魔法少女リリカルなのは -prologue to Lime-
第七章
今、私と戦っているのは1人の少女であり、私自身。
私が犯した罪が形となったもの。
私はお母さんのために何でもしてきた。
お母さんに認められたかった。
でもお母さんは私を必要としていなかった。
私はどうしたらいいのか分からなくなった。
私はどうにもならない事実を認めたくなかった。
もしも認めてしまったら、このまま心が砕けてしまうと思ったから。
そんな私に、手を差し伸べてくれた女の子がいた。
その子がそばにいてくれたから、全力でぶつかってきてくれたから、私は勇気が持てた。
だから今度は、私自身が答えを見つけなくてはいけない。
私の眼の前にいるあの子は、私の罪そのもの。
あの子の姿は、私と合わせ鏡と同じ。
だからこの戦い、負けるわけにはいかない。
この子とは、全力であなたを戦う。
決意を言い放つフェイトが、ライムに向かって飛びかかっていく。振り下ろされたバルディッシュの光刃を、ライムがクリスレイサーで受け止める。
「ぐっ!」
その重みを痛感して、ライムが目を見開く。フェイトに押し込まれて、彼女が徐々に後ろに下がっていく。
「力が上がっている・・だけど、このくらいじゃ・・・!」
ライムが負けじと力を振り絞り、フェイトを押し返そうとする。2人が振りかざす光の刃が、激しくぶつかり合って火花を散らす。
「フェイト・・ライム・・・」
激しさを増していく2人の戦いに、アルフが不安を募らせる。ただ見守ることしかできない自分を、彼女は歯がゆかった。
「ライム・・・もうやめて・・・」
ラークがライムの姿を見て、胸を締め付けられる思いに駆られていた。
「こんなの、とても幸せじゃないよ・・・」
声を振り絞るラークだが、ライムには届いていない。拮抗する接近戦を脱し、フェイトとライムが距離を取った。
“Device form.”
フェイトの意思に呼応して、バルディッシュが基本形態に戻る。これにライムが眉をひそめる。
(形態を戻した?・・攻撃のバリエーションを増やす気か・・・だったら!)
“Launcher mode.”
ライムも思考を凝らし、クリスレイサーが砲撃型へと変化する。激しい接近戦から一変、長距離からの撃ち合いに持ち込まれた。
魔力の弾丸をぶつけ合い、互いの出方を伺う2人。そして先に本格的な先手を打ったのはフェイトだった。
「フォトンランサー!」
フェイトがライムに向けて光の槍を放つ。これまでよりも威力のある金色の攻撃を、ライムは砲弾で難なく迎撃する。
だが光の槍は次々と出現してくる。フェイトの周囲だけでなく、ライムの周囲にも。
ついにライムの周囲に、光刃の槍の群れが取り囲んだ。「フォトンランサー・ファランクスシフト」の準備が完了したのだ。フォトンランサーの最大級の応用技が、ライムに対して包囲網を敷いていた。
「これでもう逃げられない。でも魔力だけを削るように設定してあるから。」
フェイトが淡々とライムに告げるが、ライムは表情を変えない。降参の意を示さない彼女に対し、フェイトは一斉射撃の思念を送った。
包囲していた光の槍が、次々とライムに向かって飛び込んでいった。魔力の衝突で上空に爆煙が広がる。
勝負が決まってないにしても決定打にはなったはずと察したフェイトだったが、ライムは氷塊の中に閉じ込められた状態になっていた。クリスレイサーの自己判断でスノーウォールが発動され、光の槍からライムを守ったのだ。
しかし攻撃の完全な無力化には至らず、ライムはある程度の魔力の削減は免れていないようだった。氷塊を崩し、彼女は再び身構える。
そのとき、フェイトは上空にて魔力を収束し、電撃を放出していた。
「サンダーレイジ!」
標的を定めた雷の砲撃がライムに向けて放たれる。だが彼女が狙ったのはライムではなく、彼女の周囲の砂地だった。
落雷によって砂煙が巻き上げられ、ライムの視界と動きを封じる。素早い彼女の動きが止まる瞬間が、フェイトの狙う好機だった。
フェイトの思念によって、ライムの背後に一瞬魔法陣が浮かび上がる。その瞬間、ライムはその魔法陣に捕らわれるように動きを封じ込められる。
ライムは必死に束縛から抜け出そうとするが、完全拘束をもたらした捕獲魔法「ライトニングバインド」は彼女を逃がさない。
フェイトは再び光の槍の群れを出現させる。彼女の前方に集約された槍は、ライムに狙いを向ける。
フォトンランサー・ファランクスシフトが放たれた瞬間、再びクリスレイサーが自己判断を下し、形態を変えて光刃を出現させる。光刃は鞭のようにしなり、ライムにかけられている拘束魔法を切り裂く。
自由になったライムは即座に後退して、降り注ぐ槍の群れをかわした。確実に命中したはずの攻撃をかわされて驚くも、フェイトはすぐに落ち着いて着地する。
「危ないところだった・・こんな攻撃を仕掛けてくるなんて・・・!」
間一髪で危機を脱したライムが、フェイトの戦法に毒づく。
「ありがとう、クリスレイサー・・君が助けてくれなかったら、僕はやられていた・・・」
“Don't worry.”
感謝の言葉をかけるライムに、クリスレイサーが答える。ライムは構えを崩さないフェイトに視線を戻す。
「近距離、遠距離・・ここまで的確にやってのけるなんて・・・!」
「あなたもやっぱり速いね・・命中させるだけでも油断できない・・こうして逃げ道を塞がないと、とても当てられない・・・」
声を振り絞るライムに対し、フェイトも深刻さを込めて言いかける。
「そうだ・・僕はもっと強くならなくちゃいけない・・もっと強く・・もっと速く・・もっと高く!」
“accel form.set up.”
言い放つライムのまとうバリアジャケットが軽量化される。同時にクリスレイサーから再び光刃が発せられる。
「ついに来た・・ライムの高速化・・あの速さを何とかしない限り、私はライムを止められない・・・」
さらに身構えるフェイト。彼女はライムの速さを止めるための打開の糸口を、必死に探っていた。
「ついに出る・・アクセルアクション・・・」
「あれだけの速さ・・すごいけど、フェイトなら何とかしてくれる・・・」
新たな局面を迎える勝負に、ラークとアルフが息をのむ。ライムがクリスレイサーの光刃の切っ先を、フェイトに向ける。
「これが最後の勝負だ・・このアクセルアクションを破らない限り、お前に勝機はない・・・」
ライムの言葉をフェイトが無言で聞く。
「行くよ、クリスレイサー!」
“accel action.start up.”
ライムがフェイトに向かって飛びかかる。あまりの速さに反応が遅れ、フェイトが突き飛ばされる。
「くっ!」
「フェイト!」
うめくフェイトに、アルフがたまらず声を荒げる。踏みとどまったフェイトに、ライムが続けて飛びかかっていく。
即座にバルディッシュを構えて、ライムが振りかざしたクリスレイサーを受け止めるフェイト。動きが止まったところを狙おうとした彼女だが、ライムはすぐに移動してしまい、狙いを外されてしまう。
(ダメ・・すぐに素早く動いて、反撃が間に合わない・・・!)
ライムの速さに対して、フェイトが焦りにさいなまれそうになる。彼女はライムの速さを目で追い切れているが、体が対応に追いつかない。
(感じ取るしかない・・ライムの力を・・・!)
フェイトが五感を研ぎ澄まして、ライムの動きをつかもうとする。高速での動きを見せているため、空気の流れが激しくなっている。その流れをつかむのは難しいことではない。
動き回るライムが体に痛みを覚える。アクセルアクションの負荷が、彼女の体にのしかかっていた。
(あんまり長くアクセルアクションを使うのはよくない・・フェイトを倒せても、体がバラバラになってしまう・・・!)
同じく危機感を膨らませていたライム。彼女もフェイトとの戦いの早期決着を見据えていた。
(終わらせてやる・・この先に、僕や母さん、みんなの幸せが待っているんだから・・・!)
だがライムは押し寄せる痛みに耐えて、フェイトに向かっていく。彼女の接近に、意識を集中していたフェイトが気づいた。
ライムが振りかざしてきた刃が、フェイトのかざしたバルディッシュと光刃に引っかかった。
「ぐっ!」
「今!」
目を見開くライムに、フェイトが左手を伸ばす。
(こんな至近距離で撃つのは危険だけど、これしかない・・・!)
「サンダースマッシャー!」
思い立ったフェイトがゼロ距離での砲撃を、ライムに向けて放つ。だがライムはとっさにクリスレイサーの光刃を消して、バルディッシュから逃れる。
(そんな・・刃を消して逃れた・・・!?)
驚きを覚えるフェイト。砲撃を止めようにも間に合わず、ライムは素早く動いて砲撃をかわしてしまった。
「そんなことで、僕を止められると思うな!」
フェイトに向かって叫び、ライムが飛びかかる。クリスレイサーから再び光刃が発せられる。
「これで・・これで終わりにしてやる!」
言い放つライムがクリスレイサーを振りかざす。その一閃がフェイトに直撃した。
「あっ!」
たまらず声を上げるアルフとラーク。ライムの一閃を受けたフェイトがはね上げられ、力なく落下して砂地に落ちた。
「フェイト!」
悲鳴を上げるアルフ。フェイトに駆け寄ろうとした彼女だが、着地したライムを目にして立ち止まってしまう。
アクセルアクションの多用で疲弊し、息を荒げるライム。呼吸を整える彼女が、緊迫を見せるアルフに振り向く。
「もう終わりだ・・僕の残された力の全てを叩き込んだ・・・」
「そんなことはない!フェイトが、こんなことぐらいで負けたりするもんか!」
声を振り絞るライムに、アルフが声を張り上げる。
「フェイトは今までだって、辛い思いを何度もしてきた・・ジュエルシード集めってだけでも大変なのに、なのはやクロノとも戦って、プレシアにひどい目にあわされて・・それでもくじけずに頑張って、なのはやクロノ、みんなに助けられて支えられて、フェイトはずっとずっと強くなった・・・だから、こんなことで負けるはずがない!」
「そんなの関係ない!たとえフェイトがどんなに強くても、僕はそれに負けないくらいに強くなった!これで僕はフェイトに勝った!お前も倒せばテスタロッサに勝ったことになり、僕たちは幸せを取り戻すことができるんだ!」
切実に言いかけるアルフの言葉を、ライムが怒りの言葉で一蹴する。しかしアルフのフェイトへの信頼は揺るがない。
「あたしは信じてる・・フェイトは、また立ち上がるって・・・!」
「僕の渾身の力をぶつけたんだ・・立ち上がれるもんか・・たとえまた立ち上がってきたとしても、もう1度、何度でも倒してやる・・2度と立ち上がれなくなるまで・・・!」
敵意をむき出しにするライムが、クリスレイサーの切っ先をアルフに向ける。
「次はお前だ・・お前もフェイトと一緒に罪を償え!」
「やめて!」
そのとき、ラークがライムとアルフの間に割って入ってきた。ライムを止めようと、ラークは彼女の前に立ちはだかった。
「ひばり・・・何をやっているんだ・・何でテスタロッサを庇うんだ!?」
「だってホントはいい人だよ!フェイトお姉ちゃんもアルフお姉ちゃんも!それに、ライムに辛い思いをしてほしくないから!」
声を荒げるライムに、ラークが涙ながらに呼びかける。彼女の姿を目の当たりにして、ライムが困惑を覚える。
「今のライム、とっても辛そう・・ライムの使い魔であり、妹であるひばりにはよく分かる・・・」
「分かっているならそこをどいてくれ・・テスタロッサを倒す以外に、僕たちは幸せを取り戻せないんだ!」
必死に呼びかけるラークだが、ライムは引き下がらない。
「妹を悲しませてまでやることに、どんな幸せがあるの・・・?」
そこへ声がかかり、ライムが目を見開く。彼女が振り返ると、フェイトが立ち上がってきていた。
「フェイト・・・よかった・・・」
力を振り絞って立ち上がってきたフェイトに、アルフが喜びを浮かべる。満身創痍に追い込まれていたフェイトだが、何とか立ち上がっていた。
「まだ・・立ち上がる力が残っていたのか・・・!」
ライムがフェイトを目にして苛立ちを見せる。
「ひばり、あなたのことを心配して、ずっと泣いている・・彼女を悲しませてまで手に入れるものが、本当に幸せだっていえるの・・・?」
「うるさい!お前に何が分かる!?僕たちの幸せを奪ったお前に!」
フェイトが投げかける問いかけを拒絶するライム。
「騙されたらダメだ、ひばり!テスタロッサがいたら、僕たちと同じ思いをする人が増えてしまう!」
「そんなことないよ、ライム!ちゃんと話し合えば、フェイトお姉ちゃん、絶対に分かってくれるよ!」
叫ぶライムにさらに呼びかけるラーク。しかしライムは聞かずにフェイトに飛びかかる。
「僕はお前を倒す!お前の罪を、僕が償わせてやる!」
ライムがフェイトに向けてクリスレイサーを振りかざす。フェイトは後ろに飛んで、ライムの一閃をかわす。
「僕の中にある悲しみも、ひばりの辛さも、全部お前たちが植え付けたものだ!だからお前を倒せば、全てが終わるんだ!」
「確かに、全ては私たちの罪・・だからあなたの悲しみも怒りも、この体で受け止めてみせる・・・!」
感情のままに叫ぶライムに、フェイトも言い返す。クリスレイサーとバルディッシュが砲撃のための形状へと変化する。
「サンダー・・」
「クリスタル・・」
フェイトの構えるバルディッシュの先端から光の槍が、ライムの構えるクリスレイサーの先端から氷の刃が出現する。
「・・レイジ!」
「・・レイ!」
それぞれの魔法の光刃の群れが発射され、ぶつかり合って相殺する。2人の力は衰えることがないまま拮抗していた。
「僕は負けない・・僕の家族を無茶苦茶にしたフェイトに、負けるわけにはいかないんだ!」
叫ぶライムが力を振り絞って、フェイトに飛びかかる。クリスレイサーが再び形状を変えて、光の刃を発する。
ライムはフェイトに向けてクリスレイサーを突き出した。
「フェイト!」
アルフの叫ぶ前で、フェイトが光刃に貫かれたように思われた。次の瞬間、フェイトとライムを中心にまばゆい光が放たれた。
「えっ・・・!?」
その光に包まれて、ライムが驚きを感じていた。
白んだ光にたまらず目を閉じていたライム。光が弱まり、彼女はゆっくりと目を開けた。
そこはライムにとって見知らぬ場所。山と草原の広がる場所だった。
「ここは・・・?」
自分がいるのがどこなのかを確かめようと、ライムが歩きながら周囲を見回す。周囲には人気がなく、動物が何匹かいる程度だった。
しばらく歩いたところで、ライムは足を止めた。彼女の視線の先には、憎んでいた金髪の少女の姿があった。
「フェイト・・・こんなところにまで・・・!」
怒りをあらわにして、ライムが飛びかかっていく。だが彼女の体は、少女の体をすり抜けてしまった。
「なっ・・・!?」
思わぬ事態に驚くライム。彼女は少女だけでなく、周囲の草木にも触れることができなかった。
「どういうことなんだ!?・・・触れられない・・・!?」
何にも触れられない自分に困惑するライム。少女は彼女の存在に気付いていないかのように、草原を見回して微笑んでいた。
「アリシア・・アリシア・・・」
そこへ声がかかり、ライムが視線を移す。少女、アリシアが笑顔を浮かべて立ち上がる。
声をかけてきたのはアリシアの母親、プレシアだった。
(あの人・・・間違いない・・プレシア・テスタロッサだ・・・!)
さらに怒りを込み上げるライム。だが触れることができない彼女は、プレシアに何もできないことを歯がゆく感じていた。
「ゴメンね、アリシア・・仕事が長くなって・・・」
「いいよ、ママ・・ママはみんなのために頑張ってるんだから・・・」
謝るプレシアにアリシアが笑顔で答える。
アリシアは「アレクトロ社」での仕事をこなしていた。そのためうまく休日が取れず、アリシアにさびしい思いをさせていることを辛く感じていた。
「もう少しだけ我慢していて・・この仕事が終わったら、アリシアの行きたいところに行きましょう・・」
プレシアの投げかけた言葉に、アリシアが笑顔で頷いた。だがこの親子の大切な1日が叶わぬ夢となってしまうことを、2人とも知る由もなかった。
アレクトロ社にて発生した事故により、アリシアは死亡。愛娘を失ったプレシアは、絶望とともにアリシアの蘇生への願望を強くしていくこととなった。
その中で、アリシアのクローンとして生まれたのがフェイトだった。
フェイトはアリシアと同じ姿をしており、彼女の記憶を受け継いでいた。しかし性格や人格はアリシアとは違い、その違いを思い知らされたプレシアはさらなる絶望にさいなまれてしまう。
「アルハザード」。次元の狭間に存在する世界。その世界に眠る秘術に、命の蘇生があるのではないかとにらみ、プレシアは野心をむき出しにした。
プレシアは自身の使い魔、リニスを誕生させ、フェイトを鍛えさせた。アルハザードを導く鍵、ジュエルシードを集めさせるために。
フェイトには一切に愛情を注がず、あくまで目的のために利用しようとしていたプレシア。その真意に気付いたリニスがとがめるが、プレシアの頭の中には、アリシアを生き返らせることしかなかった。
プレシアの拒絶により、リニスは使い魔としての命を終えた。それからプレシアはフェイトを使って、ジュエルシードを集めさせることとなる。
「そんな・・自分の本当の娘のために・・・」
アリシアを想うプレシア。その想いのあまりに狂気と病に取りつかれた彼女の姿を目にして、ライムが困惑する。
「でも・・いくら自分の娘のためだからって・・他の人を傷つけていいことにならないじゃないか・・・!」
プレシアの行為と態度に、ライムは改めて憤りを覚える。
「僕の母さんまで・・・絶対に許しちゃいけない、こんなの・・・!」
「それはあなたにも言えることだよ・・・」
そこへ声がかかり、ライムが振り返る。その先には、死んだはずのアリシアの姿があった。
「フェイト・・・いや、アリシア・・・!」
ライムが声を上げると、アリシアは小さく頷いた。
「あなたもママを助けるためだったら、どんなこともやってきた・・ママやフェイトみたいに・・・」
「違う!僕はフェイトや、お前たちテスタロッサとは違う!」
アリシアが投げかけてきた言葉を受けて、ライムが声を荒げる。
「それは私たちがあなたたちを傷つけたから・・・」
ライムに向けて声をかけてきたのはアリシアではなく、リニスだった。
「お前は、プレシアの使い魔・・・!」
「はじめまして。プレシア・テスタロッサの使い魔、リニスです・・」
緊迫を募らせるライムに、リニスが微笑んで挨拶する。
「プレシアとフェイトは、アルハザードに行くため、ジュエルシードを集めるために行動していました。他のものを全て犠牲にしてでも、目的を果たしたかった・・」
「そのせいで、僕たちは・・・!」
「でもフェイトは罪の意識を感じていました・・いくら絶対に叶えたいことであっても、フェイトには罪悪感を感じていたのです・・」
「だから許せって言うのか!?・・・僕たちが受けた傷は、そんなことで治せるものじゃない!」
「許してほしいとは思っていません・・全ては私たちの犯した間違いなのですから・・・」
怒りをあらわにするライムに、リニスは深刻な面持ちを見せて答える。
「あなたが私たちを許せないというなら、フェイトとアルフも償うことでしょう・・でもあなたがフェイトに復讐するために、関係のない人まで傷つけることはよろしくありません・・」
「そんなことは分かっている!僕の敵はテスタロッサと、僕の邪魔をするヤツだけだ!」
「たとえそうであっても、あなたが倒した人と親しかった人が、あなたを怨んで復讐をしてくるかもしれません・・フェイトに復讐するあなたのように・・・」
「そんな勝手、聞いていられるか!そんなの逆恨みじゃないか!」
「あなたがそう思っても、相手はそうは思わない・・あなたを倒すことしか考えられなくなっているから・・今のあなたがしていることは、フェイトへの復讐だけでなく、別のあなたを生み出すことでもあるのです・・」
「別の僕を、生み出す・・僕が・・・!?」
「憎しみは新しい憎しみを生み出していく・・・あなたにある憎しみも、アリシアを失った理不尽に向けられたプレシアの憎しみが生み出したものかもしれません・・・」
リニスが語りかける言葉に、ライムは困惑するばかりだった。彼女は自分が貫いてきた気持ちを揺さぶられていた。
そんなライムにアリシアが近づき、手を差し伸べてきた。
「ごめんなさい・・・ママが私のことを大切にしていたから、こんなことに・・・」
ライムに謝るアリシアの目からは涙があふれてきていた。彼女も自分自身に罪の意識を感じていた。
「憎しみの中には、愛情の裏返しが原因となっているものもあります・・アリシアを愛したプレシアや、お母さんを愛しているあなたのように・・・」
「僕が、母さんを愛しているから・・・!?」
「あなたは心からお母さんを愛している・・そのお母さんを傷つけられたから、フェイトが許せない・・・フェイトをやっつければ、お母さんを幸せにできると信じて・・・」
リニスの言葉を受けて、ライムが困惑する。どうしたらいいのか分からず、彼女は歯がゆさを浮かべるばかりだった。
そんなライムの手を、アリシアが握ってきた。彼女のあたたかな手に触れて、ライムは戸惑いを覚える。
「仲良しになることはできないの?・・・そのほうが、みんな楽しくなるのに・・・」
「できない・・・母さんを傷つけたお前たちと仲良くするなんて・・・」
「どうしても私やフェイトと友達になれないなら、それでいい・・・でも他の人と友達になる気持ちまで忘れないで・・・」
アリシアが投げかけたこの言葉を耳にした途端、ライムの目から涙があふれてきた。彼女にとって無意識に流れ出たものだった。
「みんなあなたのことを心配している・・大切にしようとしている・・その気持ちを裏切ることが、あなたのしたかったことじゃないんだよね・・・?」
アリシアの言葉を聞いて、ライムが顔を上げる。その先にはラークやなのは、自分が関わってきた少年少女が立ち並んでいた。
その中央にはフェイトがいた。フェイトはなのはたちに囲まれて、新しい幸せを感じていた。
「フェイト・・・」
ライムは喜びに満ちあふれているフェイトを目の当たりにして、動揺していた。揺れ動く気持ちを抑えきれず、ライムはその場に膝をつく。
「もしかして、僕は嫉妬していたのかな・・・幸せになっていくフェイトを・・・」
悲しみを募らせていくライムが、自分の体を抱きしめる。
「同じ年の女の子・・本当だったら仲良くしたくなる・・・でもフェイトは僕の家族の仇・・仲良くなってしまったら、母さんを裏切ることになってしまう・・・それが怖かった・・・」
「そんなことはないよ・・あなたのママとフェイト、仲良くしてたよ・・・」
不安を見せるライムに、アリシアが優しく言いかける。
「母さんが・・・そういえばフェイト、母さんに会っていた・・・」
「楽しそうにしていた・・まだ記憶は戻っていなかったけど、フェイトの優しさを分かってくれた・・・ううん、真っ白な心だったから、フェイトが本当は悪い子供じゃないって分かったんだと思う・・・」
「母さんが・・フェイトのことを・・・」
「だからきっと、あなたもフェイトと仲良くなれるよ・・・たとえ仲良くなれなくても、分かり合うことはできる・・・」
「分かり合う・・・?」
アリシアの言葉の意味が分からず、ライムが疑問符を浮かべる。
「ようするにライバルということですよ・・」
「ライバル・・・!?」
「お互い、勝ちたい相手に勝つために強くなって競い合う。その中で相手のことを知らず知らずのうちに理解していく・・そういう関係も悪くないですね・・」
「ライバルか・・・そういうのも面白いかもしれないね・・・」
リニスにも励まされて、ライムは徐々に安らぎを感じていく。
「あなたもフェイトも、誰かの支えがないと頑張れない・・ううん・・周りにいる人たちみんなそうだよ・・・」
「アリシア・・・」
「みんながあなたを支えてくれている・・だからあなたも、みんなを支えてあげて・・・」
アリシアはライムに優しく声をかけると、ゆっくりと手を放す。
「私たちはもうみんなのところにいられないけど・・みんなのことはずっと見ているから・・・」
「私も見守らせていただきますよ・・フェイトやアルフだけじゃなく、あなたのことも・・・」
アリシアとリニスがライムに笑顔を見せる。2人はゆっくりとライムから離れていく。
「アリシア・・・リニス・・・」
去っていくアリシアとリニスを見送って、ライムは微笑んだ。彼女は見失っていた答えをようやく見つけたような気がしていた。