魔法少女リリカルなのは -Light&Dark-
第6話「譲れない願いなの」
なのはとライムの交戦とその魔力の放出を、次元空間を航行中のアースラも感知していた。作戦室のモニターに、2人の魔法少女の姿が映し出されていた。
「とうとう、なのはとも対立してしまったか、小室ライム・・・」
この事態にクロノが深刻な面持ちを浮かべる。彼の隣でキーボードを捜査していたエイミィは笑みをこぼしていた。
「でもこういうのって、なのはちゃんらしいっていうか・・」
「しかしこのまま見過ごすわけにもいかない。すぐに止めないと・・艦長!」
クロノが振り返り、リンディの指示を仰ぐ。リンディは微笑みかけて答える。
「もう少しだけ様子を見ましょう。なのはさんは今、ライムさんの気持ちと真正面から向かい合おうとしています。」
リンディの見解に腑に落ちないながらも、クロノは渋々従うことにした。
「ライムちゃんのバリアジャケットが・・!」
そのとき、エイミィがリンディとクロノに呼びかけてきた。モニター内のライムのバリアジャケットが、高速化のために軽量化した。
同時に、フェイトがアルフに支えられながら作戦室に入ってきた。
「フェイト、まだ寝てなくちゃダメだって・・・!」
アルフが心配の面持ちを見せているが、フェイトは立ち止まろうとせず、モニターに映し出されているなのはとライムの戦いに眼を向ける。
「フェイトさん、体は大丈夫なのですか?」
リンディが声をかけるが、フェイトは当惑を浮かべたまま答えない。するとリンディが微笑みかける。
「あなたもなのはさんとライムさんのことが心配なのですね?」
「・・・なのはは私を守るために・・ライムは私を倒すために戦ってるから・・・」
フェイトの思いを聞いて、リンディは静かに頷く。そして一同は再び戦況に眼を向ける。
「フェイトやあたしでも追いつけなかったあの動き・・なのはがどう切り抜けるのか・・・」
これから起こる高速戦闘に、アルフが息を呑む。
「10秒です。」
リンディが口にした言葉に、アルフが眉をひそめる。
「ライムさんのあの高速魔法は10秒間しか発動できません。しかも次に発動するまで、最低でも半日を要しているようです。」
「となると、問題はその10秒をどう切り抜けるか、だね・・・」
アルフの言葉にリンディは静かに頷く。なのはとライム、2人の雌雄を決する瞬間に、一同は固唾を呑んだ。
フェイトの居場所を聞き出すため、なのはと対立することとなったライム。決着をつけるため、彼女はアクセルアクションを発動しようとしていた。
「僕はこのアクセルアクションで、全力で君を倒す。フェイトでも追いつけなかった僕の動き、君についてはこれない。」
警告を口にするライムだが、なのはは退こうとはしない。
「分かったよ・・それじゃ、行くよ!」
“accel action.start up.”
覚悟を決めたライム。クリスレイサーの音声が響き、アクセルアクションの発動を告げる。
剣の形状を取っているクリスレイサーを振りかざして、ライムがなのはに一気に飛び込む。眼にも留まらぬ速さを備えて振り下ろされた刃を、なのははレイジングハートで何とか受け流す。
だがライムは大きく反転し、さらなる突進を繰り出す。なのははフライアーフィンを駆使して上空に回避する。
ライムは身を翻して、飛翔したなのはに向かって飛び上がる。彼女の振りかざした刃が、なのはの持つレイジングハートを叩く。
しかしなのはは怯むことなく、ライムの攻撃に備えようとしている。だが彼女はライムの動きを追いきれていない。
さらなるライムの攻撃がなのはに向かって飛んでいく。それをなのはは身を翻し、または魔力によるバリアで防御して、攻撃をかわしていった。
アースラ内でも、ライムとなのはの高速戦闘がモニターに映し出されていた。
「どういうことなの・・フェイトちゃんでも追いつけなかったあの攻撃を、なのはちゃん、うまくかわしてるよ・・・」
ライムの動きとなのはの回避に呆気に取られるエイミィ。リンディとクロノは、なのはがライムの素早い攻撃をかいくぐっている理由に気付いていた。
「ライムさんのあの動きは確かに速いです。あの動きを捉えるには、上級の魔導師でも困難でしょう。」
「しかしあの動きは、10秒間という発動時間以外に、決定的な欠点がある。あまりに速い高速魔法なため、動きが直線的になっている。おそらくまだ、ライムはその魔法に体が付いていけていないのだろう。」
リンディとクロノはアクセルアクションの決定的な弱点を見抜き、呟いていた。
「いくら動きが速くても、向かってくる方向が分かっていれば対処は簡単だ。」
クロノの説明どおり、ライムはなのはに決定打を与えられないでいた。リンディの眼差しを受けてクロノは頷き、作戦室を飛び出した。
絶対的な速力での攻撃を繰り出しているにも関わらず、なのはを追い詰めることができないでいたライム。焦りが募るばかりで、アクセルアクションの発動時間が刻一刻とタイムリミットへと近づいていた。
(このままじゃ時間切れになってしまう!・・なのはちゃん、君はただ時間切れになるのを待ってるわけじゃない・・・!)
ライムはなのはの狙いを推測していた。なのははライムが攻撃を外した瞬間に、得意としている砲撃魔法を撃ち込もうとしている。
けん制と回避を繰り返しながら反撃の魔法のチャージを行っているはず。ライムはそう確信していた。
(早く決めないと撃たれる!その前に、こっちが時間切れになる・・・!)
いきり立ったライムは、一気に決着をつけるべくなのはに飛び込んだ。なのはは砲撃のためのチャージをレイジングハートに任せ、自分は攻撃の回避に備える。
次の一撃に持てる力の全てを込めて、ライムはクリスレイサーを振り下ろす。しかしなのははこれを紙一重でかわす。
「なっ・・・!?」
その瞬間、ライムは愕然となった。高速の最後の一撃をかわしたなのはが身を翻し、砲撃の体勢に入る。
「ディバイン・・・」
(受け流された・・・!)
身構えるなのはを目の当たりにするライムが眼を見開く。
「・・バスター!」
シューティングモードのレイジングハートから高出力の魔法砲撃「ディバインバスター」が放たれる。膨大な魔力の奔流が、体勢の整わないライムに向かって飛んでいく。
しかしクリスレイサーの自己判断により、ライムが一瞬高速の動きになる。結果、砲撃の直撃を免れた。
“3,2,1 time out.”
公園のアスファルトに着地した瞬間、ライムのバリアジャケットが元に戻る。アクセルアクションの発動が終わったのだ。
体力、魔力を浪費して息を荒げているライムと、彼女を見据えているなのは。アクセルアクションが破られたライムは、精神的にも追い込まれていた。
(このまま戦っても・・なのはちゃんにうまく避けられちゃう・・・でも、僕は負けるわけには・・・)
劣勢を感じながらも、ライムは諦めようとはしなかった。剣の形態のクリスレイサーを構え、なのはに迫ろうとしていた。
「そこまでだ!」
そこへ声がかかり、なのはとライムがその方向へ振り向く。そこには黒のバリアジャケットを身にまとったクロノの姿があった。
「クロノくん!」
クロノの登場になのはが声を荒げる。クロノは愛杖「S2U」を手にして、満身創痍のライムを見据えていた。
「小室ライム、もう勝負は付いている。大人しくすれば、君と君の使い魔を治療、保護することを約束する。」
クロノが冷静な面持ちでライムに呼びかけるが、ライムはクロノの登場に固唾を呑んでいた。
(時空管理局!?・・こんなときに・・・!)
なのはに対しても無事に危機を切り抜けるかどうか怪しくなっているというのに、この上管理局の人間が介入してきた。ライムは絶体絶命を予感していた。
「ライム!」
そこへラークがひばりの姿で駆けつけてきた。ラークもクロノ姿を見て、緊迫を覚えていた。
「ま、まずいよ・・管理局が来ちゃうなんて・・!」
「ラーク、逃げろ!お前だけでも逃げるんだ!」
困惑しているラークに、ライムが必死に呼びかける。その声になのはとクロノに緊迫が走る。
ライムがラークを逃がすために、ランチャーモードのクリスレイサーをクロノに向ける。どう転がっても自分が管理局から逃げ切る余力は残っていない。せめてラークを逃がすだけでも。彼女はそう考えていた。
彼女の意思に呼応して、クリスレイサーの宝玉が淡く光る。だがその光がすぐに消えてしまい、彼女は愕然さをあらわにする。
(魔力が・・足りない・・・!?)
魔力を放つ余力すらなくなっていたライム。そんな彼女を、クロノはS2Uを構えて見据えていた。
「もう魔法を撃つ力も残っていないようだ・・・」
「くっ・・・ラーク、早く逃げるんだ!」
告げてくるクロノを前にして、ライムがラークに呼びかける。しかしラークは戸惑いを隠せなかった。
そんな緊迫した場所に、人間の姿のユーノも、なのは、ライム、クロノの魔力を感知して駆けつけてきた。
「ダメだよ!ラーク、ライムを置いていけないよ!」
「ここで2人とも捕まったら全てが終わってしまう!僕に構わず行ってくれ!」
困惑しているラークに、ライムが必死に呼びかける。後ろめたい気持ちを拭えないまま、ラークは涙ながらに振り返り、小鳥の姿になった飛び立った。
「あっ!待て!」
ユーノがラークに対し、拘束魔法「チェーンバインド」を発動しようとする。
「そうは、させない!」
それに対し、ライムがラークを逃がすべく、わずかしか残っていない魔力を振り絞る。
「お願いだ、クリスレイサー・・僕に、僕に力を貸してくれ・・・!」
“All right, my master.”
ライムは真っ直ぐな気持ちに、クリスレイサーが答える。残された力を全て注ぎ込み、ラークを捕まえようとしているユーノに狙いを定める。
「ホワイト・・スマッシャー!!」
ライムの最後の力「ホワイトスマッシャー」がユーノに向けて放たれた。ラークの捕縛に意識が向いていたユーノが不意をつかれ、純白の砲撃をまともに受けてしまう。
「ユーノくん!」
閃光に包まれたユーノになのはが叫ぶ。ユーノはライムの魔法の効果で、氷塊の中に閉じ込められてしまった。
「くっ!」
毒づいたクロノがラークに狙いを向けるが、既にラークは彼の射撃範囲から離れてしまっていた。
「よかった・・・ラーク・・・」
ラークが逃げ延びたことに喜びの小さな笑みを浮かべたライムが、全てを力を使い果たし、前のめりに倒れる。同時に彼女が身に着けていたバリアジャケットが消失し、普段着へと元に戻った。
「ライムちゃん・・ユーノくん・・・」
意識を失ったライム、呆然とした面持ちで氷漬けにされたユーノを見て、なのはは困惑を見せた。戦意を消したクロノが、ライムの安否を確かめる。
「大丈夫。気絶しているだけだ。魔力を使い果たしたんだろう・・」
クロノの言葉になのはは微笑む。ユーノもなのはとクロノの魔力により、氷塊から解放された。
魔力、体力ともに使い果たしたライムは、アースラの医務室に運ばれた。なのはもアースラに滞在し、医務室前の廊下でライムを心配していた。
ユーノもライムのことを気にかけていた。彼女が放った魔力にさほど力が込められていなかったため、すぐにでも動くことができた。
「ライムちゃん、大丈夫かな・・・?」
「心配ないよ。クロノも心配ないって言ってたし、僕も体のほうは大丈夫だと思う。だけど・・」
なのはの心配に微笑んで答えるも、ユーノも戸惑いを隠せなかった。
なのはの戦術によってアクセルアクションを破られた。絶対的な速力が、それに込められた自信とともに打ち負かされ、彼女はひどく打ちひしがれているだろう。
「それで、ひばりちゃんはどこに・・・?」
「うん。今、僕もアースラも探してるんだけど、魔力を抑えてるみたいで・・」
ラークのことを気にかけたなのはの問いかけに、ユーノは首を横に振った。彼も、アースラのクルーたちもラークを心配していたのだ。
「今、エイミィさんがラークの行方と合わせてクリスレイサーを調べているよ。あのデバイスは、強力な魔力を備えているよ。」
ユーノの言葉になのはが戸惑いを見せる。
魔法をはじめとした能力を保存しているプログラム体を「デバイス」と称し、さらに人工知能を備え、自立思考・行動を行うのが「インテリジェントデバイス」である。レイジングハート、バルディッシュ、クリスレイサーがそれに当たり、クロノのS2Uは魔法の記憶媒体にとどまっている「ストレージデバイス」に属する。
インテリジェントデバイスは使い手との共有が求められ扱いが難しいが、通常のデバイスを越える威力や戦術パターンを得ることができる。
ライムを基点として、様々な思いがアースラ内で渦巻いていた。
その頃、ライムはアースラの医務室のベットで横たわっていた。クリスレイサーをアースラに取り上げられ、彼女は攻め手を失っていた。
アクセルアクションをなのはに破られ、ラークを逃がすことを引き換えに彼女はアースラに身柄を拘束されていた。何もできないでいる自分に、彼女は打ちひしがれていた。
そんな彼女の脳裏に、再び母親の悲劇がよみがえってきた。記憶をなくし、娘のことさえ忘れてしまった母の言動に、ライムは胸を締め付けられる思いでいっぱいだった。
大切なものを失い、またそれを取り戻す力さえない。彼女は今、強い絶望感に駆られていた。
そんな重苦しい空気の医務室に、人間の姿のアルフが入ってきた。ライムはベットにふさぎこんだままである。
「ライム・・聞きたくないかもしれないけど、話を聞いてほしいんだけど・・・」
アルフが沈痛の面持ちで声をかけるが、ライムはベットのシーツに身を沈めるだけだった。アルフは気にかけながらライムに語りかける。
「フェイトも、自分の母さんのために必死になって頑張ってきた子なんだよ。母さんのためになるなら、どんなことだって・・」
「・・そのために、僕の母さんをあんなふうに・・!」
アルフの言葉にライムが苛立ちを口にするが、アルフがたまらず反論する。
「そんなつもりじゃない!フェイトは誰かを傷つけようなんて考えない、優しい子なんだよ・・だけど、あの女に利用されて、あの女に見放されて・・」
母、プレシアに見放され絶望感にさいなまれたフェイトを思い返して、アルフが歯がゆさを浮かべる。
「そんときのフェイトを、あたし、見てられなかったよ・・・」
「・・だから、フェイトやお前を許せって言いたいのか・・・!?」
アルフの悲痛にライムが反論し、身を包んでいたシーツを振り払って起き上がる。
「お前たちを許せば、僕が救われるの!?お前たちが、僕の母さんを助けてくれるの!?」
「ライム・・・」
「お前たちがいなかったら、僕はこんな辛い思いをしなかったんだ!お前たちが、僕たち家族をムチャクチャにしたんだ!」
激しい憎悪をあらわにするライム。少女の悲しみと怒りを目の当たりにして、アルフは悲痛さを覚えて、これ以上彼女に言葉をかけられなかった。
ライムの最後の力によって管理局から逃げ延びたラーク。彼女は小鳥の姿となって魔力を極力抑え、アースラの警戒網から逃げ延びていた。
そして彼女は最小限の魔力を使って転移魔法を発動。次元空間を航行中のアースラに行き着いた。
魔力があまりにも小さく制限してあるため、アースラのレーダーは彼女の侵入を感知していなかった。また、彼女は通気口を潜り抜けて、ライムの行方を追っていた。
彼女は記憶にある膨大な魔力を求めてアースラ内を移動していた。その魔力を探っていけば、ライムに会えると思っていたのだ。
だが、彼女がたどり着いたのはライムのいる医務室ではなく、クリスレイサーの分析を行っているエイミィの私室だった。
「すごい・・すごいよ、これ・・あたしもデバイスはいくつか見てきて分析してきたけど、こんな魔力を秘めてるものは初めて・・・」
分析を続けているエイミィが、クリスレイサーの潜在能力に感嘆の声をもらす。その評価に、隠れていたラークも笑みをこぼしていた。
ひと通りの分析を行い、一息つくためにエイミィは部屋を出た。だが、部屋の鍵はかけておいたものの、彼女はクリスレイサーを机の上に置いたままだった。
これがラークの好機だった。彼女はこっそりと部屋に忍び込み、机に置き去りになっていた宝石型のクリスレイサーをくちばしでくわえて、再び通気口へと入っていった。
そして彼女はライムの意識への疎通を試みた。管理局に感知される危険があったが、ライムと合流できなければいずれ捕まってしまう。
(ライム、どこにいるの!?ラークの声に気付いたら、返事をして!)
(・・・ラーク?)
ラークの悲痛さを込めた呼びかけに、ライムの弱々しい返事が返ってきた。
(ライム!無事だったんだね!)
(うん・・でも僕は魔力もあまり回復してないし、クリスレイサーも管理局に取られちゃってる・・・)
(クリスレイサーなら、ラークが持ってるよ。)
(えっ・・!?)
(さっき、ラークが持ってきたの。それでライム、どこにいるの?)
(あ、うん。アースラの医務室だけど・・・)
ライムから居場所を聞いたラークは、一気に医務室へと向かった。
(ライム!)
そして医務室の通気口にたどり着いたラークが、ライムに向けて純白の宝石を落とす。ライムはそれを受け取り、脱出を決意する。
ライムの安否を心配しながらも、なのはとユーノはアースラの作戦室に来た。そこでは話し合いを行っているリンディとクロノだけでなく、満身創痍のフェイトの姿もあった。
「フェイトちゃん、体は大丈夫なの?」
「なのは・・うん。体のほうは大丈夫だよ。」
なのはが心配の声をかけると、フェイトは微笑んで頷いた。
「よかった・・フェイトちゃん・・・!」
なのはは眼に涙を浮かべて、フェイトに寄り添った。突然の抱擁にフェイトは戸惑いを浮かべる。
「よかった・・フェイトちゃんが無事で・・・」
「なのは・・・ゴメン。心配かけて・・・」
安堵の笑みを浮かべるなのはの髪を、フェイトは優しく撫でる。その姿にリンディ、クロノ、ユーノは微笑んでいた。
「なのは、私はライムと話し合いたいと思ってる。」
「えっ?ライムちゃんと?」
フェイトが口にした言葉になのはがきょとんとなる。
「ライムを傷つけたのは私だから・・でも私は、ライムとも分かり合いたい。ライムを傷つけた罪を、私は償いたいと思ってる。」
「フェイトちゃん・・・」
「もしかしたら、全力でライムと戦うことになるかもしれない・・・」
覚悟と決意を秘めた言葉を告げるフェイト。
言葉で語りつくすだけでは、分かり合えないことがある。そのときは全身全霊を駆けてぶつかり合うこともある。それはジュエルシードを巡って争ったときのなのはとフェイトも同じだった。
フェイトの決意を受けて、なのはも微笑んで静かに頷いた。
そのとき、館内で轟音が響き、なのはたちが緊迫を覚える。その直後、館内にサイレンが鳴り出し、赤ランプが点灯する。
「何!?」
驚きを見せるなのは。そんな作戦室に、エイミィが飛び込んできた。
「艦長、大変です!ライムちゃんが医務室を飛び出しました!」
「えっ!?ライムさんが!?」
エイミィの報告にリンディが声を荒げる。
「デバイスを使って医務室のドアを壊して・・すみません!あたしがあのデバイスを置いて部屋を出たのがいけなかったんです!」
「詫びは後でいい!ライムはどこにいるんだ!?」
謝罪するエイミィにクロノが問いかける。
「今、転移所に向かっています!彼女の使い魔も一緒です!」
「使い魔・・ひばりちゃん!?」
なのはがたまらず作戦室を飛び出した。ライムだけでなく、ラークのことも気がかりになったのだ。
「待って、なのは!」
ユーノもなのはを追って駆け出し、フェイトも続く。
「クロノもなのはさんたちとライムさんを追って。医療班も続いて。エイミィはレーダーで艦内を捜索。みなさんに随時連絡を。」
「はい!」
「分かりました!」
リンディの指示を受けて、クロノとエイミィも行動を開始した。
取り戻したクリスレイサーを使い、医務室のドアを打ち破り、脱走を図ったライムとラーク。2人はさらなる脱出のため、アースラ内にある転移所を目指していた。
ラークはユーノたちと比べて転移魔法のバリエーションに富んでなく、自身の転移しかできなかった。従って2人そろっての転移を行うには、アースラの転移装置を利用するしかなかった。
そんな彼女たちを再び捕らえるべく、アースラの武装局員たちが駆けつけてきた。
「ライム、どうしよう・・このままじゃ・・!」
ラークが心配の声をかけると、ライムは歯がゆさをあらわにしながらクリスレイサーを構える。氷の刃「クリスタルレイ」で局員たちをけん制し、その間に逃げ出す。
そのような試行錯誤と逃走を繰り返しながら、2人は転移所の1つにたどり着いた。
「やっと見つけたよ、ライム!早く装置を動かして・・!」
「うん、分かってる!」
ライムとラークが転移装置を起動すべく、機械のキーボードを操作する。しかし2人とも装置に関する知識がなかったため、闇雲な捜査を行うばかりだった。
それでも何とか装置を起動させることに成功した。
「やったよ、ライム!」
「うん!早く転移して外に・・・あっ!」
喜びながら転移を行おうとした2人だが、部屋の前には局員たちが駆けつけ、それぞれの武装を構えていた。
「しまった!追いつかれた・・・!」
局員たちに追い込まれたライムが愕然となった。
次回予告
求めれば求めるほど、遠くなっていく気持ち。
ただ自分の思いを貫きたかっただけなのに。
心から抜け落ちていく大切なもの。
空っぽになっていく心を満たすものは、何・・・?
リリカルマジカル、負けたくない・・・!