魔法少女リリカルなのは -LightDark-

第12話「消えない勇気」

 

 

 1度は誰もが思い描く人類の夢。

 光の速さに追いつきたい。次元の果てまで行ってみたい。時間を飛び越えていきたい。

 自分では叶えられない。実現するのは遠い未来の話。そう思いながらも、誰もが1度はそんな夢を見る。

 でも私は、その夢を夢のまま終わらせたくはなかった。必ず実現の境地に辿り着きたかった。

 夢に純粋だったからなのかもしれない。私が時空管理局の局員になろうとしたのは。

 私は本局の科学班に所属し、次元研究に積極的に取り組んだ。その間、リンディ先輩やクロノくん、エイミィちゃんに励まされて、私はうれしく思えて、さらに頑張ろうと研究に打ち込んだ。

 ところがある日、私は管理局を追放されることとなった。私が行っていた研究が、次元災害、次元犯罪につながるからという上層部の見解だった。

 納得していると言ったら嘘になる。私は犯罪者になるつもりは全くなかった。ただ次元研究に純粋に取り組み、突き詰めていきたいだけだった。

 管理局を辞めても、研究だけはやめなかった。私の、みんなの夢を実現させるために、この後も全力を注ごうと決意していた。

 そんな中、私は1人の少女を見かけた。無表情ながらも、心の中は冷たく悲しくなっているように私は感じた。このときの私と同じような。

「どうしたの、君・・?」

 いつもだったらかわいい子にはすぐに飛びついてしまっていたけど、このときの私はその気持ちを抑えてその子に声をかけた。

 ところがその子は表情を変えず、何も答えようとしない。

 この場で軽く状況を確かめると、近くの町が次元災害を受けていたのを知った。災害は町の大半を崩壊させていて、見るも無残としか思えなかった。

「お父さんとお母さんは・・・?」

 私はさらにその子に訊ねるが、少女は何も答えない。まるで生き人形だった。心が壊れて悲しさを表すこともできなくなってしまったのだろうか。

「・・・私と一緒に来る・・・?」

 1人寂しかった私は、唐突にそんな誘いを口にしていた。ところがその子は、差し出した私の手をとって微笑みかけてきた。

 すがってくるこの子の手を振り払うほど、私は薄情な人間じゃなかった。私はこの子を連れて、崩壊したこの町を後にした。

 そしてこの子がすごい潜在能力を持っていたことが分かったのは、天地のデバイスの製作に取り掛かって少したってからのことだった。

 

 青い鎧に苦戦を強いられているライム。次第に鎧の進撃に追い込まれていた。

(僕の攻撃が当たらない・・・アクセルアクションを使えば、何とかできるけど、なのはちゃんを助けるためには、今ここで使うわけにはいかない・・・!)

 歯がゆさを顔に浮かべながら鎧を見据えるライム。1回しか使えないアクセルアクションを、ジャンヌとの対戦を前に使うわけにはいかない。

「ライム、危ない!」

 そこへラークが鎧に飛び掛るが、鎧の軽やかに動きに突進をかわされ、反撃を受ける。

「キャッ!」

「ラーク!」

 突き飛ばされるラークに、ライムがたまらず魔力の砲撃を放つ。その砲撃が、次々と攻撃をかわして見せていた鎧に命中する。

「えっ!?当たった・・!?

 驚きを見せるライムに、鎧がゆっくりと振り返ってくる。彼女はすぐに真剣な面持ちとなって身構える。

(もしかして、1対1の状況じゃないと、攻撃をかわしきれない、つまり複数相手じゃ対処が遅れるのか・・・だったら!)

「ラーク、遠くから攻撃してくれ!そこから僕が撃ち抜く!」

 思い立ったライムが呼びかけると、体勢を立て直したラークが頷いてみせる。そして鎧に向けて再び羽根の矢を放つ。

 矢は装甲に傷をつけることはできなかったが、鎧の気を引くことはできた。

Blade mode.”

 そこをライムが狙い、光刃を出現させたクリスレイサーを床に突きつける。すると床から無数の氷の刃が突き出してくる。

「スターダストスピア!」

 氷の刃の数本が、鎧の胴体を貫く。人工知能を打ち抜かれた鎧は機能を失い、爆発を引き起こす。

「ヘンに動かれても、これなら全てを叩けるはずだよ・・・!」

 光刃を収めて、ライムが爆発の後の煙を見つめる。

「すごいよ、ライム!ラーク、全然敵わなかったのに・・!」

 ラークが感嘆の声を上げ、ライムが頷く。ライムは笑顔からすぐに真剣な面持ちを見せる。

「急ごう。なのはちゃんを助けないと・・それに、ジャンヌも動いてる・・」

 ライムとラークはなのはを助けるため、ジャンヌを求めて駆け出した。なのはにかけられた時間凍結を解くには、ジャンヌの魔力を抑えなくてなからないからだった。

 

 時間凍結を受けているなのはの精神世界に、自分の精神体を送り込んだアンナ。一糸まとわぬアンナの精神が、なのはの心の中へと入り込んでいく。

 すずか、アリサとの学校生活、ユーノとアースラメンバー、魔法との出会い、そしてフェイトやライムとの友情。なのはの数々の思い出が、深層意識として存在していた。

(これがなのはちゃんの心の中・・あたたかい・・純粋でまっすぐで、みんなのことを想っている・・・)

 なのはの心を垣間見て、アンナは笑みをこぼしていた。

 そしてついにアンナは、精神世界に漂うなのはの精神体を発見する。時間凍結の影響下を受けているなのはは、意識を失っていた。

 アンナはなのはに寄り添って、彼女の体を揺する。

「なのはちゃん、起きて。強い魔力を持っているあなたなら、時間凍結を受けていても精神は目覚めることができるはずよ。」

 アンナの呼びかけを受けて、なのはがゆっくりと瞳を開く。彼女の視界にアンナの顔が飛び込んでくる。

「あ、あなたは・・・?」

「なのはちゃん・・よかった〜。眼が覚めたのね〜・・」

 きょとんとなっていたなのはを、アンナが満面の笑みを浮かべて抱きついた。突然の抱擁になのはが慌てる。

「ち、ちょっと、その、あの・・!?

「あ、ゴメン、ゴメン。私はアンナ・マリオンハイト。元時空管理局の研究者よ。」

「アンナさん・・あなたが・・!?

 自己紹介をして微笑みかけるアンナに、なのはが驚きを見せる。しかしなのははすぐに真剣な面持ちになる。

「リンディさんから聞いてます。研究熱心な人だって・・でもその研究のために、みんなが悲しい思いをしているんです・・!」

「悲しい思い、か・・確かに私の研究は悲しみしか生まないのかもしれない・・でもね、なのはちゃん・・」

 呼びかけるなのはに返事をして、アンナは彼女を抱きしめる。その抱擁に彼女は思わず赤面する。

「誰だって夢を1つは持っているものだよ。小さいものから大きいものまで・・私は叶えたかった。時空を超えるという、人類の夢を・・」

 アンナの切実な心境を目の当たりにして、なのはも深刻な面持ちになる。

「私は諦めたくなかった。私個人の自己満足な夢じゃないし、周りもその夢に憧れを抱いて私についてきてくれた。そして行き着いた。次元や空間を超えることのできる境地に。」

 アンナはそういうと右手をゆっくりと掲げる。その手のひらから空間の変動が起こり、淀みを見せていたなのはの精神世界の風景が一変する。

 新たに描かれた光景になのはは驚きを見せる。そこはアースラからうかがえた異空間だった。しかしその空間の流れに飲み込まれる感覚がない。不思議な感覚になのはは戸惑うばかりだった。

「映像を映しているのと同じだよ。実際には君の精神世界のままだよ。」

 アンナが付け加えると、なのはは少し安心して笑みをこぼす。真剣な面持ちのまま、アンナは続ける。

「君も1度は夢見たはずだよ。宇宙の旅、別世界の発見、タイムマシン。誰もがそれらを夢見ながらも、現実離れした現状にその夢を諦めてしまう。でも私は諦めなかった。諦めたくなかった。人類の夢を・・」

「でも、それがみんなを悲しませているんですよ・・・いくら夢のためだからって・・・」

 なのはが沈痛の面持ちで反論すると、アンナは微笑んで問いかけてくる。

「それじゃなのはちゃん、君が今したいことは何かな?」

「えっ・・?」

 アンナの言葉になのはは口ごもる。するとアンナは真剣の面持ちで語りかける。

「私は夢への実現の一歩を踏み入れた。デバイスとジュエルシードの融合でね。ジャンヌは次元、時空を超える存在になったけど、彼女自身でさえ制御が効かなくなってしまっているの・・・」

 あくまで自身の夢に純粋なアンナに、なのはは戸惑いを隠せなかった。だが心の中にあるひとつの願いが、彼女を突き動かそうとしていた。

 

 防御力の高い対魔法装甲を持つ黄色の鎧に、フェイトとアルフは攻め手を欠いていた。

「どうしよう、フェイト・・コイツ、フェイトの砲撃をはね返しちゃうし、近づいて攻撃しても、鎧がむちゃくちゃ硬くて・・」

 アルフが焦りを浮かべてフェイトに呼びかける。しかしフェイトは落ち着きを見せていた。

「大丈夫。いくら外の守りが堅くても、中は違う。」

「フェイト・・」

 バルディッシュを構えて鎧を見据えるフェイトの言葉に、アルフが安堵の微笑みを見せる。

「バルディッシュ、少し辛いかもしれないけど、大丈夫だよね・・?」

yes, sir.”

 フェイトの呼びかけにバルディッシュが答える。振り下ろされた鎧の拳を飛び上がってかわし、鎧に接近する。

Device form.Set up.”

 中距離攻撃型へと形を戻したバルディッシュを、フェイトは鎧の頭部に突きつける。

(鎧の動力源に、私の魔法を集中させる・・!)

「サンダーレイジ!」

 フェイトが雷の魔法を解き放ち、鎧の中にある人工頭脳を破壊する。動力源を失った鎧が爆発し、その爆発に巻き込まれたフェイトだが、うまく床に着地し、彼女もバルディッシュも大事には至らなかった。

「フェイト、大丈夫!?

 アルフが心配になってフェイトに駆け寄ると、フェイトも微笑みかけて無事を示す。

「ありがとう、アルフ・・ありがとう、バルディッシュ。大丈夫だった?」

yes, sir.condition green.”

 心配するフェイトに、バルディッシュが答える。フェイトは安堵の微笑みをこぼすと、すぐに真剣な面持ちになる。

「急ごう、アルフ。なのはが危ない。」

「そうだね・・・フェイト、クロノの魔力を感じないよ!」

 フェイトの言葉に頷いた直後、アルフが声を荒げる。フェイトも消失したクロノの魔力に戸惑いを覚える。

「なのはのときと同じ。突然プッツリと・・・もしかして、地のデバイスで・・」

「そのとおりだよ。」

 呟いていたところへ声をかけられ、フェイトが振り返る。その先には無表情で見つめているジャンヌと、気さくな笑みを見せているカッツェがいた。

「アンタたちが、なのはとユーノを連れ去った連中ね!?

 アルフが問い詰めると、カッツェが笑みを強めて答える。

「へぇ。あのフェレットの子と違って、アンタはちゃんとした使い魔なんだね。しかも素体は狼。猫の私にとって相性は最悪ね。でもこんな言葉があるのよ。」

 カッツェがアルフに向けて淡々と告げると、すかさず臨戦態勢に入る。

「窮鼠、猫を噛むってね!」

 カッツェが飛びかかり、アルフに拳を振るう。アルフも拳を突き出して迎え撃つ。

 激しい衝突の中で、アルフがカッツェを力押しする。突き飛ばされながらも、カッツェは体勢を整えて笑みをこぼす。

「確かに力じゃ敵わないか・・だけど、速さだったら私のほうが上よ!」

 カッツェが移動速度を速めてアルフをかく乱させる。そしてカッツェがアルフの動きが止まったのを見計らって、衝撃波を放つ。

 その衝撃波をアルフは紙一重でかわすが、衝撃は彼女の頬をかすめていた。

「衝撃波・・!?

 アルフが声を荒げながらも、カッツェに向けて即効性のある捕獲魔法「リングバインド」を放つ。だがカッツェは衝撃波を応用して、防壁「ソニックフィールド」を展開し、アルフのバインドをはね返す。

「私は振動や衝撃波を使って、相手を攻撃したり、相手からの攻撃を防ぐバリアを作ることができる。眼には見えない攻撃や壁だから、対処も難しいわよ。」

 笑みをこぼして言い放つカッツェ。だがアルフも笑みを浮かべていた。

「やっぱりアンタにとって、あたしは相性最悪の相手のようね。」

「えっ・・!?

 その言葉に驚きの声を上げるカッツェに向かって、アルフは迷わずに飛び込んでいく。

「バリアブレイク!」

 防壁破壊の効果を込めて、アルフが振動の壁に拳を叩きつける。強度のあるカッツェの防壁だが、アルフの「バリアブレイク」の効果を受けて弾け飛ぶ。

 その勢いのまま、アルフの拳がカッツェの腹部に叩き込まれる。

(防御結界の破壊・・こんな能力を持ってたなんて・・・)

 驚愕を覚えるカッツェが壁に叩きつけられる。苦悶の表情を浮かべて、彼女はその場から動けなくなる。

「ふぅ。これでしばらく動けないわね。」

 一瞬安堵を見せてから、アルフは振り返る。その先では、バルディッシュを構えるフェイトと、デッドリーソウルを握るジャンヌが対峙していた。

「できるならあなたとは戦いたくはない。だけど、なのはを助けるために、あなたの持つそのデバイスを壊させてもらう。」

 フェイトが低い声音で言い放つが、ジャンヌは無表情を変えない。

「・・あなたはなのはのお友達・・だから私と一緒にいてもいいよ・・・」

 ジャンヌが言い終わると、デッドリーソウルをフェイトに向け、衝撃波を放つ。

(時間凍結・・!?

 思い立ったフェイトはとっさに回避行動を取る。衝撃波を受けた空間が歪み、やがて固まっていく。

「なかなかうまくいかないね。でも、絶対に私のものにしてみせるよ・・なのはも、なのはのお友達も・・・」

Death Chrnos.”

 ジャンヌがさらに衝撃波を解き放つ。フェイトはそれらをかいくぐり、魔法弾の発射に備える。

(あの子の魔法とデバイスは次元を歪ませる。真正面から撃ち込んでも通じない。うまくけん制して、一気に叩く・・・!)

Photon lancer.”

 フェイトの意思を受けて、バルディッシュから光の槍が放たれる。しかしジャンヌは周囲の空間を歪めて、フェイトの攻撃を無力化する。

 だがこれはあくまでけん制であり、フェイトの狙いは直射砲撃魔法を確実に相手に当てることだった。

 そしてついに、フェイトがジャンヌの背後を取った。

thunder smasher.”

「ファイア!」

 フェイトが放った魔法弾がジャンヌに向けて放たれる。狙いは彼女の力の源となっているデッドリーソウル。

 だがジャンヌのデバイスに直撃するかと思われた魔法弾が、その直前で見えない壁に阻まれるように消失する。その瞬間にフェイトとアルフが眼を見開く。

「そんなんで私をやっつけることはできないよ。」

 フェイトに振り返ったジャンヌが淡々と告げていた。

 

 なのはの精神とのリンクを終えて、アンナの意識は現実世界に戻ってきた。現状を確認するためにモニターを作動させると、彼女は映像の1つに眼を向ける。

(ガーディアンデバイスは3体とも破壊されたか。でもクロノくんがジャンヌの時間凍結にかかり、ジャンヌは今はフェイトとアルフと戦ってるか・・)

 状況確認を終えて振り返るアンナ。そのとき、彼女のいる研究室に、リンディが駆けつけてきた。

「ここにいましたか、アンナ・マリオンハイト。」

 リンディが真剣な面持ちでアンナに呼びかける。追い込まれたはずのアンナだが、ひどく落ち着いた様子を見せていた。

「来ましたか、リンディ・ハラオウン提督。あなたが先にここに来ることは予測していました。いいえ。私が望んでいた、といったほうが正解でしょう・・」

 淡々と告げるアンナを前にして、リンディは顔色を変えない。

「もはや罪人である私に逃げ場はない。どうせ捕まるのなら、あなたの手で私を拘束してほしいと思っていましたから。ガーディアンデバイスを送れば、かわいい魔導師たちが相手をしてあなたを先に向かわせるでしょうと。」

「そこまで策を考えていたと・・私にあなたの身柄を確保させるために・・・」

「あなたが私の良き先輩ですから・・・」

 一瞬当惑を見せるリンディに、アンナは物悲しい笑みを浮かべる。だがすぐに真剣な面持ちを浮かべる。

「でも私を逮捕しても、最大の問題は解決しませんよ。」

「・・ジャンヌ・フォルシアさんのことですね・・?」

「なのはちゃん、フェイトちゃん、クロノくん、そしてライム。上級レベルの魔導師で、そのポテンシャルとデバイスとの連携と戦法は眼を見張るものがあることは知っています。ですがジャンヌの力は、まさに次元が違うのです。」

 アンナの言葉にリンディがモニターに眼を向ける。次元を掌握している状態にあるジャンヌに、フェイトたちは劣勢を極めていた。

「ジャンヌは次元、時間を操れる。次元を脅かすほどの力がなければ、彼女の力に対抗できませんよ。」

 アンナの言葉に、リンディは危機感を覚え始めていた。

 

 次元を操作するジャンヌの魔法に、フェイトは攻撃を当てることもできないでいた。サイズフォームへ切り替えたバルディッシュでの近距離攻撃を試みるが、ジャンヌの生み出す空間を歪めての壁に阻まれる。

(力任せに押し切ろうとしても、あの子の周りにある壁は破れない・・どうすればあれを破れるのか・・・!?

 打開の糸口を必死に探ろうとするフェイトだが、焦りだけが次第に募るばかりだった。

「もういいよね。そろそろ飽きてきたし、おしまいにしよう。」

 ジャンヌが無表情のまま、デッドリーソウルをフェイトに向ける。魔力を消費しているフェイトに、これ以上の俊敏な回避行動は酷となっていた。

「デッドリーソウル、デス・クロノス。」

Death Chrnos.”

 ジャンヌがフェイトに向けて、時間凍結の効果を備えた衝撃波を放つ。

「フェイト!」

 思うように動けなくなっていたフェイトの前に、突然アルフが飛び込んできた。アルフは両手を広げて、ジャンヌの時間凍結からフェイトをかばう。

「アルフ!」

 たまらず声を上げるフェイトの前で、フェイトが苦悶の表情を浮かべる。時間凍結が足元から徐々にアルフの体を侵食していく。

「フェイト・・絶対に、なのはを・・・」

 困惑するフェイトに微笑みかけるアルフ。ジャンヌの魔力にアルフが包み込まれ、立ち尽くしたまま完全に色を失って固まってしまった。

「アルフ・・私をかばって・・・!」

 フェイトが悔やみながらも、立ち上がってジャンヌを見据える。

「使い魔がかかっちゃったみたいだね・・でも今度は外さないよ・・・」

 ジャンヌが微笑んで、再びデッドリーソウルを構える。

(アルフ、あなたの思い、絶対にムダにしない・・・必ずあなたを、なのはを、みんなを・・・!)

 改めて気持ちを秘めるフェイトが、バルディッシュを構える。様々な思いを魔導師の杖に込めて、魔法発射をイメージする。

 だが先に魔法を放ったのはジャンヌだった。フェイトも迎撃のために魔法を放とうとする。

 そのとき、フェイトが突然氷塊に閉じ込められる。それが逆に、当惑の面持ちで凍り付いている彼女を時間凍結から守る結果となった。

 ジャンヌの魔法を防ぐと、氷塊は粉々に砕け散ってフェイトを開放する。2人が振り返った先には、ライムとラークの姿があった。

「ライム・・・!?

「待たせたね、フェイト!ここからは僕たちも混ぜてもらうよ!」

 動揺を見せているフェイトに、ライムが笑みを見せる。ジャンヌは顔色を変えずに、フェイトに駆け寄っていくライムを見つめていた。

「前にも言ったけど、僕は君の味方じゃない。なのはを助けたい。そのためだったら、君とだって・・・」

「・・・ありがとう、ライム・・私もなのはを、みんなを助けたい・・・!」

 言いかけるライムに感謝の言葉をかけて、フェイトは改めてジャンヌを見据える。

「僕が素早く動いてジャンヌに奇襲を仕掛ける。その間にフェイトは、デッドリーソウルを。」

「分かった。お願い。」

 ライムの指示にフェイトが頷く。前線に出て、ライムがジャンヌを見据える。

(ここで使うときだ。10秒間、それに僕の全てを注ぎ込む!)

「クリスレイサー!」

accel form.set up.”

 ライムの呼びかけを受けてクリスレイサーが答える。彼女のバリアジャケットが軽量化され、高速化の準備が整う。

「ラーク、援護をお願い・・!」

 ライムの呼びかけにラークが頷く。

accel action.start up.”

 ライムがジャンヌに対して、高速魔法「アクセルアクション」を発動させる。高速化されたライムの動きを、ジャンヌは眼で追いきれていない。

 ラークがジャンヌの真正面から羽根の矢を放つ。しかし空間を捻じ曲げた魔力の壁に全て阻まれる。

 光刃を発しているクリスレイサーを駆使したライムの素早い攻撃が、ラークに意識を向けているジャンヌに繰り出される。だが周囲の次元から完全に確立しているジャンヌに、速さは危機を与えることはできない。

 それでもライムは諦めてはいなかった。全力を込めた一閃を振り下ろし、次元の壁を強引に破ろうとする。ジャンヌもライムに対して意識を向ける。

「今だ!」

 ライムの呼びかけの直後、フェイトがバルディッシュを構える。デッドリーソウルに向けての魔法を彼女は練り上げていた。

「サンダーレイジ!」

 フェイトは広範囲に及ぶ雷撃魔法を、デッドリーソウルへ集中させる。ジャンヌは完全にライムに気が向いていたため、フェイトの攻撃への対処が間に合わない。

 はずだった。

 収束されたフェイトの雷撃が、デッドリーソウルに直撃する直前で弾け飛び、霧散する。

「そんな・・!?

 その瞬間にフェイト、ライム、ラークが驚愕する。2人の全力の魔法攻撃が、ジャンヌには全く効果が及んでいない。

3,2,1 time out.”

 アクセルアクションの発動時間が終わり、ライムのバリアジャケットが元に戻る。2人の決死攻は、ジャンヌの魔力を完全に沈黙することはできなかった。

「普通の魔法使いじゃないことは分かったよ。でも私には通じないよ。」

Death Chrnos.”

 ジャンヌが淡々と告げると、デッドリーソウルを振りかざす。放たれた衝撃波がラークに向けて放たれる。

 思わず両腕を掲げて身を防ごうとするラークの体から、徐々に色が失われていく。

「ラーク!」

「ライム・・ゴメンね・・・役に立てなくて・・・」

 叫ぶライムの眼の前で、ラークが微笑みかけたところで無機質なものへと変質して固まる。

 そしてジャンヌが次に、困惑を隠せないでいるフェイトに狙いを定める。

「次はあなた。今度こそあなただよ。」

 ジャンヌがさらに時間凍結の衝撃波を放つ。我に返ったフェイトだが、回避のための動作が間に合わない。

 そのとき、ライムがフェイトの前に立ちはだかり、防御魔法を使うことなく割り込んできた。アクセルアクションで魔力のほとんどを消費してしまっていたため、防御魔法を発動させる余裕がなかったのだ。

「ライム!」

「これで、借りは返したからね・・・」

 叫ぶフェイトに向けて微笑みかけるライム。彼女の体がジャンヌの魔力を受けて固まっていく。

(母さん・・これで、よかったのかな・・・)

 母に対する思いを胸に秘めるライムが、フェイトをかばう

(みんな・・私のために・・みんなのために・・・!)

Scythe form.Set up.”

 かつてない歯がゆさを覚えながら、フェイトは湾曲の光刃を発したバルディッシュを握り締める。持てる力の全てを込めて、彼女はジャンヌに向けて光刃を振りかざす。

 バリア貫通効果を備えた光刃だが、それでもジャンヌの次元の壁を破れない。

「これで終わりだね・・」

 ジャンヌの時間凍結が、フェイトの体を蝕んでいった。

(なのは、アルフ・・みんな・・・ゴメン・・・)

 

 自分の精神世界の中で漂っていたなのは。彼女は周囲から響いてくる親友たちの声や思いに、彼女は揺さぶられていた。

(これから先のことは、まだ答えを見つけられていない・・・だけど、私が今しなくちゃいけないことは分かってる・・・!)

 決意を秘めるなのはの体を、淡くもあたたかい光が宿る。

(みんなを助けたい!みんなを守りたい!)

 そして彼女の手に光が宿り、やがてそれは魔導師の杖へと形を成していく。

(それが、私の小さな願い・・・!)

stand by ready.set up.”

 なのはの願い、そして彼女の後ろで支えるように姿を現したフェイトとアルフの思いを受けて、魔導師の杖「レイジングハート」が起動した。

 

 

次回予告

 

それは、小さな願いでした。

大切な人を守りたい。

そんな願いを、みんなは笑顔で受け入れてくれました。

だから、さよならは言いません。

きっとまた会えると信じていますから・・・

 

次回・第13話「光」

 

リリカルマジカル、また会う日まで・・・

 

 

作品集

 

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