魔法少女リリカルなのは -LightDark-

第7話「それぞれの決意と心なの」

 

 

 全ての記憶を失くした母さん。僕はどうしたらいいのか分からなかった。

 混乱していた僕は、思い出の海辺に来ていた。僕のそのときの気持ちと違って、落ち着いた波だった。

 そんな僕の眼に、弱って落ちてくる小さな小鳥が映った。小鳥は僕の前に落下してきた。ひどく疲れていたが、それでも飛ぼうと必死になっていた。

(この子、辛そうなのに・・それでも頑張って飛ぼうとしてる・・・)

 そんな小鳥の姿に、僕は勇気付けられた。僕はその小鳥を抱えて、あの人のところに行った。

 するとその人は、その小鳥を治してくれた。僕の使い魔として。

 形としては「使い魔」だけど、僕はその子を「妹」として接するようにした。するとこの子は僕に笑顔を見せてくれた。

 その笑顔が、僕の壊れかけていた心を癒してくれた。

 それが僕とラークの出会いだった。

 

 医務室からの脱出に成功し、転移所にたどり着いたものの、アースラの武装局員に囲まれたライムとラーク。局員たちの前に出て、2人を見据えるなのは、フェイト、ユーノ、リンディ、クロノ。

「小室ライムさん、これ以上罪を重ねるのはやめなさい。もしも私たちに身柄を預けるのであれば、あなた方の身の安全を保障します。」

「身の安全?・・ふざけないでよ!」

 リンディの呼びかけに対し、ライムは憤慨して一蹴する。

「僕たち家族がムチャクチャになったのは、あなたたち時空管理局にも責任があるんだよ!」

「僕たちの、責任・・!?

 ライムの言葉に眼を見開くクロノ。

「あなたたちがテスタロッサを早く管理下に置いていたら、僕の母さんがあんなことにならずに済んだんだ!」

「違う!時空管理局は君が考えているような非情な集団じゃない!次元犯罪や次元災害の被害者を、僕たちは保護して・・」

「勝手を言うな!あなたたちは僕たちに何もしてくれないじゃないか!僕は、あなたたち管理局を信じない!何もしないあなたたちに頼るくらいなら、僕は・・!」

 いきり立ったライムが愛杖を振りかざすと、局員たちが身構える。冷気を振りまいてなのはたちを怯ませると、ライムは大きく飛び上がってアースラの包囲網を飛び越える。

 だが、クロノはS2Uを振るい、ライムの逃走を阻もうとする。そこへラークが羽根の矢をクロノに向けて放ってきた。

 羽根の矢の1本が頬をかすめ、クロノが怯む。それに気付いたライムが、着地と同時に彼に向けて魔力を放つ。

 怯んだところに魔力の直撃を受け、クロノが氷塊に閉じ込められる。それを見てラークが笑みをこぼす。

 だがそこへ局員が飛び込み、ラークは取り押さえられる。

「ラーク!」

「ライム・・ラークに構わず逃げて!」

 駆け寄ろうとしたライムをラークが呼び止める。

「でも、ラーク・・!」

「ライムまで捕まっちゃったら、何もかも終わっちゃうよ!だからライムだけでも!」

 ライムを逃がそうとするラーク。やるせない思いに駆られながらも、ライムは振り返り、転移所を飛び出した。

 だが、廊下に出た彼女の前に、アルフと他の局員たちが待ち構えていた。毒づく彼女の後方にも、なのはたちが沈痛の面持ちで駆け込んできていた。

「ライム、お願いだからこれ以上こんなことをするのはやめて!みんな辛くなっちゃうよ!」

「そうはいかないよ!母さんのために、ラークのために、僕はここで捕まるわけにはいかないんだ!」

 悲痛の声をかけるアルフの言葉をライムが一蹴する。

「ライムちゃん、私からもお願い!ライムちゃんのこと、誰も悪く思ってないから!」

「ダメだ!フェイトを倒すことしか、僕に先はないんだ!」

 なのはの言葉さえ聞かず、ライムは周囲の人間と敵対しようとする。

 そのとき、アースラの艦体が突然揺れだし、全員が怯む。同時に窓の先の異空間に異質の穴が出現した。

「あれは・・!?

 声を荒げるリンディの目先でライムが思い立ち、窓に向かって飛び込んだ。彼女は窓を突き破り、そのまま穴の中に入り込んでいった。

「ライムちゃん!」

 なのはがライムを追って窓に駆け寄るが、穴は小さくなり消失する。穴の中へと姿を消したライムに対し、彼女は戸惑いを感じていた。

 

 突如出現した次元の穴に飛び込んだライム。その穴を開けたのが何者なのか予測が付いていたので、彼女は躊躇なく穴に飛び込んだのだった。

 彼女が行き着いたのは、アースラとは別の転移所だった。

「いたたた・・危ないところだったよ・・・」

「全くだよ。私がゲートを開かなかったら、君は管理局に捕まってたところだよ。」

 頭に手を当てて痛がっていたライムに、1人の女性が声をかけてきた。

 赤茶色のかすかにはねっ毛の見られるショートヘア。女性としては高めの背丈に、整った体と顔つき。彼女の名はアンナ・マリオンハイト。

「まぁ、時空世界にトンネル作った私もけっこうムチャなことしたかな。」

 苦笑いを浮かべるアンナに、ライムも小さく笑みをこぼした。しかしその微笑みがすぐに消える。

「僕のために、ラークが管理局に・・・」

 後悔の言葉を呟くライムに、アンナも深刻な面持ちを浮かべる。

「とうとう管理局が介入してきたか。まぁ、こんだけ大掛かりなことをすれば、気付かれるのは当然かな。それにしても、まさかアースラがやってくるとはね。運命のいたずらってヤツかな。」

「アンナさん、あの船のこと、知ってるんですか?」

 再び苦笑するアンナに、ライムが疑問を投げかける。

「わけありの船でね。特にそこの艦長さんには。」

 意味深な笑みを浮かべるアンナを前にして、ライムは疑問符を浮かべるばかりだった。

「ここで立ち話もなんだから、こっちに来て。体も休めないと。」

 アンナはライムに促して歩き出した。腑に落ちない面持ちを見せるも、ライムはアンナに従うことにした。

 すぐにでもフェイトを倒しに行くか、ラークを助けに行くかしたかったが、いずれにしても体力、魔力が全快していない状態で行うのは酷だということは彼女自身分かっていたことだった。

「ところで、ジャンヌは?」

「ジャンヌなら出かけてて、まだ戻ってきてないよ。あ、それでいい報告があるんだ。」

 ライムの問いかけに答え、アンナが喜びを浮かべる振り向く。

「私の研究、やっと完成したよ。」

 アンナの言葉にライムは息を呑んだ。たどり着いた研究室で、アンナはコンピューターの電源を入れ、モニターを起動させる。

 そこに映し出されたのは、灰色の街だった。その光景にライムは再び息を呑んだ。

「私の成果・・なかなか実を結ばなかったけど、やっとのことで完全なものとなったよ。」

「へぇ。よかったですね、アンナさん。」

 満足げなアンナに、ライムは微笑んで頷く。

「これで私が長年かけて続けてきた研究が、1つの終着点にたどり着いた。でも私はもっと次元研究を続けていくつもりだよ。」

「研究熱心だね、アンナさんは。僕も感心しちゃうよ・・」

 しかしライムの喜びが作り笑顔であることに気付き、アンナは違う意味の笑みを見せた。

「自分のしたいこと、やらなくちゃいけないことをしようと考えてるね?」

「うん・・母さんをあんなにしたフェイトを倒し、管理局に捕まってるラークを助け出す・・・!」

 決意を告げるライムに、アンナは微笑んで頷く。

「だったら、君の自由にやるといいよ。君の気が済むように、後悔がないように。でも、今は休んでおくんだ。君もクリスレイサーも、ずい分疲れきってるから・・次の戦いに備えて・・・」

「・・・はい・・」

 アンナの言葉にライムは頷いた。

 

 ライムたちの逃走で、アースラ艦内は一部破損した箇所が見られた。しかしさほど被害は大きくなく、運行に支障はなかった。

 ライムによって凍らされていたクロノも、アルフのバリアブレイクによって助けられた。訓練されている彼は、軽い体力の消費だけで済んでいた。

 作戦室ではエイミィが、ライムが飛び込んだ次元トンネルの行く先を捜索していた。電話回線のように、トンネルの発動地点を逆探知しようとしていた。

 ライムの代わりに捕まったラークは、ライムとは別の医務室に運ばれていた。眠りについている彼女のそばには、なのは、ユーノ、フェイト、アルフの姿があった。

「ライムちゃん、大丈夫かな・・・?」

 突然なのはが沈痛の面持ちでライムへの心配の言葉を囁く。

「分からない・・でも、このアースラの位置を特定して次元トンネルをつなげてくるなんて・・彼女の後ろに、かなりの階級の魔導師がいるはずだよ・・・」

 その心配に答えながらも、ユーノはこの出来事の裏にいる人物に対して思いつめていた。フェイトもアルフも、ライムのことが気がかりで仕方がなかった。

 しばらく時間を費やしていると、ラークが意識を取り戻した。ゆっくりと開けた彼女の眼に、微笑みかけてくるなのはたちの顔が映ってきた。

「ひばりちゃん・・よかった。気が付いたんだね・・・」

 なのはの声を受けて体を起こすラーク。周囲をうかがい、彼女は自分がアースラの医務室にいることを理解する。

「気が付いたようですね。」

 そのとき、医務室に入ってきたリンディがラークに声をかけてきた。

「あなたはあの後気絶してしまって、ここに運んできたのです。ライムさんを助けるために、あなたも無理をしてきたようですね。」

 微笑むリンディの言葉に、ラークは照れ笑いを見せる。ところがリンディは笑みを消して、真剣に話を聞く。

「ライムさんが使っていたデバイス。誰が彼女に託したのですか?」

 その質問になのはたちも緊迫を覚える。ラークは少し戸惑いを見せてから答える。

「その人はラークを使い魔として助けてくれた人で、すごく頭のいい人だよ・・・」

「その人の名前は・・・?」

「・・・アンナ・・・アンナ・マリオンハイトだよ・・」

 ラークの答えにリンディが眼を見開く。彼女はアンナのことを知っていたのだ。

「アンナが、ライムさんにクリスレイサーを託したのですか・・・!?

 リンディの問いかけにラークは小さく頷く。

「知っているんですか、リンディさん?」

 疑問を投げかけるなのはにリンディは頷く。

「向こうでお話しましょう。みなさんにもお伝えしたほうがいいでしょう・・・」

 リンディの言葉になのはたちは頷いた。ラークもユーノに支えられながら、医務室を後にした。

 

「艦長・・」

 作戦室にやってきたリンディたちにクロノが振り返る。エイミィも捜索を行っている手を休めて、リンディたちに振り向く。

「艦長、次元トンネルの発生源が特定できました!」

 エイミィがリンディに向けて報告を述べる。

「発生源は管理局と同種の転移システムを活用しています。ですがこのエネルギーは、管理局のどの転移システムにも帰属していません。」

「そうですか・・これで間違いはないでしょう・・・」

 リンディは少し間を置いてから、なのはたちやアースラクルーたちに告げた。

「先ほど次元トンネルを発生させた人物が特定できました・・・元管理局の研究員、アンナ・マリオンハイトです。」

「アンナ・・あのアンナさんですか・・・!?

 リンディの言葉にクロノが驚きを見せる。リンディが彼に頷くと、なのはが問いかけてきた。

「あの・・アンナさんというのは、どういう人なんですか・・・?」

 彼女の質問にリンディが真剣に答える。フェイトたちもリンディの話に耳を傾ける。

「アンナは時空管理局の私の後輩で、主に次元研究を行ってきた研究員よ。その知識と研究成果は管理局内でも優秀だったのだけれど、日がたつに連れてその研究の規模が拡大し、ついには上層部が、その研究が次元犯罪、次元災害を引き起こすと判断し、アンナは管理局を追放されたのよ。」

「その人が、ライムちゃんにクリスレイサーを渡したんだね・・?」

 なのはの言葉に頷いたのはラークだった。

「アンナは管理局を辞めた後も、次元研究を続けてたよ。その研究の中で作り出されたのが2つのデバイス。2つ合わせて“天地のデバイス”って呼んでたよ。」

「天地のデバイス・・・」

 ラークの言葉にユーノが固唾を呑む。

「その天地のデバイスのうちの1つが、ライムのクリスレイサーというわけか。」

 クロノが口にした呟きに頷き、ラークは話を続ける。

「アンナは次元研究の中で、時空を操ることを考えていたよ。時間を操るといった効果をもたらしたいって・・」

 ラークの語った真実にアースラ内は困惑に包まれる。

 生きとし生けるものは、何者も時の流れに逆らうことはできない。もしも逆らうことになれば、自然のバランスを崩すことになってしまい、管理局の見解どおり、次元災害を引き起こす要因となってしまう。

 アンナの研究は、次元世界を初めとした多くの世界に被害を及ぼしかねないものに進んでいた。

 

 そしてアースラはアンナの正確な居場所の特定に向けて行動を開始し、ラークは再び医務室に戻された。気持ちの整理の付かない彼女のいる医務室に、フェイトとアルフがやってきた。

「ライムのことが心配?大丈夫。みんな一生懸命探してくれてるみたいだから。」

 アルフが気さくに声をかけてくるが、ラークは物悲しい笑みを浮かべていた。

「ライムだったら、わざわざ探さなくなって、ライムのほうから出てくるよ。ライムはライムのお母さんのために、フェイトをやっつけようとしているんだから。」

「分かってるよ・・だから私は、ライムが姿を見せてくれることを信じてる・・・」

 フェイトの微笑みを眼にして、ラークは戸惑いを浮かべる。そしてそんなフェイトの姿をあたたかく見守っているアルフの姿にも気付く。

 2人のあたたかな笑顔に、ラークも共感した。それを期に、ラークはライムとの出会いからの日々を放し始めた。

 傷ついたところをライムに助けられ、アンナの助力を受けてライムの使い魔としてよみがえった。しかしライムはラークを「使い魔」ではなく「相棒」「妹」「家族」として見てくれた。

 主人と使い魔の関係を取り払った信頼。それはフェイトとアルフにとっても同じだった。

「ライムは本当は優しいお姉ちゃんなんだよ。ただ、お母さんの記憶がなくなって、寂しくなってるだけなの・・・」

 ラークが代弁したライムの心境に、フェイトは強く共感していた。

 母・プレシアに見放された彼女は、孤独にさいなまれていた。そんな彼女に手を差し伸べ、彼女の心を暖めてくれたのが、アルフであり、なのはだった。

 ライムが抱えている寂しさとも分かち合いたい。それがフェイトのライムに対する一途な気持ちだった。

「できることなら、あなたたちと友達になりたい。そう思ってる・・・」

 フェイトのこの言葉に、ラークは胸を打たれたような感覚を覚えた。金髪の少女の優しさに、ラークは共感していた。

「ラークも、フェイトお姉ちゃんとアルフお姉ちゃんと仲良くなりたい・・・」

「あたしのことはアルフでいいよ。」

「私もフェイトと呼んでもいいよ・・」

 アルフとフェイトが笑顔で迎えてくれて、ラークも微笑んだ。喜びのあまりに眼から涙があふれてきていた。

「フェイト・・アルフ・・・ありがとう・・・!」

 ラークがアルフに寄り添い、アルフもラークの髪を優しく撫でた。まるで本物の妹ができたような高揚感をアルフは感じていた。

 

 アースラ作戦室ではエイミィを初めとしたクルーたちが、アンナの行方を追っていた。その傍らで、なのはがリンディに声をかけていた。

「リンディさん、アンナさんについて、もっと教えてくれませんか?」

 なのはの問いかけに、リンディは微笑んで答える。

「アンナさんは、よく周りの人に気を遣う人でした。でもかわいいものを見るとすぐに抱きつきたくなる癖も持っていて、よくクロノやエイミィに抱きついては困らせていましたね。」

 リンディの言葉から想像してしまい、なのはは一瞬唖然となってしまう。

「そして夢に一途な人でもありました。次元研究に対しては特に熱心で、私も感心していました。上層部に研究を差し止められても、彼女は引き下がろうとはしませんでした。」

「そんなに前向きな人だったんですね・・・本当にすごいですね・・・」

 なのはがアンナの真っ直ぐな姿に感嘆を覚えていた。1度思い込んだら真っ直ぐ突き進む自分の性格から、彼女と共感できるものを感じ取っていたのだ。

「できることなら、アンナが犯罪に手を染めていないと信じたかった・・でも彼女がこの混乱を引き起こしているのは明白。これ以上、彼女に罪を重ねさせないために・・」

「リンディさん・・・」

 アンナに対する思いを告げるリンディに、なのはは戸惑いを浮かべた。

(フェイト・テスタロッサ、聞こえてるか?)

 そのとき、なのはたちの脳裏にライムの声が響き渡った。アースラに向けての念話が伝わってきたのだ。

「ライムちゃん・・・!?

 なのはがライムの声に当惑を見せる。彼女たちのいるこの作戦室に、フェイト、アルフ、ラークが駆け込んできた。

「この声、ライムだよ!ライム、ラークの声、届いてる!?

 ラークが必死に呼びかけるが、ライムには届いていないようだった。ライムの一方的な声がなのはたちに伝わってくる。

(僕と、1対1の勝負をしろ!)

 突然のライムの申し出に作戦室は騒然となり、指名されたフェイトが当惑を覚える。

(アースラの人たちも僕の声が聞こえてるはずだ。だったら僕がどこにいるか分かるよね?)

 さらに続けるライムの言葉に、なのはは困惑する。エイミィがライムが送る念話から、彼女の居場所を特定する。

「位置が分かりました!映像来ます!」

 エイミィの言葉の直後、モニターに映像が映し出される。ライムが真剣な面持ちでフェイトに呼びかけてきていた。

「この場所・・・!?

 ライムがいる場所に覚えがあったなのはが驚きを見せる。

「ライムちゃんの思い出の海辺だよ!」

「えっ!?

 なのはの声にフェイトもアルフも驚きを見せる。

「ライム・・・」

 ラークも沈痛の面持ちでライムを見つめていた。

(フェイト、僕は君と1対1で戦い、君を倒す。誰にも邪魔はさせない。なのはちゃんや管理局でも。)

 強い決意を込めたライムの意思。彼女の心境にアースラ内は騒然となった。

 その中で最も困惑していたのはフェイトだった。ライムは彼女に対して真正面から挑もうとしている。その真っ直ぐな気持ちが、彼女の心を揺さぶっていたのだ。

「ダメだ!こんなの、認めるわけにはいかない!」

 その挑戦を拒もうとしたのはクロノだった。

「まだフェイトは完全に回復したわけじゃない。その彼女を、みすみす危険に巻き込むわけにはいかない。」

 クロノの判断は間違いではなかった。満身創痍のフェイトを、勝ち目があるかどうか怪しい勝負に向かわせるわけにはいかない。

 それに彼女は重要参考人である。管理局の管轄下に置かれている以上、勝手な行動は許されない。

 重苦しい沈黙の中、フェイトは気を落ち着けて口を開いた。

「私、行きます。」

 フェイトのこの言葉に、再びこの場が騒然となった。それでもフェイトが自分で決意したことだから受け入れようとなのはたちは思っていたが、フェイトの決意に真っ先に反論したのはクロノだった。

「ダメだ、フェイト!君は時空管理局の管轄下に置かれている!完全回復していない君を、単独で向かわせるわけにはいかない!」

 フェイトを止めようとするクロノだが、フェイトは引き下がらない。

「ライムは私に真剣勝負を申し込んできた。自分の力だけで挑んできたのだから、私も応えなくちゃいけないと思う。」

「フェイトちゃん・・・」

 フェイトの意思になのはが戸惑いを見せる。

「それに、私はライムの本当の気持ちを確かめたい。ライムへの償いのために、私が何をすればいいのか、確かめたい。ライムのために、私自身のために・・」

 自分とライムのために、この戦いは受けなければならない。フェイトの決意は揺るがないものとなっていた。

 彼女の気持ちを察したリンディは、微笑んで頷いた。

「・・分かりました。フェイトさん、あなたの気が済むようにしなさい。」

 リンディの言葉に艦内に動揺が走った。自分の気持ちが受け入れられたはずのフェイトも、戸惑いを感じていた。

「ただし、あなたとライムさん、どちらかが危険だと判断したときには、私たちは止めに入ります。いいですね?」

「・・はい。」

 リンディの忠告に、フェイトは微笑んで頷いた。しかし的確な判断を求めていたクロノは納得していなかった。

「あたしも一緒に行くよ。フェイトとライムの気持ちを、1番近い場所で確かめたいから・・」

 そこへアルフが声をかけ、自身の決意を告げる。リンディが頷くのを見て、フェイトとアルフは作戦室を後にした。

「いいんですか、艦長!?フェイトをこのまま行かせてしまって・・!」

 クロノがリンディが下した判断に抗議するが、彼女は首を横に振る。

「ライムさんはフェイトさんと真正面からぶつかろうとし、フェイトさんもそれに応えようとしています。それに水を差すというのは酷というものでしょう。」

 リンディの見解に、クロノはこれ以上反論できなかった。母親である彼女に意固地な部分があることは、息子である彼はよく知っていることだった。

「2人とも、自分とお互いの気持ちを確かめ合いたいと思っているのです。自分たちにけじめをつけるために・・」

「・・私もフェイトちゃんとライムちゃんのところに行きます。私も2人の気持ちを確かめたいから・・」

 なのはもフェイトとライムが気がかりになり、作戦室を飛び出した。ユーノ、ラークも彼女を追って出て行った。

 

 

次回予告

 

全ては私の罪から始まった。

何も知らなかったことでさえ、私の罪。

だから私は確かめたい。

私の中の罪を償いたい。

そして、あなたの心の傷を癒したい・・・

 

次回・第8話「心の氷が解けるときなの」

 

リリカルマジカル、心を開いて・・・

 

 

作品集

 

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