが追撃を仕掛ける。しかしオーガがアークに右腕をつかまれて、動きを押さえられる。
「お前のような下等な存在に従う必要は、私にはない。私に従う必要は、お前たちにはあるがな。」
「どこまでも思い上がって・・お前たちがいるから、全てがおかしくなる!」
さらに笑うアークに、シドが怒りを膨らませていく。オーガが力を込めて押し返そうとするが、アークの手を振り払うことができない。
アークが腕を引っ張り、オーガを振り回す。オーガが地面に叩きつけられるが、シドは痛みや違和感を感じない。
(オレ自身は、今のところは何も感じない・・倒されない限り、オレは無事ということか・・・)
シドが自分の状態を確かめる。オーガが倒されなければ自分は何ともないと、彼は確信した。
(何にしても、オレがメフィストを滅ぼすことに変わりはない・・オレから全てを奪ったアイツらを倒すことに・・・!)
シドがアークへの憎悪を募らせて、オーガが立ち上がる。
「この前のヤツのように、お前もオーガの死を体感するがよい。」
アークが低い声で告げて、剣を手にしてオーガに向かっていく。
「待て!てめぇの相手はオレだろうが!」
ギギがアークに向かって言い放ち、彼のオーガが斧を構える。
「お前など相手ではない。」
アークはシドのアークに目を向けたまま、ギギのアークに左手を向けて、指を動かして光の刃を飛ばす。ギギのオーガが体を切りつけられて、体勢を崩す。
「おのれ、メフィストのヤロー・・!」
思うようにオーガを動かせなくなり、ギギがいら立ちを膨らませる。
「グリムリーパーの中で最強の力を持つお前でさえ、私には遠く及ばない。これではお前たちに万に1つの勝ち目もない・・」
アークが呟きながら、シドのオーガに近づいていく。
シドのオーガが力を込めて剣を突き出す。しかしアークが掲げた剣に、オーガの剣が止められる。
「消えろ・・」
アークは剣を押し込んで、シドのオーガの体を切りつけた。オーガがふらついて、シドのそばに倒れた。
「これでとどめだ。この前のオーガのように、この剣で貫いてくれる。」
アークが剣を振り上げて、シドのオーガを貫こうとする。
(オレは死ぬわけにいかない・・メフィストがまだのさばっているのに、倒れるわけにいかない・・・!)
シドが生きる意思とメフィストへの怒りを募らせていく。
(絶対に死んでたまるか!)
激高したそのとき、シドが自身のオーガの中に入り込んだ。アークが突き出した剣が、オーガが振りかざした剣にはねのけられた。
「何っ・・!?」
反撃されたことに驚くアーク。彼がオーガに向かって、再び剣を振りかざす。
オーガが素早く動いて、アークの剣をかわした。
「偶然が何度も起こることはない・・・!」
アークがいら立ちを覚えて、また剣を振り上げた。だがその腕をオーガにつかまれた。
「ぐ・・ぐぬっ・・!」
アークがうでを押さえられて、驚愕を感じてうめく。
「バカな!?・・いつの間に、このような力を・・!?」
高まっていくオーガの力に、アークが驚きを隠せなくなる。
「オレはメフィストを倒す・・お前も、他のヤツも・・・!」
シドの声がアークに伝わる。その声が発せられたのは、彼のオーガからだった。
「お前、オーガと一体化したのか!?お前のようなヤツが、融合を果たすなど!?」
オーガと一体となったシドに、アークが声を張り上げる。シドの入ったオーガは、外見に変化はないが戦闘力が格段に上がっていた。
「シド、お前・・オーガの中に入っちまったのかよ・・!?」
ギギも今のシドに驚きを感じていた。
「だが、たとえ融合を果たしても、その力を完全に使いこなすまでには至らない・・今度こそとどめを刺してくれる!」
アークが声を荒げて、左手を振りかざして光の刃を放つ。
「ぐっ!」
オーガの体に傷が付いて、中にいるシドにも同じ傷が付いた。
(オレ自身にも、オーガと同じダメージが・・!?)
自分の体に起きたことに、シドが違和感を覚える。
(オーガの中に入ると力が増すが、オーガの受けたダメージをオレも受けるようになるのか・・・!)
オーガとの融合について推測して、今の自分の状態を確かめるシド。
(だがそんなことは関係ない・・メフィストを倒すことに、変わりはない・・!)
シドは敵意を強めて、つかんでいるアークの腕を引っ張る。
「うおっ!」
アークが振り回されて、地面に叩きつけられた。
「おのれ・・下等な種族の分際で、この私に傷をつけるなど・・!」
立ち上がったアークが、シドに対していら立ちを募らせる。
「その体を貫き、私の剣の錆にしてくれる!」
アークが言い放ち、背中の翼をはばたかせて突風を放つ。シドは突風を受けても押されることなく、前進をしていく。
アークが上空に飛翔して、シドに向かって急降下して剣を突き出す。シドが紙一重でかわして、アークに向けて剣を突き出した。
「ぐあぁっ!」
アークが左の翼を切り裂かれて、激痛を覚えて絶叫する。
「私の・・私の翼が!」
アークが地面に膝を付いて、痛みで顔を歪める。
「もう終わりだ・・お前の思い上がりも・・・!」
シドが鋭く言って、剣を振り上げた。
「お前などに殺される私ではない・・・!」
アークがシドに鋭い視線を向けてから、残った右の翼をはばたかせて、空へ飛び上がった。アークはふらつきながら離れていく。
「逃げるな!」
シドがアークを追いかけようと、翼をはばたかせた。
そのとき、シドの眼前に1つの光が飛び込み、土煙が舞い上がった。
「くっ!何だっ!・・・こんなときに・・・!」
視界が遮られてアークを見失い、シドが毒づく。彼が強引に土煙を突き抜けたが、アークの姿は見えなくなっていた。
「次に会ったら、今度こそ倒す・・・オレの邪魔をしてきたヤツも・・・!」
シドがアークだけでなく、邪魔をした相手にも憎悪を募らせていた。
「シド・・とんでもないパワーを持ちやがって・・・!」
シドの覚醒した力に、ギギが脅威といら立ちを噛みしめていた。シドがオーガから出てきて、オーガのそばに着地した。
「オーガの中に入れた・・1つになることで、力が増した・・戦いのリスクが増しただろうが、これでメフィストを倒せる・・・!」
オーガの力と手応えを実感して、シドが笑みを浮かべた。彼は自分のオーガの手の上に乗って、この場を去った。
「アイツにできて、オレにできねぇことはねぇ・・いつかオレも、オーガと合体してやるぞ・・・!」
ギギがそんなシドへの対抗心を燃やして、続いてグレイブヤードに戻っていった。
シドの戦いと覚醒を、ハントたちもモニターで見ていた。
「ハント様、シドがオーガとの融合を・・・!」
「シドなら、あの融合を成功させられると思っていた。それだけの力と感情の強さを持っていたからな・・」
息をのむシーマに、ハントが冷静に答える。
「しかしまだ現時点で、シドは融合の力を完全にコントロールしているわけではない。時期にアイツは慣れることだろうが・・」
ハントはシドの伸びしろがまだあることも考えていた。
「我々の本当の戦いはこれからだ・・」
グリムリーパーとメフィストの戦いは、新たな局面を迎えていた。