魔法少女リリカルなのは&エメラルえりな 第10話
時空管理局本局内にある牢獄。その中に入れられているガゼルの護送のため、2人の局員が牢獄を訪れた。
「まさかあのマキシマ三佐が、シャブロスにいたとは・・」
「僕も信じられません・・分からないものです・・・」
局員たちがガゼルの犯行に対してやるせなさを感じていた。そして彼のいる独房の前にたどり着いた。
“全部隊全局員に通達!ミッドチルダ全域に不安定なエネルギー反応を確認!クラナガン東方5キロ地点を中心に拡大中!”
そのとき、局員たちに向けて緊急事態の知らせが飛び込んできた。その内容に局員たちが緊迫を覚える。
「いったい、何が・・・とにかく、非常線を張らないと・・!」
「おい、大変だ!」
1人の局員が呼びかけたところへ、もう1人が声を張り上げる。
「ガゼル三佐がいない!」
「何だとっ!?」
2人が目の当たりにした牢獄。そこはもぬけの殻となっていた。
拘束された者はマジックバインドと同等の錠がかけられ、一切の魔法の行使ができなくなる。動揺の制御下にあったはずのガゼルだが、力のみで格子と壁を打ち破って脱走していた。
「まずい!すぐに追ってくれ!私が上に連絡する!」
「分かった!」
この事態に局員はさらなる緊迫を覚える。その間にも、ミッドチルダの空は漆黒に染まろうとしていた。
リインフォースとのユニゾンを果たしたシグナム。だがバサラとのユニゾンを行ったオメガのパワーの前に、彼女は押され気味になっていた。
「どうした!?貴様の力はその程度なのか!?」
いきり立つオメガが哄笑を上げながら、ディアブロウを振り下ろす。その重みのある一閃が、レヴァンティンの刀身を叩く。
「何という重い攻撃なんでしょう!重力による圧力で、付加が増しているようです!」
「当然です。元々強力なオメガの力に、私の重力を加えて威力を倍増させているのですから。」
毒づくリインフォースに、バサラが淡々と言いかける。オメガとの距離を取り、シグナムがレヴァンティンを構える。
「紫電一閃!」
カートリッジロードを行い、刀身に炎を宿らせたレヴァンティンを振りかざし、シグナムがオメガに飛びかかる。
「炎への魔法転換。さすがは騎士。速さだけでなく、攻撃にも重点を置けるのですね。」
バサラがシグナムの力量を測って感心の言葉を呟く。
「当然だ!コイツは今までの相手の中で、数えるほどしかないほどのレベルの高さだ!そのくらいの芸当ができなきゃ・・!」
バサラに言いかけるオメガが、ディアブロウのドライブチャージを行う。
「張り合いがねぇってもんだ!」
威力を増したディアブロウを振りかざし、オメガがシグナムを迎撃する。爆発的な2つの一閃が衝突、破裂し、2人は後方に吹き飛ばされる。
再び距離を置いて互いを見据えるシグナムとオメガ、リインフォースとバサラ。レヴァンティンを握る手に痺れが来ていることを、シグナムは痛感していた。
(ものすごい威力だ・・パワーだけなら、ヴィータやテスタロッサさえも凌ぐ・・・!)
(ここはいったん退いて、みなさんと合流しましょう!このままではシグナムさんが・・!)
(いや、たとえそうしても、ヤツがさせてはくれないだろう。ならば、私たちは私たちのできることを、全力でやり抜くのみ・・・!)
(シグナムさん・・・分かりました!私も全力で、あなたをサポートします!)
念話を掛け合って決意を高めるシグナムとリインフォース。
“Schlangeform.”
レヴァンティンの刀身が分割され、鞭のように飛ぶ。その刀身を、オメガは不敵な笑みを浮かべてかわす。
「逃がすか!」
シグナムがレヴァンティンの刀身を振り上げ、オメガを追撃する。
「おもしれぇ!面白いぞ、貴様!」
眼を見開いて歓喜を言い放つオメガが、無防備となっているシグナムに飛びかかる。ディアブロウから一閃を放つが、その瞬間にレヴァンティンの刀身の攻撃によって、狙いをずらされる。
だが無防備だったシグナムが、その一閃の衝撃を受けて怯む。落下する彼女に向かって、オメガがさらに飛びかかり、一閃を繰り出す。
強烈な一撃によって轟音が響き、爆発と煙が巻き起こる。その煙から飛び出してきたシグナムが、地上に落下していく。
体勢を整えて地上への激突を避けたシグナム。だがこの攻撃で彼女の体は疲弊し、さらに右腕が激痛に襲われていた。
「ぐっ!・・右腕が・・これでは、まともに戦うことが・・・!」
右腕を左手で押さえて、シグナムがうめく。体が追い込まれたためにユニゾンが解け、リインフォースが姿を現していた。
「シグナムさん、その状態で戦闘はとてもムリです!すぐに引き返したほうが・・!」
リインフォースがシグナムに向けて心配の声をかける。そこへオメガが降下し、2人の前に立ちはだかる。
「どうやらここまでのようだな。その様じゃ張り合いは取れねぇなぁ。」
ため息混じりに言いかけるオメガに、シグナムは歯がゆさを浮かべる。彼女の眼を見て、彼は不敵な笑みを浮かべる。
「眼は死んでねぇようだな。次にやり合うのが楽しみになってきたぜ!」
歓喜を覚えたオメガが哄笑を上げる。だがシグナムは諦めてはいなかった。
「悪いが、戦いはまだ終わっていない・・ここでお前を逃がすわけにはいかない・・・!」
「ダ、ダメですよ、シグナムさん!その体で戦えるわけ・・・!」
諦めようとしないシグナムに、リインフォースがたまらず声を荒げる。
「小さな彼女の言うとおりですよ、剣の騎士さん。あなたはオメガをここまで鼓舞させた。それだけでも賛美に値しますよ。」
バサラも言いかけるが感嘆の声をかけるが、それでもシグナムは戦意を消さない。
「オレは抵抗できない相手や死に損ないにとどめを刺してやる義理はねぇ。悪く思うな。」
オメガがシグナムに鋭い視線を向ける。最高の相手をつまらないことで潰したくない。強い相手を求める彼の情けだった。
だがシグナム諦められない理由があった。ここでオメガを逃がせば、被害が出る可能性を全く否定できるものではない。そうなれば、はやてやフェイト、多くの仲間を傷つけることになる。そうさせないという意思が、彼女を奮い立たせていた。
「せっかくの大勝負に水を差すことになるが・・」
そのとき、シグナムたちに向けて声がかけられてきた。彼女たちが振り返った先には、金髪の女性が立っていた。
三銃士の雷の剣士、ヴィッツ。玉緒に助けられたのを機に、彼女やえりなたちのために戦うことを決意した。現在はデルタに加わり、時空管理局の任務をこなしている。
「ヴィッツ!?」
「ヴィッツさん!」
シグナムとリインフォースが声を荒げる。2人の前にヴィッツは降り立ち、ブレイドデバイス「ブリット」を構える。
「選手交代だ。ヤツの相手とリインの魂は、私が引き継ぐ。」
ヴィッツはシグナムとリインフォースに言いかけると、オメガに視線を移す。
「それともお前、私が相手では不服か?」
「フンッ。不服なんてねぇよ。誰が相手だろうと、オレは一向に構わねぇ・・強い相手ならな!」
ヴィッツの挑発にオメガが笑みを強める。
「シグナム、お前は下がれ。リインは私にユニゾンしてもらう。」
「しかし、ヴィッツ・・・」
「私の見せ場まで持っていくな。文句ならその腕を治してから言え。」
言いかけるシグナムに向けて不敵な笑みを見せるヴィッツ。その言葉を受けて、シグナムは小さく頷いた。
「ヴィッツさん、アクシオさんたちは!?」
「すぐにここに来る。私が先行してきたのだ。」
リインフォースの問いかけにヴィッツが答える。
「だが事態は急を要する。早急に決着を付けるぞ、リイン!」
「分かりました!」
ヴィッツの呼びかけにリインフォースが答える。2人は意識をシンクロさせて、融合に備える。
「ユニゾンイン!」
リインフォースの体がヴィッツに入り込んでいく。ユニゾンによってヴィッツの髪と騎士服の金が淡くなり、瞳の色が青みがかる。
ヴィッツは雷属性と光属性の魔法を得意としている。光属性であるリインフォースとのシンクロ率は、三銃士の中で彼女が最も高い。
「では早々に決着を付けさせてもらうぞ。急を要するだけでなく、リインとのユニゾンは慣れてはいないのでな。」
「もったいないこと言ってくれるな。楽しい時間は長いほうがいいに決まってるだろうが!」
鋭く言い放つヴィッツに対し、オメガが哄笑を上げる。ディアブロウの一閃を、ヴィッツが振りかざしたブリットの一閃が跳ね返す。
「ぐっ!」
速く鋭いヴィッツの攻撃に、オメガが思わずうめく。ヴィッツの体から電気のようなオーラがほとばしっていた。だがこれはユニゾンを制御しきれていないがために、あふれ出てきていた魔力であった。
(私が魔力のコントロールを行います。ヴィッツさんは攻撃に専念してください。)
(分かった。頼むぞ、リイン。)
リインフォースの呼びかけにヴィッツが答える。ヴィッツが構えたブリットの刀身が、リインフォースの魔力を受けて白く輝き出す。
「この全力の一撃を、私たちはお前たちに向けて叩き込む!」
「おもしれぇ!その一撃、オレも全力で受けて、叩き潰してやるよ!」
ヴィッツの挑戦をオメガが迎え撃つ。ブリットを振りかざし、ヴィッツがオメガに飛びかかる。
(天の光は力を増すことで、いかなるものをも穿つ雷となる。その速さ、その強さ、何者にも止めることはできない!)
胸中で呟きかけるヴィッツ。ドライブチャージを行い。ブリットが威力を高めていく。
「一閃必殺!天光刃!」
ヴィッツがオメガに向けて光刃を放つ。重力による圧力を重ねたディアブロウの一撃が、光刃とぶつかる。
2つの刃の衝突が、周囲を大きく揺さぶる。衝撃と爆発音が轟き、砂塵をまき散らす。
重みのある攻撃の爆発の中、ヴィッツとオメガは立っていた。だがディアブロウの刀身が大きくひび割れていた。
ヴィッツの力が、オメガを上回っていたことを表していた。だがそれはオメガがシグナムとの戦いで体力を消耗させていたことが起因していた。
「まさかオレが、こうも完膚なきまでに敗れるとはな・・歯が立たないとはまさにこのことか・・・」
オメガが思わず不敵な笑みを浮かべる。ユニゾンが解け、彼の体からバサラが飛び出す。
「オメガ・・・」
バサラがボロボロになったオメガを目の当たりにして、動揺を浮かべる。戦意を消さないまま、オメガが前のめりに倒れ込む。
その直後、ヴィッツがリインフォースとのユニゾンを解除する。力の全てを使い果たしたヴィッツがひざまずき、息を絶え絶えにする。
「まさか、オメガが倒されるとは・・・」
息を呑んだバサラが毒づき、きびすを返してこの場を離れようとする。だが彼女の前に、駆けつけたヴィータが立ちはだかる。
「ワリィがおめぇらはここで終わりだ。大人しくしてもらうぞ。」
ヴィータが鉄槌のアームドデバイス「グラーフアイゼン」をバサラに向ける。忠告を言い渡されるバサラだが、このようなことで引き下がる彼女ではなかった。
「私にも意地というものがあります。オメガとともに潜り抜けてきた数々の修羅場。たとえ騎士であるあなたとて、私を容易く止められると思わないでいただきましょう!」
いきり立ったバサラが衝撃波を放つ。その攻撃を受けたヴィータが突き飛ばされ、顔を歪める。
だがヴィータは大きな腕に受け止められる。突然のことに驚くヴィータが振り向いた先には、赤髪の青年の姿があった。三銃士の炎の剣士、ダイナである。
「ダイナ・・・」
「鉄槌の騎士ともあろう者が、その程度のことで跳ね返されてしまうのか?お前と鉄の伯爵に打ち破れぬ壁はないはずだろう?」
当惑を見せるヴィータに、ダイナが淡々と言いかける。その言葉に触発されて、ヴィータは不敵な笑みを浮かべる。
「そういうのを愚問っていうんだよ。鉄槌の騎士のあたしと、鉄の伯爵、グラーフアイゼンに、突破できねぇもんはねぇ!」
“Gigantform.”
戦意を見せ付けたヴィータに呼応するかのように、グラーフアイゼンが形状を変える。巨大なハンマー、フルドライブの「ギガントフォルム」である。
「轟天爆砕!ギガントシュラーク!」
ヴィータが振りかざした巨大な鉄槌の一撃が繰り出される。バサラが魔力を収束させた右手を突き出し、その重い一撃を受け止める。
ヴィータの全力の攻撃を、重力操作による衝撃波で受け止めるバサラ。
(コイツ、すげぇぜ・・ギガントシュラークを片手で受け止めやがるなんて・・・!)
「ダイナブレイク!」
ヴィータが胸中で毒づいたところへダイナが飛び込み、ブレイドデバイス「ヴィオス」を振り下ろしてきた。重く巨大な剣の一閃が、追撃としてバサラを襲う。
だがバサラは左手を突き出して、2人の攻撃を受け止める。さらに衝撃波を放って、2人を突き飛ばす。
「くそっ!あたしら2人がかりでもブッ潰せねぇなんてよ・・!」
さらに毒づくヴィータがバサラを見据える。バサラも力を消耗して息を荒くしていた。
「ここで使うしかねぇか、リミットブレイクを・・けど、アイゼンに負担をかけることになる・・・」
「つまらないことを気にするなんて、アンタらしくないんじゃないの?」
ヴィータが意を決しかけたところへ、青髪の少女が声をかけてきた。三銃士の水の剣士、アクシオである。
「アクシオ・・・」
「あたしとオーリスがリミットブレイクの負担を軽くする。だからアンタは遠慮しないで突っ込んできなさいよ。」
戸惑いを見せるヴィータに、アクシオが気さくな態度で言いかける。その言葉を受けたヴィータが、迷いを振り切った。
「やるぞ、グラーフアイゼン!」
“Jawohl.”
ヴィータの呼びかけにグラーフアイゼンが答える。
“Zerstorungsform.”
グラーフアイゼンがドリルとブーストを付加させる。リミットブレイクフィルム「ツェアシュテーレンフォルム」の発動である。
「この1発はハンパじゃねぇぞ・・油断してると、木っ端微塵になっちまうぜ!」
「それがあなたの最大の力なのですね・・上等です。私も全力でその一撃、跳ね返してみせる!」
言い放つヴィータに対し、バサラも負けじと言い返す。その傍らで、アクシオがブレイドデバイス「オーリス」に意識を集中させる。
「底のない泉に秘められし力。今こそその身に降りかかる対価を取り除け!」
“Bottomless fountain.”
オーリスの刀身から放たれた淡い光がグラーフアイゼンを包み込む。リミットブレイクによる負担を軽くし、その威力を完璧なものとする。
「いくぞ!ツェアシュテールングスハンマー!」
ヴィータが三度グラーフアイゼンをバサラに向けて振り下ろす。バサラも両手を突き出して、その一撃を受け止める。
だがその威力を押さえ込むことができず、バサラの両手から血が飛び散る。そしてついに、彼女はヴィータの攻撃に押されて突き飛ばされる。
地上に叩きつけられ、昏倒するバサラ。全ての力を使い果たした上に傷だらけとなり、彼女は戦う術を失った。
そんな彼女の前にヴィータが降り立つ。その手に握られたグラーフアイゼンにヒビが入っており、破損をうかがわせていた。
「おめぇ、すげぇな・・アイゼンのこの攻撃に耐えちまうなんてよ・・・」
「言ったでしょう・・私もオメガとともに数々の修羅場を潜ってきたと・・でも、今何を言っても見苦しいだけです・・・」
賞賛の言葉を投げかけるヴィータに、バサラがため息混じりに言いかけて敗北を認める。消耗したヴィータがふらついたところを、再びダイナに支えられる。
「すまねぇな・・また世話になっちまって・・」
「気にするな。お前もシグナムもヴィッツも、全力を出し切って戦った。悔やむことはない。」
笑みを浮かべて言いかけるヴィータに、ダイナが淡々と言いかける。シグナム、ヴィッツ、アクシオ、リインフォースも微笑みかけていた。
「だが、残念だが私たちは回復を待つ必要があるな。この状態では、大規模な戦闘は行うことができない・・・」
「悔しいな・・なのはたちを助けらんねぇなんてよ・・・」
ヴィッツに続けて、ヴィータが歯がゆさをあらわにする。彼らはひとまず、起動六課本部に退くしかなかった。
驚異的な能力の強化を経た庵の前に歯が立たないスバルとティアナ。打開の糸口を必死に探る2人に向けて、庵が声をかける。
「いい加減熟知しろ。お前たちではオレには勝てない。」
「そんなことはない・・・!」
庵に反論するスバルだが、それが虚勢でしかないことは彼には分かりきっていた。
「だがお前たちのその力と成長は眼を見張るものがある。その力を無駄にするのは惜しい・・オレと来い。その力、ヘクセス様のもたらす世界のために使うのだ。
「何っ・・・!?」
突然の庵の言葉に、スバルとティアナが眼を見開く。
「お前たちのことは事前に調べてあることは、お前たちも知っているはずだ・・スバル・ナカジマ、お前もオレと同じ戦闘機人。愚かな人間たちに義理立てすることはないだろう。オレのところに来れば、その力を存分に発揮することができる。」
「確かにあたしは戦闘機人・・だけど、それでもあたしは1人の人間だと思ってる!人間や、それを取り巻くみんなが幸せに暮らしてるこの世界を壊す企みなんて、死んだって協力したりしない!」
庵が持ちかけた話を一蹴するスバル。彼女の脳裏に、自分を今まで支えてくれたたくさんの人たちの姿が浮かび上がっていた。ゲンヤ、ギンガ、なのは、えりな、そしてティアナ。彼らの支えがあったからこそ、今の自分がいる。スバルはそう確信していた。
「そのつまらない意固地もまたなのは譲りか。ならティアナ・ランスター、お前はどうだ?」
嘆息をもらしながら、庵がティアナに視線を向ける。彼女は深刻な面持ちを浮かべて、彼の話に耳を傾ける。
「お前は以前から己の無力さと劣等感を感じてきた。才能もレアスキルも、己を満足させるための力もない。それらを培おうとしても、それすらも阻害される。その不条理の中で、お前は強くなれるのか?」
「それは・・・」
「だがオレたちなら、お前が望む強さを得ることができる。お前を蔑んだ高町なのはを超えることも可能だ。オレと来い。ヘクセス様に従うことで、お前は十分すぎるほどの力を得ることができるのだぞ。」
ティアナに向けての庵の誘い。だがティアナの考えは変わらない。
「悪いけど、あたしは強くなる道をちゃんと知ってる。アンタたちのいう強さは、本当の強さなんかじゃない。あたしたちはアンタのしていることを止めて、その道をひたすら突き進んでいく!」
「ティア・・・」
ティアナが出した答えに、スバルが笑みをこぼす。だが庵は笑みを消していた。
「あくまでオレたちと敵対するつもりか・・ならば後悔するがいい。お前たちが選んだ選択肢がいかに滑稽であったかを。」
庵の体から魔力が放出され、スバルとティアナが身構える。一気に間合いを詰めてきた庵の繰り出したクサナギの一閃が、スバルを弾き飛ばす。
「スバル!」
声を荒げるティアナが、スバルを援護しようとする。だが庵が間合いを詰め、クサナギの刀身をクロスミラージュの銃口に当ててきた。
「ぐっ!」
「これだけ詰め込まれた状態で引き金を引けば、暴発して自分にその衝撃がもろに跳ね返る。」
眼を見開くティアナに向けて、庵が鋭く言いかける。クサナギを振りかざしてクロスミラージュを弾くと、庵はティアナの腹部に一蹴を叩き込む。
嗚咽したティアナが横転し、その先の大木に叩きつけられる。うなだれる彼女を見て、庵が不敵な笑みを浮かべる。
「リボルバーキャノン!」
そこへスバルが再び飛び込み、魔力を帯びた拳を叩き込む。だがその一撃は庵のかざしたクサナギの刀身に阻まれる。
「お前の戦闘スタイルはシューティングアーツ。やや直線的になりがちなそのスタイルは、オレにとっては単調なものでしかない。」
言いかける庵が、クサナギから光刃を放つ。その衝撃に突き飛ばされ、スバルがうめく。
「スバル・・ぐっ!」
スバルの危機に立ち向かおうとするティアナが左足に痛みを覚える。
(さっきの攻撃で足が・・これじゃ、思うように動けない・・・!)
押し寄せる危機にティアナが毒づく。スバルも怯んで、体勢を整え切れていなかった。
「これで終わりだ。所詮お前たちは、オレにすら及ばない存在なのだ。」
庵が鋭く言いかけると、クサナギを構える。その光刃を突き刺そうと、彼は力を込める。
「スバル!」
ティアナが叫ぶ先で、庵が立ち上がれないでいるスバルに向けて光刃を突き出す。体を突き刺す鈍い音が響いたが、それはスバルの体からではなかった。
スバルと庵の間に割り込んできた人がいた。それは魔力を封じる枷をはめたままのガゼルだった。
「あなた・・・!?」
「ガゼル・・・!?」
スバルと庵が驚愕する。クサナギはガゼルの体を貫くに留まり、スバルには到達していなかった。
「あなた、どうして・・・!?」
「これが、守るということか・・久しく忘れていた高揚感だ・・・」
愕然となるスバルの前で、ガゼルが不敵な笑みを浮かべる。彼の体からクサナギが引き抜かれ、彼は吐血してその場に倒れる。
(レジアス中将・・それが、我々のすべきことだったのですよ・・・)
今は亡き上官を思いつつ、ガゼルは事切れた。その衝撃の光景を目の当たりにして、スバルが体を震わせる。
「愚かなヤツだ。最後にオレたちに刃向かうとは・・」
身を呈して守ったガゼルをあざ笑う庵。その言葉が、スバルの怒りに火をつけることとなった。
緑がかった瞳の色が金色に染まり、眼つきもより鋭いものとなった。戦闘機人としての力が発動されたことを示唆していた。
「この人は、あたしを庇ってくれた・・あたしも大切なものを守るために、全力で戦う!」
いきり立ったスバルが庵に飛びかかる。彼女が繰り出した拳を、彼は紙一重でかわす。
だがそのとき、庵は異変を感じて眼を見開く。スバルの拳に振動がかかっており、その衝撃が伝わってきたのだ。
(この破砕効果・・直撃すれば、オレでも危ういか・・・!)
胸中で毒づいた庵がクサナギを振りかざす。刃を持つ手に力を加えて振動をかけることによって、スバルの攻撃と相殺させた。
スバルの猛攻は、庵のインファナイト・リザレクションの妨げとなっていた。だが2人の戦いを見ていたティアナはこの状況を楽観視していなかった。
(確かにスバルが押してるように見えるけど、あれじゃすぐに力を使い果たしてしまう・・・!)
追い込まれていると判断するティアナだが、痛めた足が枷となり、思うように動くことができない。援護することができず、彼女は歯がゆさを募らせた。
起動六課本部から離れ、フェイトはモデナと交戦していた。2つの金色の刃がぶつかり合い、火花を散らす。
「やっぱり面白いね!アンタもあたしと同じ、アリシアのクローンだからね!」
モデナがフェイトに向けて歓喜の笑みを見せる。互いの攻撃を相殺し、2人は距離を取る。
「でもね、アンタはあたしには勝てない。だって、あたしは世界一強いんだから・・・!」
モデナが無邪気な笑みを一変させ、殺意に満ちた鋭い眼つきをする。彼女の手にしていた斧が形状を変え、巨大な剣となる。
「その形・・・ザンバーフォーム・・・!?」
フェイトがモデナの手にした武器を目の当たりにして、驚きを見せる。その形状はバルディッシュのフルドライブ「ザンバーフォーム」と同じだった。
「そのくらいのことで驚いてる場合じゃないって!せめてたっぷり楽しませてから潰れちゃいなって!」
モデナが笑みを強めて、フェイトに飛びかかる。
「フェイトさん!」
そこへ明日香が飛びかかり、オールラウンドデバイス「ウンディーネ」を振りかざす。
“Drop Sphere.”
ウンディーネから放たれた水の弾丸が、群れを成して飛んでいく。だがモデナが放った一閃で、水の弾は全て弾き飛ばされる。
「邪魔しないでよね!あたしはフェイトと遊んでるんだから!」
言い放つモデナが明日香に向けて左手をかざす。その手のひらから金色の弾が放たれる。
「これは!?」
驚きを覚える明日香がとっさに回避行動を取る。だが弾の群れは軌道を変えて、彼女を追跡する。
「ティアナさんの魔法・・でもなぜ・・・!?」
明日香がモデナが放った魔法に疑問を抱いていた。それは紛れもなく、ティアナのクロスファイアシュート。フェイトの扱う魔法ではない。
「教えてあげる。あたしは精神リンクした相手の魔法を使えるようになるの。でもデバイスを使った魔法は別だけどね。」
「でもいつの間に・・・そうか、あの時・・!」
モデナが言い放つと、明日香が思い立つ。モデナはスバルたちが拘束されている際に、精神リンクを行っていたのだ。
「あの子たちの魔法はとりあえずは使えるようになったよ。でもあたしは、使えそうなものしか使わないけどね。」
モデナが無邪気な笑みを浮かべて、明日香を退ける。だがモデナはフェイトの接近に気付き、明日香への攻撃を止める。
“Zamber Form.”
バルディッシュもザンバーフォームへと形態を変える。フェイトとモデナが振りかざした光刃がぶつかり、火花と轟音を巻き起こす。
「だからムダだって。アンタじゃあたしに勝てないってさ!」
モデナがいきり立ち、フェイトを突き飛ばす。一瞬怯むも、フェイトはすぐに体勢を立て直す。
「彼女の言うとおりムダですよ、フェイト・テスタロッサ。あなたではモデナでは到底敵わない。」
そこへメトロがフェイトに向けて声をかけてきた。
「あなたがモデナに敗れた瞬間、私がスカリエッティを越えることになるのです。私があんな三流マッドサイエンティスト崩れなどに劣るはずなどないのですから。」
狂気に満ちた表情で哄笑を上げるメトロ。フェイト打倒こそがスカリエッティを超えることにつながる。メトロの頭にはそのことしかなかった。
「いいえ・・あなたもスカリエッティも同じです。自分の研究や野心のため、人の命を平然と弄ぶ、重犯罪者でしかない・・・」
そこへフェイトが鋭く言いかけてきた。その言葉にメトロが眉をひそめる。
「私がスカリエッティと同じ?アハハハハ・・・聞き捨てなりませんね・・・!」
その言葉をあざ笑うと、メトロが不満に満ちた睨みを見せる。
「あなたもスカリエッティも、自分の慢心のために多くの人々を不幸にしてきた。そしてそのどちらもが、私に大きく関わりのあること・・」
「そうですよ。あなたもモデナもアリシアをベースに生み出された存在。フェイト、あなたがモデナと同じように、己の感情のままに動くことになるでしょう。たとえあなたがそれを過ちと考えても、あなた自身でさえそれを否定することはできませんよ。」
フェイトの言葉に反論するメトロ。同じ血筋である限り、過ちを犯すことも同じ。彼はそれを示唆していた。
だがフェイトの心は揺るがなかった。彼女の脳裏に、自分を支えてくれた多くの人々の姿が、彼らと過ごした思い出が蘇る。
幼かった自分に笑顔を暮れた母、プレシア。
天涯孤独の身となった自分を家族の中へ迎えてくれたリンディとクロノ。
親や姉のように、公私ともに慕ってきてくれたエリオとキャロ。
そして親身になって励ましてきてくれた明日香。
彼らの支えがあったからこそ、今の自分がある。フェイトはそう確信していた。
「私はあなたが言うような間違いを犯さない。たとえ犯してしまったとしても、全力で止めてくれる、自分のことのように支えてくれる人たちがいる・・」
決意を強めるフェイトが、バルディッシュを持つ手に力を込める。
「私は、1人じゃない!」
言い放ったフェイトが身構え、モデナを見据える。振り下ろされたバルディッシュの光刃を、モデナも金色の刃で受け止める。
「言ってくれちゃって・・だけどね、それでもアンタは!」
モデナもいきり立ち、光刃を振りかざす。押されたフェイトに向けて、モデナが狂気に満ちた笑みを見せる。
「知ってるよ。ザンバーを越える形、ライオットがあることを。アンタがなかなか使ってこないから、あたしが先に見せちゃおうかな。」
笑みを強めるモデナが、手にしていた光刃を分割する。その形状はバルディッシュのリミットブレイクフォーム「ライオットフォーム」そのものだった。
ライオットフォームにおけるライオットブレードは、破壊力に特化したザンバーブレートと比べて切断力に特化している。
「さぁ!さっさとアンタも本気出しなさいよ!でないとそれ、すぐに叩き折ってあげるから!」
いきり立ったモデナが、フェイトに光刃を振りかざす。フェイトがとっさにバルディッシュで受け止めるが、光刃の威力に押されてしまう。
追い込まれるフェイトを見かねた明日香が、ウンディーネに意識を傾ける。
“Element form,ignition.”
ウンディーネがフルドライブの「エレメントフォーム」へと形を変える。魔力の一点集中に長けているエレメントフォームで、明日香はフェイトの援護に回る。
“Drive charge.Max ignition.”
明日香が魔力の一点集中を行うドライブチャージマックスを行う。
「行きますよ・・エレメントスマッシャー・マックス!」
“Element smasher,max ignition.”
明日香が収束させた魔力を、モデナに向けて放出する。だがモデナは光刃の1本でその砲撃を受け止め、もう1本でそれを両断する。
「えっ!?」
「もうっ!邪魔しないでよ!せっかく楽しく遊んでるんだからさ!」
驚愕の声を上げる明日香に、モデナが不満の声を上げる。モデナが明日香に向けて光刃を解き放つ。
だがその光刃が拳の一撃で破られる。ラックスが飛び込み、全力の一撃で明日香を守ったのだ。
「ラックス!」
「そうだよ、明日香、フェイト!あたしたちは、絶対に1人じゃない!みんながついてるんだから!」
明日香が叫ぶ前で、ラックスが不敵な笑みを浮かべて言い放つ。
「だから、邪魔しないでって言ってるでしょ!」
さらに苛立ちを見せたモデナが飛びかかり、光刃でラックスを叩き落とす。障壁で防いだものの、ラックスは一気に魔力をそぎ落とされてしまった。
そこへフェイトが金色の砲撃「プラズマザンバー」を放ってきた。モデナが2本の光刃を振りかざして、その砲撃を切り裂いた。
「あなたの相手は私よ、モデナ!」
「言ってくれるじゃないの、フェイト!」
互いに言い放つフェイトとモデナ。モデナの振りかざす光刃が、フェイトをさらに追い込んでいく。
モデナの放った一閃が、フェイトのバリアジャケットのマントを切り裂いた。迎撃して距離を取ったフェイトが、そのマントを引き裂いて脱ぎ捨てる。
モデナのさらなる猛攻に、完全と立ち向かうフェイト。だが、幾度かの刃の衝突を行ったときだった。
バルディッシュの光刃が、モデナの光刃を受けて粉々に破砕される。リミットブレイクのライオットフォームを模しているモデナの光刃に、ザンバーフォームのバルディッシュが耐えられるはずもなかった。
「これでおしまいだね、フェイト。あんまりじらすから、こんなつまんないゲームになっちゃうのよ。」
モデナが無邪気な笑みを浮かべて、フェイトに言いかける。
「こんなつまんないゲームはやる気がなくなるよ。だからもうアンタは邪魔なだけ。ひと思いに粉々にしてあげるよ・・・!」
いきり立ったモデナがフェイトに迫る。勝利を確信したメトロも、歓喜の笑みを浮かべていた。
そのとき、モデナが全身に重みを感じて動きを止める。その異変にメトロも眼を見開く。
「か、体が・・・どうなってるの・・・!?」
自分の身に何が起こったのか分からず、声を荒げるモデナ。彼女の持つ光刃も揺らぎを見せていた。
「思うように動けない・・力が入らない・・・!?」
「思ったとおり。限界が来たのよ。」
動揺するモデナに向けて、フェイトが真剣に言いかける。
「あなたはライオットと同じ形態の力を使いすぎた。その消耗が今やってきたのよ。」
「そんなことって・・・!?」
「リミットブレイクは文字通り限界突破。強大な力が発揮できる代わりに、消耗も激しい。それを長時間続けていけば、疲れるのは当然よ。」
愕然となるモデナに、フェイトがさらに言いかける。これは彼女と明日香の作戦だった。
モデナはフェイト以上の力を備えているが、感情の変化が激しく、力の制御もそれに影響されている。その点を突いたフェイトは自分の魔力を節約し、モデナにわざと力を出させて逆転のチャンスをうかがっていたのである。
「あなたはこれで終わりよ。これ以上戦えば、あなたの体のほうにも影響が出てしまう。」
「うるさい・・あたしは、アンタをやっつけないとイヤなのよ・・・!」
忠告を送るフェイトに対し、モデナが声を荒げる。その現状を見かねて、メトロが声をかける。
「何をしているのですか、モデナ。勝利は目前なのですよ。」
「うるさいわね、分かってるわよ!だけど体が言うことを聞かないのよ!」
メトロの言葉に、モデナが反発するかのように声を張り上げる。だが、それで納得するメトロではない。
「何を言っているのですか!?フェイトを倒すことが、私の最大の目的なのです!それを完遂するのがあなたなのですから!それができなければ、あなたは粗悪な存在でしかないということになるのですよ!」
「うるさいっ!」
声を荒げるメトロに我慢がならなくなり、モデナが苛立ちの赴くままに魔力を放つ。その光線がメトロの胸を貫いた。
「ぐあっ!・・バ、バカな・・・こんなことが・・・」
愕然となるメトロが吐血して倒れる。事切れた彼を目の当たりにして、フェイトも明日香も動揺を浮かべていた。
「もういい・・もういい!何もかも、みんなあたしが消してやるんだから!」
怒りに身を任せたモデナが強引に力を発揮する。魔力の光があふれ出す彼女を前に、フェイトと明日香は身構えた。