Ogre SID

-死を背負いし剣-

第3話「冗談 –許されざる罪-

 

 

 オーガを覚醒させたミリィは、エリィとともに医務室に運ばれた。そこのベッドで、2人が同時に意識を取り戻した。

「ここは・・・?」

「私たちは、いったい・・・?」

 ベッドから体を起こして、ミリィとエリィが周りを見回す。

「気が付きましたね、2人とも。」

 シーマが医務室に入ってきて、ミリィたちに声を掛けてきた。

「エリィさんはヒビキさんのオーガに締め上げられて、ミリィさんはオーガの発現で精神力を大きく消耗して、意識を失ったのです。」

「私が、オーガを・・!?

 シーマが冷静に事情を話して、ミリィが困惑を浮かべる。

「もうあなたが集中力を上げることで、オーガを呼び出すことができる。あなたもアポストルとしての第一歩を踏み出したのよ。」

「そんな・・私が、本当にアポストルに・・・!?

 微笑んできたシーマに、ミリィが動揺を隠せなくなる。

「ミリィ様はあなたたちと同じではありません!あなたたちのような野蛮な人間とは・・!」

 エリィが不満をあらわにして、シーマに反論する。

「同じではないのはあなたのほうです、エリィさん。調査の結果、あなたにはオーガを呼び出す力はなかったのです・・」

 シーマが冷静のまま、エリィに報告をした。調査により、エリィがアポストルでないことが判明した。

「アポストルでない以上、あなたは主戦力にならない。あなたがここで生き延びるためには、補佐として尽力するしかない。でなければ秘密保持のため、排除しなければならなくなる。」

 シーマがエリィに対して警告を送る。

「私が全力を尽くすことに変わりはありません。ただし私がお仕えするのはあなたたちではなく、あくまでミリィお嬢様です!」

 エリィは自分の意思を変えず、ミリィに従うことを明言する。

「いいでしょう。ミリィさんがアポストルとして戦うならば、エリィさんもその彼女のために全力を尽くすのですから・・」

 シーマが小さく頷いて、2人の意向を汲み取った。

「訓練のほうは引き続き私が教えてあげるから。よろしくね、ミリィちゃん、エリィちゃん。」

 ヒビキが医務室に入ってきて、ミリィたちに気さくに声を掛けてきた。

「信用できかねます・・あなたはミリィ様と私に危害を加えたのですから・・!」

「あのときはゴメンね。オーガを覚醒させるにはああするしかなくて・・」

 不信感を示すエリィに、ヒビキが苦笑いを見せて謝る。

「もうあんなこと、私はしないよ。私の直感だけど、ミリィちゃんのオーガも、シドのオーガに負けないくらい強力そうだから・・」

「本当にそうでしょうね!?・・今度こそ容赦しませんからね!」

 自分の考えを告げるヒビキに、エリィが厳しく注意をした。

「エリィ、少し落ち着いて・・メフィストの支配を終わらせるために私の力も必要だというなら、私はやるわ・・」

 ミリィがエリィをなだめて、決意を口にする。メフィストを討ちたいという意志は、ミリィの中にもあった。

「その意気よ。改めてよろしくね、ミリィちゃん。」

 ヒビキが笑顔を見せて、ミリィに手を差し伸べてきた。

「はい・・よろしくお願いします、ヒビキさん・・」

 ミリィが微笑んでヒビキと握手を交わした。

(お嬢様・・私には、これからのことが不安で仕方がありません・・・)

 エリィは心の中でミリィの身を案じていた。

 

 ミリィとエリィはヒビキとラミアに連れられて、シドやギギたちに紹介された。

「最初見たときも思ったけど、強いようには見えないなぁ・・」

「たとえ見た目と違う実力を持ってるとしても、オレより上ってことはあり得ねぇ。」

 アロンとギギがミリィたちを見て呟く。

「オレが思い知らせるのはアイツらじゃねぇ・・シドの寝首を必ずかいてやる・・!」

 ギギがいら立ちを募らせて、シドを鋭く睨みつける。シドはミリィたちに目を向けているが、メフィストを倒すことを考えていた。

 

 ミリィたちがグリムリーパーに受け入れられる中、3人の少女たちが目つきを鋭くしていた。

「あれが今回の新入りか・・ヒビキ様に馴れ馴れしくしちゃって・・」

「元々お姫様みたいだからねぇ・・調子に乗りたがるのも不思議じゃないかな・・」

 2人の少女、カリーとビスがミリィたちへの不満を口にする。

「だったら思い知らせてやればいいんだよ。自分の置かれている立場ってヤツをね・・」

 もう1人の少女、ティンバが不敵な笑みを浮かべる。彼女たちはミリィとエリィを陥れようとしていた。

 

 グリムリーパーのアポストルは、動きやすい服が支給される。ミリィは今日初めてそれに袖を通すことになる。

「更衣室にそれぞれ自分専用のロッカーが用意されているわ。ミリィちゃんには新しい服が用意されてるわ。」

「簡単にいうと、制服ってヤツかな。早くミリィちゃんの制服姿、見たいなぁ〜♪」

 ヒビキがミリィに説明をして、ラミアが期待を膨らませて笑顔を振りまく。

「あまりおかしな服でしたら却下ですからね・・!」

 エリィがヒビキたちに注意を投げかける。

「ここがロッカールーム。ここで着替えるのも、自分の部屋で着替えるのも自由よ。」

 ロッカールームに来てヒビキが紹介して、ミリィとエリィが見渡す。

「ここで着替えるかどうかは・・少し、考えさせてくださいね・・」

 エリィが苦笑いを浮かべて、ヒビキたちに答えた。

「と、とにかくまずは着替えて、着替えて・・」

 ラミアが笑みを見せて呼びかけて、ミリィが自分のロッカーを開けた。そこに1着の服があったが、それはボロボロだった。

「えっ!?

 服の有様にミリィだけでなく、ヒビキとラミアも目を疑った。

「ちょっと!これはどういうことですか!?

 エリィが不満を膨らませて、ヒビキとラミアに詰め寄る。

「あなたたちはこんなものをミリィ様に着せようというのですか!?

「ち、ちょっと待ってよ!こんなボロボロのわけないよ!ちゃんとしたのが入っているはずだよ!」

 怒るエリィにラミアが慌てて言い返す。

「誰かが破ったね。そうじゃなかったら、いきなりこうなってるわけないよ・・」

 ヒビキが破られた服を見て、表情を険しくする。

「いきなりこんな歓迎をするなんて・・見つけたら怒っちゃうんだから・・・」

 ヒビキが不満を素振りを見せて、犯人捜しを決める。

「このロッカーを使うのは控えたほうがよさそうですね・・少なくとも今は・・・」

 ミリィが言いかけて、エリィが小さく頷いた。

 

 ミリィの制服を破られたことをシーマに伝えたヒビキ。ミリィは同じ制服を改めて受け取ることになった。

「仕方のない人がいるみたいですね・・私も注意をしますので、あなたたちも気を付けるように。」

 シーマがため息まじりに言って、ミリィたちに注意を促した。

(ここグリムリーパーでは問題が絶えないけれど、ミリィさんたちも巻き込まれましたね・・しかしその度に私たちが沈静化してきました。)

 シーマが心の中で、問題が起きたときの対処について呟く。

(ただ解決していないのは、シドくんの暴挙・・下手に手を出せば逆に命を奪われる・・暗殺で沈静化を図ろうとしましたが、彼は死なず、逆に暗殺兵が殺されることになった・・)

 シドのことを懸念して、シーマが深刻さを感じていた。

「ミリィ様、何があっても、私がミリィ様をお守りいたします!」

 エリィがミリィに意気込みを見せる。

「ありがとう、ミリィ。でも守られてばかりじゃないことを見せないといけないね・・」

「たとえそうでもミリィ様のために・・それは、私個人の願いでもあります。」

 感謝するミリィに、エリィが自分の思いを伝えた。

「それじゃ改めて着替えをして、訓練を始めるよ。」

「はい、ヒビキさん。」

 ヒビキが呼びかけて、ミリィが真剣な面持ちで答えた。ミリィは自分の部屋で服を着替えることにした。

「水着以外でこのような薄着を着るなんて・・・」

 服を着た自分の姿を確かめて、ミリィが困惑を覚える。

「これもメフィストをやっつけるためって思えば、気が楽になるものよ・・」

 ヒビキが気さくな態度でミリィを励ます。

「そう思えればいいんですけど・・努力はしてみます・・・」

 ミリィが苦笑いを浮かべて答えた。

 

 それからミリィはヒビキからの指導を受けて、訓練を行った。

 オーガを呼び出して戦わせるアポストルだが、彼ら自身も戦いの渦中に身を置くことになる。オーガの攻撃や敵の武器をかわせるだけの身体能力を身に着けなければ、命を落とすことになる。

 アポストルは自分の身を自分で守ることを、頭と体に叩き込まれていた。

 ミリィが受けた訓練は、軍隊の訓練に勝るとも劣らない厳しさがあった。しかし彼女はそれを苦にすることなくこなしていた。

「やるね、ミリィちゃん。この訓練、兵士でも降参する人がいるくらいなのに・・」

 ラミアがミリィの動きを見物して、感心を見せる。

「ミリィ様はエスポランス家の姫として、あらゆる学問や武術を教わってきました。あの訓練はエスポランス家での鍛錬と比べると厳しい部類に入りますが、ミリィ様にこなせない難易度とまではいきません。」

 エリィがミリィのことをラミアに語っていく。

「エスポランス家、すごーい・・!」

 ラミアが感動して目を輝かせて、拍手をする。

「ここまですごいのは、ミリィちゃん以外だとシドくんぐらいかな。シドくんも最初からものすっごく強かったんだよ・・!」

「あの人が・・確かに力はあるみたいですが、あのような物騒な方を認めるわけにはいきません・・ミリィ様が危険にさらされてしまいます・・!」

 シドのことを考えて、ラミアがさらに目を輝かせて、エリィが不満を感じていく。

「まぁ、あんまり関わんないほうがいいかも・・気に障ることをしなければ、シドは何もしてこないから・・」

「は、はぁ・・・」

 ラミアからの助言を聞いて、エリィが小さく頷いた。

 エリィとラミアが会話を弾ませていた間に、ミリィはヒビキが課す訓練を次々にこなしていった。

 その様子を、ティンバたちが冷やかに見つめていた。

 

 この日の訓練を終えて、ヒビキたちと別れて自分の部屋に向かうミリィとエリィ。

「すごいです、ミリィ様!私でも見たことのない内容も含まれていましたね!」

「エリィ、私以上にここのことに感動しているようだね・・」

 感動の眼差しを送るエリィに、ミリィが苦笑いを見せていた。

「私はメフィストの一方的な支配を終わらせるために、ここのアポストルたちと手を組むことにしたの・・だから、多少の関係の問題には目をつぶるつもりでいる・・」

「ミリィ様・・私は、ミリィ様を守ることばかりを考えていて、許容する配慮に欠けていました・・・」

 ミリィの心境を聞いて、エリィが肩を落とす。

「そんなことないわ。エリィの優しさには、いつも感謝しているわ・・」

「ありがとうございます、ミリィ様・・そのお言葉だけで感無量です・・!」

 ミリィの投げかけた言葉に、エリィは安らぎを感じていた。

 その2人の前をカリーとビスが通りがかった。カリーは1つの花瓶を両手で持っていた。

「うわっ!」

 カリーが体勢を崩して、持っていた花瓶が傾いて中の水をこぼした。その水がかかって、ミリィがびしょ濡れになってしまった。

「ゴ、ゴメンなさいねぇ〜・・足をつまずいちゃって〜・・」

「すごい身体能力あるって聞いてたから、簡単によけちゃうかと思ったけど、そうじゃなかったかも・・」

 カリーとチエが笑みをこぼして、ミリィたちに言いかける。

「でもかえって濡れてよかったかもしれないねぇ。水も滴るお姫様ってね・・」

 びしょ濡れになっているミリィを見て、カリーが笑みをこぼした。

「あなたたち、ミリィ様にこのようなことをした上に、何という無礼を!きちんと誠意をもって謝罪しなさい!」

 エリィが憤慨して、カリーたちに怒鳴りかかる。

「何だよ・・ちゃんと謝ったじゃん。それなのに怒るなんてひどいじゃないかぁ〜・・」

「誠意がないと言っているのです!それでは謝罪とは言えません!」

 不満げに言うカリーに、エリィが注意を続ける。

「・・ったく・・いつまでも偉そうな口、叩いてんじゃないよ!」

 カリーがいら立ちを見せて、エリィに手を出してきた。

「うあっ!」

 エリィが突き飛ばされて、ミリィがとっさに彼女を支えた。

「大丈夫、エリィ!?・・いきなり何をするの!?

 ミリィがエリィを心配して、カリーに怒鳴る。

「優雅なお姫様生活は、ここじゃ通用しないんだよ!いつまでもなめた態度とってると痛い目にあうって、徹底的に教えてやるよ!」

 カリーが高らかに言い放って、ビスがミリィとエリィに飛びかかってきた。

「エリィ、離れて!」

 ミリィがエリィを離してから、ビスが伸ばした腕をつかんで背負い投げをした。

「なっ!?

 ビスが倒されたことに、カリーが驚きの声を上げる。

「こ、このっ!」

 カリーが持っていた花瓶を振って、中に残っていた水をかけた。

「うっ!」

 水が顔にかかり、ミリィは目が見えなくなる。

「ミリィ様!」

 エリィがミリィを助けようとするが、カリーから花瓶を放り投げられる。

「うわっ!」

 エリィが花瓶を受け止めることになり、体勢を崩してしりもちをつく。カリーがミリィに向けて、足を振り上げてきた。

 ミリィは紙一重で蹴りをかわして、足払いを仕掛けてカリーを転ばせた。

「うぐっ!」

 倒されてうめくカリー。ミリィが顔を拭って水を払い、ゆっくりと目を開けた。

「大丈夫ですか、ミリィ様!?

 エリィが花瓶を床に置いて、ミリィに心配の声を掛けた。

「うあっ!」

 そのとき、ティンバが姿を現して、エリィの後ろから手を伸ばした。ティンバの腕がエリィの首を締め上げる。

「エリィ!・・エリィを放して!」

「おっと・・おとなしくしないと、コイツがどうなっても知らないよ・・」

 叫ぶミリィにティンバが警告する。ミリィが憤りを噛みしめながらも、手出しができなくなる。

「カリー、ビス、いつまで寝てるんだよ!この姫を痛い目にあわせてやりな!」

 ティンバが怒鳴って、カリーたちが目を覚まして起き上がる。

「コイツ・・よくもやってくれたな・・・!」

「その礼は、倍にして返す・・・!」

 カリーとビスがいら立ちを感じながら、ミリィに詰め寄る。

「じっとしてなよ、お姫様よ・・!」

 カリーが目つきを鋭くして、ミリィの体に拳を叩き込んだ。

「うぐっ!」

 防御も取れずに苦痛を覚えて、ミリィが怯む。ふらつく彼女を、ビスも足を振り上げて蹴り上げる。

「ミリィ様!・・やめなさい!なぜこのようなことを!?

 エリィが怒鳴り声を上げて、カリーたちを呼び止めようとする。しかしティンバの腕を振り払うことができない。

「なぜ?お前らが生意気だからだよ。大きな口を叩くとどうなるか、あたしらに逆らうとどうなるか、頭の底にまで教え込まないとね・・」

「そのような勝手な言い分が通るわけがないでしょう!」

「通るんだよ、ここじゃね・・あたしらのやり方はね!」

 反論するエリィを、ティンバがさらに締め上げていく。

「エリィ・・・!」

 エリィを思って声を振り絞るミリィが、カリーとビスの暴力を受け続けていた。

「が、がはっ!」

 激痛のあまり、ミリィが吐血して自力で起き上がれなくなる。

「もうおしまいなのか?抵抗がないと呆気ないもんだなぁ・・」

 動かなくなったミリィを見下ろして、カリーが肩を落とす素振りを見せる。

「それじゃそろそろ仕上げをしよう・・2度と人の前に姿を見せられないように、恥を与える・・」

 ビスが低い声音で言って、ズボンのポケットから折り畳み式のナイフを取り出した。

「まずは服を切り裂いて裸にして、その体に、致命傷にならない程度に傷を付けてやる・・」

「面白そうじゃん、それ!まずはあたしからやらせてよ!」

 ビスの提案にカリーが大喜びする。

「1回やってみたかったんだよなぁ・・姫や女王をズタボロにすんのを!」

「いいよ・・でも、体のほうは私がやるよ・・カリーだと荒っぽくなるから・・」

 笑い声を上げるカリーに、ビスがナイフを渡した。

「ミリィ様!やめなさい、あなたたち!ミリィ様にこれ以上何かすれば、あなたたちを決して許しません!」

「許してもらうつもりはない・・お前らがあたしらに従うことになるんだから・・・!」

 怒りを膨らませるエリィに、ティンバが不敵な笑みを見せて言い返す。

「それじゃたっぷり楽しませてもらうよ!」

 カリーが目を見開いて、ナイフを構えた。ミリィは意識がもうろうとなっていて、動くことができない。

 そのとき、カリーの頭から突然血飛沫があふれた。彼女が横に倒れて動かなくなった。

「カ、カリー・・!?

「だ、誰がこんなマネを・・!?

 ビスが驚いて、ティンバが周りを見回す。彼女たちの前に現れたのはシドだった。

「き、岸間シド・・!?

 ティンバがシドを見て驚愕を募らせる。シドの後ろの窓の奥の外には、彼のオーガがいた。

「まさか、オーガの力で衝撃波を弾丸のように飛ばしたっていうの・・!?

 ビスがシドのオーガを見て、緊迫を膨らませていく。

「何もしていないヤツを一方的に弄ぶ・・目的のために卑怯なマネをする・・そんな自分を恥だと思わないのか・・・!?

 シドがティンバたちに向けて、鋭く問い詰めてきた。

「アンタには関係ないことだろ!これはあたしらとコイツらの問題なんだから・・!」

「そうだよ・・私たちの邪魔をして、アンタに何の得があるの・・・!?

 ティンバとビスがシドに文句を言う。

「こんな有様を見せつけられて、イライラするんだよ・・自分たちが正しいと思い上がり、勝手な理由を口にして思い通りにしようとして・・・!」

 シドがいら立ちを募らせて、両手を強く握りしめる。

「イライラするから邪魔するってか?アンタもずいぶんと勝手じゃないかよ!」

「それで悪くないヤツまでどうこうしようという気はない・・!」

 あざ笑うティンバだが、シドは自分の考えを曲げない。

「何ふざけたことを言っているの・・よくも・・よくもカリーを・・!」

 ビスが怒りをあらわにして、落ちていたナイフを拾って、シドに飛びかかる。そのとき、シドのオーガが右の拳を繰り出して、ビスに直撃させた。

 オーガの拳に殴られたビスが突き飛ばされて、壁に叩きつけられて血を吹き出した。

 先程まで自分を虐げてきていた1人が、一瞬にして血まみれの死体になったことに、ミリィもエリィも言葉が出なくなってしまった。

「殺しやがった・・メフィストじゃなく、人間であるあたしの仲間を・・・!」

 シドの行為にティンバが危機感を隠せなくなる。

「このヤロー・・人殺しじゃないかよ・・そんなマネをして、ただで済むと思ってるのかよ!?

「お前たちはもう人間じゃない・・滅ぶべき敵でしかない・・・!」

 ティンバが不満を膨らませるが、シドは敵意を強めるばかりである。

「ア、アンタも動かないほうがいいよ!下手にやろうとしたら、コイツも巻き添えになるよ!」

 ティンバが締め上げているエリィをシドに見せつける。ティンバは人質を利用してやり過ごそうとする。

「オレならそいつを避けて、お前だけを仕留められる・・オーガを使わなくても、オレはゴミを片付けることはできる・・・!」

 シドはそう言うと、ティンバに向かって歩き出す。彼のオーガが霧のように姿を消していく。

「近づくな!近づくとコイツが痛い目にあうよ!」

 ティンバが自分が持っていたナイフを手にして、エリィに刃先を向ける。

「そんなことをしてみろ・・ただでは仕留めない・・オレの怒りを徹底的に叩き込む・・・!」

 シドは止まることなく、ティンバに向かっていく。その瞬間、ティンバはシドから、今まで感じたことのない強さの殺気を痛感して、体を震わせた。

 その隙にエリィがティンバから離れて、ミリィに飛びついた。

「エリィ、大丈夫・・!?

「私は平気です・・それより、ミリィ様が・・・!」

 ミリィとエリィがお互いを心配する。ナイフを構えたティンバだが、シドは敵意を強めるだけである。

「や、やめてくれ・・も、もう私は何もしない・・!」

 ティンバが後ずさりして、シドに命乞いをする。

「それで許してもらえると思っているのか・・・!?

 彼女のこの言葉は、シドの怒りを逆撫でするだけだった。

「い、今のは冗談だったんだよ・・からかっただけで・・ちょっとした歓迎ってヤツで・・!」

「冗談・・そういえば許してもらえると思っているのか・・・!?

 苦笑いを浮かべて言い訳をするティンバに、シドが鋭く言い返す。

「冗談や言い訳、綺麗事を並べ立てれば、何をやっても許される・・そんな思い上がりを、オレは絶対に許さない・・!」

 シドが怒りを募らせて、手を伸ばしてティンバの顔をわしづかみにする。彼女がその頭を床に叩きつけられる。

 頭に激痛を覚えて、目を見開くティンバ。彼女に対して、シドが拳を振りかぶった。

「や・・やめて・・何でもするから・・命だけは・・・!」

 ティンバがたまらずシドに命乞いをする。

「そういうことは、ふざけたマネをする前にするべきだった・・・!」

 シドが鋭く言って、ティンバに向けて拳を振り下ろした。絶望で心をいっぱいにしたまま、ティンバは絶命した。

 

 ティンバ、カリー、ビスはシドの手にかかった。彼女たちを殺したことに、シドは負い目を感じてはいなかった。

「あの・・・あなたの言い分では・・私たちを助けたつもり・・ではないみたいですね・・・」

 ミリィが困惑しながら、シドに声を掛けた。

「あぁ・・許せないから叩きのめした・・しかし、オレがぶちのめすのは、ああいう思い上がった連中と、そいつらに賛同するヤツらだ・・・」

 シドがミリィたちに目を向けて答える。

「私たちもあの3人のことは許せません・・しかし彼女たちとて人間・・殺すことは、人の道から外れたことでは・・・!?

 ミリィは体を震わせながら、シドを問い詰める。

「ヤツらは自分が正しいと思い上がり、自分に逆らうヤツらの言葉を聞こうとすらしない・・そんなヤツらに何を言ってもムダでしかない・・・!」

 シドは自分の考えを告げると、ミリィとエリィの前から去っていく。

「シドくん!」

 そこへシーマが現れて、シドに呼びかけた。しかしシドは止まることなく立ち去っていった。

「これは!?・・あなたたち、どういうことですか・・・!?

「・・この人たちが私たちを襲ってきて・・そこへ彼が現れて、3人を・・・!」

 驚愕を覚えるシーマに問われて、ミリィが声を振り絞って答える。

「シドくん・・・また、グリムリーパーのアポストルを・・・!」

「えっ・・・!?

 シドの行動に滅入るシーマに、ミリィとエリィが当惑を浮かべた。

「とにかく、あなたたちの手当てを。詳しく事情を聞かないといけないし・・ここの処理は処理班を呼んで済ませます・・」

 シーマが気を取り直して、エリィに支えられるミリィを連れて、この場を後にした。

 ゆっくりと移動していく中、ミリィはシドのことを気に掛けていた。

 

 

 

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