魔法少女リリカルなのは -prologue to Lime-
第三章
「2つの魔力反応が発生しました!」
なのはとライムが展開したデバイスとバリアジャケットの反応は、すぐにアースラに探知された。その反応を確かめて、エイミィが呼びかける。
「なのはさん・・もう1人は小室ライムか・・・」
クロノもレーダーとモニターを見て言いかける。
「このままでは周辺に被害が出る危険性が・・・僕も出ます!」
「待ちなさい・・こちらが下手に動けば、ライムさんが警戒するわ・・!」
出撃しようとするクロノを、リンディが呼び止める。
「ライムさんを刺激することは得策ではない。かえってフェイトさんに負担をかけることになりかねない・・」
「しかし、これでは2人が・・・!」
「なのはさんが危険になったと判断したら救援します。それまでは彼女を信じましょう・・」
リンディの呼びかけにクロノが答える。アースラの面々は、ひとまずなのはとライムの戦いを見守ることにした。
フェイトへの復讐を見据えるライムと、親友であるフェイトを守ろうとするなのは。2人の少女がそれぞれの思いを胸に秘めて、対峙していた。
「あまり無関係な人を傷つけるのはよくないと思ってる・・でも邪魔をしてくるなら、手加減もしてられない・・・」
「私も、君みたいな子とは戦いたくない・・でもフェイトちゃんを傷つけようとしているなら、黙って見ているなんてできない・・・」
互いに自分の心境を口にするライムとなのは。
「そう・・残念だよ・・・!」
“crystal ray.”
ライムは声を振り絞ると、なのはに向けて氷の刃を放つ。なのはも両足に小さな魔法の翼「フライアーフィン」を出現させて飛翔し、氷の刃を回避する。
ライムも背中から光の翼を広げて飛翔する。この翼はライムの飛ぶイメージが具現化されたものであり、彼女の飛行魔法そのものに付加は何もない。
“Blade mode.”
クリスレイサーの形状が変化し、光の刃が発せられる。近距離用の「ブレイドモード」へと変化したのである。
ライムがなのはに向けてクリスレイサーを振り下ろす。なのはが掲げたレイジングハートが障壁を自動展開し、クリスレイサーの刃を防ぐ。
だがライムの力と速さを兼ね備えた攻撃を防ぎきれず、なのはが押されて落下する。すぐに体勢を整えて地上への激突を避けた彼女に、ライムが追撃に出る。
“Divine shooter.”
なのはが後ろに下がりながら、ライムに向けて光の弾を発射する。だがライムはクリスレイサーを振りかざし、光の弾を弾き飛ばす。
海上を駆け抜けていくなのはとライム。ライムが放つ氷の刃をかわすあまり、なのはは勢いが余って海の中へと落下した。
ライムも海の中に入り、なのはの行方を探る。だが海の中にいるはずのなのはの姿が見えない。
そんなライムに向けて光の弾が飛び込んできた。回避を取るライムだが、光の弾は軌道を変えて彼女を追跡する。
ライムは凍結魔法を放って、光の弾を凍らせようとした。だが彼女はそうせず、1度海の上に出た。海の水の凍結に自分が巻き込まれると思ったからだ。
海上に出たライムが氷の刃を放って光の球を迎撃した。彼女は改めてなのはの行方を追う。
そのとき、ライムは突然手足が動かなくなったことに驚く。彼女の手足に光の輪がはめられていた。
「バインド・・しまった・・・!」
毒づくライムの前に、はるか上空にいたなのはがゆっくりと降下してきた。
「こうでもしないと、話を聞いてもらえないと思ったから・・・」
「アイツが優しい子だっていうんだろ・・そんなことを言われても、僕は信じない!」
呼びかけるなのはだが、ライムは聞き入れようとしない。ライムは強引にバインドを打ち破ろうとする。
「撃たせないで・・ケンカはあんまりしたくないから・・・」
なのはがレイジングハートを構えて、ライムに忠告する。しかしライムは大人しくしようとしない。
なのはがやむを得ず、ライムに向けて砲撃魔法を放とうとした。
そのとき、なのはに向けて氷の刃が降り注がれる。彼女はとっさに後ろに下がって、氷の刃をかわす。
その間にライムが手足を拘束していたバインドを引きちぎった。
「君の魔法は強力だって聞いてるよ・・だから簡単には撃たせない・・・!」
ライムは言い放つと、光の刃を発しているクリスレイサーを構えてなのはに飛びかかる。
「距離を詰めれば砲撃はできない!撃てば自分も巻き込むことになるから!」
ライムが振り下ろしてきたクリスレイサーを、なのはがレイジングハートで受け止める。距離を詰められれば砲撃、射撃の範囲が限定され、放つにしてもリスクを伴う。
だがなのはは次の一手を打っていた。
「何っ!?」
驚きの声を上げながら、ライムは突如なのはから離れる。なのはは光の弾を放ち、ライムを後ろから攻撃しようとしたのだ。
(フェイト以外ではコレは使いたくなかった・・でもこうなったら、使わないなんて言ってられない・・・!)
「クリスレイサー、アクセルフォームだ!」
“accel form.set up.”
ライムの呼びかけにクリスレイサーが答える。彼女のバリアジャケットが軽量化される。
「ここから本気の勝負だ・・下手をしたら死ぬかもしれない・・・そうなりたくなかったら、僕がフェイトを倒すのを邪魔するな・・・!」
「絶対にダメ!フェイトちゃんを傷つけさせない!」
ライムが忠告するが、なのはは聞き入れない。
「そう・・・ホントに・・ホントに残念だよ!」
吐き捨てるように言い放つと、ライムがなのはに向かって飛びかかる。彼女の速さが格段に上がっており、なのははかわしきれずに突進を受けて突き飛ばされる。
ライムが落下していくなのはに追い打ちを仕掛ける。
“Protection.”
だがライムの放った一閃は、レイジングハートが自動展開した光の壁に阻まれる。攻防の衝突の反動で、ライムとなのはが突き飛ばされる。
なのはが態勢を整えて空中で踏みとどまるが、ライムが高速で飛び込んできた。彼女から一閃を叩き込まれて、なのはが海に叩きつけられた。
海に落ちたまま姿を見せないなのは。彼女を倒してしまったことに、ライムの心は揺れ始めていた。
「いけない!なのはちゃんが!」
なのはとライムの戦いを見ていたエイミィが声を荒げる。
「現場に向かいます!小室ライムの拘束と、なのはの救助を行います!」
「なのはさんは局員に任せて、あなたはライムさんを!」
クロノがリンディの指示を受けつつ、現場に向かっていった。廊下を駆ける彼がS2Uを起動させる。
「もはや力ずくで止めるしかない・・このまま小室ライムを放置すれば、関係のない人まで被害が及びかねない・・それだけは止めないと・・・!」
クロノがライムに対して呟きかける。
「復讐や仕返しは、何もいいことがないんだ・・・!」
歯がゆさを募らせながら、クロノは海上へと赴いた。
高速魔法「アクセルアクション」を駆使してなのはを撃退したライム。しかし敵でない人を傷つけたことに、ライムは困惑していた。
「どうしよう・・フェイトやテスタロッサのヤツらだけを倒すつもりだったのに・・・」
後悔の念に駆られるライム。そこへアースラから駆け付けたクロノが姿を現した。
「これ以上君の好きにはさせない・・ここで君を逮捕する・・・!」
クロノがS2Uをライムに向けて呼びかける。
「・・・何度も言わせないで・・僕はフェイトを倒す・・誰にも邪魔をされたくはない・・・!」
ライムは声を振り絞ると、素早くクロノの前から姿を消した。
(この速さ、ミッドチルダの魔導師や管理局の局員の中でも最速だ・・)
ライムの速さを痛感するクロノだが、同時に一抹の不安を感じていた。
(だがあれだけの動き・・的確な訓練を受けていない人が行えば、体への負担も大きい・・多用させるのも危険だ・・・)
ライムへの配慮をしながら、クロノはなのはの捜索を行っている局員たちと合流した。同時になのはが海から出てきた。
「なのは、大丈夫なのか・・・!?」
「クロノくん・・うん、私は大丈夫・・ちょっとビックリしちゃっただけ・・・」
心配の声をかけるクロノに、なのはが微笑んで答える。
「小室ライムは見失ってしまった・・あの動きは本当に速すぎる・・・」
「私も止められなかった・・ゴメンね、クロノくん・・・」
「いや、気にしなくていい・・ただ、何としてでも彼女を止めなくてはならないということはハッキリしてきた・・フェイトのためだけでなく、彼女自身のためにも・・・」
クロノが投げかけた言葉に、なのはが頷く。
「なのは、大丈夫・・!?」
そこへユーノが駆け付けて、なのはに声をかけてきた。
「うん・・大丈夫だよ、ユーノくん・・」
「・・とりあえずアースラに行こう・・傷の手当てをしないと・・」
微笑みかけるなのはだが、ユーノの心配は消えなかった。
“なのは、フェイトが目を覚ましたよ!”
そのとき、なのはたちに向けてアルフからの念話が飛び込んできた。
「アルフさん!?・・フェイトちゃん、大丈夫なんですか・・!?」
“傷のほうは治ってるけど・・やっぱり思いつめてる・・ライムのこと、すごく気にしてる・・・”
なのはが声をかけると、アルフの沈痛な声が返ってくる。
「とにかくアースラに戻る。なのはも手当てを受けるためにそっちに行くことになった・・」
クロノの呼びかけにアルフは戸惑いながらも納得した。なのはたちはひとまずアースラに向かうこととなった。
なのはとの戦いを終えてアンナの研究所に戻ってきたライム。その入口の前に降り立った彼女に、ラークが駆け込んできた。
「ライム・・また誰かと戦ってたって・・・」
ラークが心配の声をかけるが、ライムは困惑を膨らませて答えることができない。
「中に入ろう、ライム・・ラークと一緒に休もう・・・」
「ラーク・・うん・・・」
ラークの呼びかけを受けて、ライムが小さく頷く。彼女の使い魔であるラークは、その心の揺らぎを強く痛感していた。
研究室に戻ってきたライムとラークを、飛びついてきたアンナが出迎えた。
「ライム、大丈夫だった?見てたけど、けっこうムチャしてたじゃない・・」
「ゴメン、アンナ・・こうでもしないとやられてたから・・・」
抱きしめてくるアンナに、ライムが深刻な面持ちを浮かべて答える。
「う〜ん・・なのはちゃんも、フェイトちゃんに負けないくらいに強いからね・・やはり本気を出さないと一筋縄にはいかないってことね・・」
「そんな・・だけど、どんなに手ごわくたって・・・!」
頷きかけるアンナと、怒りを膨らませるライム。
「それにしても、なのはちゃんとフェイトちゃん・・直接会って抱きしめちゃいたいなぁ♪ユーノくんもいい♪子供の姿だけじゃなく、フェレットのときも〜♪」
アンナが唐突に満面の笑みを浮かべてきた。可愛さに魅入られる彼女に、ライムとラークは唖然となっていた。
「そろそろ私も遊びたい・・・」
研究室の片隅にいたジャンヌが、アンナに声をかけてきた。
「ジャンヌ、フェイトは僕が倒すんだ!たとえ君でも、邪魔は許さないよ!」
「あの子よりも、なのはと遊びたい・・2人が一緒にいなければ、多分邪魔することはない・・・」
不満げに言いかけるライムに、ジャンヌは無表情のまま答える。
「そ、そう・・それならいいんだけど・・・」
ライムがきょとんとなりながら、ジャンヌの言葉に納得する。
「それじゃ、なのはちゃんとフェイトちゃんが離れたところで、一緒に相手したら?それならお互い文句ないよね?」
アンナが持ちかけた案に、ライムとジャンヌが頷く。
「そうと決まったら休憩。なのはちゃんもフェイトちゃんも、今頃はアースラにいるからね・・」
「どこにいたって関係ない!今度こそ僕がフェイトを・・!」
「アースラに乗り込んだら、時空管理局と全面対決になるよ。そうなったら、今度こそ捕まっちゃうよ・・」
感情をあらわにするライムに言いとがめるアンナ。腑に落ちなかったライムだが、反論できる言葉が見つからず、言葉を詰まらせる。
「2人の動きは私が見てるから、2人は休んだ休んだ・・」
「わ、分かったよ・・今日はもう休むよ・・・」
アンナに言われてライムが肩を落とす。
(お母さん・・管理局の局員が来てなければいいんだけど・・・)
母親のことを心配し、ライムが沈痛な面持ちを浮かべる。彼女の心境を察して、ラークも困惑していた。
ライムの襲撃を受けて意識を失っていたフェイトだが、アースラの医務室のベッドにて目を覚ました。
「フェイト!目が覚めたんだね!・・よかった・・・」
「アルフ・・・」
喜びを見せるアルフに、フェイトが戸惑いを見せる。彼女の目覚めに、アルフはすぐになのはたちにこのことを知らせた。
「アイツにやられて、気絶してたんだよ・・アースラから逃げてったけど・・・」
アルフからの説明を聞いて、フェイトが沈痛の面持ちを浮かべる。
「やっぱり、私があの子の心を傷つけてしまったから・・・私のせいで・・・」
「そんなことないって、フェイト・・フェイトはプレシアの言うとおりにしてただけ・・アイツが利用するだけ利用して・・・だから、フェイトだって被害者だって・・・!」
自分を責めるフェイトに、アルフが弁解する。しかしフェイトは沈痛さを消さない。
「ジュエルシードを集めるために、なのはやたくさんの人や動物に迷惑をかけた・・十分加害者だよ・・・母さんを止めることもできず、助けることもできなかった・・・」
「だけど、最後の最後で、フェイトの気持ちに気づいてくれた!フェイトの思いを受け止めてくれた!確かに助けられなかったけど、全然報われなかったわけじゃない!」
アルフの呼びかけに、フェイトが戸惑いを覚える。自分自身の決心が、体も心も病んでいたプレシアを救いかけたことを、彼女は改めて思い知らされた。
「もう1度、ライムと向き合ってみよう・・どうしても自分が悪いと思ってるならなおさら・・・」
「でも、私はライムにどうしたら・・・」
ライムにかける言葉、ライムに向ける思いが見つからず、フェイトは再び困惑していく。アルフもこれ以上声をかけられず、気落ちしてしまう。
そのとき、アルフからの連絡を受けたなのはたちが医務室にやってきた。
「フェイトちゃん・・気がついたんだね・・・」
「なのは・・・ゴメンね・・心配かけちゃって・・・」
喜びを見せるなのはに、フェイトが弱々しく謝る。
「さっき小室ライムとなのはが衝突した・・またライムを逃がしてしまった・・・」
クロノがライムについて説明をする。
「それで、なのはの手当てをしようってことになって・・」
「エヘヘヘ・・そんな大げさなことじゃないんだけど・・・」
続けてユーノが言いかけると、なのはが照れ笑いを見せる。その後彼女はユーノに回復魔法と包帯を施されることになった。
「僕がいうのもなんだけど、あんまりムチャしないで、なのは・・みんなが心配しちゃうから・・」
「そうだね・・どうしてもってとき以外は大人しくしてるよ・・・」
ユーノの注意を受けて、なのはが渋々頷く。
「これから艦長たちに報告をしてくる・・ユーノ、アルフ、一緒に来てくれ・・」
「えっ?・・あ、うん・・」
「それじゃフェイト、何かあったら呼んでね・・」
クロノの呼びかけにユーノが頷き、アルフがフェイトに声をかける。3人が外に出て、医務室にはなのはとフェイトの2人だけとなった。
「・・・まさか、こんな形で会うなんて・・・」
「私もちょっと複雑・・何て声をかけたらいいのか・・・」
うまく言葉を出すことができず、作り笑いを見せるばかりのなのはとフェイト。
「ライムちゃんに責められて辛くなってるフェイトちゃんの気持ち、分かるよ・・やっぱり、あんなふうに憎まれるのはイヤだよね・・たとえ自分が悪いって分かっていても・・・」
「ライムを傷つけてしまったのは私・・私が怒られるのも憎まれるのも当然のこと・・・」
励ましてくるなのはに、フェイトが言葉を返す。
「でも、なのはや他のみんなに危害が及ぶのなら、私は黙っているわけにいかない・・私の償いのためにも、私が解決しないと・・・」
「フェイトちゃん・・・大丈夫だよ。フェイトちゃんにはアルフさんがそばにいるし、これからは私やリンディさん、みんながついてるから・・・」
決心を告げるフェイトに優しく呼びかけるなのは。ようやく気持ちを落ち着けることができたフェイトは、なのはに笑顔を見せた。
ユーノとアルフを連れて医務室を出たクロノ。アースラ内の廊下を進む途中、ユーノがクロノに声をかけてきた。
「なのはとフェイトに気を遣ったわけだね。これで2人とも元気を取り戻せるよ・・」
「僕が君たちを連れだしたのは、そういう気遣いだけじゃない。艦長への報告も本当のことだ。君たちにも話を聞いてもらうのも、理由のひとつだ・・」
クロノが淡々と事情を説明する。
「僕たちはアンナさんの捜索と逮捕に尽力することになる。たとえ僕たちが言わなくても、なのはとフェイトはライムを何とかしようと考えるだろう・・」
「止めても聞かないと思うよ・・フェイトもなのはも・・・」
語りかけるクロノに、アルフが気さくに言いかける。
「だからこそ、2人の邪魔にならないように、しっかり話し合っておく必要がある・・」
クロノのこの言葉に、ユーノとアルフが頷く。3人はリンディ、エイミィたちのいるブリッジに来た。
「来ましたね、クロノ、ユーノくん、アルフさん・・」
リンディが声をかけると、クロノが小さく頷く。
「私たちはアンナ・マリオンハイトの身柄確保を最優先任務とします。場合によっては、なのはさんとフェイトさんに危害が及ばないように、小室ライムさんの確保を行うことも念頭に置きます・・」
「危害が及ばないように・・それがもっともですが・・・」
リンディの告げた言葉に、ユーノが言いかける。
「まだアンナさんの居場所は分かりません。やっぱり、大きく動いているライムちゃんを追跡するしか・・」
「けどあの子、速すぎるよ・・あたしでもさすがに追いつけないって・・・」
エイミィの言葉に、アルフが困り顔を浮かべる。ライムの速さは時空管理局の局員をも超えるほどである。
「追いかけるのがダメなら、捕まえてしまうのはどう?」
そこへリンディが提案を持ちかけてきた。しかしクロノは腑に落ちなかった。
「何を言っているんですか、艦長・・追いつけない相手を、まして捕まえるなんて・・・」
「後ろから追いかけるだけが、捕まえる鉄則じゃないのよ・・」
クロノの苦言に、リンディが笑顔で言葉を返す。
「速さは向こうが上でも、こちらには数と技術と戦略がある・・・」
「数と技術と戦略・・・うまく網にかかればいいんですが・・・」
リンディの持ちかけた案に、クロノは深刻さを募らせる。
「他に手はないですね・・思いつく方法を順々に使っていきましょう・・・」
割り切ったクロノの言葉に、リンディたちが頷いた。
「フェイトには悪いけど、また傷つくよりはいいよね・・・」
「なのはとフェイトにはちゃんと知らせておかないと・・・」
アルフとユーノが渋々納得する。
「ルールは集団やチームの中で、みんなを守るためのものでもある。勝手な行動がチーム全体を危険にさらすことになりかねない・・分かっていますね、ユーノくん?」
「はい・・肝に銘じています・・・」
リンディに念を押されて、ユーノが苦笑いをしながら頷いた。
「どっちにしても、まずはアイツを見つけないと・・・こっちが悪いのは分かってる・・だけどそれでも、フェイトが傷ついたり辛くなったりするのはイヤだから・・・」
思いつめた面持ちを浮かべるアルフ。フェイトが傷つくことは、アルフにとって自分が傷つくのと同じことだった。
それからなのははユーノとともにアースラから離れることとなった。フェイトとアルフはアースラに残ることとなり、この日は離れ離れになることとなった。
「フェイトちゃんも外に出られたらよかったのに・・・」
「ゴメンね、なのは・・私たちはジュエルシード事件の重要参考人だから、自由に外に出ることができない・・・」
なのはが投げかけた言葉を受けて、フェイトが謝る。
「それに、ライムの襲撃を考慮して、保護する意味でもフェイトを外に出すわけにいかないんだ・・分かってほしい・・」
「でもなのはさんは、会おうと思えばフェイトさんと会えるから・・」
クロノが状況を説明し、リンディが笑顔で補足をする。
「また会いに来るからね、フェイトちゃん・・・」
「うん・・ありがとう、なのは・・・」
笑顔で声をかけるなのはに、フェイトも笑みを見せる。2人は握手を交わして、それぞれの居場所へと戻っていった。
元いた世界に戻り、帰路に着くなのはユーノ。ユーノはフェレットの姿に変身していた。
「ユーノくん、私、フェイトちゃんを助けて、ライムちゃんを止めてみせる・・やっぱり傷つけあうのはよくないから・・・」
「なのは・・・僕もできるかぎりサポートするよ・・なのはやフェイトと比べて、できることは少ないけど・・・」
決心を打ち明けるなのはとユーノ。
「フェイトもいろいろと思いつめている・・僕やなのはと同じで、周りに迷惑をかけたくないからって、自分でいろいろと抱え込んでしまうところがあるから・・・」
「私、そんなんじゃないよ〜・・・」
ユーノが口にした言葉に、なのはが不満の声を上げる。
「そうだよ・・なのはもガンコなところがあるからね・・でも、僕やフェイト、アースラの人たちには遠慮しないで相談して・・」
「ありがとう、ユーノくん・・・みんなには、正直でいないといけないね・・・」
優しく励ますユーノに、なのはは感謝の言葉をかけた。
「見つけた・・・ようやく出会えた・・・」
そのとき、なのはは声をかけられて道の真ん中で立ち止まった。彼女が振り返ると、壁の上に少女が腰をかけていた。
「あなたは?・・・私に何か・・・?」
「あなたと遊びたい・・そうすれば、楽しくなれると思うから・・・」
問いかけるなのはだが、少女、ジャンヌは無表情のまま呟くだけだった。
「なのは、この子、すごい魔力を秘めている・・・魔導師・・それも高いランクの・・・!」
ユーノがジャンヌに対して警戒を見せる。しかしジャンヌはなのはだけを見つめていた。
「遊ぼう・・一緒に楽しいことしよう・・・」
「ゴメンね・・私、もう帰らなくちゃいけないから・・・」
さらに声をかけてくるジャンヌに、なのはが作り笑顔を見せて歩き出そうとする。
「ダメだよ・・私と遊んでくれないと・・・」
不満を浮かべるジャンヌの手から杖が出現する。インテリジェンスデバイス「デッドリーソウル」を起動して、彼女が黒い光の弾を放つ。
「なのは!」
ユーノが叫ぶ前で、なのはがとっさに光の弾をかわす。弾は地面にぶつかって弾けたが、ジャンヌは新しく光の弾「ダークシューター」を出現させる。
「あなたも魔法使い!?・・どういうつもりなの・・・!?」
なのはがジャンヌに向けて声をかける。
「私と遊んで・・私を楽しくさせて・・・」
「危ない、なのは!」
ダークシューターを放つジャンヌ。身構えるなのはの前にユーノが割り込み、障壁を展開する。
「ユーノくん!」
なのはを守ろうとするユーノだが、ジャンヌの魔力は強く、彼が発する障壁を突き破ってしまった。
「うわっ!」
光の弾をぶつけられて、ユーノが倒れ込む。
「ユーノくん!・・・レイジングハート、お願い!」
“stand by ready.set up.”
なのはがレイジングハートを起動する。彼女もバリアジャケットを身にまとう。
「やっと遊んでくれるんだね・・・」
「ユーノくんを傷つけるなんて・・あなたにはひどいことはさせない!」
無表情のまま言いかけるジャンヌに、なのはが言い放つ。
「邪魔したその子が悪いんだよ・・私とあなたが遊ぶのを邪魔したから・・・」
「あなたは誰なの!?答えてくれないなら、力ずくでも話を聞かせてもらう!」
不満を口にするジャンヌをなのはが鋭く見据える。白と黒の光の弾がぶつかり合い、相殺する。
「ユーノくん、少し待ってて・・すぐに戻ってくるから・・・!」
なのははユーノに言いかけると、上空に飛行する。ジャンヌも彼女を追って飛び上がる。
風が吹く空に停滞し、なのはとジャンヌが互いを見据える。
「あなたは誰?まず名前を聞かせて・・」
「・・・ジャンヌ・・ジャンヌ・フォルシア・・・」
なのはに問われて、ジャンヌが自分の名前を告げる。
「どうして私を狙うの!?どうしてこんなことを!?」
「私はあなたと遊びたいの・・あなたと遊べば楽しくなれると思うから・・・」
なのはの問いかけに淡々と答えるだけのジャンヌ。その態度になのはは込み上げてくる気持ちを抑えることができなくなっていた。
「そんなことをしても、私は全然楽しくない・・自分だけ楽しいのは、全然よくないよ・・・!」
「だったら私を楽しくさせて・・2人とも楽しくなれるようにして・・・」
なのはの不満に答えると、ジャンヌが黒い光の弾を放つ。だがなのはもディバインシューターで迎撃した。
「こんなことしなくても、みんなで手を取り合って笑い合うことはできるはずだよ・・・」
真剣な面持ちで告げるなのは。表情を変えることがないまま、ジャンヌがなのはと対峙していた。
その頃、ユーノからの念話を受けて、リンディたちもジャンヌの出現を確認していた。フェイトとアルフもモニターに映っているなのはとジャンヌを目にしていた。
「また魔導師・・あの子もアンナと行動をともにしているのでは・・・」
「いずれにしても、このまま何もしないわけにはいきません・・現場に向かいます。ユーノの救助を行わないと・・」
分析をするリンディに、クロノが呼びかける。
「私も行かせてください・・このままじゃなのはが・・・」
フェイトもなのはを助けに行こうとするが、リンディは首を横に振る。
「ライムさんが近くにいないとは限りません。出てきたところで襲われる危険も否定できません。なのでフェイトさんを外に出すわけにはいきません・・」
リンディに出動を拒否されて、フェイトが沈痛の面持ちを浮かべる。そんな彼女の肩を、アルフが優しく手を添えた。
「大丈夫だって・・なのはは簡単にはやられない。それはフェイトもよく分かってるじゃない・・」
「アルフ・・・そうだね・・信じるのも大事なことだよね・・・」
アルフに励まされて、フェイトが頷く。2人はなのはが無事に切り抜けることを信じた。