Ogre SID
-死を背負いし剣-
第4話「正義 –真の人の在り方-」
ミリィを虐げたティンバたちは、怒りをあらわにしたシドの手にかかった。
シドもこの事件について聞かれたが、悪いのはティンバたちで、彼女たちよりも自分が咎められるのはおかしいという考えを変えなかった。
ミリィとエリィも医務室で手当てを受けながら、事件のことを話した。
「あなたたちにちょっかいを出してくる子がいるなんてね・・」
「ティンバたちの悪評はこっちにも伝わってたけど、シドくんの近くにいることがなかったから、ずっと居座ってたんだろうね・・」
ヒビキとラミアがティンバのことを語って肩を落とす。
「本来ならシドくんを処罰するところだけど、そうしたところで反逆を招き、グリムリーパーの崩壊につながりかねない・・メフィストを倒していない状態でそのような最悪の事態は避けなければならない・・」
グリムリーパーの今後を考慮して、シーマが苦渋の決断をする。
「シドくんの処分は見送ります・・今回のことは口外してはなりません。これからは私たちの心の中に留めておくように・・」
「はい・・分かりました・・」
シーマの指示にミリィが答えて、エリィたちが頷いた。
「ゴメンね、2人とも。辛い思いをさせちゃって・・」
「いいえ・・あなたたちがしたことではありませんから・・」
謝るヒビキにミリィが苦笑いを見せて答える。
「しばらくは私とお姉ちゃんがそばにいるから。何かあったらすぐに助けに入るから・・」
「そのお言葉は嬉しいですが、これは私たちの問題です。私たちで切り抜けるべきことです。」
ラミアも助力をしようとすると、エリィが言葉を返してきた。
「2人がかりで痛い目にあったばっかりなのに?」
ヒビキが投げかけた言葉に、エリィが言葉を詰まらせる。
「ま、私たちのお節介だと勝手に思っちゃっていいから。」
「は、はぁ・・」
気さくに言うヒビキに、エリィは生返事をするだけだった。
「ヒビキさん、ラミアさん、ミリィさんとエリィさんのこと、頼みますよ。」
「了解です。」
シーマが声を掛けて、ヒビキが気さくな態度を見せたまま答えた。
「シーマさん、夜桜テルの調査が完了しました。意識を取り戻したので、訓練を始めるとのことです。」
そこへレイラがやってきて、シーマに報告をしてきた。
「分かりました。私もハント隊長のところへ行きます。」
シーマが答えて、レイラとともに医務室を後にした。
目を覚ましたテルは、ハントから話を聞いてから、オーガを使いこなす訓練を行っていた。
「あれ〜?全然うまくいかないよ〜・・!」
自分のオーガを具現化させることができず、テルが落ち込む。
「アイツ、アポストルの中じゃ、オーガを出すのが遅いみたいだよ、ギギ・・」
彼の様子を見ていたアロンが、ため息まじりにギギに声を掛ける。
「あれじゃ使い物にならないな・・おい、後始末は任せるぜ、ゼド、ズルガ。」
ギギが後ろにいる男たち、ゼドとズルガに指示を出す。
「任せときな、ギギのアニキ・・」
「アニキだとばれねぇようにするッス!」
ゼドとズルガが答えて不敵な笑みを浮かべた。
スムーズに訓練をこなすことができず、テルはひどく落ち込んでいた。
「オレ、弱いってことなのかな?・・力が出ないってことなのかな・・・?」
自分の無力を責めて、テルがため息をついた。
「強くなれなくてお困りか、新入り?」
そんな彼に声を掛けてきたのはゼドだった。
「あなたは?・・強くなれるってホントですか!?」
テルがゼドに振り向いて、目を輝かせてきた。
「そうッスよ。オレたちの言う通りにすりゃいいッスから。」
ズルガもテルの前に現れて、気さくな笑みを見せてきた。
「2人がオレを鍛えてくれるってことですね!よろしくお願いします!」
テルが感謝して、ゼドたちに頭を下げた。
「それじゃ岸間シドというヤツの相手をしてもらおうか。アイツを倒せるくらいになれば、十分強いって言えるな。」
ゼドがテルにシドを倒してくるように言ってきた。
「そいつに当てれば、お前が最強ってことになるッス!ここはチャレンジ精神を燃やすときッスよ!」
「シドという人・・どこにいるんですか・・?」
ズルガも呼びかけると、テルがシドの居場所を聞く。
「こっちだ、こっち。付いてきな。」
ゼドがテルを連れて、シドのところへ向かう。ズルガも2人に付いていく。
テルたちはシドの部屋の近くに来たところで足を止めた。
「あそこにシドがいるぜ。アイツをやっつけちまいな。」
ゼドが部屋のドアを指さして、テルをけしかける。
「えっ?もしかして、同じアポストルじゃないんですか?仲間をやっつけるなんて・・」
「アイツは同じアポストルでも、自分のためならオレたちを平気で攻撃するヤツッス・・また仲間が殺されたことは、さっき起こったばっからしいッス・・」
疑問符を浮かべるテルに、ズルガが語っていく。
「でもよくないですよ。仲間を攻撃するだなんて・・」
「だから仲間じゃねぇって・・」
消極的になっているテルに、ゼドが肩を落とす。
「それに、オレたちはメフィストをやっつけるのが仕事で、人殺しが目的じゃないです。このようなやり方で強くなるのは・・」
「全く・・そういう役にも立たないのかよ、コイツは・・」
自分の手を汚すことを懸念するテルに、ゼドが不満を浮かべる。
「さっさとアイツをやっつけるッスよ・・弱いヤツにいつまでもウロウロされても、目障りなだけッスから・・」
ズルガもため息まじりに、テルに言いかける。
「2人とも、どういうことですか・・・!?」
「おめぇは使えねぇんだよ・・オーガを出すこともできねぇヤツを、いつまでもかわいがる気はねぇってことだ。オレらも、他のヤツもな。」
当惑を浮かべるテルに、ゼドが不満げな態度で語っていく。
「オレたちが直接手を加えるのも癪に障るッス。だから物騒なシドと戦わせようってわけだったッス。」
「何だよ、それは!?・・オレ、殺されようっていうの・・・!?」
ズルガの話を聞いて、テルが愕然となる。
「オレらがわざわざおめぇの使い道を考えてやったんだ。むしろ感謝してほしいくらいだ・・」
「冗談じゃない・・そんなムチャクチャなの、あっていいわけない!」
笑みをこぼすゼドに、テルが感情をあらわにした。飛びかかるテルだが、ゼドに殴り飛ばされて、しりもちをつく。
「物忘れの激しいヤツだな・・弱くて悩んでたんだろうが!」
ゼドがいら立ちを膨らませて、テルに蹴りを当てる。
「うあっ!」
たまらず防御に回って、テルがうずくまる。
「仕方がないッス・・オレたちがやっちゃうッス・・・!」
ズルガもため息をついてから、ゼドに加勢してテルに殴りかかる。
「やめて!助けて!ひどいことしないでくれー!」
悲鳴を上げて助けを請うテルだが、ゼドとズルガは攻撃をやめない。
「さて、ばれねぇように外へ放り出しておくか・・」
ゼドがテルをつかみ上げて、基地内の庭まで連れ出した。
「ここでこのままのたれ死ぬことだな・・!」
「オーガを出そうとして暴走して自滅・・そう言っとけばいいッス。」
ゼドが倒れたテルを見下ろして、ズルガも笑みをこぼす。
「行くぞ、ズルガ。ギギのアニキに報告しねぇと・・」
ゼドが呼びかけて、ズルガとともにギギのところへ戻ろうとした。
そのとき、ズルガが突然横から強く突き飛ばされて、その先の壁に叩きつけられて血をあふれさせた。
「ズ、ズルガ・・!?」
事切れたズルガを見て、ゼドが驚愕する。振り返った彼の視線の先にいたのは、シドのオーガだった。
「オレを潰したいなら、自分から挑戦してこい・・他のヤツに任せたり押し付けたりするのを、卑怯だとは思わないのか・・・!?」
シドがゼドに向けて鋭く言いかける。
「うるせぇ!弱っちぃヤツを有効活用しようとしたんだ!それをコイツが逆らうもんだから、身の程を思い知らせてやろうとしただけだ!それに何が悪いんだよ!?」
「身の程知らずはお前だろうが・・人は人・・好き勝手に扱っていい物じゃないことを、理解できないのか・・!?」
怒鳴りかかるゼドだが、シドの怒りを逆撫でするだけである。
「こうなったら、おめぇらまとめて、オレがここで始末してやるよ!」
ゼドがいきり立ち、集中力を高めて、狼男のような姿のオーガを呼び出した。
「いくらてめぇでも、オーガ同士ならオレを仕留めることは簡単にはできねぇぞ!」
ゼドが言い放ち、オーガをけしかける。ゼドのオーガが飛びかかり、鋭い爪でシドのオーガを切り裂こうとした。
次の瞬間、シドのオーガがゼドのオーガの頭を右手でわしづかみにして、地面に叩きつけた。
「な、何っ!?」
驚愕するゼドに向かって、シドのオーガが左手を振りかざしてきた。
「た、助け・・!」
悲鳴を上げようとしたゼドが、シドのオーガの左手に叩かれて、壁にぶつけられた。ゼドが命を失ったことで、彼のオーガが霧のように消えていった。
アポストルが意識を失えば、オーガも姿を消す。アポストルの死はオーガの消滅に直結する。
「あ、あなたは・・・!?」
顔を上げたテルが、シドを見て動揺を浮かべる。自分のオーガを消してから、シドはテルの前から去っていく。
「ま、待って!待ってください!」
テルが慌ててシドを追いかけていく。
「助けてくれてありがとうございました!あなたがいなかったらオレ、死んでたかもしれないです!」
「お前を助けたつもりはない・・アイツらが許せなかっただけだ・・・」
お礼を言って頭を下げるテルに、シドが自分の考えを口にする。
「オ、オレ、あ、あなたの力に惚れました!つ、ついていっていいですか!?」
「付きまとわれるのは好きじゃない・・オレに殺されるかもしれないぞ・・・?」
憧れの眼差しを送るテルに、シドが冷たい態度で言い返す。
「もうそれでもいいです・・あなたがいなかったら、オレは死んでたんですから・・」
シドに命を預ける覚悟を決めているテル。その考え方にもシドは納得しない。
「オレは他のヤツを思い通りにしようと考えるヤツも許せないが、命を粗末にしようとするヤツも許せない・・死んだら何にもならないことが分かっていないと言わんばかりだからな・・」
シドの口にした言葉を聞いて、テルが心を動かされる。
「生きていく・・確かに死んじゃったら、悲しくなってしまいますよね・・・」
テルが物悲しい笑みを浮かべて、小さく頷いた。
「でもオレ、強くなりたいから、やっぱりあなたについていきます!あなたに迷惑かけないようにしますから!」
彼はまた意気込みを見せて、自分の考えをシドに伝えた。
「勝手にしろ・・どうなっても知らないぞ・・・」
シドはため息をついて、庭から歩き出した。
「ま、待ってください!オレ、テルです!夜桜テル!」
「シドだ・・岸間シド・・」
自分の名前を告げたテルに、シドも名乗った。
「シドさん・・シドのアニキ!」
テルが喜んで、走り出してシドを追いかけた。
シドもテルも無事でいることに、ギギとアロンは驚きといら立ちを感じていた。
「アイツじゃなく、ゼドとズルガがシドにやられるとは・・!」
「もうアイツにちょっかい出すのはやめたほうがいいんじゃないか?・・オレたちのことがばれたら、確実にアイツに殺されちゃうよ・・!」
毒づくギギと、不安を感じていくアロン。
「こうなったら、次の出動でアイツの寝首をかくしかないようだ・・・!」
「メフィストにやられたように見せかければいいってわけか・・・!」
ギギとアロンが策を練って笑みをこぼす。2人はメフィストとシドの両方を倒すという一石二鳥を狙うことにした。
シドに付いていくテル。2人の姿をミリィとエリィも目撃した。
「あ、あの、はじめまして!オレ、新しくここに来た夜桜テルっていいます♪」
テルがミリィたちの前に来て、挨拶して深々と頭を下げた。
「は、はじめまして・・私はミリィ・エスポランスです。」
「ミリィ様のメイドの、エリィ・ハーツです。あなたが新しく入ってきたアポストルですね?」
ミリィとエリィもテルに挨拶をする。
「エスポランス!?・・あのエスポランスのお嬢様が、ここに!?」
テルが驚いて、思わず後ずさりをする。
「あまり大きく考えることはないわ・・私はここでは、アポストルの1人でしかないから・・」
ミリィが微笑んで言いかけるが、テルは戸惑うばかりだった。
そのとき、グレイブヤード内に警報が鳴り響いた。メフィスト出現を知らせるものである。
「出たか、メフィスト・・ヤツらはオレが倒す・・・!」
メフィストへの敵意を口にして、シドが外へ出て意識を集中する。
「オーガ!」
叫ぶシドの体から光が現れて、オーガが具現化された。彼が肩に乗って、オーガが翼をはばたかせて飛び上がった。
「ア、アニキ!・・オレもオーガが出せたら・・・!」
テルが悔しがって、大きく肩を落とす。
「私も行くから、エリィはテルさんと一緒に残って下さい・・!」
「しかし、ミリィ様・・!」
続けて現場に向かおうとするミリィを、エリィが心配する。
「あなたはアポストルではないし、テルくんもまだオーガを呼び出せない。でも私には戦える力があるから・・」
「ミリィ様・・分かりました。ご武運を・・・」
ミリィに説得されて、エリィが彼女を見送った。
(意識を集中して、もう1人の自分をイメージして、精神力を高める・・・)
「オーガ!」
ヒビキたちから教わったことを思い返して、精神を解き放つミリィ。彼女の体から光があふれて、天使のオーガが現れた。
ミリィがオーガが差し伸べたての上に乗る。オーガは翼をはばたかせて、空へ飛び上がった。
メフィストが現れたのは小さな農村。表向きは過疎の村だが、メフィストに反逆しようとしていたレジスタンスの隠れ蓑となっていた。
その情報をつかんだメフィストが、農村へ攻撃を仕掛けたのである。
火の海と化した村を蹂躙するメフィストたち。そこへグリムリーパーのオーガたちが、空から降下してきた。
「メフィスト・・お前たちはオレが滅ぼす・・お前たちの存在を許さない・・・!」
メフィストへの憎悪を募らせるシド。オーガがメフィストの1体の頭を手でわしづかみにして、地面に叩きつけた。
「シド・・お前だけにやらせるかよ・・!」
「これだけメフィストがいるんだ!アイツに独り占めなんてさせない!」
ギギとアロンがシドへの不満を口にする。2人のオーガも駆けつけて、拳を繰り出してメフィストを殴り飛ばす。
「メフィスト・・私も倒すことができるのかな・・・?」
シドたちの戦いを見て、ミリィが戸惑いと不安を感じていく。彼女のオーガも降り立ち、メフィストの1体と対峙する。
メフィストが手を突き出し、ミリィのオーガが軽やかな動きでかわしていく。しかしメフィストの突きがオーガの体に命中した。
ふらつくオーガをメフィストがさらに拳を振りかざして攻め立てる。
「攻撃をよけきれない・・私のオーガは、まだメフィストには敵わないの・・・!?」
劣勢を強いられるミリィが、動揺を膨らませる。
「私もオーガを出すことができた・・メフィストを倒す力を出すことも・・・!」
彼女は自信を持とうとして、集中力を高める。彼女のオーガが背中の翼をはばたかせて、メフィストの接近を阻む。
「頭の中に浮かんでくるみたい・・・私のオーガの力は・・・!」
オーガの能力をイメージしていくミリィ。オーガが左手を伸ばすと、メフィストの動きが止まった。
ミリィのオーガには念力や超能力が備わっていた。その力で大将の動きを封じたり持ち上げたりできる。
「ミリィ、このままメフィストを止めてて!」
そこへ声を掛けられて、ミリィが視線を移す。トラの獣人を思わせる姿のヒビキのオーガ、豹の獣人を思わせる姿のラミアのオーガが駆けつけた。
「ヒビキさん、ラミアさん!」
ミリィが声を上げて、メフィストにかけている念力を強める。ヒビキのオーガがそのメフィストに飛びかかり、爪を振りかざして切りつけた。
体を切りつけられて怯むメフィスト。ヒビキのオーガが両手を前に出して、爪をメフィストの体に突き刺した。
そこへラミアのオーガが飛び込み、両手の爪を振りかざしてメフィストを切りつけた。致命傷を受けたメフィストが倒れて、力尽きて動かなくなった。
「やったね、お姉ちゃん、ミリィ♪」
ラミアが勝利を喜んで、ヒビキとハイタッチをする。
「ミリィちゃんもすごいわね。あなたのオーガ、ものすごい超能力を持っているじゃない。」
「私・・こんなにすごい力を・・・!?」
ヒビキが感心して、ミリィが戸惑いを感じていく。ミリィが自分のオーガを見つめて、自分の力を実感する。
「シドくんたちも済んだみたいだね。」
「うん。シドくんが出てきたら、メフィストは全滅は確実だからねぇ。」
ヒビキとラミアがシドたちのほうに振り向く。シドたちのオーガが、他のメフィストたちを一掃していた。
「今度はメフィストを何匹か仕留めることができたよ・・!」
「けど数じゃアイツに敵わなかった・・ちくしょうめ・・・!」
安心の笑みをこぼすアロンだが、ギギはメフィストを倒した数でシドに負けたことをいら立っていた。
(そうだ・・メフィストを滅ぼさなければ、オレの心は晴れることはない・・・!)
シドがメフィストに対する憎悪を、やわらげることなくたぎらせていた。
「今さら来たって遅いんだよ、お前ら!」
そこへ1人の少年が来て、シドたちに向かって怒鳴ってきた。
「何だ、あのガキは・・?」
「きっとこの村の子供じゃないか?」
ギギとアロンが少年を見て呟きかける。
「お前ら、メフィストと戦ってるんだろ!?それならもっと早く来てくれてもよかったじゃないか!」
少年がシドに向かって怒りをぶつけていく。
「そうだったら、オレたちも村もみんな、無事でいられたのに・・!」
「勘違いするな・・オレは人助けをしているつもりでも、正義の味方でもない・・敵であるメフィストを倒す・・それだけだ・・」
不満を言う少年に対して、シドが低い声で自分の考えを告げる。
「それにオレは、自分の敵を倒すことを誰かに任せたり、その責任を押し付けたりするようなことはしない・・オレの敵は、オレが倒す・・」
「だから、オレたちは関係ないと・・どうなっても構わないって言うのかよ!?」
話を続けるシドに、少年が怒りをさらに膨らませる。
「そんなバカげたことを考えているのはメフィストと、そいつらのいいなりになっている政府の連中だ・・お前たちが不満をぶつけるのは、そいつらのほうだろうが・・!」
「そうやって、自分たちのことを棚に上げる気か!?自分が悪いことをしてるって、分かってんのかよ!?」
語気を強めるシドに、少年が不満を募らせる。次の瞬間、シドが少年の眼前まで一気に詰め寄り、右手を握りしめて拳を構えた。
殴られると思って身構えた少年。しかしシドは構えただけで拳を繰り出しては来ない。
「お前は何かしたのか?・・お前の許せないヤツに、怒りをぶつけていないのか・・・!?」
「それは・・・!」
シドに問い詰められて、少年が言葉を詰まらせる。
「オレはこの力が使えるようになる前にも、メフィストと会った・・力があるかどうか関係なく、オレはメフィストを倒そうとした・・ヤツらが許せなかった・・理由はそれだけだ・・・!」
少年に告げてから拳を下げるシド。歩き出す彼に、少年はこれ以上言葉を掛けることができなかった。
「どうしてあなた、そんなことを・・・!?」
ミリィから問われて、シドが彼女の目の前で立ち止まる。
「あの子はこの村や、住んでいる人たちのことを想っているだけ・・それなのに、突き放すようなこと・・・」
「ここを攻めたのはメフィストだ・・ヤツらを倒すオレたちまで文句を言うのはおかしいだろう・・」
苦言を呈するミリィに、シドが反論する。
「憎むべき相手を見誤っているのを棚に上げて勝手を言うなら、力を持っていようが無力なヤツだろうが関係ない・・同じ、オレの敵に回るヤツだ・・・!」
シドは鋭く告げると、再び歩き出した。彼にこれ以上の言葉を掛けることも追うこともできず、ミリィが困惑を感じていく。
「これでは、メフィストから世界を守るために戦っていることには・・たとえメフィストを全滅させても、世界は納得しない・・アポストルを支持しない・・・」
シドの考えに賛同できず、ミリィが深刻さを募らせていく。
「グリムリーパーにいる全員が、世界の平和だとか正義の味方とか、どういうのを考えてるわけじゃないよ。シドくんとかギギとかはね・・」
ヒビキがミリィに近づいて、表情を曇らせて答える。
「メフィストに恨みを持っていたり、メフィストを獲物にして狩りを楽しんだり。戦う理由はそれぞれだよ。」
ラミアも続けてミリィに話しかける。
「ヒビキさんとラミアさんは、何のためにメフィストと戦っているんですか・・・?」
ミリィが2人に質問を投げかける。するとヒビキたちが表情を曇らせた。
「復讐ってとこかな・・詳しい話は、また今度ね・・」
ヒビキはそれだけ告げると、ミリィの前から去っていった。
「というわけだから、ゴメンね、ミリィちゃん。」
ラミアもミリィに謝ってから、ヒビキを追いかけていった。
(私は・・何のために戦うのかな・・・?)
自分の戦う理由が分からなくなって、ミリィが苦悩を深める。彼女は自分のオーガの手のひらに乗って、グレイヴヤードに戻っていった。