魔法少女リリカルなのはSchlüssel
7th step「Take a shot」
シェリッシェルとの結合を果たしたレイジングハートを構え、なのははリスターと対峙する。
「行くよ、レイジングハート、シェリッシェル!」
“All right.”
なのはの呼びかけにレイジングハートが答える。リスターが右腕を振り下ろし、なのははとっさに回避行動を取る。
彼女の靴には光の羽根「アクセルフィン」が生えていた。だが従来のアクセルフィンや高速移動魔法「フラッシュムーブ」以上の速さを彼女は行い、彼女自身が驚きを感じていた。
「何て速さなんだ・・・シェリッシェルが、なのはちゃんに力を与えてる・・・!」
「これが三種の神器、シェリッシェルの本当の力なんだ。」
驚きをあらわにしているユウキに、フォルファが語りかける。
「シェリッシェルは従来のデバイスとしての機能だけでなく、他のデバイスと結合して、そのデバイスの能力を増強させるブースターの役割もするんだ。」
「ブースター・・!?」
「レイジングハートのブースターとなったシェリッシェルの主な役割は大きく分けて2つ。長所の向上と短所の解消。その効果の選択はデバイスの主とシェリッシェル、種類によってはデバイス自身の意思で決定されるんだ。」
フォルファの説明を聞きながら、ユウキやフェイトたちはなのはとリスターの戦況を見守っていた。
“Accel Shooter.”
レイジングハートを構えたなのはが魔法弾を発射する。これもまた従来のアクセルシューターと比べ、数、速さ、威力が格段に上がっていた。
いっせいに放たれた光弾だが、バリアを展開させたリスターに阻まれる、だが光弾のいくつかがバリアを突き破り、リスターの鎧を削った。
“Buster mode. Drive ignition.”
カートリッジロードを行ったレイジングハートが砲撃形態へと形を変える。なのはの狙いは、集束型砲撃魔法の発動だった。
しかし結界破壊を備えたスターライトブレイカーを放つには、10秒の魔力チャージが必要となる。そのことを示唆していたフェイトとライムが、なのはの援護のために動き出そうとしていた。
だがレイジングハートは既に魔力チャージを完了させていた。
これはシェリッシェルによるものだった。砲撃魔法のチャージに費やす時間の解消のために、シェリッシェルはあらかじめ魔力を収集し、魔法発動の際にレイジングハートにその魔力を送り込むことで、魔法発動での速攻を可能にしていたのだ。
「行くよ、レイジングハート、シェリッシェル!」
“Yes, my master.”
“Yes, sir.”
なのはの声に2機のデバイスが答える。装甲に魔力のバリアを張り巡らせて身構えるリスターに向けて、なのはがレイジングハートを向ける。
「スターライトブレイカー!」
レイジングハートから膨大な閃光が解き放たれる。閃光はリスターの装甲を、展開されたバリアごと撃ち抜いた。
膨大な威力を受けたリスターの胴体は崩壊し、光の粒子となって消滅する。だがスターライトブレイカーの余波は残り、その1つがフェイトたちに向かっていた。
「僕が防御するよ!」
「いや、僕に任せて!」
ユーノがフェイトたちを守ろうとしたところを、ライムがその前に出る。
「クリスレイサー、ミラージュウォール!」
“Mirage wall.”
クリスレイサーを構えたライムの前方に、透明の壁が出現する。壁は閃光の余波を受け止め、上空に屈折させた。
「ミラージュウォール」は「スノーウォール」を強化した防御魔法である。スノーウォール以上の強度と防御力を備えているばかりでなく、放出系の魔法を無条件で屈折、反射させることができる。だが物理魔法までは跳ね返すことはできず、放出系魔法でも威力が強すぎれば跳ね返しきれない。
魔法の屈折に成功して、ライムが安堵する。砲撃を終えたなのはが慌ててライムたちに駆け寄ってきた。
「ゴメン、フェイトちゃん、ライムちゃん。思ったより強くなっちゃって・・」
「いいよ、いいよ。なのはちゃんのおかげでこの危機を乗り越えられたんだから。」
心配の声をかけるなのはに、ライムは笑顔を見せる。するとなのははシェリッシェルとの結合を果たしたレイジングハートを見つめる。
「ユウキさんとシェリッシェルのおかげだよ。ありがとう・・・」
“Yes, sir.”
感謝の言葉をかけたなのはに、シェリッシェルが答えた。ユウキもフォルファもなのはの活躍に笑みをこぼしていた。
ユウキ、庵、フォルファが気がかりになり、仁美は家を飛び出していた。しかしユウキたちが街のどこにいるのかまでは分からず、彼女は街中で途方に暮れていた。
(お兄ちゃん、ユウキさん、フォルファ・・どこにいるのよ・・・!?)
悲痛さを胸に秘めて、仁美は必死にユウキたちを追い求めた。
そのとき、仁美は結界に包まれた感覚を覚える。緊迫する彼女が振り返った先には、紅い髪の少女、ヴィータの姿があった。
「ヴィータちゃん・・・」
振り返った仁美が戸惑いを見せると、ヴィータも歯がゆさを噛み締めて口を開く。
「仁美・・お前の持ってる三種の神器を、渡してほしいんだ・・・」
「ヴィータちゃん・・・!?」
クライムパーピルを要求するヴィータに仁美は驚愕を覚える。ヴィータも仁美にこのようなことを言うことに抵抗を感じていた。
「三種の神器を3つ集めねぇと、この世界が壊れちまうかもしれねぇんだ。こっちに渡すんだ。」
「イヤよ・・これ以上、私を危険に巻き込まないで・・・」
手を差し伸べるヴィータの言葉を、仁美は拒みながら後ずさりする。
「私はお兄ちゃんと一緒に暮らしたいだけ・・やっと帰ってきたんだから・・・その未来を壊すようなことは、誰にもさせない・・・!」
仁美は感情をあらわにして、右手の指にはめられている指輪を掲げる。
「クライムパーピル・・・」
“Stand by ready.Drive ignition.”
仁美の声を受けて指輪が呼応し、杖へと形を変える。同時に仁美を紅いバリアジャケットが包み込んだ。
「仁美!」
ヴィータがたまらず叫ぶが、仁美は彼女を敵と認識し身構えていた。
「たとえヴィータちゃんでも、私とお兄ちゃんの邪魔はさせない!」
“Weapon mode.”
槍の形状となったクライムパーピルを振りかざし、ヴィータに飛び掛かる。突き出された一閃をかわして、ヴィータは歯がゆさを見せる。
(やるしかねぇっていうのかよ・・・!)
「グラーフアイゼン!」
“Bewegung.”
騎士服に身を包んだヴィータの呼びかけを受けて、グラーフアイゼンが鉄槌の姿を現す。それぞれのデバイスを構えて、仁美とヴィータが対峙していた。
ユウキたちに自分が魔女に仕える者であることを告げて、庵は闇の世界に戻ってきた。彼の前に不気味な影が出現し、妖しい笑みを浮かべた。
「申し訳ありません、ヘクセス様。リスターを失ってしまいました・・・」
「それはよい。」
頭を下げる庵だが、ヘクセスは憤り様子を見せない。
「リスターは三種の神器の真の力を、改めて確かめる効果をもたらした。そしてその力を発揮した魔導師の力も。」
「高町なのはのことですか?」
「それだけではない。その周囲にも、強力な資質を備えた魔導師が集まっている。それに、ベルカの騎士もその周囲にいる。」
ヘクセスはそう告げると、黒き右手をかざす。その前方の空間が歪み、別の空間の風景を映し出す。
その光景に庵は眉をひそめた。それは交戦する仁美とヴィータの姿だった。
「三種の神器に選ばれしもうひとりの魔導師と鉄槌の騎士のこの争いは、わらわが求める力を引き寄せることとなる。それこそ、わらわがより高みへと上る好機・・・」
妖しく微笑むヘクセスが、野望を見据えて笑みを強める。妹の危機に対して、庵は顔色を変えていなかった。
「しかしこれに対して邪魔な要因があるのも否定できません。これからその要因の排除にかかります。」
「よかろう、庵。お前の持つ力、存分に発揮するがよい。」
ヘクセスが庵の申し出を受け入れると、庵は一礼して戦場へと赴いた。
三種の神器の隠れた力を直接扱い、なのはは戸惑いを感じていた。
「すごい・・これが三種の神器の力・・・レイジングハートがグンと強くなっちゃったよ・・」
「三種の神器の力を引き出せるデバイスは、かなり高度なものということになる。」
感嘆の声を口にするなのはに、フォルファが近づいて語りかける。
「シェリッシェルはデバイスそのものとして使うことができるが、他のデバイスの力を引き出すブースターとしても使える。デバイスの種類は問わないが、インテリジェントといった人工知能を備えたデバイスはよりその効果を発揮する。それを含めても、君のそのデバイスが見せた力は想像を超えていたよ。よほど君を信頼しているのだな。」
なのはの手の中にある宝石型のレイジングハートを見つめて、フォルファが微笑む。
「ありがとう、フォルファさん。」
「いいよ。あの鎧を撃退できたのは、三種の神器の力だけではない。なのは、そしてレイジングハートのおかげだ。」
感謝の言葉をかけるなのはに、フォルファは弁解の言葉を返す。
「それじゃ、シェリッシェルは基本的にどのデバイスにも組み込むことができるんだね?」
質問を投げかけたユーノに、フォルファは頷く。
「フェイトのバルディッシュでも、ストレージでもアームドでも結合させることはできる。そしてデバイスとその使用者の意思と合わせてその効果を発揮するんだ。接近戦重視なら、高速化や防御力向上が主な効果になる。」
フェイトに眼を向けて、フォルファが説明を付け加える。
「ところで、アンナさん、大丈夫かな・・・」
そこでなのはが唐突にアンナの安否を気にして沈痛の面持ちを見せる。リンカーコアを抜かれて石化したアンナは、ライム、ラーク、ジャンヌによってリンディの元へと運ばれていった。
そしてユウキは庵のことを気にしていた。本当に魔女に加担しているのか。その真偽を確かめなければならない。彼はそう思っていた。
京野家にもうすぐ到着しようとしたそのとき、ユウキとフォルファがただならぬ気配を感じ取り、緊迫を覚える。
「どうしたの、ユウキさん?」
その様子になのはが声をかける。
「これはクライムパーピル・・仁美が・・・!」
「仁美・・家にいるように言ったのに・・・仁美!」
ユウキはたまらず駆け出し、家の前に置いてある自分のバイクにエンジンをかけた。そしてなのはたちが当惑している前で、ユウキはバイクを走らせた。
「いけない!今、仁美が相手をしているのはベルカの、鉄槌の騎士だ!」
「鉄槌・・ヴィータちゃん!?」
フォルファが声を荒げると、なのはが驚愕を覚える。
「仁美とユウキと止めないと!このままじゃ2人、騎士たちと全面的に対立することになってしまう!オレが先行するから、君たちも急いでくれ。」
フォルファはなのはたちに告げて、先にユウキを追跡していった。なのはたちも互いに眼を合わせて頷き、フォルファの後に続いた。
魔女によってリンカーコアを奪われ、変わり果てたアンナの姿を目の当たりにして、リンディとクロノが深刻な面持ちを浮かべ、エイミィとシルヴィアは動揺を隠せないでいた。
「まさかアンナさんが被害にあうなんて・・・」
「伝説の魔女がアンナさんのリンカーコアを奪った。しかも京野庵がその配下にいる。」
当惑を見せるシルヴィアに、クロノが淡々と答える。その口調の裏に歯がゆさを押し殺しているのをリンディもエイミィも分かっていた。
「しかし依然として魔女がどこにいるのか特定できていない。やっぱり庵を見つけるか、あるいは・・」
「ユウキさんと仁美さんが持っている三種の神器が鍵を握っている・・・」
クロノが呟くと、リンディも続けて答える。魔女を探り出す最大の鍵は三種の神器にあるのだ。
そのとき、レーダーの警告音が鳴り出し、シルヴィアが画像を確認して状況を把握する。
「海鳴町内にて、ヴィータさんと京野仁美さんが交戦中です!」
「えっ!?」
シルヴィアの報告にはやてが驚きの声を上げる。同時にフェイトからの念話が送られてきた。
“リンディ提督、仁美さんが危ないって、ユウキさんが・・”
「フェイト!」
フェイトからの連絡にアルフが声を荒げる。
「僕、止めてきます!ヴィータもその仁美って人も、絶対に悪い人じゃないから!」
ライムがたまらず現場に向かおうと部屋を飛び出す。
「ライム!・・ラークも助けに行くよ。ライムもヴィータお姉ちゃんも、仁美お姉ちゃんも!」
「それならあたしも!その魔女っていうのが親玉だっていうなら、2人を戦わせるわけにはいかないよ・・・!」
ラーク、そしてアルフもライムに続いて部屋を飛び出した。
「武装局員、魔導師、ヴォルケンリッターにも連絡を!2人の交戦を止めるよう伝えてください!」
「了解!」
リンディの連絡を受けて、シルヴィアとエイミィが通達を行い、クロノもライムたちに続いて現場へ動き出した。
決死の思いでバイクを走らせるユウキ。庵の動向がはっきりと見えてこない今、仁美を守ることが今のユウキの心の支えだった。
そしてユウキは、街中で交戦している仁美とヴィータを目撃する。
「仁美!・・アイツ・・!」
ユウキは苛立ちを覚えながらバイクを降り、鍵のペンダントを取り出した。
「シェリッシェル、オレに力を貸してくれ・・・!」
“Get set.Drive ignition.”
ユウキの呼びかけを受けて、シェリッシェルが柄へと形を変える。光刃を解き放つシェリッシェルを構えて、ユウキは仁美とヴィータが交戦するその真っ只中に飛び込んだ。
仁美はヴィータの痛烈な攻撃に押されていた。恐怖に駆られて魔法を使用している仁美には、ヴィータとグラーフアイゼンの攻撃を跳ね返すことは困難だった。
「頼む、仁美!あたしらに力を貸してくれ!あたしはお前とはこれ以上戦いたくはないんだ!」
ヴィータが悲痛の面持ちで仁美に懇願する。しかし完全に恐怖を覚えている仁美は、あくまでヴィータと対峙しようとする。
「私はただ普通にお兄ちゃんと暮らしていたいの。だからこれ以上私たちを巻き込まないで!」
「違うんだ、仁美。みんなと一緒に楽しく暮らしていくために、あたしらは魔女と戦わなくちゃいけないんだよ!」
兄、庵との生活を重んじる仁美に対し、ヴィータはグラーフアイゼンを構える。
“Raketenform.”
カートリッジロードを行った鉄槌にスパイクが現れる。
「どうしてもっていうなら、力ずくでも!」
ヴィータは鉄槌を大きく振りかざし、仁美の持つクライムパーピルに狙いを定める。仁美を傷つけることはヴィータには不本意なことだった。
「仁美!」
そこへユウキが飛び掛り、シェリッシェルを振りかざしてヴィータの攻撃を受け止める。
「ユウキ!?」
「ユウキさん!」
ヴィータと仁美がユウキの乱入に声を荒げる。不意打ちを受ける形となり、ヴィータはユウキの攻撃に突き飛ばされる。
「仁美、大丈夫か!?」
「う、うん・・平気・・」
ユウキに心配の声をかけられ、仁美は一瞬安堵を見せる。彼女の無事を確かめて微笑むと、ユウキはヴィータを鋭く見据える。
「アンタは・・・アンタって人は!」
憤りをあらわにしたユウキが、ヴィータに向かって飛び出す。振り下ろしてきた光刃を、ヴィータのグラーフアイゼンが受け止める。
「くっ!・・何て力だ・・・!」
「よくも仁美を・・仁美をやったな!」
毒づくヴィータの前で、ユウキの感情に呼応するかのように、彼の髪が白くなり嵐のような魔力を放出する。魔法大覚醒の現象である。
さらに力が強まり、ヴィータが押され始める。そして光刃がグラーフアイゼンに亀裂を生じされる。
「アイゼン!?」
眼を見開くヴィータと感情の赴くままに叫ぶユウキ。強烈な一閃の前に、ヴィータは再び突き飛ばされて建物の壁に叩きつけられる。
さらに不意を突かれることとなったヴィータが歯がゆさを見せる。だが体勢が整わない彼女に向かって、ユウキがさらに攻撃を加えようとする。
だが振りかざしたシェリッシェルを受け止め、ヴィータを救ったのは、剣の騎士、シグナムだった。
「シグナム!」
「ぐっ!」
声を荒げるヴィータと毒づくユウキ。カートリッジロードを行い炎をまとったレヴァンティンが、シェリッシェルの一閃を跳ね返す。
後退して体勢を立て直すユウキ。彼を見据えながら、シグナムがヴィータに声をかける。
「ヴィータ、大丈夫か?」
「あぁ。ちょっと驚いただけだ。」
「・・そうか・・・」
グラーフアイゼンを構えるヴィータに、シグナムは微笑を浮かべる。損傷を受けたものの、グラーフアイゼンが負った傷は自己修復できる範囲だった。
「ユウキ、お前に恨みはない。だが我が主と同士のために、私は戦う・・・!」
シグナムは低く言い放ち、レヴァンティンを構える。
「アンタは・・どこまで・・!」
憤慨を見せ付けるユウキがシグナムに向かって飛び掛る。2人の持つ互いのデバイスが魔力の弾丸を装てんし、強化された刃がぶつかり合う。その激しい衝突で、ユウキとシグナムが弾き飛ばされる。
「ユウキさん!」
仁美の悲痛な叫びが響く前で、体勢を整えたユウキが再びバイクに乗り込む。シェリッシェルを構えたまま、彼はバイクのエンジンをかける。
「仁美、お前は逃げるんだ!オレが引き付けるから!」
「でも、ユウキさん・・!」
「いいから行け!」
戸惑いを見せる仁美に呼びかけるユウキ。バイクを走らせ、シグナムとヴィータの間を突っ切っていく。
「ヴィータ、お前は仁美を頼む。私がユウキを追う。」
「シグナム、お前だけで大丈夫かよ?三種の神器の力、思ってたよりかなり強いぞ。」
ヴィータの言葉にシグナムが不敵な笑みをこぼす。
「確かに力は強いが、戦いの数は明らかにこちらが上・・・」
シグナムはそう言いかけると、ユウキを追って動き出した。自己修復を完了させたグラーフアイゼンを構えて、ヴィータは仁美に眼を向ける。
「仁美、三種の神器を渡してくれ・・・!」
近づいてくるヴィータに、仁美はさらなる恐怖を募らせた。
騎士たちを引き付けるため、ユウキは街から外れた荒野に駆けつけていた。そこで彼を追ってきたシグナムが彼の前に立ちはだかった。
ユウキはバイクを止めようとせず、シェリッシェルを構えながらシグナムに向かって突っ込む。
シグナムが振り下ろしたレヴァンティンとユウキのシェリッシェルがぶつかり、火花を散らす。2人はすれ違い、ユウキはさらにバイクを走らせる。
スピードを下げずにシグナムの周囲を旋回していくユウキ。シグナムはユウキの動きを完全に捉えていた。
「レヴァンティン」
“Schlangeform.”
シグナムの呼びかけを受けて、レヴァンティンがカートリッジロードを行って形状を変える。いくつもの節に分かれた刀身がユウキを狙って伸びていく。
ユウキはとっさにバイクを飛び降りて、レヴァンティンの刀身をかいくぐってシグナムに向かって飛び掛る。シュランゲフォルムのレヴァンティンを使用する際、刀身の操作に専念することとなり、シグナムはこの場を動くことができない。
シグナムはとっさに刀身を操り、ユウキにけん制を見舞う。ユウキはシェリッシェルを振り下ろすのを中断し、シグナムとの距離を取る。
“Schwertform.”
シグナムは剣の形状に戻ったレヴァンティンを構え、ユウキを鋭く見据える。
「まさかこんな形で、お前と剣を交えることになるとは・・」
「オレも正直残念だよ。けどな、仁美を傷つけさせるわけにはいかないんだよ!」
互いに言葉を交わしながらも、互いの気持ちが折り合うことはなく、シグナムとユウキは戦いを余儀なくされた。
その頃、仁美はヴィータから遠ざかり、古びた工場地帯に逃げ込んでいた。建物に隠れてうまく逃げようと考えていた仁美だが、彼女の魔力を察知し続けているヴィータには筒抜けだった。
振り返った仁美に向かって、ヴィータがグラーフアイゼンを振り下ろしてくる。仁美はその一撃を交わして、倉庫の1つに駆け込む。
仁美を追いかけて、ヴィータもその倉庫の中に駆け込む。中はダンボール詰めの荷物やドラム缶などが置かれており、身を隠すには絶好の場所となるはずだった。
だが激しく心が揺さぶられている仁美の魔力が漏れ出しているため、ヴィータには彼女の位置が分かっていた。
「行くよ・・グラーフアイゼン!」
“Jawohl.”
迷いを振り切り、ヴィータが鉄槌を振りかざす。仁美はヴィータの攻撃から回避を行い、外れた鉄槌の攻撃が柱を破壊する。
ヴィータは仁美に向けて追撃を繰り返す。仁美はひたすら鉄槌の攻撃をかいくぐっていく。
そして仁美は倉庫の外へと飛び出す。ヴィータも彼女を追って倉庫を出ようとしたときだった。
柱を破壊されて支えきれなくなった倉庫の屋根が沈み、ヴィータを巻き込んだ。逃げると見せかけてヴィータの動きを封じようとする仁美の作戦だった。
沈んだ屋根の上に上り、仁美が不安を感じながらヴィータの行方を追う。不本意とはいえ、彼女を傷つけてしまったと自分を少なからず責めていたのだ。
だがそのとき、仁美の背後の屋根が弾け飛び、そこからグラーフアイゼンを振り上げたヴィータが飛び出してきた。
“Flammeschlag.”
“Protection.”
振り下ろされた鉄槌の一撃を、クライムパーピルが展開した防御壁が受け止める。だが鉄槌が叩いた部分から炎が巻き起こり、障壁ごと仁美を巻き込んだ。
“Flame shield.”
だがクライムパーピルがとっさに炎の壁を作り出し、ヴィータの攻撃から仁美を守る。
炎属性の魔法に特化している仁美には、炎の一撃「フランメ・シュラーク」はさほど効いてはいなかった。それどころが、この一撃が仁美の感情を逆撫ですることとなった。
「どうしてここまで・・・もう頭にきた!」
感情を高まらせた仁美の髪が紅く染まる。炎の魔力をまとわせ、仁美はクライムパーピルを構える。
“Load Cartridge.Spark mode.”
カートリッジを消費して、クライムパーピルが砲撃型へ形を変える。仁美の変化に当惑を見せながらも、ヴィータもグラーフアイゼンを構える。
ヴィータは魔力によって具現化した鉄球をグラーフアイゼンで打ち込み、仁美目がけて鉄球を放つ。
“Flame shooter.”
これに対し、仁美も炎の弾を発射して鉄球を迎え撃つ。2つの砲撃はぶつかり合い、激しい轟音を響かせて相殺される。
だが仁美は間髪置かずに、次の攻撃の準備を行っていた。
「このぉ・・よくもナメたマネを!」
“Flare blaster.”
仁美がヴィータに向けて炎の砲撃を解き放つ。魔法大覚醒の影響で普段から一変して攻撃的な性格になっている仁美の姿に、ヴィータは少なからず困惑を感じていた。
「しゃあないか・・・アイゼン!」
“Gigantform.”
ヴィータの呼びかけを受けて、グラーフアイゼンが変形する。カートリッジを2個消費して、巨大な鉄槌へと形を成す。
「アイゼン、轟天爆砕!」
“Gigantschlag.”
膨大な炎の砲撃を迎え撃つべく、ヴィータは巨大化したグラーフアイゼンを振りかざす。その強大な一撃に阻まれて、炎は爆発して拡散する。
その炎の一端が矢のようにヴィータの左肩を貫いた。痛みを覚えてヴィータがその場にひざを着く。
「くそっ!・・こんなことで・・・!」
傷ついた肩を押さえながら、ヴィータは仁美を見据え続ける。仁美は力を消費して息を荒げている。
「これで終わりよ・・これ以上、私とお兄ちゃんの邪魔はさせない・・・!」
仁美がヴィータにさらなる攻撃を加えようと歩を進める。
“Thunder blade.”
そのとき、上空から金色の矢の雨が降り注ぎ、仁美の追撃を阻んだ。そして仁美とヴィータの間に、バルディッシュを構えるフェイトが割り込んできた。
「大丈夫・・・!?」
フェイトが背を向けたままヴィータに声をかけるが、ヴィータは小さく頷くだけだった。フェイトはヴィータが無事であると確信し、仁美を見据える。
「どうして・・どうしてみんな私たちを・・・アンタも!」
さらなる感情をあらわにして、仁美がフェイトに対しても砲撃を繰り出す。フェイトは飛翔して、仁美の攻撃性を抑えようと奮起した。
その頃、仁美とユウキを止めるべく動き出していたフォルファだったが、仲間のために戦うことを志すザフィーラに行く手をさえぎられる。
「邪魔をするな!オレは仁美とユウキを止めたいだけなんだ!」
「私はベルカの守護獣。我が主と同士の盾であり牙。その使命のため、私は戦うのみ!」
互いに決意をあらわにして、拳を突き出すフォルファとザフィーラ。力の衝突で火花が荒々しくきらめく。
(彼は力と速さを備えている。やむをえないが、ここは魔力を伴って戦い、切り抜けるしかない・・・!)
「雷牙発動!」
苦渋の決断をしたフォルファの全身に雷鳴が轟いた。稲妻を帯びたフォルファから、ザフィーラはとっさに後退して回避する。
フォルファの体を稲妻の闘気「スパーキングオーラ」が包み込む。このオーラをまとったものは、あらゆる物理接触を阻み、相手に損傷を負わせることも可能である。
稲妻を帯びたフォルファがザフィーラに向かって飛びかかる。痛烈な猛攻を回避するザフィーラにフォルファが追撃を狙い、ザフィーラは即座に障壁を展開する。
だがフォルファの電撃は障壁を打ち破り、その爆発でザフィーラが再び後退する。魔力の浪費を抑えるため、フォルファはスパーキングオーラを解除する。
「オレを行かせてくれ!これ以上、こんな戦いを続けている場合ではないし、意味はない!」
フォルファがザフィーラに言い放ち、仁美の魔力を察知して向かおうとする。だがそこへライム、ラーク、アルフが駆けつけ、アルフが前線に出てきた。
「この前の決着、着けられそうかな?」
「アンタもそこをどいてくれ!でないと仁美が、ユウキが!」
必死に呼びかけるフォルファだが、アルフは退こうとせず身構えた。
“Schlangeform.”
“Twist blade.”
再び刀身を分割したレヴァンティンと光刃が鞭のような動きを見せるシェリッシェルが衝突する。幾度も火花を散らし、互いにその刀身を絡め合う。
引き合いに持ち込まれた戦況で、シグナムとユウキが互いに踏み込む。だがユウキの底知れぬ潜在能力に、シグナムは次第に追い込まれていた。
魔力を圧縮したカートリッジを装てんして、そこから爆発的な威力を発揮する従来のベルカ式カートリッジシステムとは違い、三種の神器は主の魔力を弾丸の形に固形化して装てんする。つまり使い手である主の魔力が続く限り、カートリッジは無尽蔵にもなりうるのである。
(戦況は互角のように感じられるが、向こうはデバイスの威力が落ちない。このままでは私のほうが不利になる。)
レヴァンティンの刀身を引き戻して、シグナムがユウキを見据えたまま、打開のために考えを巡らせる。
(ボーゲンを駆使して、遠距離からの攻撃を仕掛けるしかない。仮に向こうも遠距離攻撃を仕掛けてきても、対処は可能だ。)
シグナムはユウキとの距離を取り、新たな戦術を取ろうと身構える。
「待って、シグナムさん、ユウキさん!」
そのとき、レイジングハートを手にしたなのはが、2人の間に割って入ってきた。彼女の介入に2人が当惑を見せる。
「ユウキさん、やめて!今はこんなことしている場合じゃないよ!」
「邪魔しないでくれ、なのはちゃん!シグナムたちが、仁美を・・・!」
なのはの悲痛の叫びに対して反論し、ユウキがシェリッシェルを構える。その間にシグナムは、戦況を後方から見守っているシャマルとの連絡を行っていた。
(状況はあきらかに不利。シャマル、ユウキのリンカーコアを捕獲して、魔力を抑え込んでほしい。)
“やってみるけど、ユウキさんに大きな負担をかけることに・・”
(仮にも三種の神器に選ばれし者だ。そう簡単に負けはしない。)
心配を感じているシャマルに、シグナムが笑みを浮かべて答える。その言葉を受け入れて、シャマルは自身のデバイス「クラールヴィント」を起動させる。
“Pendelform.”
指輪に収められていた石が分離して魔力を発し、特殊魔法「旅の鏡」を発動させる。空間を歪めてつながったトンネルから、シャマルがユウキのリンカーコアを狙う。
だが三種の神器の魔法大覚醒によって魔力が膨大に高められているリンカーコアは、シャマルの接触を拒む。強いショックを受けてシャマルは思わず手を引く。その右手は火傷のように傷ついていた。
(ダメ、シグナム。ユウキさんの魔力が強すぎてリンカーコアに触れることもできない・・・)
傷ついた右手を押さえて、シャマルがシグナムに連絡する。
「魔法大覚醒で引き上げられている魔力を抑えることは、生半可な手段では不可能だ。」
そのとき、シャマルは背後から声をかけられた。振り返らずにいる彼女の背後には、剣の形状のクリンシェンを手にしている庵がいた。
「三種の神器と対するお前たちヴォルケンリッターは、少なからず魔力を消費する。それこそ、ヘクセス様が高みへと上る好機。」
「みんな、危ない!魔女が狙ってるわ!」
庵の言葉を受けてシャマルがシグナムたちに呼びかける。それを受けて魔女の奇襲を予測して身構えた。
だが魔女が狙ったのは、奇襲に備えるよう促したシャマルだった。戦闘向きの騎士の魔力を狙っていたヘクセスだが、奇襲する隙をなくされたため、標的を変更したのである。
別空間から現れた手がシャマルの胸を貫く。手は当惑を見せる彼女からリンカーコアを引き抜いた。
「愚かな・・それで仲間をかばったつもりか・・・お前のしていることは、わらわの前では意味のないこと・・」
「これって・・・!?」
語りかけてくる魔女の不気味な声に驚愕を見せるシャマル。彼女からリンカーコアを取り出し、手は姿を消した。
魔力の根源を奪われたシャマルの体が、光を宿している胸元から灰色に染まっていく。
「光栄に思うがいい。ヘクセス様の人柱となれることを・・」
動揺をあらわにしているシャマルに言い残して、庵は姿を消した。シャマルの体を蝕む石化は、彼女の手足の先まで及んでいく。
「みんな、気をつけて・・・魔女は・・私たちの・・・」
仲間たちに呼びかけようとしながらも、シャマルは完全に石化に包まれた。
ユウキとの戦いを中断したシグナム、仁美をフェイトに任せたヴィータが、シャマルの危機を察知して急いでいた。その場所へと駆けつけた2人は、変わり果てたシャマルの姿を目の当たりにした。
「これは・・・!?」
シグナムが動揺の色を隠せなかった。リンカーコアを抜かれたシャマルは灰色の石像と化していた。
次回予告
深まる闇と困惑。
ヘクセスの魔手が、ついに騎士にも及んだ。
すれ違いの広がる中、つかの間の休息を楽しむなのはたち。
庵、仁美のために、ユウキはある覚悟を決める。
心が集まりし花園、けがす者と守る者・・・