魔法少女リリカルなのは -Light&Dark-
第2話「新しい魔法使いなの?」
突如、異常な力に包まれた公園。駆けつけたなのはは、そこでバリアジャケットを身に着けたライムの姿を発見した。
「あれは魔導師・・こんなところで何を・・・」
ユーノもライムの姿を見て呟く。
「もしかして、この魔力も彼女が・・」
「そんな、まさか・・」
ユーノの言葉にたまらず答えるなのは。彼女はすぐに視線をライムに戻す。ライムは彼女のことに気付いていない様子だった。
確かめる必要がある。本当にライムなのか。この場で起きている出来事が彼女が引き起こしているものなのか。
なのははライムに接近するため、飛び立とうとする。だがライムは振り返って飛び去ってしまった。
なのはは集中を解いて、肩の力を抜く。
(ライムちゃん、これは、君がやったことなの・・・?)
そして彼女は胸中で困惑を呟いていた。
その直後、灰色になっていた公園が、元の色を取り戻していく。ユーノもこの場を包み込んでいた魔力が消えていくのを感じ取っていた。
それからなのはとユーノは家へと戻っていった。公園を包み込んでいた魔力の正体を探ろうとしていたユーノだったが、詳しく調べる前に魔力が消えてしまった。
(あの魔力、あの時間凍結・・Sクラス以上の魔法使いでも扱うのが難しいあの魔法が使われるなんて・・・)
その魔力に関して考えをめぐらせるユーノ。
そんな彼の思考をよそに、なのはも戸惑いを感じていた。転校してきたライムが、魔力に包まれた公園に、魔法使いの姿で浮遊していた。彼女の素性を聞く前に、彼女はなのはの前から去っていってしまった。
先ほどでなくても、明日学校に行けば聞く機会はいくらでもある。そんな安堵を感じながらも、なのはは素直に聞くことにためらいを感じていた。
(見間違いってこともあるよね・・あれはライムちゃんじゃないって・・・)
自分に言い聞かせて、なのはは気持ちを切り替えた。そして彼女は改めて、ユーノにひとつの疑問を訊ねた。
(ユーノくん、さっき言ってた、時間凍結って何?)
なのはは心の交信という形でユーノに問いかけた。するとユーノは顔を上げて答える。
(うん。時間凍結っていうのは、簡単にいうと対象の時間を止めてしまうものなんだ。)
(時間を止める?・・普通の時間停止とちがうの?)
(単純に考えると大差はないんだけど、時間凍結は次元干渉が大きいんだ。この魔法にかかると、対象は術者が解かない限りこの時空から動けないんだ。)
(そんなにすごい魔法なんだ・・)
(でも時間凍結は次元を操るくらいの強力な魔法で、上級魔導師でも扱える人はほとんどいない。しかもその効力が次元災害や次元犯罪を引き起こすことになりかねなくなり、時空管理局が使用を禁止したとも聞いているよ。)
ユーノの説明に、なのはは大まかには納得した。しかし難しいことに思えて彼女は困り顔を浮かべていた。
(公園にかかっていたあの時間凍結は不完全だよ。解除したような作用は感じなかったし、自然に解ける魔法じゃない。)
ユーノは深刻にこの事態を思い返していた。何かの前兆だと彼は思えてならなかった。
海鳴市内にあるとあるマンション。その7階奥の部屋に、ライムとひばりは住んでいた。
転校初日の学校生活にライムは喜びを感じていたが、まだここでの生活に慣れていないせいもあって疲れが押し寄せてきていた。
その疲れを払拭するように、ライムはベットの上に仰向けに倒れた。天井を仰ぎ見ながら、彼女は大きく息を吐く。
そこへひばりが部屋に入ってくるなり、ライムに向かって飛び込んできた。
「コ、コラ、ひばり!いきなり部屋に入ってきて僕に抱きつかないでよ!」
「いいでしょ?いいでしょ?ラークはライムのことが大好きなんだから♪」
そわそわするライムに、ひばりが笑顔で言いかける。
「それに、2人だけのときは、“ひばり”じゃなくて“ラーク”だよ♪」
「あ、そうだったね。ゴメン、ゴメン。転校初日ということで少し緊張しちゃってたかな。」
ひばりが口にした言葉にライムは苦笑いを浮かべる。そして彼女は上着の内ポケットから水色の丸い宝石を取り出した。
ライムはなのはと同じ魔法使いである。光と氷をつかさどる魔法の杖「クリスレイサー」を扱う。
そしてひばりの本当の名はラークである。ラークはライムが魔法で生成した使い魔で、人間と白い小鳥の2つの姿を持っている。
魔法使いであるライムがこの海鳴市にやってきたのは、ある人物を探し出すためである。
「ラーク、ここに来てよかったね・・」
「うんっ!楽しいし、みんなラークに優しくしてくれるし♪」
ベットに体を預けるライムに、ラークが笑顔で答える。しかしライムの心境は深刻だった。
「でも僕たちがここに来たのは、アイツを見つけ出すことなんだ・・・」
ライムのこの言葉に、ラークも笑顔を消した。ラークはライムが抱えているものが分かっていた。
「それでライム、お母さんのお見舞いには行かないの?」
ラークは話題を切り替えて、入院している母の見舞いを促す。するとライムは微笑んで、小さく首を横に振る。
「今日はやめとくよ。今日はいろいろあったし・・だけど明日は必ず行こうね。」
ライムの言葉に、ラークは笑顔を作って頷いた。ラークはライムの悲しみに触れないように、胸中で必死に悲壮を抑え込んでいた。
そして翌日。街や学校は、なのはが目撃した出来事がまるでなかったかのように、いつもの平凡な時間を過ごしていた。
少し早めに登校していたライムは、この学校での教科書の何冊かに眼を通していた。しばらく時間を潰していると、クラスメイトたちが次々と教室に入ってきて、なのはたちも到着してきた。
「あ、ライムちゃん、早いんだね。」
アリサが声をかけると、ライムは教科書を閉じて振り向いてきた。
「うん。今日は早く来ちゃった。ひばりも早く行きたい気分だったみたいだったし。」
ライムの言葉に、アリサとすずかも笑顔を見せた。しかしなのはは戸惑いの面持ちを浮かべていた。
昨日、公園にいた人物がライムだったのか。それを確かめるべきかどうか、考えあぐねていたのだ。
「どうしたの、なのはちゃん?」
「えっ?・・ううん、何でもないよ。」
その様子を気にしたライムに声をかけられ、なのはは笑顔を見せて答えた。
「ところでライムちゃん、放課後、ちょっとお話してもいいかな・・?」
「えっ?話?」
なのはの突然の誘いにライムがきょとんとなる。しかしすぐに笑顔を取り戻して、
「うん。そんなに長い話じゃないなら構わないよ。」
ライムの返答になのはは笑顔を見せた。
「授業が終わったら、母さんのお見舞いに行く予定だから、ひばりと一緒に病院に行くから・・」
「そうなの・・だったら私も一緒に行っていいかな?」
「えっ?」
なのはの申し出に、ライムは再びきょとんとなる。
「話をするなら、私、もっとライムちゃんのことを知りたい。ライムちゃんとも仲良くなりたいから。」
笑顔を見せて手を差し伸べるなのは。ところがライムは沈痛の面持ちを見せた。
「・・多分、辛くなっちゃうと思うよ・・・」
「・・大丈夫。私ならきちんと受け止めるから・・」
それでも笑顔を絶やさないなのはを見て、ライムも笑みを見せた。
「分かったよ。それじゃ、一緒に行こうか・・」
「うんっ!」
ライムの了承になのはは満面の笑みを見せた。
「やれやれ。私たちは蚊帳の外ってわけね。」
その傍らでアリサがため息をつき、すずかは笑顔を見せていた。
「でもいいわ。あたしは放課後は用事があるから。」
「私も今日は都合が取れないので・・」
アリサとすずかの言葉に、ライムは気を遣われていると思って照れくさくなっていた。
「ありがとう、アリサちゃん、すずかちゃん。この埋め合わせはきっと・・」
「それじゃ、今日のお昼はあたしたちと一緒。いいわね?」
「それでいいなら、お安い御用で♪」
アリサの誘いにライムは笑顔で答えた。
そしてその日の放課後、ライムは昇降口で待っていた。ひばりが来るのを待っていたのだが、掃除当番を終えたなのはが彼女の前に先に姿を見せた。
「ゴメンね、ライムちゃん。待たせちゃって・・」
「なのはちゃん。実はひばりを待ってるんだけど・・多分、掃除当番じゃないかな・・」
微笑みかけるなのはに、ライムはひばりを気にして困り顔を見せる。するとひばりが慌しい様子で駆け込んできた。
「わ、わ、わ・・ゴ、ゴメン、お姉ちゃん!ひばり、今日は掃除当番で・・!」
ライムとなのはに向かって駆け込んでくるひばり。そのとき、足をつまづいたひばりが、勢いのままに前のめりに倒れこんでしまった。
「ち、ちょっと、ひばり、大丈夫か!?」
ライムが血相を変えてひばりに駆け寄った。ほこりまみれになったものの、ひばりは泣く様子を一切見せなかった。
「テヘヘヘ、派手に転んじゃったね・・」
笑顔を見せるひばりに、ライムもなのはも安堵の笑みを浮かべた。
「ひばり、廊下を走ったら危ないよ。先生にも言われただろうに。」
「うん。でもお姉ちゃんを待たせたらいけないと思ったから、つい・・」
「そんなに慌てなくても、お姉ちゃんはひばりを置いてどっかには行かないからね。」
互いに笑顔を見せあうライムとひばり。その直後、2人はそばになのはがいたことを思い出して赤面する。
「ライムちゃんとひばりちゃんは、本当に仲のいい姉妹なんだね。」
なのはが笑顔で語りかけると、ライムは照れ笑いを浮かべていた。
「さて、それでは3人で行くとしましょうか。」
「えっ?なのはお姉ちゃんも一緒なの?」
ひばりが疑問を返すと、なのはは笑顔で頷く。
「なのはちゃんが話があるっていうからね。それで一緒に帰ることになっちゃって・・」
「そうだったんだ・・ひばり、なのはお姉ちゃんなら大歓迎だよ♪」
喜びを見せるひばりに、なのはも素直に喜んだ。
学校を出たなのは、ライム、ひばりは、公園近くの病院に向かっていた。ライムの母親がそこに入院していることだという。
「そういえば、なのはちゃん、朝言ってた話って?」
「えっ?う、うん、そうだったね。」
ライムの唐突な問いかけに、なのはは思い出したように頷いた。
「それでね、ライムちゃん、昨日公園で・・」
なのはが問いかけようとしたときだった。彼女は何らかの気配を感じ取り、その方向へと振り向く。
「どうしたの、なのはちゃん?」
「ゴメンね、ライムちゃん!先に行ってて!」
疑問符を浮かべるライムに呼びかけると、なのはは気配のしたほうへと駆け出していった。
「レイジングハート、お願い!」
“stand by ready.set up.”
現場へと向かうなのはの呼びかけを受けて、レイジングハートが魔法の杖へと変化する。同時になのはが白のバリアジャケットを身にまとう。
魔導師の姿となったなのはは、魔力を感じ取った場所、川沿いの公園へとたどり着く。そこでは昨日、別の公園での現象が起こっていた。
「時間凍結・・ここでも・・・」
なのはは眼前の光景に動揺を隠せなかった。この公園で起きている魔力は、草木だけでなく人にまで及んでいた。元気よく遊んでいた子供たちも、魔力の影響で灰色に固まっていた。
周囲をうかがい、魔力が放たれた場所を探るなのは。
「そこまでだ!」
そのとき、なのはに向けて声がかかってきた。なのはが振り返った先には、指を差し向けてくるライムの姿があった。
ライムの左手には、透き通るような水色の宝石が握られていた。
「行くよ、クリスレイサー!」
“stand by ready.set up.”
ライムの呼びかけを受けて、水色の宝石が音声を発する。宝石が変化を起こし、レイジングハートと酷似した魔法の杖へと変形する。同時にライムの体を、純白の衣が包み込む。
魔法の杖「クリスレイサー」を握り締め、純白のバリアジャケットを身にまとうライム。彼女のバリアジャケットは彼女が以前通っていた小学校の制服が元となっているが、クリスレイサーの魔力の影響下で、本来の色合いとは違った純白の衣となっていた。
そしてクリスレイサーの杖としての形状は、レイジングハートよりも、フェイトの扱う「バルディッシュ」により酷似していた。
「ラ、ライムちゃん!?」
魔法使いへと変身したライムになのはが驚きの声を上げる。ライムはなのはにクリスレイサーを向ける。
「これ以上お前たちの好き勝手にはさせない!僕がお前たち・・って・・ええっ!?」
言い放っている途中で、ライムが眼の前の魔法使いがなのはであることにようやく気付いて、驚きの声を上げる。
「な、なのはちゃん!?どうして・・君も、魔法使いなの・・・!?」
「本当に・・ライムちゃんも魔法使いだったの・・・!?」
互いのもうひとつの姿を目の当たりにして困惑するなのはとライム。
「もしかして、これはあなたがやったの・・・!?」
「違う!僕はこんなことはしない!あんな・・あんなヤツがやるようなことを・・・!」
なのはが問い詰めると、ライムは突然苛立ちの表情をあらわにする。
「僕はあいつらを許さない・・だから僕の手で・・!」
ライムがなのはに向けて言い放つと、飛び上がり空へ飛翔する。彼女の背中には天使を連想させるような白い翼が広がっていた。
彼女を眼で追ったなのはも、続けて飛翔する。彼女の靴にも光の羽根「フライアーフィン」が伸びていた。
魔導師の多くはごく自然に飛行魔法を扱える。なのはのフライアーフィンは姿勢と方向の制御のためのものであり、ライムの背の翼「ホワイトウィング」は彼女の飛行のイメージをダイレクトに表しているものである。
「僕は僕の敵を倒す。それを邪魔するなら、なのはちゃん、僕は君も倒さなくちゃならない!」
ライムは沈痛の面持ちを浮かべながら、クリスレイサーを再びなのはに向ける。
「やめて、ライムちゃん!私はあなたと戦いたくはないよ!」
必死の思いで呼びかけるなのはだが、ライムは戦意を消そうとはしない。
「クリスレイサー!」
“Launcher mode.”
ライムの呼びかけと同時に、彼女の杖から魔法弾が放たれる。なのはは後方へと下がり、これを回避する。
“Shooting mode.”
そして砲撃形態へと変化したレイジングハートを構え、向かってきた魔法弾を、さらに魔法弾を撃ち込んで相殺する。
「ライムちゃん、私にはライムちゃんと戦う理由がないよ!だからやめて!」
なのはの呼びかけを受けて、ライムはランチャーモードのクリスレイサーを下げる。
「確かに、僕も君と戦いたくないし、僕が君と戦う理由はない。だけど、僕が戦う理由はあるんだ。」
「えっ・・・?」
ライムの言葉になのはは戸惑いを見せる。クリスレイサーを握るライムの手に力がこもる。
「僕たちがこの街に来たのは、ある人を探し出すためなんだ。」
「その人って・・・」
なのはが聞き返すと、ライムは少し沈黙を置いてから囁くように答えた。
「・・・フェイト・・・」
「えっ・・!?」
「・・僕が探しているのは、フェイト・テスタロッサだ・・・!」
ライムの口にした言葉になのはは驚愕した。ライムが追い続けている相手は、なのはの無二の親友となった金髪の魔法使い、フェイトだった。
次回予告
突然のしかかってきた驚きの事実。
それを知ったときは、どうしていいか分からなかった。
だけど心の中にあるこの気持ちを捨てることはできない。
だから、この気持ちのまま、真っ直ぐに進む。
リリカルマジカル、頑張るよ♪