魔法少女リリカルなのは -prologue to Lime-
第四章
上空にて魔法射撃の撃ち合いを行っていたなのはとジャンヌ。
ジャンヌはなのはと同じく射撃、砲撃といった長距離主体の魔法を使う。自分と同じ攻撃手段の彼女への対応は、なのはにとって難しいものではなかった。
だがジャンヌの魔法の精度や威力は、なのはを上回っていた。
“The other party's shooting is accurate. It is a matter of time to be going to receive the direct hit the way things are going. (相手の射撃は正確です。このままでは直撃を受けるのも時間の問題です。)”
レイジングハートがなのはに注意を促す。ジャンヌが彼女に目を向けたまま後ろに下がる。
「そろそろ大技を出すよ・・・」
“Deadly smasher.”
ジャンヌが構えるデッドリーソウルから、漆黒の閃光が放たれた。防ぐのは危険と判断し、なのはが横に回避を取る。
標的を外れた閃光は、空の上で爆発を起こす。そのきらめきから、なのはは砲撃の威力を痛感する。
「あなたも見せてよ・・出るんだよね、大きな魔法・・・?」
ジャンヌがなのはに向けて呼びかけてくる。しかしなのははこの言葉を鵜呑みにしない。
「残念だけど、私の魔法はいじめるためにあるんじゃない・・自分の気持ちを伝えるためのものだから・・・」
「自分の気持ちを、伝える?・・・分からない・・・」
言葉をかけるなのはだが、ジャンヌにはその言葉の意味が理解できなかった。
「そこまでだ!攻撃をやめるんだ!」
そこへクロノが現れ、なのはとジャンヌの間に割って入ってきた。
「クロノくん、私は大丈夫だから、ユーノくんの手当てを・・!」
「その心配はいらない。既に医療班が診ている・・」
呼びかけるなのはにクロノが説明する。彼は先に傷ついたユーノを連れてアースラに運んでからこの場に来ていた。
「君が行っていることは悪いことだ。こちらの言うことが聞けないなら、時空管理局執務官として、君を拘束することになる・・」
クロノがジャンヌに振り向いて呼びかける。
「私はその子と遊んでいるの・・邪魔しないで・・・」
しかしジャンヌは逆にクロノに不満を向ける。
「これは遊びじゃない。遊びでもやっていいことと悪いことがある。」
「私は遊びたいの・・・遊んで、楽しくなりたいの・・・」
クロノの警告に耳を貸さず、ジャンヌが黒い光の弾を放とうとする。だがクロノが放ったリングバインドに両手を縛られ、ジャンヌは動きを止められる。
「できれば手荒なことはしたくはないが・・すまないが力ずくで連れていくしかないようだ・・話は後でゆっくり聞かせてもらう・・」
「イヤ・・邪魔をするなんて、ひどい・・・」
真剣な面持ちで言いかけるクロノに、ジャンヌが不満の声を上げる。だがそのときも彼女は無表情のままだった。
ジャンヌは魔力を集中させて、両手を拘束しているリングバインドを破壊する。
「バインドブレイク・・頑丈にかけたはずのバインドを、こんなすぐに破るなんて・・・!」
バインドを破ったジャンヌに、クロノが緊迫する。ジャンヌが改めてクロノを狙い撃ちしようとした。
“ジャンヌ、そろそろ戻ってきて・・!”
そこへ声が飛び込み、ジャンヌが出していた光の弾を消す。その声を耳にして、クロノがさらに緊迫を覚える。
「その声は・・アンナさん!」
「えっ!?」
クロノが上げた声になのはも驚く。ジャンヌに向けてかけられた念話は、アンナが送ってきたものだった。
“これじゃ楽しく遊べたものじゃないよ。だから1度帰っておいで・・”
「うん・・分かった・・帰る・・・」
アンナに呼びかけられて、ジャンヌが頷く。
「それじゃ、また遊びに来るからね・・楽しみにしているよ・・・」
「逃がさない!」
なのはに言いかけて離れていくジャンヌを、クロノが追いかけようとする。だがアンナによる転移で、ジャンヌは彼らの前から姿を消した。
「今の子も、アンナさんと関係があったとは・・」
「とても不思議な子だった・・何があっても、全然表情を変えなかった・・・」
呟きかけるクロノとなのは。2人ともジャンヌとアンナを気にかけていた。
「多分、感情がないんだろう・・何かの原因で、心がなくなっている・・・」
「感情が、心がない・・・?」
クロノが口にした言葉に、なのはが疑問符を浮かべる。
「心や感情がないから、今みたいに無表情になっていたんだ・・本当に子供のように、遊びのように魔法を使って攻撃する・・」
クロノの説明になのはが深刻さを覚える。ジャンヌに辛い経験があったのだろうと、彼女は思っていた。
「なのは、君もアースラに留まったほうがいい。フェイトだけでなく、君も狙われているから・・」
「ありがとう、クロノくん・・でも、もう家に帰らないと、みんなが心配しちゃうから・・・」
呼びかけるクロノに、なのはが答える。
「そうか・・・ならばせめて明日には1度顔を見せてくれ。みんなが心配しているから・・・」
「分かった・・ゴメンね、クロノくん・・みんなにも、フェイトちゃんにも伝えておいて・・・」
こうしてなのはは、ひとまずクロノと別れて家に帰った。負傷したユーノはアースラにて1日療養することとなった。
家に帰ったなのはからの説明と、後にかかってきたリンディの電話連絡で、高町家の人々は渋々納得することとなった。もっとも、リンディの連絡の半分以上は、嘘で塗り固められていた。
アンナに呼び戻されて、研究所に転移してきたジャンヌ。研究室に来た彼女が、アンナに歩み寄る。
「おかえり、ジャンヌ・・心配したよ・・・」
「少ししか遊べなかった・・・でも、少し楽しかった・・・」
アンナがかけた声にジャンヌが答える。しかしジャンヌは無表情で、楽しさを表に出していなかった。
「今度はちゃんと遊ぶよ・・誰かに邪魔されないように・・・」
「そうなると・・ライムと一緒に出ていくことになるね・・あの子、フェイトちゃんと勝負しているから・・・」
ジャンヌの言葉を聞いて、アンナが考え込む。
「でもそうなったほうが、邪魔される可能性が低くなるかも・・・」
「だったら一緒に行く・・遊ぶの、楽しくなるのを邪魔されたくないから・・・」
アンナが持ちかけた案に、ジャンヌが納得する。
「だったらライムにも知らせておかないとねぇ・・逆にあの子の邪魔をしたらいけないからね・・・」
アンナは笑みをこぼすと、ライムへの連絡を取る。
(クリスレイサーとデッドリーソウル、私が開発したデバイスをここまで使いこんでくれている・・・うれしいが、ライムとジャンヌの重荷になっているのではという不安も感じている・・・)
自分の研究と開発の成果が出ていることに喜びを感じる一方で、ライムとジャンヌへの心配も秘めているアンナ。
(そろそろ潮時なのかな・・2人とも、次で終わらせてやらないと・・・)
アンナは気持ちを引き締めて、自らも本格的に動き出そうとしていた。
ジャンヌとなのはが出会ってから一夜が明けた。エイミィたちアースラのオペレーターたちがアンナの行方を追う一方、リンディとクロノはジャンヌについて調べていた。
「ジャンヌ・フォルシア・・幼い頃にフォルシア家の実験の事故で、感情を失っている・・喜怒哀楽が表に出ていなかったのは、心を失くしていたからか・・」
「事故の後に次元世界をさまよっていたところで、アンナに保護されたのね・・・でもそんな子にデバイスを与えるなんて・・・」
クロノとリンディがジャンヌについて語る。リンディはジャンヌがデバイスを持って行動していることが腑に落ちなかった。
「おそらく、ジャンヌがデバイスを手にしているのではないでしょうか?・・魔法を使うことが、遊びと思っているのでしょう・・・」
「・・こういうことはちゃんと注意しなくちゃいけないことなのに・・・」
クロノが告げた推測を聞いて、リンディが肩を落とす。
「アンナを見つけたら、厳重に注意しないと・・・」
「厳重注意では済まされなくなっていますよ・・・」
不満を口にするリンディに、クロノは半ば呆れていた。そんな彼らのいるブリッジに、フェイトとアルフがやってきた。
「フェイトさん・・まだなのはさんが来る時間では・・・」
「いえ・・なのはと会うまでに時間があるので・・立ち寄りたいところがあるのですが・・・」
声をかけるリンディに、フェイトが申し出てくる。しかしクロノは彼女の申し出を受け入れられなかった。
「フェイト、君は小室ライムに狙われている・・立ち寄った先で彼女と遭遇したら・・・」
「分かっています・・それでも、どうしても行きたいところがあるんです・・・」
引き下がらないフェイトに、リンディが疑問を投げかける。
「どうしても行きたい場所とは、どこなのですか・・・?」
フェイトが告げた場所を聞いて、リンディは監視下に置くことを条件にして、フェイトとアルフの外出を許可した。
フェイトが行こうとしていた場所。それはライムの母親のいる病院だった。
自分がしたことがライムの家族を壊してしまった。その罪の償いをしようと試行錯誤したフェイトの考えだった。
(フェイト、やっぱり心配だよ・・病院の中でライムと鉢合わせになったら・・・)
アルフがフェイトに向けて念話を送る。今のアルフは普段の人の姿ではなく、変身魔法で獣の耳と尻尾のない人間の姿となっていた。ジュエルシード収集にて使っていたマンションにて彼女が一般人と対面するときには、よく変身魔法で人間の姿になっていた。
(もしそうなったら逃げるよ・・ここでは争うつもりはない。病院では戦えないからね・・)
(そうならいいんだけど・・・何かあったら、まず1番にフェイトを守るから・・連れて全速力で逃げるから・・・)
微笑んで答えるフェイトに、アルフも意気込みを見せる。2人はライムの母親のいる病室の前に来た。
そこでフェイトはしばらくの沈黙を置いた。どのように接したらいいのか、母親と会ったとき、悪い反応をされるのではないのか、彼女はまだ不安を抱えていた。
何とか気持ちを落ちつけてから、フェイトはドアをノックした。
「どうぞ・・・」
病室から返事があり、フェイトはドアを開けた。ベッドには母親が体を起こしていた。
「こんにちは・・はじめまして・・・」
フェイトが母親に向けて挨拶をする。怖がっている様子が見られず、母親はフェイトを見ても動じていなかった。
「どうしたの?・・私に何か・・・?」
「いえ、特には・・・ただ、お話がしたくて・・・」
母親に問いかけられて、フェイトが戸惑いながら答える。彼女は持ってきた袋からリンゴをひとつ取り出す。
「皮、むいてもいいですか・・・?」
フェイトが訊ねると、母親は小さく頷く。フェイトは器用に皮をむくと、切り分けたリンゴのひと切れを母親に差し出した。
「ありがとうね・・・」
フェイトがリンゴを差し出すと、母親が微笑んで感謝する。その言葉にフェイトの心が大きく揺れた。
実母、プレシアから心からの笑顔と感謝を向けられたことはなかった。その思いは全てアリシアに向けられていた。こうして感謝を向けられたことが、フェイトにはとても嬉しく感じられた。
「・・・ごめん、なさい・・・」
「えっ・・・?」
フェイトが唐突に口にした言葉に、母親が疑問を浮かべる。
「ごめんなさい・・ごめんなさい・・ごめんなさい・・・!」
「どうしたの?・・私、何か悪いことをしたの?・・何か気に障ることしたかな・・・?」
ひたすら謝るフェイトに、母親が不安を浮かべる。
「ううん・・何もしてません・・・でも、ごめんなさい・・・!」
ただ謝ることしかできずにいたフェイト。こらえることができなかった涙が、彼女の目からこぼれて床に落ちる。
ライムとその母親に苦しみを与えてしまった罪を、フェイトは改めて、強く痛感していた。自分たちの幸せのために彼女たちの幸せを壊してしまった罪悪感で、フェイトは胸を締め付けられる思いでいっぱいになっていた。
「・・どういうことなのか、分からないけど・・私はあなたを悪く思っていないから・・・」
母親が投げかけてきた言葉に、フェイトは戸惑いを覚える。記憶は戻っていないが、フェイトは自分の罪を許してくれたことに安らぎを感じていた。
「よく分からないけど・・あなたは悪さをするような子ではない・・悪さをして喜ぶような子ではない・・それだけは分かる・・・」
「えっ・・・?」
「初めて会った私に優しくしてくれる・・そのあなたが、悪さをして喜んでいるとは思えない・・・」
母親の優しさを垣間見て、フェイトは心から喜んだ。だが彼女はその気持ちを表に出そうとはしなかった。
今ここで会う前に母親のことは知っていた。その点だけでも母親が示した優しい少女とはかけ離れていると思ったからだ。
「ありがとうございます・・・そういってもらえると嬉しいです・・・」
感謝の言葉を返すフェイト。母親の優しさを素直に受け止めることができない自分が、彼女は歯がゆかった。
「・・・また、来てもいいですか・・・?」
「・・いいよ・・また来てくださいね・・・」
フェイトの問いかけに、母親は微笑んで答える。彼女に微笑みかけてから、フェイトは病室を後にした。
病院の廊下を歩く中、アルフがフェイトに声をかけた。
「もう1回きりにしたほうがいいんじゃないの?・・何度も来たら、ライムと鉢合わせしちゃうって・・・」
「分かってる・・それでも、あの人を放っておくなんてできない・・私があの人を傷つけてしまったのだからなおさら・・・」
アルフの心配を受け止めながら、フェイトは自分の気持ちを正直に告げた。
「そろそろ戻ろう・・リンディ提督やなのはたちが心配するから・・・」
「・・もう、ホントに人がいいんだから、フェイト・・ま、そんなフェイトがあたしは好きなんだけどね・・」
フェイトの呼びかけに半ば呆れた素振りを見せるも、アルフは笑顔を見せていた。優しさを絶やさないフェイトが、アルフは好きだった。
病院の外に出たところで、フェイトはアースラへの連絡を行おうとした。
「フ、フェイト・・・!」
アルフが声をかけたと同時に、フェイトも足を止めた。彼女たちの前には、ライムとラークがいた。
「フェイト・・テスタロッサ・・・!?」
「ライム・・・!」
ライムとフェイトが対面して緊迫を覚える。張りつめた空気の中、ライムが怒りをあらわにしてきた。
「何でお前がここにいる!?・・・もしかして、母さんに何か・・・!?」
「違う!あたしたちはあの人の見舞いに・・!」
アルフが弁解しようとするが、ライムが聞かずにフェイトにつかみかかる。
「母さんの心を壊すだけじゃなく、命まで奪おうっていうのか!?そこまで僕たちを傷つけたいのか、お前は!?」
「フェイト!」
フェイトに怒鳴りかかるライムを、アルフがたまらず横から突き飛ばした。横転したライムだが、すぐに立ち上がってフェイトとアルフを見据える。
「フェイト、大丈夫!?」
「うん、平気・・でも手荒なことは・・・」
心配の声をかけるアルフに、フェイトが微笑みかける。一瞬安堵を覚えるも、アルフがライムを睨みつけてくる。
「間違いなくあたしらが悪いってことは分かってる・・だけどどんな理由であっても、フェイトが傷つくのを黙って見ているなんてできない!」
「テスタロッサの狼が、偉そうなことを言うな!」
アルフの言い分に憤慨するライム。彼女は待機状態のクリスレイサーを取り出した。
「悪いと思っているなら償え!そんな庇おうとする気持ちなんて、結局は自分たちがかわいいと思っていることの裏返しだ!」
「だけど・・・!」
「やっぱりお前たちは倒さなくちゃいけない!これ以上僕たちの幸せを、お前たちなんかに奪われてたまるもんか!」
アルフの言葉を跳ね除けて、ライムがクリスレイサーを起動しようとした。
「ライム、結界が!」
「えっ!?」
ラークが呼びかけ、ライムが警戒を覚える。彼女たちを中心に、突如結界が展開された。
「アンナの仕業じゃない・・管理局か!?」
結界を張った相手を模索して、ライムが注意を研ぎ澄ます。
“stand by ready.set up.”
クリスレイサーがスタンダードモードに変化する。同時にライムがバリアジャケットを身にまとう。
「僕はフェイトを倒すんだ・・誰にも邪魔はさせない!」
「やめなって、ライム!仕返しをしたって、アンタの母さんは喜んじゃくれないよ!」
叫ぶライムにアルフが悲痛の声を上げる。
“Launcher mode.”
クリスレイサーが遠距離用の「ランチャーモード」に変形する。射撃、砲撃に特化したランチャーモードのクリスレイサーを構えて、ライムがフェイトに狙いを定める。
「結界に入れられたのが好都合になった!これで思い切って攻撃ができる!」
言い放つライムが砲撃魔法を放とうとした。戦おうとしないフェイトは、バルディッシュを起動しようとしない。
そのとき、ライムの手足を伸びてきた光の鎖が縛りつけた。「チェーンバインド」で動きを封じられ、ライムは魔法を妨害されてしまった。
「これ以上は好きに暴れさせない・・」
そのライムの前にクロノとユーノが現れた。チェーンバインドを放ったのはユーノだった。
「少し頭を冷やしたらどうだ?このままではただの破壊者になってしまう・・」
「邪魔をするな・・僕はアイツを倒すんだ・・アイツを倒さないと、僕たちに幸せは訪れない・・・!」
呼びかけるクロノに、ライムが声を振り絞る。
「復讐の先に、幸せがあるって確証はない・・許せない相手のために、邪魔しようとする無関係の人まで傷つけて・・それで幸せが訪れるはずもない!」
「何も知らない管理局の人間が、偉そうなことを言うな!何もしていないのに傷つけられる・・そんな無茶苦茶を押しつけられたこともないのに!」
「分かる・・僕も昔、怒りや憎しみに囚われそうになったことがあったから・・・」
「だったら邪魔するな!僕はフェイトを倒さないと、母さんが・・母さんが!」
クロノの切実な言葉も聞かず、ライムが光の鎖を強引に破ろうとする。
「ダメだ!そんなことをしても、失ってしまった幸せは戻りはしない!きっと後悔する!」
「後悔しない!逆に何もしないほうが後悔につながってしまう!」
クロノからの忠告も、ライムには届かない。
そのとき、ライムを縛っていた光の鎖が、飛び込んできた風によって切り裂かれた。鎖が切れたことで、ライムが自由を取り戻す。
同時にクロノとユーノが風の輪がとりついた。
「これは!?」
「風の魔法・・ウィンドバインドだ・・・!」
声を荒げるユーノとクロノ。ウィンドバインドを放ったのはラークだった。
「ラーク!」
「ライム、逃げて!管理局の人たちが来る前に!」
声を上げるライムに、ラークが呼びかける。
「こうして相手の結界の中じゃ、ライムはいつか捕まっちゃう!そうなったら、2度とフェイトお姉ちゃんと戦えなくなっちゃう!」
「ありがとう、ひばり・・でも僕たちはいつまでも一緒だよ!」
逃がそうとするラークに、ライムが呼びかけて手を差し伸べる。彼女の心からの優しさを実感して、ラークは喜びを感じていた。
そのとき、ラークが駆け付けたアースラの武装局員の攻撃魔法を直撃された。
「キャッ!」
「ひばり!」
倒れ込むラークにライムが駆け寄ろうとする。だがその前に、レイジングハートを手にしたなのはが駆け付けてきた。
「なのは!」
「早く帰れたから・・アースラに来たら、ライムちゃんがフェイトちゃんに攻撃してきていたから・・・!」
呼びかけるユーノになのはが答える。すぐにラークに駆け寄ろうとするライムだが、なのはがそれを妨害する。
「邪魔しないで!このままだとひばりが!」
「お願い、ライムちゃん!ケンカするだけじゃなくて、私たちの話も聞いて!」
呼びかけるライムだが、なのはは退かない。
「ライム、ラークの、ひばりのことはいいから、ライムだけでも逃げて!」
「ダメだ!ひばりを置いていけるわけないじゃないか!」
「今ここでライムまで捕まっちゃったら、それこそ何もできなくなっちゃう!だからライム、行って!」
「ひばり・・・くそっ!」
ラークの言葉を受け入れて、ライムはやむなくこの場を離れた。
「待って、ライムちゃん!行かないで!」
「なのは、追いかけるんだ!攻撃してでも止めないと!」
声をかけるなのはに、クロノが呼びかける。彼もユーノもバインドの解除に手間取っていた。
「ゴメン、ライムちゃん・・でも、こうでもしないとひばりちゃんは・・・!」
なのはがライムに狙いを定める。だが魔法を放つ前に、ライムは結界を飛び出して遠ざかっていた。
「ゴメン、クロノくん・・本当に速いんだね、ライムちゃん・・」
「いや、気にしなくていい・・悪いのは油断した僕のほうだ・・」
謝るなのはにクロノが弁解する。彼とユーノはようやくウィンドバインドを破っていた。
「それに、こちらとしては重要参考人と話をすることができる・・大きな前進になるかもしれない・・」
クロノは言いかけて、武装局員に抱えられたラークに目を向ける。ラークは意識を失い、眠っていた。
「アースラに行こう。なのはも来てくれ・・」
「うん・・」
クロノの呼びかけを受けて、なのはが頷く。
「ひばりちゃん・・・ライムちゃん・・・」
ラークとライムの心配をして、なのはは沈痛の面持ちを浮かべていた。
ラークに助けられて辛くもアンナの研究所に戻ってきたライム。だがラークを助けられたことに、ライムは悔しさを覚えていた。
「くそっ!・・ひばりが・・ひばりが管理局とテスタロッサに・・・!」
ラークを助けられなかったことに悔しさを覚え、ライムが地面に両手を打ちつける。
「僕がしっかりしていれば・・僕にもっと力があれば・・ひばりがあんなことにならずに済んだのに・・・!」
「ひばりちゃんなら多分大丈夫だよ。」
悔しさを膨らませているライムに、アンナが声をかけてきた。
「大丈夫って・・管理局に捕まっちゃったんだよ!何が大丈夫っていうんだ!?第一あの艦にはフェイトがいるんだよ!」
「アースラの人は、犯罪者でも心の優しさのある人を無闇に傷つけることはしないよ。それに加えて、みんなしっかり者だし・・」
「だけど!」
「フェイトちゃんもアースラにいる以上は好き勝手なことはできない。アースラの中にいたほうが安全かもしれない・・フェイトちゃんはともかく、アースラは憎んでるわけじゃないんだよね?」
「そ、それは・・そうだけど・・・でもだからって、ひばりが全然安全だって保証は・・・!」
アンナの言葉に腑に落ちないライム。だがアンナの言葉に反論することもできずにいた。
「ライム・・ライムは1番に何がしたいわけ・・・?」
「何って・・・」
「クリスレイサーを受け取ったのは、フェイトちゃん、テスタロッサに仇討ちをするため。ひばりちゃんもそれをさせるために、ライムちゃんを逃がしたんじゃない・・」
アンナが投げかける言葉を耳にして、ライムは自分のしようとしていることを改めて思い知らされていた。
「そうだ・・魔法の力を手にしたのも、アイツを、フェイトを倒すため・・・!」
「君みたいな小さな子にこんな物騒なことをさせるのは気が引けるけど、後悔させるよりはいいかなって思って・・・仮に後悔することになっても、何かして後悔したほうが、何もしないで後悔するよりはマシなんじゃないかってね・・」
「後悔か・・・そうだね・・もう後悔したくないから・・・」
アンナの心情を察して、ライムが物悲しい笑みを浮かべる。
「やるしかない・・・ここまで来てやめてしまったら、僕は後悔する・・母さんが辛いままになってしまう・・・」
気を引き締めて、ライムが右手を強く握りしめる。フェイトを倒すことが未来を切り開く希望であると、彼女は信じていた。
そんなライムたちの前に、ジャンヌがやってきた。
「ねぇ・・いつになったら、あの子と遊んでいいの・・・?」
「そうだねぇ・・明日ぐらいにでも遊べそうだよ・・ライムもやる気になっているようだし・・」
声をかけてきたジャンヌに、アンナが笑みを見せる。気持ちを落ち着かせたライムが、真剣なまなざしを送る。
「行くよ、アンナ・・今度こそフェイトを倒して、ひばりを助けて、全てを終わらせる・・・!」
決意を口にするライムに、アンナが頷きかける。
「待っていて、ひばり・・すぐに行くから・・・」
ラークへの思いを胸に秘めて、ライムは戦いに備えて体を休めるのだった。
「さて、私も私でけじめをつけないとね・・・」
アンナも自分自身の決心を固めていた。かつての先輩、リンディとの再会に向けて。
ライムを助けるために自らを犠牲にしたラークは、アースラの武装局員によって拘束された。彼女は両手を拘束され、個室にて眠っていた。
アースラの監視下にあるこの部屋で、ラークは目を覚ました。
「ここは・・・?」
ラークが体を起して部屋の中を見回す。すると部屋のドアが開かれ、クロノとリンディが入ってきた。
「気がついたようね・・」
「ここはアースラの中だ。僕たちが君をここまで運んだんだ・・」
リンディとクロノに声をかけられて、ラークは当惑していた。
「僕たちはこれ以上、君に危害を加えるつもりはない。ただ、詳しい話を聞かせてほしいだけだ・・」
クロノがラークに呼びかけ、事情を聞き出そうとしていた。