魔法少女リリカルなのはSchlüssel
6th step「ETERNAL BLAZE」
ユウキ、仁美、フォルファの前に現れた青年。それは京野庵だった。
「庵・・ホントに庵なのか・・・!?」
「仁美、ユウキ、久しぶりだね・・・いろいろ迷惑をかけてしまったようで・・すまない・・・」
当惑を見せるユウキと仁美に、庵が謝罪の言葉をかける。
「今までどこに行ってたのよ、お兄ちゃん・・・私、ずっと待ってたんだからね・・・!」
悲痛さを隠し切れず、仁美が庵に向けて叫ぶ。
「本当にすまなかった・・でも仁美、これだけは分かってほしい。たとえどんなに離れ離れでも、オレは仁美やユウキ、みんなのことを思っていた・・・」
庵の言葉を受けて、仁美は涙ながらも喜んだ。だがユウキは笑みを見せず、庵に問いかけた。
「今までどこに行ってたんだ?・・それに、お前がオレにくれたこのペンダントを含めて、お前にはいろいろ聞きたいことがあるんだ。」
「ユウキさん!お兄ちゃんは旅をしてきて疲れてるんだからね!」
そこへ仁美がユウキを呼び止める。すると庵が笑みをこぼす。
「いいんだよ、仁美。確かにオレが渡したペンダント、シェリッシェルのために、ユウキたちを危険に巻き込んでしまったのは事実なんだ。ユウキがオレに聞きたがるのもムリのないことだ。」
「いや、オレのほうこそ、いきなり悪かった・・・とにかく家に行こう。話はそれからだ。」
互いに言葉を掛け合う庵とユウキ。彼らはひとまず京野家に移動することにした。
クロノに奇襲を仕掛け、突如として姿を消した庵。彼をかばおうとするライムと、彼を敵と見なしているはやてが対峙していた。
「騎士たちに負けて倒れた僕を助けてくれたのはあの人、庵さんだったんだ・・庵さんは絶対敵なんかじゃないよ!」
「せやったら、何であの鎧たちと一緒に現れて、クロノくんを攻撃したりするんや!?」
互いに自分の感情を込めて言い放つライムとはやて。
「きっと何かわけがあるはずだよ!まず話を聞いてからでも!」
「私も庵さんのことは知ってますわ。でも庵さんが、無闇に誰かを傷つけるような人やろか・・・!?」
2人の意見は折り合うことがなく、思いがすれ違っていく。そしてその交錯はついに、一触即発の状況へと発展する。
「待つんだ、2人とも!」
そんな2人を呼び止めたのはクロノだった。彼の呼びかけにライムとはやてが振り向く。
「対立している場合じゃない!今は一刻を争うときなんだぞ!・・早くユウキたちを見つけて、三種の神器の回収を急ぎ、魔女の行方を見つけ出さないと・・・!」
クロノの言葉を受けて、ライムもはやても戦意を治める。対立しそうになった2人に、ラークも動揺を隠し切れなくなっていた。
騎士としての姿を大河に見られたシグナムとヴィータ。当惑を押し殺して、大河はシグナムたちに声をかけた。
「それはどういうことなの・・いわゆるコスプレってわけじゃなさそうね・・・」
「藤村先生、これは・・」
「ストップ。これ以上何も言わない。」
シグナムが言いかけたところで、大河が人差し指を見せて呼び止める。
「あなたたちが何者なのかは気になるけど聞かない。でもね、はやてちゃんや他のみんなが迷惑をかけることは許さないからね。」
「アハハ・・けっこういいとこあるじゃねぇか、タイガー。」
「ヴィータちゃん・・・」
ぶっきらぼうに言いかけるヴィータに、大河がものすごい形相を見せる。
「ふじむらせんせーってよばなきゃ、せんせーほんきでおこっちゃうぞー!」
ある意味迫力のある大河に、ヴィータは一瞬唖然となっていた。その様子にシグナムは思わず微笑みかけていた。
「それにしても、まさか本物の剣士さんたちだったなんてねぇ・・どうりで私が勝てないわけね。」
「そんなことはありません。藤村先生もなかなかの筋で・・」
笑みを見せる大河に、シグナムが照れ隠しに微笑む。
「とにかく、不測の事態ってヤツに変わりはねぇ。シャマルたちに連絡入れとかねぇとな。」
ヴィータの言葉にシグナムも頷く。
「一緒に来てください。指示を仰ぎますので。」
シグナムの言葉に大河は従うことにした。
庵との再会を果たしたユウキと仁美は、京野家に戻ってきた。久方ぶりの実家に、庵は懐かしさを覚えていた。
「ホント・・こうして3人で帰ってくるのは久しぶりって気がするよ。」
「あ・・そうだな・・・」
笑みを見せるユウキに、庵は戸惑いを浮かべながら答える。
「今はいろいろゴタゴタしてるけど、落ち着いたら大パーティーを開かないとな。」
「もちろんだよ。これからはオレとユウキ、仁美と、みんなでずっと一緒に暮らしていくんだ。それと、えっと・・」
庵はフォルファに眼を向けて言葉を濁す。
「オレはフォルファ。仁美やユウキを巻き込んでしまったことは本当にすまないと思っている。」
「いや、気にしないでくれ。元々はオレが引き起こしたことなんだ。オレが・・・」
互いに自分を責めるフォルファと庵。そこへユウキが口を挟む。
「2人とも自分を責めないでくれ。問題は、これからどうするか、だから・・・」
「そうだな・・・父さんの書斎に、旅の記録の中に、三種の神器に関することが書かれているかもしれない・・・」
庵の言葉にユウキ、仁美、フォルファが頷き、家へと向かった。
家の中に入って、庵が微笑んでいた。再び懐かしさを感じているのだとユウキは思った。
そして仁美と庵の父、蓮の私室と書斎に入ったユウキたち。掃除のために訪れることはあったが、深く詮索することはなかった。
「相変わらずって感じがするな。本と調査書の山だ。」
「あぁ。帰ってきてもすぐにここに閉じこもって調査の整理をしている人だったから。」
ユウキも書斎を見回して苦笑いをこぼす。
「思い出に浸るのもいいが、今は情報が必要だ。」
フォルファの言葉を受けて、ユウキたちは本や書類を捜索し始めた。ほとんどが旅の記録であり、父親の不器用な感想に仁美は思わず笑みをこぼしていた。
そしてユウキが、ある数枚のレポートを見つけて眼を留める。その様子に仁美たちも彼に寄っていく。
ユウキはそのレポートを読み上げていった。それはユウキ、仁美、庵に向けられた内容だった。
庵、仁美、ユウキ、お前たちがこれを読んでいるということは、おそらく奇妙な出来事に巻き込まれていることだろう。それも、膨大な力を所有してしまったということだろう。お前たちの周り、そしてお前たち自身に起こっている事件は、三種の神器と呼ばれる3つの武具が大きく関連している。三種の神器はかつて、異世界から破滅をもたらすために現れた魔女を封じ込めた代物でもある。私は三種の神器の秘められた力に関して、数年の年月をかけて調べてきた。そして私は、強大な力を備えた魔女の封印を成功に導いた、三種の神器の秘められた力の謎を知ることとなった。三種の神器に選ばれた者は、そのポテンシャルに関わらず、強大な力を解放する。だがその強大さに心身を脅かされ、その者を殺人鬼に変貌しかねない諸刃の剣でもある。故にある一族によって長年、三種の神器は保管され続けている。だが魔女は封じ込められる瞬間、こんなことを言い残していたそうだ。必ず蘇り、世界を破滅へと導くために再び姿を現す、と。庵、仁美、ユウキ、私はお前たちが危険に巻き込まれることを快く思ってはいない。だがもしもその危機に立ち向かう決意を持ったのならば、三種の神器を守護する者と、それの使い手と協力して、魔女を打ち倒してほしい。お前たちがどの道を選ぶかは、お前たち自身に委ねる。だが必ず、生きて幸せになることを、私は切に願っている。
「使い手って・・オレたちがその使い手になってしまったんだけど・・・」
蓮からの思いを読み返して、ユウキは皮肉めいた笑みをこぼす。
「それにしても、お父さんはどうやって三種の神器のことを知ったんだろう・・・?」
仁美が蓮の調査に対してひとつの疑問を覚えた。三種の神器の魔法大覚醒によって膨大な魔力を得たユウキや仁美はともかく、蓮に三種の神器の詳細を知る術がない。
「庵、何か知らないか?その様子だと、お前も三種の神器に関わりがあるみたいだから。」
「い、いや・・確かにオレもお前と仁美と同じ三種の神器に選ばれてはいるが・・父さんがなぜ三種の神器の存在を知ったのかまでは・・」
ユウキの問いかけに庵は言葉を濁した。そんな庵の言動に、フォルファは一途の疑念を抱いていた。
シャマルへの連絡を終え、シグナムとヴィータは大河とともにマンションに戻ってきていた。突然の大河の登場に、なのはたちは驚きを隠せなかった。
「あらぁ・・まさかなのはちゃんやはやてちゃんたちまで・・・」
そして簡単に事情を聞いた大河が、思わず感嘆の声を上げていた。
「こういうアクシデントは、どこへ行っても付きまとうものですね。できれば、これ以上関わらないほうがいいと私たちは判断しますが・・」
事情を知ったリンディが大河に言いかける。大方の事情を受け入れた大河は大きく頷いてみせた。
「確かに私には手に余ることのようね。でもね、いくら成績優秀でも、まだ小学生の女の子を捕まえて、事件に関わらせるのはどうかと思うんだけど・・」
「大河先生の言うことは最もです。できることなら、部外者を関わらせることはしたくありません。でもなのはさんもフェイトさんも、自分の意思で事件解決のために動き、全力を尽くしているのです。彼女たちのその気持ちを、無碍に拒むことはしたくありません。」
リンディの見解を受けて、大河は再び頷いた。
「そうね。自分の意見を尊重するのが1番だもんね。分かったわ。私は手を引く。でもリンディさん、あなたがしっかりなのはちゃんやはやてちゃんたちを保護しなさいよ。何かあったら承知しないから。」
「分かっています。ここは私たちにお任せください。」
念を押してくる大河に、リンディは笑顔で答えた。
「それで、お願いになるんですけど、すずかさんとアリサさんを送ってもらえませんでしょうか?」
リンディの申し出を、大河は気兼ねなく引き受けた。はやてがライムを追って、すずかとアリサがここを訪れていたのだ。
「そのくらいなら任せなさい。高校教師を甘く見ないでちょーだい♪」
大河は機嫌よさそうにリビングを出て行った。その直後、アンナが入れ違いにリビングに入ってきてきた。
「ホント、予想外なことばかりですね。まぁどこへ行ってもそういうものは付きまといますけどね。」
「そうね。こういう仕事だから慣れてはいるんだけど・・・」
互いに笑みをこぼして言葉を交し合うアンナとリンディ。だが2人とも真剣な面持ちになる。
「私たちより先に、三種の神器や魔女に関する調査を進めていた人物がいました。」
アンナがリンディに報告を伝える。遅れてリビングにやってきたクロノ、エイミィ、シルヴィアも話に耳を傾ける。
「調査チームを先導していたのは2名。1人は管理局本局の提督。もう1人はこの世界の人間でした。提督の友人であったため、その人間は他の次元世界や、三種の神器の存在を知ったようです。両名の名は、神楽悠二(かぐらゆうじ)、京野蓮。」
「神楽・・京野・・まさか!?」
アンナの報告を聞いたクロノが声を荒げる。
「そう。ユウキさん、仁美ちゃんのそれぞれの父親なのよ・・・」
アンナの言葉を受けて、エイミィもシルヴィアも困惑を隠せなかった。
「特務艦“エモース”。特別任務を請け負う特務艦の1隻だったエモース、およびその艦長を務めていた神楽提督は、真っ先に魔女の復活を予測して行動を開始していました。だが10年前、提督はエモースとそのクルー共々・・・」
アンナは唐突に言葉を濁した。リンディたちにはその続きが分かっていた。悠二は殉死したことを。
「何者かの襲撃を受けたことは確かなのですが、それが何者なのかは現在も分かっていません。別次元からの干渉を受けたことは確かです・・おそらく・・」
「魔女の仕業・・・」
奇怪な事件の裏に魔女の存在が明確になってきていることを、リンディたちは察していた。
そのとき、レーダーが警告音を発し、エイミィがキーボードの前に駆けつけ、画像を確認する。映し出されている画像には、異様な魔力が集束している街の上空があった。
「膨大な魔力エネルギーが、海鳴町の中心に集まっています!」
エイミィが報告した直後に、なのは、フェイト、ライム、ユーノ、アルフ、ラークがリビングに駆け込んできた。
「リンディさん、ジャンヌちゃんが先に行くって!また鎧の仕業かもしれないって!」
なのはの声にリンディは頷き、エイミィに眼を向ける。
「三種の神器が発動された形跡は?」
「現段階では反応がありません!」
リンディの声にエイミィが答える。
「街に被害が出ないよう結界を展開!なのはさんたちも現場に向かってください!」
「分かりました!」
リンディの指示を受けて、なのはたちも動き出した。それぞれの待機状態のデバイスを掲げる。
「レイジングハート!」
「バルディッシュ!」
「クリスレイサー!」
デバイスを起動させ、バリアジャケットを身にまとったなのは、フェイト、ライム。彼女たちが飛行して街に向かったのを見送って、リンディがさらに指示を出す。
「はやてさん、ヴォルケンリッター、クロノ執務官はこの場で待機。別地区での襲撃に備えます。」
「私も現場に向かいます。できる限り接近して魔力の発生源を突き止めます。」
アンナも自分の戦いに赴くため、行動を開始した。
街に発生した魔力を、ユウキ、仁美、庵、フォルファも感知していた。
「また、あの鎧たちが現れたのか・・・」
ユウキが窓から外を見つめて呟く。
「とにかく行ってみよう。なのはちゃんたちが向かってると思うから。」
「なのはちゃん?なのはちゃんがなぜ・・?」
ユウキの言葉に疑問を投げかける庵。ユウキは庵と仁美に眼を向けて答える。
「実はなのはちゃんは、魔法使いなんだ・・ミッドチルダのデバイスを持ったなのはちゃんは、親友を守るために戦っているんだ・・・!」
「そうか・・・とにかく街へ行こう。鎧を何とかすることが先決だし、なのはちゃんたちと合流できるかもしれない。」
ユウキの言葉に庵が頷く。しかし仁美は沈痛な面持ちを浮かべたままだった。
「私、行かないよ・・・」
「仁美・・・!?」
仁美のこの言葉にユウキが眉をひそめる。
「私は望んでこんなことに関わっているわけじゃない。むしろこんなことに巻き込まれて迷惑してるのよ・・だから私はこれ以上、危険なことに関わりたくない・・・」
「仁美・・・」
悲痛さを隠せないでいる仁美に、ユウキも困惑を感じていた。なのはやフェイトたちと違って、仁美は望んで魔法を手に入れ、戦いに赴いたわけではない。
望んでいない戦いに引っ張り出すのは酷以外の何事でもない。ユウキは仁美を連れて行く気持ちにはなれなかった。
「分かったよ・・仁美、君はここにいるんだ。オレも庵も、すぐに戻ってくるから・・・フォルファ、仁美を頼む。ここにアイツらが現れないとも限らないから。」
「あぁ。仁美はオレが見てるが、アンタたちも危険だと感じたらすぐに避難することを考えるんだ。」
フォルファの注意に頷いてから、ユウキと庵は家を飛び出した。2人を見送りながら、フォルファは庵に対して疑念を抱いていた。
魔力の発生と鎧たちの出現を察知して先行したジャンヌ。武具を構えている鎧たちを前にして、ジャンヌは透き通った透明の宝石を取り出した。
「アンナが新しく製作してくれた、私の新しい友達・・・行くよ、シャイニングソウル!」
“Drive ignition.”
ジャンヌの呼びかけを受けて宝石が答える。宝石が杖へと形を変え、同時にジャンヌが白と黒に彩られたバリアジャケットを身にまとう。
ジャンヌ専用の新たなデバイスとしてアンナが開発した魔導師の杖「シャイニングソウル」。かつてジャンヌが使用していた地のデバイス「デッドリーソウル」をベースにしたインテリジェントデバイスである。強大な次元衝動をももたらした時間凍結の効果はない代わりに、ベルカ式カートリッジシステムと膨大な魔力を備えている。
「シャイニングソウル、カートリッジロード!」
“Load Cartridge.”
シャイニングソウルが魔力を込めた弾薬を装てんする。膨大な魔力を備えた杖を構えて、ジャンヌは鎧たちを見据える。
“Trans wave.”
ワンダーフォームのシャイニングソウルから衝撃波が放たれる。超音波を受けた鎧たちがその衝撃で崩壊し、消滅していく。
「シャイニングソウル、次行くよ。インパルスシューター!」
“Impulse shooter.”
シャイニングソウルを掲げたジャンヌの前に数個の見えない弾丸が出現する。かすかな空気の揺らぎだけが、弾丸の位置を示していた。
「ショット!」
ジャンヌの呼びかけを受けて、弾丸がいっせいに発射される。弾丸は鎧たちを次々と撃ち抜いていく。
次第に後退を始める鎧たちを見据えながら、ジャンヌはひとまず攻撃の手を休める。そこでなのはたちが到着し、ジャンヌの横に並ぶ。
「ジャンヌちゃん、大丈夫!?」
「うん。もう少しで全部倒せそう。」
なのはが声をかけると、ジャンヌが微笑んで頷く。
「この鎧たち・・伝説の魔女が仕掛けているらしいって・・」
フェイトの言葉に、なのはたちは鎧たちを見据えて考えを巡らせる。そのとき、鎧たちの後方を駆け込んでくる2人の青年を目撃して、なのはが眼を見開く。
「ユ、ユウキさん!」
「あれは・・なのはちゃん!」
ユウキと庵に向けてなのはが呼びかけ、またなのはたちを見つめたユウキも呼びかける。その直後、鎧たちは一目散に姿を消していった。
ひとまず戦いが終わり、なのはたちが戦意を解く。その中でライムとラークが庵に駆け寄った。
「庵お兄ちゃん、この前は本当にありがとうございました。」
ラークが庵に笑顔を見せて一礼する。すると庵は微笑を浮かべて答える。
「気にしなくていいよ。傷ついた人を助けるのは当然のことだから。」
「何にしても、僕たちを助けてくれたんだから・・ありがとうね。」
ライムも庵に感謝の言葉をかける。そしてライムが真剣な面持ちを見せる。
「庵さん、ユウキさん、あなたたちは三種の神器のマスターなんですよね?」
「まぁ、これでもね。もっともユウキはオレが招いてしまったことだが・・」
ライムの問いかけに庵はぶっきらぼうに答える。そこへアンナが遅れてなのはたちの前に現れた。
「今回の事件、あの伝説の魔女が大きく関連している。」
「魔女・・・」
アンナが口にした言葉にユウキが深刻な面持ちを浮かべる。
「魔女を迎え撃つためには、三種の神器が必要となってくるはず。それぞれのデバイスを使って戦えとは言わないけど、せめてデータ分析のために協力をしてほしい。」
「それは、構いませんが・・」
「なぜこのようなことを・・・?」
アンナの言葉をユウキは受け入れようとしていたが、庵は疑問を返してきた。
「再び魔女の脅威が迫ろうとしている可能性が濃厚になってきている。対策考案のために、私たちアースラに・・」
アンナが庵に頼み込み、続いてユーノも庵に呼びかける。
「みんなを守るために、魔女を再び封印、あるいは撃退しなくちゃいけない。」
「魔女・・?」
庵が再び眉をひそめる中で、ユーノはさらに続ける。
「魔女は全ての世界の破滅を目論んでいます。だから三種の神器の力を合わせて・・」
「そういうことか・・・そんなことはさせはしない。このオレが。」
庵が冷淡な態度を見せた瞬間、どこからともなく現れた手がアンナの胸を貫いた。
「アンナさん!」
声を荒げるクロノ。彼らの眼の前で、手はアンナの体から光り輝くものを取り出した。彼女のリンカーコアである。
しかし本来のリンカーコアと違い、手から抜き取られたアンナのそれは、彼女の魔力光と同じ色の水晶のような形状をしており、中には裸体の彼女が眠るように閉じ込められていた。
この事態に動揺を隠せなくなるアンナ。だが彼女やなのはたちの驚愕はこれからだった。
アンナの体が、胸元から徐々に灰色に変色し始めていた。同時に体の自由が利かなくなり、アンナは愕然となる。
「これはまさか・・・庵さん、あなたは・・!?」
アンナが庵に呼びかけると、庵は剣のペンダントを取り出し、掲げてみせる。
「目覚めろ、クリンシェン!」
“Zieh!”
庵の呼びかけを受けてペンダントが答え、形状を剣へと変えていく。その剣を手にした庵の髪が黒から白に変わる。
「たとえ上級の魔導師や騎士が向かってこようと、ヘクセス様を脅かすことはできない。」
「庵、どういうことなんだ!?いったい・・!?」
庵の言動にユウキが声を荒げる。しかし庵は顔色を崩さず、ユウキに振り向く。
「ユウキ、オレはヘクセス様に仕える魔導騎士なんだ。そして三種の神器を持ち出そうとしたのもオレだ。」
庵が口にした言葉に一同が驚愕する。その間にも、アンナの体は手足の先まで石化が及び、首から上を侵食しようとしていた。
「アンナさん、しっかりして!」
ライムが呼びかけると、アンナは笑みを作って言葉を返す。
「ライム、なのはちゃん・・先輩に報告して・・今回の事件は、魔女の仕業だって・・・」
なのはたちに言葉を残して、アンナは完全に石化に包まれた。彼女は微動だにしない石像と化してしまった。
「アルフ、すぐにリンディ提督のところに行って。」
「分かったよ、フェイト。アイツは任せたからね。」
フェイトの指示を受けてアルフが頷き、狼形態となってリンディの元へ急いだ。彼女を見送ってから、フェイトは庵に視線を戻す。
「ユウキさんの親友、仁美のお兄さんであるあなたが、なぜ魔女の味方をするの?」
落ち着きを保ったまま、フェイトが庵に問いかける。庵は顔色を買えずに彼女たちに答える。
「オレはこの乱れた世界に絶望している。だからオレは魔女に仕え、世界の破滅を見据えているんだ。」
「世界の破滅!?・・何寝ぼけたこと言ってるんだよ、庵!オレたちが過ごしてきた思い出の場所を、何もかも壊すつもりかよ!?」
庵の言葉にユウキがたまらず叫ぶ。しかし庵はユウキの言葉に答えず、三種の神器「クリンシェン」を高らかと掲げる。
「来い、リスター!ここにいる魔導師たちを一掃しろ!」
“yes, sir.”
庵の呼びかけを受けて、異空間から巨大な鎧が降り立った。今までのものとは違い、強度な装備を搭載していた。
「待て、庵!お前はみんな壊しちまうつもりなのかよ!・・この世界を、仁美を!」
ユウキが庵を呼び止めるが、庵はきびすを返してその場を立ち去っていく。ユウキは苛立ちをあらわにして、庵の肩をつかむ。
だが庵はユウキのその手を払い、転移魔法を使用してその場から姿を消してしまった。ユウキは当惑を覚え、しばらくその場を動くことができなかった。
街中で発生した膨大な魔力をフォルファも察知していた。しかもそれが邪悪な魔力と、三種の神器の魔力であることにも気付いていた。
「これはクリンシェンの魔力・・それと、魔女の・・・!」
フォルファが魔女の出現に息を呑む。
「フォルファ・・・?」
仁美が沈痛さを拭えないまま、フォルファに声をかけた。
「仁美、君のお兄さんが、三種の神器の力を発動させた。それと、同じ場所から魔女のものと思しき魔力も現れた・・」
「それじゃ、お兄さんとユウキさんが・・!」
「オレも街に向かう。仁美ちゃんはここにいて。2人を連れて、すぐに戻るから。」
フォルファは仁美に呼びかけてから、魔力が発せられた街の中心へ急いだ。
一方、庵が呼び出した鎧「リスター」と交戦していたなのはたち。しかし今まで戦ってきた鎧たち以上に、リスターの戦闘力は強大で、なのはたちは苦戦を強いられていた。
“Haken form.”
“Blade mode.”
フェイトが金色の鎌へと形を変えたバルディッシュを振り下ろし、ライムが光刃を出現させたクリスレイサーを振り下ろす。しかしリスターは魔力のオーラを展開して防御力を上げ、2人の攻撃を受け切る。
そしてオーラは無数の光刃となってリスターの鎧から突き出し、フェイトとライムを突き飛ばす。
体勢を立て直して再びリスターを見据えるフェイトとライム。そのリスターに向けて、なのはとジャンヌが狙いを定めていた。
“Buster mode. Drive ignition. ”
“Buster form.”
それぞれ砲撃形態へと変化するレイジングハートとシャイニングソウル。
「ディバインバスター!」
「インパルスブラスター!」
2人の放った桜色と透明の砲撃がリスターに向かう。それに対しリスターは右手を掲げ、魔力の砲撃を放って受け止め、2人の砲撃の軌道をそらす。
「何て力なんだ・・なのはたちの魔法が、通じないなんて・・・!」
リスターの戦闘能力にユーノも脅威を覚えていた。
「みんな下がって!僕が撃ち抜くから!」
“Launcher mode.”
クリスレイサーを砲撃形態に変えて、ライムがなのはたちに呼びかける。同時にラークが疾風の拘束魔法「ウィンドバインド」を発動する。
渦巻く風の障壁に動きを封じられたリスターに狙いを定めながら、ライムは魔力を集束させていた。自分やクリスレイサーだけでなく、周囲に散らばっている魔力の粒子さえ彼女は集めていた。
「これって、スターライトブレイカー・・!?」
「そうだよ。これはスターライトブレイカーを基にした砲撃魔法。魔力チャージを早めている違いはあるけどね。」
驚くなのはに微笑みかけて、ライムは砲撃に備える。
「これが僕の新魔法、スターダストミーティア!」
魔力を集束させた砲撃を解き放つライム。「スターダストミーティア」は、なのはの最大級の砲撃魔法「スターライトブレイカー」を基にした魔法である。スピード重視のクリスレイサーの特徴を表すように、魔力チャージの時間は短いが、威力はスターライトブレイカーより若干劣る。
膨大な魔力を備えた砲撃がリスターに向かう。だがそのとき、リスターの胸部の装甲が開き、砲撃を放って迎撃する。
2つの砲撃はぶつかり合い、閃光となって相殺する。
「そんな・・僕の魔法を・・・!?」
「ライムのスターダストミーティアが・・・!」
強力な砲撃をはね返されて、ライムとラークが驚愕する。砲撃の衝動でリスターはラークのバインドから解放されていた。
次第に劣勢へと追い込まれていくなのはたちを目の当たりにして、ユウキは困惑していた。
(このままじゃ、みんなやられてしまう・・オレが何とかしないと・・・そして庵を止めるんだ・・・!)
「シェリッシェル、オレに力を貸してくれ・・」
“yes, sir.”
ユウキの呼びかけを受けて、シェリッシェルが答える。鍵のペンダントが起動し、柄へと形を変える。
光刃を出現させたシェリッシェルを振りかざして、ユウキはリスターに飛びかかる。だがリスターは簡単にユウキの振り下ろした光刃を受け止め、弾き飛ばす。
「ユウキさん!」
建物のガラスに突っ込んだユウキになのはが駆け寄る。かすり傷をいくつか負っただけで、ユウキは出血はしていなかった。
「ユウキさん、大丈夫!?」
「なのはちゃん、オレは平気だよ・・・危ない!」
なのはの心配に笑顔で答えたユウキが、リスターの接近に気付いて身構える。
“Shield form.”
シェリッシェルのエネルギー発射口が開き、光の壁を展開する。防御重視のシールドフォームとなったシェリッシェルが、リスターの打撃からユウキとなのはを守る。
だがリスターの痛烈な一撃は、シェリッシェルの「フォースバリア」を突き崩して2人を突き飛ばす。2人は怯み、苦悶の表情を浮かべる。
「なのは!」
フェイトが呼びかける先で、必死に立ち上がるなのは。
そのとき、なのはの持つレイジングハートと、ユウキの持つシェリッシェルが反応を見せる。何らかの交感があったと思い、なのはとユウキがそれぞれのデバイスに眼を向ける。
「えっ・・・?」
「これは・・・?」
「シェリッシェルを近づけるんだ!」
動揺を見せている2人に向けて声が発せられた。なのはたちの前に、稲妻のごとく速さで降り立ったフォルファが呼びかけたものだった。
「ユウキ、シェリッシェルは他のデバイスを強化するブースターの役割も担う!シェリッシェルを、その子のデバイスに組み込むんだ!」
フォルファの呼びかけを受けて、なのはとユウキが互いに眼を向けあい、頷き合う。そしてユウキはなのはにシェリッシェルを手渡す。
“Stand by ready.”
そのとき、なのはのレイジングハートが今までにない反応を見せる。なのはを通じて、レイジングハートとシェリッシェルが共鳴していたのだ。
なのはは2機のデバイスを接触させる。するとシェリッシェルがレイジングハートとの結合を果たす。
“Awakening.”
“Drive ignition.”
シェリッシェルとレイジングハートが新たな起動を開始する。三種の神器の力を得て進化への鍵を開けたデバイス「レイジングハート・エターナルブレイズ」を構え、なのははリスターを見据えた。
次回予告
なぜ戦いは続いていくのか?
平穏は戻らないのか?
ユウキとシグナム。
仁美とヴィータ。
選ばれし者とベルカの騎士の衝突が、新たな波紋を呼ぶ。
そこへ忍び寄るヘクセスの魔手。
その引き金の引いた先にあるものは何か・・・?