魔法少女リリカルなのは -LightDark-

第10話「止まる時間」

 

 

 なのはとユーノの前に現れた少女、ジャンヌ。ジャンヌは困惑しているなのはを見つめて微笑んでいた。

「なのは、私と一緒に行こう。私とずっと一緒にいよう。」

「な、何を言って・・・!?

 戸惑うなのはの前で、ジャンヌは漆黒の宝玉を取り出した。

「ジャンヌ、今回は挨拶だけにしておこうよ。機会はいくらでもあるから。」

 すると彼女の肩にいた黒猫が呼びかけてきた。

「でも、私のほうもちゃんと挨拶しておかないとね。」

 ジャンヌが頷いたのを見てから飛び降りた黒猫が光りだした。姿かたちを変えた黒猫はバリアジャケットを身にまとった黒髪の女性となった。だが彼女の頭からは猫耳が、尻からは尻尾が出ていた。

「お前は、使い魔・・・!?

 驚きを見せるユーノに、女性は微笑みかけて答える。

「はじめまして。私はカッツェ。よろしくね♪」

 女性、カッツェが満面の笑みを浮かべながら答える。

「さて、ちょっとだけ見せてもらっちゃおうかな。なのはちゃんの魔法の力を。」

 カッツェが大きく跳躍して、なのはに向かって飛びかかる。レイジングハートを起動しようと試みるも、彼女の動きのほうが速い。

 そのとき、なのはたちを心配したライムが駆けつけ、突き出されたカッツェの右手をクリスレイサーで受け止めた。

「なっ・・!?

 ライムの乱入に驚きを見せるカッツェ。後退してジャンヌの横に並ぶ。

「なのはちゃん、大丈夫!?

「ラ、ライムちゃん・・どうして・・・!?

「みんな心配してたからね。僕たちが様子を見に来たってわけ。」

 当惑するなのはにライムが微笑んで答える。視線を移したなのはは、背中に翼を生やしたラークを見つける。

「ラーク、なのはちゃんとユーノを任せたよ!」

「うんっ!任せて、ライム!」

 ライムの指示を受けて、ラークが笑顔で頷く。ライムはスタンダードモードのクリスレイサーを構えて、ジャンヌとカッツェを見据える。

「ライム、どういうことなの!?アンタがなのはたちと一緒にいるなんて・・!」

「アンナさんには悪いと思うけど、僕は決めたんだ。なのはちゃんを、僕の友達を守るって・・!」

 ライムの決意を耳にして、カッツェは笑みを取り戻した。

「そう・・それならそれで構わないよ。私もジャンヌもアンナも。でもなのはの味方になるってことは、私たちの敵ってことになるんだよ。」

「覚悟の上だよ。できれば君たちと戦いたくはないけど、君たちがその気なら、僕は・・・!」

Launcher mode.”

 ランチャーモードに変形したクリスレイサーをジャンヌたちに向けるライム。彼女の決意を目の当たりにしたカッツェは、改めて笑みをこぼす。

「分かったよ。だったらライム、久しぶりに私と勝負してみようか!」

 その決意を受け入れたカッツェが再び姿を変える。小動物が獰猛になった黒い巨獣の姿に。

 カッツェがライムに向かって飛びかかり、獣の爪を振りかざす。ライムが魔法の弾丸を撃ち込むと、カッツェは横に飛びのく。

 何発か砲撃を撃ち込んでから、ライムは回避を続けるカッツェに飛びかかる。

Blade mode.”

 クリスレイサーから出現させた光刃を振り下ろすライム。これをカッツェは素早く軽やかな動きでこれもかわす。

「なのはちゃん、戦うんだ!」

 ライムの呼びかけを受けて戸惑いを見せるも、なのはは落ち着きを取り戻して紅い宝玉を取り出す。

「レイジングハート、お願い!」

stand by ready.set up.”

 なのはの呼びかけを受けてレイジングハートが呼応する。宝玉は杖へと変形し、なのはの体を白いバリアジャケットが包み込む。

Shooting mode.”

 砲撃形態となったレイジングハートを構えるなのはの横に、後退してきたライムが並ぶ。

「カッツェは動きが速く身軽だ。僕が動ける範囲を狭めるから、なのはちゃんはそこを狙って。」

 ライムの指示になのはは頷く。それを確認したライムは、再びカッツェに向かっていった。

 クリスレイサーを振りかざして、回避を続けるカッツェの動きを見定める。

Launcher mode.”

 そして砲撃形態へと変形したクリスレイサーをカッツェに向ける。

「クリスタル・レイ!」

crystal ray.”

 ライムのかけ声とクリスレイサーの音声の直後、出現した氷の刃の群れがカッツェに向けて放たれる。その集中攻撃を、カッツェは防御でしのごうとする。

「今だよ、なのはちゃん!」

「うんっ!行くよ、レイジングハート!」

All right, my master!”

 なのはの呼びかけにレイジングハートが答える。動きを止めているカッツェに狙いを定める。

「ディバインバスター!」

 レイジングハートから高出力の魔法の閃光が解き放たれる。氷の刃を振り払ったカッツェが、その魔力の強大さに眼を見開く。

 とっさにかわそうとするが、閃光の勢いは速く、防御と受け流しを余儀なくされた。何とか砲撃からの回避に成功するも、彼女の手が焼け付いていた。

「アチチチチ!熱い!熱いし痛い!」

 人間の姿になったカッツェが、必死に手に息を吹きかけて冷まそうとしていた。やっとのことで手を冷ますと、彼女はジャンヌに駆け寄った。

「ジャンヌ、すごいよ、なのはちゃんの魔法。まともに受けてたら、私もヤバかったよ〜・・」

「それじゃそろそろ帰ろう。なのは、また会いに来るからね。」

 カッツェ、そしてなのはたちに微笑みかけると、ジャンヌは振り返って立ち去っていく。

「ライム、ラーク、アンタたちのことは、アンナに言っておくからね。」

 カッツェもライムたちに呼びかけてから、なのはたちの前から姿を消した。戦いが終わり、なのはとライムがバリアジャケットを解除する。

「なのはちゃん、大丈夫?」

「うん。ありがとう、ライムちゃん。」

 なのはが微笑んで答えると、ライムも笑顔で頷く。

「でも、この板、いったい・・・」

 なのはが宙に浮いている灰色の板に再び手を伸ばした。するとライムが深刻な面持ちを浮かべる。

「時間凍結が・・完成したんだよ・・・」

「えっ・・!?

 ライムの言葉になのはとユーノが驚く。

「それじゃ、あの子が・・・!?

 なのはの言葉にライムは頷く。

「ジャンヌ・フォルシア・・地のデバイス“デッドリーソウル”を持つ魔導師だよ・・」

 ライムの言葉に、なのはとユーノは動揺を隠せなかった。時間凍結を使用する魔法少女、ジャンヌが海鳴市にて行動を開始したのだった。

 

 なのはたちと会い、ライムとも交戦してきたジャンヌとカッツェは、アンナのいる研究所に戻ってきていた。そこでアンナは、ライムがなのはの味方になったことを聞かされる。

「そう・・なのはちゃんと分かり合えたのか・・私は構わないんだけどね。」

 驚いた様子を見せないアンナに、逆にカッツェが驚く。

「ところでジャンヌ、なのはちゃんと会ってみてどうだった?」

 アンナが問いかけると、ジャンヌは微笑んで答える。

「光を持ってるよ・・絶対ほしい・・・」

「それじゃ、私にも会わせてほしいかな・・ジャンヌが好きな子なんだ。私も・・・」

 アンナがなのはの姿を思い返して歓喜に湧く。彼女はかわいい子にたまらない衝動を覚える癖を持っているのだ。

 ジャンヌが呆然と、カッツェが唖然となっているのに気付いて、アンナは真剣な面持ちになる。

「そろそろ管理局にここを気付かれそうだから、研究データだけを持って私はここを放棄する。」

「分かった。私はなのはを連れてくるから。」

 アンナの言葉にジャンヌは頷く。

「あと、できればユーノって子も連れてきてもらいたいなぁ。人間のときもフェレットのときもかわいくてね。」

「うん。できたら連れてくる。」

 喜びに舞うアンナに微笑んでから、ジャンヌはカッツェとともに研究所を後にした。アンナも次元研究に関するデータを収集後、この研究所を放棄した。

 

 一方、アースラはようやくアンナの正確な居場所の特定に成功した。

「転移装置、座標設定完了です。」

 エイミィが報告すると、リンディとクロノは頷く。

「エイミィ、ここはあなたに任せます。クロノ、行きますよ。」

「艦長が行くことはないと思いますが。ここは僕が・・」

 クロノが言いかけるが、リンディは首を横に振る。

「これは私たち時空管理局の任務であり、私個人の任務でもあるのです。」

「・・アンナさん、ですか・・・」

 リンディの言葉にクロノはこれ以上言葉を返せなかった。2人はアンナの身柄を押さえるべく、彼女の研究所に向かった。

 

 ライムとラークに連れられて月村家に戻ってきたなのはとユーノ。その後、小さな雑談を行い、なのはたちは高町家に送られた。

 送ってくれた鮫島に感謝の意を示して見送るなのはたち。彼女たちは家に入ると、桃子がリビングから姿を見せてきた。

「あら。おかえりなさい、なのは、ライムちゃん、ひばりちゃん。」

「ただいま、桃子さん。」

 笑顔を見せる桃子に挨拶を返すライム。彼女が淀んでいた心に安らぎが戻ってきていると感じて、桃子は安堵していた。

 ライムは桃子となのはに眼を向けると、小さく笑みをこぼした。

「家族や友達ってすごい・・今になって思い出されたって感じがしてる・・・」

 ライムの言葉になのはと桃子がきょとんとなる。

「みんな僕たちに優しく接してくれるし、なのはちゃんも僕の悩みとかに真剣に向き合ってくれて・・桃子さんも士郎さんも、ホントの家族みたいで・・・」

 おもむろに微笑みかけて友情や愛情の喜びをかみ締めるライム。すると桃子が彼女を優しく抱きとめた。

 突然のことに戸惑い、頬を赤らめるライム。

「私でよかったら、母さんって呼んでもいいのよ。」

「桃子さん・・・」

 桃子の言葉にライムはさらに戸惑う。ここまで自分を気遣ってくれる人を、彼女はまるで本物の母親であるような感覚を覚え始めていた。

「母さん・・・母さん!」

 ライムは桃子にすがりつき、泣き始めた。今まで抑え付けていた母親に対する思いが、桃子に対してあふれ出したのである。

「ひばりちゃんも、私のところにおいで・・」

「桃子さん・・ひばりも、いいんだよね・・・」

 ラークが問いかけると、桃子は同様に微笑みかける。それを受けてラークも桃子にすがりついた。

 ラークは人としての母親の愛情を体感していない。だがこのぬくもりと思いを受けての喜びと親しみは本物だった。

 桃子の腕の中で泣きじゃくるライムとラーク。母親の愛情を受ける姉妹の姿に、なのはとユーノも微笑みかけていた。

 

 それからなのは、ライム、ラークは3人で入浴を始める。お風呂に入るなのはの横で、ライムがラークの髪を洗うのを手伝っていた。眼に染みないよう、ラークは眼をつむっていた。

「ありがとう、なのはちゃん・・・なのはちゃんやみんなのおかげで、僕の中にあったもやもやが一気に晴れた気がするよ・・」

「ライムちゃん・・・よかった・・ライムちゃんが元気になって・・・」

 ライムの囁きになのはが微笑む。親友の悲しみが和らいで、安堵を感じていたのだ。

「みんな、優しく楽しい人たちばかりで・・僕はそんな人たちを守りたい。大切にしていきたい・・・」

「ライムちゃんなら、フェイトちゃんとも仲良くなれるよ・・・」

 ラークの髪を洗い終えたところでのなのはの言葉に、ライムの表情が曇る。

「確かに仲良くなりたい・・フェイトとも、管理局のみんなとも・・・でも、僕の中にある気持ちが、それを否定するんだ・・・」

「ライムちゃん・・・」

 ライムの言葉に、今度はなのはが沈痛の面持ちを見せる。

「僕の母さんが傷ついたこと・・その事実がみんなを認めようとしないんだ・・・」

「・・・でも、きっとライムちゃんは、みんなのことを大切にしているよ。」

「えっ・・」

 微笑みかけるなのはに、ライムは当惑する。するとラークが満面の笑みを浮かべて、

「そうだよ。フェイトもアルフも、アースラのみんなもラークに優しくしてくれたよ。なのはお姉ちゃんのお友達なら、信じても大丈夫だよ。」

 そういうとラークがなのはに飛びついてきた。突然のことになのはが慌て、浴槽の湯が舞い上がる。

「ち、ちょっとひばりちゃん!?

「お、おい、ラーク!いきなり・・!?

 ライムが慌ててラークをなのはから引き離す。驚きの顔を浮かべたなのはの前で、ラークは笑顔を見せていた。

「ラーク、ビックリしちゃうじゃないか!いくら嬉しいからって・・・」

 ライムがあきれ果てるが、ラークは笑顔を絶やさなかった。唖然となっているなのはに振り向いて、ライムは語りかけた。

「僕はみんなを認めている。管理局が僕たちを犯罪者にするならそれでもいい。でも僕は管理局に捕まる気はないよ。」

 ライムの言葉になのはが困惑を浮かべる。物悲しい笑みを浮かべて、ライムは決意を口にする。

「もう少し、自分自身を見つめなおしてみたいんだ・・・」

 ライムの心境を知って、なのはは唐突に笑みをこぼした。だが管理局の反応を気にして、彼女は素直に喜ぶことができなかった。

「ところで、ユーノは入らないのかい?」

「えっ?・・ユーノくんは男の子だから・・」

 ライムの唐突な問いかけになのはが笑みを作って答える。風呂場の前の脱衣所で、フェレット姿のユーノが赤面していた。

 

 その翌日も、フェイトとアルフは病院を訪れ、ライムの母親の見舞いに来ていた。実の娘であるライムでも記憶を取り戻せなかった母親が、フェイトに対して心を開き始めていたことに、医師たちは喜びと同時に困惑を感じていた。

「ありがとう、フェイトちゃん。今日も私のために・・・」

「いいんです。私がそうしたいだけですから・・・」

 すまなそうな面持ちを見せる母親に、フェイトは微笑んで答える。

「不思議・・フェイトちゃんがいろいろ私の世話をしてくれるから、何だか気持ちがよくなって・・・」

 微笑む母親の眼からうっすらと涙が流れてくる。それを目の当たりにしたフェイトが優しく語りかける。

「みんな、何かを怖がったり眼をそむけたりしています。でも、その怖さと向き合い、一歩でも前に進むことが、生きていくことだと思います・・」

「一歩でも前に・・・そうかもしれないわね・・・」

 フェイトの切実な思いに母親は微笑んで頷く。そしておもむろに窓から外を見つめる。

 その先には穏やかに波が流れている海辺があった。その光景を眼にして、母親は眼を見開く。失ってしまったものが手元に戻ってきたような感覚を彼女は感じていたのだ。

 そしてその海辺に2人の少女を見かけ、母親はさらに当惑する。眼を向けたフェイトもその2人、ライムとラークを確認して戸惑いを感じていた。

 

 アンナの居場所を察知したアースラ。艦長であるリンディが直接研究所に赴き、クロノも同行していた。

 罠や奇襲を考慮して細心の注意を払いながら、2人は研究所に足を踏み入れた。眼につくいくつかの部屋の中には、次元研究に関する書類やファイルが置かれていた。

「管理局を追放されても、研究は続けていたようですね。」

「彼女は意志の強い人でしたから。でも・・・」

 クロノの言葉にリンディが答える。2人が周囲をうかがうが、アンナの姿も他の人影もない。

「それほど広い研究所ではない。おそらくはもう・・」

 クロノの呟きにリンディは頷く。アンナは必要な研究データを持って、この研究所を放棄したのだ。

「この場での彼女の身柄は確保できませんでしたが、事件の参考となる資料はいくつかあるようです。すぐに分析を。」

「はい。」

 リンディの指示にクロノが頷く。そしてさらなる手がかりを求めて、2人は研究所内を詮索する。そしてクロノは、研究室のレコーダーにソフトが差し込まれたままになっているのを発見する。」

「艦長、レコーダーが残っていました。」

 クロノの報告にリンディが駆け寄る。彼女は慎重に確認すると、レコーダーのスイッチを入れる。

 すると眼前のモニターにアンナの姿が映し出される。レコーダーに収められている映像である。

“お久しぶりです、先輩。いえ、リンディ・ハラオウン提督とお呼びしたほうがいいですね。”

 モニター内のアンナが微笑を浮かべて語りかけてくる。

“私の研究が次元犯罪につながるということは私も覚悟しています。それでも私は私の、みなさんの夢の実現のため、研究を続けることを決意してきました。そしてついに私は、次元操作の境地にたどり着くことができました。デバイスとジュエルシードの完全な融合によって。”

 アンナの言葉にリンディとクロノは驚愕する。指定遺失物とされ、「願いが叶う宝石」とも呼ばれているジュエルシードとデバイスの融合が危険極まりない行為であることは2人の取っては明白なことだった。

“しかし私が作り上げたそのデバイスの効果の完成は、さらに時間を費やした。そしてその力は1人の少女に完全に委ねられている状態にある。”

 さらに続けるアンナの言葉にリンディもクロノも固唾を呑む。アンナが口にした少女とはライムではない。彼女の持つクリスレイサーからは、ジュエルシードの反応はなかった。

“もはやその力は私の制御を受け付けず、彼女と一体化している。止めようというのならそれも構わない。しかしあなたたちの力でも彼女を止めることはできないでしょう。それは魔力のレベルの問題ではない。”

「ど、どういうことなんだ・・・!?

 アンナの言葉にクロノが声を荒げる。

“地のデバイス、デッドリーソウルを手にした少女、ジャンヌは時間、次元、空間を操る。ジャンヌだけが時の流れから自由であり、その束縛を受けない。”

 この言葉に、リンディとクロノはかつてない危機感を覚えた。

 

 この日の学校の授業が終わり、帰路についたなのはは、広場にて午後の魔法の練習を始めようとしていた。塾もなかったこともあり、ライムの見舞いに付き合おうと思ったが、心に区切りを付けたいというライムの思いを尊重し、ついていかないことにしたのだ。

 ライムとフェイトを気にかけながらも、なのははこの日も練習に励むことにした。

 そのとき、なのはとユーノは強烈な魔力の気配を感じ取った。

「ユーノくん、この感じ・・!?

 声を荒げるなのは、頷くユーノの前に、白髪の少女、ジャンヌが姿を現した。彼女の肩には黒猫の姿のカッツェがいた。

「なのは、私はあなたの全部がほしい・・あなたの魔法も、心も・・・」

 ジャンヌがなのはに微笑みかけると、漆黒ながらも輝きを宿している宝石を取り出した。

「デバイス・・・!?

 驚愕するユーノの前で、ジャンヌは宝石を掲げた。

「起きて、デッドリーソウル。」

yes, sir.”

 彼女の呼びかけを受けて宝石が答える。デッドリーソウルが杖へと形を変えるが、彼女の服装に変化はない。この服装が彼女のバリアジャケットなのだ。

 ジャンヌがデッドリーソウルを、困惑しているなのはに向ける。

「なのは、あなたの力を、私に見せて。」

「なのは、レイジングハートを!この子、普通の魔導師じゃなさそうだよ!」

 ジャンヌの言葉の後、ユーノは人間の姿になる。魔力消費を抑えるためにフェレットの姿となっていたが、力を抑えてなのはを補助できる相手ではないことは彼は薄々感づいていた。

 彼の言葉を耳にして、なのはも戦うことを心に決める。

「レイジングハート、お願い!」

stand by ready.set up.”

 なのはの呼びかけを受けてレイジングハートが呼応する。宝玉は杖へと変形し、なのはも白いバリアジャケットを身にまとう。

Shooting mode.”

 砲撃型へと変形するレイジングハートを構え、なのはがジャンヌに狙いを定める。詠唱に時間をかけているが、ジャンヌもカッツェもその間に攻撃を加えようとしない。

「ケガしないように調整するから・・・ディバインバスター!」

 気を遣いながらも、なのははジャンヌに向けて全力の魔法砲撃を放つ。しかしカッツェがジャンヌの肩から飛び降りて離れていくだけで、ジャンヌ自身は動こうとしない。

 ジャンヌはゆっくりとデッドリーソウルをかざし、意識を傾ける。その瞬間、彼女の前方に歪みが生じ、閃光を吸い込み消失させる。

「えっ!?

 その光景になのはと驚愕する。全力の砲撃が簡単に無力化されたことに動揺を隠せなかった。

「デス・クロノス。」

Death Chrnos.”

 ジャンヌとデッドリーソウルが声を発すると、なのはに向けて魔法が発動される。それは眼に見えず、音波のような衝撃だった。

 レイジングハートが自己判断で防壁魔法を発動するが、ジャンヌの魔法はその防壁に阻まれない。とっさに両手をかざして身を守ろうとするなのは。

 距離を置いて反撃に転じようとしたなのはだが、足が鉛のように重く思うように動かなくなる。

 足元に眼を向けると、両足が変色していた。石とも金属とも取れるものへの変質になのははさらなる驚愕を覚える。

「こ、これって・・!?

「時間、凍結・・・!?

 同様に驚きを覚えていたユーノが、魔法の効果に気付く。ここ最近起こっていた事件で使用されている時間凍結の効果である。

「なのは、危ない!」

 ユーノがなのはに駆け寄ろうとするが、巨獣に姿を変えたカッツェが彼に向けて超音波を発する。その衝撃にユーノは足を止め、苦痛に顔を歪める。

「私となのはの邪魔をしないで。」

 ジャンヌがなのはに向けていたデッドリーソウルを、動きを止めたユーノに向ける。時間凍結が彼の体を蝕み始める。

「ユーノくん!」

 叫ぶなのはの前で、ユーノの体が両足から徐々に色を失くしていく。止められていく自分の体に、ユーノは動揺をあらわにしていた。

「僕たちの防御魔法を・・全然受け付けない・・・!?

 愕然となるユーノにかけられていく時間凍結は、彼の両手の先まで及び首筋にまで達する。

「なのは・・僕は・・・」

「ユーノくん!」

 弱々しく声をかけた直後、ユーノは完全に固められてしまった。なのはがたまらず叫ぶが、ユーノは全く反応しない。

「次はなのはの番だよ。」

 ジャンヌはデッドリーソウルを再びなのはに向ける。両足で止まっていた時間凍結が、なのはをさらに蝕み、下半身を包み込む。

 なのはとレイジングハートが必死に魔法で時間凍結を防ごうとするが、体の侵食はそれを受け付けない。

「ムダだよ。ジャンヌの魔法は、他の魔法と根本的に違うからね。」

 動揺を見せているなのはに、カッツェが微笑んで語りかける。上半身に時間凍結が及んでいるなのはに、ジャンヌが寄り添って笑みをこぼす。

「なのは、これからはずっと一緒だね・・・」

 微笑む白髪の少女の前で、なのはは次第に意識が失いつつあった。ジャンヌの笑顔が次第にぼやけてくる。

(ユーノくん・・・フェイトちゃん・・ライムちゃん・・・)

 親友への想いを抱えたまま、なのはは意識を失った。

「ウフフフ。これでずっと一緒だよ、なのは・・・」

 完全に固まったなのはを見つめて、ジャンヌが満面の笑みを浮かべる。

「ジャンヌ、このフェレットの子はどうするの?」

 カッツェがジャンヌに訊ね、同様に固まって立ち尽くしているユーノに眼を向ける。

「連れて行こう。アンナが会いたがってたからね。」

「分かったよ。それじゃ戻ろう。」

 カッツェの返事にジャンヌは頷き、空間転移の魔法を発動させた。次元や空間の範囲での転移を可能としているのはジャンヌだけであり、時間を止められているものを転移させるにはその空間ごと転移させる必要があるのだ。

 闇のデバイスの魔法で時間を止められたなのはとユーノは、ジャンヌとカッツェに連れ去られた。

 

 

次回予告

 

やっと見つけた絆だった。

やっと気付いた思いだった。

だからもう失いたくはない。

取られたものを取り戻すために戦う。

それがみんなのためになるなら・・・

 

次回・第11話「新世代へ」

 

リリカルマジカル、助けてみせる!

 

 

作品集

 

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