魔法少女リリカルなのは -prologue to Lime-
第一章
友達になりたい・・・
私たちに訪れた不思議な出会い。
最初は驚きと戸惑いの連続だった魔法との出会い。
でもそれが、勇気を出して気持ちを伝えるための力だって分かった。
言葉だけで分かり合えるなら、それが1番。
でもそれでも分かり合えないなら、力を込めて気持ちを伝えなくちゃいけない。
全力全開で。
それぞれの心。それぞれの思い。
すれ違って、ぶつかり合っていく気持ちと力。
心から笑えるように、私たちは前に進んでいく・・・
海に隣接した市街「海鳴市」。その片隅の海の近くに住む親子がいた。
母親はこの海辺の小さなレストランを運営しており、娘も手伝いをしていた。あまりいいとはいえないが悪くもない生活だと、2人とも感じていた。
レストランからは浜辺が見えた。泳ぎに来る人はあまりいないが、景色がよく、親子にとって大切な場所である。
雪の降る冬の海も好きだが、青空の広がる夏の青く澄んだ海のほうが好き。それが娘の正直な感想だった。
その日も晴天の夏の日だった。親子はその浜辺に来て、羽を伸ばしていた。
「今日もいい天気だね。こういう天気に来る海はいいね、お母さん・・」
娘が笑顔を見せると、母親も微笑みかけて頷いた。
「でも、海の満ち干が大きいから、泳ぐことができないんだよね・・・」
「それでもこの海の光景はすばらしい。そうよね・・」
娘が投げかけた言葉に母親が答える。2人は穏やかさを見せている海を見つめていた。
「これからも、お母さんと一緒にこの海を見ていたいな・・」
娘は海を見つめて、一途な願いを呟いた。このひと時がこれからも長く続いていくものだと、彼女は確信していた。
娘は浜辺から階段を上って、改めて海を眺めた。違う見方で風景が大きく変わって見える。彼女はそう感じていた。
だが次の瞬間、娘は目を疑った。先ほどまで穏やかだったはずの海が突然荒れ出した。
荒々しい津波が押し寄せ、とっさに逃げ出そうとした母親を巻き込んだ。
「お母さん!?」
娘がたまらず階段を下りて、波に煽られた母親に駆け寄った。
「お母さん!しっかりして、お母さん!」
娘が呼びかけるが、母親は目を覚まさない。絶望感に打ちひしがれる少女の前で、駆けつけた救急車に母親は運ばれていった。
そのとき、娘は海の向こうに点在していた影を目撃した。それは自分と同い年ぐらいの小さな少女。金髪と黒い衣服をした少女で、手には死神が持つような鎌が握られていた。
レストランの近くにある病院に運ばれた母親。その病室にて彼女は目を覚ました。
「お母さん・・よかった・・目が覚めたんだね・・・」
母親に付き添っていた娘が喜びの笑顔を見せる。だが母親の様子がおかしいことに気づき、娘が当惑する。
「どうしたの、お母さん・・・?」
「あなた・・誰・・・?」
母親が口にしてきた言葉に、娘は耳を疑った。
「あなたは誰?・・どこの子なの・・・?」
「何言ってるの、お母さん!?・・・僕だよ!」
「分からない・・知らない・・・!」
血相を変えて呼びかける娘だが、母親は体を震わせて拒絶するばかりだった。その反応に娘は絶望を覚えた。
荒波に巻き込まれた衝撃で、母親は記憶喪失に陥ってしまった。娘のことも自分のことも分からなくなっていた。
平穏のはずだった親子の日常。それが突然の荒波にて一瞬にして失われてしまった。
大きすぎる絶望感に打ちひしがれた娘。その悲しみは、徐々に怒りへと変わっていった。
娘は心の中で誓っていた。海の向こうで浮遊していた死神に見えた少女に復讐することを。
それが少女、小室ライムの復讐の始まりだった。
母親のいない日常を過ごしていたライム。だがライムは母親の記憶喪失からの少女への復讐を抱いていたこともあり、以前のような明るさをあまり見せなくなっていた。
その日もライムは思い出の海辺に来ていた。だが悲劇の瞬間を思い出し、彼女は悲しみを膨らませていた。
(あの日に何もかも壊れてしまった・・これからもずっと、お母さんとの楽しい時間が続くはずだったのに・・・)
不条理な現実に苦悩するライム。
(みんなアイツが奪ったんだ・・あの海の上にいた、あの死神・・・!)
膨らんでいったライムの悲しみは、海にいた少女への憎しみに変わっていった。
(やっつけないと、お母さんが幸せになれない・・でも、僕にそんな力なんて・・・)
「力は君の中にあるものよ・・」
そのとき、ライムは突然声をかけられた。彼女が振り向いた先には、1人の女性がいた。
赤茶色のかすかにはねっ毛の見られるショートヘア。女性としては高めの背丈に、整った体と顔つきをしていた。
「あの、あなたは・・・?」
「私はアンナ・マリオンハイト。ちょっとした科学者・・」
問いかけてくるライムに、女性、アンナが微笑んで答えてきた。
「ちょっと君の心を読ませてもらったよ。勝手に読んじゃまずかったみたいだけど・・」
「えっ!?人の心が読めるんですか!?」
アンナが口にした言葉に、ライムが驚きの声を上げる。
「うぅ〜・・それにしても・・・」
「えっ・・・?」
突然アンナがにやけ顔を浮かべ、ライムが当惑する。直後、アンナがライムに飛びつき、抱きしめてきた。
「う〜ん、やっぱりかわいい子はたまんないわ〜♪抱きしめずにはいられな〜い♪」
「あ、あの、ちょっと・・・」
頬ずりして歓喜をあらわにするアンナに、ライムが動揺を見せる。我に返って彼女から離れたアンナが、落ち着きのある笑みを見せる。
「話を元に戻すけど、人間には誰だって魔法の力はある。ただ強いか弱いかの違いだけ。特にここは魔力の強い人はいるかどうか分かんないくらい・・」
「魔法?魔法って、あのファンタジーやRPGに出てくるような・・」
「単純に言っちゃえばそうね。でも正確にはちょっと仕組みが違うのよね・・」
「えっ?魔法って、僕たちが考えているようなのと違うの・・?」
「私が言っている魔法というのは、数学や物理、小学校での算数や理科の知識が鍵となっている。コンピューターに近い仕組みになっていて、起動するように放出するわけ・・」
魔法について説明するアンナだが、話が難しく、ライムは半ば混乱していた。
「君みたいなタイプは、習うより慣れるほうが覚えやすいかも・・」
アンナは周囲に人がいないのを確かめてから、意識を集中する。そのとき、ライムは自分を何かが包んでいくような感覚を感じた。
「結界が発生したのを感じたみたいね・・これはかなりの魔力資質かも・・」
「結界?・・場所は変わってない・・でも、僕たち以外、誰もいない・・・」
「空間の一部を切り取って、別の空間に置き換えるもの。魔法による被害が広がらないようにしたり、対象を閉じ込めたりするのに使うのが一般的ね・・」
周囲を見回すライムに、アンナが淡々と答える。
「さて、そろそろ話を進めておかないとね・・・」
アンナは言いかけると、小さな水色の宝石を取り出した。その澄んだ宝石に、ライムは思わず魅入られていた。
「クリスレイサー、セットアップ。」
“stand by ready.set up.”
アンナの呼びかけを受けて、宝石「クリスレイサー」が音声を発する。すると宝石が輝きを放ちながら形状を変えていく。魔法使いの魔法の杖に似た形へと。
「す、すごい・・魔法の杖だよ・・・!」
ライムがクリスレイサーの姿を見て、感嘆の声を上げる。
「まぁ、杖の姿だけじゃないんだけどね。それは追々試していくといいよ・・」
アンナがライムに向けて語りかけていたときだった。2人の前に1羽の小鳥が落下してきた。
小鳥はひどく弱っていて、自力で飛ぶこともできなくなっていた。ライムはその小鳥を両手で持ち上げて、じっと見つめる。
「助けなきゃ・・でも、こんな状態じゃ、もう・・・」
「方法は他にもあるにはあるよ。ただ、普通の小鳥には戻れなくなるけど・・・」
悲痛さを噛み締めるライムに、アンナが言葉を投げかける。
「どうすればいいの!?どうやったらこの子は助かるの!?」
「それは君の魔力と契約が必要になってくる・・その覚悟が君にあるかい?」
「・・まだ分からないことが多いけど、この子を助けられるなら・・・!」
アンナからの忠告に、ライムが真剣な面持ちで頷く。
「それなら私についてきて。その間、私がこの子を守るから・・・」
アンナは呼びかけると、ライムから小鳥を受け取り、魔力を注ぐ。彼女は回復魔法「フィジカルヒール」で応急措置を取った。
「これでしばらくは大丈夫・・」
アンナのこの言葉にライムが安堵を覚える。アンナに導かれるまま、ライムは歩を進めていった。
アンナに案内されたのは、異空間にある彼女の研究所。自分がいた世界とは別の次元にあるその研究所に、ライムは驚きを感じていた。
「この子を助ける方法。それはこの子を使い魔にすること。といっても使い魔と主人全てに絶対的な主従関係があるわけじゃないんだけどね・・」
「使い魔・・召喚獣みたいなものかな・・・?」
「召喚は召喚。使い魔は元となる動物が擬人化するって考えればいいのよ。主人の魔力を糧にして活動するの。」
説明するアンナに、ライムは再び疑問符を浮かべる。
「今はこの子を助けたいなら、意識を集中すること。私がサポートするから・・」
アンナに促されて、ライムは意識を集中する。アンナが持ち出した人工魂魄とライムの魔力を得て、小鳥に淡い光が宿る。
小鳥は小さな少女へと姿を変えていく。ふわりとした桃色の髪をした少女に。
これが妹として生まれた少女、ラーク、小室ひばりとの出会いだった。
それからライムはラーク、クリスレイサーとともに魔法の訓練に明け暮れた。
ライムには魔法に関して2つの目的があった。自分の中にある魔法を自覚、強化して自分だけの揺るぎない力に昇華させること。母を追い込んだ死神を見つけ出し、復讐すること。
だがライムの考えはラークには筒抜けだった。使い魔は主からの精神リンクが強いため、主の思考や感情が顕著に流れ込んでくる。そのためライムの心が、一方的にラークに流れ込んでいるのである。
「お姉ちゃん、本当に復讐っていうのをやるの・・?」
ラークが不安を浮かべてライムに訊ねる。主は使い魔の気持ちが自然と流れ込んでくることがないため、直接伝えるしかない。
「そうしないと、僕は弱いままなんだ・・こうして魔法があり、ラークとクリスレイサーがいる・・なのに何もしないなんて・・・」
「お姉ちゃん・・・」
「特訓を続けながら、アンナさんのおかげでやっと見つけたんだ・・あの空にいた死神を・・・」
困惑を浮かべるラークに、ライムが海上の少女を思い返していた。
「テスタロッサの1人・・フェイト・テスタロッサ・・・!」
ライムは少女、フェイトの名を口にして、怒りを膨らませて右手を強く握り締めていた。
私、高町なのは。聖祥大学付属小学校に通う、ごく普通の小学3年生。
ある日、私は不思議な少年、ユーノくんと会ったの。私は彼から魔法の力を受け取ったのです。
そこから私の魔法使いとしての日々がスタートしました。
実はユーノくんは、私と初めて会ったときは、フェレットの姿をしていたけど、人間の男の子になったときは本当にビックリしてしまいました。
日常に戻った私は、魔法の特訓を続けています。あまり人目につくといけないので、特訓は早朝にやったりイメージトレーニングをやったりしています。
魔法の特訓と日常を過ごす中、私はある友達のことを考えています。私と同じ魔法少女、フェイトちゃんのことを。
「アリサちゃん、すずかちゃん、この後時間ある?」
その日の放課後が訪れ、なのはが親友のアリサ・バニングスと月村すずかに声をかけた。
「なのはちゃん?うん、私は大丈夫だよ・・」
「もしかしてフェイトのビデオメール?あたしもOKよ。」
すずかとアリサがなのはに答える。2人はフェイトのことは聞いていたが、魔法のことは知らされておらず、フェイトはなのはの友人であると認識していた。
「なのはがそこまで入れ込んでる友達なんだから、いつか直接会ってみたいものね・・」
「うん。そのことをビデオメールで伝えちゃおうよ。」
「それいいね。きっと喜んでくれるよ、フェイトちゃん。」
アリサに向けて答えたなのはの提案に、すずかが喜びを見せる。
「ところでどこの国の子なの、フェイトって?名前の感じからして、イタリア人?」
「えっと・・うん、そうだよ、うん・・」
アリサが投げかけた疑問に答え、なのはが苦笑いを浮かべる。フェイトが異世界の人間であることを打ち明けられないため、なのははそう告げるしかなかった。
「私も早くフェイトちゃんに会ってみたい・・実際に会って、いろいろお話をしてみたい・・」
すずかがフェイトへの気持ちを告げると、なのはも笑顔で頷く。
(私も早く会いたい・・フェイトちゃんに・・・)
フェイトとの再会を心の中で願いながら、なのはは日常の日々を過ごしていくのだった。
次元世界。なのはたちのいる世界からはまず介入することのできないこの異空間は、様々な世界の中でも上位の構造が成り立っている。
この次元世界おける司法機関が「時空管理局」である。彼らは次元世界の警備や監視を行い、次元や魔法に関わりのある事故・事件の解決に全力を注いでいる。魔法を知らない世界への介入は彼らの管轄外であるが、魔法や次元の事件が起こればその世界に足を運ぶこともある。
時空管理局・巡航L級8番艦、次元空間航行艦船「アースラ」。アースラは現在、次元のトンネルを順調に巡航していた。
この艦長を務めているのは、時空管理局提督、リンディ・ハラオウンである。
先日まで続いた「プレシア・テスタロッサ事件」。なのはのいる世界に散らばった指定遺失物、ジュエルシードを巡ってのなのはとフェイトの衝突。その近くの次元を巡航していたアースラも、事件鎮圧のために介入することとなった。
実子、アリシア・テスタロッサを生き返らせようとしたフェイトの母、プレシア・テスタロッサが、アリシアの遺体を連れて生死不明となったことで、この事件は終局を迎えた。
フェイトはクローン技術「プロジェクトF」によって生まれたアリシアのクローンである。アリシアへの愛情に執着していたプレシアは、アリシアと似て非なるフェイトを利用し、さらには迫害して彼女を一時期精神崩壊に追い込んでしまう。
なのはとの友情で落ち着きを取り戻したフェイトは、プレシアに自分の気持ちを告げた。母への愛情だけでなく、新しい友達の優しさのことも。
フェイトの切実な思いを耳にして、プレシアはわずかながら優しさを取り戻すことができた。だがアリシアへの愛情を捨て切れなかったプレシアは、アリシアとともに虚数空間に落ちていった。
フェイトは使い魔のアルフとともに、事件の重要参考人としてリンディたちの監視下に置かれた。だが保護観察に向けて審議は進められており、親を亡くした彼女は同時にリンディの養子に迎えられることになった。
悲劇に見舞われたフェイトだが、新しい幸福を得ることができた。彼女はリンディたちとともに、明るい未来に向かって進んでいこうとしていた。
フェイトはアルフ、リンディとともに食堂にて食事を取っていた。そこへ2人の少年少女がやってきた。
クロノ・ハラオウン。弱冠14歳で時空管理局執務官を務める。真面目で冷静沈着な性格で、魔導師としての能力も折り紙付きである。
エイミィ・リミエッタ。アースラ通信主任兼執務官補佐。クロノとは長い付き合いで、よきパートナーである。
「艦長、あまりフェイトたちを連れ出すのはよくないですよ。保護観察を受けている身とはいえ、まだ重要参考人なんですから・・」
クロノがフェイトに目を向けて苦言を呈する。するとリンディは笑顔を見せてくる。
「心配要らないわ。フェイトさんが悪い子じゃないことは、クロノも分かってるはずよね?」
「それは、そうですが・・・」
「それに、こういう団らんを過ごすのはいいことよ。フェイトさんたちだけでなく、わたしたちにとってもね。」
口ごもるクロノに答えて、リンディがフェイトに微笑みかける。動揺しているため、フェイトは困惑を浮かべていた。
「フェイトさん、そんなに思いつめることはないわ。お母さんのためを思ってやったこと。フェイトちゃん自身も悪いとは思ってたし・・」
「それは、そうですが・・・」
「それに、その悪いことについて謝っていこうとしている・・そんなあなたを、私たちはこれ以上責めることはできないわよ・・」
不安を募らせるフェイトを励ますリンディ。
「そうだよ。フェイトちゃんが深く反省してるってことは、私たちもよく分かってるし、管理局の局員もきちんと理解してくれる人ばかりだよ。」
エイミィも笑顔でフェイトに言葉をかける。アースラの人たちに勇気付けられて、フェイトは次第に安らぎを感じてきた。
「君もアルフもまだまだこれから先、幸せあふれる時間がある。ずっと気に病んだままだと、本当の幸せにも嬉しくなくなってしまう・・」
クロノが投げかけた言葉に、フェイトが微笑んで頷く。
「そうだね・・いつまでも落ち込んでいたら、なのはにも心配されちゃう・・」
「そうだよ、フェイト♪これからはフェイトは自分のために頑張ればいいんだよ。もちろんあたしは今までどおり、どこまでもフェイトについていくからね。」
気持ちを落ち着けるフェイトに、アルフが笑顔を見せる。
「あらまぁ。これでは親離れするのは早そうね・・」
リンディが微笑み、冗談交じりの言葉を投げかける。このやり取りに半ば呆れて、クロノは肩を落としていた。
そのとき、リンディたちに向けてアースラのオペレーター、アレックスから通信が入った。
“付近にて強力な寒波が発生しています。魔法によるものです。”
「魔法による寒波?・・寒波の発生源は?」
“レーダーで捜索していますが、魔力と寒波が分散されていて、特定まで時間が・・”
「分かったわ。念のため、アースラ艦内にも捜索を行って。クロノ執務官にも捜索に向かわせます。」
アレックスからの報告を受けて、リンディが指示を出す。彼女は通信を終えると、彼女はクロノに目を向ける。
「お願いするわね、クロノ・・」
「分かりました。エイミィ、フェイトとアルフを頼む・・」
リンディの言葉を受けて、クロノが動き出す。不安を浮かべるフェイトに、リンディが微笑みかける。
「大丈夫よ、フェイトさん。すぐに戻ってくるから・・」
リンディに励まされて、フェイトが小さく頷く。リンディとクロノが異常の原因の調査のため、飛び出していった。
「フェイトちゃんとアルフは、部屋に戻っていようね。部屋のほうが安全だから・・」
「私も手伝います・・私だけ何もしないわけには・・」
呼びかけるエイミィに、フェイトが協力しようとする。
「これは時空管理局、あたしたちアースラのメンバーの仕事だから・・フェイトちゃんに手伝ってもらうことになっても、それは原因が判明してからね・・」
エイミィに言葉をかけられて、フェイトは小さく頷く。彼女はアルフとともにエイミィに連れられて、部屋に戻っていく。
部屋の前に来たところで、フェイトは再びリンディたちのことが気がかりになった。
「やっぱり、リンディ提督やみなさんに甘えてばかりなのは・・・」
フェイトがたまらずリンディたちのところに向かおうとした。
そのとき、フェイトを追いかけようとしたエイミィが突如打撃を受けて顔を歪める。その場に倒れる彼女に、フェイトがたまらず立ち止まって振り返る。
「エイミィさん!?・・・えっ・・・!?」
声を荒げるフェイトが、エイミィのそばに立っていた1人の少女に緊張を覚える。白を基調とした防護服「バリアジャケット」を身にまとい、右手には白い光の刃が握られていた。
「あなたは・・・!?」
声を振り絞って声をかけるフェイト。すると少女が彼女に向けて鋭い視線を向けてきた。
「とうとう見つけたよ・・フェイト・テスタロッサ・・・」
「えっ・・・!?」
少女が発した言葉に、フェイトが当惑を見せる。
「僕はお前を倒す・・僕たちの幸せを奪った君を!」
声を張り上げる少女が、フェイトに向かって飛びかかる。だが割って入ってきたアルフに行く手を阻まれる。
「何なんだ、アンタは!?アースラの周辺で起きている寒波の原因は、アンタの仕業なのか!?」
呼びかけてくるアルフに、少女が毒づく。
「フェイトの使い魔か・・でも、僕はフェイトを倒す・・絶対に・・・!」
「ちょっと待ってよ、アンタ!どうしてフェイトを襲うのよ!」
「どうして、だって・・・!?」
「フェイトは優しい・・そんなフェイトが、誰かに恨みを買うなんてこと・・!」
「ふざけるな!お前たちが何をしたのか、忘れたとは言わせない!」
困惑しながら呼びかけるアルフに、少女が怒りをあらわにする。彼女に鋭く睨みつけられて、フェイトが困惑を覚える。
「お前たちテスタロッサのせいで、僕たちはムチャクチャになったんだ!」
少女が告げた言葉を聞いて、フェイトはさらに動揺する。ジュエルシードを巡っての自分たちの行いが、少女に何らかの被害をもたらしたと直感したからである。
少女が改めてフェイトに飛びかかる。だがアルフに両腕をつかまれて、動きを止められる。
「フェイト、バルディッシュを持って!」
「でもアルフ、それじゃ・・・!」
呼びかけてくるアルフに、フェイトが困惑を見せる。
「あたしはフェイトに戦ってほしいんじゃない!でもこのまま何もしなかったら、逃げることもできなくなるよ!」
アルフのこの言葉を聞いて、フェイトが困惑を振り切ろうとする。
「バルディッシュ・・お願い・・・!」
“yes, sir.”
フェイトの呼びかけを受けて、インテリジェンスデバイス「バルディッシュ」が起動する。三角形の金色の宝石の待機状態を取っていたバルディッシュが、黒い戦斧へと変化する。
同時にフェイトの体を黒い装束が包み込んでいく。防護服「バリアジャケット」が展開されていた。
「ここはあたしが食い止める!フェイトはみんなと合流して!」
「それだとアルフが・・!」
「あたしのことはいい!あたしはフェイトに何かあるほうが辛いんだよ!」
アルフに呼びかけられて、フェイトはこの場を離れていく。彼女を逃がすまいとする少女の前に、アルフが立ちはだかる。
「ここは通さないよ!」
「たとえ狼が祖体の使い魔でも、僕の速さはお前を超える!」
少女は一気にスピードを上げてきた。速さを増した彼女は、アルフの横をすり抜けてフェイトを追跡する。
「フェイト!」
「えっ!?」
アルフが叫ぶ前で、フェイトの前に少女が回り込んできた。少女が振り下ろしてきた刃を、フェイトがバルディッシュで受け止める。
(速い・・その速さもあって、力も強い・・・!)
少女の力を痛感するフェイト。
“Photon lancer.”
バルディッシュの自動発動により、光の矢が少女に向けて放たれる。少女はとっさに後退して、光の矢を回避する。
「やっぱりすごい・・そのデバイスもそうだけど、魔力も動きもすごい・・・」
少女がフェイトの力を賞賛する。
「でも、それでも速さは僕のほうが上だよ・・・クリスレイサー、アクセルフォームだ!」
“accel form.set up.”
少女、ライムの呼びかけを受けて、デバイス、クリスレイサーが反応する。すると彼女の衣服が弾け、新たなバリアジャケットを身にまとう。
彼女が新しくまとったこのバリアジャケットは、さらなる加速を可能とするものだった。
「その姿・・・もしかして、さらにスピードが上がるんじゃ・・・!?」
ライムの変貌を目の当たりにして、アルフが緊迫を見せる。ライムがクリスレイサーの光刃の切っ先を、困惑を見せているフェイトに向ける。
「お前は絶対に許さない・・テスタロッサは、絶対に許さない!」
憤りの叫びを上げるライムが、フェイトに迫る。その動きは先ほどと比べて格段に上がっていた。
とっさに回避行動を取るフェイトだが、ライムの速い突進に突き飛ばされてしまう。振り下ろされるクリスレイサーの光刃を、バルディッシュが自動展開する障壁で辛くも防いでいた。
(速すぎる・・私でも見切れなくなってる・・・これでは回避も防御も間に合わない・・・!)
次第に焦りを覚えるフェイト。ライムが叩き込んだ一閃が、障壁を突き破ってついにバルディッシュを切りつけた。
破損したバルディッシュとともに、フェイトが激しく突き飛ばされる。
「フェイト!」
アルフがフェイトを受け止めようとして、魔法の鎖「チェーンバインド」を発動した。本来は相手を拘束するためのものであるが、彼女はそれをフェイトを受け止めるために使用した。
魔法の鎖に絡まれて、フェイトは壁に衝突するのを免れた。
「フェイト!しっかりして、フェイト!」
アルフが駆け寄ってフェイトに呼びかける。だがフェイトは意識を失い、バルディッシュも損傷のために機能が低下しつつあった。
満身創痍の2人の前に、ライムが迫ってきた。
「お前たちは僕が倒す・・テスタロッサは、僕が倒すんだ!」
ライムがフェイトとアルフに向けてクリスレイサーを振り下ろす。だがそこへ一条の閃光が飛び込み、ライムがとっさに後退して回避する。
魔力の調査に出ていたクロノが、ライムとフェイトたちの前に現れた。彼の手にはストレージデバイス「S2U」が握られていた。
「時空管理局・・・!」
構えを取るクロノを見据えて、ライムは警戒心を強めていた。