魔法少女リリカルなのは -LightDark-

第13話「光」

 

 

それは、平凡な小学三年生だったはずの私、高町なのはに訪れた小さな事件。

信じたのは勇気の心。手にしたのは魔法の力。

 

気持ちを分かり合える友達。

かけがえのない絆。

数々の思い出。

 

たくさんの出会いと別れがあったから、今の私がある。

その思いを心にしまって、私は前に進んでいく。

 

だから、さよならは言わない。

きっと会えると信じているから・・・

 

魔法少女リリカルなのは -LightDark-、始まります。

 

 

 アルフとの戦闘で負傷したカッツェの前には、異様な光景が広がっていた。ジャンヌの時間凍結により、フェイト、ライム、アルフ、ラークが固まり、立ち尽くしたまま動けなくなっていた。

「やったね、ジャンヌ。これでみんな一緒だね。」

「うん。これからはなのはと私と一緒・・みんな一緒・・・」

 笑顔を振りまくカッツェに、ジャンヌが微笑みかける。時間凍結を受けて動かなくなった魔導師たちを見渡して、彼女は一途の喜びを浮かべていた。

「さて、とりあえずなのはのところに戻ろう。みんなを一緒に連れて行こう。」

 カッツェの言葉にジャンヌは頷き、空間転移のためのイメージを練り上げる。だがそのとき、ジャンヌが笑みを消して顔を強張らせる。

「どうしたの、ジャンヌ?」

「・・・なのはが・・なのはが・・・!?

 その様子に眉をひそめるカッツェに、ジャンヌがはじめて当惑をあらわにする。

 そのとき、部屋の天井が爆発し、2人が驚きを見せながら見上げる。破片が落下してくる天井から、1つの人影が飛び出してきた。

「あれは!?

 その正体にカッツェが驚愕する。2人の前に現れたのは、バリアジャケットを身にまとい、デバイスモードのレイジングハートを手にしたなのはだった。

「な、なのは・・・!?

「そんな!?なのははジャンヌの魔法で時間を止められているはずなのに・・!?

 なのはの登場にジャンヌが動揺し、カッツェも驚きの声を上げる。ジャンヌの時間凍結を受けていたなのはが、2人の前に立ちはだかったのだ。

「どういうことなの!?どうやってジャンヌの時間凍結を・・!?

 声を荒げるカッツェ。なのはは2人を前にして、胸中で親友たちのことを思う。

(みんなの声が聞こえた・・フェイトちゃん、ライムちゃん、ユーノくん、アルフさん、ひばりちゃん、クロノくん・・・みんなが私を支えてくれた・・)

 なのはがレイジングハートをジャンヌに向ける。

「みんなの気持ちが、私の時間を動かしてくれた!」

 なのはの思いに呼応するように、彼女の前に数発の魔法弾が出現する。

divine shooter.”

「シュート!」

 出現させた魔法弾のうち、なのはは2発をジャンヌに向けて放つ。ジャンヌはこれに対して、空間を歪めての障壁での無力化を図る。

 だが、障壁によって打ち消されると思っていたディバインシューターが、かすかに障壁を貫通してジャンヌの頬をかすめる。その瞬間にジャンヌとカッツェが再び驚愕する。

 周囲を取り巻く空間の壁を貫いて攻撃されたことは今までない。それを破られたことで、ジャンヌはかつてない困惑にさらされた。

spear form.”

 その揺らぎの中、ジャンヌは槍状に変形したデッドリーソウルを構え、なのはに向かって飛びかかる。槍の刀身は彼女の魔力を受けて高周波を発し、振動を伴った高出力の一閃を可能とする。

round shield.”

 ジャンヌの突きに対し、なのはが防御の魔法陣を出現させる。突進力の強いデッドリーソウルの突きだが、なのはの防御魔法を突き崩せない。

 ジャンヌが怯んだところを、停滞していたなのはの魔法弾が発射される。ジャンヌは槍を振りかざして数発を弾き、残りを飛び上がって回避する。だがなのはの魔法弾は誘導式で、飛翔したジャンヌを追跡してきていた。

buster form.”

 ジャンヌは砲撃型に変形したデッドリーソウルを使い、向かってきた魔法弾を衝撃波で打ち消す。だがそこへなのはの魔法の砲撃、ディバインバスターが飛び込んでくる。

 空間の障壁で防ぎきろうとするジャンヌだが、完全に防ぎきるにいたらず怯む。

「ジャンヌ!」

 彼女の危機を見かねたカッツェが飛び出し、なのはに向けて衝撃波を放つ。

flier fin.”

 靴に魔法の羽根を生やし、なのはが飛翔して衝撃波をかわす。そして飛び込んできたカッツェの突進を受け流し、レイジングハートを構える。

divine buster”

 振り返ったカッツェに向けて魔法の砲撃が放たれる。強烈な閃光を受けて、カッツェが吹き飛ばされる。

「カッツェ!」

 ジャンヌがたまらず声を上げ、なのはが彼女に振り返る。なのはは間髪置かずに次の魔法の発射に備える。

sealing mode.”

 レイジングハートが、魔力の最大出力のための形へと変わる。同時になのはの前方に、周囲に分散している魔力が収束していく。

 周囲に散らばる魔力を収束させて放つのはかなり高度な技法なのだが、なのはは事前まで放っていた魔力を効率よく回収していることを熟知しているため、その技術を心得ている。

 その膨大化していく魔力に対して、ジャンヌも砲撃準備を行う。空間を歪めながら、彼女も持てる魔力をこの砲撃に注ぎ込もうとしていた。

「タイムブレイクスマッシャー!」

「スターライトブレイカー!」

 ジャンヌとなのはが収束させた魔力を解き放つ。2人の魔力がぶつかり、激しい衝撃が轟く。

 だが、自身の魔力だけでなく周囲の魔力さえも込められているスターライトブレイカーが、次第にタイムブレイクスマッシャーを押していく。そしてついに時間凍結を伴った魔力を撃ち破り、なのはの魔力はジャンヌが構えていたデッドリーソウルさえも射抜く。漆黒の宝玉がその砲撃で粉々に砕け散る。

 激しい衝突を受けて、ジャンヌが昏倒する。煙に巻かれた周囲から、なのはは倒れたジャンヌを眼にする。

「何とか杖は壊したけど、ジャンヌちゃん、大丈夫かな・・・?」

Don't worry,my master.”

 ジャンヌを心配するなのはにレイジングハートが答える。デッドリーソウルが損傷し、その魔力がもたらしていた時間凍結が消失する。

 これによって、時間を止められて固まっていたフェイトたちが解放される。一瞬戸惑いを見せる彼女たちだが、なのはに気付いて振り返る。

「フェイトちゃん、ライムちゃん・・よかった・・みんな、元に戻ったんだね・・・」

 元に戻った親友たちを見て、なのはが笑みをこぼす。

「なのはちゃん・・もしかして、なのはちゃんが・・・?」

 なのはに駆け寄ったライムが問いかけてくる。

「ライムちゃんやフェイトちゃん、みんなの声が聞こえてきたよ・・みんながいてくれたから・・」

 涙ながらに微笑むなのはに、ライムは寄り添った。フェイト、アルフ、ラークも一同の無事に笑みをこぼしていた。

「安心するのはまだ早いよ。」

 そこへ声がかかり、なのはたちが振り返る。同様に時間凍結から解放されたユーノとクロノ、そしてアンナを連れたリンディが駆けつけてきた。

「確かにデッドリーソウルは破壊され、ジャンヌの魔法の効果は完全に消えた。時間凍結が解かれたのが何よりの証拠。局員たちや他の地域も元に戻った。だけど、その魔力の根源は完全には消えてはいない・・・!」

 クロノがなのはたちに説明し、S2Uを構える。

「正体を見せるんだ、カッツェ。いや、デッドリーソウル!」

「えっ・・!?

 クロノの呼びかけになのはたちが驚きを見せる。なのはの砲撃を受けて昏倒していたカッツェから黒い霧のような魔力があふれ出す。

「デッドリーソウルはデバイスとジュエルシードの融合体。その力は強大となり、そして強い意思を持ったのです。インテリジェントデバイス以上の意思をね。」

 リンディがカッツェを見据えながら、なのはたちに説明する。

「おそらく、ジャンヌはそのジュエルシードの力に取り込まれ、自身は彼女の使い魔、カッツェとして存在していたのですね。違いますか?」

 リンディがカッツェに問いかけると、カッツェが黒い霧をまとったままゆっくりと立ち上がる。彼女の眼には不気味な眼光が宿っていた。

「さすがね。アンナから聞いたのかな?・・確かに私はデッドリーソウルの本体。ジャンヌの気持ちを受けて姿かたちを持ったのがこのカッツェってわけ。」

 カッツェがリンディたちに向けて語りかける。だがその様子は以前の明るいものではなく、黒い霧に同調するかのような不気味さが浮き彫りになっていた。

「デバイスとジュエルシードの融合で生まれた私だけど、最初から実態があったわけじゃない。実態を持つには、入れ物になる何かが必要だった。私はジャンヌの魔力と願いを受け入れて、ジャンヌの使い魔という形で実態を持つことができた。」

 カッツェは倒れたままのジャンヌに眼をやり、一瞬沈痛さをあらわにする。

「ジャンヌの魔力はすごくてね、デバイスが傷ついた今でも、私はちゃんと実態を保っていられる。ジャンヌには、ホントに感謝しているよ・・・」

 カッツェがジャンヌに向けて微笑みかけると、なのはたちに振り向いて鋭い視線を向ける。

「だからアンタたちにジャンヌは渡さない!これ以上ジャンヌを傷つけさせない!そのために私は、全ての空間を壊しても構わない!」

 言い放つカッツェから黒い魔力が放出する。その烈風になのはたちが怯む。

(すごい魔力・・これだけの力、まともにぶつかったらみんなが危ない・・・あれを何とかするには・・・)

「スターライトブレイカーしかない・・・!」

 なのはがカッツェを見据えて言い放つ。

「フェイトちゃん、ライムちゃん、みんな、少しだけ時間を作れない?」

「えっ?」

 なのはの呼びかけにライムが疑問を投げかける。

「みんなであの人の気を引き付けてほしいの。そこを私が、スターライトブレイカーで撃ち抜くから・・・!」

 なのはが口にした提案と指示にライム、フェイトが頷く。

 なのはが狙っているのは、さらに威力を高めた魔力砲撃だった。魔力を溜めるために要する時間の長さという欠点の解消をあえて無視して、カッツェの魔力を押さえ込むだけの威力の向上に専念することを彼女は考えていた。だがそのためには、通常よりもさらに時間を必要としていた。

「もっと力を溜めてから撃つってわけだね。それで、時間は?」

「10カウント、10秒だよ。」

 ライムの問いかけになのはが答えると、ライムは笑みをこぼしてクリスレイサーを構える。

「10秒ならやりやすいよ。アクセルアクションと合わせて、カウントを進めて。」

「分かった。お願いね、ライムちゃん、フェイトちゃん。」

 互いに意見交換をして頷き合う3人の魔法少女。だがフェイトがライムに疑問を投げかけた。

「でもライム、アクセルアクションは使ってしまったはずじゃ・・」

「大丈夫。僕もクリスレイサーも、すこぶるご機嫌だよ。」

 その疑問にライムは笑顔で答えると、フェイトも信頼して微笑みかける。

accel form.set up.”

 ライムのバリアジャケットが軽量化され、ライムは高速化に備える。

「レイジングハート、カウントを!」

starlight breaker stand by ready.”

「こっちも行くよ、クリスレイサー!」

accel action.start up.”

 なのは、ライムの呼びかけにそれぞれのデバイスが答える。なのはが砲撃のために体勢を整え、ライムとカッツェが同時に飛び出す。

 そしてフェイトもカッツェの動きのみを見据える。高速化しているライムならすぐに回避が取れると信じていたからだ。

 光刃を出現させたクリスレイサーを振りかざすライム。その速い動きと一閃で確実にカッツェに攻撃を当ててはいるものの、その膨大な瘴気にダメージを当てることは困難を極めていた。

 だが相手の気を引き付け、足止めできればそれでいい。うまく時間を稼いで、なのはの砲撃のチャージを完了させる。ライムはそれだけに専念していた。

 その間に、レイジングハートがカウントを進め、フェイトも魔法発射のための準備を行っていた。

(なのはやライム、みんなのためにつなげる・・・!)

「サンダーレイジ!」

 フェイトがライムと交戦しているカッツェに向けて電撃を放つ。電撃はカッツェの右腕に集中的に命中する。

 その攻撃にカッツェが一瞬顔を歪める。たまらず彼女は魔力を放出して危機を回避しようとする。

 漆黒の球体が稲妻を帯びて膨大化していく。アルフ、ラークが飛び上がって回避し、リンディ、クロノもアンナ、ジャンヌを連れて退避していく。

 その巨大な魔力を一気に放出した影響で、カッツェは息を荒げていた。だがバルディッシュが詠唱したディフェンサーにフェイトは守られ、ライムも高速化された動きで距離を取っていた。

3,2,1・・・

 レイジングハート、クリスレイサーのそれぞれのカウントが響く。

time out.”

count zero.”

 アクセルアクションの終了、集束型魔法のチャージ完了が告げられる。ライムのバリアジャケットが元に戻ると同時に、なのはが砲撃のために身構える。

「今だ、なのはちゃん!」

 振り返ったライムの声にカッツェが眼を見開く。彼女の視界に、膨大な魔力を解き放とうとしているなのはの姿があった。

「これが私の・・ううん、みんなの気持ちを込めた魔法・・スターライト・ブレイカー!」

 様々な思いを背に受けて、なのはがカッツェに向けて魔力を放出する。膨大な光の奔流を、カッツェは持てる魔力を両手に集束して受け止める。

 だが強力な魔力の奔流を受け切ることができず、カッツェは流星のような力にのみ込まれる。

「ジャンヌ・・ジャンヌ・・・」

 カッツェは眼を覚ましたジャンヌに眼を向けて微笑みかけていた。その笑顔が閃光の中で消えていく。

「カッツェ・・・」

 ジャンヌは呆然とカッツェが消えたのを見つめていた。光の中から現れたのは、ひび割れた漆黒の宝玉だった。宝玉は地面に落下して粉々に砕けた。

 使い魔としても行動していたデバイスの崩壊は、ジャンヌの心さえも壊してしまいかねない要因となっていた。愕然となる彼女の白い髪が、徐々に水色へと染まっていく。

「これって・・・!?

 その変化になのはは驚きを見せる。だが膨大な魔力を発射したために疲弊していた彼女はふらつき、駆け寄ってきたフェイトとライムに支えられた。

「なのはちゃん、大丈夫!?

「うん、平気。ちょっと張り切りすぎちゃったかな・・」

 心配するライムになのはが笑顔を見せる。そして改めてジャンヌに眼を向ける。

「カッツェ・・・カッツェがいなくなった・・・」

 ジャンヌが呆然としたまま呟きかける。

「私のことをずっと守ってくれてたのに・・私の心の支えだったのに・・・私にはもう何もない・・誰もいない・・・」

 呆然としているジャンヌだが、囁きかけるその言葉から悲痛さが現れていた。しかし感情を表に出せないジャンヌは、その悲しみを顔に出せなかった。

 そんな彼女を見て、なのははゆっくりと彼女に近づいた。なのはは微笑みかけて、優しく手を差し伸べる。

「あなたは1人じゃないよ。私が、私たちがそばにいるから・・」

「なのは・・・」

 なのはの声にジャンヌが顔を上げる。

「寂しかったんだよね。だから私に近づいたんだよね・・・?」

「うん・・・初めてなのはを感じたとき、私を助けてくれると思った・・ひとりぼっちになって、カッツェやアンナ以外に心を開けなくなってた私を変えてくれると思った・・だから私はなのはがほしかった・・・」

 何とか自分の気持ちを伝えようとするジャンヌ。するとなのはは満面の笑みを彼女に向けた。

「そんなにほしがらなくたって、私はそばにいてあげるよ。」

「えっ・・・?」

 なのはからの答えが意外に思えて、ジャンヌが戸惑いを見せる。

「誰だってひとりぼっちは寂しいよね・・でももう大丈夫だよ。これからはあなたは1人じゃないから・・・」

「なのは・・なのは・・・」

 なのはの励ましの言葉に、ジャンヌの表情に感情が表れる。凍り付いていたジャンヌの心が次第に解け始めていた。

 感情が解き放たれたジャンヌが、なのはにすがりつく。涙さえ見せるジャンヌの髪を、なのはは優しく撫でる。

「なのは・・私たち、お友達でいられるよね・・・?」

「決まってるじゃない。私たち、友達だよ。」

 ジャンヌの問いかけになのはは笑顔で頷く。新しい友情が、今ここに生まれ結ばれたのだった。

 その2人の姿を見て、フェイトやライムたちも喜びを感じていた。だがライムはフェイトに笑顔を見られたと思い、たまらず照れ隠しをする。

「ぼ、僕は別に、お前と仲良くなろうだなんてこと・・・!」

 弁解しようとするライムに、フェイトも笑顔で頷いていた。

 

 こうして、この時間凍結事件は幕を閉じた。

 天地のデバイスを開発して、次元を混乱に陥れる結果をもたらしたアンナは、リンディに付き従うように時空管理局本局に連行された。ジャンヌも同様に、事件の主犯として本局に送られた。

 アンナもジャンヌも自分のした行いが大罪として、裁かれることを覚悟していた。だが管理局は、2人を罪人として問い詰めなかった。

 地のデバイス「デッドリーソウル」の中にあるジュエルシードの影響下に置かれていたジャンヌは、自らの意思で次元を混乱させたわけではないとして、保護観察処分として罪を軽減した。

 また、精神面で障害があると見解し、ジャンヌは本局の医療施設での治療を行うこととなった。だがすぐに退院してなのはたちに会いにやってくると、なのはやリンディは信じていた。

 そして次元犯罪、次元災害を引き起こす要因となったアンナだが、彼女の次元研究に関する知識と成果に寛大な評価を見出した本局は、彼女を局の研究員として保護観察下に置く。研究者として、彼女は一からのスタートを切ることとなった。

 本局のこの見解に、本局勤務提督、レティ・ロウランからの通信を受けていたリンディは安堵の笑みをこぼしていた。

「そう。まさかアンナまで保護観察に置かれることになったなんて。」

“意外ね。あなたがそんなことを言うなんて。アンナさんのことを1番信じているのはあなただと思っていたのだけれど。”

 リンディの言葉に、モニター越しにレティが意外そうな面持ちを見せていた。

“あなたとアンナさんは親しい間柄でもあった。だから彼女が研究家としての能力が眼を見張るものがあることは、あなたがよく知っていると思っているわ。”

「ありがとう、レティ。もう心配はいらないようね。アンナはしっかりしているから。」

 レティの言葉に励まされて、リンディが感謝して微笑む。

“ところでリンディ、天地事件の重要参考人のあの子はどうしたの?”

「そ、それが・・・」

 レティのこの質問に、リンディが苦笑いを見せた。

 時空管理局、およびアースラは今回のこの事件を「天地事件」として処理し、報告書にまとめていた。

 

 事件解決後、ライムとラークは病院を訪れていた。記憶を取り戻したものの、記憶喪失による不安定さを確実に解消するため、彼女の母親は入院を続けていた。

 ライムが病院を訪れたのは約束を果たすため、母親が記憶喪失に陥ってからのことを話すためだった。病室で笑顔で迎えてくれた母親に、ライムは真剣に語りだした。

 アンナ、ラーク、クリスレイサーとの出会い。魔法使いになったこと。なのは、そしてテスタロッサの血を受け継いでいるフェイトとの対立と和解。

 様々な出来事と経験を聞いて、母親は笑顔で頷いた。

「そうだったの・・ライム、あなたにはいろいろ迷惑をかけてしまったわね・・」

「迷惑だなんてそんな!迷惑をかけたのは、むしろ僕のほうで・・」

 優しくしてくれる母親に、ライムは沈痛の面持ちを浮かべてうつむく。すると母親が彼女の頭を優しく撫でた。

「あなたは自分で決めて、ここまでやってきたのでしょう?なら母さんはもう、そのことについて何もいうことはないわ。」

「母さん・・・ありがとう、母さん・・・」

 ライムはあふれてくる涙を拭って、母親に笑顔を見せる。ラークも笑顔で頷いていた。

「ところで母さん・・また、迷惑をかけちゃうことなんだけど・・・」

 ライムが唐突に戸惑いを見せながら言葉を切り出す。

「僕、ラークと一緒に、少し旅に出てみようと思うんだ・・これからどうしたらいいのか、考え直してみたいんだ・・・」

「ライム・・・いいわ。あなたが決めたことなら、私は何も言わない。でもね、あなたが決めたその旅は、あなたたちだけの力で乗り切らないといけないのよ。まず誰かに頼ることはできない。その覚悟はある?」

「うん・・僕とラークだったら、どんなことだって乗り越えられる。それに・・」

 ライムは母親に頷いてから、窓越しから青空を見つめる。

「僕はもう1人じゃない。大切なものがたくさんできたから・・・」

 

 そしてライムとラークは海鳴臨海公園を訪れていた。そこで彼女たちは、なのは、フェイト、ユーノ、アルフ、クロノを見つける。

「やっぱりみんなここにいたんだね。」

「あっ、ライムちゃん、ひばりちゃん!」

 声をかけてきたライムたちに、なのはが手を振って迎える。

「なのはちゃんには、いろいろ迷惑かけちゃったね。」

「いいよ、ライムちゃん。フェイトちゃんとも仲良くなれたわけだし。」

 なのはが笑顔で答えると、ライムが照れ隠しを見せる。

「ぼ、僕は別に・・・フェイト、君との勝負はまだついてないから。今度は僕が勝ってみせるから。」

 ライムが言い放った言葉に、フェイトが微笑んで頷く。しかし2人とも心の中では親しくなりたいと思っていると、なのはは信じていた。

 和やかに語り合う少女たちの中、クロノが真剣な面持ちで声をかけてきた。

「ライム、君は今回の“天地事件”の重要参考人だ。君とラークもフェイトとアルフと同様、本局に身柄を預けることになる。だけど君は母親のためにフェイトに接近しただけで、事件を故意に引き起こそうとする意図はなかった。従って君たちも保護観察に置かれる可能性が高い。」

「クロノくん・・・ライムちゃん・・」

 クロノの言葉になのはが笑みをこぼす。

「それじゃ、そろそろ行こうか。みんなを待たせてはいけない。」

 クロノがライムに手を差し伸べるが、ライムは突然満面の笑みを見せる。

「ゴメンだね。管理局に捕まるのはね!」

「えっ!?

 言い放ってきびすを返すライムに、クロノが驚きを見せる。

「行くよ、ラーク!」

「うんっ!」

「あっ!待て!待つんだ!」

 クロノの呼び止めを聞かずに、ライムはクリスレイサーを起動させて、ラークとともに飛翔して飛び去ってしまった。

「ありゃ。行っちゃったね、あの子たち。」

 ライムたちを見送る形となり、アルフがきょとんとした面持ちで呟く。

「まったく仕方がないなぁ・・」

 ライムたちの言動に呆れるクロノ。

「でも、いつかまた会える。ライムたちとも、そしてなのはたちとも・・・」

 そこへフェイトが微笑みかけ、なのはに眼を向ける。するとなのはも笑顔で頷く。

「フェイトちゃん・・・また、会えるよね・・・?」

「私も会いたい・・なのは・・・」

 なのはの声にフェイトは頷く。彼女たち、そしてライムは、かけがえのない友情で結ばれている。その気持ちを大切にしたいという願いは、3人とも同じである。

「ではこっちはそろそろ行こう。ライムとラークの行方は追っていくつもりだから。」

 落ち着きを取り戻したクロノがフェイトとアルフに呼びかける。

「必ず、愛に戻ってくるよ、なのは・・・」

「うん・・・待ってるからね、フェイトちゃん・・・」

 なのはとフェイトは言葉を交わすと、優しく抱き合った。別れの抱擁ではあったが、必ずまた会えることへの願いも込められていた。

 抱擁を終えると、フェイトはなのはから離れ、クロノが展開した魔法陣の中へアルフとともに向かう。

 眼に涙を浮かべながらも、互いに手を振るなのはとフェイト。大切な親友に見守られて、フェイトはアルフとクロノとともに転移していった。

 異世界へと飛び立っていった親友を見送って、なのはは涙を拭った。

「ユーノくん、フェイトちゃんとライムちゃんと、また会えるよね・・・?」

「大丈夫さ。きっとまた会える・・お互いが信じている限り・・・」

 なのはの言葉に、フェレット姿のユーノが答える。その答えに、なのはは自分の願いが確信に変わるような気がした。

 それぞれの決意を秘めて、それぞれの道を進んでいく。その中でそれらの道は必ず交わり、ひとつになるときがくる。

 なのはは思った。そのときにみんなに笑われないように、頑張っていこうと。

(待ってるから・・私、待ってるから・・・)

 フェイト、ライムとの再会を胸に秘めて、なのはは歩き出す。

 1人の女の子としての日常へ。魔法少女としての日々へ。

 

 そして物語は、A’sへ・・・

 

 

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