魔法少女リリカルなのはSchlüssel
5th step「ignited」
突然起こったユウキの変化に動揺を隠せないなのはたち。そして遅れて駆けつけたシグナム、ヴィータ、ライム、ラーク、ジャンヌもその変貌を目の当たりにしていた。
「何だ・・何が起こったんだ・・・!?」
「すげぇ魔力だ・・けど、誰の・・・!?」
シグナムとヴィータがユウキから発せられる魔力に驚きを見せていた。彼女たちもジャンヌから事件に関することを聞かされていた。
「ヴィータちゃーん、今日もかわいくていいわね〜・・」
シグナムたちと会うなり、いきなりヴィータに飛びついたアンナ。アンナは男女や動物問わず、かわいいものにすぐ飛びついてしまう癖があるのだ。
抱きついて満面の喜びと笑顔を振りまいてくるアンナだが、ヴィータはうっとうしそうな面持ちを見せていた。
「相変わらずの抱きつき癖だな、アンナ。」
「だって〜、かわいいのを見るとどうも反射的に動いてしまって〜・・」
ムッとしているヴィータに笑みをこぼすアンナ。
「アンナ、そんなことをするためにここに来たんじゃないでしょう?」
「あぁ、そうだったわね。エヘへへ・・」
ジャンヌの声に照れ笑いを見せると、アンナは真剣な面持ちで4人のヴォルケンリッター、そしてライムとラークに語り始める。
はやてとともに闇の書事件の重要参考人として管理局に保護されていたシグナムたちは、彼女たちの保護観察官の手伝いを任されたアンナと会っていた。はじめはいきなり飛びついてきたアンナに、はやても騎士たちも戸惑いを感じたが、話を聞いて共感してくれるアンナに、はやてたちも意気投合し始めていった。
そして今回、各世界で多発している奇怪な事件の調査のため、アンナはこの世界に降り立ったのである。
「そういえば、君たちのかわいい主さんがいないみたいだけど・・?」
「えぇ。はやてちゃんならすずかちゃんたちと一緒ですよ。」
アンナの疑問にシャマルが答える。アンナは少し残念そうな面持ちを見せながらも、アンナは改めて本題に入る。
「多分もう君たちも気付いてると思うけど、最近各地で奇妙な事件が起きている。どの被害者もリンカーコアを抜き取られて、体が石になっている。」
アンナの言葉にシグナムたちが当惑を覚える。
「もちろん君たちの仕業でないことは明白よ。君たちは管理局の管轄下に置かれてるし、何より主を思っているからね。おそらく、伝説の魔女が蘇り、魔力のあるものを襲っているのではないかと・・」
「魔女、そしてそれを封じた三種の神器については、我らも聞き及んでいます。ミッドチルダの魔法と、ベルカの力を兼ね備えた武器と・・」
シグナムが答えるとアンナは静かに頷く。
「魔女の封印後、三種の神器は保管場所を設けて一族にわたって保管してきたけど、ある日突然、保管場所から飛び出してしまった。そしてその3機のうち、2機がこの世界にあり、既にマスターが認定されていることが分かった。」
「そのマスターってのは誰なんだ?・・・まさか・・!?」
ヴィータが質問しかけて思い立つ。シグナム同様、脳裏にユウキと、彼が持っていたペンダントがよぎった。
アンナが答えようとしたときだった。膨大な魔力が発せられ、ライムやシグナムたちがたまらず身構えた。
脅威の魔力を発揮したユウキが、構えている鎧たちに鋭い視線を向ける。
「もうこれ以上、アンタたちの好きにはさせない・・・!」
ユウキが低い声音で言い放つと、手にしていた光刃を振りかざす。光刃は凄まじい勢いで放たれ、その方向にいた鎧たちを一掃する。
そしてユウキは間髪置かずに飛びかかり、鎧たちを次々に両断していく。そしてその猛攻の前に、鎧たちは全滅し、消滅した。
ユウキは広場の中心でたたずみ、ゆっくりと光刃を下げる。その光刃こそ、三種の神器の1機「シェリッシェル」である。
「ユウキさん・・・」
なのはが困惑を隠せないままユウキに問いかける。しかしユウキは振り向かない。
やがてそこへ、騎士服を身にまとったヴォルケンリッターたち、ライム、ラーク、ジャンヌが駆けつけてきた。
「これが、三種の神器の力の発生、魔法大覚醒・・・」
シグナムがユウキを見つめたまま呟く。その声にユウキがゆっくりと振り向く。
「今のオレなら、今のアンタと真っ向から勝負ができるな・・・」
「何っ・・!?」
不敵な笑みを見せたユウキにシグナムが眼を見開く。次の瞬間、彼のシェリッシェルと彼女のレヴァンティンがぶつかり合っていた。
(くっ!・・なんという重さだ・・・!)
次第に押されていく中でシグナムが毒づく。その力に負けて彼女は突き飛ばされる。
「シグナム!・・このヤロー!」
そこへいきり立ったヴィータがグラーフアイゼンを振り上げて飛び込んできた。だがユウキは彼女の接近に気付いていた。
“Raketenform.”
噴射口とスパイクを突き出した鉄槌がユウキに向かって振り下ろされる。だがユウキが振りかざしたシェリッシェルの光刃が、鉄槌の一撃をはね返した。
痛烈な一閃を受けてヴィータが昏倒する。彼女に眼もくれずに、ユウキは立ち上がったシグナムに飛びかかる。
「レヴァンティン!」
“Schlangeform.”
シグナムの呼びかけを受けたレヴァンティンの刀身が分割され、さらなる広範囲での攻撃と鞭のような動きを可能とする。迫ってきたユウキを伸びた刀身が取り囲む。
だがユウキは魔力を解き放ち、向かってきた剣を刀身ごと弾き飛ばす。たまらず刀身を引き戻し、レヴァンティンを元の剣の形状に戻したシグナムに向かって、ユウキがさらに詰め寄る。
強烈な一閃を受けて、シグナムがまたも突き飛ばされる。体勢を崩されて怯んだところへ、ユウキが光刃を突き立てようとする。
「シグナム!」
「ユウキさん!」
はやてが叫ぶ中、ユウキがレイジングハートを駆使してアクセルシューターを発射。振り下ろされようとしていたシェリッシェルの光刃を叩く。
その衝動でユウキが我に返り、戦意を消す。彼は周囲を見回して、自分の置かれている現状を理解しようとする。
「オレ・・何を・・・!?」
ユウキが当惑して記憶を巡らせた。そこへヴィータが鉄槌を振りかざし、彼の体に打ち込んだ。
痛烈な一撃を受けてあえぎ声を上げて倒れるユウキ。不意の一撃によって彼はそのまま意識を失った。手にしていた光刃は元の鍵のペンダントに戻り、彼の髪の色も白から黒に戻った。
「心配すんな、はやて、なのは。ちょっくら気絶させただけだ。」
ヴィータの言葉になのはとはやてが安堵の笑みをこぼす。戦意を抑えたヴィータが、ユウキがいまだに握り締めている鍵のペンダントを眼にする。
「気絶してるっていうのに、まだ強情に持ってるよ。」
ヴィータが呆れながら、ペンダントを取り上げようと手を伸ばした。
膨大な魔力を感知したのは、仁美もフォルファも同じだった。魔力の発生源に駆けつけた直後、フォルファは膨大な魔力を感じて眼を見開いた。
「この魔力は・・!」
「どうしたの、フォルファ・・?」
驚愕しているフォルファに仁美が訊ねる。
「三種の神器の1機、シェリッシェル・・・!」
その言葉に仁美も緊迫を覚える。そんな彼女の眼に、倒れて動かないユウキに手を伸ばす紅い服の少女が眼に留まった。
「ユウキさん・・・!」
仁美はたまらずユウキのところへ駆け出した。
「クライムパーピル!」
“Stand by ready.Drive ignition.”
クライムパーピルを起動させ、仁美は紅いバリアジャケットを身にまとう。ユウキが危機的状況に置かれていると思い、彼女は杖へと形を変えたクライムパーピルを握り締める。
「ユウキさんに何をしてるの!」
“Weapon mode.”
クライムパーピルを槍の形状に変え、仁美は振り返ったヴィータに襲撃を仕掛ける。ヴィータはとっさにグラーフアイゼンでその突きを受け止め、仁美を突き返す。
「仁美!?・・何で、仁美が・・・!?」
驚きを見せるヴィータに、仁美も動揺を見せる。ユウキを襲撃していたのはヴィータであり、彼女は先日見た錯覚での衣服を身にまとっていたのだ。
「ヴィータちゃん、これはどういうことなの!?・・・どうしてユウキさんにそんなことを!」
激情に駆られた仁美にも変化が起こる。ブラウンの髪が紅く染まり、炎を連想させる魔力を身にまとっていた。
「ユウキさんから離れて!」
“Flame shooter!”
仁美がヴィータに向けて炎の弾を放つ。
“Panzerhindernis.”
障壁を出現させてその炎を防いだヴィータが仁美を見据える。普段の気の優しい性格から一変して、攻撃的な雰囲気を放っていた。
「アンタなんかに、ユウキさんを傷つけさせない!」
仁美がいきり立ってヴィータに飛びかかり、形態変化と魔力の上乗せのためにカートリッジを2個消費したクライムパーピルを突き立てる。
「スラッシュランサー!」
膨大な魔力を込めた一閃をヴィータに向ける仁美。たまらずヴィータが掲げたグラーフアイゼンが魔力の刃が突き立てられ、損傷を被る。
「仁美ちゃん、やめるんだ!」
ヴィータを攻め立てる仁美を止めるため、フォルファが飛び込んでくる。だが彼を仁美の加勢だと思い、ザフィーラが彼の前に立ちはだかる。
「銀狼・・ベルカの盾の守護獣か・・・そこをどいてくれ!オレは2人を止めなくてはいけない!」
「そうはいかない。私は主と仲間を守る盾。むざむざここを通すつもりはない。」
フォルファをあくまで通そうとしないザフィーラが一蹴を見舞う。フォルファは即座に構えて受け止める。
「オレは戦いを止めたいだけなのだが・・仕方がない!」
フォルファが両手に力を込めて、魔力の稲妻をまとう。そして電撃の拳をザフィーラに向けて振りかざす。
その頃、ヴィータを退けた仁美は、倒れたままのユウキを抱えてその場を立ち去る。
「仁美さん!」
なのはがたまらず呼びかけるが、仁美には届いていなかった。その様子を見たフォルファがザフィーラを振り切ってこの場を立ち去る。
「あれは、三種の神器を守っている一族の、フォルファ・・・」
「フォルファ・・地獄の番犬・・・」
フェイトが呟いたところへジャンヌが答え、周囲は騒然となった。三種の神器を守護する地獄の番犬がこの世界に来ていることを、この場にいる全員が理解した。
ヴィータからユウキを引き離した仁美は、安全な場所まで移動したところでユウキに呼びかけた。
「ユウキさん!しっかりして、ユウキさん!」
仁美が悲痛さをあらわにしながらユウキに呼びかける。そこへフォルファが遅れて到着した。
仁美に起こされて、ユウキはようやく眼を覚ました。
「ユウキさん、気がついたんだね・・!?」
「ここは・・・仁美・・・仁美・・・!?」
もうろうとする意識をはっきりさせようとしたユウキが、仁美の異様な格好に驚きを見せる。
「仁美、その姿・・・!?」
「仁美も君と同様、三種の神器に選ばれた魔導師になったんだ・・」
仁美のバリアジャケットを目の当たりにしたユウキに、フォルファが説明を入れる。
「彼女を、君たちを巻き込むつもりはなかった。三種の神器は膨大な魔力を得る代わりに、その魔力に振り回される危険が伴うんだ。」
「言い訳はしないでほしいよ・・仁美にこんな辛い思いをさせたことに変わりはないんだ・・アンタの勝手な都合のために、オレたちを巻き込まないでほしいね!」
沈痛の面持ちを見せるフォルファに、ユウキが憤りを感じながらつかみかかった。
「確かに言い訳にしかならないな・・・起こってしまったことを元通りにするのは極めて困難なことだから。」
謝罪の気持ちを込めて答えるフォルファ。ユウキはやるせなさを拭えないながらもフォルファをつかむ手を離す。
「教えてくれ。このペンダントはいったい何なんだ?・・オレの親友からもらったものなんだ。それが、今回のとんでもない事件に関係してるんじゃ・・」
ユウキが真剣な面持ちでフォルファに問い詰める。困惑の面持ちで仁美が見つめてきたところで、フォルファは口を開いた。
「仁美が使っているクライムパーピル、そしてユウキ、君の使ったシェリッシェル、これらはオレたち一族が保管していた三種の神器と呼ばれるデバイスなんだ・・」
フォルファの言葉に、ユウキも仁美も固唾を呑んだ。
「アンナ・マリオンハイト、ただ今をもってアースラに合流させていただきます。」
リンディたちアースラメンバーたちを合流したアンナが、リンディに向けて敬礼する。
「連絡が遅くなってすみません、リンディ提督。すぐに挨拶すべきだったのですが・・」
「いいのよ、気にしないで、アンナ。突然あなたたちが来たから少し驚いたけど・・」
戸惑いを見せるアンナに、リンディは笑顔を崩さずに答える。
「それから、今回の事件の調査に、ジャンヌ・フォルシア、そして小室ライムを加えたいとも考えています。もっとも、2人もラークも、なのはちゃんたちの力になりたいと言って、無理矢理にでも首を突っ込むと思いますが・・」
「なのはちゃんの影響ね。彼女も自分の思っていることを変えないからね。」
互いに苦笑いを浮かべるアンナとリンディ。
そのとき、キッチンのほうから何かが割れる音が響いてきた。
「ゴ、ゴメンなさい!すぐに片付けますから!」
慌しい声がキッチンから聞こえ、アンナがきょとんとなる。
「アースラの新人ちゃん、相変わらずって感じですね・・」
再び苦笑いを浮かべるアンナ。さらに失敗を見せるシルヴィアを見て、クロノ、エイミィ、アルフが呆れ果て、なのは、フェイト、ユーノが苦笑いを見せていた。
「あっ!まだなのはちゃんたちには自己紹介してなかったでしたね。あたしは新しくアースラに乗艦することとなりました、シルヴィア・クリストファです。」
敬礼をするシルヴィアに、なのはたちも微笑んで一礼する。
「楽しい会話をしているところ悪いが、そろそろ本題に入りたいのだが・・」
そこへシグナムが口を挟み、なのはたちが真剣な面持ちになる。
「それじゃ、私のほうからお話をしましょうか。」
アンナが話を切り出し、なのはたちが耳を傾ける。
「今回多発している奇怪な事件についてです。いずれの被害者もリンカーコアを抜き取られ、体が石化しています。そしてその手口は、あの伝説の魔女と酷似しています。」
「魔女・・」
アンナの説明の中で、フェイトが小さく呟く。
「また、事件の関連として取り上げられるのが、“三種の神器”と呼ばれる伝説の3機のデバイスの存在です。三種の神器のうち2機が既にマスターを認証している状態にあるのです。」
「その主が、神楽ユウキであり・・」
「仁美ってわけか・・・」
アンナの説明にシグナムが淡々と、ヴィータが歯がゆさをあらわにして答える。
「その三種の神器の回収のために、保管を続けていた人物、フォルファがこの世界にやってきている。彼は3機を別世界に解き放ってしまったことへの責任を痛感して、独自で回収を行おうとしている。」
「そんな・・いくら責任を感じてるからって、自分たちだけで背負い込もうとするなんて・・・」
アルフがフォルファを思い出して、沈痛の面持ちを見せる。
「そのフォルファさんと話はできないんですか?」
そこへなのはがアンナに問いかけるが、アンナは首を横に振る。
「フォルファはラークのように気配を消すことができる。だから管理局のレーダーにも感知されないのよ。」
「どこかでまた鎧が現れるようなことがなければ、姿を見せる可能性は少ない。こちらは後手後手に回る可能性が高くなる。」
アンナの説明にクロノが付け加える。
「ユウキくんと仁美さん、どちらかを発見できれば・・何にしても、2人を保護しなければ危険が及ぶのは間違いないでしょう。」
リンディの言葉にアンナが真剣に頷く。
「エイミィ、アースラに連絡して、捜索範囲をこの藤見町、およびその周囲に集中させて。シルヴィアも手伝って。」
「分かりました。」
「了解です!」
リンディの指示にエイミィとシルヴィアが答え、行動を開始する。その直後、アンナがきょとんとした面持ちをなのはたちに見せる。
「ところで、あのかわいい主ちゃんはどこに行ったのかな?」
「はやてちゃんなら、ライムちゃんとひばりちゃんが連れて行きましたよ。アリサちゃんとすずかちゃんに、帰ってきた挨拶をしたいんだって。」
アンナの疑問になのはは笑顔で答えた。
光が閉ざされた異空間。その中心にたたずむ少年が、徐々に灰色に染まっていく。
彼はリンカーコアを抜かれ、体が石になっていた。その魔力の源を奪った不気味な影が、動揺する少年を見つめる。
「またひとつ、わらわの力が増した・・そしてまた1人、わらわの闇に堕ちた・・・」
影が不気味に微笑み、無限に広がる闇を見渡した。その闇の中から1人の青年が姿を現した。
「強力な魔力を持った者が、ひとつの世界に集中しているようです。」
「そうだな・・しかも強い魔力だけではない。強靭と呼べるほどの心の強さを秘めている。」
青年の言葉に影が不気味に答える。
「強き心は魔力の潜在に大きく影響する。そしてそれは新たなる力の開花へとつながる。」
「ではその期待すべき力、私が直接確かめてきましょう。」
青年の申し出に、影はさらに笑みを強めた。
「よかろう。そろそろ存分に力を発揮したいだろう。お前の力、魔導師たちにとくと見せてやるがよい。」
「お言葉ですが、私は力の誇示のためにここにいるわけではありません。全てはヘクセス様のためにございます・・・」
青年はそう告げると、魔女、ヘクセスの前から姿を消した。
ラークとともにはやてを連れて外に出かけたライム。3人は八神家にてアリサ、すずかを招きいれ、再会と談話を楽しんでいた。
「もう。ライムもひばりちゃんもいきなりいなくなっちゃうんだから、ビックリしちゃったよ。」
「ゴメン、ゴメン。ちょっといろいろあってね。自分を見つめなおしたくなったんだ。」
ムッとしてくるアリサに、ライムが苦笑いを浮かべて答える。
「でももう迷いがなくなったよ。向こうからまたいろいろあったから・・」
言いかけて、ライムはラークとはやてに眼を向ける。ライムの言ったことの意味が分かっていたため、2人とも笑顔を見せて相槌を打った。
様々な出来事を引き起こした闇の書事件。出会い、別れ、すれ違い、衝突。様々なことが多くの人々の心身に刻まれていった。
そしてライムにも、さらなる高みへの飛躍と向上心をもたらすこととなったのだ。
「それにしても、はやてちゃんとライムちゃんが知り合いだったなんて。」
すずかが微笑んで訊ねると、ライムが照れ笑いを見せる。
「たまたま病院で会っただけだよ。むしろ驚いたのは僕のほうだよ。はやてちゃんがすずかちゃんたちの知り合いだったなんて。」
「これも何かの縁やね。」
ライムの言葉にはやてが頷く。
「ホントだよ。ひばりもはやてお姉ちゃんやみんなと会えて、とってもうれしいよ。」
ラークも笑顔で答え、5人の笑顔が部屋の中に広がっていた。
そのとき、この周辺に結界の展開が行われ、察知したライム、ラーク、はやてが緊迫を覚える。
「アリサちゃん、すずかちゃん、はやてちゃん、用事を思い出したから帰るね。」
ライムははやてたちに言いかけると、すぐに部屋を飛び出した。ラークも続いてライムを追いかける。
2人の慌しい様子に危機感を察したアリサとすずかが振り返ると、はやては何も言わずに頷いた。
結界を展開して街に姿を現した鎧たち。だがその進撃を、バリアジャケットを身にまとい、ストレージデバイス「デュランダル」を構えるクロノが立ちはだかる。
「お前たちが魔女の尖兵であることは分かっている。魔女の居場所、教えてもらう・・・エターナルコフィン!」
“Eternal coffin.”
クロノが掲げたデュランダルから冷気がほとばしり、進撃してきた鎧たちを一瞬にして凍てつかせた。彼が圧倒的な優位を見せたところへ、バリアジャケットを身にまとったライムが駆けつけてきた。
「クロノ・・なのはちゃんとフェイトは?」
「なのはもフェイトも騎士たちも、それぞれの場所で鎧と交戦中だよ。大丈夫とは思うが、念のため援護に向かう。」
ライムの声にクロノが答える。
「分かった。近い順から助けに向かうよ。」
ライムも頷いて行動を開始しようとした。その横でクロノはエイミィに連絡を取っていた。
「エイミィ、状況は?」
“クロノくん。みんな鎧の迎撃に成功しているわ。でも、鎧が出現した根源がまだキャッチできてないわ。”
「分かった。ひとまず集合して、捜索を再開しよう。ユウキたちの行方は・・」
そのとき、エイミィと交信していたクロノが突然の一蹴を受けて突き飛ばされる。
「クロノ!?」
突然の襲撃にライムが当惑し、ラークが驚愕を見せる。壁に叩きつけられながらも、クロノはすぐに体勢を整えて身構える。
3人が見据える先には1人の青年が立っていた。髪は白く、手には1本の剣が握られていた。
(あの剣・・カートリッジシステムが組み込まれている・・ベルカ式か・・・)
「何者だ!?あの鎧たちの仲間か!?」
胸中で模索した後、クロノがデュランダルを構えて青年に問いかける。すると青年は淡々とした口調で声をかける。
「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだな?」
「なぜ、僕のことを・・!?」
青年の言葉にクロノが驚きを見せる。管理局の存在は知っていても、その内情に詳しい人間は外部にはほとんどいない。
「たとえ管理局や高位の魔導師であろうと、オレたちの邪魔をすることはできない・・」
「あなたは・・まさか・・・!?」
淡々と告げていた青年に向けて、ライムが戸惑いを見せたまま声をかける。
そのとき、青年に向けて閃光が放たれる。だが青年は回避行動を取らず、剣を振りかざして閃光を弾き返す。魔力の弾丸を装てんしていた効果もあり、剣は閃光の迎撃に成功している。
振り返ったライムが、杖を構えているはやてを目撃する。クロノを襲撃したことで青年を敵と見なしたはやては、直射魔法「ラグナロク」を放射したのだった。
「あなたがみんなを襲ってる人なんか!?」
「闇の書の主としてその力を開花させたようだね、はやてちゃん。」
言い放つはやてに、青年が微笑んで答える。その返答にはやても当惑を見せる。
「待ってくれ!この人は悪い人じゃない!」
そこへライムが悲痛さを込めて叫び、青年とはやての間に割って入る。それを見越してか突如青年はこの場を立ち去った。
とっさに追いかけようとしたはやてだが、ライムに行く手をさえぎられてしまう。
「ライムちゃん、これはどういう・・!?」
「待ってよ、はやてちゃん。あの人は、僕を助けてくれた人なんだ・・・」
ライムの口にした言葉に、はやては動揺を隠せなかった。
別の地点で鎧たちを撃退したシグナムとヴィータ。ひとまず気を落ち着けてから、シグナムはシャマルと交信していた。
「シャマル、こちらは完了した。他はどうだ?」
“大丈夫。ザフィーラもなのはちゃんたちも無事よ。管理局から集合がかかってるわ。”
「分かった。私たちもこれから戻る。」
シャマルとの通信を終えて、シグナムが視線を移すと、ヴィータも頷いてみせる。
「手ごたえのねぇ連中だったな。これじゃ体がなまっちまうよ。」
「文句を言うな。強い相手なら、模擬戦で丁度いい相手がいるだろう。」
愚痴を言ったところにシグナムに口を挟まれ、ヴィータは不機嫌そうに振舞う。
そのとき、近くで物音が響き、シグナムがとっさにレヴァンティンを構える。だがその先の道の真ん中に立っていたのは、当惑を見せている大河だった。
「藤村先生・・・!?」
シグナムが眼を見開く先で、大河が彼女たちの騎士としての姿に当惑をあらわにしていた。
フォルファから三種の神器について聞かされたユウキと仁美。2人は自分たちが置かれている現状に、困惑を隠せなくなっていた。
「そんな・・・オレたちが・・三種の神器に選ばれたなんて・・・!」
「三種の神器はかつて、強大な魔力を備えていた魔女を封じ込めたデバイスなんだ。3機が別世界に飛び去ってしまったのは、魔女の封印が解かれたことを意味しているのかもしれない・・」
苛立つユウキに、フォルファが困惑を抱えたまま説明を入れる。
「もしかしたら・・」
「えっ・・?」
そこへ仁美が何かを思い出し、ユウキが疑問符を投げかける。
「私のお父さん、旅をしながらよく奇妙なことを調べていたわ。もしかしたら、その記録に何か書かれてるかもしれない・・」
「確証はない・・・だけど、調べてみるに越したことはないか・・・」
仁美の言葉に、ユウキもフォルファも奮い立っていた。
「とにかく、ここで立ち止まっていても何にもならない。家に行こう。」
ユウキの言葉に仁美も頷く。だがその直後、彼女が突然困惑をあらわにする。
「仁美、どうしたんだ・・・?」
気になって振り返ったユウキも眼を見開いた。彼らの前には、1人の白髪の青年が立っていた。
「ま、まさか・・・!?」
「・・・久しぶりだね、仁美、ユウキ・・・」
驚愕をあらわにするユウキたちに、青年が優しく微笑みかける。
「ホントに・・ホントにお前なのか・・・庵・・・!?」
ユウキと仁美には分かっていた。眼の前に現れたこの青年ことが、仁美の兄であり、ユウキの親友である京野庵であることを。
次回予告
突然の帰還。
突然の再会。
ユウキたちの前に現れた庵の登場によって、運命は新たなる展開へと進んでいく。
なのはたちの前に現れるかつてない強敵。
そのとき、三種の神器と呼応したレイジングハートが今、新たな姿へと形を変える。
永遠の炎が、新たな進化へと導く・・・