Ogre SID

-死を背負いし剣-

第5話「暗躍 –魔に従う者-

 

 

 強大な力と強襲によって、メフィストは世界を支配した。各国の政府はメフィストに降伏し、今ではただの言いなりになっていた。

 そんな政府の耳にも、アポストルやグリムリーパーの動向は耳に入っていた。

「アポストル、グリムリーパー・・メフィストに反旗を翻すとは・・」

「彼らを脅かす抵抗勢力で最大なのはヤツらだろう・・!」

 政治家たちがグリムリーパーについて議論を交わしていく。

「追跡部隊を編成して、ヤツらのアジトを見つけなければ・・!」

「既に試みたが、オーガの動きが速くて、足だけでは追いつけない・・ジェット機を使おうとすれば、ヤツらに気付かれることになる・・!」

 グリムリーパーの討伐を考える政治家たちだが、その手立ても力もなく、苦悩を深めていく。

「何かいい策はないものか・・何か・・・!?

 彼らがいい方法も思いつかず、ついには話し合いが途切れた。

「姑息な作戦など無意味だ。我々の戦いにおいてはな。」

 政治家たちのいる議場に、1人の白髪の男が入ってきた。

「あなたはアーク様・・戻られていたのですね・・!」

 政治家の1人が男、アークに歩み寄り頭を下げる。

「今しがたね。反逆者が増えてきて、始末するのに参ったよ・・」

「申し訳ありません!我々の力が至らないばかりに!」

 アークが肩を落とすと、政治家が動揺を膨らませて深々と頭を下げた。

「人間の力ではこんなものだよ。メフィストに簡単に制圧されたのに、アポストルやオーガと張り合えるわけがない。」

 アークが投げかけたこの言葉に、政治家たちは返す言葉が出なかった。

「せいぜい、国民たちに反抗の意思を持たぬよう、しっかりと釘を刺しておくように。でなければ最悪、国全てが滅びることになる・・」

 アークは忠告を告げてから議場を後にした。その後しばらくしてから、政治家たちが糸の切れた操り人形のように、力なく座り込む。

「アポストルの討伐は、あの方々にお任せするしかないようだ・・」

「何もできず、アーク様たちのお助けもできないとは・・我らはなんと無力なのだ・・・!」

 政治家たちが何もできないことを痛感して悔しがる。

(しかしそれも仕方がないのかもしれない・・下手に力を持てば、メフィストに矛先を向けられることになる・・)

 彼らの中の1人が心の中で苦言を呈していた。

 

 村を襲撃したメフィストを倒したシドたちだが、ミリィは彼の言葉と態度に納得できず、深刻さを抱えていた。

「どうしたのですか、ミリィ様?・・向こうで何かあったのですか・・?」

 エリィが心配をするが、ミリィは気持ちの整理がついていない。

「まずは落ち着いてからのほうがよさそうですね・・少しお休みに・・」

 エリィがミリィを連れて、部屋に戻っていった。

「オレはシドのアニキのところに行ってるか・・アニキのそばにいれば、オーガを出せるようになるのが早くなる気がする・・!」

 テルが強くなろうと、シドを捜しにこの場を後にした。

 

「シドさんが・・そんなことを・・・」

 部屋に戻ったところでミリィから話を聞いて、エリィが困惑する。

「私もミリィ様もここに来て時間が少ないですが、正義の味方の考え方をしている人は少ないと思います・・メフィストを倒すことは共通していますが、誰もが自分のために戦っているように思えます・・」

「だから、周りに被害が出たとしても関係ないと・・」

 エリィがシドたちの言動について語って、ミリィが困惑を覚える。

「ハント隊長も、このことに賛同しているのでしょうか・・?」

「聞いてみましょう・・このままでは、グリムリーパーの言いなりになりかねないから・・」

 疑問を投げかけるエリィに頷いたミリィ。彼女はエリィとともに部屋を出て、ハントのところへ向かった。

 

 ハントはシーマとともに、ミリィからの質問を聞いた。ハントはシーマとともにため息をついてから、ミリィたちに答えた。

「我々グリムリーパーは、表向きは世界平和やメフィスト討伐を目的としている。しかしそのアポストル全員がその目的通りの考えを持っているわけではない。」

「共通しているのは、メフィストを倒すことだけです。その利害が一致してるので、私たちも彼らも異論はありません。」

 グリムリーパーのアポストルについて説明するハントとシーマ。2人の話を聞いて、ミリィとエリィが困惑を募らせていく。

「隊長たちとしては、何が目的なのですか?その表向き通りの目的なのですか・・?」

 ミリィが不安を抱えたまま、ハントに問いかける。

「私としてはそのつもりだ。だがそのために手段を選んでいる場合ではないことも自覚している。私利私欲に走るヤツでも、メフィストとの戦いに参加させる。我々グリムリーパーの存在を脅かすことがない限りは・・」

 ハントが自分の考えをミリィたちに告げる。

「今までにグリムリーパーを掌握しようと企んだアポストルはいました。その全員が、我々や他のアポストルによって処罰されることになったのです。」

 シーマが続けて説明をしていく。

「シドさんも、あなたたちに反抗したことがあるのですか・・・?」

「シドはグリムリーパーを支配するつもりはない。現時点で彼の行動が我々の危機を決定的にするまでには至っていない。」

 ミリィがさらに問いかけて、ハントが答える。

「彼の態度や行動に問題がありますが、彼がいなければ全滅が避けられなかった事態がありましたので・・」

「目的のために仕方なくシドさんを、ですか・・」

 シーマがさらに語って、エリィが深刻な面持ちを浮かべる。

「目的を果たすためなら、腑に落ちないことでも割り切ることも必要。エスぺランスの人間なら、そのことを十分理解しているはずだが・・」

 ハントのこの言葉を聞いて、ミリィが胸を締め付けられるような気分に襲われた。

「そう・・エスぺランスのために、私たちも苦渋の選択をいくつもしてきました・・みんなから悪いと思われることでも、必要悪として・・」」

「そういうことだ。君が何を理由にしてメフィストと戦うかは自由だが、ここにいる全員がそう思っているとは限らないことも、頭に入れておくんだ・・」

 以前の自分たちの行動を思い出すミリィに、ハントが注意を呼び掛けた。

「はい・・行きましょう、エリィ・・」

「ミリィ様・・・」

 小さく頷いてから去っていくミリィを、エリィが困惑しながら追っていった。

「ミリィさんの戦う意思が、弱くならなければいいのですが・・」

「彼女も戦いに駆り出されることになる。たとえ我々やシドたちが促さなくても、オーガという力が彼女自身を戦いに送り込むことになるのだから・・」

 心配を口にするシーマに、ハントが冷静のまま答える。

「ところで、テルの様子はどうだ?オーガの具現化にはまだ時間がかかるのか?」

「今も訓練を続けています。いつ覚醒するかは分からないですが・・」

 ハントがテルのことを聞いて、シーマが冷静に答える。

「ミリィさんのときは、ヒビキさんが強硬策を遂行したことで、オーガを覚醒させましたが・・」

「その荒療治を使うのもやむなしか・・」

 シーマがさらに説明して、ハントがため息まじりに答えた。

「メフィストが出現!これは、エスぺランス家の領地です!」

 そのとき、アルマがメフィスト出現をハントたちに知らせた。モニターにもメフィストの姿が映し出された。

「エスぺランス・・ミリィは出撃させるな。今回ばかりは私情を挟みかねないぞ・・!」

 ミリィが感情的になるのを懸念して、ハントがアルマたちに指示を出す。

「ミリィも他のメンバーと一緒に、現場に向かいました!」

 レイラがミリィの動向を捉えて、慌ただしく報告する。

「ヒビキとラミアに、ミリィを連れ戻すように伝えろ!」

「了解!・・ヒビキ、ラミア、ミリィを止めて!」

 ハントの指示を受けて、アルマがヒビキたちに呼びかけた。

 

「分かったわ・・私たちでミリィちゃんを連れ戻してくるよ・・!」

 ヒビキがアルマに答えて、ラミアとともにミリィに近寄った。

「ミリィちゃん、戻って!隊長からの命令だよ!」

「そうはいきません!メフィストが現れたのは、エスポランスの城の近く、城下町なのですから!」

 ヒビキが呼び止めるが、ミリィは引き返そうとしない。

「だからこそだよ!感情的になりすぎて、あなたが危険に巻き込まれることになるわ!」

「それでも行かないと・・あそこは、私の家なのです!」

 ヒビキが忠告するが、ミリィは聞かずに先を急ぐ。

「力ずくで連れ戻すしかないみたいだね・・ラミア、手伝って!」

「うんっ!私もオーガで!」

 ヒビキが覚悟を決めて、ラミアが集中力を高める。2人のオーガがジャンプして、ミリィのオーガの腕をつかんだ。

「うっ!」

 飛行中のオーガを引きずりおろされ、ミリィが地上に落とされる。彼女はさらにヒビキとラミアに腕を押さえられる。

「放して!早く行かないと家がメフィストに・・!」

「ここはシドくんたちに任せて!みんなならメフィストをやっつけられるって!」

 叫ぶミリィにラミアが呼びかける。

「放しなさい!」

 ミリィがさらに声を張り上げた瞬間、2体のオーガに取り押さえられていた彼女のオーガが突然消えた。直後に少し離れた場所に姿を現したことで、オーガは拘束から抜け出した。

「そんなふうに抜け出すなんて・・でもオーガだけ逃げ出せても、ミリィちゃんを捕まえてる限り・・!」

 ラミアが驚きながらも、ミリィを放すまいとする。

 そのとき、ラミアとヒビキが体を動かせなくなる。

「な、何・・!?

「体が動かない・・ミリィちゃんのオーガの力・・!?

 ラミアとヒビキがミリィのオーガの放つ念力に驚く。ヒビキたちのオーガも同じように動きを封じられていた。

「ゴメンなさい・・でも、どうしても行かなくてはならないの・・・!」

 ヒビキたちに謝ってから、ミリィは自分のオーガの手のひらの上に乗った。彼女のオーガが翼をはばたかせて、エスぺランス家へ急いだ。

 

 丘の上に城のようにそびえ立つエスぺランス家の屋敷。その下にある城下町が、メフィストに襲われていた。

「もう終わりだ・・もう私たちは助からない・・・!」

「殺される・・・助けて・・エスぺランス・・・!」

 逃げ惑う人々が、メフィストが放つ光線と爆発に巻き込まれていく。炎が広がる城下町に、シドたちがたどり着いた。

「メフィスト・・・オレたちをムチャクチャにして、それを悪いとも考えてないヤツら・・・許してたまるか・・・!」

 シドが怒りをあらわにして、彼のオーガが城下町に急降下していく。

「またあのヤロー・・オレたちもやるぞ!」

「分かった、ギギ!」

 ギギがいきり立ち、アロンとともにメフィストに向かっていく。他のアポストルたちも続いていく。

 シドのオーガが繰り出した拳が、メフィストの1体を殴り飛ばした。他のメフィストたちがシドのオーガに集まって飛びかかっていく。

 シドが怒りを強めて、オーガが全身に力を込めてメフィストたちを押し返した。

「メフィストは滅ぼす・・1人も野放しにはしない・・・!」

 シドが鋭く言うと、オーガが剣を具現化して振りかざす。メフィストの中の2体が、体を剣で切りつけられて、鮮血をまき散らして倒れた。

 ギギやアロン、他のアポストルのオーガもメフィストたちをなぎ払う。燃え盛る炎の中、シドたちがメフィストたちを圧倒していた。

 

 シドたちが現れたのを、アークが遠くから見届けていた。

「あれがグリムリーパーか。その中で1番強いオーガは、あれか・・」

 アークがシドのオーガに注目して、笑みをこぼす。

「あなたが直接手を下すつもりなの、アーク?」

 彼のいる丘に1人の女性がやってきた。女性は白く長い髪をなびかせて、シドたちとメフィストの戦いを見つめた。

「インバス、お前も来ていたのか。残念だが、あのオーガの相手はオレがする。邪魔はするなよ。」

 アークが女性、インバスに声を掛ける。

「仕方がないわね。でも他によさそうって思ったのがいたら、私がやらせてもらうわよ。」

 インバスが微笑んでアークに答える。

「それじゃ、久しぶりに大きく体を動かすとするか・・」

 アークが自信を見せてから、意識を集中した。彼が体から発した光に包まれて、巨大化していく。

 アークが変身したのはメフィストだった。背中から翼を広げて、その姿は他のメフィストと比べてより悪魔的なものとなっていた。

「身の程知らずに思い知らせてやろう。本物のメフィストの偉大さというものを・・」

 アークが呟いてから、シドたちのほうへ飛行で向かった。

 

 メフィストと交戦を続けるシドたち。その最中、シドが近づいてくるアークに気付いた。

「他のメフィストが来たか・・何人出てきても、オレが倒す・・・!」

 シドがアークに対しても敵意をむき出しにする。シドのオーガの前にアークが降り立った。

「お前がグリムリーパーのアポストルとオーガか。」

 アークが声を掛けたことに、シドもギギたちも驚きを覚える。

「あのメフィスト、しゃべれるのか!?

「今までのヤツらとは違うってことかよ・・・!」

 アロンが声を荒げて、ギギが毒づく。

「君の噂は聞いているよ。アポストルの中でメフィストを狩った数が、君が1番じゃないか?」

「お前もメフィストなのか?・・ならばお前もオレの敵だ・・・!」

 淡々と話しかけるアークにも、シドが鋭い視線を向ける。

「お前たちがいかに愚かな行為をしているか、私が教えてやろう・・」

 アークが目つきを鋭くして、シドのアークに飛びかかる。シドが地上に下りて、オーガがアークと組み付いた。

 オーガとアークが力比べを繰り広げ、互角の押し合いを演じる。

「力はなかなかのものだ。だが私の力はこんなものではない・・」

 アークが笑みをこぼすと、背中の翼をはばたかせて突風を起こして、オーガの体勢を崩そうとする。アークが右の拳を振りかざすと、シドが反応してオーガも右の拳を繰り出す。

 2人の拳がぶつかり合い、激しい衝撃を巻き起こす。2人が衝撃に押されて、互いに距離を取る。

「メフィストには個別の能力があることを、君たちも知っているはずだ。私にもあるのだよ。私だけの力が・・」

 アークが言いかけると、両手から赤い光を集めていく。彼は両手を振りかざして、その爪から光の刃を飛ばした。

 オーガが刃に体を切りつけられて怯む。

「オレのオーガが、押されただと・・!?

 オーガが傷つけられたことに、シドが驚きを覚える。

「これが本当のメフィストの力だ。お前たちではたどり着けない境地に、我々はいるのだ。」

 アークが自信を込めた笑いをこぼして、さらに光の刃を飛ばす。シドのオーガが翼をはばたかせ、上昇して光の刃をかわす。

「空に逃げれば無事でいられる・・それは浅はかな考えだ・・」

「自分が上だと思い上がるお前を、オレは許しはしない・・!」

 さらに微笑むアークに、シドが怒りを募らせる。アークが爪を振りかざして、光の刃を飛ばす。

 オーガが素早くかわすが、光の刃に包囲されて体を切りつけられていく。

「シドのオーガが、追い詰められるなんて・・!?

 アロンがこの戦いを見つめて、驚きを隠せなくなる。

「もっと私を本気にさせてくれ。これでは肩慣らしにもならないぞ。」

「いい気になるな・・オレは必ずお前を倒す!」

 挑発するアークに、シドが怒号を放つ。オーガがスピードを上げて、アークに向かって急降下してきた。

「無策な特攻など、自殺行為でしかないぞ・・」

 アークがさらにあざ笑い、オーガ目がけて両手を突き出した。爪を両肩に突き立てられるも、オーガがアークの顔面をわしづかみにした。

「その野蛮な手で、私に触れるな・・」

 アークが顔から笑みを消して、拳を振り上げてオーガに叩きつけた。オーガが跳ね上げられて、そのまま地面に落下した。

「これが力の差というものだ。それを冥土の土産にして、おとなしく逝くことだ。」

 アークが笑みを取り戻して、1本の剣を具現化して、切っ先をオーガに向けた。

「オレは死なない・・死ぬとしても、お前たちには絶対に殺されないぞ!」

 シドがさらに怒りを見せつけて、オーガが立ち上がって剣を呼び出して手にした。

「往生際が悪いのは好ましくない・・早々に滅びろ・・」

 アークがため息をついてから、オーガに向かって剣を振り下ろした。

 その瞬間、アークの動きが突然止まり、剣がオーガが掲げた剣に当たる直前で動かなくなった。

「動かない?・・念力で動きが止められているのか・・・」

 自分の体の自由が利かない現象を把握するアーク。

「この町で暴れさせはしない・・・!」

 アークに向けて声を掛けたのは、駆けつけたミリィだった。彼女のオーガが念力を発して、アークの動きを封じたのである。

「新手のアポストル・・特殊能力を備えたオーガを操るとは・・」

 アークがミリィと彼女のオーガに目を向けて微笑む。

「しかし、私を止めるにはやはり力不足のようだ。」

 アークが全身に力を込めて、オーガの念力による束縛をはねのけた。

「ま、また動き出した・・!?

 念力が通じなかったことに、ミリィが驚く。

「邪魔をするなら、先に葬られることになるぞ・・」

 アークが忠告すると、剣を振りかざして旋風を巻き起こす。

「えっ!?うわっ!」

 オーガが吹き飛ばされて、ミリィが巻き込まれる。シドも彼のオーガも飛ばされてきた彼女たちとぶつかる。

 シドたちが吹き飛ばされて、丘の上まで追いやられた。

「アポストルとはいえ、やはり下等な生き物。期待などするものではなかった・・」

 アークがため息をついてから、ギギたちのオーガに目を向けた。

「お前たちでは私の相手にもならない。己の無力さと愚かさを自覚して、即座に抵抗をやめることだな。」

 アークはギギたちに告げると、炎が弱まっていく町から飛び去っていった。

「アイツ・・オレたちは眼中にないっていうのか・・・!?

「だけどアイツ、今までのメフィストとは全然違ってた・・まさかあれが、ホントのメフィストってわけじゃないよな・・・!?

 ギギがアークへのいら立ちを膨らませる中、アロンが脅威を感じて頭を抱える。

「たとえあんなヤツらがウジャウジャ出てきても、メフィストはオレの獲物だぜ・・!」

 メフィストを倒すという狩りを続けることに、ギギが野心をむき出しにしていた。

 

 丘の上まで飛ばされたシドとミリィ。2人にケガはなかったが、2人のオーガはともに姿を消してしまった。

「あのメフィスト・・次は必ず叩きつぶす・・・!」

 アークに対する憤りを募らせて、シドが両手を強く握りしめる。

「そ、そんな・・・!?

 そのとき、ミリィが驚愕の声を上げて、シドが目を向ける。ミリィは丘にあった建物が崩壊している様を目の当たりにして、体を震わせていた。

「エ・・エスポランスの本家の屋敷が・・・!?

 ミリィが絶望を痛感して、地面に膝を付いた。

「ここは?・・お前の家か・・・?」

 シドが落ち着きを取り戻して、ミリィに問いかけた。

「はい・・ここはエスポランスの本家・・私が暮らしていた家よ・・・」

 ミリィが悲しみと辛さを抱えたまま、シドに答える。

「そう・・あなたたちのところに来るまでは、ここで暮らしてきたの・・・」

 さらに表情を曇らせていくミリィ。彼女はエスポランス家で過ごしてきた日々を思い返していた。

 

 

 

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