魔法少女リリカルなのは&エメラルえりな 第5話
エリオとキャロの前に立ちはだかった女性、ミウラとその相棒であるブルードラゴン、ガイア。ミウラは2人を見つめて、妖しく微笑む。
「私は子供が大好きなのよ。しかもあなたたちは、経緯はどうあれ高い潜在能力を備えていて、それを開花させている・・私にとっても、それは喜ばしいものなのよ。ウフフフ・・」
「どうして、こんなことを・・竜召喚士であるあなたが、どうしてシャブロスに・・・!?」
ミウラに向けて、キャロが悲痛の叫びを上げる。ミウラは笑みを消さずにそれに答える。
「あなたたちには特別に教えてあげるわ・・私はね、私の力を見せ付けたいのよ。私を恐れるあまりに切り捨てたこの世界の人たちにね・・・!」
言いかけるミウラの顔から笑みが消える。その語気には怒りと憎悪が込められていた。
「天空を司る蒼き閃光。我が翼となり、地を照らせ。舞い降りよ、我が竜、ガイア・・竜魂召喚!」
ミウラがガイアに対して召喚魔法を発動する。ガイアが真の姿である巨大な竜へと変身する。
「お嬢さんもその竜も高い潜在能力を秘めている。相手にとって不足はないわ。」
笑みを強めるミウラが戦意を見せ付ける。そこへエリオが飛び込み、ストラーダを振りかざしてきた。
その一閃をかわして、ミウラがガイアの背に乗る。
“Blitz shoot.”
ミウラのブーストデバイス「アザトース」から稲妻の矢が放たれる。ストラーダで攻撃を弾くエリオだが、矢は周囲の建物にも放たれており、被害をもたらしていた。
「街が!・・やめるんだ!これ以上、街やみんなを傷つけるな!」
「ウフフフ。私は別に気にしていないわ。私の力を認めない世界など、いっそのこと粉々にしてやるんだから。」
エリオが制止を呼びかけるが、ミウラは街への攻撃をやめようとしない。毒づいたエリオはフリードリヒに飛び乗り、キャロに呼びかける。
「このままでは街が危ない。場所を変えて引き付けよう。」
「うん。フリード、お願い。」
それを受け入れたキャロがフリードリヒに呼びかける。白き竜が翼を羽ばたかせ、街から離れていく。
「誘い出すつもりだということは分かってるけど、それに乗ってあげるわ。」
彼らを追って、ミウラもガイアを駆って街を離れ出した。
「エリオさんとキャロさんが!」
街から離れていくエリオ、キャロ、フリードリヒと、それを追うミウラ、ガイアを眼にするナディア。彼女の声にスバル、ティアナ、ロッキーも振り返る。
「あまり離れられると援護ができなくなる・・スバル、エリオたちを追って!」
ティアナの指示を受けて、スバルが駆け出そうとする。だがその前に青のファントムが降り立ち、行く手を阻む。
「ファントム・・こんなときに・・!」
毒づくスバルがファントムに向けて拳を繰り出す。そのとき、ファントムの色が突如青から赤に変化する。
そのファントムが、スバルの攻撃に耐え切る。色だけでなく、ファントムとしての声質も変化していた。
「これはまさか、ネオファントム・・!?」
ティアナがその性能に毒づく。ファントムの発展型の機械兵士である「ネオファントム」。ファントムの3種の性質を備えており、状況に応じてその性質を変化させることが可能である。
さらにナディアとロッキーの前にも、もう1体のネオファントムが立ちはだかっていた。
「こんなときに、こんなやりにくいヤツが邪魔してくるなんてよ!」
この状況にロッキーが苛立ちを見せる。
「焦りは禁物よ!ネオファントムはあたしたちの攻めに応じて性質を変えてくるわ!」
ティアナがスバル、ナディア、ロッキーに檄を飛ばす。
「こういう厄介な相手は、違う種類の同時攻撃に弱い。スバルたちはうまく注意を引き付けながら攻撃して。あたしもタイミングを合わせて攻撃を入れるから。」
「ティア、了解。ナディア、ロック、行くよ!」
「分かりました!」
「おっし!」
ティアナの指示にスバル、ナディア、ロッキーが答え、ネオファントムを旋回する。彼らとともに、ティアナも2つのクロスミラージュを構えて、砲撃のタイミングをうかがった。
街への被害を避けるため、街の外の森林地帯の上空へと移動してきたエリオ、キャロ、フリードリヒ。彼らを追ってミウラとガイアが駆けつけてきた。
「ここなら心置きなく戦える、ということかしら?」
妖しく微笑むミウラを見据えるエリオとキャロ。
「どうして・・あなたのように力のある人が、どうしてこんなことを・・・!?」
「自分の力を見せ付けるために、関係のない人たちまで襲うなんて・・・そんなことをしても、力の証明にはならないよ!」
キャロとエリオが沈痛さを込めてミウラに呼びかける。
「だからよ。普通なやり方じゃ、誰も私を認めてくれない。もはや意図的ともいえるほどに、この世界の人間は私を認めようとしない。認めることを恐れてるのよ。」
ミウラは淡々と答えると笑みを消し、エリオとキャロを鋭く見据える。
「その考えをすること自体が間違いであり、恐怖する原因であることを痛感させる。それが私の力の証明の第一歩となるのよ。」
「それは違う!そんなことじゃ、逆に誰もその証明を認めてくれない!」
「ではどうすれば認めてくれるっていうのよ!」
さらに呼びかけるエリオの言葉に、ミウラがついに感情をあらわにする。
「誰も認めない。認めようとしない・・だからこんな世界が壊れることを、私は不快には思わない!」
ミウラが叫ぶと同時に、ガイアが口から紅い炎を放射する。
「フリード!」
キャロの呼びかけを受けて、フリードリヒが左上方へ移動し、ガイアの炎をかわす。
「今度は逃がさないわよ。」
“Spark wave.”
ミウラのかざしたアザトースから電流がほとばしり、フリードリヒの背に乗るエリオとキャロを脅かす。体勢を崩された2人がフリードリヒの背から落ちる。
キャロを抱えて、エリオはストラーダを駆使して地上への落下を避けようとする。だがミウラは攻撃の手を緩めなかった。
「ガイア、ホワイトブレス!」
ミウラの呼びかけを受けたガイアが、口から冷気を吐き出す。その冷たい息がエリオとキャロに降りかかり、2人の体を凍てつかせる。
落下のために自由な行動ができない上に虚を突かれたため、冷気によって氷付けにされてしまうエリオとキャロ。だがフリードリヒがとっさに、紅い炎「ブラストフレア」を氷塊に閉じ込められて落下するエリオとキャロに吹き付ける。
白き竜の火炎によって、氷付けから脱したエリオとキャロ。
“Dusenform.”
エリオは即座に「デューゼンフォルム」となったストラーダを使い、浮遊する。その間にフリードリヒが降下し、2人を受け止める。
「ありがとう、フリード。助かったよ。」
エリオが感謝の言葉をかけると、フリードリヒが咆哮を上げる。だがエリオもキャロも、ブルードラゴンであるガイアに脅威を感じていた。
「ブルードラゴン・・炎だけじゃなく、氷も操る竜・・」
「しかもあのガイアは、かなりの力を持ってる・・・」
キャロとエリオが言いかける前で、ミウラが悠然と構える。
「あなたの竜も大したものね。でもガイアの氷は光と見間違えるくらいにまぶしく・・」
ミウラの言いかける中、ガイアが大きく息を吸い込む。
「同じ竜族でも一瞬にして凍てつかせる・・・シャイニングブレス!」
ミウラが眼を見開いて言い放つと、ガイアがエリオたちに向けて冷気を放つ。その息は彼女が述べたとおり、光のように輝く息だった。
“Unwetterform.”
“Second mode.”
その息に飲み込まれたエリオ、キャロ、フリードリヒ。ガイアの放った輝く息「シャイニングブレス」は、一瞬にして彼らを氷塊へと閉じ込めた。
「ウフフフ。いくらあなたたちが上位の局員や竜でも、ガイアのシャイニングブレスからは逃れられない。その氷を自力で破った人は、今までいなかったわ。」
氷付けにされているエリオたちを見つめて、ミウラが妖しい笑みを浮かべる。
「でも褒めてあげる。あなたたちは私が今まで戦った相手の中で上位のレベルだった・・こんな形でなければ、仲良くなれたかもしれなかったわ・・・」
ミウラはため息をついて、残念に思う。彼女はエリオとキャロの力量を高く評価していたのだ。
「それじゃ、残りの子たちもやってしまうとするわね。ネオファントムで十分だと思うけど、念には念を入れておかないと。」
ミウラが言いかけ、ガイアがきびすを返そうとしたときだった。
“Thunder rage.”
“Boosted protection.”
エリオたちを封じ込めていた氷塊から光があふれ出す。その氷塊が粉砕され、エリオたちが解放される。
「なっ!?」
その光景にミウラが驚きを見せる。彼女たちを見据えるエリオとキャロの持つデバイスに変化があった。
ストラーダには金色の突起が、ケリュケイオンには白い羽が現れていた。
「どういうこと・・ガイアの氷は、たとえ上位の竜でも壊すことはできないはず・・・!?」
脱出したエリオたちに驚愕するミウラ。そこで彼女は、彼らの周囲に稲妻を帯びた球状の光の障壁が展開されていることに気付く。
「バリア・・いつの間に・・・!?」
この事態に毒づくミウラ。凍らされる直前、エリオとキャロは「サンダーレイジ」と「ブーステッドプロテクション」で防御を行い、完全に凍らされるのを防いだのである。
「あなたの気持ち、分かります・・私もそうだったから・・・」
キャロが切実な心境でミウラに語りかける。
「私も召喚士の中では強い力を持っていました。だから私は仲間はずれにされてしまったんです・・そんな私を保護してくれたのが、フェイトさんだったんです・・・」
「僕もです。僕も今のあなたのように、何もかも信じられなくなった時期がありました。自分を認めようとしないものを壊さないと気が済まないくらいに・・そんな僕の気持ちを親身になって受け止めて、励ましてくれたのが、フェイトさんでした・・・」
キャロに続いてエリオも自分の心の内を打ち明けた。
キャロは潜在能力の強さから、一族から迫害を受けている。エリオも家族や管理局の言動から人間不信に陥ったことがある。そんな2人を保護し、頑なとなっていた心を解かしたのがフェイトだった。苦境に立たされた少年少女の気持ちを痛感し、親身になって励ましてくれた彼女の存在が、今の2人へと導いたのである。
「フェイトさんがいなかったら、今の僕たちはなかった。多分、あなたのように、誰かに認めてもらおうとして、そして何もかも信じられないまま、全てを憎んで壊してしまっていたかもしれない・・・」
「・・・私もそのような人に出会えたなら、あなたたちのようになれたかもしれないわね・・・」
エリオたちの言葉を聞いて、ミウラが皮肉を呟く。
「でも・・もう遅いのよ・・何もかもが!」
しかしすぐに感情をむき出しにして、彼女は叫ぶ。
「天地を穿つ紅蓮の咆哮、果て無き空の永遠の護り手、我が元に舞い降りよ、紅き炎の天空の守護者・・竜騎招来、天地轟鳴・・降臨せよ、オウガ!」
ミウラが新たに召喚魔法を発動させる。彼女とガイアの背後に、紅蓮の炎を身にまとった巨人が姿を現した。
「全てを見通す水の癒し、水面に浮かぶ輪廻の護り手・・舞い降りよ、蒼き清浄の海の守護者・・海神招来・・降臨せよ、ポセイドン!」
そして新たに、水しぶきを体から放出させている人物が出現する。腕と頭部に魚のエラがあり、手には先端の刃が3つに別れた槍、トライデントが握られていた。
「私のパートナーはガイアだけではない。炎の竜騎、オウガと水の竜騎、ポセイドン。炎と水、それぞれの属性の力に特化していて、それだけの濃度はガイアを超えるわ。」
妖しく微笑むミウラに召喚された2体の竜騎、オウガとポセイドンが、エリオ、キャロ、フリードリヒも前に立ちはだかる。
「さぁ、あなたも見せなさい。あなたにもあるのでしょう?竜と並ぶ竜騎が。」
ミウラがキャロに向けて呼びかける。困惑を浮かべるエリオに視線を向けられながら、キャロは小さく頷いた。
「天地貫く業火の咆哮、遥けき大地の永遠の護り手・・我が元に来よ、黒き炎の大地の守護者・・竜騎招来、天地轟鳴・・来よ、ヴォルテール!」
キャロの詠唱を受けて、黒い巨人、ヴォルテールが姿を現す。黒と紅。2体の巨大な竜騎が互いを見据える。
「それがあなたの竜騎ね。相手にとって不足はないわ。」
ヴォルテールに眼を向けて、ミウラが笑みを強める。そして彼女はエリオに視線を移す。
「坊や、あなたの相手はポセイドンよ。ポセイドンの水と氷にどこまで耐えられるかしらね。」
ミウラの言葉を受けて身構えるエリオ。その傍らでヴォルテールとオウガが組み付き、力比べを行っていた。
「まだだ!あなたたちはやり直すことができる!今度は僕たちが、あなたたちを支えるから!」
「私たちを支える?言ったはずよ。もう遅いって。たとえあなたたちが全てを賭けて支えたとしても、この世界の愚かさに必ず押しつぶされることになる。押しつぶされるくらいなら、私はこの世界の全てを壊す!」
ミウラが叫ぶと、ポセイドンがエリオに向かって飛びかかる。振り下ろされた海神の槍を、エリオがストラーダで受け止める。
押し返して反撃に転じようとするエリオ。だがポセイドンの槍から冷気がほとばしり、彼はとっさに後退して回避する。
(危なかった・・このまま攻め一辺倒になってたら、また氷付けにされてた・・)
慎重に対応しようとするエリオ。その先でポセイドンが頭上で槍を回転させ、水と冷気を収束させる。
“Speerangriff.”
カートリッジロードを行ったストラーダを構え、エリオが突進する。ポセイドンが収束させた水を解き放つ。
貫通で水を突き崩そうとするエリオだが、水を取り巻く冷気は協力で、彼はその凍結に飲み込まれてしまう。
ポセイドンの濃厚な冷気を浴びて、氷塊に閉じ込められるエリオ。ポセイドンが槍を振りかざし、彼にゆっくりと近づいていった。
フリードリヒの背に乗るキャロと、ガイアを駆るミウラ。不安の色を隠せないでいるキャロを、ミウラが妖しい笑みを浮かべて見つめる。
「これで存分に戦えるわね。あなたたちと私たち、勝っても負けても、周りもいい加減、追放や過小評価をしなくなるわよ。」
「ダメだよ・・こんなことをしても、何の意味もないよ・・・!」
戦意をむき出しにするミウラに、キャロは沈痛さをあらわにする。ガイアが炎を吹き出すと、フリードリヒも炎で迎撃する。
2体の竜の炎が衝突し、相殺する。ガイアは即座に前へ駆け出し、フリードリヒに突進を仕掛ける。
激しい空中戦を繰り広げるフリードリヒとガイア。その間に、キャロとミウラが互いを見据える。
「何もしないことこそが無意味!だからこそ行動を起こすのよ!」
「だからって、壊してしまうことからじゃ、何も生まれない!人は気持ち次第で、持てる力で何かを守れる!何かを生み出せる!私たちも、あなたたちも!」
言い放つミウラに、キャロはさらに呼びかける。
「バーニングブレス!」
「ブラストフレア!」
ガイアとフリードリヒが全力の火炎を放出する。2つの炎がぶつかり、力比べに持ち込まれる。
「あなたたちの心に、新しい優しさを生み出してみせるから!」
キャロのこの言葉に、ミウラが動揺を覚える。その油断が、2人の竜召喚士の優劣を明確にした。
ミウラも人一倍強い優しさを持っていた。だが一族からの迫害と周囲への不信感が、その気持ちを荒ませた。優しさに満ちた幼い自分は、いつしか彼女が忘れていた色あせた記憶だった。
(そうか・・・私はいつの間にか、この気持ちを忘れていたのね・・・)
ガイアとともに地上に落下していくミウラが、自分の中に秘められていた感情を思い返していた。
そんな彼女と力を使い果たしたガイアが、降下したフリードリヒに受け止められる。再び眼を開けたミウラが、じっと見つめるキャロに微笑みかける。
「信じて、私たちを・・あなたたちを信じる私たちを・・・」
「・・・そうね・・お嬢さんと坊やなら、信じてあげてもいいかも・・・」
切実に言いかけるキャロに呟きかけて、ミウラは眼を閉じた。意識を失った彼女を見つめて、キャロも微笑みかけた。
ポセイドンによって氷付けにされていたエリオ。だが彼は稲妻の魔力を放出し、氷塊から脱出した。
「僕は諦めない・・僕が諦めたら、君たちに笑顔は戻らないから・・・」
槍を構えるポセイドンに向けて鋭く言い放つエリオ。
“Stahlmesser.”
「守ってみせる・・みんなのいるこのせかいも・・君たちの心も!」
“Messerangriff.”
エリオがポセイドンに向かって再度突進する。金色の刃を発したストラーダを、彼は全力で突き出す。
ポセイドンが槍を振りかざし、冷気を帯びた一閃を繰り出す。だがエリオがストラーダを振りかざすことで、その一閃が弾かれる。
「一閃必中!紫電一閃!」
そこへエリオが右手に魔力を集中させ、稲妻を帯びた拳をポセイドンの体に叩き込む。水属性のポセイドンに、電撃は効果抜群だった。
海神の槍を手放し、力尽きるポセイドン。その体をエリオが受け止める。
「どうやら、あっちも終わったみたいだ・・」
疲弊した体に鞭を入れるエリオが空を見上げた。ミウラとガイアを乗せたフリードリヒから降りてきたキャロが、彼の前に立つ。
「私たちの気持ち、ちゃんと伝わったかな・・・?」
「伝わったはずだよ。僕はそう信じてる・・・」
キャロが言いかけた言葉に、エリオが微笑んで頷く。ミウラの心に優しさが戻ったことを、2人は信じることにした。
そのとき、エリオは近づいてくる足音に気付いて身構える。姿を現したその人物の顔に、2人は見覚えがあった。
「フェイト、さん・・・?」
キャロが眼前の人物に困惑を見せる。その人物の顔は紛れもなくフェイトだった。違っていたのは髪留めの黒いリボンをしていなかったことと、穏和な雰囲気が感じられなかったことだった。
「なるほどねぇ。この子たちがフェイトの教え子の2人ね。」
「違う!フェイトさんじゃない!」
その人物の態度を目の当たりにして、エリオが身構える。だがその少女がかざした両手から放たれた力によって、エリオとキャロは動きを封じられてしまう。
「こ、これは・・!?」
「その通り。でも分かっても遅いの。アンタたちは、あたしからは絶対に逃げられないから。」
驚きの声を上げるキャロの前で、少女が笑みをこぼす。彼女の力によって体の自由を奪われたエリオとキャロが、十字の水晶に似た入れ物に封じ込められる。その瞬間、ストラーダとケリュケイオンが待機状態に戻ってしまう。
「ストラーダが!?」
「フリード!?」
声を荒げるエリオとキャロ。彼女の魔力の消失で、フリードリヒの姿が戻ってしまった。
「これはクロスケージ。対象の動きと魔力を完全に封じ込めるものよ。魔力消費が高めだし、かかるまでに時間がかかるけど、かけられたら自力じゃ絶対に抜け出せない。」
少女が笑顔を絶やさずに言いかける。エリオが抜け出そうともがくが、力も魔力も封じられた彼らに脱出は不可能だった。
「君は誰だ!?どうしてフェイトさんと同じ顔をしているんだ!?」
「フフ。フェイトと同じ姿なのは当たり前よ。」
エリオの問いかけに、少女がさらに笑みをこぼす。
「折角だから教えてあげる。あたしはモデナ。フェイトと同じ、アリシアをベースにして生まれたクローンよ。」
少女、モデナの言葉にエリオとキャロが驚愕し、言葉を失う。モデナの笑みが子供のような無邪気なものから一変、戦慄を込めたものとなった。
「それじゃアンタたち、あたしのゲームに付き合ってもらうわよ・・・!」
2体のネオファントムと交戦するスバル、ティアナ、ナディア、ロッキー。ティアナの展開するクロスファイアシュートがネオファントムの周囲を飛び交い、その砲撃と同時に、スバル、ナディア、ロッキーが打撃、斬撃を見舞う。
(あたしはスバルさんやティアナさん、エリオさんたちと比べてまだまだ半人前です。ですが、こんなあたしにも、あたしにしかできないことが、必ずあるはずです・・・)
その中でナディアは心の中で囁いていた。彼女は自分の未熟さを痛感しながらも、自分にできることを見出し、突き進んでいた。
(ライムさんのためにも、あたし自身のためにも、あたしは迷わずに突っ走っていきます・・・!)
「あたしはいつでも全力疾走!」
ナディアがネオファントムに向かって飛びかかっていく。カートリッジロードを行ったシティランナーに光が宿る。
「一蹴突破!シャトルストライカー!」
ナディアが威力の向上した一蹴を繰り出す。同時にティアナの魔力の弾丸が飛び込み、異なる2種の攻撃にネオファントムは対応しきれなくなる。
「蹴射連勝!シャトルコンビネーションT!」
ナディアの蹴りとティアナの射撃が、もう1体のネオファントムに直撃する。胴体を抉られたネオファントムが、行動を停止して倒れ込む。
周囲にいるものも含めて、この場にいる全てのファントムを沈黙させたスバルたち。体力を消耗したナディアが、大きく深呼吸をする。
「ふぅ。今回は少し張り切りすぎてしまいましたよー・・」
「肩の荷を降ろすのはまだ早いわよ。エリオとキャロが気がかりよ。急いで合流するわよ。」
ナディアの言葉にティアナが口を挟む。その指示を受けて、スバルとロッキーがエリオとキャロのいるところへ向かおうとした。
そのとき、スバルとティアナの足元に魔法陣が現れる。とっさに回避しようとした2人だが、疲弊しきった2人の体は自由に動かすことが出ず、2人は手足を取られるかのように完全に動けなくなってしまう。
「スバルさん!ティアナさん!」
ナディアが叫ぶ前で、スバルとティアナが十字架のような入れ物に入れられる。マッハキャリバー、リボルバーナックル、クロスミラージュが待機状態に戻り、バリアジャケットも防護の効力を失う。
「これは・・・!?」
「やっぱりこっちもうまくいってたみたいね。」
驚愕の声を上げたところで、少女の声が飛び込んできた。拘束したエリオとキャロを連れて、モデナが姿を現した。
「フェイトさん、じゃない・・何者なのよ・・・!?」
ティアナが声を振り絞って問い詰めると、モデナはあざ笑いながら言いかける。
「その質問は聞き飽きてるのよ。アンタたちは黙ってあたしたちに捕まってればいいのよ。」
「ふざけんな!オレがお前なんかに捕まってたまるか!」
ティアナの問いかけを一蹴するモデナに、ロッキーが言い放って飛びかかる。
「くらえ!スラッシュセイバー!」
ロッキーがブレスセイバーから発せられている光刃を振り下ろす。だがモデナは金色の魔力で、その一閃を軽々と受け止める。
「なっ!?」
「だからムダだって。あたしは世界で1番強いんだから。」
驚愕するロッキーに向けて、眼を見開くモデナ。魔力の光の形を変え、金色の戦斧とする。
モデナが繰り出した一閃が、ロッキーの光刃を叩き折る。その衝撃で彼が突き飛ばされ、その先の壁に叩きつけられる。
「ロックさん!」
ナディアが慌てて駆け出そうとするが、疲弊しきっているため、思うように動けない。
「あーあ。分かってたとはいえ、これじゃつまんないわ。もういいよ。さっさと終わらせちゃお。」
モデナはため息をつくと、ナディアとロッキーにもクロスケージをかけた。シティランナーとブレスセイバーが待機状態に戻り、2人は力を封じ込められてしまう。
「これで6人とも捕まえちゃった。さて、ゲームはこれから。面白くなってくるわね。フフフフ。」
十字架に磔にされたかのように拘束されたスバルたちを見つめて、モデナが笑みをこぼす。そこへオロチ、ノア、メトロが姿を現す。
「ご苦労さん、モデナ。さすがは私の科学力を注いで生まれた存在です。」
メトロが賞賛の言葉をかけるが、モデナは不満の面持ちを浮かべていた。
「こんなんで褒められても嬉しくないよ。だけど、面白くなるのはこれからなんだよね?」
「もちろんですよ。本当のゲームはこれからです。」
モデナの問いかけに、メトロが不敵な笑みを浮かべて頷く。
「ではそろそろ始めるとするか。」
オロチが鋭く言いかけると、ノアが無言で頷いた。
はやての憶測は的中していた。ネオファントムを含めたファントムの軍勢が、起動六課本部に向けて進撃してきたのだ。
だが、それを見逃すはやてたちではなかった。リッキーとシャマルが防御と治療に、盾の守護獣、ザフィーラが防御に専念し、はやてと玉緒が迎撃に出ることとなった。
「あたしたちもいくよ、ミラクルズ!」
“Standing by.Complete.”
玉緒が箱に鍵を差し込みまわす。グラン式オールラウンドデバイス「ミラクルズ」が起動する。
ミラクルズは形態がひとつである分、威力が高くなっているなど、グラン式ブレイドデバイスに近い性能となっている。
「はやてさん、先にファントムを撃ち抜きます!」
玉緒ははやてに呼びかけて飛翔し、ファントムを狙って意識を集中する。
“Drive charge.”
玉緒の魔力がミラクルズに注がれる。彼女の周囲に白い光の矢が次々と出現する。
「撃ち抜け!ホワイトレイン!」
玉緒がファントムたちに向けて矢の群れを解き放つ。回避困難のこの攻撃を受けてファントムたちがなぎ払われる。
その攻撃に耐えたのはネオファントムと、数体の青のファントムだけだった。玉緒もこの攻撃で全てを一掃できるとは思っていなかった。
「やっぱ厄介やな、ネオファントムは。別種の同時攻撃で仕留めるしかあらへん。」
毒づきながらも、はやては意識を集中する。リインフォースも彼女の意識との同調を行う。
「ユニゾンイン!」
はやての中にリインフォースが入り込み、融合を果たす。はやての茶髪が白くなり、瞳の色も変化が生じる。
「玉緒、違う属性の魔法を頼む!私が空間攻撃を行う!」
「分かりました!」
はやての呼びかけに玉緒が答える。リインフォースとのユニゾンを果たしたはやてが、融合型デバイス「シュベルトクロイツ」を構え、ファントムを狙う。
「遠き地にて、闇に沈め・・デアボリックエミッション!」
はやてとリインフォースの詠唱が重なるとき、彼女から稲妻を帯びた球状の黒い魔力が放出される。ファントムたちが粉砕される中、ネオファントムが属性を変えてその攻撃を耐え忍ぶ。
「燃え盛れ、灼熱の息吹・・フレイムウェイブ!」
そこを玉緒が狙い、炎属性の魔法を解き放つ。波のように押し寄せる炎に巻き込まれ、耐久の隙を突かれたネオファントムたちが破壊された。
「ふぅ。何とか一掃できたみたいですね。」
ファントムや敵がいなくなったことを確認して、玉緒が安堵の吐息をつく。
「ここは凌いだけど、安心するにはまだ早い。スバルたちのことも気にかかる。」
リインフォースとのユニゾンを解除したはやてが、深刻さを消さずに言いかける。
「シャーリーさん、みなさんの状況はどうなってますか?」
リインフォースが連絡を入れるが、シャリオはすぐに答えることができなかった。
“これは・・・はやてさん、大変です!スバルたちが・・!”
「えっ・・・!?」
声を荒げるシャリオに、はやてだけでなく、リンフォースも玉緒も緊迫を覚える。
「ミッドチルダの市民、及び時空管理局全局員に告ぐ。」
そのとき、市街のほうから男の声が響いてきた。その声にはやてたちが聞き耳を立てる。
「我々は仮面の群集、シャブロス。我々はこの世界の制圧を宣言する。」
声が続く中、街々にモニターが展開されていく。そこに映し出されたのは1人の仮面の男。
「全世界に告ぐ。我々シャブロスに全面降伏せよ。そうすればお前たちの命は保障しよう。しかし、抵抗の意思を示すなら、お前たちの安住の地は存在しなくなる。」
男の言葉にはやてたちが緊迫を募らせていく。
「言っておくが、何者であろうと我々に勝つことはできない。時空管理局のデータは今、我々の手の内にある。お前たちは我々に従うしかない。でなければ、この者たちと同じ末路を辿ることになる。」
男は言いかけると、後方を指し示す。その光景にはやてたちが驚愕を覚える。
スバル、ティアナ、エリオ、キャロ、ナディア、ロッキーが十字架状のケージに入れられ、磔にされていた。