魔法少女リリカルなのは&エメラルえりな 第8話
起動六課の本部内を歩く1人の男。彼は混乱に陥った部隊の動向を伺っていた。
だが本部を出てすぐに、彼は足を止める。
「部隊長である君が、ここで油を売っている場合ではないはずだが?」
男は声をかけてから後ろに振り返った。そこには真剣な面持ちのはやてがいた。
「あなたこそこんなところで何をしてはりますん?・・聞かせてもらいます・・シャーク中将。」
はやてが男、シャークに向けて問いかける。悠然さを崩さずにいるシャークに向けて、はやてはさらに問い詰める。
「中将、起動六課とデルタに対する通信妨害を行っていたのは、中将、あなたですね・・・!?」
「私が?なぜ私がそんなことをする必要がある?」
ところがシャークははやてに向けて疑問を返す。だがはやてには全てお見通しだった。
「とぼけてもムダや。あなたたちの話は全て聞かせてもろうてる。」
はやてのこの言葉に、シャークがようやく眼つきを変える。
「起動六課に襲撃してきたえりな。そして健一たちを攻撃したなのはちゃん。それらは全部あなたの差し金。ピノさんの仕業です。」
「ピノの仕業?」
「知らんとは言わせへん。ピノさんは使い魔の中でも、完璧な変身能力を扱えることを。」
疑問符を浮かべてみせるシャークに、はやてが言いかける。彼女は彼の使い魔であるピノの変身能力を知っていた。
使い魔の多くは変身魔法の扱いに長けている。だが実在する人物に変身する場合、その人物に関する情報を細大漏らさず記憶しなければ、本物との差異が生じてしまう。かつてなのはとフェイトに化けたリーゼアリア、ロッテ姉妹も、本物との差異を表していた。だが今現在、外見上の差異が一切ない変身を可能としているのはピノである。ピノは触れた対象と精神リンクを果たし、その情報をもとに完全な変身を実現することが可能なのである。
「不完全な変身では、私たちにはすぐにバレてまう。せやけど完璧な変身ができるピノさんやったら・・・」
「確かにピノの変身能力は完璧であるといえる。彼女ならその気になれば実行することも可能だろう。だが確証はない。」
「いや、ピノさんの変身は完璧やなかった。完璧にできへんやった・・・!」
悠然さを崩さないシャークに対し、はやては鋭く言い放つ。
「完璧な変身をするためには、変身する相手の情報を正確に読み取る必要がある。せやけど精神リンクの際に性格や記憶を読み取ろうとすると、レベルの高い精神力の持ち主やったらすぐに気付かれてまう。せやからなのはちゃんやえりなに完璧になりきれてない。」
はやての言葉に対し、シャークは悠然さを崩さない。だが彼女の推測は彼の行動において的中していた。
「幼かった夜天の主も、ずい分とたくましくなったものだな。」
シャークは笑みをこぼすと、眼つきを鋭くして話を続ける。だが彼は笑みを消してはいない。
「確かに君の言うとおりだ。今回のピノの変身は完全とはいえない。相手は無敵のエースと賞された2人。深入りすれば精神リンクに気付かれてしまうからね。不足した部分は、これまでの戦闘データや履歴などの情報を極力採取して補った次第だ。だが、それでも君たちを完全に欺くことは不可能だったようだ・・・」
「どんなに姿をそっくり真似ても、私たちには分かる・・なのはちゃんやえりなが、有無を言わさずに誰かを傷つけたり、何かを壊したりせぇへん!」
淡々と説明を入れるシャークに、はやてがついに感情をあらわにする。
「監視させていたのだな、リインフォースくんに。だがたとえ泳がせても、この現状は覆らない。」
「何でや・・何であなたほどの人が、こんなことを・・・!?」
「それは、この世界が偽りでしかないからだ。」
問い詰めるはやてに、シャークは淡々と答える。
「君には教えておこう。私もフェイトくんたちと同じ、プロジェクトFによるクローンなのだよ。」
シャークが明かした真実に、はやては息を呑む。
「私のオリジナルは10年前に任務中に命を落とした。しかしそれは極秘の単独任務だったため、関係者は一切口外せず、私の蘇生を秘密裏に行い、死亡を隠滅しようとした。プロジェクトFのクローン技術でね。結果、クローンの誕生という形で私は蘇った。その関係者が管理局に深く精通した人間であったため、公にはならなかった。だがクローン故の不条理は被った。結局は偽りの命でしかないという見解。それはいつしか、存在そのものが偽り、という見解に至ってしまった。」
「偽りの存在・・・」
「だが、それは誤った見解だ。たとえクローンであろうと、命を持つものならばそれは偽りではない。だが周囲はそれを受け入れようとしない。そこでそう思った。偽りなのは私ではなく、この世界そのものではないかと。」
「何でそんなそんなことに・・何でこの世界が偽りになるんや・・・!?」
「言葉の通りだよ。人間も使い魔も、人でない存在でさえ交流の持てる世界。それが本来あるべき姿なのだよ。」
困惑を覚えるはやてに、シャークは淡々と語りかける。
「君も理解しているはずだ。人でない存在への、不条理といえる扱いを。君と公私共に関係の強い守護騎士、ヴォルケンリッターの面々。本来夜天の書の蒐集とその主の護りのためのプログラムとして存在する彼らは、人の心に属する態度を見せたことがなかった。君が主になるまでは。」
シャークとはやての脳裏に、シグナムたちの姿が蘇る。
「君は彼らを家族同然に接し、結果彼らに人の心をもたらした。結果的に彼らは蒐集の行使に至ったが、それは夜天の書に蝕まれていた君を救わんとしたため・・君にも私の見解が理解できるはずだろう。命をものとされていく者の苦痛を。」
「確かに命や人をもの扱いしたらあかん。せやけど、この不条理を消すために恨んだり壊したりしても、何も残らへん。」
はやての答えにシャークが眉をひそめる。
「誰だって手を取り合っていける。私はそう信じてる・・傷つけるだけの世界なんて、私は認めへん!」
「認めない?・・傲慢だね。さすがは夜天の主というべきか。」
「傲慢なのはアンタや。アンタのやってることは、アンタを虐げてきた人たちと変わらへん。それなのに自分だけが世界を変えられると思って・・・!」
「だが君の思う交流よりも、私が抱く破壊による世界の再生。どちらが尊ぶべきか、すぐに君も気付くことになる。」
「破壊による再生なんてありえへん。壊すことより、守ることのほうが強いってこと、みんなから教えてくれた・・・そのことを、アンタにも教えてあげる!」
はやてはシャークの言葉に反論すると、首にかけていたペンダントを手に乗せ、意識を集中する。
「シュベルトクロイツ、セットアップ!」
はやての呼びかけを受けて、待機状態にあったアームドデバイス「シュベルトクロイツ」が起動する。十字を思わせる杖が出現し、彼女も白と黒を基調としたバリアジャケットに似た騎士服を身にまとう。
「あなたがみんなを傷つける言うんなら、私はみんなを守る!」
「それが君の答えか・・では見せてもらおうか。夜天の魔導書、最後の主の、真の実力とやらを・・・!」
決意を言い放つはやてに対し、シャークが不敵な笑みを浮かべる。
そこへピノが飛び込み、はやてに向けて一蹴を繰り出してきた。はやてはシュベルトクロイツを掲げると同時に障壁を展開し、その一蹴を受け止める。
「シャークの手を煩わせるまでもありませんよ。うまく戦えば、私だけでも十分に勝つことができますよ。」
ピノがはやてに向けて悠然と言い放つ。
「あなたも私の変身はご存知ですよね?私は対象と精神リンクを果たして情報を入手。それを元にして完全な変身を行うのです。もちろんあなたたちも、これまでの交流の中で入手させていただきました。気付かれないようにね。」
「それでなのはちゃんやえりなに化けたんやね・・・」
「デバイスの変化はこのデバイスがもたらしてくれました。グラン式オールラウンドデバイス“トランス”。正式な形を持たないデバイスですが、裏を返せばどの形にもなれる驚異的な性能を備えているといえます。」
ピノははやてに向けて、一条の杖の形をした光を見せる。「トランス」が一時的に取っている形であった。
「そしてはやてさん、あなたのデータも入手していますよ。あなたにもなのはさんにもえりなさんにも、私は握手を交わしています。」
「そんときに精神リンクをしたんやな。」
「あなたもこの経験はないでしょう。偽者とはいえ、自分自身と戦うことになるとは・・・」
ピノの姿が徐々に変化を起こす。その姿は眼前にいるはやてそのものだった。そして不定形だったトランスも、シュベルトクロイツと同じ形状になっていく。
「これは、私・・・!?」
「そうや。私はアンタと同じ・・最も、話し方、性格、魔法は全て、あなたのデータを参考にしたモノマネでしかありませんが。」
驚きを見せるはやての前で、彼女に化けたピノが語りかける。始めは彼女の口調を見せたが、すぐに本来の口調に戻した。
「では始めましょうか。自分自身の魔法で、崩壊する世界の中で朽ち果てなさい。」
ピノははやてに言いかけると、トランスを構えて意識を集中する。
「漆黒の波動・・デアボリックエミッション!」
ピノが発動させた魔法に、はやてが眼を見開く。ピノを中心に、稲妻を帯びた漆黒のエネルギーが放出される。
はやては飛翔してそのエネルギーを回避する。魔法の中でも難易度の高い空間攻撃を易々とやってのけたピノに、はやては少なからず驚きを覚えていた。
「驚いているようですね。空間攻撃の魔法を模倣するのは骨が折れましたよ。だが会得した甲斐は十分にありましたよ。」
「私の魔法も使えるいうんやね・・ほんまに厄介やな。自分を相手にすんのは・・」
互いに笑みを浮かべるピノとはやて。そこへシャークが飛翔し、はやてに向けて右手をかざす。
「残念だが、これは模擬戦でも試合でもない。戦闘、いや、戦争だよ。」
「せやから、正々堂々と相手する必要はないと・・・」
シャークの言葉にはやてが鋭く言い放つ。
「では始めようか。本格的な戦争というのを。」
シャークは不敵な笑みを浮かべると、はやてに向けて魔力の弾を放つ。はやても即座に魔力の弾をぶつけ、相殺する。
はやては飛翔してシャークとの距離を取り、シュベルトクロイツを掲げて意識を集中する。
「彼方より来たれ、やどりぎの枝。銀月の槍となりて、撃ち貫け・・石化の槍、ミストルティン!」
詠唱を行ったはやてが、シャークとピノに向けて、石化の効果のある光の槍を放つ。
「なるほど。それが夜天の書特有の石化魔法か。それで私の動きを封じるつもりなのだが・・」
シャークはミストルティンの分析を呟くと、軽やかな動きで光の槍をかわしていく。標的を外れた槍は、その先の木々に命中して石化させる。
「当たらなければどうということはない。」
「私の魔法をかわすなんて・・・!」
笑みを強めるシャークの身体能力に、はやてが毒づく。シャークは体力の衰えにより、実戦的な訓練はピノに代行させていた。
「驚いているようだが、私が体力に衰えがあるのは本当だよ。ただ、魔力に関しては衰えは微塵もないよ。」
「もっとも、これも全てはあなたたちの意表を突くためなのですが。」
シャークに続いてピノが淡々と語りかける。2人がはやてに向けて魔力を収束させていく。
「たとえ君でも、これだけの魔力を2つ、しかも同時に仕掛けられれば、無事ではすまないだろう。」
シャークの言葉を耳にして、はやてが眼を見開く。放たれた2つの閃光がはやてを飲み込み、爆発を引き起こす。
シャークとピノの同時攻撃を、とっさに張った障壁で防いだはやて。だが攻撃の全てを跳ね返したわけではなく、彼女は一気に魔力をそぎ落とされていた。
「王手、といったところか。さすがの君も、私とピノを1人で相手にするのは酷だったようだね。」
シャークははやてに言いかけると、再び右手をかざして魔力を収束させる。
「我々は破壊による再生をもたらす。君たちも望んでいる、この世界の本来あるべき形を成すために。」
シャークが淡々と語りかける。はやてが身構えて打開の策を模索するが、2対1の状況は彼女にとって不利だった。
「君には感謝しているよ。ありがとう、八神はやてくん。そして、さようなら、だ・・・」
シャークは言い放つと同時に、はやてに向けて魔力を放出する。迎撃を試みようとするはやてだが、突如光の縄に体を縛られる。
(フープバインド!?・・なのはちゃんのものを・・・!)
はやてがバインドを仕掛けたピノに毒づく。シャークの放った閃光が、身動きの取れないはやてに迫る。
そのとき、閃光が別方向から飛び込んできた一閃に叩き伏せられる。
「何っ!?」
シャークが眼を見開き、ピノが一閃の飛んできたほうに振り返る。
「上官が部下を殺そうとするなんて、ずい分と穏やかじゃないっスね、中将。」
そこへシャークに向けて声がかかる。そこにはシェリッシェルを手にするユウキの姿があった。
「ユウキさん!」
はやてがユウキに呼びかけて、ピノがかけたバインドを弾き飛ばす。
「僕たちもいますよ、はやてさん!」
そこへさらに声がかけられる。グラン式ドライブチャージシステムを組み込んだアームドデバイス「ストリーム」を手にするアレンと、ミラクルズを手にする玉緒の姿があった。
「バカな・・・!?」
「そんな!?今もジャミングは続いている上に、外部に知られないために結界も張ってる!気付かれるはずが・・・!?」
3人の登場にシャークとピノが驚愕する。外部との隔離を徹底させて臨んだにもかかわらず、彼らが乱入してきたことが信じられなかったのだ。
「リインからの情報はオレたちにも伝わってる。けどあんまり騒ぎになると警戒されると思ってね。」
「それで僕たちがやってきたわけですよ。」
ユウキとアレンがシャークたちに向けて説明を入れる。
「なのはさんとえりなちゃんのところには、シグナムさんが向かってます。本部の守りもフェイトさんたちが・・」
さらに玉緒が呼びかけ、シャークたちに眼を向ける。信頼ある仲間の助けを受けて、はやてが笑みを浮かべる。
「形勢逆転やね。これは戦争、せやから卑怯も何もない。そう言うてはりましたね?」
はやてが言い放った言葉に、シャークが苛立ちをあらわにする。普段冷静沈着に振舞っている彼があまり見せない、憤りの感情だった。
「玉緒、君ははやてちゃんを頼む!オレはアレンと中将を止める!」
「分かりました!」
ユウキの呼びかけに玉緒とアレンが答える。玉緒が降下してはやてを支える。
「大丈夫ですか、はやてさん!?」
「うん・・助かったよ、玉緒・・」
呼びかける玉緒に、はやてが微笑んで答える。2人は別れて、はやてに化けているピノを見据える。
「こっちも切羽詰ってる状況や。早く済まさせてもらいますよ。」
「いくらモノマネできても、1人しか変身できないみたいですね。」
はやてと玉緒に呼びかけられて、ピノが毒づく。自分たちと同じ、あるいは上の場合に有力するのがピノの戦法であり、人数的不利な状況下では意味を成さない。
「たとえ2対1であっても、夜天の力を模している私には、確実な劣勢ではないはず・・・!」
ピノは自分の力を信じて、迎撃体勢を取る。玉緒がミラクルズをかざして、魔力を収束させる。
「“あたしはあたし”!たとえうまく化けていても、本当の“あたし”にはなりきれないよ!」
“Malti force.”
玉緒が言い放つと同時に、幾条もの光を放出、連射する。光はピノを狙いながら、彼女を包囲する。
「これで追い詰めたつもりですが、私ははやてさんの魔法を使えるのですよ。」
ピノは言い放つと、全身から稲妻を帯びた球状のエネルギーを放出する。ピノのデアボリックエミッションが、玉緒のマルチフォースの多くをかき消していく。
「せやけど、どんなにそっくりなように見せても、結局はニセモン。全く同じにすることはできへん!」
そこへはやての声がかかり、ピノが眼を見開く。はやてがシュベルトクロイツを掲げて、魔力を収束させていた。
「来よ、白銀の風。天よりそそぐ矢羽となれ・・フレースヴェルグ!」
はやてがピノに向けて、純白の閃光を解き放つ。閃光はピノの漆黒のエネルギーを貫き、彼女を撃ち抜く。
「ぐ、ぐあぁっ!」
押し寄せる激痛に耐えかね、ピノがうめく。ダメージを受けすぎた影響で、はやてに変身していた彼女が元の姿に戻る。
力を使い果たし、地上に落下するピノ。それを見送ってから、はやてと玉緒が安堵の吐息をつく。
「ひと段落ついたというところやね、玉緒・・」
「あたしも少し張り切りすぎちゃいました・・でも、まだ休むには早すぎますね・・」
はやてと玉緒が声を掛け合う。2人はシャークと対峙しているユウキとアレンに眼を向けた。
ユウキはシャークに対してやるせない気持ちを抱いていた。これまで多くの武装局員を教育してきたシャークがこのような暴挙に出たことが、彼には信じられなかった。
「シャーク中将、なぜこんなことを・・あなたのような人が、こんなことをすることが、オレには信じられない・・・」
ユウキが歯がゆさを込めて言いかける。だがシャークは悠然さを崩さないでいる。
「君も私の考えに賛同できないか・・ならば私と君たちは、敵対するしかない。」
「あくまで自分の意見を変えないか・・アンタらしいといったらアンタらしいけどな・・だったらオレも、オレらしくアンタを止めるしかないようだな!」
シャークに対し、ユウキが光刃を発しているシェリッシェルを構える。
「僕は暴徒化した上官に対する部下の気持ちを何よりも知っています。あなたのために、他の誰かを悲しませるようなことはあってはならない・・だからシャーク中将、僕はあなたを、全力で止めます!」
アレンも自分の気持ちを切実に言い放つと、シャークに向けて飛びかかる。
“Zerstorung Blatt.”
彼の持つストリームの刃が、シャークに向けて振り下ろされる。シャークはその一閃を、手のひらで発した障壁で受け止める。
「君も君の信念を貫くか。だがこの程度では私は止められないぞ。」
「それはどうかな!」
アレンに向けて言い放つシャークに向けて、ユウキが飛び込んできた。シャークはとっさにアレンを突き飛ばすと、ユウキがはなった一閃を飛翔してかわす。
「アレン、君の全力を叩き込むときだ!」
「ユウキさん・・・分かりました!ストリーム、エンドロースフォルム!」
“Endlos form.”
ユウキの呼びかけを受けたアレンの声を受けて、ストリームがフルドライブの「エンドロースフォルム」へと形状を変える。アレンの右腕と密接となるエンドロースフォルムは、彼からの魔力の供給を最短に行うことで絶大な力を発揮するが、ストリームだけでなく、彼自身にもかなりの負担をかける。そのため、彼がこの形状を取るのは、絶対に負けられない、絶対に自分を貫かなければならないときだけである。
「中将、僕の全力で、あなたの過ちを切り裂きます!」
「ならばやってみるがいい。君の全力で私を止めてみせろ。」
アレンの言葉に、シャークが不敵な笑みを浮かべて答える。
“Endlos schwert.”
アレンの右腕の光刃が光を強める。その刃を掲げて、彼は一気に飛びかかる。
シャークが持てる力の全てを振り絞り、向かってくるアレンに向けて魔力の光を解き放つ。だがアレンの突き出した一閃は、その膨大な光を切り裂いていく。
「これが僕の全力全開!エンドロースシュベルト!」
アレンがシャークに向けて、全力の一閃を繰り出す。その光刃が、シャークの魔力を一気にそぎ落とした。
一気に魔力を消費したシャークが、一瞬にして勝敗が決したことに愕然となり眼を見開く。
「これが僕の力・・ですがこれは、僕だけの力ではありません・・仲間たちが分けてくれたことで、こんなにも大きくなったのです・・・」
「仲間・・分かち合い、互いを支えあうことで生じる力・・・もっと以前にその力が生まれていたなら、私もここまで荒むことはなかっただろう・・・」
沈痛さを込めて告げるアレンに、シャークが微笑んで言いかける。力を使い果たしたシャークが、力なくその場に倒れ込む。
「この世界が、あなたをここまで荒れさせたというなら、オレたちがこの世界をよくしていく。あなたたちが果たせなかったことを、オレたちはやり遂げる・・・!」
ユウキがシャークに向けて決意を告げる。世界はまだまだ問題を抱えている。それらをひとつひとう解決していくことで、世界はよくなっていく。その道を全力で進んでいく。彼はそう決意していた。
「はやてちゃん、玉緒、大丈夫か?」
「はい!大丈夫です!」
ユウキの呼びかけに玉緒が答え、はやても微笑んで頷く。
「戻ろう。体力を回復させて出直しだ。」
「行きましょう、みなさん。」
ユウキのさらなる呼びかけにアレンが答える。4人は未だ混乱の中にある本部へと戻っていった。
起動六課本部に、新たなる脅威が迫ってきていた。モデナがメトロに連れられて、本部に攻撃を仕掛けてきた。
だが彼女を迎え撃ったのはフェイトだった。明日香からの励ましを受けたフェイトは、迷いを振り切り、モデナとの戦いに挑むのだった。
「思ったとおり出てきたわね、フェイト。こうして攻撃してれば、アンタは黙ってられずに出てくると思ったのよ。」
「これ以上、あなたたちの勝手にはさせない・・あなたたちを野放しにすれば、たくさんの人が悲しむことになるから・・」
無邪気そうに振舞うモデナに、フェイトが鋭く言い放つ。フェイトの持つインテリジェントデバイス「バルディッシュ・アサルト」が強く握り締められる。
「これは私がまいた罪・・その罪は、私自身で償わなくちゃいけない・・」
「何でもいいよ・・あたしはアンタをやっつけたくてしょうがないのよ!」
自分の心境を語りかけるフェイトの言葉を一蹴して、モデナが金色の戦斧を出現させる。
「エリオやキャロ、明日香たちのために、私は、あなたを止めなくてはいけない!」
「何ワケに分かんないこと言ってるのよ!」
決意を告げるフェイトに、モデナがあざ笑いながら飛びかかる。振り下ろされた金色の一閃を、バルディッシュの鎌が受け止める。
(ここで戦ったら本部が危ない・・シャーリー、私が彼女を引き付けるから、後はお願い。)
“フェイトさん!?・・分かりました!お任せください!”
思考を巡らせたフェイトの呼びかけに、念話にてシャリオが答える。フェイトはモデナを突き飛ばして距離を取ると、起動六課本部から離れ出す。
「このまま逃げられると思ってるの!?」
いきり立ったモデナが、フェイトを追いかけていく。
“待ちなさい、モデナ。乗せられていますよ。”
「うるさい!」
そこへメトロの念話が飛び込んでくるが、モデナは感情をあらわにしてそれを一蹴する。結果、モデナはフェイトの狙い通り、本部から離れることとなった。
「まぁいいでしょう。羽虫しかいない巣を突いても、私の力を見せ付けることになりませんからね。」
メトロは起動六課への攻撃をやめて、フェイト打倒に専念するのだった。
「私はフェイトさんを追いかけます。リッキー、シャマルさん、ザフィーラさん、後はお願いします!」
明日香がリッキーたちに呼びかけると、同じくフェイトを追って本部を飛び出していった。
なのはとえりなの異変の真相を確かめるため、先行していたシグナム。そこへリインフォースが彼女に追いついてきた。
「状況はどうなっている?」
「シャブロスが攻めてきています!でもみんなが迎え撃ってます!」
シグナムの問いかけにリインフォースが状況を告げる。
そのとき、2人は突如進行を止めた。その眼前に現れたのは、オメガとバサラだった。
「やっと見つけたぞ。」
オメガがシグナムに眼を向けて不敵な笑みを浮かべる。立ちはだかる彼に彼女は毒づく。
「悪いがお前の相手をしている暇はない。道を開けてもらおう。」
「それは聞けねぇなぁ!オレは貴様とやりたくてウズウズしてるんだぜ!」
シグナムがレヴァンティンを構えて呼びかけるが、オメガは笑みを強めるばかりで聞き入れようとしない。
「この状況が分かってるのか!?・・一刻も早く、この混乱を解消しなければならない・・でなければ、世界崩壊につながりかねないのだぞ!」
「世界崩壊?そんなこと、オレには全く関係のないことだ!」
ガゼルはシグナムの呼びかけを一蹴して、ディアブロウを振りかざす。シグナムがとっさに構えて、その一閃をレヴァンティンで受け止める。
「オレは強いヤツと戦えればそれでいい!他がどうなろうと、オレには関係ないことなんだよ!」
「貴様!」
狂気に満ちた笑みを浮かべるオメガに憤りをあらわにするシグナム。カートリッジロードを行ったレヴァンティンの一閃が、オメガを押し返す。
「貴様たちの勝手な理屈に、私たちは立ち止まるわけにはいかない!あくまで邪魔をするというなら、私は全てを賭けて、道を切り開く!」
シグナムが決意を言い放ち、レヴァンティンを構える。そのとき、彼女の隣にリインフォースが近寄る。
「私も参加させていただきます!みなさんの居場所を守るために!」
「邪魔すんなよ、小娘!せっかくの1対1(サシ)の勝負に水を差すな!」
リインフォースの言葉にオメガ反発するが、彼女は退かない。
「あなたの都合には合わせません!私たちには、ここを進まなくちゃいけない理由があるんです!」
「そうだな・・・行くぞ、リイン!」
「はいっ!」
シグナムの呼びかけにリインフォースが答える。
「ユニゾンイン!」
呼びかけとともに、2人のユニゾンが行われる。リインフォースと一体化したシグナムの髪のピンクが薄くなり、瞳も青色、騎士服も紫基調となる。
「ユニゾンイン・・やはり彼女もフュージョニストだったようですね。」
シグナムと一体化しているリインフォースに対して、バサラが落ち着いた態度で言いかける。
「フュージョニスト?」
「“ユニゾンデバイス”というと物扱いしているようで不愉快ですからね。私はこう呼んでいるのですよ。」
眉をひそめるシグナムに、バサラが補足を付け加える。
「オメガ、彼女たちは1対1をするつもりは毛頭ないわ。ならばせめて、2対2で相手をしても不満はないわよね?」
「不満なら大有りだぜ。ユニゾンなんて姑息な手段、できれば使いたくないのが本音だ。」
バサラが言いかけると、オメガが不満を口にする。だがシグナムとリインフォースが、その不満を受け入れるはずもなかった。
「仕方ねぇな!やってやるぞ、バサラ!お前とのユニゾン!」
「感謝するわね、オメガ。」
オメガが口にした言葉に、バサラが妖しい笑みを浮かべる。
「ユニゾンイン!」
呼びかけるバサラが、オメガに入り込んでいく。赤茶けていた彼の髪と衣服が漆黒に染め上げられていく。
「あなたたちのことは聞き及んでいるわ。夜天の書の結晶体、リインフォース・ツヴァイと、剣の守護騎士、シグナム。私の名はバサラ。重力操作を得意とするフュージョニストよ。」
オメガの中にいるバサラが名乗る。
「重力操作の魔法・・パワータイプのあの人とのユニゾンは、相性はどうあれ、重みはすごいはずです。」
「そうだろうな。だが私たちは、ここで立ち止まるわけにはいかない・・・!」
リインフォースの言葉にシグナムが答える。活路を切り開くため、2人は立ちはだかるオメガとバサラと対峙するのだった。