魔法少女リリカルなのはSchlüssel
4th step「Meteor」
小室(こむろ)ライム。なのはの親友であり、フェイトと対立していた少女である。フェイトと和解したライムは時空管理局の保護を受けず、旅と称して逃走してしまっていた。
その間、使い魔であり妹であるラークとともに様々な場所を巡ってきていた。そして初冬、入院していた母親が海鳴大学病院に移動したと聞き、彼女たちは1度会っておこうと思い、病院を訪れた。
「あら、ライムにひばりじゃない。」
「久しぶりだね、母さん。ここに移動になったって聞いたから。」
母親の言葉にライムが笑顔で挨拶する。ラークは人間の姿でいるときは「ひばり」と名乗っている。
プレシア・テスタロッサ事件に巻き込まれ、記憶を失っていた母親だが、徐々に回復へと向かっている。
「さて、僕たちはそろそろ行くよ。あんまりお邪魔しちゃいけないから。」
母親との対話を過ごしたライムは、ラークとともに病室を出た。病院を出ようと大広場を通ろうとしたときだった。
レモン色の髪をした女性に連れられた車椅子の少女が眼に留まった。
「やぁ。大丈夫かい?足が言うこと聞かないっていうのは、いろいろ大変だと思うけど・・」
「心配してくれておーきにな。私はへーきやで。みんながいるから。」
心配の言葉をかけるライムに、少女、はやてが笑顔で答える。するとライムとラークは女性、シャマルに眼を向ける。
「そうか・・誰かがそばにいてくれることは、ホントにいいことですね・・・」
ライムは言いかけて沈痛な面持ちを見せる。なのは、ラーク、ユーノ、そして敵視していたはずのフェイトでさえ、今の彼女のかけがえのない親友と思っていた。
「僕は小室ライム。こっちは妹のひばり。君は?」
「はやて・・八神はやて、言います。おかしいやろ、“はやて”なんて名前・・?」
「まさか。君がおかしかったら、僕のほうがもっとおかしくなっちゃうよ。」
互いに自己紹介して笑みをこぼすライムとはやて。
「それじゃ、僕はそろそろ行くよ。はやてちゃん、また。」
そういってライムはラークとともに病院を後にした。はやての隣にいたシャマルが、ライムたちを見て深刻な面持ちを浮かべていた。
病院を離れ、ライムとラークは町から少し外れた小さな山地に来ていた。そこで2人は大きく深呼吸して、気持ちを切り替える。
「さて、そろそろなのはちゃんたちにも顔を出しておかないと。」
「あれ?ライム、帰るの?ラーク、なのはお姉ちゃんたちと会えるの、とっても楽しみだよ。」
ライムの言葉にラークが満面の笑みを浮かべて喜ぶ。そしてライムは首から提げていた白い宝石を手にする。彼女の魔法の源、天のデバイス「クリスレイサー」である。
(なのはちゃん、僕がどこまで強くなったか、見せてあげるよ。そしてフェイト、もう1度勝負して、今度こそ勝つ・・・!)
“Caution. Emergency.”
なのはたちとの再会、フェイトとの再戦を胸に秘めていたライムに、クリスレイサーが警告を告げる。緊迫を覚えるライムと当惑を見せるラークが周囲を見回す。
“It comes.”
ライムが振り返った直後、赤い髪、赤い衣服の少女が鉄槌を振りかざして迫ってきた。
“Snow wall.”
クリスレイサーの自動防御で発生した氷の壁が、少女の一撃からライムを守る。だが痛烈な一撃は氷の壁を突き崩し、ライムを突き飛ばす。
だがライムはとっさに体勢を整え、クリスレイサーを起動させる。白い宝石が杖へと形を変え、同時にライムが純白のバリアジャケットを身にまとう。
「何なんだ、君は!?僕に何の用だ!?」
ライムが呼びかけるが、少女、ヴィータはさらに追撃を繰り出そうとする。歯がゆさを覚えながら、ライムは鉄槌の打撃をかわす。
“Blade mode.”
「人の話を聞け!」
ライムは言い放ちながら、光刃を出現させたクリスレイサーを振りかざす。全力の一閃が、地面をえぐっていたヴィータの鉄槌を叩き伏せる。
アームドデバイス、グラーフアイゼンを地面にめり込まれ、ヴィータが苛立ちを見せる。ライムが彼女との距離を取り、光刃の切っ先を向ける。
「僕は恨みを買うようなことをした覚えは考えられる。だけど有無を言わさず攻撃される筋合いはないね!」
ヴィータを鋭く見据えて、低く言い放つライム。ヴィータはグラーフアイゼンを改めて構えなおす。
そのとき、2人の間に一条の稲妻が飛び込み割って入ってきた。その稲光から姿を現したのは、騎士服を身にまとった女性だった。
「シグナム・・・!」
ヴィータが女性、シグナムに呼びかける。シグナムはライムを見据えたまま答える。
「ヴィータ、すまないがこの者の相手は、私が引き受ける。」
「何言ってるんだよ、シグナム!?あたしはまだまだやれる!」
淡々と告げるシグナムにヴィータが声を荒げる。だがシグナムは顔色を変えない。
「相手はスピード重視の戦法を使っている。力押しを得意とするお前とは相性が悪い。」
「フンッ!分かったよ。けど、絶対勝てよな。」
「愚問だな。1対1の勝負では、我らベルカの騎士に・・」
不敵な笑みを浮かべるシグナムの持つ剣、レヴァンティンに魔力の弾薬が装てんされる。
「敗北はない。」
シグナムがレヴァンティンを振りかざし、ライムに向かって飛びかかる。回避行動を取ろうとしたライムを捉え、シグナムの剣が純白の光刃を叩く。
カートリッジロードによる膨大な魔力を叩き込まれ、ライムの光刃が真っ二つに叩き折られる。
「ぐっ!」
ライムが魔力の消費でうめき、シグナムの猛攻に押される。体勢を整えながらも、ライムはかつてない劣勢を感じていた。
(なんて力だ!・・あの弾丸を剣に入れて、魔力、攻撃力を上げている・・僕たちが見てきたことのない技術だ・・・!)
弾丸をレヴァンティンに装てんするシグナムの力に、ライムが胸中で毒づく。
「ライム!」
ラークがたまらずライムに駆け寄ろうとするが、突如現れた銀髪の青年に行く手を阻まれる。盾の守護獣、ザフィーラである。
(これだけ攻撃力の高い連中だと、勝負を長引かせるわけにはいかない・・一気に全力勝負を仕掛けないと・・・!)
「クリスレイサー、アクセルアクションだ!」
“Accel form.Set up.”
決着を急ぐライムに、シグナムが眉をひそめる。クリスレイサーが反応して、ライムのバリアジャケットが軽量化される。
「アクセルアクション、スタート!」
“Accel action.Start up.”
ライムの動きが高速化され、その間合いを一気に詰める。狙いはシグナム。
高レベルの相手3人を退けられるほどの力量は自分にはない。ならばせめてリーダー格を倒してかく乱に追い込む。ライムはそう考えていた。
眼にも留まらぬ速さが、騎士たちを追い込もうとしていた。だがシグナムにはライムの動きが見えていた。
「確かに動きは速い。並の者なら捉えることも困難だろう。だが我らベルカの騎士と対するには、役不足だ!」
炎へと変換された魔力を上乗せしたレヴァンティンを構え、シグナムが言い放つ。
「レヴァンティン、叩き斬れ!」
“Jawohl.”
炎の剣を振りかざして、シグナムがライムに迫る。高速化されている自分の動きを見抜かれていることにライムが驚愕する。
「なっ・・!?」
「紫電一閃!」
シグナムの炎の一撃がライム目がけて振り下ろされる。ライムはとっさにクリスレイサーを掲げ、自動防御を発動する。だが炎をまとったレヴァンティンはライムの前に展開されたスノーウォールを打ち破り、さらにクリスレイサーを叩いて純白の宝石を損傷させる。
“3,2,1 time out.”
痛烈な一撃を受けて突き飛ばされたライムのバリアジャケットが元に戻る。アクセルアクションを真っ向から打ち破られたことに、ライムは戦意を揺さぶられていた。
「なかなかの力量だった。武器の差がなければ、勝負は分からなかっただろう。私はヴォルケンリッターの将、剣の騎士、シグナム。そして我が剣、レヴァンティン。」
シグナムがレヴァンティンを構え、満身創痍のライムを見据える。その眼前に、ライムは傷ついた体に鞭を入れて必死に立ち上がる。
「僕は小室ライム・・そして僕の相棒、クリスレイサーだ・・・!」
「小室ライム、そしてクリスレイサーか・・ここまで私を鼓舞させてくれたのは、テスタロッサに続いて2人目だ。」
「テスタロッサ!?・・フェイトのことか・・・!?」
シグナムの言葉にライムが声を荒げる。シグナムはフェイトと一戦交え、1度はねじ伏せたことがあるのだ。
「できるならお前との勝負を楽しみたいところだが、我らは主のため、果たさねばならぬ使命がある。お前の力、もらい受ける・・・シャマル。」
シグナムの呼びかけを受けて現れた女性にライムは驚愕する。服装は違ったが、はやてと一緒にいた人物であることに間違いはなかった。
「闇の書、蒐集開始。」
“Sammlung.”
シャマルが手にしていた1冊の本を掲げると、本は自動的に開き、不気味な輝きを宿す。その瞬間、ライムは強い胸の高鳴りを覚え、突然悶え出す。
(な、何だ、コレは!?・・・力が抜けてく・・・心臓をわしづかみにされて根こそぎ奪われてる感じだ・・・!)
苦悶にあえぐライムの胸元に白い輝きが灯る。魔力の源であるリンカーコアである。
本はライムの魔力を蒐集して次々とページを増やしていく。同時に彼女のリンカーコアが徐々にその輝きを弱めていく。
(僕は、ここで倒れるわけにはいかないんだ・・なのはちゃんに会うため、フェイトともう1度戦うために・・・!)
ライムは力を振り絞り、クリスレイサーを大きく振り上げる。
「僕は負けるわけにはいかないんだ!」
“Stardust speir.”
白い光刃を地面に突き立てるライム。すると周囲に氷の刃が突起して騎士たちを狙う。
その刃が本にまで及ぼうとしていることを察したシグナムが、とっさに本を回収する。氷が突き出た山地を見下ろして、シグナムはライムの安否を確かめる。ライムは全ての力を使い果たし、その場に倒れこむ。そこでラークが駆け寄り、彼女を心配する。
「まさか闇の書を狙ってくるとはな。」
ヴィータがライムの言動に対して呟く。
「今の騒ぎで管理局が介入してくるだろう。撤退するぞ。」
シグナムの指揮を受けて、騎士たちはこの場を離れた。
(小室ライム・・その名前、覚えておくぞ・・・)
そんな中、シグナムはライムとの勝負を誇りに感じていた。
ヴィータの襲撃を阻み、なのはたちを助けたのはライムだった。だが以前の黒のショートヘアではなく、長い髪を1つに束ねていた。
だがその魔力から、なのははライムであることに気付いていた。
「ライムちゃん・・だよね・・・?」
「やぁ、なのはちゃん、久しぶりだね。」
戸惑いを見せるなのはとユウキに、ライムが以前と変わらない気さくな笑顔を見せる。人間の姿となっていたユーノが遅れて駆けつけてきた。
「なのは、大丈夫?・・君は・・・!?」
シグナムたちを見据えるライムに一瞬驚きを見せるユーノ。そこへ人間の姿のラークが駆けつけてきた。
「なのはお姉ちゃん、お久しぶりだね。」
ラークがなのはたちに笑顔を振りまく。
「なのはちゃん、ここは僕に任せてほしい。君たちはここから離れて。」
「でもライムちゃん、シグナムさんたちは・・!」
「分かってる。だけどあの人は、僕が超えなくちゃいけない壁なんだ・・・!」
「ライムちゃん・・・」
あくまでシグナムと対峙しようとするライムに、なのははさらに困惑する。
「行こう、なのはちゃん。あの子に任せたほうがよさそうだ。」
ユウキの呼びかけになのはは頷くしかなかった。この場を離れるなのはたちを追おうと、氷を打ち破ったヴィータの前にライムが立ちはだかる。
「邪魔すんな!お前と遊んでる時間はねぇんだよ!」
「そっちになくてもこっちにはあるんだよ。いいや、アンタが僕と戦う理由がきっとあるはずだ。」
いきり立つヴィータから引こうとせず、ライムがシグナムを見据える。ライムの揺るぎない決意を察したシグナムは、それに応えようと身構える。
「ヴィータ、ここは勝負をするしかなさそうだ。」
「だけど、シグナム・・!」
「あれほどの魔力が内在しているんだ。管理局も見逃しはしないだろう・・」
声を荒げるヴィータに答えながら、シグナムはレヴァンティンを構える。
「言っとくけど、僕はただやられるために来たんじゃない。勝てなくても、必ず一矢報いてやるから・・!」
ライムがシグナムに言い放ちながら、純白の宝石を取り出す。
「正直悔しかったよ・・真っ向からぶつかって、返り討ちにされたんだから・・その上フェイトやなのはちゃんたちは、もっと力をつけたとも聞いてるし・・・」
「小室ライム・・・」
「だから僕は必死に特訓した!君を打ち負かして、フェイトともう1度戦うために・・・行くよ、これが僕の新しい相棒、クリスレイサーソリッド!」
“Stand by ready.Drive ignition.”
ライムの呼びかけに宝石が答える。杖へと形を変えたそのデバイスは、カートリッジシステムを搭載したクリスレイサーの姿だった。
そしてライム自身も純白のバリアジャケットを身につける。クリスレイサーを構えて、改めてシグナムを見据える。
「クリスレイサー、カートリッジロード!」
“Load Cartridge.”
ライムの呼びかけを受けたクリスレイサーが魔力の弾丸を装てんする。
「あのデバイス・・まさかアイツも・・!?」
「シルバースマッシャー!」
驚愕するヴィータを横目に、ライムがシグナムに向けて砲撃を放つ。その閃光は従来の純白よりも白銀に近しいものがあった。
シグナムはレヴァンティンを振りかざして、ライムの砲撃をなぎ払う。
“Blade mode.”
そこへ光刃を出現させたクリスレイサーを掲げて、ライムが追撃を仕掛けてきた。シグナムはレヴァンティンを掲げて光刃を受け止めていく。
そしてシグナムも反撃に転じて、ライムに向けて一閃を繰り出す。ライムが背から白銀の翼を広げ、一閃をかわして大きく飛翔する。
ライムが光刃を高らかと掲げると、背中の翼も神々しい輝きを放つ。クリスレイサーとレヴァンティンがそれぞれカートリッジロードを行う。
「紫電・・」
「天牙・・」
互いを見据えて身構えるシグナムとライム。それぞれのデバイスに炎と白銀の輝きが宿る。
「・・一閃!」
2人は同時に飛び出し、全力の一閃を繰り出す。互いの刃が衝突し、激しい火花を散らす。
やがて魔力の放出が終わり、デバイス同時のつばぜり合いに持ち込まれる。力比べとなった戦況の中、ライムがシグナムに向けて一蹴を繰り出すが、シグナムが掲げた鞘に阻まれる。
ライムはその勢いのまま体を反転させて、シグナムとの距離を取る。相手を見据えるライムとシグナムが不敵な笑みをこぼす。
「アンタに負けた後、僕は管理局に保護された。それから僕は強くなるために特訓を重ねてきた。」
「それが、今のお前の力というわけか、小室ライム・・だが我々と剣を交えるには、まだ足りん!」
シグナムがレヴァンティンを構えて鋭く言い放つ。
「やっぱり、このままじゃ勝てないか・・ちょっと調子に乗ってみたかったけど、そうも言ってられないな・・」
ライムはクリスレイサーを持ったまま、両腕を交差させる。すると彼女の両手に白銀の輪が出現する。
「これは・・バインド・・・!?」
「これは確かにバインドだ。しかもただのバインドじゃない。かけた相手の魔力を抑え込むためのものだ。その数値は全力の半分。つまりこれを外せば・・」
「今までの2倍・・・」
眉をひそめるシグナムを前に、ライムがバインドをかけられている両腕を掲げる。
「バインドブレイク!」
そして魔力を束縛していた光の輪を打ち破る。彼女に内在する本当の魔力に、シグナムの眼つきが鋭くなる。
「アンタたちのことは、管理局から聞いてる。闇の書の主のために戦ってきたことも知ってる。だからアンタたちやその主のため、僕自身のため、全力で戦う・・・!」
“Solid form drive ignition.”
決意を言い放ったライムのバリアジャケットが高速化のために軽量化される。
新たな力を得て生まれ変わったライムとクリスレイサーのフルドライブモードに属する「ソリッドフォーム」は、アクセルアクション以上の高速化と時間制限の解消を可能としている。だが機体だけでなく術者自身に大きな負担をかけるため、ライム自身、滅多なことでは使用しない。
使うときは相手が全力を出すに値するときだけ。彼女はそう心に決めていた。
“Solid action start up.”
次の瞬間、ライムの姿が消えると、その姿が2つ3つと増えていく。彼女の高速化によって残像が残り、その動きについてこれない者の眼には、何人もいるかのように錯覚してしまうだろう。
「は、はえぇ・・・!」
その凄まじい速さと動きにヴィータが驚きを覚える。その中でシグナムは冷静にライムの動きをつかもうとしていた。
(確かに凄まじい速さだ。並みの人間ならその残像だけで惑わされるだろう。だが、その動きを捉えきれぬ私ではない・・・!)
ライムの動きを捉えて、シグナムがレヴァンティンを振りかざす。だがその一閃はライムに直撃することなく空を切る。
(なっ・・・!?)
攻撃をかわされたことにシグナムが初めて動揺を見せる。そんな彼女に向けて、ライムの高速の一閃が次々と繰り出される。
(もっと強く・・もっと速く・・もっと高く!)
駆け抜けていく中で、ライムが次第に決意を強めていく。その一撃一撃が、シグナムの魔力と体力を削っていく。
だがその戦況での負担はライム自身にも及んでいた。リミッター解除を行った状態での高速化のため、彼女自身の魔力、体力が大きく浪費していた。
ライムがひとまず動きを止めてシグナムを見据える。2人とも大きく体力を消費して、呼吸も荒くなっていた。
(ここまで追い込まれるとは・・小室ライムの力が思った以上に上がっている・・・!)
(しぶといな・・・早く決めないと、こっちが参っちゃう・・!)
互いに毒づくシグナムとライム。だがここで引き下がるわけにいかない気持ちも同じだった。
(だけど、僕はここで負けるわけにはいかない・・フェイトと戦うためにも!)
ライムがシグナムに向けて再度攻撃を仕掛けようとしたときだった。2人の間にまばゆい閃光が舞い降り、2人の交戦を阻む。
消え行く光の中から姿を現したのは、新たなるデバイス「シャイニングソウル」を手にした少女、ジャンヌ・フォルシアだった。
ジャンヌはアンナがかつて開発した地のデバイスを手にして、時間凍結を引き起こしていた少女である。現在は管理局の保護観察と精神療養の下で働くこととなった。
「ジ、ジャンヌ・・!?」
「2人ともここまで。これ以上は2人とも危険だよ。」
「何でだよ、ジャンヌ!?あともう少しだっていうのに!」
抗議するライムにジャンヌが顔色を変えずに答える。
「2人ともほとんど魔力、体力を使ってる。このまま戦えたライムはシグナムを倒せるけど、ライムの体にも危険が生じる。」
ジャンヌの指摘にライムは息を呑む。
「あなたたちの気持ちも分からなくない。だけど今しなくてはいけないことは他にあるよ。」
ジャンヌの言葉にラークが戸惑い、ライム、シグナム、ヴィータ、そして遅れて駆けつけたシャマル、ザフィーラが真剣な面持ちを見せた。
突然の騎士たちの襲撃から逃げ延びてきたなのは、ユウキ、ユーノ。3人はひとまずはやてたちのいる病院の広場に戻ることにした。ユーノも既にフェレットの姿になっていた。
「何や、ユウキさん。なのはちゃんまで言ったっきり戻らへんから・・」
「ゴメン、ゴメン。みんなに迷惑かけちゃったみたいだね。」
笑顔で声をかけるはやてに苦笑いで詫びるユウキ。
「もう、相変わらずなんだから、ユウキさんは。」
アリサが腕を組んできつい言い方をしてみせる。悪ぶっているということは分かっているため、なのはもすずかも苦笑いをこぼすだけだった。
(それにしてもこのペンダント・・あのヴォルケンリッターが執拗に狙うくらいのものなのか・・・)
ユウキは鍵のペンダントを手にして考えを巡らせていた。その様子を見て、なのはとはやては頷いた。
「ユウキさん・・ユウキさんに、まだ話していないことがあるの・・・」
話を切り出したなのはに、ユウキは戸惑いを見せた。
なのはたちはアリサとすずかと別れ、病院を後にした。近くの公園を通りがかったところで、なのはたちはフェイトと子犬姿のアルフと会う。
フェイトたちを交えたところで、なのははユウキにはやてに関することを話した。第一級指定遺失物「闇の書」とヴォルケンリッターの主であること、闇の書が引き起こした事件の全てを。
「そんな・・・はやてちゃんまで関わってたなんて・・・」
真実を知ったユウキが困惑を覚える。
「ゴメン、ユウキさん・・隠すつもりやなかったんやけど・・・」
「気にしないで、はやてちゃん。はやてちゃんも大変だったんだ・・オレは何も言えやしないさ・・」
沈痛の面持ちを見せるはやてにユウキが笑顔を作る。
「だけど、事件は解決して、はやてちゃんも騎士たちも保護観察を受けたんだろう?その騎士がなぜオレを・・」
「そのペンダントが、三種の神器の1つ、シェリッシェルだから・・」
ユウキの疑問に対するフェイトの答えに、なのはたちは驚きを隠せなかった。
「これが・・三種の神器・・・!?」
ユウキが固唾を呑んだときだった。彼らのいる場所を中心に、突如結界が展開された。そして彼らを取り囲むように鎧たちが続々と姿を現した。
「この前の鎧・・!?」
「こんなモヤモヤした状態だってときに・・!」
なのはが声を荒げ、ユウキが思わず毒づく。鎧たちがそれぞれの武器を構えて、なのはたちを狙う。
“Give me the pendant.”
鎧の1体がユウキの持つペンダントを要求する。ユウキはたまらずペンダントを握り締める。
「アルフ、ユウキさんをうまく逃がして・・・!」
「分かったわ、フェイト。」
「ユーノくんもお願い!」
「うん!」
フェイト、なのはの呼びかけにアルフ、ユーノが頷く。それぞれ人間の姿となり、ユウキのそばに駆け寄る。
「なのはちゃん!」
呼びかけるユウキを連れて、ユーノとアルフがこの場を離れる。3人を見送ってから、なのはとフェイトがそれぞれのデバイスを起動させ、バリアジャケットを身にまとう。
「私もやれるだけやってみる!・・シュベルトクロイツ、セットアップ!」
そしてはやても剣十字のペンダントを掲げ、杖を起動させる。そして彼女自身もバリアジャケットを身にまとう。闇の書の主として強大な魔力と蒐集行使を得た彼女は今、魔導騎士として活躍している。
「行くよ、フェイトちゃん、はやてちゃん!」
なのはの声にフェイトとはやてが頷く。迫ってきた鎧たちを、彼女たちは懸命に迎撃していく。
だが避難を行っているユウキたちにも鎧たちの魔の手は迫っていた。気を引き付けようとアルフが鎧たちに攻撃を仕掛けるが、鎧の数があまりに多いため、ユウキとユーノはすぐに取り囲まれてしまう。
「僕から離れないで、ユウキさん!」
ユーノがユウキを守ろうと防御魔法を展開する。だが数の多い鎧の襲撃を防ぎきるにはあまりにも一手不足だった。
ペンダントをかばいながら逃げ惑うユウキ。だが鎧が振り下ろしてくる剣や斧に翻弄され、ついに倒れこんでしまう。
「ユウキさん!」
なのはが駆け寄ろうとするが、鎧たちに行く手を阻まれる。
“Axel fin.”
そこでなのはは鎧を飛び越えてユウキのそばに向かおうと考えるが、鎧たちの数体も突然飛翔して、またもや彼女を待ち構える。
ペンダントを握り締めながら立ち上がろうとするユウキに、鎧の重圧が襲い掛かる。その重みに苦痛を覚えてあえぐ。
(このままじゃ、鎧に殺されちまう・・くそっ!オレはこんなところで人生が終わっちまうのかよ・・・!)
自分自身に問いかけるユウキの脳裏に、幼い日々の出来事が蘇る。それは仁美と、彼女の兄の庵とのかけがえのない日々だった。
3人で楽しく過ごした日常。分かち合った友情。そして誓い。
(仁美・・庵・・・また、3人で一緒に過ごしたいよな・・・?)
仁美と庵に対する思いが、ユウキの中に隠されていたものを呼び起こす。そして彼の脳裏に、いつしか見た悪夢が蘇る。
漆黒の闇に堕ち、灰色に染め上げられた街。その中には、動揺に色を失くしたなのは、ユーノ、はやてたちの姿があった。
このまま自分が倒れれば、この悪夢が現実になってしまう。
「こんなことで・・・こんなことでオレは!」
そのとき、ユウキに襲い掛かっていた鎧たちが、突如放たれた閃光に吹き飛ばされ、消滅する。その瞬間になのは、フェイト、はやて、ユーノ、アルフが振り返り、驚きを見せる。
その閃光の中心で、ユウキがゆっくりと立ち上がった。だが彼の姿は一変していた。
黒かった髪が白くなり、体からは膨大なエネルギーがあふれていた。そして彼の右手には、閃光と同質の光刃が握られていた。
次回予告
突然起こったユウキの変貌。
それは三種の神器がもたらした魔法大覚醒によるものだった。
様々な思いのすれ違いの中、ついに明らかになる事件の黒幕。
そして、ユウキと仁美の前に現れた1人の青年。
今、新たな覚醒が起こる・・・