魔法少女リリカルなのは -Light&Dark-
第11話「新世代へ」
母親の見舞いに行く前に、ライムとラークは思い出の海辺に来ていた。そこでライムは、これまでの自分の思いと、これからの自分の決意を見つめなおしていた。
(僕がこれからどんな道を進んでいくのか、僕自身分からない。だけど、どの道を選ぶにしても、僕は強くならなくちゃいけないと思う。魔法も心も・・・)
胸中で密かに決意を囁いていたライムだが、その心の声は念話としてラークにも伝わっていた。
「ライム、ライムがこれからどうするにしても、ラークはずっとライムのそばにいるからね・・」
「ラーク・・ありがとう。僕とラークは、これからもずっと一緒だから・・・」
ラークの言葉にライムは笑顔を見せた。使い魔であるラークは、ライムの魔力なしでは生きられない。その宿命以前に、2人は決して離れられない関係になっていた。
「さて、そろそろ病院に行こう。母さんが待ってるはずだから。」
「でも、またライムのこと・・・」
ライムが意気込みを見せたところで、ラークが沈痛の面持ちを見せる。しかしライムは落ち込む様子を見せない。
「たとえまた突き放されることになっても、僕はもうめげたりしない。母さんが必ず記憶を取り戻して、また一緒に笑って暮らせるときが来るって、僕は信じてる・・・」
「うん・・でも、もしお母さんが元に戻ったら、ライム、いろいろなことを話さないといけないね・・・」
ラークの言葉にライムは小さく頷く。彼女が魔法の力を手にしたのは、母親が記憶を失くしてからのことである。しかもラークはライムの使い魔として存在している。妹という形にはなっているが、そのことも話さなければならない。
いつかはこういうときが来ると想定できたことだと思いつつ、ライムは改めて覚悟を決めていた。
そのとき、病院に向かおうとしたライムたちの前に1人の女性が姿を見せた。それはライムの母親だった。
「母さん・・・」
ライムは母親をじっと見つめていた。母親はライムを見るなり、戸惑いと浮かべて体を震わせている。
「ライム・・ライム・・・」
「母さん・・・僕が、分かるの・・・?」
母親の言葉にライムも驚きに似た戸惑いを見せる。
「ライム・・本当にライムなのね・・・」
「母さん・・・母さん!」
今まで心の奥にしまっていた喜びと悲しみが一気に込み上げ、ライムは涙をこぼす。揺れる感情の赴くまま、彼女は母親に駆け寄った。
「ゴメンね、ライム・・今まで忘れてしまって・・ずっと1人にさせて・・・!」
「母さん、僕は平気だったよ・・母さんが戻ってくるって信じてたし、みんなが僕を助けてくれたから・・・!」
涙を流しながら寄り添いあう親子。その姿にラークと、母親についてきていたフェイトとアルフも涙していた。
「ライム、よかったね。ラークも嬉しいよ・・・」
あふれる涙を拭いながら、喜びを分かち合うラーク。その幼い少女に母親が眼を向ける。
「ライム、この子は・・・?」
母親の唐突な問いかけに、ライムは当惑する。が、すぐに気持ちを落ち着けて笑みを見せる。
「母さん、僕もいろいろあったんだ・・実は・・・」
ライムが母親に説明しようとしたときだった。
ライム、フェイト、アルフが強大な力を感じ取って緊迫を覚える。3人が同時に同じ方向を振り向く。
「この力・・・ジャンヌ・・・!」
思い立ったライムが駆け出そうとして足を止める。
「母さん、ゴメン!後で説明するから!」
ライムは母親に呼びかけてから、魔力を感じたほうへと駆け出す。フェイトとアルフも彼女を追う形でその地点へ向かった。
得られるだけの情報を入手して、リンディとクロノは研究所を後にして、アースラに帰還した。作戦室に着いた2人に、エイミィが切羽詰った面持ちで駆け寄ってきた。
「どうしたんだ、エイミィ?何かあったのか・・!?」
「た、大変!・・艦長、なのはちゃんが・・・!」
エイミィからの報告に、リンディとクロノは驚愕した。アースラのモニターに、ジャンヌに時間凍結をかけられて連れ去られていくなのはとユーノが映し出されていた。
「まさかなのはさんが・・」
「あのジャンヌという少女が、時間凍結災害の主犯でしょう。アンナさんとともに、彼女の捜索を急がなければ・・」
動揺を隠せないでいるリンディに、クロノが呼びかける。
「エイミィ、その少女とアンナの行方を捜索。フェイトさんたちにも呼びかけてください。」
「はいっ!」
リンディの指示にエイミィは敬礼を返し、行動を開始した。事態は悪化へと歩を進めつつあった。
なのはとユーノを時間凍結で固め、彼女たちを連れて空間転移してきたジャンヌとカッツェ。彼女たちの前にアンナが姿を見せ、微笑みかける。
「やっと連れてきたんだね、ジャンヌ。」
「うん。これでずっとなのはと一緒だね・・あと・・」
ジャンヌが言いかけて、立ち尽くしているユーノに眼を向ける。するとアンナが喜びを満面に表して、彼に寄り添う。
「ああ〜・・かわいいなぁ。フェレット姿も捨てがたいけど、このスクライアの子はたまらないなぁ〜。それに・・」
ユーノにすがり付いていたアンナが、唐突になのはにも眼を向け、彼女にもすがりつく。
「なのはちゃんもやっぱりかわいいなぁ〜。ジャンヌがほしがるのも頷けちゃうなぁ〜。」
なのはにもすがり付いて満面の笑みを浮かべているアンナに、ジャンヌが少し不機嫌そうに見つめる。カッツェはアンナの様子にあきれ果てていた。
「さてと、私はこれから、なのはちゃんとお話をしてくるとしますか。ジャンヌはこれからどうするの?」
「何もしない。なのはと一緒にいるだけだよ。」
気を落ち着けるアンナに、ジャンヌが無表情で答える。
「でも多分、なのはちゃんのお友達が、なのはちゃんを取り戻しに来るかもしれないよ。」
「それはダメ。なのはは誰にも渡さないから・・」
「なら、そのお友達を追い返すか、あるいは迎え入れるってこともできるかも。」
「・・そうだね・・なのはのお友達だったら・・・」
アンナの言葉にジャンヌは微笑んで頷いた。
膨大な魔力の発生源を察知して駆けつけたライム、ラーク、フェイト、アルフ。だが魔力を発動させた魔導師の姿はなく、魔力も次第に消えかかっていた。
「これだけの魔力を残してくなんて・・こりゃ並の魔導師の仕業じゃないね・・」
アルフがこの魔力に脅威を覚える。
「この魔力・・ジャンヌだ・・・」
「えっ・・!?」
ライムが口にした言葉にアルフが声を荒げる。
“フェイトちゃん、ライムちゃん、大変だよ!”
そこへエイミィからの通信が、フェイトたちに脳裏に伝わってきた。
“なのはちゃんとユーノくんが、連れてかれちゃったよ!”
彼女のその言葉にフェイトが眼を見開き、アルフとラークが驚きを見せる。ライムはジャンヌの仕業であることを察していた。
ライム、フェイト、アルフ、ラークは、エイミィから事のいきさつを聞いた。地のデバイス「デッドリーソウル」の使い手、ジャンヌによって、なのはとユーノが時間凍結をかけられて連れさらわれてしまったのだ。
ライムもフェイトたちに、ジャンヌとデッドリーソウルについて話すことにした。
ジャンヌは幼い頃に次元災害に巻き込まれた影響で一時期仮死状態に陥ったことがある。仮死状態は治ったものの、それ以来彼女の心には、「支配」という感情や欲情が突起してしまった。
デバイスとジュエルシードの融合体であるデッドリーソウルは、手にした彼女の欲情をさらに表面化させてしまった。時間凍結を駆使して、彼女は自分が手にしたいと思ったものを徹底的に奪い取るようになってしまった。
そして今回、なのはとユーノがその犠牲となった。
ジャンヌがなのはを欲していたため、時間凍結以外の被害を受けることはないと想定できるものの、一刻の有余がないことに変わりはない。
アースラはアンナとジャンヌの行方を捜索しつつ、武装役員の出動準備を行っていた。
その頃、ライムとラークは高町家の道場にいた。桃子を除く高町家全員が剣術や精神統一を行っている場所である。
ライムもここで自分の気持ちと向き合っていた。今自分がすべきことを改めて確かめるためだった。
彼女も剣術のたしなみがある。この高町家の道場を包む静寂と適度な緊迫感が、彼女の気持ちを整理させていた。
(これから僕が何をしていきたいのか、僕自身、まだ分からない。でも、今しなくちゃいけないことだけは、ちゃんと分かってるつもり・・・)
自身の気持ちと決意を思い返し、ライムは自分の胸に手を当てる。
「ライム、これからどうするにしても、ラークはライムについていくからね。使い魔だからじゃなくて、妹や家族として・・」
「ラーク・・ありがとう・・・僕はなのはちゃんを助けに行く。その先のことは、今は考えないようにする。」
ラークの思いにライムは微笑んで頷く。そして決意を新たに、2人は道場を、高町家を後にした。
そしてライムとラークは、母親の入院している病院を訪れた。魔法使いとなったことに関する全てをここでは話さず、自分のやるべきことをすると告げるために、母親と会おうとしていた。
「母さん、来たよ・・」
「ライム、ラークちゃんもありがとう。」
ライムが微笑みかけると、母親が笑顔で答える。
「お母さん、今は“ラーク”じゃなくて“ひばり”だよ♪」
「そうだったわね。ゴメンなさい、ひばりちゃん。」
そこへラークが笑顔で呼びかけると、母親は彼女にも笑顔を向けた。
「それでお母さん、詳しい話なんだけど・・・その話をする前に、僕は今からしなくちゃならないことがあるんだ。だから、話はそれが終わってからでいい・・・?」
ライムが戸惑い気味に言うと、母親は笑顔を絶やさずに頷く。
「あなたが自分で決めたことなんでしょう?だったら後悔しないように、思い切りやりなさい。お母さんはいつまでも待ってるから。もう絶対に、ライムのことを忘れないから。」
「お母さん・・・ありがとう、お母さん・・・」
ライムは感謝の言葉をかけると、喜びと悲しみを噛み締めて母親に寄り添った。最後の甘えなのかもしれない。だからその瞬間を大事にしたい。ライムはそう心にとどめていた。
なのは救出という思いと決意を固めて、病院を後にしたライムとラーク。その正門ではフェイトと人間の姿のアルフが待っていたが、ライムは何も言わずに2人を素通りする。
ついていく形で歩き出したフェイトとアルフに、ライムはようやく口を開いた。
「勘違いしないでもらいたい。僕は君たちと手を組むつもりはない。ただ、僕たちと君たちには今、同じ目的がある。」
「分かってる。だから今は、なのはを助けることを1番に考える。」
呼びかけるライムにフェイトも微笑んで答える。無意識ながらも息が合っている2人を見て、アルフとラークは小さく喜びを表した。
考え、思い、心理、言動は違えど、なのはを助けたいという気持ちは同じ。それが
やがて公園へと行き着いた4人の前に、インナースーツ姿のクロノが現れた。ライムもフェイトも互いのその気持ちを察していた。
「アンナさんと地のデバイスを持つ魔導師の行方が分かった。先ほど、武装局員で特攻部隊を編成、先行させた。しかし・・・」
フェイトたちに報告するクロノの表情が曇る。
「現場に向かった局員全員が、時間凍結を受けてしまった・・・!」
この言葉にアルフが動揺を隠せなかった。管理局の武装局員は、訓練と実績を重ねてきた猛者たちである。それがジャンヌの力の前に手も足も出なかったのだ。
「場所は分かってるんでしょ?なら僕たちをそこに連れて行ってほしい。」
そこへライムがクロノに呼びかけてきた。はじめ一瞬戸惑いを見せるも、クロノはライムの頷く。
「正直に言うと、僕はテスタロッサや時空管理局を受け入れ切れていない。だけどここにいるみんなには、同じ目的がある。なのはちゃんを助けたいっていう目的と願いが・・」
「分かってる。だけど君は今回の事件の重要参考人であることは免れない。それは分かってるね?」
クロノの忠告にライムは無言で頷く。彼らはアンナの確保とジャンヌとの決戦のため、一路アースラへ向かうこととなった。
新しく儲けた研究所だったが、すぐにアースラに察知された。だがそのことはアンナにとっては想定の範囲内だった。
そしてジャンヌの扱う時間凍結の前に、管理局が歯が立たないことも。
局員たちを退けたジャンヌとカッツェが、アンナのいる研究室に戻ってきた。研究室にはアンナの他、時間凍結を受けて動かなくなったなのはとユーノの姿もあった。
「アンナ、いくらこっちが負けないっていっても、相手の数が多くて少し飽きてきたよ〜・・」
カッツェが不満を口にすると、アンナは微笑みかけてキーボードに指を走らせた。
「だったらこれを使うといい。今調整が終わったところだから。」
アンナが最後のボタンを押すと、部屋の脇にあるシャッターが開く。その先には3体の鎧が立ちはだかっていた。
「これはただの鎧でも傀儡兵でもない。人工知能プログラムをインストールして、自律行動を可能にしている。さしずめ、ガーディアンデバイスといったところね。」
「これは強そうだねぇ。高みの見物ができそうかな?」
簡単の言葉をもらすカッツェに、アンナがさらに続ける。
「もちろん単純に戦闘能力に優れているだけじゃない。これらはこれから来る子たち専用の戦闘を行うようプログラミングしてあるから。」
目論みを抱えながら、アンナは席を立ってなのはに眼を向ける。
「ジャンヌ、これからなのはちゃんと大事なお話があるから。その間、お友達と遊んできてあげて。」
「うん、分かったよ。」
アンナの言葉にジャンヌは小さく頷き、再び研究室を後にし、カッツェも続いて出る。その直前、3体の鎧は既に戦線に向けて前進していた。
ジャンヌたちがいなくなったのを見計らって、アンナはなのはに近づく。時間凍結を受けている彼女とユーノは、その場で立ち尽くしたまま微動だにしない。
アンナはその彼女に手を差し伸べる。魔法を使える人ならば念話を使うことが可能だが、その到達距離はそれぞれ異なる。アンナの念話は特質なもので、その魔法を発展させることで、自分の精神を対象の精神世界に送り込むことができる。ただし何らかの事態で精神が破壊されれば、その精神の宿主の意識は完全になくなり、仮死状態に陥ってしまう。
かなりの危険を伴う精神疎通を、アンナはなのはに対して使用した。
アースラ作戦室へと駆けつけたフェイト、ライム、アルフ、ラーク、クロノ。そこではエイミィを筆頭に、連絡と報告のやり取りが飛び交っていた。
「来ましたね、みなさん・・」
振り返ったリンディが、フェイトたちが頷く。
「私たちの目的は、アンナの確保、ジャンヌ・フォルシアの魔力の抑制、そしてなのはさん、ユーノくんの救出です。危険と判断したら、深追いはせず、退却と回復を最優先にしてください。」
リンディの忠告にフェイトたちが再び頷く。しかしフェイトたちが簡単には退かないことは、リンディには分かっていた。
「それでは行きましょう。私も現場に向かいます。」
「分かりました。気をつけてください、艦長。」
エイミィの言葉に、リンディは真剣みを帯びた微笑を見せて頷く。なのはとユーノを救うため、フェイトたちはアンナとジャンヌたちのいる研究所へと赴いた。
アンナはミッドチルダにいくつか研究所を設けている。フェイトたちがたどり着いた場所もその1つである。
「ここも研究所・・この前踏み込んだものと大差ないようですが・・」
酷似した造りの建物に、クロノが眉をひそめる。
「アンナさんの研究室はいつも整理されていました。というより、一定の空間や空気を好む人でしたから。こういう空間が1番落ち着くのでしょう・・・」
リンディは呟きながら、昔を思い返していた。研究員として活発だったアンナの笑顔を思い出し、歯がゆさを覚えそうになるのを何とかこらえた。
「行きましょう。今度はアンナさんは、私たちを迎え撃つ算段を打っているでしょう。気をつけてください。」
「はい。」
リンディの指示にフェイトたちは頷いた。一同は細大の注意を払いながら、研究所へと入っていった。
注意を向けながら廊下を駆け抜けていくが、その間での罠や待ち伏せは見られなかった。そして彼女たちは大広場へと行き着く。
そこで彼女たちを待ち構えていたのは、3体の鎧だった。
「これは・・!?」
「傀儡兵!?・・違う・・」
ライムが驚愕をあらわにし、クロノが鎧の正体を分析する。すると3体の鎧が不気味な眼光を灯す。
「どうやら手荒いお出迎えのようね・・!」
毒づくアルフが鎧たちを見据えて身構える。
「艦長、アンナさんのところに急いでください!ここは僕たちが!」
クロノがリンディに呼びかけ、戦闘に備えてバリアジャケットを身にまとい、S2Uを構える。赤い鎧が彼に向かってその胴体を進めてきた。
彼と、そしてフェイトとライムの決意を察して、リンディは静かに頷いた。
「分かりました・・みなさん、ご無事で・・・!」
鎧たちの相手をフェイトたちに任せ、リンディはアンナの確保のために先を急いだ。
そして、フェイトとアルフは黄色の鎧を、ライムとラークは青い鎧と対峙する。
その傍らで赤い鎧との戦闘を繰り広げるクロノ。
“Blaze Cannon.”
音声を発したストレージデバイスから閃光が放たれる。それを鎧がその重みからは想像できない動きで閃光をかわしていく。
人工知能を備えているとは思えない大胆不敵な打撃や砲撃を繰り出す鎧。そのでたらめな戦法が、様々な戦術に長けているクロノを逆に悪戦苦闘を強いる形となっていた。
クロノくんはなのはちゃんたちよりも実績や経験がある。それに基づく様々な魔法や戦術を持っていて、冷静沈着に状況を対処している。でも相手がシンプルで不規則な戦法を取ってくると、逆にその冷静さが仇となる。予想もつかない攻撃の対処に、彼は苦戦を免れない。
青い鎧と対峙したライムとラーク。ライムは宝石の形のクリスレイサーを掲げ、決意を振り返る。
(今の僕には大切なものがある。その奪われた大切なものを、僕たちが取り返す!)
「行くよ、クリスレイサー!」
“stand by ready.set up.”
ライムの呼びかけに答えて、クリスレイサーが杖へと変わる。そしてライムも純白のバリアジャケットを身にまとう。
青い鎧はライムを見据えたまま大きな動きを見せない。それを見越して、ライムが先手を打つべく飛び出す。
“Blade mode.”
光刃を出現させたクリスレイサーを振りかざすライム。その一振りを鎧は左足を一歩分引くことで簡単にかわす。
かわされた攻撃の態勢のまま、ライムはさらに攻撃を繰り出そうとする。そこへ鎧が眼から砲撃を放ち、振りかざした光刃と衝突する。
「ぐっ!」
2つの力の相殺で吹き飛ばされ、ライムが壁に叩きつけられる。
「ライム!」
ラークがとっさに小鳥の姿となり、翼をはためかせて羽根の矢を飛ばす。だが強靭な硬さの鎧に傷をつけることもできず、振り返り様の砲撃にラークは翻弄される。
「ラーク!・・こうなったら!」
“Launcher mode.”
クリスレイサーを砲撃型に変えて、ライムが鎧の周りを周回する。けん制を交えながら砲撃を繰り出していくが、鎧は最小限の動きで次々とかわしていく。
(こっちの攻撃が当たらない・・・!?)
命中しない攻撃に焦りを覚えるライム。そこへライムに向けて、鎧の砲撃が飛び込んでくる。砲撃は的確にライムを捉えていたが、クリスレイサーが彼女を氷に包み込み、防御を施していた。
氷から脱出したライムが再び構えるが、攻撃をかわしていく鎧に歯がゆさを浮かべていた。
ライムちゃんは魔導師たちの中でもスピードと瞬発力に長けている。Aクラスの魔導師や戦士でもその速さに追いつくのは困難。だから自分の周りに意識を集中して、攻撃を受け流しつつ迎撃する。なのはちゃんとの戦闘で、それが浮き彫りになった。
その頃、フェイトとアルフは黄色の鎧と対峙していた。
「行くよ、アルフ、バルディッシュ・・!」
「うんっ!」
“yes, sir.”
フェイトの声にアルフとバルディッシュが答える。金色の宝石が戦斧へと形を変え、フェイトも黒いバリアジャケットを身にまとう。
黄色の鎧に向けて、フェイトが左手をかざして砲撃の準備をする。
「サンダースマッシャー!」
稲妻を帯びた光弾を鎧に向けて放つフェイト。だが鎧に直撃した光弾は突然フェイトに向けてはね返る。
「えっ・・!?」
一瞬驚きを見せるフェイトとアルフ。とっさにフェイトは回避行動を取り、光弾から逃れる。
“Photon Lancer.”
「ファイヤー!」
続けざまにフェイトが槍状の魔法弾を連射する。だがこれも鎧に当たった瞬間にはね返る。
「もしかして、砲撃魔法を鏡のようにはね返してしまうんじゃ・・!?」
「だったら直接攻撃で!」
フェイトが眼を見開いた瞬間に、アルフが鎧に飛びかかる。バリアブレイクの効果を備えて、鎧に拳を叩き込む。
だが鎧はわずかに怯んだだけで、魔法反射の効果が消えた様子は見られない。
「バリアじゃない!?鎧そのものの性質だっていうの・・!?」
驚愕を覚えるアルフが、鎧の振りかざした拳に突き飛ばされる。
“Scythe form.Set up.”
フェイトは毒づきながらも、湾曲の鎌を成したバルディッシュを構えて鎧に飛びかかる。しかし振り下ろされた光刃を受けても、鎧は傷ひとつ付かない。
魔法反射装甲と強度を備えた鎧を前に、フェイトとアルフは打開の糸口を必死に探っていた。
フェイトちゃんは接近戦に長けていて、長距離における戦術も備えている。攻撃性もインテリジェンスデバイスの中でも指折り。だから長距離砲撃に対しては反射装甲で対応し、さらに防御力、耐久力を強めれば、彼女は対処法を失う。
大胆不敵な青い鎧の動きに悪戦苦闘のクロノ。だが従来の戦術をいったん切り捨てた彼は、その危機的状況を打破しつつあった。
「たしまに最初は驚かされた。だがそのような単純な攻撃は、僕には決して通用しない!」
“Blaze Cannon.”
言い放ったクロノが鎧に向けて砲撃を繰り出すが、鎧はこれをも回避する。だがこれはけん制の手段に過ぎなかった。
その間に鎧の背後に回ったクロノ。その胴体に触れて、魔法発動に備える。
「これで終わりだ・・ブレイクインパルス!」
鎧の固有振動数に合わせて発動したクロノの振動波で、鎧が初めて大きく揺さぶられる。そして鎧は内部崩壊同然に粉砕する。
それぞれの魔導師たちの戦術を分析、対応したプログラムを導入していた鎧の1体だったが、クロノはこれを辛くも打ち破った。
「すごいね、あなた。なのはのお友達だからかな・・」
そのとき、クロノは突然声をかけられて振り返る。その先には漆黒のバリアジャケットを身にまとった白髪の少女がいた。
「君は、ジャンヌ・フォルシア!」
クロノがS2Uをジャンヌに向けて構える。だがその先にジャンヌの姿がない。
瞬間移動同然の転移を行った彼女の行方を追い、クロノが振り返る。だがその瞬間、ジャンヌがデッドリーソウルを駆使して彼に魔力を放っていた。
「は、速い・・!?」
捉えきれないその速さと魔法の発動に驚愕するクロノ。ジャンヌの魔法を受けて、彼の両足から体が徐々に色を失っていく。
「クロノ・ハラオウン・・アンナから聞いてるよ。成績優秀で、この年で執務官を務めてるってね。でもいくらすごくても、ジャンヌの時間凍結は打ち破れないよ。」
そこへカッツェが姿を見せ、クロノに呼びかける。必死に魔力を放出して抗うクロノだが、時間凍結は彼の魔力を受け付けず、体を蝕んでいく。
「あなたはなのはのお友達・・だから一緒にいよう・・・」
微笑みかけるジャンヌの前で、抵抗を見せていたクロノがついに脱力する。時間凍結の効力で、彼は全身の色を失い、棒立ちのまま動かなくなった。
「これで後は2人・・いいえ、4人ね。」
「うん・・行こう、カッツェ・・」
カッツェの呟きにジャンヌが小さく頷く。微動だにしなくなったクロノを残して、2人は広場を後にした。
次回予告
私に笑顔と生きる勇気を与えてくれた女の子。
私にとってかけがえのない大切な思い。
だから私の手で、あの子を助けたい。
それが今の私の願い。
あの子に続くこの道を、私は真っ直ぐに進む。
リリカルマジカル、今すぐ行くから・・・!