魔法少女リリカルなのは -LightDark-

第1話「衝撃!謎の転校生なの」

 

 

平凡な小学三年生だったはずの私、高町(たかまち)なのはに訪れた突然の事態。

受け取ったのは勇気の心。手にしたのは魔法の力。

 

出会いの先に動き出した2つの想い。

現れたのは光と闇。

すれ違う心と運命。

 

どんな辛いことでも、どんなに悲しいことでも、みんなとなら乗り越えられる。

だから信じる。あなたの心が、寂しさから解き放たれることを・・・

 

魔法少女リリカルなのは -LightDark-、始まります。

 

 

「ここ・・は・・・?」

 見知らぬ暗い道を、なのははさまよっていた。この場には彼女以外の姿が見えない。

 なのはは自分が置かれている場所がどこなのかを確認するため、急ぎ足になる。しかしどこまで行っても、暗闇が続くばかりである。

 そんな彼女の前に、1人の少女が姿を見せる。黒い衣服に身を包み、流れる滝のような長い銀髪の少女である。

「ここにいたんだね・・・」

 少女は妖しい微笑を浮かべて、不安の面持ちのなのはを見つめる。

「なのは、私はあなたがほしい・・・」

「あ、あなたは・・・」

 少女の姿になのはが困惑する。初めて会ったはずなのに、その感覚が全くしない。

「私はあなたの全てがほしい・・あなたの体も心も・・・」

「何を言ってるの・・あなたはいったい・・・」

 歩を進めてきた少女に対し、なのはが後ずさりをする。彼女の視線が少女からそれ、暗闇をさまよう。

 そんな彼女の眼に入ってきたのは、顔見知りの少年の姿だった。だが少年は棒立ちをしたまま動かない。

「ユーノ・・くん・・・?」

 なのははその少年、ユーノ・スクライアに近づきながら声をかける。しかしユーノは灰色と変わっていた。

「ユ、ユーノくん!?

 なのははユーノの変わり果てた姿に驚愕する。しかし過酷な光景はそれだけではなかった。

 ユーノの隣にはもう1人の少女の姿があった。フェイト・テスタロッサである。

 しかしフェイトの姿も、ユーノと同じように灰色に変わり果てていた。

「そんな・・フェイトちゃん・・・!?

「この2人の時間、止めさせてもらったよ・・」

 恐怖を覚えるなのはに、少女は淡々と告げる。

「今度はなのはの番だよ。ずっと私と一緒にいようね・・・」

 少女が微笑んだ瞬間、なのはは足元に違和感を覚えた。視線を下げると、自分の両足も灰色に変わり始めていた。

 なのはは声にならない悲鳴を上げていた。灰色の侵食が彼女の体を駆け上がってきていた。

「あなたは私といつまでも一緒・・この時間の中で、ずっと一緒にいるの・・・」

 少女が見つめる前で、なのはは意識を失った。困惑の表情のまま、彼女の時間は停止した。

 

 この日、なのはは突然眼を覚ましていた。気がつくと、そこはいつもの自分のベットの中だった。

「あれ・・・?」

 なのはは戸惑いを抱えたまま、周囲を見回す。いつもと変わらない自分の部屋だった。

「今のは、夢・・・?」

 今見ていたのが悪い夢だったと分かり、なのはは安堵していた。

「そうだよね・・ただの夢だよね・・・たまにはそんな夢を見ることもあるよね・・・」

 なのはは笑みをこぼすと、まだ鳴っていない目覚まし時計のスイッチを押す。目覚ましの時刻は4時半にセットされているが、現在の時刻はその10分前だった。

「どうしたの、なのは?」

 そんな彼女に向けて声がかかってきた。声は机の上にいたフェレットからしていた。

「う、ううん、何でもないよ、ユーノくん。ちょっと、悪い夢を見ただけだから・・」

 そのフェレット、ユーノになのはが笑顔で答える。

 ユーノは遺跡発掘をして旅をするスクライア一族の少年である。本来は人間の姿なのだが、なのはのいるこの世界ではフェレットの姿をしていることが多い。

 全ては願いが叶うとされている宝石「ジュエルシード」から始まった。スクライア一族によって発掘されたジュエルシードだったが、輸送中の事故でなのはの世界にばらまかせてしまった。その責任を痛感したユーノは自力でジュエルシードを回収しようとしたが、ジュエルシードの暴走で傷ついてしまう。

 そんな彼と出会い、彼を助けたのがなのはだった。彼から事情を聞いたなのはは、彼から魔法の力「レイジングハート」を受け取ったのだった。

 もう1人の魔法少女、フェイトとのジュエルシードを巡っての争奪戦、次元世界における司法機関「時空管理局」の介入の末、ジュエルシードが発端となった事件「プレシア・テスタロッサ事件」は解決した。

 現在、この事件の重要参考人であるフェイトは、時空管理局の管轄下に置かれて最終的な判決を待っている状態にあった。親友として分かり合った彼女の帰りを待ちながら、なのはは普段の生活へと戻っていた。

「なのは、今日も魔法の特訓をするんだね?」

「うん。もっと魔法がうまくなりたいし、フェイトちゃんが戻ってきたときに恥ずかしくないようにね。」

 ユーノの問いかけになのはは笑顔で頷く。するとユーノはなのはの肩に飛び乗った。

「それじゃ行こう、ユーノくん。」

 なのはの呼びかけに、ユーノは小さく頷いた。

 

 私、高町なのは。聖祥大学付属小学校に通う、ごく普通の小学3年生。

 ある日、私は不思議な少年、ユーノくんと会ったの。私は彼から魔法の力を受け取ったのです。

 そこから私の魔法使いとしての日々がスタートしました。

 実はユーノくんは、私と初めて会ったときは、フェレットの姿をしていたけど、人間の男の子になったときは本当にビックリしてしまいました。

 日常に戻った私は、魔法の特訓をしています。

 私を助けてくれた時空管理局のみなさんが言うには、私は魔力と魔法を撃つことは優れているけど、近い距離での魔法がうまくないって言われました。私もそのことは自覚しています。

 だから私は、毎日魔法の特訓をしています。あまり人目につくといけないので、特訓は早朝にやっています。

 その日の特訓が終わって家に戻ると、普通の私の生活が始まります。

 私のお父さん、高町士郎(たかまちしろう)さん。お母さんの桃子(ももこ)さん。2人は駅前の喫茶店のマスターとパティシエをしています。

 そしてお兄ちゃんの恭也(きょうや)さんとお姉ちゃんの美由希(みゆき)さん。

 私はこの5人の家族で暮らしています。時間があるときは、私は喫茶店のお手伝いをすることもあります。

「いってきまーす。」

 そして私はいつものように学校に向かいます。バス乗り場に行き着くと、私の友達が笑顔でやってきます。

 月村(つきむら)すずかちゃんとアリサ・バニングスちゃん。学校に行くときは、いつも3人一緒です。

 そしてこの日の学校で、新しい出来事が始まったのです。

 

 元気に挨拶を交わしながら、いつものように自分の席につくなのは。すると彼女は周囲のクラスメイトの噂話を耳にした。

「ねぇねぇ、今日ここに転校生が来るみたいだよ。」

「しかもこのクラスに来るみたいだよ。」

「どんな子がやってくるのかなぁ。」

 様々な噂が教室内に飛び交い、生徒たちがいろいろな様子を見せていた。

(転校生かぁ・・どんな子なんだろう・・)

 なのはも転校生に対して期待に胸を躍らせていた。

 やがてチャイムが鳴り、担任の先生が教室に入ってきた。生徒たちが自分の席に着き、先生も教卓の前に立つ。

「おはようございます。もうみんな知っていると思うけど、このクラスに転校生がやってきます。入って。」

 先生が促すと、1人の生徒が教室に入ってきた。その姿に、生徒たちが唖然となった。

 黒のショートヘア。小学3年生としては背は大きいほうである。もしも女子制服を着ていなかったら、男の子と見間違えてもおかしくはないだろう。

「さ、みんなに挨拶して。」

「はい。小室(こむろ)ライムです。よく姿とかしゃべり方とかで男と間違われることが多いんだけど、僕はちゃんとした女の子です。よろしくお願いします!」

 転校生、ライムが元気よく挨拶をする。

「それじゃ小室さん、後ろのあの席について。」

「はい。」

 ライムは指示された席へと向かい着席する。

(本当に男の子みたいだよ〜・・)

 彼女に視線を向けたなのはが苦笑を浮かべていた。

 

 そしてこの日の1時間目の授業が終わった休み時間、ライムはクラスメイトからの質問攻めにあっていた。以前に暮らしていた場所や出来事を聞かれるのは、転校生の性となっていた。

 しかしライムは戸惑う様子を見せずに答えていた。逆に男の子に思える彼女の風貌と口調に当惑してしまっていた。

「ちょっとあなたたち、いい加減にしなさいよ!そんなによってたかって、かわいそうじゃないの!」

 その状況を見かねたアリサが、集まっている生徒たちに憤慨した。彼女の声に、生徒たちがライムから離れていった。

「大丈夫?いきなりこんなんで、困っちゃったでしょう?」

 アリサがすまなそうな面持ちでライムに声をかける。しかしライムはさほど気にしていない様子だった。

「そんなことないよ。僕は話すのは嫌いじゃないから。」

「けっこう前向きなんだね。あたし、アリサ。困ったことがあったら何でも聞いて。」

 アリサが手を差し伸べると、ライムも笑顔でその手を取り、握手を交わす。

「私は月村すずか。よろしくね、ライムちゃん。」

「うん。よろしく、アリサちゃん、すずかちゃん。それと・・」

 笑顔で答えるライムだが、なのはと眼が合った途端に口ごもる。するとなのはも笑顔を見せて、

「私は高町なのは。よろしくね、ライムちゃん。」

「うん。こっちこそよろしくね、なのはちゃん。」

 こうしてライムはなのはとも握手を交わした。

 

 その放課後、ライムはなのは、アリサ、すずかと一緒に帰ることになった。ライムはなのはたちから、この海鳴市のことや彼女たちに関することを聞き、ライムも彼女たちに自分のことを話した。

「へぇ。ライムちゃんのお母さんは海沿いのレストランの店長なんだ。」

 アリサがライムの話を聞いて感嘆の声を上げる。

「うん。でも今は入院してて、お店も休むことになっちゃったんだ。」

「ゴ、ゴメン。悪いこと聞いちゃって・・」

 物悲しい笑みを見せたライムに、アリサが気まずくなる。

「い、いいよ。気にしないで。僕は大丈夫だから。」

 そこへライムが笑顔を作って弁解する。

 その横で、なのはは戸惑いを感じていた。

 彼女が今、帰ってくるのを待っている親友、フェイトのことを気にかけていた。彼女は母親のために全てを捧げてきたが、母親であるプレシアは彼女を愛してはいなかった。

 フェイトは元々はプレシアの実の娘、アリシアの遺伝子から造られた。プレシアの娘に対する愛情はアリシアに向けられたもので、偽りの娘とされていたフェイトには全く注がれていなかった。

 ライムの母親の入院を聞いて、なのははフェイトに対して心配してしまっていた。

「どうしたの、なのはちゃん?」

 そこへすずかに声をかけられ、なのはが我に返る。

「えっ・・う、ううん、何でもないよ。」

 なのはが笑顔を見せてすずかたちに答える。

「でもライムちゃん、お母さんが病院にいるんじゃ、寂しいんじゃないの?」

「ううん。そんなことないよ。」

 アリサの心配にライムは首を横に振る。

「お姉ちゃーん!」

 そのとき、なのはたちの後ろから声がかかってきた。幼い少女の声だった。

「噂をすれば何とやら、かな。」

 ライムが笑みをこぼして、駆け込んできた少女を迎えた。ふわりとした桃色の髪をした少女。ライムの妹、小室ひばりである。

「お姉ちゃん、先に帰っちゃうんだもん。ひばり、ビックリしちゃったよー。」

「ゴメン、ゴメン。なのはちゃんたちからいろいろ話を聞いてるうちに、つい夢中になっちゃって・・」

「それならひばりはOKだよ。ひばりも新しいお友達、いっぱいできたから♪」

 照れ笑いを見せるライムに、ひばりは満面の笑顔で答えていた。

「ライムちゃん、その子は・・?」

「あ、紹介してなかったね。僕の妹のひばりだよ。」

 訊ねてきたなのはに、ライムが笑みをこぼしながら紹介する。ひばりもなのはたちにお辞儀をする。

「小室ひばり。聖祥大附属小学校の1年生です。」

「よろしくね、ひばりちゃん。」

 なのははひばりにも握手を交わす。

 そのとき、なのはは不思議な感覚を覚えた。特定の人物だけが感じ取れる、彼女が身近に感じているものとものと同じ感覚だった。

(この感じ・・これって・・・)

 なのはが当惑していると、ひばりが満面の笑みを浮かべてきた。

「よろしくお願いしますね、お姉ちゃん♪」

 ひばりはなのはに挨拶すると、ライムの横に並んだ。

「みんな、今日はここまで。まだ新しい生活の準備と整理が完了してないから。」

「分かったよ、ライムちゃん。でも、ライムちゃんの家に遊びに行ってもいいかな・・?」

「えっ?僕たちの家に?・・うん、いいよ。まだ片付いてないからすぐってわけにはいかないけど、近いうちにね。」

「ひばりもお姉ちゃんたちは大歓迎だよー。」

 ライムが頷き、ひばりも笑顔でなのはたちを迎え入れた。それを受けてなのはたちも笑顔で頷いた。

 

 それからアリサ、すずかとも別れ、なのは家への帰路へとついていた。

「今日は塾もないし、お店のお手伝いができそうね。」

 なのはは笑顔を浮かべて、両親が働いている店前の喫茶店へと駆け出した。

 その道の途中で、なのはは何らかの気配を感じ取り、足を止めた。

(この感じ・・・これって・・・)

(なのは!)

 戸惑いを見せるなのはの心に声が聞こえてきた。ユーノの声だ。

(ユーノくん!)

(なのは、これは魔法の気配だ!)

(魔法・・!?

 ユーノの声になのはが驚きを覚える。

(魔力は公園のほうから発せられている。僕もすぐに行くから。)

(分かったよ、ユーノくん。)

 ユーノとの交信を終えたなのはは、人目のつかないところへと駆け込む。そして1つの赤い宝石を取り出した。

「我、使命を受けし者なり。契約のもと、その力を解き放て。風は空に、星は天に、そして不屈の心はこの胸に。この手に魔法を・・レイジングハート、セットアップ!」

stand by ready.set up.

 なのはが呼びかけると、宝石「レイジングハート」が音声を放つ。そしてその秘められた力を解放し、変化を始める。

 同士になのはが閃光に抱かれ、形成された衣服に包まれる。魔法使いが戦闘時にまとうバリアジャケットである。なのはの場合は、小学校の制服が元としてイメージされている。

 白のバリアジャケットを身にまとい、魔法の杖へと形を変えたレイジングハートを手にするなのは。靴から光の羽根、フライアーフィンを伸ばして、彼女は空を駆け出した。

 ユーノの指示された場所、公園の近くに着地したなのは。

「これは・・!?

 なのはは眼前の光景に驚きを隠せなかった。草木にあふれた公園が、色を失くした灰色の世界となっていたのだ。

「なのは!」

 そこへフェレットの姿のユーノが駆けつけ、なのはは振り返る。

「ユーノくん、これって・・!」

「分からない・・だけど、魔法の力が働いてるってことは確かだよ。」

 ユーノの話を聞きながら、なのはは灰色となっている葉の1枚に触れてみる。氷とも石とも、金属ともつかないが、無機質の冷たさが伝わってきていた。

「もしかしたらこれは、時間凍結じゃ・・・!?

「時間、凍結・・?」

 ユーノのもらした言葉に、なのはがさらに困惑を見せる。

 そのとき、ふと空を見上げたなのはの視界に、空中を浮遊している人影が入ってくる。眼を凝らした彼女は、その人物に見覚えがあった。

「あれは・・・!?

 幻ではないかと思ったが、間違いはなかった。

「・・ライム、ちゃん・・・!?

 なのははじっとその少女を見つめていた。純白のバリアジャケットを身にまとったライムがそこにいた。

 

 

次回予告

 

新しい出会いから始まった突然の出来事。

何もかもが驚きの連続だった。

知りたい。確かめたい。

その心の中にあるものが、何なのか。

 

次回・第2話「新しい魔法使いなの?」

 

リリカルマジカル、頑張ります!

 

 

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