Ogre SID

-死を背負いし剣-

第7話「代償 –魔の剣のリスク-

 

 

 エスポランス家の崩壊を耳にして、ハントもシーマも深刻さを感じていた。

「メフィストは、世界を支える資産家さえも掌握状態にあるのか・・」

「他の資産家も各国の首脳陣も、メフィストの強大な力の前に、屈服以外の選択を選べなかったのです。それに対する本意の是非は分かりませんが・・」

 吐息をもらすハントに、シーマが落ちつきを払って答える。

「世界を解放するには、メフィストを滅ぼす以外にない。ヤツらには対話や交渉は通じない。」

「シドさんやギギさんたちは問題ないでしょうけど、ミリィさんは・・」

「あぁ・・彼女も、この戦いの厳しさを思い知ることになるな・・」

 ハントと言葉を交わして、シーマは表情を曇らせた。

「そして、あのことについて、みんなも知ることになるな・・」

「この前の戦いを考えれば、その可能性が高いですね・・」

 ハントとシーマが深刻さを募らせる。2人はシドたちに話していないことを知っていた。

 

 メフィストへの反乱分子を見つけたアークは、その拠点となる村に来ていた。

(人目に付かないところに隠れるのが、敵や悪者の典型か・・)

 アークが村を見渡してため息をつく。

「呪うなら、愚か者を忍ばせた己の愚かさを呪うのだな。」

 アークが笑みを浮かべると、メフィストの姿へと変化を遂げた。

「まずはグリムリーパーを引きずり出す・・ここにいるヤツらを地獄に落としながらな・・・!」

 アークが右手を振りかざして、光の刃を放って地面や木々を削っていく。

「メフィストが攻撃してきた!」

「早く逃げないと!」

 村の人々が悲鳴を上げて、アークから逃げ出していく。

「愚かな人間たちよ、誰が逃亡を許可した?」

 アークが呟いて、逃げていく人々を狙って、背中の翼をはばたかせて突風を起こした。

「うわあっ!」

 人々が突風にあおられて、次々に転んで倒れていく。

「ここに我らへの謀反を企む輩が隠れているはずだ。どこにいる?」

 アークが人々に追いついて問い詰める。

「む、謀反!?そんな不届きな者は知りません!」

「もしもそのようなのがいたら、政府にでも通報していますよ!」

 人々が慌ててアークに答える。

「フン。シラを切っているようには見えん。本当に知らんようだな・・」

 アークが呟いて、人々が安心しかけた。

「では我らの敵を今から捜せ。ここに潜んでいることは分かっている。その人物を見つけて、私の前に連れてこい。」

 アークの出した命令に、人々の表情が再び凍りつく。

「し、しかし・・・!」

「少なくとも隠れ家ぐらいは見つけ出せるだろう・・見つけられなければ、お前たちの命もない。」

 不安を浮かべる人々に忠告するアーク。恐怖に駆られた人々は、反逆者を捜しに走り出した。

「そうだ、動け。お前たちは我らのために動けばいいのだ。」

 アークが人々を見下して、不敵な笑みをこぼしていた。

 

「メフィストが現れました!先日現れたメフィストです!

 レイラがアークの出現をハントたちに報告する。

「シドたちが既に出撃しました!」

「敵の力は他のメフィストを大きく超えている・・無闇な攻防を避けるように伝えろ・・!」

 アルマが続けて報告して、ハントが指示を出す。

(しかし簡単には止まりはしないだろう・・特にシドは・・・)

 シドの同行を危惧して、ハントはシーマとともに深刻さを募らせていた。

 

 各々のオーガに乗って、ギギたちが村にたどり着いた。彼らは村の中心にいるアークを目撃した。

「アイツ・・今度はオレが相手になってやるぜ・・・!」

 ギギがいら立ちを浮かべて、自分のオーガとともにアークに向かっていく。

「ギギ・・さすがにちょっと相手を侮りすぎなんじゃ・・・!?

 アロンがギギを心配して、動揺を隠せなくなる。

「オレたちも援護に行かなくちゃ・・!」

「でもあのメフィストに勝てるかどうか・・あたしたちが束になっても・・・」

 ギギに加勢しようとするアロンだが、ラミアが不安を浮かべている。

「メフィストはオレが滅ぼす・・そいつがどれだけの力があろうが、倒すだけだ・・・!」

 シドが低い声音で言いかけて、アークに向かっていく。

「相変わらずシドくんは止まらないねぇ・・」

 ヒビキがシドを見届けて、苦笑いを浮かべる。

「私たちも行って、シドさんたちをサポートしないと・・・」

 ミリィがシドたちを心配して、彼らを追いかけていった。

「ミリィちゃん・・ミリィちゃんのほうが心配になってきちゃったよ・・」

「ミリィちゃんだけでも、今度こそ連れ戻さなくちゃ・・」

 ラミアが動揺を見せて、ヒビキも彼女とともにミリィを追いかけていった。

 

 村人たちが反逆者を慌てて捜し回るのを見て、アークは笑みをこぼしていた。

(人間たちの錯乱して惑う様もまた面白い。愚かさがそこでも垣間見える。)

 人々の慌てふためく様子を、アークはあざ笑っていた。

「メフィスト!」

 そこへギギがオーガとともに駆けつけて、アークが目を向けた。

「またお前たちか、グリムリーパー。また私に挑むつもりか?」

「今度はオレが相手だ!オレはシドのようにはいかないぜ!」

 問いかけてくるアークに、ギギが強気に言い放つ。

「身の程知らずが・・私に逆らった罪を償うのだな・・」

 アークはため息をつくと、ギギに向かって右手を振りかざして光の刃を飛び出してきた。ギギのオーガが素早く動いて、斧を具現化して手にした。

 オーガがアークに飛びかかり、斧を振り下ろす。

「無礼者が・・」

 アークがため息をついて、剣を手にして斧を受け止めた。

「何だとっ!?

 ギギが驚愕して、オーガが斧に力を込める。しかしアークの剣は全く動かない。

「やれやれ。これでは指でつまんでも止められるな。」

 アークがため息をついてから剣を押して斧を突き放した。

「ぐおっ!」

 押されたギギがうめく、オーガがアークが続けて振った剣に左腕を切りつけられた。

「やってくれたな・・けどな、オーガが傷ついても、オレにはダメージはねぇぜ!」

 いら立ちを見せるも、ギギはすぐに笑みを取り戻した。

「ダメージがない、か・・その強がりがいつまで持つかな?」

 アークがまたため息をついてから、ギギに近づいていく。

「お前の相手はオレだ・・!」

 そこへシドがオーガとともに現れて、アークに声を掛けてきた。

「お前も来たか・・私との力の差を思い知ったのではなかったか?」

「オレはメフィストを滅ぼす・・お前も他のヤツも野放しにはしない・・・!」

 あざ笑うアークに、シドが鋭い視線を向ける。

「どこまでも愚かしいことだ・・死ななければ理解しないようだ・・・」

 アークがため息をついてから、剣を構えてシドのオーガと対峙する。

「待て!貴様の相手はこのオレだぞ!」

 ギギが怒鳴り声を上げて、彼のオーガがアークに向かってくる。

「お前などもはや相手ではない。」

 アークがギギのオーガに振り返ると同時に、翼をはばたかせて突風を起こした。

「うあっ!」

 ギギがオーガとともに突風にあおられて、再び突き飛ばされた。

「まずはお前から葬る。お前の愚かさ、死をもって償ってもらう。」

「愚かなのはお前たちだ・・何もかも自分の思い通りになると思うな・・・!」

 微笑みかけるアークに、シドが鋭く言い返す。

 シドのオーガが飛びかかり、具現化した剣を手にして振りかざす。しかしアークの掲げた剣に軽々と防がれる。

「これだけの力の差も理解しようとしない・・滑稽だな・・」

 アークは肩を落としてから、左手でオーガの顔面をわしづかみにした。シドが集中力を高めて、オーガがアークの手を押し返そうとする。

「ムダだ・・」

 アークが左手に力を込めて、オーガの頭を地面に押し付けた。

「コイツ・・!」

「すぐに息の根を止める。お前と言葉を交わすのも屈辱だ・・」

 いら立ちを浮かべるシドに、アークが冷たく告げる。

「私の前から消えろ、ザコども・・」

 アークが剣を振り上げて、シドのオーガ目がけて振り下ろそうとした。次の瞬間、アークの動きが突然止まった。

「また小賢しいマネをしてくるか・・天使の姿をしたオーガ・・・」

 アークが視線を移して、念力を発して動きを止めているミリィのオーガを目にした。

「シドさんを傷付けさせはしません・・!」

「私を他のメフィストと一緒にしてもらっては困る・・・」

 声を振り絞るミリィに、アークがため息をつく。彼が体に力を入れて、ミリィのオーガの念力をはねのけた。

「通じない・・止められないの・・・!?

 アークに力を破られて、ミリィが動揺を覚える。

「どの道、お前たちも我々に葬られる運命だ。おとなしくその時を待っていれば、楽に済ませてやるぞ。」

「葬られるのはお前のほうだ・・!」

 笑みをこぼすアークに、シドが言い返す。彼のオーガが左手を伸ばして、アークの顔面をわしづかみにして押し返す。

「その汚い手で私に触れるな・・・!」

 アークが冷たく告げて、左手でオーガの左腕をつかんでへし曲げていく。

「それでオレが止まりはしないぞ!」

 シドが怒鳴り声を上げて、強引にアークの左腕をつかみ返す。

「やはりメフィストになり切れない下等生物では、この程度か・・」

「何だと・・!?

 アークの呟きを聞いて、シドが目つきを鋭くする。

「もういい・・この世から消えるがいい・・」

 アークが冷たく言って、つかまれている腕を振りかざして、オーガを地面に叩きつけた。

「うあっ!」

 オーガが倒れた衝撃に押されて、シドが地面を転がる。

「消えるがいい・・」

「やめて!」

 シドのオーガにとどめを刺そうとしたアークを、ミリィのオーガが再び念力で止めた。

「シドさん、今のうちに体勢を・・!」

「余計なマネを・・・!」

 呼びかけるミリィにシドが毒づく。

「この隙に、みんなであのメフィストを倒すしかないよ!」

 ヒビキが呼びかけて、ラミアとともにオーガを向かわせる。ヒビキのオーガが右手を振りかざして、アークに爪を突き立てた。

「無防備の私に傷を負わすこともできぬほどの弱さ・・実に醜い・・」

 アークがため息をついてから、右手を振りかざして光の刃を放った。ヒビキのオーガが刃で体を切りつけられて突き飛ばされる。

「お姉ちゃん!」

 ラミアが叫び、彼女のオーガが銃を具現化して連射する。アークは翼をはばたかせて突風を起こし、弾丸を止めて弾き飛ばした。

「ハエどもが群がってきて・・不愉快なことだ・・・」

 アークがさらに突風を起こして、ヒビキとラミアのオーガを押していく。

「私たちがそろっても、全然敵わないなんて・・・!」

 アークの力を痛感して、ミリィが緊張を膨らませていく。

「では、そのオーガを始末させてもらうぞ・・」

 シドのオーガに目を向けて、アークが剣を構えた。

「やらせない!」

 ラミアが立ち上がって、彼女のオーガが再び銃で射撃する。アークは簡単にかわして、オーガに視線を移す。

「そんなに死に急ぎたいか・・」

 アークがラミアのオーガに狙いを変えて、左手を振りかざして光の刃を飛ばした。ラミアのオーガが切りつけられて、さらにラミアのそばの地面を削った。

「キャッ!」

「ラミア!」

 倒れたラミアにヒビキが叫ぶ。ヒビキが集中力を高めて、オーガをアークに向かわせる。

 ヒビキのオーガが連続で爪を振りかざすが、アークに軽々と剣で防がれる。

「ラミア、今のうちに体勢を整えて・・!」

 ヒビキがラミアに向けて呼びかけたときだった。ヒビキのオーガの体を、アークが突き出した剣が貫いた。

「しまった・・!」

 オーガがやられたことに、ヒビキが驚愕する。アークが笑みをこぼして、剣を振り上げてオーガの体を切り裂いた。

 ヒビキのオーガが力尽きて、ゆっくりと地面に倒れた。その体が光の粒子になって消えていく。

「まずは1人・・呆気ないものだ・・」

 アークが微笑んで、ヒビキたちに背を向けた。

「やられた・・私のオーガが・・・!?

 ヒビキが驚きを隠せなくなり、その場に膝を付く。

「お姉ちゃん!」

 ラミアが悲痛の叫びを上げて、ヒビキに駆け寄る。

「お姉ちゃん、大丈夫!?お姉ちゃん!」

「ラミア・・・」

 呼びかけてくるラミアに、ヒビキが動揺しながら答えた。

 そのとき、ヒビキが突然意識を失って倒れた。

「お、お姉ちゃん!?

 ラミアがヒビキの異変に目を見開く。

「お姉ちゃん、どうしたの!?しっかりして、お姉ちゃん!」

 ラミアが呼びかけるが、ヒビキは反応しない。

「お姉ちゃん!意識を取り戻して、お姉ちゃん!」

 ラミアがゆすったりするが、それでもヒビキは答えない。

「今回はここまでだ。お前たち、己の力の正体と、我々に逆らうことの愚かさを思い知ることだな。」

 アークが笑い声を上げて、シドたちの前から姿を消した。

「くそっ!またアイツにしてやられた・・!」

 ギギがいら立ちを膨らませて、地面に拳を叩きつける。

「ギギ・・・!」

 悔しがる彼を見て、アロンが困惑する。

「ヒビキさん、どうしたのですか・・!?

 ミリィも近付いて、ヒビキを心配する。

「脈は動いている・・気絶しているみたいですが・・・」

 ミリィがヒビキの状態を確かめる。

「でも気が付かないなんて・・どうなってるの!?

 ラミアが困惑を深めて、体を震わせる。

「ヒビキさんを連れて、グレイブヤードに戻りましょう・・・!」

 ミリィが冷静になろうとしながら言いかけて、ラミアが頷いた。ミリィがオーガを動かして、ヒビキたちを乗せて飛翔した。

(アイツ・・今度こそ・・今度こそ叩き潰す・・・!)

 アークへの憎悪を募らせながら、シドもやむなく引き上げた。

 

 シドたちがグレイブヤードに戻り、ヒビキが医務室に運ばれた。彼女の状態を見て、医務官、テラム・ヒイラギが深刻な面持ちを浮かべた。

「ヒビキさん、オーガを倒されてしまったのですね・・?」

「は、はい・・」

 テラムが質問して、ミリィが動揺しながら答える。

「もうダメよ・・生命活動は続いているけど、精神は完全に壊れてしまったわ・・」

「精神が壊れたって・・どういうことですか・・・!?

 テラムの言葉にミリィが耳を疑う。

「オーガが倒されると、アポストルは精神を破壊されてしまうのよ・・」

 テラムがアポストルとオーガについて語りかける。

「オーガはアポストルの精神が具現化したもの。ただ攻撃を受けただけではダメージはないけど、倒されれば意識が完全になくなるのよ・・」

「そんな!?・・お姉ちゃんは、大丈夫ですよね!?・・お姉ちゃん、助かりますよね!?

 説明をしていくテラムに、ラミアが詰め寄る。

「・・もう助からないわ・・オーガを倒されたアポストルを復活させようと全力を尽くしているけど、回復した人は誰もいない・・」

 テラムが沈痛の面持ちで答える。この言葉に愕然となって、ラミアがその場に膝を付く。

「ウソだよ・・・お姉ちゃんが・・お姉ちゃんがこんなことになるなんて・・・!?

 今の出来事が信じられず、ラミアが自分を見失う。彼女が意識を失って、横に倒れてしまう。

「ラミアさん!」

 ミリィがラミアを支えて呼びかける。

「彼女は気絶しただけよ・・ショックが大きくて、そこが気がかりだけど・・・」

 テラムがラミアの容体を診て、不安を感じていく。ミリィとテラムがラミアをベッドの上に寝かせた。

「オーガの死は、オーガを操る私たちの心の死・・・」

 オーガの真実を知って、ミリィも驚愕と絶望を感じずにいられなくなっていた。

「このまま戦い続けたら、私も、心を失ってしまうかもしれない・・・」

 戦うことへの恐怖に駆り立てられて、ミリィが体を震わせる。

「ミリィ様、今はお休みになったほうがいいです・・ではテラムさん、失礼します・・」

 エリィがミリィを心配して、医務室から連れ出した。

「ミリィ様・・・」

 恐怖に駆られているミリィを目の当たりにして、エリィも不安の表情を浮かべていた。

 

 

 

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