魔法少女リリカルなのはSchlüssel

2nd stepINVOKE

 

 

 異質の衣服を身にまとい、異質の杖を手にした仁美は、困惑を隠せないでいた。

「ちょっと・・何がどうなってるの・・・!?

 自分のバリアジャケットと、杖へと形を変えたクライムパーピルを見つめている仁美。彼女の気持ちを気に留めず、鎧たちが彼女に迫ってきた。

「危ない!」

「えっ・・・!?

 子犬の声に仁美が我に返る。彼女に向けて鎧が斧を振り下ろしてくる。

Protection.”

 たまらず仁美が掲げたクライムパーピルが、彼女を護る障壁を作り出す。鎧の一閃は障壁にぶつかってはね返される。

 その瞬間に仁美が驚き、クライムパーピルを見つめる。

「もしかして・・アンタがやったの・・・!?

Trust me, my master.”

 彼女に向けてクライムパーピルが励ましの言葉をかける。

I believe my master.”

「クライムパーピル・・・分かったわ。でも、今の私とあなたにどんな力があるか把握し切れてない。協力をお願い!」

All right.”

 仁美の言葉にクライムパーピルが答える。彼女たちの前に鎧たちが武具を構えて立ちはだかる。

Shine dash.”

 クライムパーピルが高速移動の魔法を発動し、仁美を鎧の攻撃から回避させる。

(ウソ!?・・私、こんなに速かったの!?・・・それだけじゃない!周りがスローモーションみたいに遅く見える・・・!)

 自分の動きに驚きを隠せない仁美。鎧たちとの距離を取って、クライムパーピルを構える。

Spark mode.Drive ignition.”

 クライムパーピルが長距離砲撃型へ変形し、鎧たちに狙いを定める。

「あの鎧たちを一気にやっつけたい・・できる?」

All right, my master.”

 仁美の問いに答えるクライムパーピル。杖の先端の宝玉に輝きが宿り強まる。

Flame shooter!”

 クライムパーピルが数個の炎の弾を発射し、鎧たちを攻撃する炎の弾丸を受けた鎧が灼熱の業火に包まれ、倒れて朽ちていく。

 敵の殲滅に成功した仁美がクライムパーピルを下げる。戦意を消した彼女のまとうバリアジャケットが解除され、元の制服へと戻る。

「やったね・・何とか撃退することができた・・・」

 そんな彼女に子犬が駆け寄り声をかけてきた。しかし彼女は困惑を隠せないままだった。

「これ、私がやったの・・・!?

「そうさ。君がこの三種の神器の1機を起動させて、その力を発揮したんだ・・・できれば、こういうことはしたくなかったんだけど・・・」

 子犬は言いかけて、困惑をあらわにする。仁美にクライムパーピルを使わせることは本位ではなかったのだ。

「ア、アンタは、いったい・・・!?

「オレは三種の神器を守護する一族の1人、フォルファ。君たちのいるのと違う世界から来たっていえば、何となく分かるかい・・?」

 子犬、フォルファが名乗るが、仁美は疑問を解消できていなかった。

「えっと・・はじめから話さないといけないみたいだ・・・」

 フォルファが苦笑をもらすと、眼を閉じて意識を集中する。すると彼の体が光り輝く。

「えっ・・・!?

 その変化に仁美が驚く。子犬だったフォルファの姿が、次第に人の形へと変わっていく。

 光が霧散すると、そこには1人の青年がいた。逆立った白髪に蒼く鋭い瞳。見慣れない衣服を身にまとっていた。

「いろいろ説明する前に、オレは人間だ。けどさっきみたいな子犬に変身することもできるんだ。」

 笑みを見せて語りかける青年、フォルファに、仁美は返す言葉を失っていた。

 

 レティからの報告を受け、事件の一任を引き受けたリンディ。彼女はアースラ内の局員を集合をかけていた。

 その中には、アースラに新たなメンバーに加わることとなった金髪の少女、フェイト・テスタロッサの姿もあった。

 リンディはレティから引き受けた事件の詳細をクルーたちに伝える。各地において、リンカーコアを抜き取られて体が石になってしまった被害者が続出していること。その被害の発生が現在、なのはたちのいる世界に集中し始めていること。またそれが、徹底した管理に置かれてる三種の神器の紛失が深く関わっていること。

 その話を聞いたクルーたちに少なからず動揺が浮かんでいた。フェイトも彼女の使い魔、アルフもなのはの安否を気にかけていた。

「以上が、現在発生している事件の詳細です。今回も“闇の書事件”に引き続き、我々アースラが主担当となりました。」

「艦長、あの三種の神器が関係しているということは、あの伝説の魔女が関連している可能性も・・」

 リンディの言葉に、オペレーターの1人、アレックスが口を挟む。

「断定はできないけど、可能性は高いと見るべきね。現にこの事件の被害は、あの魔女の力と同じですから。」

 リンディは答えると、改めて真剣な面持ちでクルーたちに指示を与える。

「捜査スタッフはギャレットをリーダーとして、事件の調査、および三種の神器の捜索を行ってください。アレックスとランディは、アースラにて三種の神器の魔力をレーダー探査。捜査スタッフと連絡を取り合いながら調査に当たるように。」

「了解!」

 リンディの指示にクルーたちが敬礼を返す。その中で、アルフがアースラ通信主任兼執務官補佐、エイミィ・リミエッタに疑問を投げかけていた。

「エイミィ、三種の神器って、いったい何なんだ?」

「うん・・それが、かなりの代物でね・・」

 エイミィがアルフとフェイトに説明しようとしたときだった。

「ちょっと失礼。」

 断りを入れてから、リンディがポケットから携帯電話を取り出す。なのはとの連絡を取り合うためのものである。

 なのはからのメールの内容に、リンディは一瞬困り顔を見せた。

 

 ユウキの前でバリアジャケットをまとい、レイジングハートを起動させたなのは。彼女のもうひとつの姿を目の当たりにして、彼は戸惑いを覚えていた。

「なのはちゃん、それはいったい・・・!?

「ユウキさんがドイツに行っている間でしたね・・私、魔法使いになったんです。」

 当惑しているユウキになのはが説明する。彼女はユーノとの出会いからレイジングハートを託され、魔法使いとしての日々を開始したのだった。

 その彼女の説明が終わらないうちに、ユウキが突然歓喜の笑みを浮かべた。

「すごい!すごいじゃないか、魔法使いだなんて!」

「えっ!?えっ!?

 予想してなかったユウキの反応に、なのはが逆に驚かされる。

「いやぁ、まさかなのはちゃんが魔法使いだったなんて。まるで夢みたいだ。」

「あの、ユウキさん・・?」

 なのはが苦笑を浮かべながら声をかけるが、ユウキは聞いていないようだった。

「あ、もしかしてこのフェレットが人間に化けたりしてたりして。って、まさかね。」

 ユウキがユーノを指し示すと、ユーノも苦笑を浮かべながらもすぐに気持ちを切り替えて意識を集中する。すると彼の体に光が宿り、フェレットから人間の少年へと姿が変わった。

 バリアジャケットを身にまとったユーノを見て、ユウキは唖然となっていた。

「ま、まさかホントに人間になるなんて・・」

「ひとつ訂正させてもらいますよ・・僕は元々は人間で、なのはの家族や友達の前では動物形態でいるのです・・」

 ユーノが眉をつり上げながらユウキに言いかける。

「私も最初はビックリしたよ。ずっと言葉を話せるフェレットだと思ってたよ。」

 なのはが苦笑いを浮かべて弁解を入れるが、ユーノを落ち込ませる形となってしまった。

 そしてなのはは改めて、ユウキに全てを話した。フェイトやアルフ、アースラをはじめとした時空管理局の人々について。そして自分が魔導師として本格的に管理局に身を置いたことも。

「なるほど、そうだったのか・・・オレがドイツにいた間に、そんな大変なことがいろいろあったのか・・・」

 なのはとユーノの話を聞いて、ユウキが安堵を思わせる笑みを浮かべた。ユーノも笑みをこぼしていたが、すぐに深刻な面持ちを浮かべる。

「それにしてもあの鎧たち、並みの力じゃなかった・・何かが、動き出している・・・」

「とりあえず、リンディさんに聞いてみよう。何か分かるかも・・」

 なのはも真剣に頷いて、自分の携帯電話を取り出し、メールを送信した。

 

 時空管理局本局にある中央研究室。そこでは1人の研究者が他の研究員の指揮に当たっていた。

 アンナ・マリオンハイト。彼女はかつて天地のデバイスを製造し、時空の超越の実験を繰り返していた。それが次元犯罪、次元災害につながるとして、彼女は先輩であるリンディに身柄を拘束された。

 しかし管理局における成果と研究の知識から、彼女は保護観察を受けることになった。研究者としての道を一からスタートを切り、彼女は短期間で小さな研究団体を指揮するほどとなっていた。

 そして、彼女にも現在多発している事件の知らせが行き届いていた。

「分かりました、レティ提督。それではそちらに魔導師を1人向かわせましょう。」

 レティからの連絡を受けてアンナが微笑んで答える。

“しかし、あなたの管轄下に魔導師はいた?”

「えぇ。今、新しいデバイスと一緒に最終調整が完了したところです。私も彼女の保護を兼ねて、アースラと合流するつもりでいますが、よろしいでしょうか?」

“それは構わないけど・・誰なの、その魔導師は・・?”

 モニター越しに疑問を投げかけてくるレティに、アンナは笑みを見せた。

「なのはちゃんのお友達ですよ。彼女に会えることを楽しみにしていたから・・・」

 疑問を解消し切れていない面持ちのレティに笑みを向けてから、アンナは別のモニターに眼を向ける。メンテナンススタッフ、マリーからの通信が入る。

“アンナさん、インテリジェントデバイス、カートリッジシステムと併せて異常ありません。”

「了解。転移装置の準備をお願い。あと、アースラにも連絡を。私も現場に向かうわよ。」

“えっ?あ、はい。”

 マリーの返答を聞いて、アンナは席を立った。

 

 事件の詳細を確かめるため、なのはとフェレット姿のユーノはユウキとともに移動していた。向かっていたのは彼女の家ではなく、その近所のマンションだった。

 アースラが本局にて整備中にあった際、リンディたちが臨時対策本部として利用していた場所である。

「それにしても、まさか魔法使いがホントに実在してて、しかもなのはちゃんがその魔法使いになってたなんてね・・」

 言いかけてきたユウキに、なのはが照れ笑いを見せる。するとユウキは思いつめたような笑みを浮かべる。

「オレ、子供の頃、男のくせに魔法使いになりたいって思ってたんだ。周りの連中にバカにされても、どうもその思いを捨て切れなくて・・けど大人になってくうちに現実離れしてるって分かってきて、その夢を諦めていたんだ・・」

「ユウキさん・・・」

 物悲しい笑みを浮かべるユウキに、なのはは困惑してかける言葉が見つからなかった。

 そんな沈痛さを抱えたまま、なのはたちはマンションにたどり着く。彼女たちはマンション内の一室の前に向かい、インターホンを押すと、優しい女性の声が返ってきた。

 ドアが開き、なのはたちの前に1人の女性が顔を見せてきた。

「こんにちは、リンディさん。実は、その・・」

 なのはが挨拶するなり、突然口ごもってしまう。ユウキのことで当惑しているようだ。かのじょの気持ちを察して、同じく当惑を見せているユウキにリンディが眼を向ける。

「こんにちは。あなたが神楽ユウキさんですね?」

「えっ?どうして、オレの名を・・?」

「なのはさんから話は聞いています。ここで立ち話もなんでしょうから、中に入って。」

 戸惑いを見せているユウキとなのはを、リンディは笑顔で迎え入れた。彼女の優しさに、なのはもユウキも安心の笑みをこぼした。

「へぇ。けっこう広いんですね・・・」

 かける言葉が見つからないあまり、ユウキが不器用さをあらわにする。それを気に留めていないのか、リンディは笑顔を絶やしてはいなかった。

「自己紹介がまだでしたね。私は時空管理局、アースラ艦長、リンディ・ハラオウンです。」

「えっ!?艦長さん、なんですか・・・!?

 リビングで振り返り、自己紹介をするリンディにユウキが驚きを見せる。

「うわぁ・・何だかSF要素まで加わってる感が・・・あぁ、そんなにかしこまらなくていいですよ。オレ、礼儀とかあまり気にしないほうだから。」

「だったら気兼ねすることもなかったわね。」

 苦笑を浮かべるユウキに、リンディが笑みをこぼす。そこへ金髪の少女が入ってきたことに気付いて、なのはが振り返る。

「なのは、来てたんだね。」

「フェイトちゃん、お邪魔してます。」

 微笑みかける少女、フェイトになのはも笑顔で答える。

「なのは、この人は・・?」

 ユウキに眼を向けたフェイトがなのはに問いかけると、なのはが苦笑いを見せて答える。

「神楽ユウキさん。うちの店でバイトしていた人なんだけど、ちょっと込み入った事情があって・・・」

「何者かの襲撃を受けた際に、彼の前で魔法を使用したんだ。」

 なのはの言葉に答えながら、エイミィとともに1人の少年がリビングにやってきた。クロノ・ハラオウン。リンディの実子であり、弱冠14歳で時空管理局執務官を務めている。

 クロノもエイミィもインナースーツや制服ではなく、普段着を着用していた。

「あの、君たちは・・・?」

「ユウキさん、紹介するね。こちら、フェイトちゃん、クロノくんにエイミィさん。」

 なのはがユウキにフェイトたちを紹介する。

「本来なら魔法と関わりのない人間を巻き込みたくはないけど、無理矢理突き放すようなことは僕たちはしない。できれば危険を避けるために、これ以上関わってほしくないというのがこちらの本心なんだけど・・」

 クロノがユウキに対して忠告を告げる。魔法と直接関係のない彼を事件に巻き込みたくないと思っているのは、クロノだけでなく、リンディもエイミィも同じだった。

 しかしユウキの気持ちは変わらなかった。ユウキは誰かが大変そうでいることを黙ってみていられる人間ではなかった。

「乗りかかった船だ。ここまで来て引き下がりたくはない。なのはちゃんが関わっているのに、指をくわえて見ていたくはない。」

「ユウキさん・・・」

 ユウキの決意を聞いて、なのはが戸惑う。

「邪魔だったり足手まといだと感じたりしたら言ってくれ。そのときは潔く引き下がる。だけど今は、オレのできることをしたい・・・」

「・・・分かった。そこまでいうなら僕たちは止めない。けれど、僕たちの指示には従ってもらう。危険だと判断したら、戦いを避けて逃げることを優先するんだ。」

 頷きながら言いかけるクロノに、ユウキも真剣な面持ちで頷く、クロノの的確な指示を前にして、リンディもエイミィも小さく頷いていた。

「それではなのはさん、ユウキくん、今回起こっている事件についてお話しましょう。」

 事件に関して話を持ちかけたリンディに、なのはとユウキは真剣に耳を傾けた。

 

 同じ頃、仁美もフォルファから「三種の神器」と、かつて世界を崩壊させようとしていた魔女の伝説について話していた。

「かつて、次元の壁を打ち破って、全ての世界の崩壊を企んだ魔女がいたんだ。魔女の魔力は強大で、立ち向かっていった魔導師や騎士たちが次々と倒されていった・・その力を打ち破り、魔女を封印することを成功させたのが、“三種の神器”と呼ばれた3機のデバイスなんだ。」

 フォルファの説明を、仁美は緊張を覚えながら聞いていた。

「三種の神器は2つの魔法形態、オールラウンドなミッドチルダ式と、対人戦闘に長けているベルカ式が二分化される以前に造られたデバイスでもある。2つの形態の特徴を兼ね備えた、性能の上では強力なデバイスだ。」

「すごいんだ・・それじゃ私、そのすごいものの1つを使っちゃったってこと!?

「そういうことになるか・・オレはその三種の神器を管理する一族の1人だったんだけど、突然3機が保管場所から飛び出してしまった。何とか1機、クライムパーピルは回収できたけど、あとの2機がどこにあるのか、誰かが所持しているのかどうかも分からない。」

 フォルファは立ち上がり、虚空を眺める。

「三種の神器は他のデバイスと違い、膨大な力のためにその力に振り回されてしまう危険があるんだ。だから使わせるにしても、その力を扱うにふさわしい潜在能力の持ち主でなければならない。迂闊に使えば崩壊を引き起こすことになる。自分自身が、あるいは世界が・・」

「そんな危ないもの、どうして私に・・・!?

「仕方がなかったんだ・・といっても、都合のいい言い訳にしかならないか・・・だけど、オレはどこかの世界に散らばった、残り2機のデバイスを探し出し、回収しなければならない。君が関わりたくないというなら、オレは強要するつもりはない。今話したことを覚えておいてくれればいい・・」

 フォルファの言葉に仁美は眼を背ける。

「あと、オレが不安になっていることがもうひとつあるんだ・・・今起こっている不可思議な事件、魔女が復活している可能性がある・・・」

 フォルファの口にした一抹の不安に、仁美は動揺を隠せなくなっていた。

 

 リンディから事件の詳細と三種の神器について聞いたなのはとユウキ。2人はフェイトとともに、ベランダから藤見町を眺めていた。

 そこでユウキはフェイトから話を聞いていた。母親が事件を引き起こし、生死不明に陥ったことで、フェイトは一時期天涯孤独となっていたが、リンディの養子として迎えられることとなったことも。

 彼女の話に、ユウキは共感を覚えていた。

「そうか・・フェイトちゃんの気持ち、オレ、すごく分かるよ・・」

 ユウキが口にしたこの言葉にフェイトが戸惑いを見せる。彼の言葉の意味を分かっていたなのはが沈痛さを込めて微笑む。

「・・・そうだったね・・ユウキさんは・・・」

「うん・・オレの本当の両親は、オレが子供だったときに事故で・・・親を亡くしたオレを引き取ってくれたのが、両親同士で仲が良かった京野家、仁美の両親だったんだ・・結果、オレは仁美のアニキみたいな感じになっちゃって・・」

 気さくに笑ってみせるユウキに、なのはもフェイトも笑みをこぼす。するとユウキがフェイトの方に優しく手を添える。

「確かに親がいないことは辛く寂しいもんだ。だけど、親代わりになってくれる人や、家族や友達になってくれる人がいてくれるのは、とてもうれしいことなんだ・・・」

「そうですね・・・なのはやアルフ、リンディさんたちが支えてくれたから、今の私があるんだと思います・・・すごく感謝してるよ、なのは・・・」

「私もフェイトちゃんにすごく感謝してるよ。危なくなったときに助けてくれたり、私の気持ちを真正面から受け止めてくれたり・・・ありがとう、フェイトちゃん・・」

 互いに感謝の言葉を掛け合い、握手をするフェイトとなのは。2人の友情を目の当たりにして、ユウキは喜びを感じ、同時に辛くもなった。

 彼にも親友がいた。仁美の実の兄である京野庵(きょうのいおり)である。しかし数年前、庵はユウキと仁美を置いて家を出て行ってしまった。それ以来一切の連絡が取れず、死んでしまったのではないかという不安さえ時折感じてしまうことがある。

 ユウキにとって友情はかけがえのないものであり、心を締め付ける楔となっていた。

 そこへオレンジの髪をした子犬が駆け込み、フェイトが微笑んで抱きかかえる。

「こんにちは、アルフさん。」

「来てたんだね、なのは。あたしもフェイトも調子がいいんだよ。」

 笑顔を見せたなのはに答えた子犬に、ユウキが驚きを覚える。

「えっ!?・・もしかして、この犬も人間が化けてるとか・・?」

「少し違うよ。あたしはフェイトの使い魔だよ。狼祖体のね。」

 そんな彼に子犬姿のアルフが答える。彼女はフェイトの使い魔で、フェイトの魔力の供給を受けて活動している。なのはたちのいるこの世界に溶け込むため、彼女はこの子犬の形態を取っているのだ。

「へぇ。魔法もけっこう奥が深いなぁ・・・」

 ユウキはとっさにこんな率直な感想を口走っていた。

 そのとき、なのはとフェイトが突然発生した魔力を感じて緊迫を覚える。

「北北西2キロ先で、異質の魔力反応を確認!」

 レーダーを確認したエイミィの声が響く。

「私が行くよ。なのはたちはここにいて。」

「えっ?フェイトちゃん・・」

 きびすを返したフェイトになのはが戸惑いを見せる。

「ユウキさんのそばにいてあげて・・・」

 フェイトは微笑んでなのはに呼びかけると、アルフとともに部屋を飛び出した。何とか気を落ち着けようとしているユウキを眼を向けて、なのはは困惑を抱えていた。

 

 街中に発生した魔力に、フォルファも察知していた。彼の緊迫した様子に、仁美も動揺を覚える。

「どうしたの、フォルファ・・?」

「先ほどの鎧たちが、この近くにまた現れたみたいだ・・」

 フォルファが口にした言葉に仁美が不安を見せる。その直後、2人の周囲に結界が張り巡らされ、鎧たちが姿を見せる。

「少しは魔力が回復したか・・・仁美、君はここにいるんだ。これ以上君に辛い思いはさせない!」

 フォルファが仁美を守ろうと鎧たちに向かって飛び出した。彼の握り締めた右手には白い稲妻がほとばしっていた。

 三種の神器を守護する彼は、その魔法と格闘の戦術から「雷獣」の異名も持ち合わせている。また彼が扱う魔法はミッドチルダ式だけでなく、ベルカ式も取り入れている。

「ボルティックナックル!」

 電撃をまとった拳を鎧の1体に叩き込むフォルファ。攻撃を受けた鎧が電流をほとばしって崩壊する。

 フォルファは次々と鎧たちを電撃の拳でなぎ払っていく。だが一向に鎧たちの数は減らない。

(くっ・・破壊の雷、ツァルシュブリッツを放てば一掃は確実だが、撃てるほどの魔力がまだ・・!)

 広範囲の電撃魔法の発射を試みようとしたフォルファだが、かなりの魔力を消費することになり、そこまで魔力が回復していなかった。

 思考を巡らせている彼に向けて、鎧が鉄槌が振り下ろす。

「しまった・・!」

 驚愕するフォルファが鎧の痛烈な一撃を受けて昏倒する。

「フォルファ!」

 仁美がたまらず悲痛に叫ぶ。駆け寄ろうとした彼女の前に、鎧たちが立ちはだかる。

「仁美、逃げるんだ・・・こっちに来たら、君を危険に巻き込むことになる・・・!」

 立ち上がったフォルファが仁美に呼びかける。だが仁美は逃げようとはしなかった。

(できればこのまま逃げたいけど、私に親切にしてくれたフォルファを置いていくなんてできない・・・!)

「クライムパーピル、力を貸して!」

Stand by ready.Drive ignition.”

 決意を秘めた仁美がクライムパーピルに呼びかける。彼女の指にはめられたデバイスが杖へと形を変え、彼女も紅のバリアジャケットに包まれる。

 フォルファを助けるため、仁美は快く思っていない戦いに身を投じたのだった。

 

「バルディッシュ・アサルト、セットアップ!」

Get set.Drive ignition.”

 結界を展開して街中に現れた鎧たちを前にして、フェイトがバルディッシュに呼びかける。金色の宝石が戦斧を思わせる形状の杖へと変形し、彼女自身も漆黒のバリアジャケットを身にまとう。

 各々の武具を掲げて迫ってくる鎧たちを見据えて、フェイトが電撃を帯びた金色の弾を数個出現させる。

Plasma Lancer.”

「ファイア!」

 バルディッシュとフェイトが光の弾を解き放つ、雷の矢のごとく放たれた弾丸は鎧を次々と撃ち抜いていくが、何発かかわされる。

「ターン!」

 目標を外れた弾丸は、フェイトの声を受けて停止し、その場で反転して再び鎧に向けて放たれ貫く。

 そして子犬フォームから人間形態となったアルフも、拳を振るって鎧たちをなぎ払っていく。周囲を取り囲む鎧たちを見据えながら、彼女はフェイトに念話を送る。

(こりゃ一気に倒すしかないみたいだよ、フェイト・・・!)

(そうだね、アルフ・・私が合図したらその場を離れて・・・!)

 フェイトの指示に頷いて、アルフは鎧たちを引き付け、迎撃を続ける。その間にフェイトは広範囲魔法の発動に備えていた。

「バルディッシュ、カートリッジロード・・・!」

Load Cartridge.”

 バルディッシュがカートリッジを装てんし、瞬間的な魔力増大を行う。戦斧を構えたフェイトの足元に金色の魔法陣が展開し、同時に鎧たちの上空に無数の金色の矢が出現する。

(アルフ!)

「サンダーブレイド!」

 念話でアルフに呼びかけた直後に、フェイトが鎧に向けて光の矢を解き放つ。同時に彼女からの合図を受けたアルフが即座にその場を離れる。

 上空を見上げた鎧たちに、金色の矢の雨が降り注ぐ。矢は鎧たちを一気に一掃し、崩壊した鎧たちが光の粒子となって消失していく。

「やったね、フェイト!」

「うん。ありがとう、アルフ、バルディッシュ。」

 喜ぶアルフと、膨大な魔力の消費で白煙を噴出したバルディッシュに、フェイトは微笑んで感謝の言葉をかける。

「だけど、いったい何だったんだろうね、この鎧・・?」

「分からない・・母さんが動かしていたものとも、アンナさんのガーディアンデバイスとも違う・・・」

 鎧の正体に疑問を抱くアルフとフェイト。高い戦闘力を備えていること以外、何も分からないままだった。

 そのとき、2人は巨大な魔力の接近を察知して振り返る。フェイトがとっさに構えたバルディッシュを、炎の力を帯びた杖が叩きつけられる。

「えっ・・・!?

 突然の襲撃に眼を見開くフェイト。彼女に襲撃を仕掛けてきたのは、紅のバリアジャケットを身にまとった仁美だった。

 

 異世界の静かな農地で生活していた1人の幼い少女。だがその少女に魔の手が伸びていた。

 漆黒に彩られた空に現れた不気味な影。その闇の中から伸びた魔手が、少女の胸を貫いていた。

 恐怖と動揺をあらわにしている少女から影が取り出したのは、魔力の根源「リンカーコア」である。魔力の光が集束して輝いているリンカーコアだが、影が抜き取ったそれは宝玉を思わせる形であり、その中にはその少女が裸身で閉じ込められていた。

 見てはならない自分を見たような面持ちを見せる少女。リンカーコアを抜かれて淡い光が残っている胸元から、少女の体が灰色に変わっていく。

 恐怖とともに少女を石化が包み込んでいく。その場に立ち尽くしたまま、少女は完全な石像と化した。

 石化して取り残された少女をあざ笑うかのように、影は空の漆黒とともに姿を消した。それから何事もなかったかのような静寂が訪れていた。

 それが今回多発している事件の一端だった。

 

 

次回予告

 

すれ違い、衝突する気持ち。

打ちひしがれた仁美に差し伸べられた優しい手。

彼女を、ユウキを待っていたもの。

それは、はやての歓迎と、騎士たちの邂逅だった。

 

次回・「Little Wish

 

小さな願いが、大きな波紋を呼び起こす・・・

 

 

作品集

 

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